2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「どうだいエルファイアスくん。その薬」
呪文学の授業で「インセンディオ」の練習をした結果炎を制御しきれずに軽い火傷を負った1年生のエルファイアス・ドージは、授業終わりに仕方なく医務室に行こうとしたら途中でギャレス・ウィーズリーと遭遇し、当然の帰結として新作の魔法薬を勧められたのだった。
「ヒリヒリしてたのがなくなった。ありがとうギャレス」
なぜか一気にかかとまで伸びた頭髪の重みを感じながら、そしてどうやら恐ろしいほど艶々の直毛になっているらしいと察しながら、それでもお礼を言ったエルファイアスは、自分の口から明らかに他人の声が出た事に内心とても驚いていた。自分は一体何を飲んだのだろうかと。
「そういえばきみさ、エルファイアスくん。今から昼食までの時間は何するんだい?」
今日もまたダンブルドアの奴があのおかしな7年生に誘拐されて行ってしまったので午後の授業まで1人で時間を潰す必要に迫られた11歳のエルファイアス・ドージ少年は、まず他のグリフィンドールの同級生たちと一緒に居ようかと考えたものの、すぐに「それではダメだ」と思い直した。
「……スリザリンの談話室に、行こうかと思ってる」
いい機会だから新しい友達を作ろう、と。
(入学する前、父さんと母さんは『グリフィンドールとスリザリンは仲が悪い』って言ってたけど。全然そんな事無いじゃないか。7年生の先輩たちはいつもお互いの談話室に集まって皆で宿題やったり、あのおかしな先輩に振り回されて楽しそうにしてたりするし)
廊下を歩きながらそんな事を考えたエルファイアスは、はたと気づく。
「……違うな。7年生の先輩たちが異様に仲良しなだけだ。父さんと母さんは間違った事言ってないんだ。父さんと母さんの頃は……ってか多分、ちょっと前まではホントに俺たちグリフィンドールはスリザリンの奴らと仲悪かったんだ。想像し辛いけど、多分そうだ」
「「正解」」
2人分の声がした事で、エルファイアスはキョロキョロと周囲を見回そうとする。
エルファイアスが気付かない内に、同じグリフィンドール所属の7年生ナツァイ・オナイも自分たちの隣を歩いていた。
「こらギャレス。何やってんだい1年生に」
「新作の薬を試してもらってたんだよ」
「それは判ってるよ………まったく、もう」
ナツァイ・オナイは大きく溜め息をつきながら、諦めたように笑っている。
「ところで、きみもスリザリンの談話室に用があるのかい?」
ギャレスがエルファイアスに訊く。
「いや、ダンブルドアの奴が外出中なんで、せっかくだからその………新しい友達が作れればと」
「いい心がけだ!」
そう言ってパッと笑顔になったギャレスに、エルファイアスも訊く。
「グリフィンドールとスリザリンって、仲悪かったって親から聞いたんだけど、本当か?」
「うん。3年前まではね。今でも『アイツらと馴れ合ってたまるか』って思ってる子も居ると思うよ。僕ら7年生が揃いも揃って仲良くしてる手前大きな声で言えないだけでさ」
「先輩たちが仲良いのは―」
「そ。アイツのお蔭。アイツ僕らがケンカすると泣くんだよ『みんな友達が良いの!』って」
そう言って笑ったギャレスに、ナツァイ・オナイも続く。
「私がワガドゥーから移ってきたばっかりの頃は、スリザリンの生徒と仲良くしてる子なんてグリフィンドールにはほっとんど居なかったよ。けど5年生の時、アイツが来た。それで私たちも、スリザリンの奴らも、特に私たち『5年生』は………いがみ合ってる暇なんか無くなった」
「アイツのお世話をしなきゃいけないからね。ちょっとでも目を離すとおかしなこと始めるから」
「それはアンタもでしょギャレス」
嬉しそうにそう言った7年生の先輩2人を見ながら、エルファイアスはちょっと羨ましかった。今このホグワーツの中心に居るのは間違い無く、7年生たちだ。そしてその7年生たちの中心にはいつだって、あのおかしな先輩が居る。あの人の周囲にいる皆はいつも笑っていて、いつも賑やかで。自分たちも7年生になったらあんな風に、今の7年生の先輩たちのように果たしてなれるだろうかと考えると、エルファイアスは少し不安すら覚えるのだった。
それほどまでに、眩しかった。
「それで2人はスリザリンの談話室に何しに行くんだ?」
「敵情視察さ」
仲良しだという印象とは真逆の返答にエルファイアスは首を捻る。
しかし当の7年生2人は、至って気楽な様子だった。
そしてエルファイアスは7年生の先輩2人と共にホグワーツ城の地下区画にやってきて、7年生2人が廊下の途中で足を止めた事を受けて「ここがそうなのだろう」と察した。いつの間にか髪も声も元に戻っていたが、エルファイアスは気付かない。
「…………エルファイアスくん、もしかしてスリザリンの談話室は初めてかい?」
エルファイアスの顔を覗き込んで、ギャレスが言う。
「ああ。ダンブルドアの奴は何回も来てるみたいだが、俺は―」
「グリフィンドールの談話室とは全然違うけど、いい場所だよ」
そう言ったナツァイもギャレスもその場に突っ立ったまま動こうとしないのを見て、何か問題でも起きたのかと思ったエルファイアスは2人に訊く。
「……入らないのか?」
「入れないのさ。スリザリンの生徒が居ないと入口の扉が現れないんだよ」
「ポリジュース薬とかでごまかせるのかもしれないけど、そんな事試さなくても―」
ギャレスの後に続いたナツァイが言い終わるより先に、1人のスリザリン生がやってくる。
「何しに来たんだお前ら?」
こいつらは談話室に入りたいのだと察して、そのスリザリン生はギャレスとナツァイに訊ねた。
「やあクラッブ。敵情視察に来たんだよ」
「……ああ。で、そっちの1年生は?よくあの丸っこいチビの隣に居る奴だよな、お前」
クラッブと呼ばれたその大柄なスリザリン生を見上げて、エルファイアスはちょっと怯んでいた。
「俺は、その。スリザリンの奴らとも仲良くなりたいんだ。だから来た」
古い純血家系出身のスリザリン生、同級生の中で一番身体が大きいクラッブは、その龍痘の後遺症が未だ残る、斑色の肌をしたグリフィンドールのチビをじっくりと見つめた。
そしてクラッブはくるりと壁の方を向き、大きく一歩前に踏み出す。
「わ!」
大きな蛇の像が壁際の床からうねりながら現れて胴体を持ち上げた事にエルファイアスが驚いた次の瞬間には、もうそこに扉があった。
「ありがとうクラッブ」
ギャレスがそう言いながらクラッブのすぐ後ろに並び、ナツァイも続く。
「高潔」
合言葉を言って扉を通過するスリザリンの7年生クラッブを見てエルファイアスはギャレスとナツァイの意図をやっと察し、今通らなければ扉は引っ込むのだと理解して慌てて3人を追った。
「やっと来たねクラッブ。もう始めてるよ」
「おう」
イメルダ・レイエスに声をかけられた大柄なスリザリン生は談話室の奥へとのしのし歩いていき、ギャレスとナツァイがそれを追いかける中。エルファイアスはぼんやりと周囲を見回していた。
グリフィンドールの談話室とは何もかも違う、真逆とすら表現できるかもしれないその壁も調度品も照明も床も全てが一体となった、体験した事が無い種類の居心地の良さに襲われて、それによって逆に若干の居心地の悪さを感じ始めていたエルファイアスに、1人の同級生が声をかけてきた。
「おや、ドージ。あのチビと一緒じゃなくて大丈夫なのか?お前1人で歩けるのか?」
そのニヤニヤとした厭味ったらしい笑みを向けられて、エルファイアスは安心していた。
ああ、そうそうこれこれ。これが俺の知ってる種類のスリザリンだ、と。
「話しかけてきてくれてありがとう。お蔭でちょっと気が楽になった」
そんなに気が利く方ではないと思っていたドージの予想外の返しに面食らっているそのスリザリンの1年生に、傍のソファから友人たちの愉快そうな声がかかった。
「お前の負けだ、トラバース。いいから戻ってこい」
「それに、あんまりそういう振る舞いばっかりしてるとゴーントの奴に『睨まれる』ぞ」
融和的な考えが今のスリザリンで一番力を持っている最大多数派閥なのだからそれに従うべきだと言外に釘を刺したブルストロードは、そのままエルファイアスにも話しかける。
「で、何の用だ?誰か探してるのか?」
「お前らとも友達になりたいと思ったんだ。だから来てみた」
端正な顔立ちのブルストロードは、片方の眉をぐっと持ち上げてエルファイアスを見つめた。
「……僕らは、あのダンブルドア家のチビの代わりってわけか?」
「ダンブルドアの代わりなんて、誰にもできない」
その返答がどういう意味なのか、果たして何か悪意が含まれているだろうかと一瞬考えたブルストロードだったが、すぐにエルファイアスの目をもう一度見つめて、まっすぐに言った。
「ようこそスリザリンへ。……お前、チェスはできるか?」
談話室のあちこちからそれを見ていた7年生たちが皆、満足げに微笑んでいた。
「ほら、よそ見してないで。作戦会議!」
イメルダ・レイエスが周囲のチームメイトたちと友人たちに言う。
「君たちがまず対策したいのって、ブキャナンくんだよね?」
「その通りだギャレス。潰せるなら潰したいが、お前とプルウェットの奴がそうはさせないよな」
寮対抗クィディッチの作戦会議に当然の権利のように他寮の生徒が、それも対戦相手の主力が混ざり込むのは7年生たちにとって、日常の光景だった。
「お前らのシーカー、あの2年生。ナメてかかっていい相手じゃないのは身に沁みてる」
もちろん、去年ホグワーツの寮対抗クィディッチが1年ぶりに再開された際に「皆でやりたい」と言い出した共通の友人の影響である。
「僕らがクアッフルの取り合いでイメルダに勝とうとすると複数人必要で、それってつまり他2人が……ノットとセバスチャンがフリーになるって事だからね。チェイサー同士を比べると正直―」
去年、4寮合同作戦会議という謎の催しを経験して以来、当時6年生だった7年生たちと、その和気藹々とした雰囲気に流された下級生たちは、この光景に違和感を抱く事すらなくなって久しい。
「―だから僕らグリフィンドールが勝つにはブキャナンくんがカギになって、逆にそっちが勝つにはイメルダがどれだけ点を稼げるかにかかってる。ここまでが去年の話。今年からは……」
そう言ったギャレスとイメルダに見つめられて一気に緊張したのは、今年からスリザリンのクィディッチチームの正式メンバーになった数人。去年7年生だった先輩たちが卒業して抜けた穴を埋めた者たち。「そんな気負いすぎるなよ。俺とゴイルが守ってやるから」と不器用なりに励ます大柄な7年生、純血家系出身のクラッブの声は、その下級生たちをかえって一層緊張させた。
「ほら、ホントに作戦の話するからアンタたちは向こう行ってて!ていうかグリフィンドールのキャプテンがなんで来てるのギャレス!そっちだって今どうせ作戦会議中なんでしょ!」
ネリダ・ロバーツに追い立てられて退散しながら、ギャレスは言う。
「僕らの作戦会議は昼食食べながら大広間で。僕が今ここに来たのはちょっと、薬の事でマルフォイの意見訊きたくてさ。……アイツが渡してきた新作を飲んだら、ちょっとサチャリッサには頼れない事態が発生してね。……ナツァイにも、きみにもイメルダにも、レストレンジにもグレースにも誰にも話せない。リアンダーには話した。正直いま、めちゃくちゃ焦ってるんだよね」
飲む前にラベル見るべきだったよと言いながら、周囲の女子たちの目に触れないように身体で隠しながらギャレスがそっと渡してきた小瓶のラベルを読んで、マルフォイは天を仰いだ。
「あのバカ…………何考えて生きてるんだ………」
さっきの「防衛術」の授業の終わり際にギャレスが受け取っていた薬がなんなのかは気になったが、ギャレスが「訊かないでほしい」と言っている以上は訊くわけにはいかないと考えているナツァイとは対照的に、そのスリザリンの女子生徒はその場の7年生の中でただ1人だけ何ひとつ察しておらず、好奇心の赴くままギャレスの手元を覗き込もうとする。
「アンタらがそんな事言うなんてどんな薬なんだいウィーズリー。ねえアタシにも見せて」
寄ってきたレストレンジをマルフォイは言葉を選んで追い払う。
「こんなものをきみの視界に入れてしまっては、僕はきみのご両親に合わせる顔がない」
「えー、なんでだいマルフォイのケチ」
そしてどういう薬なのかを大体察せてしまっていたグレース・ピンチ・スメドリーが、どうやら両親からはスニジェットの如く大切に育てられているらしいその愛すべきルームメイトを制止した。
「ダメよレストレンジ。ダメ。貴女にはまだ早いわ」
このものすごい美人のルームメイトが、パッと思い浮かぶ範囲内ではホグワーツの生徒で最もスタイルが良いレストレンジが、「子供というものは愛し合う2人が魔法省に申請してそれが受理されると神秘部から特別なふくろう便で届いて授かるものだ」という幼い頃に両親から聞かされた方便を去年まで信じていたという事実を、グレース・ピンチ・スメドリーは誰よりよく知っていた。
なにせあの朝、この友人に真実を丁寧に解説する羽目になったのは自分なのだから。
「あ、いや。そこまでのやつじゃないよグレース?」
誤解が生じていると察して、ギャレスは慌てて訂正した。
「アルバスー!こっちだよーぃ!」
「転びますよ先輩」
ホグワーツ城の屋外、薬草学の授業が行われる温室の傍を歩いているダンブルドア少年の隣を追い抜いていったその7年生の先輩は、未だニフラーと同じくらいの背丈のままで、いつもと違う低い視点から見える新鮮な景色を堪能しているらしかった。
「へへん!さっきもう転んだもんね!」
「だから言ってるんですよ先輩」
「ねえねえアミット、あのお花近くで見てみたい!」
「どれだい?アレかい?ああ。あれ綺麗だよね」
アミット・タッカーが首に巻いたレイブンクローのマフラーの内側に収まっているポピー・スウィーティングも未だニフラーくらいの大きさのまま、移動の全てをアミットに任せていた。
「あらいらっしゃいミスター・タッカー。それにミスター・ダンブルド、ア…………」
ダンブルドア少年のすぐ前で顔から石畳にすっ転んだその小動物の正体を理解して、花壇の世話をしていたミラベル・ガーリックは思考を再起動させるのに3秒を要した。
「あいたた……あ!ベルちゃんだ!こんちは!ねえベルちゃんスカートの中見ていい?」
そう言いながら足元に駆け込んで来たその小さな女生徒をミラベル・ガーリックは躱そうとするが、その小さな女生徒は白く光る靄のようなものに姿を変えて高速移動し、本当にスカートの裾の下へと消えていってしまった。
「あ、こら!ちょっ、アクシオ!」
着ている服の襟首に杖を突っ込んだガーリック先生に「呼び寄せ」られた先輩が服の中から飛び出してきてガーリック先生に捕まったのを、ダンブルドア少年は呆れながら見ていた。
「ベルちゃんなにしてたの?花壇のお世話??」
「あなたは何してたのかしら?」
ガーリック先生の語気が少し強めになっている事を、その7年生の女生徒は読み取らない。
「天文学の宿題だよ!星見台の観察しに来たの」
「………減点しようかしら?」
杖で浮遊させた小さな女生徒を指で突っつきながらそう言って、ガーリック先生は笑っている。
「むぇ~………ゴメンナサイ……えっと、あの。どんなの履いてるのかなって……」
その笑顔から不穏なものを感じ取ったらしく、女生徒は怯んだ。
「むぇえぇぇぇええ……」
ガーリック先生が杖の先に浮遊させたその小さな女生徒を反対側の手の2本の指でつまみ、頬を揉む。それによって女生徒が妙な声で啼くのを聞いている内にガーリック先生は楽しくなったらしく、その表情から空恐ろしい迫力はすぐに消えていった。
「ねえポピー。きみさ、アイツが他の女の人にああいう振る舞いするのはさ。いいの?」
アミットは、答えが解っていながら訊いた。
「んー?だってアイツ、目移りはするけど心変わりはしないから」
小さなポピーはアミットに「浮遊」させてもらいながら、花から花へと移動しつつ観察を楽しんでいる。そんな光景を見て、ダンブルドア少年は当初の目的をまだ覚えているのが自分ひとりだけなのではないかという疑念を抱いていた。
「あのー、皆さん?何しに来たのか覚えてます?」
「ベルちゃんのスカートの中見に来たんだよ」
「なんで10秒かそこらで記憶を紛失できるんですか?」
呆れ返るダンブルドア少年を少し離れた位置の花壇から眺めて、アミットとポピーは笑っている。
「あの子。ホントに良い子だよね。ダンブルドアくん」
「アイツに構ってくれるもんね。見てて飽きないよねあの2人」
小さくなっている友人とそんな言葉を交わしたアミットは小さなポピーを再び自分の首に巻いたマフラーの中に収め、ガーリック先生と戯れている2人に声をかけた。
「ほら、あんまり時間に余裕ないんだから、そろそろ行くよ」
「呼ばれてますよ先輩。行きましょう………お邪魔しましたガーリック先生」
「んぅ。またねベルちゃん!」
そして温室の傍を離れ、すぐ近くにあった城壁の端の階段を、7年生の先輩たちに置いて行かれないようにちょこちょこと小走りになりながらダンブルドア少年は降りる。
温室とその周囲の植え込みから1段下ったそこには、本日の目的のものがあった。
「これが、星見台……ですか」
言われてみれば天文学に関連しているようにも見えてきた小ぢんまりした石造りの台を、ダンブルドア少年はまじまじと観察している。そこには星図らしきものも刻み込まれていたが、どれが何座なのかはダンブルドア少年には、確信を持って答えられるほど正確な推測はできなかった。
「誰が作ったんだろうねぇこれ。レイブンクローなのかな?」
「僕が作ったって事になんないかな」
小さな女生徒はそう言いながら星見台の上によじ登った。
「あなたが作ったんだとしたら、天文学の宿題の題材を変えなきゃいけないんじゃない?」
「ホントだ!どうしよもう時間無いのに!今日の夜までなのに!」
小さな体で星見台の上をチョコチョコと走り回りながら大慌てし始めた7年生の女生徒を、ダンブルドア少年が見下ろしている。
「脳みそをどこに落っことしてきたんですか先輩」
「なんてこと言うんだいアルバス」
この先輩の胡乱な言動のどこまでが冗談でどこまでが本気なのやら、ダンブルドア少年には未だに全く判断がつかないのだった。
「先輩は、何を考えて生きてるんですか?いつもいつも」
「何って…………んーー………みんなの事だよ?セバスチャンは大丈夫かなぁとか、アンは大丈夫かなぁとか、オミニスってお顔キレイだよなあとか、ナッちゃん今なにしてるかなあとか、またアミットと一緒に星を見に遠出したいなあとか、マルフォイまたチョコレートケーキ作ってくんないかなぁとか、ギャレスに渡したお薬もう飲んだかなぁとか、ギャレスはビックリしてくれたかなぁとか、ポピーちゃんと一緒にイエティ見に行きたいなぁとか、あとあと―」
ここで「友人全員の名前を挙げ続けるだろう」と察して、ダンブルドア少年が割って入る。
「またウィーズリー先輩に魔法薬渡したんですか?どんな薬なんです?」
「あ、それ私も気になってた。あれどんな薬なの?」
星見台によじ登って女生徒の隣に来たポピーがそう言った一方で、その問いに対する答えを知っているアミットは、この後のやり取りが想像できてしまい思わず視線を逸らす。
「ちんちんが小鳥に変身して飛んでくんだよ!」
ポピーは愛する友人の頭を思い切り叩き、ダンブルドア少年は今日も先輩に冷たい視線を注ぐ。
「なっ、なにするんだいポピーちゃん……」
「ごめん思わず叩いちゃった。………ギャレスのちんちんはアナタのおもちゃじゃないんだよ?」
「ポピーちゃんが『ちんちん』って言った……」
ポピーは愛する友人の頭を思い切り叩く。
「んもう!アナタねえ………」
「なになになになに痛い痛いいひゃいごめんごめんごめんなさい」
両手で思い切り頬を抓っているポピーと抓られている先輩が、すぐにどちらからともなく笑い出したのを見て、ダンブルドア少年は呆れるのも面倒くさくなり大きく息を吐き出した。
「……仲良しですね、先輩方は」
ダンブルドア少年のその言葉に、隣のアミットが反応する。
「そうなんだよね。……いいだろう?」
「はい。眩しいですよ。目も当てられない程に」
「『開けられない』じゃないのかい?」
アミットは鷹揚に笑っている。
「目も当てられませんよ。こんなの」
まだニフラーと同じくらいの背丈のままな事など気にもせずに、どころかむしろそれを活用して星見台の上を歩き回って2人して熱心に何やら検分し続けている7年生の女生徒とスウィーティング先輩を見てダンブルドア少年は諦めたように笑い始めていた。
「星見台の調査は済んだんですか?」
ぺったりと座り込んで寛ぎ始めた小さな先輩2人に、ダンブルドア少年が訊く。
「ここのはね。夜なら星座を見られるんだけど、夜まで待ってたら提出期限来ちゃうし」
「そういえば、特定のひとつの星座を見るための台なんですよねこれって?」
ダンブルドア少年が訊きたい事を察して、星見台の上の小さな女生徒は言う。
「そう。ここで見られるのは不死鳥座だよ」
「不死鳥……」
不死鳥という生き物にちょっと思うところがあるアルバス・ダンブルドア少年が思考の海に潜っていこうとするが、その瞬間に小さな先輩がスッと立ち上がって星見台から降りる。
そして「フィニート」と呟くだけで自分にかかった古代魔法を解除してしまい、その女生徒は元の10代女子の背丈に戻った。
「あ、私も私も!」
「はいはい」
女生徒は指先を気軽に回してポピーにかかった古代魔法も解き、ポピー・スウィーティングもまた元通りの背丈に戻ったが、こちらはまだ少し気分が高揚したままらしかった。
「リチャードとかアイアンデールのこそ泥には、世界があんなふうに見えてるんだね」
「んーー、それはどうだろうねえ」
女生徒は、実体験を思い浮かべながら首を捻っている。
「どういうこと?」
「僕さ、ワタリガラスに変身してる時とヒトの時でさ、色の見え方全然違うんだよね」
「あー。やっぱりそうなんだ!」と、ただ1人アミットだけが納得したらしい声を上げた。
どういう事かと訊いたダンブルドア少年に、アミットは言う。
「光の三原色、それか色の三原色って、どっちかだけでも知ってるかい、ダンブルドアくん」
「まあはい。全部の色はそれが混ざってできているのだと本で読みました」
「そう。だけどそれは『ヒトの色覚にはそう見えている』というだけだ。ワタリガラスにとっては『光の四原色』なんだよ。他にも動物の種類によっては2つの色だけを元にして光を捉えている目を持っていたり、そもそも『色の違い』を捉えられない目を持っていたり。逆に一部の甲殻類なんかは『光の十二原色』で世界を見ていたりもするんだ。だからワタリガラスの動物もどきであるコイツにとっては、変身している時としていない時で色の見え方が変わるわけだね。ヒトよりカラスの方が見える色が多いから……ナツァイもそうなのかな?こんど訊いてみようかな……マグルの生物学者たちはガゼルの事を……というか偶蹄目を色盲だと考えているけど、我らがレイブンクローの卒業生である魔法生物規制管理部の職員がこないだ発表なさったレポートによれば、偶蹄目は正しくは『2色型色覚』だそうだ。つまり一部の色彩について区別ができない、もしくは難しい」
ちょっとした事からアミットがつらつらと長めの解説を始めるのはいつものことで、その内容自体が興味深いダンブルドア少年の傍ではポピーともう1人の7年生の女生徒が、話の内容というよりはそれを語るアミットの表情の方に注目しながら、2人して嬉しそうに微笑んでいた。
「さ、おいでハイウイング!」
女生徒がカバンを開くと、何かに引っ張り出されるかのように勢い良く、真っ白なヒッポグリフがそこから現れる。そして同時に傍の空中が炎上し、不死鳥に連れられて漆黒の羽毛を持つもう1頭のヒッポグリフが姿を現した。
「カリゴを呼んできてくれてありがとね」
女生徒は差し出した腕の止まった立派な不死鳥の顔をもう片方の手で撫で、すぐに帯同している友人たちに向き直った。
「ポピーちゃんは僕とハイウイングに。アルバスはアミットとカリゴに……アルバスどしたの?」
その真っ白で雄大なヒッポグリフに、2人の先輩がお辞儀もせずに近寄ってさっさと跨ってしまったのを見て、ダンブルドア少年はその身を硬直させていた。
「あの2人とハイウイングは特別なんだ。僕らはちゃんと挨拶しなきゃダメだよ」
アミットがそう言いながら漆黒のヒッポグリフ「カリゴ」に恭しく一礼し、カリゴが頭を下げ返してくれるのを待ってから近寄っていくのを見て、ダンブルドア少年は覚悟を決めた。
「あの、今回はよろしくお願いします」
緊張しながらぎこちないお辞儀をして、頭を下げたまま心配そうに様子を伺っているダンブルドア少年に、ハイウイングの背から7年生の女生徒が声をかけた。
「カリゴだって優しいから、ちゃんと落とさないように飛んでくれるよアルバス」
ダンブルドア少年が恐れているのはヒッポグリフではなくその背に乗ってこれから赴く高い空の上だと、その女生徒は知っていた。
「アルバスはかわいいねえ」
「ほっといてください」
お辞儀を返してくれたカリゴの背に、タッカー先輩のすぐ前に全身を目一杯使ってタッカー先輩に引っ張り上げてもらってカリゴに屈んでもらってどうにかこうにか跨りながら、ダンブルドア少年はハイウイングの背の上でニヤニヤしている女生徒をじっとりと睨んだ。
「ダンブルドアくんかわいい」
「なんですかスウィーティング先輩まで………僕頑張ってるだけなんですけど」
ムッと唇を結び眉間にシワを寄せたダンブルドア少年に、背後からアミットが声をかける。
「覚悟はいいかい、ダンブルドアくん?」
「あ、はい。お手間を取らせてすいませんタッカー先輩」
「さあ行くよみんな!ポピーちゃん僕にしっかり掴まっててね!飛べぇハイウイング!」
2頭のヒッポグリフは同時に翼を広げ、その背に乗った面々の歓声と共にホグワーツ城から湖の上へと勢い良く舞い上がった。
「どしたのポピーちゃん」
アルバスと違って魔法生物の背に2人で跨って飛ぶことに慣れている筈のポピーが、必要以上に身体をくっつけてしっかりと自分にしがみついているのに気づいた女生徒が訊く。
「うれしい」
しかし、ポピーはそれだけしか言わなかった。
「そ?良かった。せっかくだからもうちょっと高く飛ぼうハイウイング!」
「ほらダンブルドアくん。ホグワーツ城をこんなふうに見られる事って中々無いよ」
アミットはダンブルドア少年の強張った表情を解きほぐそうと頑張っている。
「さー!行くよブロックバローへ!」
そう言った女生徒の背中に頬をくっつけたまま、ポピーはその「友人」を見る。
そして、最初に出会った時から何度も思った疑問を、また思い浮かべた。
(ハイウイングには、世界がどんなふうに見えてるのかな)
「キレイに見えてるといいな」
「そうだねえ」
橙と緑の派手なゴーグルを額に上げた女生徒がそう返してくれた事に、ポピーは驚かなかった。
ヒトは一般的に三色型色覚(違う人も勿論居るし個体差があるのは置いといて)
大多数の哺乳類とか脊椎動物は二色型色覚(一部の色を区別できない)
鳥類の多くは四色型色覚(紫外線なども見えるので色の見え方がヒトとは異なる)
カマキリとかは一色型色覚(モノクロに見えてる)
シャコは12色型色覚(もはや想像もできない)
だそうです。
で、ヒッポグリフって頭が鷲なんだからやっぱ四色型色覚なんだろうか
それともマグルには想像すらできないような全然違う色彩が見えてるんだろうか
ゲーム内でハイウイングに乗る時のレガ主の元気な声すき