2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「やあダンブルドアくん。おかえり」
「先輩もすぐに戻ってきますウィーズリー先輩。まったく、何をゆっくりしてるんだか……」
旅行カバンの中から出てきたダンブルドア少年はギャレス・ウィーズリーに挨拶してから他の1年生たちの中へと分け入って行く。
普段「人だかりの向こう」を見たい場合は最前列まで行かなければ他人の背中しか見えないダンブルドア少年にとって、たとえ今のように皆が座っていても、可能ならばその観衆の最前列まで行くのは彼の中でもはや習慣となっていた。
「あ。やっと戻ってきたね」
「こんちはギャレス………」
「スッキリしたかい?」
「み゙っ?!!!」
妙な啼き声を上げて耳まで真っ赤になったその女生徒を、ギャレスは穏やかに笑いながら見つめている。1年生たちが闇の魔術に対する防衛術の授業を受けている、いつもは箒飛行の授業を受ける時に集合するホグワーツ城のすぐ外の広場で、数人の7年生が授業を手伝うのを、勝手についてきたギャレスは1年生たちの後ろから見物していたのだった。
「ななななな何の事でしょうか……?」
「だってきみ、飲んだんだろ?ヒッポグリフの繁殖に使う興奮薬を愛の妙薬に混ぜた、サチャリッサ特製の『寂しい夜の水薬』を。で、急にカバンの中に引っ込んでったんだから――」
「ソレイジョウイワナイデッ!!!」
真っ赤な顔をした女生徒はひっくり返った声でそう抗議すると、ギャレスに飛びついて両手で口を塞ぎにかかったが、ギャレスは身じろぎもせずにそれを受け止めて、真っ直ぐ女生徒を見つめた。
「………僕の、ちんちん小鳥薬は……楽しくなかった……?」
「面白かったけど、ちょっとびっくりしちゃったかな」
「ちょっとか………口から心臓跳び出てほしかったな……」
ギャレスは尚も、真っ直ぐに女生徒を見つめている。
「…………ごめんね」
「いいよ。そもそも僕は怒ってないしさ」
「ギャレスすき」
その会話が聞こえていたヘクター・フォーリーは、そういえばギャレスが怒ってるのって見たこと無いような気がするなと、燃えるような赤毛の友人の度量の大きさに改めて感心させられていた。
碌な説明も無しに飲むよう勧められた薬の効果でちんちんが小鳥になって飛んでいったら、たとえ数時間後にその小鳥が舞い戻ってきたとしても、自分だったらその薬の制作者の頬を思いっきり抓るくらいはしたくなるだろうと、ヘクターは肝を冷やしつつ想像していた。
「2人共、今からポピーが相手役するのにお喋りしてて良いのか?見逃すぞ?」
オミニスにそう声をかけられた女生徒はすぐさま振り向いて、1年生たちが注目しているのと同じ方向へ、杖を手に4人の1年生たちと向かい合っているポピーへと意識を集中させた。
「さて、ミス・スターキー。ミスター・ドージ。ミスター・クラウチ。ミスター・フルーム。準備はいいね?そしてミス・スウィーティング。動物たちの力を借りるのは禁止だよ」
そのヘキャット先生の言葉を聞いて、1年生たちの殆どは「当たり前だろ」とか「それがアリならなんでもアリだもんね」とか思っていたが、普段ポピーが決闘や戦闘に挑む際は必ずと言って良いほど不死鳥や湖畔の主やハイウイングなどなどの力を借りて一緒に戦うので、これはかなり大きな制約だと言えるのだった。しかしポピー自身はその事で気後れなどせず、堂々と構えている。
「ポピーちゃんって、強いの?こないだは動物さんと一緒だったわよね?」
ハッフルパフの1年生の女の子が隣のヘクター・フォーリーに質問を投げた。
「強いよ。だってアイツと一緒になって密猟者をやっつけたりとかしてるからね。けど、それも動物たちの力を借りてる事の方が多いから、僕も正直ポピーがどのくらいやれるのか興味あるんだ」
「ポピーちゃーん!カッコいいよー!」
1年生たちの群れの最後列から囃し立てる友人の声がポピーの耳に届いた直後、ヘキャット先生が声を張り上げるでもなく、事も無げに「じゃ、始めな」と宣告した。
「レヴィオーソ!」
「プロテゴ!」
エルファイアス・ドージが放ってきた浮遊呪文をポピーは防ぎ、その直後に羊のような癖っ毛のハッフルパフ生フルームくんが大きな声で唱えて飛ばしてきた呪文も躱した。
「ひゃー。勇ましいね!私びっくりしちゃった!」
そう言いながらも楽しそうなポピーに、スリザリンの男の子が杖を向ける。
「デパルソ!」
古い純血家系出身のスリザリン生クラウチくんが容赦なく顔めがけて放った呪詛はしかし、ポピーの盾の呪文に阻まれた。
一方、男の子たち3人が勇猛にポピーと戦うのを見ているレイブンクローのヘスパー・スターキーは「みんなすごいのね!あたしは何をしようかしら?」と、かなり悠長に作戦を練っていた。
まずヘスパーが思いついたのは、最初の試合に出ていたハッフルパフのあの子も、その次にセバくんと戦った男の子も使っていた炎の呪文「インセンディオ」だったが、もしポピーちゃんが火傷しちゃったら大変だと思ったので止めておくことにした。
「フリペンド!……んんー、防御を突破するにはどうすればいいんだろうな………」
羊のような癖っ毛のフルームくんはポピーの敏速な杖さばきを見て苦々し気な表情になった。
「サーペンソーティア!」
スリザリンのクラウチくんが杖の先から蛇を出現させた事で、観戦している他の1年生たちと7年生4人が驚きの声を上げた。
「ねえねえダンブルドアくん。ダンブルドアくんもあれできる?」
「僕は練習中だよ」
目を輝かせながら次々と質問を投げかけてくるハッフルパフの女の子に、ダンブルドア少年は丁寧に対応している。
「む。『ヴィペラ・イヴァネスカ』を唱えてくれれば隙ができると思ったんだがな」
ポピーが自身に迫ってきた蛇を普通に首根っこ掴んで捕まえ、そのまま遠くへ放り投げたのを見て、アテが外れたクラウチくんは渋い顔になった。
「エクスペリアームス!」
「うわ!」
ポピーの武装解除呪文を浴びて自分の手から飛び出して行った杖を、羊のような癖っ毛のフルームくんが慌てて拾いに走るのを見ながら、ヘスパー・スターキーは未だ作戦を練っていた。
(フリペンドは、つよーいのが心臓の位置に当たったりしたら死んじゃうこともあるってママが言ってたし、ポピーちゃんにそんなの唱えたくないわ。ディフィンドも危ないし……)
ヘスパーは「当たっても危なくない攻撃の呪文」って何かないかしらと考え続ける。
しかし、杖を構えては下ろし首を捻ってまた杖を構えてすぐ下ろす、を繰り返しているヘスパーの姿は、その試合を傍から観戦している者たちにも、そして共にポピーと戦っている3人の男の子たちの目にも、かなり奇妙に映っていた。
「ミス・スターキーはあれ、さっきからずっと何をやっているんでしょうか、ヘキャット先生」
怪訝そうな顔をしたセバスチャン・サロウが、とうとう皆の疑問を声に出した。
「あの子はけっこうのんびり屋さんだからねえ。どの呪文を使おうかって悩んでるんだろうさ」
「そんな悠長な………ポピーだからいいですけど、これが本物の危ない相手だったら……」
「ま、改善の余地はあるよね」セバスチャンとヘキャット先生の会話に、ヘスパーと同じレイブンクロー寮所属の7年生、ヘクター・フォーリーが割って入る。「けどヘスパーは優しい子だから、ポピーを怪我させたくないって思っちゃってるんだろう」
ポピーに挑んでいる1年生の男の子たち3人も「ヘスパー何やってんだろ」とは思っていた。
そしてその中でも、スターキーの奴が一体なぜ攻撃に参加してこないのか。クラウチくんは既にいつもの授業でのヘスパー・スターキーの行動から推測することで正しく理解していた。
「エクスペリアーム――」
「サーカムロータ!」
「わあ!」
ポピーが羊のような癖っ毛のフルームくんに武装解除呪文を唱えようとした瞬間、クラウチくんの旋回呪文がポピーに命中する。お前がやりたいのはこういう事だろうと、クラウチくんがスターキーに示したのだ。「サーカムロータ」は単に固定されていないものや回転し得る構造のものを回転させるだけの呪文なのだが、それとて今まさに呪文を唱えている相手に当てれば、大いに狙いを外させる事ができるのだと、クラウチくんはあの様子のおかしい7年生の戦い方から学んでいた。
「んむ?」
大きく的を逸れて観客の方へ、1年生たちの頭上を越えてその最後列へと飛んでいった失神呪文は、7年生の女生徒が着ているコートの左肩に命中して、特に何事も起こさず消えた。
「え、あれ?すごい、平気なの?」
グリフィンドールのミス・ブラウンが驚きの声を上げる。
「ドラゴン皮だからね。簡単な呪文なら弾いちゃうんだ。……どこまで防げるかは品質による」
ギャレスの発言を受けて慌ててノートを取り出し、「もう1回言ってくれるかしら!」とリクエストしているミス・ブラウンの視界の端で、クラウチくんは尚も「攻撃的ではない呪文」を戦いに応用できないかと試していた。
「ヴォラーテ・アセンデリ!」
「プロテゴ!!」
物の向きを変えたり、移動させたりする呪文は体勢を崩させ狙いを狂わせるのに使えると、クラウチくんはポピー相手に次々と呪文を放ってほとんどを防がれながら分析していた。
(特筆すべきところの無い、つまらん呪文だと思っていたが……それも使い方次第らしいな)
そしてヘスパー・スターキーは、まだ考えていた。
ポピーちゃんを怪我させたくないわ。それに切断呪文とか炎の呪文とかは上手くできなかった時が怖いし、そう考えると変身術も、あたしあんまり得意じゃないわ。あらやだ、どうしましょう。
――普段からこうやって行動する前にじっくり考えるのは、彼女の美点であり欠点だった。
「エクスペリアームス」
「ヴェーミリアス!」
ポピーがヘスパーへ向けて飛ばした武装解除呪文にエルファイアス・ドージが赤い閃光を放って対抗するが、考えるのに集中しているヘスパーはそんな事には気づいていない。
そして、みるみる呪文を押し返されたエルファイアスに羊のような癖っ毛のフルームくんとクラウチくんが同じ赤い閃光の呪文を唱えて加勢している中、ヘスパーはついに考えを纏め終えた。
ポピーちゃんが怪我しない魔法、あったわ。呪文が唱えられなくなればいいのよ!
そうと決まれば頑張りましょうと心に決めて、ヘスパーはやっとポピーの方へ杖を向けた。
(やっとかスターキーめ……あれだけ考え込んでたんだ、さぞ名案なんだろうな)
丸投げしてやろうという気分になってしまったクラウチくんは、ヘスパー・スターキーが何を始めるにせよそれに合わせて動くべく、その行動に注意を払う。
一緒に戦っている男の子たちが3人がかりでポピーの武装解除呪文に対抗しており、それでも充分押し勝てると見込んでいるらしいポピーは呪文に集中していて、特に今すぐ行動方針を急に変えるような素振りは見せない。そんな状況を、ヘスパーはじっくりと観察した。
そしてヘスパーは、まだだと思った。この呪文の押し合いが決着した瞬間が勝負だと。
三筋の赤い閃光と一筋の武装解除呪文は正面からぶつかって火花を撒き散らしながら押し合い、徐々に赤い閃光の方が押し込まれていく。どんどんと1年生の男の子たち3人の表情が険しくなり、迫ってきた呪文の閃光によってその顔が眩しく照らされる。
「スターキー、お前なにをやってる!」
我慢の限界が来たクラウチくんが遂にそう叫んでしまった瞬間、彼らの呪文はポピーの武装解除呪文に押し負け、羊のような癖っ毛のフルームくんとクラウチくんはよろめき、エルファイアス・ドージの手から杖が飛んだ。そして。
ポピーが次はクラウチくんだと杖を向けたその時、急に駆け寄ってきたヘスパーが、見違えるほどの敏速さで、ポピーが構えた杖の先に自分の杖の先を真正面から接触させた。
「プライオア・インカンタート!」
「え、うわあ!!」
接触した2人の杖の間から、厳密にはポピーの杖の先から金色の光が噴出し、それは次々と周囲に巻き散らかされて、ポピーが最近使った呪文を逆再生するように再現していく。武装解除呪文、幾度もの盾の呪文、また武装解除呪文、成長促進呪文、動物たちへのブラッシングなどなど、ひたすらに過去へと遡り続けている「杖の使用履歴」は、集中力を総動員してその呪文を維持しているヘスパーによって、途切れる事なく白日の元に晒され続けていた。
「なんだ、この呪文は――」
一瞬唖然としたクラウチくんだったが、今は大チャンスだとすぐに気づいて行動を再開した。
杖を拾ったエルファイアス・ドージも、羊のような癖っ毛のフルームくんも、再び杖を構える。
「「「ボンバーダ!!!」」」
しかしその呪文は、ポピーが杖を構えていない方の手で咄嗟に投げたなんらかに、空中で衝突し、葉やら牙やらを飛び散らせるだけに留まった。
今このまま追加で呪文を貰うのはマズいと慌て始めているポピーは、歯をガチガチ鳴らしている玉のような形状の植物を、次から次へとローブのポケットから取り出しては投擲し続けている。
「噛み噛み白菜か!」
半ば冷静さを失いつつあるエルファイアス・ドージは一心不乱に白菜へと杖を向けて手当たり次第に「ボンバーダ」で爆破して無力化しているが、ポピーの白菜の貯蓄は尽きる気配が無い。
そして羊のような癖っ毛のフルームくんも同じようにして自分と、まださっきの呪文を維持するのに全部の集中力を使っているらしく一切動く気配がないヘスパーをも守ろうと頑張っている一方。
今度はクラウチくんが考え事に集中していた。何かこの状況を打破する呪文は無いかと。
そしてクラウチくんは、10秒ほどで「答え」に辿り着いた。
「オパグノ!!」
クラウチくんの襲撃命令呪文によって、ポピーが投げまくった白菜は一斉に向きを変え、当のポピー自身へと飛びかかった。
「わぁーーー?!!!」
「そこまで!!」
ポピーが悲鳴を上げるのと同時に試合終了を宣言したヘキャット先生の気軽な杖の一振りで20個以上転がっていた白菜は全て沈静化し、ヘスパーがポピーの杖に行使した呪文も止まった。
「さてお前さんたち」どうやら今度はウィーズリー先生が講評を行うらしい。「まずミス・スターキーが使った呪文が何か、誰か答えられるかい?………1年生に訊いてるんだからね?」
ウィーズリー先生に釘を刺された7年生の女生徒は「判ってますよぅ」と頬を膨らませた。
そして今日もまた、ただ1人。ダンブルドア少年が手を挙げていた。
「言ってごらん、ミスター・ダンブルドア?」
「『直前呪文』です。相手の杖にこの呪文を使う事で、使われた側の杖によって過去に行使された呪文を、最近のものから逆順に、えー、なんと言いますか。『再現』します。再現されるのはあくまでも『杖の記憶』とでもいうべきもので、つまり……例えばインセンディオを使った記憶が杖から出てきても、それで何かを燃やせるというわけではありません」
ダンブルドア少年が解説を終えると、いつも通り何人もの生徒たちが慌ててその発言をメモし始める音がヘキャット先生の耳にまで届いてきた。
「その通り。普通は闇祓いとか内部監査局の連中とかが事件の捜査に使う呪文だ。直前呪文を杖に使った結果得られた情報はウィゼンガモットでも正式な証拠として認められる。相変わらずよく勉強してるねミスター・ダンブルドア。グリフィンドールに1点やろう」
そう付け足したヘキャット先生に、純血家系出身のスリザリン生プリンスくんが疑問を投げる。
「先生。ダンブルドアの奴が今『杖の記憶』と表現しましたが。杖に記憶なんてあるんですか?」
ヘキャット先生が、片方の眉を上げてニヤリとした。
「それに関しちゃ、質問する相手が違う。だろう?」
そして、指名されるまでもなく。レイブンクローのギャリック・オリバンダーくんが口を開いた。
「ある。全ての杖は、大なり小なり『知覚』ってやつを持ってて、それで自分の主人を判断してる。だからお前の杖も、お前が主人だって判ってるし、いま自分を所持してるのが本来の主人かどうかも判ってる。嘘だと思うなら隣の奴の杖でも借りて使ってみろ。絶対にしっくりこないから。だから、この杖の『知覚』に要らん認識をさせないために、ウチじゃ作った杖の試運転なんてしない。そんな事やるのは2流以下の杖作りだけだ……顧客との相性を見る時も軽く振らせるだけに留める。杖が『コイツが主人か』って認識しないようにな。そしてそれと同じように、杖は自分が放った魔法も覚えてる。その記憶を引っ張り出すのが直前呪文だ」
それを訊いて、今度はブルストロードくんが疑問を投げかけた。
「なあ、ちょっといいか?お前は『杖が主人を選ぶ』ってよく言うよなオリバンダー?お前らの杖は最高だから、僕もそれに疑義は挟まないが……その、誰かの杖を借りるとか、誰かに杖を貸すとか。そういうのは何と言うか、杖が『気移り』したりとかしないのか?」
オリバンダーくんは、その質問にも一切考え込んだりすること無く即答した。
「それは、一度固まった杖の忠誠ってのは、普通そうそう揺らぐもんじゃないんだ。『殺して奪った』とか『殺されて奪われた』とか。あるいは『戦いの中で奪い取られた』とかなら忠誠心は移り得るが、それでも即座にってわけじゃあない。父さんやゲボルド爺さんが言うには、これも材と芯の組み合わせにもよるらしいが……つまり中には『最初の主人にだけ忠誠を示す』だとか、逆に『その時々の持ち主にすぐ乗り換える』みたいな杖もある……けど、後者にしたってちょっと借りたくらいじゃ移らないけどな。それに杖は、今やってるのが『訓練』とか『練習』なのか、それとも本気の殺し合いなのかってのもちゃんと判ってる。だから、ちょっと試しに借りてみるくらいなら、大した問題は起きない。まあ、返してもらった直後は少々使い心地が変かもしれないが」
そう言ったオリバンダーくんが最後にポツリと呟いた「これにも例外は有るって爺さんは言うけど、流石にアレはおとぎ話だしな……」という一言が、ダンブルドア少年は何故か気になった。
そしてオリバンダーくんの解説を受けて、ブルストロードとプリンスくんがお互いに杖を交換し「ルーモス」「ノックス」と立て続けに唱え、使い心地に確かな違和感を覚えて目を丸くしている一方で、ヘキャット先生はポピーと戦った4人の1年生たちの講評をようやく始めた。
「さあ。お前さんたち……まず、ミス・スターキー」
「はい!なんですかヘキャせんせ?」
「お前さんは動き始めるまでが長すぎるね。行動する前によく考えるのは普段なら良い事だけど、戦いの場ではそうじゃあない。お前さんは『動きながら考える』って訓練をするべきだね。けど、そうやってじっくり考えた結果は素晴らしかったよ。その歳で『直前呪文』を成功させるとはね!お前さんはレイブンクローに5点を齎したよ。すぐ動き出せてれば8点くらいやれたんだが」
そう言われたヘスパーは、10秒ほどぼんやりしてから「褒められた」と理解し終えて喜び始めた。
「次にミスター・クラウチ」とヘキャット先生が声をかけた途端、ウィーズリー先生が我慢しきれずに発言を引き継いだ。
「サーペンソーティアは素晴らしかったよ!アレは本来6年生で習うものだ!だから――」
「スリザリンに5点だ。それにお前さんは、自分以外の味方の動きも見ながら的確に動けてたね。強いて良くなかった点を挙げるなら、ミス・スウィーティングの武装解除呪文とミスター・ドージの呪文が押し合ってた時かね。ああいう時は皆で押し合いに参加して加勢するよりも、誰かは別の呪文で横槍を入れるべきだ。味方の支援ってのは、敵を妨害する事でも成せるんだよ」
興奮気味のウィーズリー先生から再び発言を引き継いで、冷静なヘキャット先生が言う。
「それに、最後の『オパグノ』も素晴らしい判断だったよ。けどやっぱり、ミス・スターキーほどじゃあないとは言え、悩んでる時間が少し長かったね。これは誰しもに言える事だけど……ベストな選択をするために長々考え続けて何もできないより、あんまり良くないアイデアしか浮かばなくても今すぐ動ける方が、戦いじゃあ役に立つんだよ。覚えときな。……そういう意味じゃ、お前さんが一番良かったよミスター・ドージ。すぐ熱くなるのは直すべきだが、それはお前さんの長所でもある。お前さんは『何をしようか悩む』って事をしなかったね。だからお前さんに3点やる」
そして最後にヘキャット先生は、羊のような癖っ毛のフルームくんに向き直った。
「さて、ミスター・フルーム。お前さんが一番、考え込んでて動かないミス・スターキーを守ってあげようと頑張ってたね。だからこそクラウチとドージが積極的にスウィーティングに挑みかかって行けたんだ。お前さんにも3点あげるよ。ハッフルパフらしい優しさだ」
喜んでいる羊のような癖っ毛のフルームくんとヘスパーの一方で、クラウチくんとエルファイアスは反省すべき点が幾つも思い浮かぶのか、少々険しい表情をしていた。
そのまま授業は進み、1年生全員が7年生のお兄さんお姉さんたちに相手してもらって、終始見物だけしていたギャレスと無尽蔵の体力を持つ1人を除いた3人、ヘクターとポピーとセバスチャンが立てもしないほどヘトヘトになって、やっと授業は終了した。
「お疲れさん。お前さんたちは7年生の中でも特に優秀だからね。たぶんまた頼む事もあるよ」
「光栄です、ヘキャット、先生………」
そう言ったヘクター・フォーリーも隣のセバスチャンも、肩で息をしながらギリギリ立っている。
ポピーは地面にぺったりと座り込んでいる。
しかし、その一方で。
「ねえねえヘキャット先生決闘しましょ!」
「いいよ。かかってきな」
素早く杖を構えて向かい合い、開戦と同時に杖に「火傷呪文」を貰ってしまったその女生徒が杖を落として素手でヘキャット先生に挑むのを眺めながら、7年生4人と共にまだその場に残っている何人かの1年生たちは揃って呆れていた。
「おねーちゃん、元気ね……」
「今日一番試合してる筈なのにね。どんな体力してるんですかね先輩は」
ダンブルドア少年とハッフルパフの女の子がポピーにニーズルのブラッシングをさせてもらいながらそう言ったそのすぐ隣で、ヘスパー・スターキーはギャレスの膝の上でくうくうと眠っている。
「コイツは本当に……」
ヘスパー・スターキーのマイペースさを改めて目の当たりにしたクラウチくんが目を細めた。
「コンフリ――」
女生徒は呪文を唱えきる前にヘキャット先生の杖の一振りで体勢を崩された。
「ディフィン――」
また唱えようとした呪文を妨害される。
「エクスペリ――」
また唱えようとした呪文を妨害される。
「っ!!――」
無言で唱えようとしても、妨害される。
ヘキャット先生の正面へ後方へ右へ左へと駆け回りながらそんな事を数分続け、ひたすらに出鼻をくじかれ続けたその女生徒は、アッサリと限界を迎えた。
「むにゃーーーーーー!!!!!」
力任せに腕を振り下ろして、女生徒はヘキャット先生に落雷をお見舞いした。
「はい負け~」
女生徒が心の内でどういうルールを己に課していたのかを見透かしていたセバスチャンがそう言って嗤い、ギャレスとヘクターも楽しそうに見物している。
「にゃーー!!むわーー!!!やーーー!!!パワーーー!!!!」
何度も何度もヘキャット先生に落雷を浴びせ続けながら、もう片方の手でドラゴン皮のコートの内ポケットを探った女生徒は、立て続けに何本かの魔法薬を服用した。
着ているものも含めた全身が岩のような質感になった女生徒の周囲に雷雲が立ち込め、そこから絶え間なく発生する電撃がヘキャット先生を襲う。
「コンフリンゴ!!エクスパルソ!!グレイシアス!!ディフィンド!!フリペンド!!」
女生徒は猛烈に呪文を連射し始め、その周囲に渦巻く雷雲から放たれる稲妻とも合わさった激しい光でヘキャット先生の姿が見えなくなった。
「ステューピファイ!インペディメンタ!!レヴィオーソ、ディセンド――えいやー!!!」
そして女生徒が片手の指先に淡い水色の光を灯して勢いよく前方へ突き出すと、目も眩むような紫色の爆発がヘキャット先生が居るであろう辺りから発され、一瞬だけ全てを照らした。
「………むぅーーー……」
眩い紫色の閃光が収まり、くらんでいた皆の目が数秒して回復し始めた時。
手傷どころか裾が汚れてすらいないヘキャット先生の姿を見て、女生徒は悔しそうに唸った。
その刹那。
「サーカムロータ。」
「むぐぎゃ!!」
ヘキャット先生の呪文によって上半身と下半身をそれぞれ逆方向に旋回させられた女生徒は大きく体勢を崩して地面に倒れ、そのまま痛みに呻きながら転げ回った。
「ほぎゃーーー!腰がーーー!!!ぼっ、僕の腰が!!!」
ゴロゴロごろごろと激しく転げ回りながら叫び続けている女生徒を余所に、まだその場に残っていた何人かの1年生たちと7年生たちはヘキャット先生の周りに殺到する。
「お見事でした、ヘキャット先生」
ダンブルドア少年がヘキャット先生を讃える横で、ハッフルパフの女の子が「すごいすごい!」と大喜びしている。
「アイツが最後に使った古代魔法の爆発。アレどうやって防いだんです?」
セバスチャンがしたその質問は、ヘクターとポピーも気になった疑問だった。
「この子のあれは、私らには弾道が見えないってだけで、狙いを定めて魔法を放ってるのは普通の呪詛とおんなじだからね。ほら、そこらにまだ噛み噛み白菜の残骸が転がってるだろ?あれらを集められるだけ寄せ集めて『エンゴージオ』で嵩を増やして壁にして、同時に『デイフォディオ』で穴掘って地面に逃げたのさ。クセなのか必要な手順なのかわからないけど、この子のあの古代魔法は、唱える前に何かを溜め込むような動作を挟むからね。その間に対策ができるんだ」
「それを実際に実行できるのはものすごいですよヘキャット先生……」
「『咄嗟に的確な判断』……大いに参考にさせていただきます、ヘキャット先生」
ヘクター・フォーリーもヘキャット先生を讃え、ブルストロードが真摯な表情でそれに続いた。
「で、いつまで転がってるんですか先輩」
「だって悔しいんだもん!まぁーた全部防がれた!!!!!」
叫ぶのをやめても地面を転がるのはやめない7年生の女生徒に、ダンブルドア少年がぽてぽてと駆け寄って声をかけた。女生徒はそれに返事はしつつも、尚も右へ左へと転がり続けている。
「先輩。ヘキャット先生には、ホントに毎回手も足も出てませんよね」
ダンブルドア少年は、ちょっと面白いとでも言いたげだった。
「……………アㇽバㇲだって僕に勝てなぃくせに」
「そのうち勝ちますよ?」
ぽそりと発された挑発に、ダンブルドア少年はアッサリと乗せられた。
「じゃあ決闘するかいアルバス!」
「……いいですけど。ホントにどんな体力してるんですか先輩」
そしてダンブルドア少年とその女生徒が杖を構えて向かい合っているその向こうで、その場にいた7年生の中でただ1人だけ先ほどヘキャット先生に駆け寄っていこうとしなかったギャレスの膝の上で。ヘスパー・スターキーは尚もスヤスヤと眠り続けているのだった。
「………今日はもう授業は終わりだし、談話室まで行こうか」
ギャレスは静かにそう言うと、起こしてしまわないように気をつけながらヘスパーを抱きかかえて立ち上がり、決闘を始めた女生徒とダンブルドア少年やそれを見物しているヘキャット先生、その周囲の皆にも背を向けて、ホグワーツ城の中へと戻っていった。
羊のような癖っ毛の男の子(私の妄想の産物)
フルームくん。映画ハリポタにちらっと出てきた
アンブロシウス・フルームの祖父。
ハッフルパフの1年生。
レガ主はヘキャット先生には7年生になっても勝てないんですよね(強めの幻覚)
事ある毎に挑むけど、その度に手も足も出ないんですよ(強めの幻覚)