2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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52.お願い

「ダンブルドアくんダンブルドアくん。ちょっといい?」

 

 みんながアイスクリームと紅茶を堪能し終えて、各々宿題やら暇つぶしやらに興じ始めた早朝のグリフィンドールの談話室で。

 ハッフルパフの7年生女子ポピー・スウィーティングに声をかけられた11歳のアルバス・ダンブルドア少年は、激烈に嫌な予感がしていた。

 スウィーティング先輩が自分に向けている笑顔が、いま向こうでウィーズリー先輩に膝枕をねだっている7年生、全裸にスリザリンのローブのみという不埒な服装のまま寛いでいるその先輩が余計な事を思いついた時のそれと、重なって見えたからだ。

 

「なんですか、スウィーティング先輩」

「ダンブルドアくんのほっぺたに猛毒を塗らせてほしいんだ!」

 

 ダンブルドア少年は実に10秒もの間、拒絶も許諾も何も言葉が出てこなかった。

 

「…………あの、……その。まずですね。『猛』である必要性を教えていただけますか」

「だってそんじょそこらの毒じゃアイツびっくりしてくれないから!」

 この人も時々おかしなこと思いつくよなと、ダンブルドア少年はポピー・スウィーティングの輝くような表情を間近に見ながら思っていた。

 ダンブルドア少年が考えるに、本人たちから聞いた「5年生だったあの年の事」を抜きにしてもこの2人、ポピー・スウィーティング先輩と今あちらでウィーズリー先輩の制服をめくって脇腹に落書きしているあの困った先輩には、そりゃ仲良くなるよなとダンブルドア少年ですら思ってしまうほどの、いくつもの共通点があった。

 好奇心旺盛で、友達想いで、自分以外のために本気で怒る事ができて、そして何より2人とも、自分の中に灯った「たのしそう」という炎の熱に逆らえない。逆らわない。

 普段「あの困った先輩」を叱る側である事が多いように思えるスウィーティング先輩が、実は同じくらい「叱られる側」になる機会も多いという事を、ダンブルドア少年は既に学んでいた。

 

「……ていうかスウィーティング先輩。びっくりさせたいなら、あの先輩に聞かれてる今ここで、僕に話しちゃあ、ダメだったんじゃないんですか? …………先輩聞いてましたよね?」

「バッチリ聞いてたよ!」

 嬉しそうに返答した女生徒と笑顔で手を振りあいながら、ポピー・スウィーティングは平然とダンブルドア少年の疑問に答える。

「大丈夫よ。だってアイツこういう事はすぐ忘れちゃうもの。忘れてくれるよね?」

「うん! もう忘れたよポピーちゃん!」

 この2人はどこまで本気なんだろうかと、ダンブルドア少年はウィーズリー先輩辺りがそろそろ助けてくれないかなと期待しながら、いつも抱く疑問を今日もまた抱いていた。

 

 しかし当のウィーズリー先輩は、女子の寝室に繋がる階段から眠そうな目をして下りてきた数人の女の子たちの相談に乗って、宿題なのだと思われる羊皮紙の束に目を通し始めた。

 スリザリンのローブのみを着ている7年生の女生徒がスルリとワタリガラスに姿を変えてギャレスの頭の上に飛び移った事で空いたギャレスの膝の上に、今度は眠そうな目をした女の子が座る。

「どこがわかんないんだい?」

「このね、ここに書いてある材料のね。使い道を書くの。どういう薬に使うのか。でも私たち3つしか判らなかったの。だからギャレスに助けてもらいに来たの」

 それを聞いて、ギャレスはニッコリと笑った。

「きみは、答えを教えてほしいのかい? それともヒントがほしいのかい?」

「私たちが考えるとこ、見ててほしいの。ギャレスが見ててくれたら頑張れるって思うの」

 

 このブラウンさんたち1年生の女子3人が、ギャレスに「答えを教えてほしい」と言ったらギャレスは助けてくれないという事を、実は理解しているのではないかとリアンダーは疑っていた。つまり今の彼女らのお願いは「よきところでヒントや解説がほしい」という意味で、あの子たちは健気で殊勝なのではなく計算高く狡猾なのではなかろうかと。

 

「ねえダンブルドアくんほっぺに猛毒塗っていい?」

 

 そういえばそんな話だったなと、ダンブルドア少年は意識を目の前の7年生に戻した。

「…………いいですけど、先輩以外に影響が出ないようにしてくださいね」

「…………あ、そっか……」

 そう言われて漸く、ポピーは自分の考えの危険性を認識した。

 そしてポピーもまた、そのグリフィンドール生に助けを求める。

 

「ギャレスぅー……」

「なんだいポピー?」

 

 話はちゃんと聞こえていたギャレスだったが、それでも問い直した。

 一方でダンブルドア少年もギャレスの傍に寄ってきたが、その目的はポピーとは違った。

「あ、ダンブルドアくん」

「どこがわかんないのブラウンさん」

 ギャレスの膝の上で問題用紙とにらめっこしているグリフィンドールの1年生の女の子たち3人は、ダンブルドア少年にそう訊かれて、束の間お互いの目を見つめた。

「答えは教えないでね? 答えだけ教えてもらったことは全然覚えられないんだって、ギャレス言ってたから。だからダンブルドアくんもね、私たちが考えるとこ、見ててね」

 

 それを聞いて内心でその女の子たちに謝罪しているリアンダーは、少し面白く思ってもいた。

(見ててほしいのは、見ててほしいんだね)

 見ていながらヒントも出さず解説も一切しないなんてギャレスにもダンブルドアくんにも不可能だろうに、それをわかっているのかいキミたちと、リアンダーはその女の子たちに内心で問うた。

 

 そしてワタリガラスが、ギャレスの頭の上からリアンダーの膝の上に飛んできた。

 

「ふぉう!」

 

 妙な掛け声とともにワタリガラスは7年生の女生徒に戻って、そのままリアンダーの膝の上に寝転がった。

「いいかげんローブ以外も着なきゃダメだろ」

「やだー。涼しいもーん」

 

 リアンダーは、自分の膝の上に寝っ転がっている女生徒が手も足も思いきり突っ張って「伸び」をした瞬間に、その女生徒が唯一着用しているスリザリンのローブの、裾を一気にめくった。

 

「にゃあああーーーー!!! 何すんのさリアンダーのエッチ!!!」

 飛び起きて抗議した女生徒に、リアンダーは平然と言う。

「服を着ろ。このバカ」

「ちぇー、涼しいのにー」

 そう言って談話室の奥の階段から女子寝室へと引っ込んでいったその女生徒と入れ替わりに、サチャリッサ・タグウッドとナツァイ・オナイが談話室に降りてきた。

「あ、ナッちゃんかわいい!」

 女生徒がすれ違いざまにそう言い残していった事で、ナツァイは談話室中の注目を集めた。

 

「ねえそれもしかしてワガドゥーの制服?」

「んーん。これは私の私服。だけど組み合わせを選んだのはサチャリッサ」

「私はアナタの裸が見たいわナティ」

「これ着る時に見たでしょサチャリッサ………」

 

 黃と赤、それぞれの寮の色をした極彩色の布を纏い、イヤリングやらネックレスやら幾つもの装飾品をつけたその2人は、くだらない話をしながらでも、そうしようと努力せずとも、ただそこに立っているだけで皆の視線を惹きつける事ができた。

 ギャレスの膝の上にぎゅうぎゅうに集まって宿題をしていた1年生の女の子たちも、目を輝かせて立ち上がりサチャリッサとナツァイの傍に寄ってきた。

 

「ナティきれいね!」

「かわいい!!」 

 

 しかし寄ってきた女の子たちの1人が、何故かじっとりと女子寝室へ繋がる階段を睨んでいる。

「あら、どうしたのブラウン」と、サチャリッサが訊ねても、その女の子は相変わらず女子寝室へと繋がる階段を、正確には先程そこを登っていった7年生の女生徒を、睨みつけていた。

「なんであのおねーちゃん、ナティの事だけしか褒めなかったのかなって、思っちゃったの。だってだってサチャリッサも今すっごくキレイなのに!」

 それを聞いたサチャリッサは、その女の子を見下ろして、ニッコリと笑った。

 

「ありがとうブラウン。でも、私がキレイなのはいつもの事で、女ってのは誰かにキレイだねって言ってもらわなきゃキレイで居られないわけじゃないわ。――アナタだってそうでしょナティ?」

 

「ㇸえ???」

  

 私だって私だってと友人たちに対抗意識を燃やして普段から努力してはいるものの、だからといってサチャリッサのように「私はいつもキレイよ」などと言い切れるほどの自信は無いナツァイ・オナイは急に話を振られて動転し、マトモな答えを何も返せなかった。

 しかしそのナツァイの狼狽えぶりこそまさに、サチャリッサが期待した「返答」だった。

「『褒められ慣れてない』って結構強力な武器だと思うのよね。私の手にはもう無い武器だけど」

 そう言われてサチャリッサを睨んだら微笑みを返されて恥ずかしくなって視線を逸らし、しかしすぐ再びサチャリッサを睨んだナツァイの挙動不審っぷりは、皆に見られていた。

 

「ほらダンブルドアくん。まずこれ飲んで」

 そしてそんな事は一切気にせず、ギャレスはポピーからの要請に淡々と応じていた。

「なんですこれ」

「今からきみのほっぺに塗る薬が、効かなくなる薬。ほらポピーも飲んで」

 そのやたら粘性の高い、グラスをひっくり返しても落ちてこないのではないかと思うほどモッタリと固くはたしてこれは液体と言えるのかと思ってしまうその灰色の薬を、ダンブルドア少年とポピーはギャレスに勧められるがままに渋々、飲み下した、というよりは食べた。

「そういえばダンブルドアくんさ」

 妙な味だったけど別に何かが変わった気はしないな、と思っているダンブルドア少年の頬に何やら液体を塗ったくりながら、ギャレスは全然別の話題を投げかけた。

 

「ホグワーツに入学する前に、アイツに会ってたんだって?」

「はい…………先輩が言うには、そうらしいです。けど僕、全然気づいてませんでした」

「アイツは毎年、って言ってもまだ2回目だけど――『今度の1年生』を、見に行ってるんだよね」

 ギャレスがそう言うと、ダンブルドア少年はひとつ、そういえば言ってなかったなと思い浮かべた事を、その燃えるような赤毛のグリフィンドールの7年生に語り始めた。

 

「そう言えば僕、あのハッフルパフの女の子とも、入学より先に会ってるんです」

 

 ハッフルパフの談話室でもその時ちょうど、当の1年生と4年生の姉妹がその話をしていた。

「ハービヴィカス!………むー……」

 まだ何も植わっていないように見える鉢に向けた自分の杖の先からハラハラと舞い落ちる数枚の枯れ葉を、妹を膝に乗っけた4年生の女子生徒が苦々しげに目で追っている。

「ねえねえお姉ちゃんそれなんの呪文?」

「この鉢植えが一気に育つはずなの…………ハービヴィカス! あ、ごめんなさい!!」 

 杖の先から現れた大量の稲藁を向かいのソファに座っていたアデレード・オークスの顔面に勢い良く吹き付けてしまった4年生の女子生徒は慌てて謝罪したが、アデレードは口の中に入った藁を吐き出しつつも至極あっさりとその謝罪を受け入れて笑った。

 

「難しいわよね、変身術」

「ごめんなさいオークス先輩……」

 

 まだアデレードの髪や服にくっついている幾つもの藁くずを手で払い落としながら改めてそう謝罪した4年生の女子生徒に、アデレードは言う。

「いいのいいの気にしなくて。だってここはホグワーツ。いつもの事だし、お互い様なんだから。ところで…………アナタどうしてそんなに嬉しそうなの?」

 アデレードがそう訊いた相手、姉の膝の上で目を輝かせているハッフルパフの1年生の女の子は、ぐりんとアデレードの方を向いてその問いに答えた。

「あのね、えっとね、私が杖を買った時にね。杖のお店のおじさんが見せてくれた魔法の中にこれも確かあったって、私いま気づいたの。おじさん色々やって見せてくれたのよ!」

 なんの言及も無くとも、「杖のお店」の「おじさん」と言われてイギリスの魔法族が思い浮かべるのは1人だけだった。

 

「オリバンダーさんが?」

 

 そういえばそんなお名前だったかしら、と言った妹の頭を反対の手で撫でながら、4年生の女子生徒は尚も「ハービヴィカス」を練習し続けつつ、2週間ほど前の「その日」を思い出していた。

 

「お姉ちゃん早く早く! 早く降りてきて! あのおばさんもう来てるのよ!」

「おばさんじゃなくて『ウィーズリー先生』。あなたの先生でもあるんだからね」

 

 その日は女の子が、そしてその女の子の姉と両親が、待ちに待った日々がこれから始まる、その最初の1日だった。

 大好きなお姉ちゃんと同じ学校に通えると信じていたのに、そのお姉ちゃんが「魔法使い」だとある日いきなり家にやってきた知らないおばさんに言われてそのまま知らない学校に連れて行かれてしまってから3年。お姉ちゃんが別の学校に行くだけならまだしも自分とは違う遠い遠い世界に行ってしまったと感じていたその女の子は、つい1週間前までずっと塞ぎ込んでいた。

 イースターやクリスマスや夏季休暇で姉が家に帰ってくると、ずっと後を追いかけていた。

 

 もうすぐクリスマス休暇が終わるからお姉ちゃんがまた居なくなってしまうとメソメソしていた女の子と、どうやって慰めたものかと困り果てていた姉と両親のところに、その変な手品ができる知らないおばさんは、再び現れた。

 

 女の子の入学許可証を持って。

 

 来週あなたの学用品をあなたのお姉さんの追加の学用品と一緒に買いに行きますよと告げられて、あれがその証拠ですよと寝室の時計の針がいつの間にかうじゃうじゃと枝分かれして蠢いているのを見せられて、あれはあなたがやったんですよと教えられて。

 女の子の目は3年ぶりに、元の輝きを取り戻した。

「私もその変な手品できるようになるの?!!!」

「ええ。きちんと授業に取り組めば、貴女にもこの変な手品ができるようになります」

 テーブルの上のティーセットに手足が生えてコサックダンスを踊る様を女の子は夢中で見つめ、そんな女の子の笑顔を見て、姉は両親と共に妹を抱きしめて泣いたのだった。

 

 そしていよいよこの日、女の子は姉と両親の後に続いて、魔法界に足を踏み入れた。

「ここお酒のむお店よね? お酒のむの?」

 女の子の問いにウィーズリー先生は笑顔で答える。

「もちろんそうする事もあります。ここのお酒は美味しいですからね。けれど今日は特別な用事でここを『通らせてもらう』のです。……あなたは『魔法使いだけの秘密』を、守れますか?」

「…………それってパパとママにも言っちゃだめ?」

「あなたのお父様とお母様は『魔法使いだけの秘密』を、知っていてもいいという事になっています。なぜならば、魔法使いであるあなたとあなたのお姉さんの親だからです。しかし例えばあなたの『いとこ』や『仲の良い近所のお友達』、それに『隣の家のおばあさん』などに対しては、秘密を秘密のままにしなければいけません。……約束できますか?」

 厳密にはこの家族の「隣の家のおばあさん」はウィーズリー家の親戚でウィゼンガモット首席魔法戦士なのだが、それはまた別の話だった。

 

「………あたし言わないわ。たまにキッチンの隅っこに居るネズミさんにも秘密にする」

 それを聞いた女の子のママの顔が少し引きつったが、ウィーズリー先生は微笑んでいた。

「それじゃあ、私の隣に立って、この壁をよく見ていてね」

 

 妹が3秒後にどうなるかを鋭敏に察したお姉ちゃんが、女の子の手を握った直後。

 

「わああああーーーー!!!! すごいすごいすごい!!」

 変な手品のおばさんがレンガの壁をあちこち叩くと、その壁がカタコトと音を立てながら引っ込んでいって開けた通路の向こうに商店街が広がっているのを見て、女の子は飛び跳ねて喜んだ。

 案の定駆け出そうとした妹を、姉は抱きしめて制止した。

「あなたどのお店に入るのかわかってるの?」

「お店に入っていいの???!!!」

 そりゃ買い物に来たんだからお店には入るわよと言いながら、その姉は嬉しそうに笑っていた。

 

「さて、この『ダイアゴン横丁』でマグルの、つまり魔法使いでない皆さんが使っていらっしゃるお金が使える店はひとつだけです。ですからまずそこに行きます。グリンゴッツに。両替をしに」

 ウィーズリー先生が言ったそれは、そのほうがこの子が喜ぶだろうという、両親の判断だった。

 

「ところでウィーズリー先生、この子の成績や、普段の様子などもお伺いしたいんですが。フクロウが届けてくれる成績表には、段階分けされた値しか書かれていないので………」

 

 グリンゴッツの正面入口を通過した直後にそう言った父親から、今年から4年生になるその女子生徒は思わず視線を逸らした。

「私が受け持っている『変身術』に関しては、いつも根気強く頑張っていますよ。昨年度の話をするならそうですね、例えば私のこの帽子を――硬化呪文は覚えてるね?」

「えっあのホグワーツの外で魔法使っちゃいけない……」

「私が許可するからいいんだよ。ほらやってみてごらん。できるだろう?」

 パパとママと妹に見つめられながら杖を取り出したその女子生徒は、ウィーズリー先生が脱いで差し出してきたとんがり帽子に意識を集中させた。

 

「デューロ!」

 

 呪文が唱えられた直後、ウィーズリー先生は自分の帽子から手を離した。

 ゴトン! と布からするはずがない音を立てて床に落ちた帽子の端が割れたのを見て、女の子は元からまんまるの目をより一層まんまるにして驚いていた。

「このとおり。あなたがたの娘さんは優秀で勤勉な魔女ですよ」 

 そう言いながら帽子を拾って割れた端っこをさらりと直し元の柔らかい布に戻して被り直したウィーズリー先生を余所に、今年から1年生になる女の子は姉に抱きついていた。

「お姉ちゃんすごーい!! 私もそれできるようになるの??」

「『硬化呪文』は3年生で習うわよ。だからあなたは再来年ね」

 妹から尊敬の眼差しを向けられて、そのお姉ちゃんは少し恥ずかしそうだった。

 

「本日はどういった御用で?」

 

 石造りのカウンターの向こうからそう声をかけてきた「銀行員」を見てまた目を輝かせた妹をお姉ちゃんは制止しようとしたが、今度は間に合わなかった。

「はいはい!! おじさんはなあに? なんていうおじさんですか!」

「んー? ああお前さんマグル生まれか。俺ぁゴブリンだよ。………両替か?」

「そうです。ポンドをガリオンに………これだけお願いします」

「ゴブリンさん!! ゴブリンさんなのね! かわいい!!」

 向こうで何やら作業をしている数人のゴブリンが不快そうに眉間にシワを寄せたのがお姉ちゃんには確かに見えたが、幸い目の前のゴブリンは「ありがとよ」と言って微笑んでくれた。

 そして父親があらかじめ用意していたらしいいくらかの紙幣をカウンターに出したのを見つつも、そのお姉ちゃんはまだ妹が心配だった。

 今にもどこかに駆け出して行ってしまいそうな、嬉しさに満ち満ちた目をしていたから。

 

「勝手にどっか行っちゃダメよ」

「ねえねえお姉ちゃんアレはどうなってるの?」

「どれ? ああ張り紙ね? 文字に魔法がかけられてるから動くのよ」

 

 その後も質問が止まらない妹の手を引いて、両親とウィーズリー先生の後に続いてグリンゴッツを出たお姉ちゃんは、より一層妹の手を強く握らなければならなくなった。

 まずはオリバンダーの店に行きましょうとウィーズリー先生が言ったから。

 

「なんのおみせ?」

「杖を買うんだよ」

 

 パパにそう説明されて、女の子はまたしても姉に抱きついた。

「わたしも魔法の杖が持てるの? お姉ちゃんとおんなじやつ?!!」

「厳密には『おんなじ』ではないけれど。概ねその理解で正しいと言えるね。……さあここだよ」

 ウィーズリー先生に促されて姉妹が店の中に入ると、そこには先客が居た。

 

「おや。ごきげんようケンドラ。元気そうでよかった」

「お久しぶりです、ウィーズリー先生。……そちらは?」

「こっちの、この子が今年からホグワーツに入学するんだよ。そしてこちらのご家族はご両親どちらも魔法使いでないから、私がダイアゴン横丁を案内してるところだよ」

 そう説明されたその魔女は、目の前の若い夫婦に丁寧に挨拶した。

 

「私はケンドラ・ダンブルドアです。こちらは息子のアルバスと、アバーフォース。そして娘のアリアナです。………アルバスが今年からホグワーツに入学するんです」

 それってつまり同級生なのねと理解して、女の子はその男の子に果敢に話しかけに行った。

 

「あなたのほっぺはもしかして魔法でまんまるなの?」

「そうよ!お兄ちゃんのほっぺは魔法でまんまるなの!」

「違うよアリアナ……」

 

 妹の発言はたとえどんな内容でも強く否定できない11歳のアルバス・ダンブルドアは、どうやら自分の頬が魔法でまんまるなのだと信じてしまったらしい目の前のふわふわしたブロンドヘアの女の子が輝くような笑顔を自分に向けているのを、見つめ返す事しかできなかった。

「あたしよりちっちゃい………ほっぺまんまる………おててもまんまる……かわいい……」

 女の子がそう言うのを聞いてアバーフォースが愉快そうに笑いを堪えているのを苦々しく思いながら、それでも11歳のアルバス・ダンブルドアは「ありがとう。よろしくね」と挨拶した。

 

「そういえば、アンタのとこの子も今年からホグワーツだねジェルベーズ」

「そうですウィーズリー先生。今は奥で芯の材料を見てます」

「ねえねえジェルおじこれもどう?あ、ウィーズリー先生!その子たち新入生?」

 

 店の奥から顔を覗かせたそのシルバーブロンドの青年は、何やら滑らかな布でくるまれた何かを店主らしき男性に手渡した。

「…………いただこう。こんなもの欲しくなった時に手に入れられる種類の芯材じゃない。今あるなら今買わなきゃ、次見るのなんていつになるやら………ホーンド・サーペントの角の欠片にサンダーバードの尾羽根なんて。それにさっきのケルピーの毛やユニコーンの尾の毛も全部もらうよ」

「ありがとジェルおじ!お代は後で店に送ってね」

「こちらこそいつもありがとう。きみと取引するようになってから、使いたい芯材が常に入手できるようになってとても助かっているよ。品質も、種類の豊富さも。他とは比較にならない…………さておまたせしたね。どの子が杖を必要としているんだい?」

 取引している業者の人間らしいその青年との会話を終えて、店主の男性はやっと2組9人のお客様に向き直った。

 姉妹らしき女の子2人の、大きい方の子は3年前に杖を売った子だから違う、妹なんだろう子はたぶんそうだろうけど確信が持てない、そしてもう一家族の方の女の子と小さい男の子はどう見てもまだホグワーツに入学する年齢ではない、つまりお兄ちゃんのほうかなと考えて、ジェルベーズ・オリバンダーはその男の子に――8歳のアバーフォース・ダンブルドアに声をかけた。

 

「――きみかい?」

「僕は違います。僕が11歳になるのは3年後で、こっちの世界一小さいのが今11歳の僕の兄です」

「おやそれは失敬」

「アブいま僕のこと世界一小さいって言った??」

 

 初対面の相手からアバーフォースの弟だと思われるのは、11歳のアルバス・ダンブルドア少年にとっては毎度おなじみの、いちいち憤っていてはキリがない、いつもの事だった。

 そしてアバーフォースに体格をからかわれるのは、正直なところ別に嫌ではなかった。

「ヒトが肉眼で見られるギリギリのサイズだろ兄さんは。6等星だ6等星」

「それ明るさだろアブ」

「なんだ自分はもっと輝いてるって言いたいのか。さすがだな兄さんは」

「そういうつもりで言ったんじゃないよ…………」

 この頃のアルバス・ダンブルドア少年は、弟のアブが色々言ってくるのは愛情の裏返しだと理解していたので嫌ではなかったが、それはそれとして傷つきはするのだった。

 そして今日もまたアルバスがアバーフォースに泣かされそうなのを鋭敏に察した母ケンドラが止めに入るより先に、ウィーズリー先生がオリバンダーさんに声をかけて、話を先に進めた。 

 

「この子もだよジェルベーズ」

 

 ウィーズリー先生に背中を押されて、アルバス・ダンブルドア少年と好奇心に目を輝かせている女の子が一歩前に歩み出る。

「こんにちは。僕はジェルベーズ・オリバンダー。父からこの店を任されてる。さあ、まずはきみからだ…………きみに合う杖をきっと見つけてみせるよ。……とりあえずこれ持ってみて。鬼胡桃とニーズルのヒゲ。11インチ……28センチ弱って言ったほうがわかり易いかい?」

 

 手渡された杖をダンブルドア少年は受け取って、試しに振ってみた。

 

「あー、合わなかったみたいだね。別のにしようか」

 杖の先から嫌な臭いの黒煙が大量に立ち昇り始めたのを見てそう言ったオリバンダーおじさんはダンブルドア少年の手から杖を取り上げ、棚から別の杖が入った細長い箱を取り出し、中身をまたダンブルドア少年に渡した。

「次はこれを試してみようね。リンボクとドラゴンの心臓の琴線。9と1/2インチ」

 全体が深緑色をした反りのあるその杖を手に取ったアルバス・ダンブルドア少年が試しに振ってみようとした瞬間、その杖はアルバス・ダンブルドア少年の手から飛び出し、色とりどりの火花を撒き散らしながら店中を飛び回った。

「わあーーー!! すごいすごい!」

 妹のアリアナと一緒になって大喜びしている同級生だという女の子を横目に、アルバス・ダンブルドア少年は大慌てでオリバンダーさんに頭を下げた。

「あっあっあの、すいません!」

「きみがやったんじゃないよ。杖がやったのさ。この杖はきみに使われたくなかったみたいだね。けど大丈夫。……………次はどれにしようか……」

 

 そして11歳のアルバス・ダンブルドアは、それまでジェルベーズ・オリバンダーが、どの顧客からも聞いたことがなかった言葉を発した。

 

「あの、僕、それだと思います。そのひとつ上の棚の、下から2番めの左から4つめ。それです」

 

 なぜその言葉に自分が異論を唱えなかったのかは今でもわからないと、ジェルベーズ・オリバンダーは晩年になってから息子のギャリック・オリバンダーに語っている。

 ウィーズリー先生とケンドラ・ダンブルドア、そして店頭でのやりとりに店の奥から聞き耳を立てていた出入り業者の青年が目を丸くしている中、ジェルベーズ・オリバンダーは言われた通りにその杖を棚から取り出して箱を開け、その5歳くらいにしか見えない小さな男の子に手渡した。

 

 この男の子が持つべき杖は絶対にこれだと、娘たちを連れてきたマグルの夫婦にすらわかった。

 

 薄暗かった店内が正午のカフェテラスのように明るく暖かくなり、そこに居た全員が、どころかダイアゴン横丁全域とそのすぐ隣のノクターン横丁の後ろめたい者たちまでもが、気分の高揚と体調の改善を実感していた。

 酒場の飲んだくれ共は気持ち悪さと頭痛が酔いもろとも綺麗さっぱり消えた事に気づき、宿屋を兼ねる老舗レストランの「ブリュー&シチュー」でシーフード料理を食べすぎていたオミニス・ゴーントとセバスチャン・サロウはお腹が軽くなったのを不思議がり、その2人と同じテーブルを囲んでいるソロモン・サロウとアン・サロウはさっきまで薄汚かったカウンター席の小男が見違えるほど身ぎれいになっているのに気づいた。

 グリンゴッツのゴブリンたちだけは疲れ目が治った事など気にせずに仕事を続けたが、それでもその日だけ仕事がやたら捗ったのを、終業後に皆で不思議がったのだった。

 

「橅と不死鳥の尾羽根。13インチ…………おめでとう。それはきみのものだ」

 

 ジェルベーズ・オリバンダーは脳を覆い尽くす恍惚感を追い出そうと努力しながら確信を持ってアルバス・ダンブルドア少年にそう言った。

「さあ。次はきみの番だよお嬢さん」

 オリバンダーおじさんにそう言われた女の子は、ぽやーっとしていて初め声をかけられている事に気づかず、姉に3回呼びかけられてやっと意識が目の前に戻ってきたのだった。

 

「わたしの杖を選ぶのね!!」

「ちょっと違うけど、そうだよ。まずは…………これにしようか。これを持って、軽く振ってみてね。月桂樹とドラゴンの心臓の琴線。9と1/2インチ。これは特に振りやすいよ」

 

 勧められるがままに女の子が嬉しそうにその杖を振ると、バーン!! と大きな破裂音が響き、オリバンダーおじさんと向かい合って立つ皆の背後で窓と玄関扉のガラスが全部砕け散った。

「あたしこれがいい!!!!! あたしこれにする!!」

 枠もろとも粉砕された窓をウィーズリー先生が直してくれているのを見ながら、ジェルベーズ・オリバンダーはマグル生まれでないお客様にも何度もした説明を、今日もまた丁寧に述べる。

 

「それはダメだよ。その杖をきみに売る事はできない。ああそんな顔しないで。いいかい? きみが杖を選ぶんじゃないんだ。僕がきみの杖を選ぶんでもない。いいかい? きみと同じ勘違いをしている魔法使いはとても多いけれど、……魔法使いが杖を選ぶんじゃないんだ。杖が、魔法使いを選ぶんだ。ここの棚に、いっぱい箱が並んでるだろう? これは全部魔法の杖だ。僕が作ったものもあるし、僕の父が作ったものもある。祖父が作ったものもまだ幾つか残ってるし、もっと前から売れてないものもある。これらは全部、いつか来る『自分にふさわしい魔法使い』を待ってる。わかるかい? つまりこの中のどれかが、きみを待ってるんだ。だからきみに売れるのはその1本だけで、それは他の誰が使うより、きみが使ってこそ最高の力を発揮する杖なんだよ。…………だからその杖を、僕に返してくれるかい? ありがとね。ほら、次はこれを振ってみて」

 

 やんわりと遠回しに勧めるよりハッキリ説明したほうがいい、という息子ギャリックが3歳の時から主張し始めた強気な意見を何度かの家族会議の末に一昨年から一族全体の方針としたジェルベーズ・オリバンダーは、ひとつ確信している事があった。

「ねえねえ、おじさんの子もあたしと同級生なの?」

「そうだよ。けれど今きみに会わせてはあげられない……あの子は仕事中だから」

 それを聞いて、ケンドラ・ダンブルドアが驚きの声を上げる。

「もしかして、あなたの息子さんは、もう杖を作っているのですか?」

 そう訊かれた途端、ジェルベーズ・オリバンダーの目が、誇り高く輝いた。

 

「ええ。親馬鹿だと思われてもかまわない。だって事実は事実だから…………あの子は天才です。僕だって自分の足で歩けるようになるより早く杖の材料を弄り始めたらしいけど、それでも僕の名前も父さんの名前も、あの子の前じゃあ霞むでしょう。ウチの息子は、ギャリックは史上最高の杖作りになります。『オリバンダー』とは、あの子の事です」

 

 店の奥で楡の材を削りながら「やめてよ父さん……」と恥ずかしそうに呟いた11歳のギャリック・オリバンダー少年の背中を、出入り業者の青年がニヤニヤしながら見つめていた。

 

 そして女の子はまた杖を振り、今度はさっきと反対に杖がうんともすんとも言わなかったので「ちがった」のだと理解しておじさんに返した。

「おや、それでもないか。じゃあ次は……これにしようか。これを振ってみて」

 渡された杖は、陽が当たれば黄金と表現することもできるだろうと思えるほどに明るく暖かな色合いで、女の子は不思議なほど手に馴染むのを感じた。

 あたかも生まれたときからずっと使い続けていたかのように。

 それこそまるで魔法のように。

 

 嬉しくなってしまった女の子は、思い切りその杖を振った。

 

 しかし何も起きなかったと思った女の子は、拍子抜けして思わず姉の方に振り向く。

「あーーー!! すごいすごい!」

 パパとママが髪から足先まで全身虹色に光り輝いているのを見て、女の子は大喜びした。

 ウィーズリー先生が杖を振ろうとしたが、その男性は拒否する。

「いえ、買い物が終わるまでこのままでお願いします。僕らはこのままがいいです」

「パパ光ってる!! ママも光ってる!!」

 ぴょんぴょこ飛び跳ねている下の娘を見て、お互いを見て。その夫婦は嬉しそうに笑っていた。

(えっ私こんな状態のパパとママと一緒に外を歩くの???)

 ただ1人お姉ちゃんだけが、羞恥心と「妹が笑っている」という喜びの間で揺れていた。

 

「梨とユニコーンの尾の毛、10インチちょうど。かなり良くしなる。それは君のだ。おめでとう」

 

 そしてひとしきり大喜びした女の子は、急に静かになっておじさんに訊く。

 

「ねえねえ杖のおじさん。おじさんも魔法使いなの? おじさんも杖を持ってるの?」

「そうだよ。これが僕の杖。オリーブとユニコーンの尾の毛」

「ねえねえ何か魔法使ってみせて!!」

 七色に光り輝いたままの両親が「こら失礼でしょ」と止めに入ったが、オリバンダーおじさんはニッコリ微笑んで気軽に杖を一振りした。

 

 お姉ちゃんの髪が色とりどりの花で飾られたのを見て目を輝かせた女の子は、そのお姉ちゃんが取りだした手鏡を見せてもらって、自分の頭もお姉ちゃんとお揃いの花飾りで彩られているのに気づいた事でますます大喜びしたのだった。

 

「それで、あの……おいくらですか?」

「そちらのお姉さんの杖と同じですよ。ウィーズリー先生の杖もケンドラさんの杖もウチの品ですから同じ値段です。ウチの杖は材質も外見も関係なく、全て一律でひとつ7ガリオンです」

 

 パパが取りだした金貨は七色に光り輝いていなかった事など、女の子の目には映っていなかった。ただその女の子はいつまでも、姉の顔と自分の杖をかわりばんこに見つめ続けていた。

 

「あなたあの時、家に帰ってもまだ杖見てたわよね」

「だって、だってあたしすごく嬉しかったんだもの。だってあたしの杖なんだもの」

「私もあの時嬉しかったわ。それもすっごく」

 

 早朝のハッフルパフの談話室でその日の事を思い出している1年生と4年生の姉妹から話を聴き終えて、アデレード・オークスはしみじみと言った。

「あなたたち、ホントに良かったわね。…………2人とも魔法使いで」

 

 一方、グリフィンドールの談話室でほぼ同じ話をダンブルドア少年から聴き終えたポピー・スウィーティングは、むにむにとダンブルドア少年の頬を揉んだり引っ張って伸ばしたりして感触を楽しみながら、ダンブルドア少年に言う。

「弟くんの事、好き?」

「大好きですよ。当たり前じゃないですか」

「…………ほんとにかわいいわねダンブルドアくんは」

「なっ何、どこがですか。今のどこがですか」

 弟くんとケンカして勝ったことないんだろうなと察しているポピーは、しかし、それ以上なにも言わない。

 

 そしてグリフィンドールの女子寝室に繋がる階段から、艶のある長い黒髪とスレンダーな体形に顔かたちも別人のそれになった7年生の女生徒が勢い良く降りてきた。

「あ。ちゃんとローブ以外も着てる。かしこい」

「そりゃ僕はかしこいですからね!! あ、アルバスのほっぺた触ってる! ずるい僕も触る!」

「ひとに触る前に、まずどうするんだっけ?」

 ギャレス・ウィーズリーにそう声をかけられて、その女生徒は先日した約束を思い出した。

 

「……アルバスほっぺ触っていい?」

「いいですよ。ちぎらないでくださいね」

 

 ダンブルドア少年は、笑いそうなのを必死で堪えつつ、同時に呆れてもいた。

 

「ぶみゃーーーーーー!!!! 熱っっっっっちゃい!!! そうでした!!!」

 

 ダンブルドア少年の頬に思いっきり触った直後一瞬で手を離した女生徒は、火膨れになって端の皮がめくれた左右両方の掌がどこにも触れないように気をつけながら床を転げ回った。

「なんでそんなあっと言う間に忘れてしまえるんですか…………わかっててわざと触ったんじゃなくて本気で忘れてましたよね今……」

「ダンブルドアくんのほっぺに猛毒を塗らせてもらいました! ギャレス特製『火炙り薬』!」

 ポピーはそう言って胸を張り、ギャレスはすらすらと解説する。

「この水薬自体は常温だし、塗ったものが燃えたり、燃え広がったりもしない。ただ、この水薬に触れたものは発火しない程度に高温になるんだ。危ないから飲んじゃダメだよ。僕これ火を使わずに食べ物に火を通したいなって思って作ったんだけど。いやあ悪用ってできるもんだねえ」

 

「ひゃーーーーあいたたた…………バッチリ聞いてたのにすっかり忘れてたや……」

 

 ローブのポケットから常備している不死鳥の涙が入った小瓶を杖なしで「呼び寄せ」てそのまま指先で操って浮遊させ開栓し両手に塗った女生徒は、大やけどがみるみる治癒していくのを見届けてから勢い良くポピーに抱きついた。

「ポピーちゃんのいじわる~」

 言葉とは裏腹に至極嬉しそうな女生徒に床に押し倒されてぐりぐりと頬ずりされながら、ポピーはごめんごめんと繰り返しつつくすぐったそうに笑い続けた。

 

 そしてそれを見て、ギャレスは指摘するべきか一瞬迷った後、しかたなく口を開く。

「ねえ、きみさ。……今、見えちゃったんだけど。なんでスカートの下に何も履いてないんだい」

「んーー?? だって涼しいから」

 ギャレス・ウィーズリーは眉間にシワを寄せて、去年何度もした気がするお願いを再びした。

 

「……きみ、もうちょっと人類文明に歩み寄ってくれないかな」

「あなたやっぱり、上もつけてないのね」

 

 襟首から手を突っ込んで鷲掴みにしながらそう言ったポピーの事も、ギャレスは咎めたかった。

 

 




 
【ジェルベーズ・オリバンダー】(Gervaise Ollivander)
 ゲーム「ホグワーツ・レガシー」における「オリバンダーさん」ことゲボルド・オクタヴィウス・オリバンダーの息子で、原作ハリポタ本編の「オリバンダーさん」ことギャリック・オリバンダーの父親。息子ギャリックが後年残したメモ曰く、ニーズルの毛やらトロールのヒゲやら、明らかに「最高ではない」芯材で杖を作っていたそうな。
(そういう材料も使ってたという話で、最高の芯を使わなかったという意味ではないと思われる)
 私の妄想の中では1892年の時点でダイアゴン横丁の方の「オリバンダー」の店主をしている。
 
 私の妄想の中のレガ主は別に露出好きではないんだ。ただ「文明」ってやつに不慣れなだけで。

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