2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「腕。診せてイメルダ。……大丈夫なのは判ってるけど」
そう言ったギャレスに、イメルダが折れていた方の腕を差し出す。そして傷も残っていないまっさらなその腕をじっくりと検分したギャレスは顔を上げてイメルダの目を見た。
「ごめんね」
反則スレスレのプレーだったという自覚が、ギャレスにはあった。
昼日中、一番暑い時間帯のクィディッチ競技場で、ギャレスは己のラフプレーを思い起こす。
密集してクアッフルを奪い合っていた自分のチームのチェイサーをブラッジャーから守るついでにすぐ隣のイメルダに確実にブラッジャーをぶつけるべく、バットが当たりそうなほどにまでチェイサーたちに接近してブラッジャーを打ち据えた己の動きは、まあ仮にブーイングを貰っていたとしても仕方ないだろうなとギャレスは思った。
「何が?」
しかしイメルダは、ギャレスに向けてニヤリと笑ってみせるのだった。
「ねえねえ僕も見たい。ねえイメルダ見せて見せて」
寄ってきた女生徒はギャレスの隣に陣取って顔を寄せ、イメルダの腕をまじまじと観察し始めた。
「えっ、何。アンタはさっき―」
「私にも見せて!」
含み笑いしながらポピーまで自分の腕を観察し始めた事で、イメルダは大いに戸惑った。
そして周囲に集まってきていた他の生徒たち、特に先輩たちが何を始めたのかが気になったらしい1年生や2年生たちもわらわらと寄ってきて、お互いの身体の間から前方を見ようと頑張り始めた。
「なになになになに。なになになんなのちょっと」
「あ!すごい!ケガしてないのね!」
ハッフルパフの1年生の女の子はそう言った後で、ぐるりとギャレスの方を向いた。
「……クィディッチって、けっこうあらっぽいのね?」
女の子の目には、責めるような鋭さがあった。
「だからアレは反則じゃ―」
「ない、とは限らないんだよね~」
ギャレスを擁護しようとした羊のような癖っ毛の男の子の言葉を7年生の女生徒が遮った事で、周囲の下級生たちの視線は一斉にその女生徒へと集まる。
「そうなの?」
男の子が訊く。
「そ。クィディッチの反則ってね、ほんの一部しか公表されてないんだ。全部発表しちゃったら『選手がそこからヒントを得る』かもしれないから、って国際クィディッチ連盟の方針でね。だから、さっきのギャレスのプレーは僕らが知ってる限りではルール違反じゃあないけど、もっとクィディッチのルールに詳しい人、例えば魔法ゲーム・スポーツ部の部長さんとかに判断してもらったら、もしかしたら『反則ですな』って言われちゃうかもしれないわけさ」
そういえばそうだったけと言いたげな顔になった羊のような癖っ毛の男の子の隣で、その女の子は、あんまりよくわかっていないのが表情に表れていた。
「ギャレスはいいプレーをしたわよ」イメルダが言う。「誰かが悪いって言うなら、あんなプレーを許してしまった私たちが悪いの。私は咄嗟にナツァイの陰に逃げるべきだったわ」
「相手チームのビーターのファインプレーは、自分たちのチームのビーターの落ち度だ」
クラッブと並んでのしのしと歩いてきたゴイルが言う。
「………もう1ゴールできてれば、こっちの勝ちだったのに」
「そりゃお互いさまだよ。オミニスがあんな上手いとはね」
イメルダは自分のプレーを反省し、ナツァイは相手チームの盲目のキーパーを褒めた。
「そもそも僕がブキャナンに競り勝ってれば良かったんだ。すまん」
「終わったことをうじうじ言っててもしょうがないよマルフォイ」
「お前………」
当のブキャナンくんにそんな事を言われたマルフォイは一瞬ものすごい表情になったが、すぐに突沸した感情を抑え込む事に成功したらしかった。
そして始まったスリザリンとグリフィンドールの両チーム共同での反省会に興味深げに聴き入っている数人の1年生たちや、いつものとおりに会話に混ざっている7年生の友人たちを余所に、その女生徒は競技場から去ろうとしていたサティヤヴァティー・シャー先生を大慌てで追いかけて声をかけ、天文学の宿題を提出していた。
「あなたの書くエッセイやレポートは、着眼点が面白いね」
シャー先生は折りたたまれていた羊皮紙を広げてその中身を読み進めながら笑っている。
「ところでこの端っこに描いてあるイラストは、もしかして私かい?」
「あ゙っ…………」
落書きを消し忘れていた事にやっと気づいて蒼白になった女生徒に背後から声をかけたのは、ポピー・スウィーティングと並んでやってきたダンブルドア少年だった。
「どうでした?先輩。褒めてもらえました?」
「よく描けてるよ。」
そう言ったシャー先生はクスクス笑いながらさっさと立ち去ってしまったが、その背中がクィディッチ競技場の外へ消えていった後もまだ、女生徒はその場に立ち尽くしていた。
「どうしたんです先輩」
「『木星を食べるシャー先生』………消し忘れてた……」
「……だから宿題に落書きなんてするべきじゃないって僕、言いましたよね」
「言わないで……」
ポピーはそんなやりとりを傍で聞きながら、何を言うでもなく楽しそうに笑った。
一方試合の振り返りをしていたグリフィンドールとスリザリン両チームの面々とそれを聞いていた少人数の生徒たちのグループのやり取りは既に、1年生たちに向けたクィディッチの体験教室へと変貌していた。マルフォイとセバスチャンが1年生たちから箒飛行のコツを訊かれ、オミニスはレイブンクローの女子生徒と何やら話し込んでいる。
「ねえねえおねーちゃん!その球見せて!」
ハッフルパフの1年生の女の子は、イメルダがまだ持っていた金のスニッチに興味を示した。
「すぐ飛んでっちゃうから、手を離しちゃダメよ」
渡してもらえるとは思っていなかったらしい女の子は、その小さな金色の球をそっとつまみ取ると、それが羽を広げて緩やかに羽撃くのを見つめながら、まんまるの目を更にまんまるにして、その顔中から喜びの光を発散した。
「「アクシオ!」」
ウィーズリー先生とコガワ先生はブラッジャーとクアッフルを「呼び寄せ」てケースに収納し、金のスニッチも回収するべくやって来たものの、その女の子の喜びようを見てもう少しいいかと思い直し、クィディッチチームの生徒たちが行っている「体験教室」に混ざり始めた。
「ボールに杖を使うのは反則ですよミス・フランクリン」
羊のような癖っ毛の男の子が投げたクアッフルを受け取りそこねて「呼び寄せ呪文」を使ったレイブンクローの女子ソフロニア・フランクリンにコガワ先生が冗談めかして指摘する。
「しっ、試合中じゃあありませんし………」
ソフロニアはコガワ先生の方を見ずに言い訳した。
「ねえねえおねーちゃん」ハッフルパフの1年生の女の子は、その手に握りしめた金のスニッチを見つめながら訊く。「これ、なんで羽が生えてるの?」
女の子の質問にイメルダが答える。
「元は生きた鳥を使ってたからさ。それじゃ可哀想だからやめようって話になって、『嫌だ』と『そうしよう』って意見がぶつかってる間に、ボーマン・ライトって人がこのスニッチを作った」
女の子の目は、金のスニッチからイメルダへと移る。
「おねーちゃんかっこいい!!!」
クィディッチを観戦する前にも言っていた事を、女の子はまた言った。
「ねえねえおねーちゃんは男の子とデートとかしたことある??!!!」
「ないよ?特に気になるやつも居ない……いやまあアイツは気になるけど、意味が違うし」
向こうでダンブルドア少年の頬を引っ張って遊んでいる女生徒を眺めながら、イメルダが言う。
「じゃあじゃあどんな男の子が好きですか!」
「クィディッチ上手い奴と飛ぶのが上手い奴だね」
徹頭徹尾、イメルダ・レイエスの興味を惹くのはそれだけだった。
少なくともこの時は、まだ。
「この、出だし部分の右端に描いてあるこれはなんだろうねダイナ。たぶんすぐ下に書いてあるのがタイトルなんだろうけど、あの子。字の練習をさせるべきだね……」
「『地獄の三尻犬オケツベロス』だそうだよサティヤヴァティー。そう書いてある」
「………なーにを考えて生きてるんだろうねあの子は」
自分が受け持つ天文学の教室まで戻ってきたサティヤヴァティー・シャー先生は、ヘキャット先生の手を借りながら、さっき7年生の女生徒から受け取った宿題を読み進めていた。
その7年生の宿題の本文は曲がりなりにも先生に読んでもらう文章なので頑張って丁寧に書いたのだろうと推測が立つ、「読み辛い」という表現の範疇に収まる程度のヘタクソな字な一方、後で消すつもりで気ままに書いたと思われる落書きの数々は、シャー先生には完全に判読不能だった。
「こっちのはなんて書いてあるんだい?」
シャー先生にまたそう訊かれたヘキャット先生は、何やらクスクス笑い始めた。
「『ヘキャット先生大好き』………大好きなら名前の綴りを間違えないでほしいものだね」
自分のファミリーネームが「Hechat」と綴られているのを見ながら、Dinah Hecat先生は何故かとても嬉しそうだった。
「なんですダイナ。ニヤニヤして」
理由が察せていながらあえて訊いたシャー先生は、同僚の珍しい振る舞いを面白がっていた。
「だってこんなに字がヘッタクソで、名前の綴りも間違えてるのにさ。伝わってくるじゃないか。あの子の気持ちが。まったく………誰がヘチャット先生だい誰が」
「……こっちの、胴にくびれの全く無い雪だるまみたいなのは何だろうね」
「ミスター・ダンブルドアだそうだよ。そう書いてある。そっくりに描けたとも書いてあるね」
「おや、まあ。あの子にはこう見えてるのかね。ほとんど玉じゃないか」
「このミスター・ダンブルドア、顔から直接手足が生えてないかい?手と足だろ。この棒は」
ホグワーツの優秀な教師2人はその後も暫くの間、宿題の内容そっちのけで落書きに夢中だった。
そして奇遇というべきか、ぞろぞろと連れ立ってレイブンクローの談話室にやってきたその7年生と友人たちとそれにくっついてきた数人の下級生たちは正に皆で、そのお絵描きに興じていた。
「わあー。ポピーちゃん上手ね!」
「そう?ありがとう」
ポピーがさらさらと描いた羽とクチバシがあるヘビさんの絵を見ながら目を輝かせている女の子の横で、ダンブルドア少年は眉間にシワを寄せて怪訝そうな表情をしていた。
「先輩、それは何を描いたんです?」
ダンブルドア少年が見ているのは、気球のようにやたら頬の膨らんだ顔の絵と、その横に並んだいくつもの小さな丸。そして、地面か水面を表しているのであろう横一本の波線。
「これはねえ。アルバスだよ」
気球のようにやたら頬が膨らんだ顔をもうひとつ描き足して、その女生徒は満足げだった。
「この球体がですか?」
「ほっぺをちぎって畑に植えとくとアルバスが採れるんだよね痛いいたいいたいゴメンナサイ」
ダンブルドア少年に両手で頬を引っ張られて、その女生徒は幸せそうな笑顔のまま謝った。
「ところでアルバふ。僕ひょっと前から、もひかしたらって思っへはんらけどさ」
「なんですか先輩」
質問には聞く耳を持ちつつもダンブルドア少年はよほど腹に据え兼ねたのか、それとも単に興が乗ったのか、女生徒の頬を両手でギリギリと引っ張り続けている。
「アルバスってさ。……泳げる?」
ダンブルドア少年は、女生徒の頬から手を離した。
「―あ。やっぱり?」
「ええ泳げませんよ?」
それが何か?とでも言いたげな態度を、ダンブルドア少年は頑張って作っていた。
「あとアルバスさ。これも言おうかどうしようか考えてたんだけどさ」
「足ですよね?遅いですよ?」
ダンブルドア少年は、自分の運動神経のニブさと身のこなしのどんくささについて、とうに諦めて開き直っていた。
「杖捌きはとびっきり速いのにねぇ。不思議だねえアルバスは」
先程までとは入れ替わりに今度は女生徒がダンブルドア少年の頬に両手を伸ばして、もちもちと感触を楽しみ始めた。
「僕らは魔法使いだからこそ、素早いに越したことないよ。判ってるだろう?それに『泡頭呪文』が使えても、泳げなきゃ泳げないよ?」
ダンブルドア少年は目を逸らそうとするが、顔を両手でガッチリと抑えられており動けなかった。
「ネリダは去年まで泳げなかったけど、去年一緒に練習して泳げるようになったよ」
「水に顔を漬けられるようになったの間違いでしょ。あれはまだ『泳げる』とは言えないわ」
イメルダ・レイエスが容赦無く事実を指摘し、当のネリダ・ロバーツは「ガンバリマス」と呻いた。
「そういう先輩は泳げるんですか」
「泳げるどころか。水中を逃げるマーピープルに泳いで追いついて捕まえるんだよコイツ」
アミット・タッカーの発言に、ダンブルドア少年のみならずその場の7年生以外の皆が驚いた。
「それは本当に『泳ぐ』と形容するのが正しいんですか?」
「まあ『推進』とかのほうが合ってるかもね。コイツ白く光る靄みたいになって高速移動するだろ?アレを水中でもやるんだよ。それでマーピープルを追いかけ回して抱きついたりとかする」
「岸まで連れてきて『友達になったんだよ!』ってな。虜囚にしたって言うんだアレは」
セバスチャン・サロウもそう言って笑う。
「でもあの後ちゃんとゴメンナサイして、ちゃんとお友達になれてたじゃない」
「あの時はありがとねネリダ」
去年の思い出話に花を咲かせ始めた先輩たちから、ダンブルドア少年を始めとする1年生たちは目が話せなかった。7年生の先輩たちがその話題で盛り上がり始めた時は、いつもそうだった。
「そういやロバーツお前、一昨年マーピープルから何か贈与されたんだよな?」
「今もつけてるわよ」
5年生だった時の事をノットに訊かれたネリダ・ロバーツはそう言って嬉しそうに胸元を抑えた。
「―なあに?」
その「マーピープルからの贈り物」をあの時泳げない自分に代わって取りに行ってくれた友人が目を丸くしてこちらを見ている事に気づいたネリダは、僅かに首を傾げて訊ねた。
「あ。えっとね、……その。今のネリダちょっとエッチだったなって………」
何言い出すんだコイツはと一斉に眉間にシワを寄せた男子たちを視界に捉えながら、しかしネリダはこのおかしな友人の発言が意味するところをきちんと正しく理解していた。
つまり「綺麗だった」とか「可愛かった」とか、そのぐらいの意味合いで言っているのだと。
「そう?『今の』って。いつもは魅力に欠けてるって事?」
「えっあっ違、いつももエッチだと思うよ………?」
「なあに私そんな尻軽に思われてたの?」
「ちっ違あの違うんだよゥ………」
叩けば叩いただけよく響くおもちゃで遊び始めたネリダに、他の女子たちも面白がって続く。
「男子も居る前で『エッチだった』って、アナタもうちょっと言葉選びを考えるべきじゃない?」
グレース・ピンチ=スメドリーが面白そうに笑いながら言った。
「エッチだって言うならレストレンジとかどうなのほら。だってさコレだよ?『コレ』」
イメルダはものすごい美人のルームメイトが着ている制服を腰のあたりで絞り、他の生徒の追随を許さないレストレンジのスタイルの良さを、引いては胸を思い切り強調した。
「ЙЙЙЙぃーーーー!!!!なにすんだいイメルダ!」
俄に取り乱し始めたレストレンジを、次の瞬間さらなる衝撃が襲った。
「やめろレイエス。レストレンジは誰にもやらんぞ」
手首を掴んでぐいと引き寄せてきたノットに抱きとめられて、レストレンジは完全に停止した。
「なんだ。やればできるじゃないカンタンケラス」
「これ見よがしにファーストネームで呼ぶなレイエス。第一……」
そこまで言ったカンタンケラス・ノットに、案の定。その女生徒は「再び」提案する。
「ねえノットやっぱりきみのことカンちゃんって呼んでも―」
「そら来た……僕と友人のままで居たいなら絶対にやめろと去年言っただろう」
「ヤッパリダメカァ……ゴメンナシャイ………」
フンと鼻を鳴らして憤りを放出したノットに、抱き寄せられたまま徐々に顔が赤くなり始めているレストレンジがものすごく小さな声で質問をした。
「いつになったらアタシのことファーストネームで呼んでくれるんだいノット……?」
「それは恥ずかしいからまだ無理だっ、だが。努力はする……というか、これはお互い様だろう」
お前だって僕のことをファーストネームで呼んでくれた事まだ無いだろうと、ノットは俄に赤面しながらすごく小さい声で言った。
「ホントに見てるこっちが恥ずかしくなるわね、あの2人」
談話室の隅のソファから遠巻きにその光景を見ていたレイブンクローの7年生女子コンスタンス・ダグワースは、誰にとも無くそう言って肩を竦めた。
一方、ダンブルドア少年は、同じグリフィンドールの先輩が1人、いつもと少し様子が違う事を訝しんで先程からずっと静かに観察していたが、遂に堪えきれず話しかけた。
「あの。さっきからどうしたんですか?ウィーズリー先輩」
「………なんでもないんだ気にしないで」
一切会話に入って来ず所在無さげにソワソワうろうろと歩き回っているギャレス・ウィーズリーの姿も、そしてその返答の仕方も、深刻な事態が発生しているのだと如実に示していた。
「……もしかして先輩が何かしましたか」
「……………そう。」
「すいませんいつもいつもご迷惑ばかり……」
ダンブルドア少年がそう言った事で、ギャレス・ウィーズリーは束の間クスリと笑った。
「なんでダンブルドアくんが謝るんだい?」
「先輩は、ご両親もそれに代わる人も居ないんですよね?だったらこういう場合、本人に代わって謝罪するのは7年生の皆さんや僕の責務でしょう。だって―」
ダンブルドア少年は、ノットとレストレンジに絡みついているその女生徒を見つめた。
「―僕らみんなで育ててあげなきゃいけないんですから。先輩は」
「去年のポピーと同じこと言うんだね、ダンブルドアくん」
アミット・タッカーが横からそう言って穏やかに笑った一方で、ギャレス・ウィーズリーは何の反応も示さない。今の今まで会話相手であるダンブルドア少年の方をちゃんと見ていたギャレスの視線は、急に全く別の方向へと注がれていた。
「ステュッ、グレイシっ……インカーセラス!!」
何故呪文を2度も躊躇したのか、そもそも何故急に杖を振ったのか。理解しているのはリアンダー・プルウェットだけだった。
ギャレスは血相を変えて駆け出し、友人たちや後輩たちをかき分けて談話室の隅、穏やかな風が吹き込む窓へと手を伸ばした。
しかし縄打たれた事によって身動きできなくなった「それ」は重力に引かれてその身を傾かせ、高い高いレイブンクロー塔の上部に位置する談話室から遥か下の地上へと落ちていこうとする。
「アクシオ!!!」
「それ」を縛っている縄は生き物ではないので呼び寄せ呪文が効くと咄嗟に判断し行動できたのは、ギャレスが入学以来「闇の魔術に対する防衛術」に真面目に取り組んできた証拠と言えた。
「失神させるのも凍結させるのもヤだったのは解るけど。縄で縛るのもどうかと思うぞ?」
「でも今を逃したらそれこそ二度と戻ってこないかもしれないじゃないか!!!」
相手が同級生の中でも特に気の置けない関係のリアンダーだからなのか、それとも状況が状況だからなのか。ギャレスは珍しく取り乱し声を荒らげた。
「ちょっとギャレスどうしたんだい。その小鳥が何か―」
「きぃみには言えなぁい!!!」
ひっくり返った声でナツァイの質問を拒絶したギャレスは、すぐさま杖を振って大鍋やら何やらを用意し、その場で魔法薬を作ろうとし始める。
が、一瞬だけキョロキョロと部屋中を見回すとすぐまた杖を振って、今出現させたばかりの魔法薬作りの道具一式を消失させ、「マルフォイ手伝って!!」とだけ言い残して颯の如くレイブンクローの談話室から飛び出していった。
ギャレスの身に今起きている事を思い出すのに2秒必要としてからギャレスの後を追って行ったマルフォイが談話室から姿を消した後で、いつもならギャレスの魔法薬作りを真っ先に手伝う筈の、そしてそれをギャレスから真っ先に頼まれる筈のそのハッフルパフ生は、事態を薄っすらと理解して自分と同じ7年生の友人に、ジリジリと詰め寄っていた。
「アナタ。」
「なんだいサっちゃん」
「座りなさい」
「はい」
サチャリッサ・タグウッドは、やっと「怒られるのだ」と理解したらしい女生徒を睨む。
「アナタがギャレスに渡してた薬、どんな効果があったのかを一切話してくれないのだけれど。けれど一切話してくれないって事は、どういう効果なのかをなんとなく察せるってものよね?」
「ちんちんが小鳥になって飛んでく薬だそうだよサチャリッサ」
リアンダーが言い、周囲の皆が一斉に眉間に深いシワを刻み、一瞬早くノットに手で両耳を塞がれたレストレンジだけがキョトンとしている中で、サチャリッサはますます怖い顔になった。
「アナタ。」
「ヒェー……おゆるして………」
謝る気があるのか無いのか判らない啼き声を漏らして震え上がったその女生徒は、できるだけその身を小さく屈めてその場から消え去ろうと試みているかのようだった。
「…………先輩。」
ダンブルドア少年もサチャリッサ・タグウッドの隣に立って、その女生徒に詰め寄る。
「先輩。こっちを見てください先輩」
「にゃん……」
「にゃんじゃありません」
「ぴょん………」
今回のお説教は長引くだろうなと察して、アミット・タッカーはその光景を間近で見られる位置のソファに腰を下ろした。
「隣いい?」
今回は自分がお説教をする役じゃあないなと察したらしいポピーもそのソファに座る。
「フィフィ・フィズビー。食べる?」
ダンブルドア少年とサチャリッサから2人がかりのお説教を貰っているその女生徒の萎れっぷりを見ながら、アミットもポピーも至って気楽にお菓子をつまんでいた。
「だいたいね!ギャレスのおちんちんは私のものなの!アナタのものじゃないの!!!」
「ウィーズリー先輩ご本人のものだと思いますよタグウッド先輩……」
俄に脱線し始めたサチャリッサを軌道修正するダンブルドア少年が困惑しているのを眺めながら、まだレストレンジの耳を手で塞いでいるノットのすぐ隣の椅子に座ったナツァイもまた、他の皆と同じようにいつも通りの光景を肴にゆったりと寛ぎ始めていた。
「まだダメなのかいノット」
「きみに聞かせたい話題じゃない。ご両親に申し訳が立たない」
聞こえていないと判っていながら、ノットはレストレンジの問いに律儀に返事をした。
一方、ホグワーツ領内各所を繋ぐ煙突飛行ネットワークで1階の図書館に飛んできたギャレスとマルフォイは、すぐまた煙突飛行で図書館内の別の暖炉へと飛ぶ。
「おお、ここがそうか……隠し部屋があるのは知っていたが。また随分改装したな」
「火の奥に見えてたもんねこの部屋。スクリブナーもたぶん、ここの事知ってて黙認してくれてるんだと思うよ。だっていくらなんでも気付かないわけないもの」
そう言いながら大鍋をひとつ「呼び寄せ」たギャレスがレタス喰い虫の分泌液をそこへ注ぐのを横目に、手伝いに来た筈のマルフォイは未だその部屋自体に興味津々の様子だった。
「去年の今頃ね、アイツがここを教えてくれたんだ」魔法薬作りを進めながらギャレスが言う。「魔法薬作りに専念できる場所が欲しいんだけどどこか知らないかいって訊いたら、ホグワーツの隠し部屋を幾つか案内してくれた。カエルの石像に呑み込まれる事で行ける部屋とかね。で、僕はここが気に入った。なにせ図書館の中だ。欲しい資料をすぐ探しに行ける。それに出入り口が暖炉だからさ、煙突飛行ネットワークに繋いでしまえば行き来も簡単だ。今回はきみに紹介するために一旦図書館を挟んだけど、勿論直接も飛んでこられる。ここがこうなってる事を知っていればね」
向かって右手の壁にみっしりと並んだ大量の薬品棚と、材料棚。目の前にはテーブル。その上に置きっぱなしの何冊かの本は、向こうの本棚に収まっている筈の物なのだろうか。向かって左側の手前には洗い場もあり、予備なのだろう大鍋がいくつも積み上がっている。
部屋の奥にある大きなベッドには枕が2つ並んでいたが、まあウィーズリーとタグウッドなら間違いを起こす心配も無いだろうと、マルフォイは自分を無理やり納得させた。
「ベゾアール石を擂り潰しといてくれないかいマルフォイ。道具はあそこにあるから」
「はい只今」
もしかして擂り潰した方が他の材料と混和されるのが早かったりするのだろうかと考察しながら、マルフォイは無言で乳鉢と乳棒を「呼び寄せ」て、敏速にギャレスの指示に従った。
「ところでウィーズリー。その鳥はつまり……そういう事なんだな?」
「うん。これ僕の……皆まで言わなくていいよね」
「帰って来るところまでが薬の効果だったりするのか?」
「判らない。可能性はあるけど、複数のサンプルで確かめる気にはなれない」
魔法薬作りを進めながら、ギャレスは徐々にいつもの調子を取り戻していた。
「ウィーズリーお前。シーカーもやれるんじゃないか?その鳥を捕まえた時の手際を思えば。それこそ金のスニッチでも見つけたみたいだったぞ」
マルフォイが擂り潰したベゾアール石を大鍋に投入しながら言う。
「そりゃ必死にもなるってものだろう?それにあの場には女の子たちがいっぱい居たし」
「まあ、聞かせたい話ではないな……プルウェットの奴が言ってしまっている気もするが」
「それならそれでいいさ。説明するその場に居る気にはなれないってだけで」
そして暫く煮込んだ後、ギャレスは最後にその小鳥を大鍋に叩き込んだ。
「………ふぅーーー……!!!!あーーーー………ビックリした!」
できあがった鈍色の魔法薬を粗熱すら取らずにすぐ飲んで、ギャレスは大きく息を吐き出した。
「なんだ。その………災難だったな」
「ん?いや災難って程じゃないさ。アイツの薬には、僕の脳からは出てこないアイデアが詰まってるからね。さぁ、今作ったこの『陰茎戻し薬』のレシピを書き出しとこう」
やっぱり凄いなコイツはと思いながら、この自他共に認める天才と自分の差を改めて思い知らされながら。マルフォイはひとつだけ、看過しかねた点を指摘した。
「名前考え直したほうがいいんじゃないか?」
「今回の薬にアイツがつけた『ちんちん小鳥薬』より学術的な単語選びだろ?」
「まあそれはそうだが……」
薬の効果が解り易い名前であるべきだという常識と、「陰茎」などという単語がそうも人目に付くのはいかがなものかという常識が、マルフォイの中でせめぎ合っていた。
一方、まだお説教が続いているレイブンクローの談話室では。
「そうだアナタ。私が作ったこの薬を飲んでみてくれないかしら?」
「み゙ー………」
形容し難い色の魔法薬が入った、ラベルの貼られていないクリスタルの小瓶をサチャリッサから手渡されて、その女生徒は逃げ場を失くしていた。
「サっ、サっちゃん怖い………」
「もしよければ飲んでくれないかしら?」
サチャリッサのその笑顔には、有無を言わせない迫力があった。
「わかぃました………」
観念した女生徒は覚悟を決めるのにたっぷり3秒を要してから、その薬を飲み干した。
ノットとレストレンジ(及びファミリーネームしか出てこない生徒たち)
前居た某所の某スレに話を投げてた頃
「キャラの頭数が足りないけど影も形もないオリキャラ生やすのもな」と
「でも名前に言及せずに『出番の多いモブです』で通すのは最小限にしたいな」
の折衷案を考えた末「そういやいつの時代もホグワーツに居る家があるな」と
思い至った結果の奴ら。純血家系の皆様と、後の時代に居るあの子達のご先祖。
別に純血家系に限らず、先祖がホグワーツに通ってた可能性はあるよなと。
「こういう生徒もいたよねきっと」と自分で思えるのが大事なんです。
カンタンケラス・ノット
1930年代に匿名で出版された「純血一族一覧」の著者ではないかと
目されている人物。「聖28族」を選定し「間違いなく純血の家」を定めた事で
選定漏れした多くの家と、選出されたのが不服だった幾つかの家を敵に回した。
儂はどうもこやつが過激な純血至上主義者だとは思えんのじゃ。
公式設定には全くそんな事書いてないがの。
本物の純血至上主義者にしては、選定に政治的理由が見え隠れするでの。
少なくとも「ゴーント家やブラック家のような純血主義者」ではなさそうじゃ。
なので彼は私の妄想の中ではレガ主の同級生です。
レストレンジのファーストネームも決めてある、というか
あの子がレストレンジ家の誰なのかは選んでありますが、こっちはノットほど
魔法史的な重要人物ではありません。