2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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43.金のスニッチ(上)

「ねえおねえちゃんたち、それなーに?」

大広間での昼食を終えて移動を開始していたエヴァンジェリン・バーズリーらハッフルパフの7年生たちに声をかけてきたのは、同じハッフルパフの後輩。好奇心旺盛な1年生の女の子だった。

エヴァンジェリンとその友人たちの会話を聞いていたらしい女の子は、目を輝かせて訊く。

 

「『クィディッチ』って、なあに?」

 

そっか知らないかそう言えばマグル生まれなんだっけ、と思ったエヴァンジェリンの隣から、女の子の質問に答えたのはアデレード・オークスだった。

「魔法使いのスポーツ。箒に乗ってやるのよ」

その女の子が次に何を言うのかは、エヴァンジェリンたちハッフルパフの7年生のみならず、前や後ろを歩いている他の生徒たちも皆、解っていた。

「あたしもやりたい!!」

案の定の言葉を発した女の子に、「2年生から」という事実をどう伝えたもんかと思案しているハッフルパフの7年生たちの横から、スリザリンのイメルダ・レイエスが言葉を投げかける。

 

「じゃあ、箒飛行の授業を頑張ることね。今年の間に上手に飛べるようになったら、来年からハッフルパフのクィディッチチームに、あなたがそれを望むなら入れてもらえる『かもしれない』」

 

頑張りなさい、と言い残して、イメルダはスタスタと歩き去っていった。

その女の子の大きくてまんまるの目が更にまんまるになって、より一層の好奇心で輝くのを、エヴァンジェリン・バーズリーは見ていた。

「あのおねーちゃんかっこいい!!!」

「あ!もう、ここに居たのね!急に走り出すんだから、もう!」

肩で息をしている4年生のハッフルパフの女子生徒がやってくると、その女の子はパッと笑顔になってすぐその姉と手を繋いだ。

「お姉ちゃん!ねえねえあたしホウキで飛ぶ授業がんばるのよ!」

あらそうなの偉いわねと軽く流した4年生の女子生徒は、7年生の先輩たちの方へ振り向いた。

「妹と遊んでくれてたのよね。ありがとう」

「気にしないでいいよ」

先輩たちにお礼を言った4年生の女子は、妹に話しかける。

「あなた、今からなにするかわかってる?」

「わかんない!」

朝教えたじゃないのと呆れながらもう一度説明し始めた4年生の女子生徒と、その話を聴く内にみるみる喜びが歩き方に現れ始めてあっという間にスキップしだした1年生の女の子を、同じハッフルパフの7年生たちがすぐ後ろから見守っていた。

 

「笑顔が気色悪いわよエヴァンジェリン」

「アナタもよアデレード」

 

そして生徒たちがホグワーツ領内、城のすぐ傍にあるクィディッチ競技場へと集まってくる。

 

「あれ、アイツまだ帰ってきてないのかい?もう始まっちゃうのに」

 

ハッフルパフの7年生、赤い丸メガネが目を惹くアーサー・プラムリーが、競技場の観客席に一足先に着いていた同級生の友人に訊く。

「そのうち来るだろ。……来なきゃ来るまで待つだけだよ。アイツ抜きじゃ始まらない」

競技場をぐるりと囲んでいる高い観客席に次々やってきてみるみる席を埋め尽くしていく生徒たち、特に1年生や2年生たちはいつもの通りに誰からともなく、なんとなく概ね寮毎に別れているが上級生、その中でも7年生たちは違った。

「もうすぐ来るよ。足音が響いてきてるだろ」

レイブンクローの7年生アンドリュー・ラーソンがそう言って、アーサーの隣に座る。

「足音って………ホントだね。」

足音など全く聞こえないと思ったアーサー・プラムリーはしかし、すぐに気づいた。

確かに足音は、『響いて』きていた。

 

「ホントにこのまま行くんですか先輩!絶対規則違反ですって!!!」

「大丈夫だよアルバス!湖畔の主はカッコいいから!!」

 

ねえカッコいいよねえとその青年が話しかけたのは、自分が跨る黄金の角を持つ強大で頑健な四つ足の魔法生物グラップホーンと並んで走る、雌のグラップホーン。

青年が2年前見つけ出して「湖畔の后」と名付けた、湖畔の主の伴侶である。

その白いグラップホーンは、飼い主の意見を肯定するように一声勇ましく鳴いた。

 

そしてクィディッチ競技場で試合開始を待つ他のホグワーツの生徒と教職員たちも程なくして、とんでもない地響きが迫ってきている事に次々と気づき始める。

ある者は不安げに、またある者は好奇心に目を輝かせてざわざわと騒ぎ始めた1年生たちを余所に、7年生は皆、平然としていた。

「……ああ湖畔の主か。相変わらず元気いっぱいね」

「何だ知ってるのかロバーツ。何なんだこの地響きは」

内心の不安を表情に出さない努力を続けているスリザリンの1年生ブルストロードが、すぐ後ろに座っている7年生のネリダ・ロバーツに訊く。

「我らが首席殿が2年前から飼育してらっしゃるグラップホーンよ」

古い純血家系出身で、入学前から自宅で両親からある程度の魔法教育を受けていたが故に「グラップホーン」が何かを知っていたブルストロードはそれを聞いて、目を剥いて驚いた。

 

「たぶん頼めば餌やりとかさせてもらえると思うけど」

「結構だっ………」

 

あんなバケモノを飼う奴の気がしれないと、ブルストロード少年は思った。

しかしブルストロード少年の隣に座る、同じく古い純血家系出身のグリフィンドール生、他の同級生より頭ひとつ背が高いロングボトム少年は、あんまり驚いていなかった。

「何だ。何が言いたいロングボトム」

怪訝そうな目をして、ブルストロードが訊く。

「『あの先輩』なら、グラップホーンくらい飼っててもさ。そこまでビックリはしないなあって」

そりゃまあグラップホーンなんて普通飼い慣らせるもんじゃないんだろうけどと言いながら、ロングボトム少年はブルストロードを見つめ返した。

隣り合って座るスリザリンとグリフィンドールの面々の境目で、その2人の1年生は友人とまでは言えないものの、話しかけられれば快く会話に応じるくらいの間柄にはなっていた。

 

「さあアナタたち」

 

先日復学して5年生に編入されたばかりのアン・サロウが、ネリダ・ロバーツの斜め後ろからブルストロードとロングボトム少年に声をかける。

「特にブルストロードくん。スリザリンのクィディッチチームは今年から、ちょっとした驚きを皆に提供できる体制が整ったのよ?」

「何が言いたいんだサロウ?」とブルストロードが訊き返しても「それは見てのお楽しみよ」としかアンは言わなかった。

「私たちも最初はビックリしたよ。去年の7年生が抜けた穴を誰が埋めるかって話した時ね―」

ネリダ・ロバーツがそう言った時、ずっとビリビリと空気を揺らして近づいて来ていた地響きが、とうとうクィディッチ競技場に突入してきた。

 

「わー、もう皆いるじゃん!急いで正解だった!」

「急ぐんならあの不死鳥かペニーに送ってもらうべきだったと思うんだけど?」

「だって湖畔の主に乗りたい気分だったし。しょうがないよそれは」

「ほら早く行かなきゃ。みんなアナタを待ってるんだよ」

 

自分たちの背中から降りた飼い主とその友人たちの会話を聞きながら、2頭の雄大なグラップホーンのつがいは堂々と並んで佇み、観客席を見回している。

 

「結局先輩は、試合に出るんですか?出ないんですか?何をやるんですか?」

 

ダンブルドア少年の質問に誰が答えるより先に、観客席から降りてきたらしいヘキャット先生がその青年に声をかける。

「まあ、ギリギリ遅刻はしてないね。宿題は済んだのかい?」

「バッチリです!」

「楽しかったかい?」

「はい!とっても!ポピーちゃんがサンドイッチとか作ってきてくれたんです!さいこう!」

「それは良かったねえ。じゃあ、早く来るんだ。皆待ってるんだから」

ヘキャット先生に促されるがまま、青年は2頭のグラップホーンにお礼を言ってカバンの中に収納し、観客席へと、それも教職員が集まって座っているエリアの一角へと向かっていく。

途中観客席で有無を言わさず捕まえたゼノビア・ノークを小脇に抱えたまま。

 

「ねえわかったから!ついてくから!降ろして!」

「やだ」

 

ヘキャット先生はそれを見ながら、クスクス笑うばかりで咎めようとしない。

そして青年は席につき、去年と同じようにピーブズを呼び出してから、いつもの仕事を始める。

 

「さーあ皆!お待たせしました!!僕ちょっとお出かけしてたんだよねごめんなさい!じゃあ今年も!今日から!今から!寮対抗のホグワーツクィディッチリーグが幕を開けます!!」

 

ピーブズに持たせた放送機材とそれに繋がった集音器を口元に持ってきてもらいながら喋る青年の声に合わせて、それを待っていた上級生たちと、遂に試合が始まるのだと理解した1年生たちが湧く。そしてダンブルドア少年もまた、漸くこの先輩の「役割」を察した。

 

「つまり先輩のポジションは『司会進行』ですか」

「そだよ。それと『実況と解説』もね。去年の今頃、クィディッチが復活するよって時にさ。僕がやりたいって言ったらヘキャット先生ね、いいよって言ってくれたの。ヘキャット先生大好き!」

 

青年の隣に座っているヘキャット先生は、それを聞いて嬉しそうにクスクス笑っている。

そして放送機材を抱えたピーブズが集音器をまた青年に近づけ、青年はゼノビア・ノークを膝に座らせたまま集音器に喋る。

「じゃあ今年も、この質問から始めよう。なんてったって今年最初の試合だからね―『クィディッチのルールよく知らないよ』って1年生、手を挙げて!」

 

マグル生まれの1年生のほとんど全員と、片親が魔法使いである1年生の一部、そして何人かの純血家系出身の1年生が素直に手を上げる。

「本気かクラウチ?」

手を挙げている友人に、ブルストロードが怪訝そうな表情で訊く。

「じゃあブルストロードお前、反則を5つ以上そらで言えるか?」

数秒考えたブルストロードと同じタイミングで、ロングボトム少年も控えめに手を挙げた。

 

「んー……。じゃあ、今年もルール説明から始めるって事でいいかい皆!」

 

青年の問いかけに競技場を囲む観客席のあらゆる位置から、上級生たちが歓声で応える。

そして予め予定していた通りに、今日これから試合をするグリフィンドールとスリザリンのチームのキャプテンが、箒に跨って競技場に文字通り飛び出てきた。

「ルール説明を手伝ってくれるのはこの2人!スリザリンチームのキャプテン、イメルダ・レイエスと、グリフィンドールチームのキャプテン、ギャレス・ウィーズリー!」

紹介された2人は手を挙げて観客席の皆に挨拶し、そのまま空中に向かい合って止まる。

「大丈夫ギャレス?なんか落ち着き無いけど。……手加減なんかしないよ?」

「大丈夫。試合中は試合に集中するから。けどまだ試合始まってないからね………」

ギャレス・ウィーズリーは控えめに、しかし確かに何かを、目だけを動かして探し続けていた。

 

小声でそんな話をしている2人の下方では、競技場の中央まで進み出たウィーズリー先生が持ってきたケースを開ける。するとすかさず青年が再び喋り始めた。

「まずはコレ!『クアッフル』!各チーム3人ずつ居る『チェイサー』って役割の選手だけがコレで相手のゴールを狙える………ゴーイルー!出てきてー!出番だよー!得意だろーう?」

その声に従って、スリザリンの大柄な7年生が箒に跨ってフィールドに飛来し、ウィーズリー先生が杖を振って寄越した一部が凹んだ革張りの球体を空中で、片手で受け止める。

そしてゴイルはクアッフルを掴んだ腕を、それも全身を使うのではなく肩から先だけを雑に振って、競技場の端の高い位置に3つ並んだ輪へ、力任せにクアッフルを放り投げた。

「さあっすがー!!どうだい皆すごいだろう!ゴイルはねえ、毎日寝る前に欠かさずお菓子食べてるのをルームメイトが手紙で告げ口してね、こないだお母様から吠えメールが届いたんだよ!」

競技場を囲む観客席がドッと湧き、ゴイルは「なんで知ってるんだお前……!」と唸っている。

 

「いま言うべき事それじゃないですよね先輩?」

青年の膝の上のゼノビア・ノークに頬を突かれながら、その隣に座ったダンブルドア少年が言う。

「あ、そうだねルールね。いいかい皆!今のが『ゴール』!ゴール1回で10点!両チーム1人ずつ『キーパー』が居て、自分チームのゴールの輪っか3つを相手チームから守るんだ!いいかい?チェイサーとキーパー以外は『クアッフル』に触っちゃダメだ!それとクアッフルは『投げて』輪っかに入れなきゃダメだ!掴んだまま腕伸ばして輪っか通すのは反則だからね!まあそんな真似ホントにする人見たことないけど!それとクアッフルには、地味だけど重要な魔法がかかってる」

 

そこで地上のウィーズリー先生が先程ゴイルが投擲したクアッフルに杖を向けて無言で呼び寄せ、そのまま杖を振って真上に射出する。

 

「はい。見ての通り。クアッフルには『ゆっくり落ちる呪文』がかかってて、水の中を沈むくらいの速度で重力に引かれる。1711年にデイジー・ペニフォールドって魔女がこの呪文を発明するまで、チェイサーはいちいちクアッフルを地上まで拾いに降りなきゃなんなかった。それじゃいくらなんでも面倒だし、試合のテンポも悪くなるよね!そんでこの『減速呪文』アレスト・モメンタムは、みんなも5年生の呪文学で習う便利な呪文だ!高いところから落ちちゃった時、地面にこの呪文を唱えれば安全に着地できるよ!ま、勿論そうするだけの冷静さを保ってられればだけど!」

1年生たちの何人かがその説明をメモしている中、ゴイルは司会進行役の青年に吠えかかるような動作をしてからまたスィーっと飛行して引っ込んでいった。

「ありがとねゴイル。……じゃ。次ね。次はこれ―『アクシオ』」

 

青年がそう唱えた途端、ホグワーツ城の窓ガラスがひとつ割れ、そこから何かが唸りを上げて空を切り凄まじい勢いでクィディッチ競技場に突撃してきた。

「アヴェンジグイム!」

青年はさらに呪文を唱え、その黒い球体をギャレス・ウィーズリーにけしかける。

1年生の誰かが短い悲鳴を上げ、違う誰かが「あぶないギャレス!」と叫んだ。

 

「あ、はいはい。次は僕の番だったね」

 

しかしギャレス・ウィーズリーは慌てず騒がず、いつの間にやら手にしていた短い棍棒のようなもので、見事にその暴れ狂う球体を迎撃した。

打ち据えられた凶暴な球は鋭く進行方向を変え、唸りを上げて飛んでいく。

「ひゅー!ギャレスカッコいい!―今のが1チームに2人居る『ビーター』の仕事!ビーターは得点に関われない代わりに、『バット』を持ってる。あの短いやつね!」

青年の言葉に合わせて、ギャレスは手に持ったそれを高く掲げて「これだよ」と観客席に示す。

「そんでこの暴れ回ってる危ない球は『ブラッジャー』!暴れ球だよ!昔は単にでっかい石を使ってたらしいけど、試合が終わるまでに砕けちゃうってんで年々頑丈な素材に変更され続けた歴史があるんだよ!そんで今じゃ鉄製だ!当たると痛いね!試合中はずっとこのブラッジャーが2個飛び回ってて、ビーターはバットで自分のチームのメンバーをブラッジャーから守る!そんでブラッジャーを相手チームのメンバーに飛ばして『潰す』!クィディッチってけっこう荒っぽいんだ!」

 

それでこそクィディッチなのさ、とギャレスが誰にともなく呟いた。

 

「じゃ、最後の1個。一番大事なボールの話をしようか」

 

青年のその言葉に合わせて競技場の中央、地上に居るウィーズリー先生が持参したケースの中から、その一際小さな金色の球を開放した。

それが羽を広げて飛び立つのを、競技場の全員が見つめている。

 

「『金のスニッチ』。見ての通り小さくて、めっちゃ速い上にとっても不規則な飛び方をする。両チーム1人ずつ居る『シーカー』って役割の選手だけがこれに触っていい。で、シーカーの仕事はひとつだけ。相手チームのシーカーより先に金のスニッチを見つけて捕まえる事だ。これができれば『150点』で同時に『試合終了』だ。いいかい?これってつまり『取れば勝ち』だって思うかもしれないけど、実はそうじゃない……アルバスなんでかわかるかい?」

急に話を振られたダンブルドア少年は戸惑ったが、それでもすぐに落ち着きを取り戻して、ピーブズが差し出してきた集音器に向けて答える。

「え、あ。えーっと、『150点獲得して試合終了』なんですからつまり、160点以上負けてる時にそのチームのシーカーがスニッチを取っちゃったら、その瞬間に敗北が確定するんですね?」

競技場を囲む観客席のどこかから、誰かの「あーーー、なるほど……」という声がダンブルドア少年の耳にまで響いてきた。

「そ。アルバスは賢いねえ。あ、みんな紹介するね。今の男の子はアルバス・ダンブルドアくんって言って、グリフィンドールの1年生。すっごくちっちゃくてすっごくほっぺたがまんまるでね、もうめっちゃかわいいんだよ!そんで僕とお友達になってくれたんだよ!いいだろう!」

 

「僕の話は今いいんですよ……」

 

俄に脱線し始めた先輩の軌道修正を試みているダンブルドア少年をその青年の膝の上から、文句は言いつつもそこまで強く抵抗はせず基本的にいつもその7年生にされるがままな女子生徒、レイブンクローの3年生ゼノビア・ノークが見つめている。

「……なんですかノーク先輩?」

数秒してから、ダンブルドア少年はじっと見つめられている事に意識を向けた。

そしてすぐにダンブルドア少年は、自分がノーク先輩に睨まれているのだと気づく。

 

「アナタだけのものじゃないのよ。わかってる?」

 

ダンブルドア少年は何の話かわからずに、自分は何かノーク先輩のご機嫌を損ねるような真似をしてしまったのだろうかと考えを巡らせ記憶を辿る。

そしてそこから少し離れたレイブンクローの生徒たちが集まって座っている一角では、7年生のコンスタンス・ダグワースの問いかけから、まさにその話が始まっていた。

「あれ?そういえばゼノビアは?さっきまでアナタたちの隣に居なかった?」

「ゼノビアならあの7年生にさっき拐われてったわよ。ほらあそこ。見える?」

コンスタンスはレイブンクローの後輩の女の子が指し示した方向に視線を向けて、目を凝らす。

「あらほんと。膝に座っちゃって……ゼノビアあの子『ダンブルドアとかいう1年生に取られた』なんて拗ねてたけど。結構かまって貰えてるじゃないの。ねえ?」

「ゼノビアまだちょっとわがままなのよね。1年生の時と比べたらずっとマシになってるけど」

「あの子自分が今どんな顔して笑ってるか、たぶん気づいてないわよね?」

コンスタンス・ダグワースはクスクス笑いながら言う。

「それどころか自分があの7年生の先輩のこと大好きだって事にも、あの先輩に憧れてる事にも尊敬してる事にもたぶん気付いてないし、なんならこの分だと永久に気付かないと思うわ。あの子が私たちに得意げに話す色んな知識って全部、話のどこかにあの先輩が登場するのよ……」

ゼノビア・ノークのルームメイトの女の子はそう言って肩を竦め「やれやれ」という表情を作る。

 

「幸せそうな顔しちゃって……精々今年いっぱい思いっきり遊んでもらいなさいな」

 

それでダンブルドアくんとも仲良くやんなさいと、その女の子は母親のような事を呟くのだった。

一方。当のゼノビア・ノークは立場を解らせてやろうと思ってダンブルドアとかいう1年生を見ている内にいつの間にやら、視線はそのダンブルドアくんのまんまるのほっぺたへと注がれていた。

「あっ、あのノーク先輩。何も仰っていただけないのは僕ちょっとその、怖いんですが……僕が何かしてしまったんでしょうか………それなら謝りますから……」

そして程なくゼノビア・ノークは青年の膝の上から身を乗り出してダンブルドア少年の頬を両手で引っ張り始めたが、それは青年には「かわいい生き物とかわいい生き物がかわいい事をしている」としか認識されなかったので、やめてください痛いです先輩助けてくださいとダンブルドア少年がいくら言っても、青年はダンブルドア少年の方を見て嬉しそうにニッコリするばかりだった。

「あっあのノーク先輩、僕が何か気に障る事をしてしまったのなら謝りますから」

「むぅーーー……!!なによ自分の方が大人みたいに……」

ゼノビアはダンブルドア少年を鋭く睨みつけながら、その頬をぐいぐいと引っ張り続ける。しかしすぐにゼノビアの手の動きは、「痛めつける」から「感触を楽しむ」に目的が変化していった。

「……あなたのほっぺたには何が入ってるのよ」

何故か不服そうな表情で、ゼノビアが訊く。

 

「ドングリだよねアルバス」

「違いますよ??」

 

青年がそう声をかけてきた事によって、ダンブルドア少年とゼノビア・ノークはもうクィディッチの基本的なルール説明どころか、これから戦う両チームのメンバーと審判を務めるウィーズリー先生の紹介まで終わってしまっていると、いよいよ試合が始まる段なのだと気付いた。

「ほらほら2人ともじゃれてないでさ、もう始めるんだから……そうだ。2人が合図するかい?」

すかさずピーブズが、2人が戸惑っているのも無視して集音器を近づけてくる。

「そういえばピーブズさん。アナタはどうしてこの先輩の言う事には従うんですか?」

ピーブズに敬称を付ける人間を初めて見たゼノビア・ノークは、目をまんまるにして隣のダンブルドア少年を見つめている。

「賢い俺様は、コイツの指示には素直に従った方が楽しいことが起こるって知ってるのさ」

2年前にやってきて以降ホグワーツに騒動を齎し続けているその青年はポルターガイストのピーブズにとって「最も気の合う2人の内の片方」だった。そしてその「もう片方」と去年引き合わせてくれたのもこの青年である以上、ピーブズからしてみればその青年は、端的に言って。

 

「最高なんだコイツ。知ってるだろ?」

「アナタ程じゃあないと思いますけどね」

 

その返しを聞いてゼノビアは「何を言ってるのこの子は」とでも言いたげな目でダンブルドア少年を見つめるが、ダンブルドア少年は未だピーブズを煩わしいとか迷惑だと思ったことが無かった。そして実のところアルバス・ダンブルドアという魔法使いは結局、最期までピーブズに、どころかポルターガイストというモノ全般に対して「快くて愉快」という印象を抱き続けたのだ。

「嬉しいこと言ってくれるじゃねえかおチビちゃんよぉ~!!!」

後の時代の多くの者は、当のピーブズ本人も含めて、「ダンブルドアならこのポルターガイストをホグワーツから追い出せるのかも」という期待と畏れを抱いたのだが、ダンブルドアにしてみればそんな事は、仮にできたとしても百害あって一利なしの、愚かで無粋な行いだった。

 

「ピーブズさん今度一緒にお茶とかどうです?」

ダンブルドア少年の発言で、青年を挟んだ向こう隣に座っているヘキャット先生が笑った。

「……余興は?」

「先輩が面白い事してくれますよ」

「無茶言うねアルバス……」

青年は困惑したが、既にピーブズは乗り気だった。

「コイツは秘密なんだが、校長先生殿は校長室の端っこに、とっておきの茶葉を隠してる」

「それいいですね。出番ですよ先輩」

「ぅぇぇ…………?」

 

そんなやり取りが眼前で行われているのを見て、ゼノビア・ノークは目をひん剥いたまま口をパクパクさせて、何も言えずにただただ動揺していた。

一方、何やら後輩2人とわちゃわちゃくっちゃべっている司会進行役を見て、痺れを切らしたイメルダ・レイエスは空中で待機するのをやめてその青年の方へ飛んでいく。

 

「まだ?」

 

それだけ言ったイメルダが返事も聞かずに元の位置へ飛んでいくのを見ながら、青年は言う。

「あっ、ゴメンナサイ……ほらアルバス、ゼノビア。元気よく」

ゼノビア・ノークとダンブルドア少年はまた戸惑ったが、今度はすぐに覚悟を決めた。

「じゃあいーい?ダンブルドアくん。せーの……」

 

「「始め!!」」

 

それを合図に両チームの全メンバーが一斉に動き出し、魔法界で最も、それも圧倒的1位の人気を誇るスポーツ「クィディッチ」の寮対抗戦が今年も幕を開けた。

 

「そうそうこれ!これだよ!『クアッフルとゴールを巡るチェイサーたちの攻防』と『ブラッジャーを使ったビーターのやり取り』と『金のスニッチを巡った両チームシーカーの競り合い』が、全部同時に進行するのがクィディッチなんだ!見るとこ多くて大変だよね―」

そして青年は、クワッと目を見開いて高らかに宣言する。

 

「―だからそのために僕が居るんだ!」

 

生き生きと楽しそうに喋り続ける青年の表情を見たダンブルドア少年はそのまま観客席をぐるっと見渡して、ああ確かにこれは「先輩のためにある役割」と言えるのかもしれないと、そう思った。

 

そしてダンブルドア少年の目に飛び込んできたのは、スリザリンチームの選手の1人。

「えっ、あっ。………えっ?????」

同じ選手を見ながら、ついさっきの選手紹介をダンブルドア少年とは違ってちゃんと聴いていたハッフルパフの1年生の女の子も、しかしまだ驚いていた。

「すごーい……おにーちゃんすごーい……!!」

 

スリザリンの1年生たちも皆、まだ目を白黒させている。

 

「素晴らしい!クレシダ・ブルームの鋭いシュートを見事に防ぎましたオミニス・ゴーント!」

 

いつもとは違って杖をしまったまま、そのスリザリンの7年生は見事にキーパーを務めている。

「……あいつ目ぇ見えねえのになんでクアッフルの来る方向が判るんだ?」

実況解説用の集音器が拾ったピーブズのその呟きは、競技場を囲む観客席から固唾を飲んで試合を見守るほぼ全員が抱いているものと同じだった。

 

 





※ピーブズをホグワーツから追い出すのは「ダンブルドアにも誰にも絶対に不可能」
 だと原作者が明言している

私の妄想の中のゼノビア・ノークがどんどん気が強い小型犬みたいになっていく……

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