2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「ないごて、わぃの罰則におぃが付き添わんにゃならんとか」
「エー、だってウチか弱い女の子やし?この森はアブナイしぃ?」
「どん口がそったらごつ言うとか……」
グネグネとした動きですり寄ってきたスリザリンのミス・リュウサキから、シマヅ少年は少し距離を取る。午後の最初の変身術の授業で「少々やらかして」ウィーズリー先生から「森の奥にあるユニコーンの棲息地の様子を見てくる」という罰則を言い渡されたミス・リュウサキに付き添えと仰せつかって、シマヅ少年は渋々ながら共に森を歩いているのだった。
「『様子を見てくる』て、たぶん『コレ』も。……含まれとるよな―」
「チィィィィエエエエアアアアアアア!!!!!!!!!」
木々の向こうに見えた密猟者のキャンプに、返事もせずに抜刀突撃していったシマヅ少年の声から鼓膜を守りながら、ミス・リュウサキは大いに呆れた。
「コレやから薩摩のイノシシはホンマに………」
せめて軽くでも作戦会議をしたかったミス・リュウサキはしかし、シマヅ少年のやりたいことを察して身をかがめたまま「できるだけここから移動せずに」「隠れるのに最適な」場所を探す。
「ウチ1人おってもなぁ……なんかこう、数をカバーできるような……」
ブツブツと独り言を言いながら、ミス・リュウサキは手荷物を探り始めた。
「プっロテゴ!マキシマ!!」
「デ゛パ゛ル゛ゾ゛ァ ア゜ア゜! ! ! ! ! 」
聞こえてくるその声だけで、ミス・リュウサキは戦況を全て把握できた。
「防ごうとか考えんと、避けなあかんのよね。サツマテゲテゲイノシシが突っ込んで来よったら」
轟音が響きわたり、空気がビリビリと震える。
誰ぞ密猟者がタダちゃんの声にビビり散らかして咄嗟に防御しよとして、そんで盾の呪文ごと胴体叩き割られて飛び散らはったんやろなと、ミス・リュウサキは他人事のように思い浮かべた。
「うわあ何だこのガキ!クルーシオ!!」
「キェェェェェアアアア゙!!!」
ほとんど叫ぶようにして呪文を唱える密猟者たちの声には、明らかな動揺と怖気が含まれていた。
「磔の呪文が効いてないのか?どういう保護魔法だ??!」
さっき自分が居た場所をほぼ真下に見下ろせる位置にある崖の上へと移動したミス・リュウサキは、密猟者のものであろうそんな声を薄っすらと聞き取った。
「『根性』っちゅう保護魔法やね。『磔』なん、クソ痛いだけなんやから我慢したらええって言わはるんよね薩摩のお武家さん方。我慢する練習とかしてはるらしいし……頭おかしいでホンマ」
そう独り言ちたミス・リュウサキは、ガチガチと歯を鳴らしている玉のような植物を次から次へとその場に並べ、しゃがんで杖を構えて「その時」を待つ。
「くそ、バラバラにかかるな!全員でやるぞ!呼吸を合わせろ……エクスパルソ!!」
「ステューピファイ!」
「コンフリンゴ!」
密猟者たちの怒声は激しさを増していき、シマヅ少年の声は聞こえなくなる。ミス・リュウサキは一瞬心配してしまったが、すぐに「逃げたね、追うよ!」という女の声を聞き取って安心した。
そして逃げるひとつの足音とそれを追う複数の足音が、どんどんと近づいてくる。
シマヅ少年が単に一目散に逃走してきているのではなく、可能な限り抵抗しながらジリジリと後退しているのだと、ミス・リュウサキには解っていた。
そういうフリをしているのだと。
「追い詰めたぞ!このガキ……」
「後ろは岩壁だよ。さあ、どうする?」
10人近く居る密猟者たちは勝ちを確信したのか、呪文を浴びせかけてくる事もなくニヤニヤと笑いながらシマヅ少年を取り囲んでいる。
「味方が待機している方向に逃げたのだとは、考えないのか?」
ずっと狂ったような叫び声しか上げていなかったそのアジア系のガキが急に流暢な英語で話しかけてきて、密猟者たちの警戒がほんの一瞬だけ途切れる。認識に空白が生じる。その瞬間。
「オパグノ!」
岸壁の上から降り注いだ幾つもの牙のある植物が、密猟者たちを襲った。
「噛み噛み白菜だと、どこから……!」
「レヴィオーソ!上からじゃい目ぇついとらへんのか!!」
「キ ィ エ ア ア゜! ! ! 」
ミス・リュウサキに高所から呪詛を浴びせかけられ、白菜に襲われシマヅ少年に斬りかかられて、密猟者たちは成すすべなく地面に散らばった。
鍔の穴に杖を差し込んだまま刀を鞘に収めたシマヅ少年は、ふう、と息を吐き出した。
「おぃにもでぎた!!見ちょってくぃもしたか維新斎さぁ!!」
ずっとやりたかった事ができて珍しくぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいるシマヅ少年を、ミス・リュウサキは呆れ気味に眺めていた。
「普通さぁ、ウチらぐらいの歳で『前からやりたかった事』言うたら、アレ食べてみたいーとか、あの動物が見てみたいーとかあそこ行きたいとかそういうのちゃうん?やのに『釣り野伏せ』て」
そしてミス・リュウサキは、シマヅ少年が凍りついたように立ち尽くしている事に気づいた。
「何ぃどないしたん急に―」
それを見た途端、ミス・リュウサキも凍りついた。
理解が追いつかないとはこの事だった。
どちらからともなく、2人は駆け出す。普段なら真正面から突撃しているシマヅ少年も、抜刀もせず杖を構える事もなく、一目散に逃走を開始していた。
「いやいやいやいや何やねんアレ!!!誰やあんな事したアホは!!!!」
「そげんもん、ひといしかおらん!!」
マホウトコロとの交換留学でホグワーツにやってきた2人の少年少女は、必死で走った。
「それ」は何故か、ドシンドシンと地面を揺らしながら確実に追いかけてきていた。
クィディッチの試合の直後に授業を執り行っても生徒たちは内容に集中なんかできないだろう私だってできないよ、というウィーズリー先生の鶴の一声によってたっぷりと時間を空けた午後。
その最初の授業を終えたダンブルドア少年を始めとするグリフィンドールとハッフルパフの1年生たちは、次に控えた闇の魔術に対する防衛術の授業を受けるべく、ヘブリディアン・ブラック種のドラゴンの骨格標本が天井から吊るされている教室に集まっていた。
「気になる?」
後ろに転びそうな急角度で上を見ていたハッフルパフの女の子に、ダンブルドア少年が訊いた。
「これ、なんていうドラゴンさんなんだっけ?」
「ヘブリディアンブラックだよ。イギリスに棲んでる2種類の内のひとつ。黒っぽくてヘブリディーズ諸島に棲息しているから、ヘブリディアンブラック。ヘブリディーズ諸島はわかる?」
「えっとね、上のほう!」
「そう。北が上の地図で見るとブリテン島の上の端だね―」
ダンブルドア少年は、左隣に立つその女の子の目を横から見つめている。
「―イギリスにもドラゴンが棲んでるんだよ」
マグル生まれのその女の子は、大きくてまんまるの目を今日も好奇心でより一層まんまるにして、ヘキャット先生がやって来るまでじっとその骨格標本を観察していた。
「こんにちは、グリフィンドールとハッフルパフの1年生の皆。」
「「「「こんにちはヘキャット先生」」」」
奥の部屋から現れたヘキャット先生に、1年生たちは一斉に挨拶を返す。
「さ。今日は9月の9日。あんたたちがホグワーツに入学してから1週間と2日経ったわけだ。あんたたちは私の『防衛術』以外にも色々授業を受けて、魔法について、魔法界について知っている事が増えたね。だから今日は、今。どのくらいできるのかを見せてもらう」
ヘキャット先生はそこで言葉を切って、1人ポカンとしていたグリフィンドールの男の子を見た。
「おや、どうしたんだい?ミスター・ダンブルドア」
「あ。すいません。………まだ1週間ちょっとしか経ってないのか、と思ってしまいまして」
「あんたは毎日特に色々経験してるからねぇ。……あの子の相手してくれてありがとうね」
そう言ってクスクス笑ったヘキャット先生は、自分がさっきまで居た奥の部屋に呼びかける。
「ほら出といで!ちょっとこの子たちの授業を手伝っとくれ」
ヘキャット先生に呼ばれて現れたのは、2人の7年生。
「やあ。グリフィンドールとハッフルパフの1年生の皆。……歩きなさい、このおバカ!」
「ㇵィ………」
両腕ごと胴を縄でグルグル巻きにされた女生徒と、その女生徒の襟首を掴んで連行してきたスリザリンの7年生は、その場の1年生たちの殆どが良く知っている、特に有名な先輩だった。
「今度は何したんですか先輩」
「ゃぁアㇽバㇲ……僕ねクッキー欲しかったの………」
「また盗みに入ってたんだよ。ヘキャット先生に呼ばれてるのにいつまでも来ないなと思ってたら、とっくの昔に入り込んで、目くらまし呪文で透明になって変身もして戸棚漁ってたの」
セバスチャンから予想通りの説明を聞いて、ダンブルドア少年はその先輩をじっとりと睨む。
「ゴメンネ」
「……『学習』って機能は無いんですか先輩には」
「アルモン」
そんなやり取りなど一切気にせず、ヘキャット先生は平然と説明を続ける。
「さ。今日はこの2人の7年生にちょっと手伝ってもらう。見ての通りとびきり優秀な7年生だから、みんな遠慮は要らないよ。さて、早速だが移動するよ。いい天気だし外に行こう」
そう言ったヘキャット先生の隣で、セバスチャン・サロウは足首までギッチリと縛られているその友人に杖を向け「ウィンガーディアム・レビオーサ!」と唱えた。
「僕ァㇽヶㇽョォ………」
「ダメ。好奇の視線を集めなさい」
「ミィエ………」
そして1年生たちはヘキャット先生と7年生2人の後ろに続いてホグワーツ城の外、城壁の内側の広場へとやってきた。
「あ、ウィーズリー先生こんにちは!あのね今ねヘキャット先生の授業なの!」
「はいこんにちは」
そこに大好きな先生の姿を見つけたハッフルパフの女の子は大喜びで駆け出し声をかけるが、ひとしきり喋ったあとで急に静かになり、ぼんやりとウィーズリー先生を見つめ、その周囲に居るレイブンクローとスリザリンの同級生のみんなを見つめ、数秒硬直してから首を傾げた。
「ウィーズリー先生なんで居るの?」
「漸くかお前……」
スリザリンの1年生、古い純血家系出身のブルストロード少年が呆れている。
そしてダンブルドア少年の視線は、そこに居た2人の7年生に注がれていた。
「もしかしてこの全員で『防衛術』の授業をやるんですか?フォーリー先輩、ウィーズリー先輩」
ダンブルドア少年の質問に、ギャレス・ウィーズリーが答える。
「おしい。僕は勝手に着いてきただけの見学希望者。授業手伝うのはヘクターと―」
「戻りましたウィーズリー先生」
レイブンクローの女の子と手を繋いでやってきたセバスチャン・サロウを見て、1年生たちの大半が目を丸くして驚いていた。
「ん?ああ、まだ僕の姿のままなのか―」
全身を縄で縛られたまま芝生に横たわってジタバタしている女生徒をじっと見ている、ヘキャット先生と一緒に来た方のセバスチャン・サロウに、今レイブンクローの女の子を連れてきたセバスチャン・サロウは慌てず騒がず杖を向けた。
「レベリオ!」
その「セバスチャン・サロウ」はどんどん小柄になっていき、わりとガッシリしていた体形も華奢になり柔らかな丸みを帯び顔かたちも変わり髪も変わり、数秒と経たずに、元に戻った。
「あ、やっぱりスウィーティング先輩だったんですね。今回はよろしくお願いします」
その場に居る1年生たちの中でサロウが2人居る事にも片方が偽物だった事にも全く驚いていない数少ない1人であるダンブルドア少年は、平然とポピーに挨拶した。
「あれー。私けっこう上手く変身できてたと思ったんだけど。わかってた?」
「だって喋り方が全然サロウ先輩じゃありませんでしたし、それにサロウ先輩は普段歩く時あんなぴょんぴょこしてませんよ」
ダンブルドア少年の指摘を受けて、ポピーは妙な表情になって首を傾げた。
「そっかぁ………私そんなぴょんぴょこしてる?」
「してます。雰囲気が。『いま楽しいんだな』って見ててわかりましたもん」
そうかなーなんでかなーと思案し始めたポピーを見ながら、1年生たちの多くは未だ驚いていた。
「……ねえ気づいてた?」
羊のような癖っ毛の男の子が、隣のエルファイアスにこっそりと訊く。
「いや全然。なんかサロウ喋り方変だなとは思ったけど」
ざわざわし始めた1年生たちの意識を、2人の先生が授業へと引き戻す。
「さあ。お前さんたちはこれから、この7年生のお兄さんお姉さんたちと、決闘をするんだ」
ヘキャット先生の発言で、1年生たちはより一層ざわざわし始めた。
「今から何人かずつ、順番に名前を呼ぶ。呼ばれたら前に出てくる。お前さんたち何人かがひとつのチームになって、ここに居る7年生4人、ギャレスはただの野次馬だからね。ミスター・フォーリーか、ミスター・サロウか、ミス・スウィーティングか、このおバカに相手してもらう」
「勝っ、勝てっこないよ!」
思わずそう声を上げたグリフィンドールの1年生に、ウィーズリー先生は言う。
「だから複数人でかかるのさミスター・ロングボトム。それに7年生には幾つかハンデがある」
「え゙っ聞いてませんウィーズリー先生……」
「そりゃ今思いついたんだから事前には言ってないさスウィーティング」
平然とそう言い放ったウィーズリー先生の隣で、ヘキャット先生は楽しそうに微笑んでいた。
「さ、まずミスター・ダンブルドア。そして―」
ウィーズリー先生に名前を呼ばれた1年生が緊張気味に前へと進み出る中、ヘキャット先生は地面で跳ねているその女生徒に声をかけた。
「お前さんいつまで遊んでるんだい」
「だってヘキャット先生がこれ解いてくれるまで自分で解いちゃダメなのかと思って……」
「よく判ってるじゃないか」
ヘキャット先生が杖を一振りすると、女生徒の全身を厳重に縛っていた縄はすぐ溶けて消えた。
「あ釈放されたね。お勤めご苦労さま」
ギャレスにからかわれても、その女生徒は「へへへー」と楽しそうにしている。
「―さあ。お前さんたち4人はチームだ。協力して7年生と戦うんだ。……どの7年生と勝負したいか、10秒やるから相談して決めな」
急に言われてもと思いながら自分以外の3人の意見を訊くダンブルドア少年を余所に、ウィーズリー先生は「10、9、8、7―」と容赦無くカウントダウンを始めた。
ダンブルドア少年ら4人の1年生たちは素早く話し合い、代表してダンブルドア少年が発言する。
「先輩とやります。僕1回でいいから先輩をギャフンと言わせたいんです」
「ギャフン!」
ダンブルドア少年の言葉を訊くなり大きな声でハッキリとそう言ってケラケラと笑い始めたその女生徒に、ダンブルドア少年はじっとりとした視線をぶつけて睨んだ。
「そういう事じゃないんですよ」
「判ってるよぉー?」
ものの見事に敵愾心を煽られているダンブルドアを見ながら、スリザリンのブルストロード少年は「自分がしっかりしなければ」と気合いを入れ直していた。
「さあ。じゃ、いいかい?お前さんは『無言呪文禁止』『杖なし呪文禁止』『魔法生物などに助けてもらうの禁止』だ。判ったね?ルールの穴を突こうとするのも禁止だからね?」
「判ってますよーぅ。今日僕らに何が求められてるかくらいちゃんと!」
そしてウィーズリー先生は、その試合に参加しない1年生たちをもう1歩下がらせる。
「ダンブルドアくんオリバンダーくんブルストロードくん、頑張ろうね!!」
ハッフルパフの女の子にそう声をかけられた男の子3人は、その好奇心旺盛な笑顔に照らされて「怪我をさせるわけにはいかない」と内心で固く決意するのだった。
「杖を構えて、………始め!」
「インセンディオ!!」
試合開始と同時にハッフルパフの女の子が唱えた炎の呪文が女生徒を襲うが、女生徒は吹き付けてくる炎の軌道に対して直角に逃げる事で素早く射線から脱出する。
「ステューピファイ!!」
ダンブルドア少年が唱えた失神呪文は躱された。
「すんごい眩しいねえダンブルドアくんの失神呪文」
「そも1年生が9月の時点で失神呪文を使いこなすなんて、前例があるかどうかもわかんないぞ」
ダンブルドア少年を称賛したセバスチャンとヘクターら7年生たち4人は1年生に混ざって芝生に座り、のんびりと観戦を楽しんでいる。
「フリペンド!くっそ、まずアイツの動きをどうにかして止めないと―」
ブルストロードはダンブルドア少年と共に果敢に杖を振りながら、色々と考えを巡らせていた。
「インセンディオ!!」
この4人の中では自分が一番使える呪文の種類が少ないと自覚しているハッフルパフの女の子は、しかしだからこそ、その行動には一切の迷いがなかった。
「インセンディオ!あ、よけたわ!インセンディオ!!」
「けっこう危ない奴なんだなお前………」
ひたすらに火炎を放射し続けている女の子を横目に、ブルストロードはそう呟いた。
「……芝生がめっちゃ炙られてるけど、いいの?ヘキャット先生」
「心配しなくても、このくらいいつものことだよミスター・ドージ」
「ウィンガーディ―、……レヴィオーソ!!」
ミスター・ブルストロードが唱えようとしていた浮遊呪文を中断してより平易な呪文を使用したのを見て、ヘキャット先生の片方の眉が上がった。
「ディフィンド!!」
「うおわ!!」
7年生の女生徒がブルストロードのレヴィオーソを大きく跳び退いて躱したその瞬間に、ギャリック・オリバンダー少年の切断呪文が女生徒を襲った。
しかしそれも女生徒は、ほとんど地面に張り付くようにして身を屈めて躱す。
「ステューピファイ!!フリペンド!!デパルソ!エクスペリアームス―」
ダンブルドア少年が次から次へと呪文を連射するが、それらも全て躱しながら女生徒はダンブルドア少年に飛びかかる。
そして、女生徒がダンブルドア少年の懐に潜り込んだその瞬間。
思いっきり突き飛ばされたダンブルドア少年が大きく体勢を崩しながら咄嗟に振ったその杖の動きから、オリバンダーくんとブルストロードは何を唱えようとしているのかを瞬時に察して、ハッフルパフの女の子に大慌てで跳びついて、自分たちも目を瞑りつつ女の子の両目を手で覆った。
「―ルーモス・マキシマ!!!」
「ミ゙!!!!」
皆の視界が、白一色に染まった。
「ミ゙みゃーー!!!目がぁーーー!!目ががぁーーー!!!」
7年生の女生徒は悶絶して地面を転げ回り、吹っ飛ばされたダンブルドア少年はダンブルドア少年で起き上がりながら身体の痛みに耐えている一方。観戦している他の1年生たちは、どうやらヘキャット先生かウィーズリー先生が守ってくれたらしいという事に、数秒遅れて気づいていた。
「「インセンディオ!!」」
ハッフルパフの女の子とダンブルドア少年は、まだ悶絶している女生徒に容赦なく追撃をかける。
ダンブルドア少年の杖の先から吹き出たとんでもない勢いの猛火は、噴火と見紛う程の火力をもってハッフルパフの女の子の火炎を丸ごと呑み込んで混ざり合いながら、女生徒へと迫る。
「パーティス・テンポラス!!」
しかしその炎は真っ二つに切り裂かれ、左右に別れて女生徒を避けた。
「………やっと杖を取り出しましたね、先輩」
「けっこうやるねえ。きみたち」
そして10秒にも満たない、束の間の静寂が流れた。
それを破ったのは、ダンブルドア少年の呪文。
「オブリビエイト!!」
「プロテゴ!!何すんだいアルバス!!あたま空っぽになっちゃったらどうすんのさ!」
「今はまだ空っぽじゃない、と。そう思ってらっしゃったんですね。流石です」
「なーにおぅ?!!」
冷静さを失わせる事は不可能でも、言ったら必ず言い返して来るという事を、ダンブルドア少年は8日前に自分がホグワーツに入学した時から始まったこの7年生との今までの交流から学んでいた。
「ロコモーター・モルティス!!」
「ロコモーター・ウィブリー!!」
よく似た違う呪文を同時に唱えたオリバンダー少年とブルストロードは、一瞬だけお互いを見た。
「『足縛り』と『くらげ足』って、同時に貰ったらどうなるんですかヘキャット先生?」
「今度試してみるといいよミス・スウィーティング。笑えるから」
また盾の呪文で防いだ女生徒を見ながらヘキャット先生とそんな話をしながら、ポピーはおもむろに旅行カバンを開き、その中から現れたニーズルのブラッシングを始めた。
「そのニーズルの名前は何だい?スウィーティング」
「『雄蕊』です」
「…………ガーリックかい?」
答えのわかりきった質問を投げかけながら、ヘキャット先生は天を仰いだ。
「はい。すんごくキラキラした目で提案されちゃいまして……あと、この子は雌です」
その会話が聞こえていたらしいウィーズリー先生も、天を仰いだ。
「あの子はホントに…………」
「……かわいい人ですよね。ガーリック先生って」
頑張っていい感じに言おうとしたポピーだったが、苦悩して言葉を選んだのが表情に表れていた。
「「フリペンド!!」」
「プロテゴ!!」
ダンブルドア少年とオリバンダー少年が同時に浴びせた呪詛は盾の呪文で防がれ、どういうわけか攻撃した2人の方が逆に吹っ飛ばされて体勢を崩した。
ダンブルドア少年も、ブルストロードも気づいていた。
さっきまでとは正反対にこの女生徒が、今度は杖を振って呪文を唱えるようになった代わりにその場に突っ立ったまま一切移動していない事に。
(“動き回って撹乱しつつ魔法無しの素手”と“魔法ありで棒立ち”を切り替えながら戦うつもりか)
(やーっぱり。先生たちに課されたルール以外にも自分で勝手に条件足してるなぁ先輩)
起き上がって杖を構えながら、2人は同じ結論に至った。
((僕らナメられてるな))
ちょっと眉間にシワが寄った2人を余所に、ハッフルパフの女の子にはその7年生の女生徒の行動を観察する余裕も、ましてやそこから意図を考察する余裕も全く無かった。
(えー、3人ともなんでそんな色々できるの……あたしまだ4つ、じゃない3つくらいしか……)
杖の先に明かりを灯す「ルーモス」とそれを消灯する「ノックス」は常にセットで使う呪文なので、これで「上手にできる呪文が2つある」と数えるのは違うと、その女の子は思っていた。
「インセンディオ!!」
自分だってやれるのだというところを皆に、特にポピーちゃんとウィーズリー先生に見せたい女の子は、頑張って7年生の女生徒に喰らいつく。
(やっぱり避けられちゃうな、どうしよどうしよ……)
「インセンディオ!!」
そして女の子は、自分より上手な男の子たち3人にヒントを求め、その戦い方を観察しだした。
「エクスペリアームス!!攻撃しないつもりですか先輩!エクスペリアームス!」
「デパルソ!!クソ、背中に目が付いてるのかコイツ……フリペンド!」
自分が呪詛を唱え始めるよりほんの一瞬早く、杖を向けた途端に屈んだ女生徒に攻撃を躱されたブルストロードは、なおも果敢に攻撃を続けながら毒づく。
「インセンディオ!」
ダンブルドア少年とブルストロードくん、そしてオリバンダー少年の3人は、今や一瞬視線を交わすだけで呼吸を合わせられるようになりつつあった。
(あ、そっか)女の子は気づいた。(今ダンブルドアくん、ブルくんの魔法をあのおねーちゃんが避けた瞬間に、そこに呪文飛ばしてた。そっかそっか。あれだと避けるのむずかしいんだ)
皆の動きに合わせるという事を学んだ女の子は、再び7年生の女生徒へ攻撃を始めようとする。今度は男の子たち3人がどう動いているのかもできるだけ気にしながら。
その時。
「「ステューピファイ!!」」
唐突にハッフルパフの女の子へ杖を向けた女生徒の失神呪文と、それに咄嗟に反応できたダンブルドア少年が女の子を庇える位置に飛び込みながら唱えた失神呪文がぶつかった。
二筋の赤い閃光は正面衝突し、バチバチドボドボと激しく光の粒を撒き散らしながら押し合う。
しかしその力比べはすぐに、案の定。ダンブルドア少年有利へと傾き始めた。
「わ゙ぁぁーーー強い強い強いホントに凄いねアルバスは!!えー、どうしよどうしよどうしよ」
発言内容は大慌てでも表情は楽しそうなその女生徒に未だ割と精神的余裕が残っているのは、ブルストロードにもオリバンダー少年にも察せていた。
今。畳み掛けるべきだと、2人共思った。
「「フリペンド!」」
2人の杖の先から噴出した光がダンブルドア少年と失神呪文の押し合いを続けている女生徒の身体に直撃する寸前。女生徒はもう片方の手を素早くポケットに入れ、そちらにも杖を握った。
「フリペンド!!」
同じ呪文で対抗し相殺した女生徒に、ブルストロードが再び呪詛を飛ばす。
「デパルソ!つくづく器用な奴だな……グレイシアス!!」
「ディフィンド!!」
ダンブルドア少年の強烈極まる失神呪文にギリギリどうにか対抗し続けながら、女生徒は反対の手に持った杖を正確に振るって2人が次々飛ばしてくる攻撃に対処していた。
相変わらずその場に突っ立ったまま。
そんな光景を見ていたハッフルパフの女の子は、何を思ったのか杖をローブのポケットにしまって、無防備にトコトコ歩いて女生徒に寄っていった。
「えっ、どしたの」
左右から猛烈に攻撃してくる1年生の中でも特に優秀な男の子3人に独りで対応しながら、女生徒は目の前に来た女の子を戸惑いとともに見下ろす。
そしてダンブルドア少年が失神呪文にさらなる気合いを込める中。ハッフルパフの女の子は7年生の女生徒ににっこりと笑顔を向けると、その女生徒のスカートを両手で思いっきりめくり上げた。
「にゃーーー!!!えっちょっ何するんだい!!!」
とうとう完全に余裕をなくした女生徒は大慌てでしゃがみ込み、ダンブルドア少年の失神呪文とブルストロードとオリバンダー少年の呪詛が頭上を掠めて行ったのも無視して必死でスカートを抑えにかかるが、女の子は尚もその小さな手に力を込めて、執拗にスカートをめくろうとする。
「何なになになになに!!!!!どうしたの急に!!!」
必死で逃れようとする女生徒のみならず、ブルストロードもオリバンダー少年も戸惑っていた。
しかしダンブルドア少年だけは、その女の子の意図を正しく汲み取っていた。
「レヴィオーソ。」
ダンブルドア少年の浮遊呪文によって、女生徒の身体は成すすべなく宙に浮かび上がった。
女の子はすぐに、その女生徒の真下に移動して上を見る。
「にゃーーー!!!にゃーーー!!!ちょっ、ちょっとぉ!!」
混乱の極みにあるその女生徒に、ハッフルパフの女の子はまたニッコリしてから杖を向けた。
「えっ嘘でしょ―」
「インセンディオ!!!」
とんでもない勢いの炎に飲まれた女生徒を見て、観戦していた1年生たちの何人かは「死」という単語を連想した。
「はいそこまで。4人ともよくやったね」
ヘキャット先生が平然とそう言った事で、女の子は火炎放射を止めて杖を下ろした。
「まあ大丈夫なんだろうなとは思ってましたけど、最後のどうやって防いでたんですか先輩?」
「急いで片袖だけ服脱いで炎凍結呪文。………ホントにあせった」
そうか生き物に効果が無い「レヴィオーソ」は服にかける事で間接的に人に効果を及ぼしてるんだから脱いじゃえばいいのかと、ダンブルドア少年は目から鱗が落ちた。
「きみの作戦勝ちだよ。僕の負け」
女生徒にそう言われて内心から湧き上がってきた嬉しさで飛び跳ねたくなったハッフルパフの女の子はしかし、先にやることがあるわと思い直した。
「おねーちゃんスカートめくってごめんね?」
「いいのいいの。アレ有効な攻撃だったんだから」
「あの作戦は僕らじゃ思いつかん、お前が居なきゃ勝てなかった」
寄ってきたブルストロードもそう言って女の子を労う。
「……けどお前。結構思い切った事するな」
ブルストロードのその発言は、その試合を見ていた全員の感想を代弁するものだった。
「さて、まずはダンブルドア」ヘキャット先生が口を開く。「お前さんは素晴らしい杖捌きだったよ。その歳で失神呪文を使いこなせる奴なんてまず居るもんじゃない。それに途中、この子を咄嗟に庇ったね?アレは良い判断だったし、グリフィンドールらしい気高い心がけだ。それにアレは、やろうと思ってたって実際に間に合わせるのは難しい。お前さんは素晴らしかったよ」
「ありがとうございます」
ダンブルドア少年はお礼を言いつつも、その表情は明らかに何やら反省を始めていた。
「次に、ブルストロードとオリバンダー。お前さんたちも良かった。今のお前さんたちみたいに、初めて組む奴とその場で呼吸を合わせられれば、いざって時とても役に立つ。なにせ危機ってやつは、最高の仲間と居るときだけやってくるってもんじゃあないからね。たまたま近くに居た名前も知らない相手と咄嗟にお互いの背中を守り合うって事は、わりと時々起こるもんだ。それに、ちゃんとコイツの隙を探して、タイミングを見て呪文を撃ち込んでたし、お前さんたちも1年生じゃ習わない呪文を幾つも使いこなしててたね。ご家族に教わったのかい?」
「はい、そうです」と、ブルストロードとオリバンダー少年は声を揃えた。
そしてヘキャット先生は、ハッフルパフの女の子に向き直る。
「最後にお前さんは、自分に使える呪文が少ないのを判ってて、その上でそれをどう使うかって事をちゃんと考えてたね。投げやりにもならなかったし、他の3人に任せっきりにもしなかった。それに戦う相手の事をちゃんと分析して作戦を立てたね?」
ヘキャット先生に見つめられて、他の1年生の皆にも見つめられている事に気づいて、その女の子はおずおずと自分が先程なにを考えて行動していたのかを話し始めた。
「えっとね、あのね。あたし、このおねーちゃんはよくあたしと遊んでくれるし、ホグワーツのせんぱいだから。だからあたしの事、ホントにやっつけたりはしないだろうなって思ったの。だから杖をしまってゆっくり近づけば、近寄らせてくれるんじゃないかなって。それで、自分だったら何されたら一番慌てちゃうかなって考えて、スカートめくるの止めてくれなかったらビックリしちゃうなって思ったの。それでヘキャット先生が前に『勝った瞬間が一番危ない』って言ってたから、ダンブルドアくんのレヴィオーソの後にも、あたし、もっかい攻撃したの」
ヘキャット先生はその話を最後まで聞いてから、ニッコリと笑った。
「スリザリンとグリフィンドールとレイブンクローに3点。ハッフルパフに5点だ。2点の差は行動による結果の差だよ。ミスター・ブルストロードが言った通り、この子が勝利を齎したんだから」
そしてウィーズリー先生がヘキャット先生の言葉を引き継いだ。
「でも4人とも、本当によくやった。期待以上だ。さあ、この調子でいってほしいね。次は―」
ウィーズリー先生が試合を終えた1年生4人と相手をした7年生の女生徒に戻るよう伝えようとしたその時。女生徒とダンブルドア少年が同時に気づいた。
「……なんですこの音?」
「なんか、地響きが近づいてきてるね。何だろエレクがご機嫌斜めなのかな……」
その音と地鳴りは、どんどん森のほうからどんどん近づいてきていた。
「もしかしなくてもこっち来てますよね先輩?」
「来てるねアルバス」
女生徒は再び杖を取り出し、1年生たちを守るべく音と振動がする方へとゆっくり数歩進み出た。
「大丈夫だよ皆。僕らも居るし先生たちも居てくれるから。心配しないで。落ち着いてね」
ギャレスは1年生たちにそう声をかけつつ、一応杖を取り出す。
「なんぼなんでも城の中まではついてけぇへんよな??!!!」
「わがらね!じゃっち『マグル避け』みてな防護じゃったら―」
「ホンマや!!普段は近寄りとーないだけかもしれへんな!!」
かすかに聞こえてくるその声が誰なのか、ウィーズリー先生にはすぐ判った。
「ミスター・シマヅとミス・リュウサキだね。森で何かあったんだろうかね?」
地面を揺らす轟音と共に、その2人の声もどんどんと近づいてくる。
「だいたいこんなんに!!『普段やったら』とか!!言うだけアホや!!!!」
「そげんこつ当たい前じゃっど!!」
そして轟音の原因が、皆の目にも捉えられた。
1年生たちも7年生も2人の先生も皆、あんぐりと口を開けて、ただただ呆れ果てている。
たった1人、その7年生の女生徒を除いて。
「そういやおとといそんな事したなぁ………まだそのままだったのかあ」
「あ!居っった!!!!アンタやろこれ!!!ホンマに!!何を!!考えてんねん!!!!」
シマヅ少年とミス・リュウサキは女生徒の隣を走り抜け、女生徒は杖を構える。
「アレスト・モメンタム!!」
全力疾走の最中、迫力のある前傾姿勢のまま劇的に減速してほぼ動きを止めた「それ」に、みんなの視線が集まる。みんな、開いた口が塞がらない。
「先輩ですよね。こんな事するの」
完全に無表情になっているダンブルドア少年だけが、辛うじてそう言った。
「………オウ。説明して貰おやないかぃ何やねん『これ』は。アンタやろ『これ』は」
ミス・リュウサキに詰め寄られて、その女生徒は恐る恐る言った。
「和歌を詠んでもいいですか」
「オウ聞いたろやないけ。詠んでみぃやエゲレス人」
ダンブルドア少年も、もちもちと歩いて女生徒の傍まで来て、その顔を覗き込んだ。
そして女生徒は、一度息を吸い込んでから再び口を開く。
“ トロールの 左乳首に キラキラの 指輪嵌めたら めっちゃ怒った ”
ダンブルドア少年は、その7年生の女生徒のスネを蹴った。
「このトロール片付けますけど良いですよね先輩」
無の表情のまま杖を構えたダンブルドア少年の腕に、その女生徒は縋り付く。
「マッテ……」
「なんですか」
「ミギガマダ……」
今度はミス・リュウサキが、その女生徒のスネを蹴った。
35話からここまでずっと同じ日なんだよね。ビックリ。
「できるだけ作中の日数を経過させない」は当初からの方針なんですけど
毎度「これ今何日だっけ?」って数える度に新鮮な気持ちでびっくりしてます。
シマヅくんの薩摩弁に違和感を抱かれた薩摩出身の皆様、どうかご容赦ください。
リュウサキさんの関西弁に違和感を抱かれた関西人の皆様、知らんよ我慢してくれ。
関西言うたかて広いんやからウチとアンタの出身が違うんやろ。
Q.いくらなんでもアホ過ぎない?
A.いいやレガ主はやるねこのくらい。
君らだってもしホグレガの機能に「飼育しているトロールの着せ替え」があったら
そりゃあもう好き放題したって確信を持って言えるでしょ。
チュチュ着せると実績「バカのバーナバス」が解除されるんですよね(妄言)