2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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55.ホントはドレスも着せてみたい

「ねえねえエリエザー、これとこれだったらどっちがいーい?」

「スウィーティング先輩、一体何を……」

 ヘンリー・ポッターくんとグリフィンドールの下級生たちを談話室へと帰した後も、この魔法のかかった旅行カバンとその中の空間に居る生き物たちの持ち主である女生徒を始めとする7年生たちは、まだその場に残って手分けして、必要な準備を進めていた。

 ただダンブルドア少年には、ポピー・スウィーティングが今やっている「これ」が、必要な準備だとは、とても思えなかった。

 

〈どうしても、どちらか片方は。選ばなければダメか?〉

〈ポピーのあの目を見てもまだ断れるのかいエリエザー〉

 

 やりたいようにやらせてあげてくれと、オミニス・ゴーントが小声の蛇語で説得している。

 その巨大な白いホーンド・サーペントの、自分にはまるで表情など伺い知れないはずのその顔が、まるで苦渋に歪んだかのように、ダンブルドア少年には見えた。

 

〈……………………………左ぃ……〉

「こっちね! きっと似合うよエリエザー!」

 

 ポピーが両手でそれぞれ掲げた星型とハート型の2つの派手なメガネから星型の方を仕方なく選んだその白いホーンド・サーペントは、永いこと経験していなかった試練に耐えていた。

〈麻多智の奴が生まれたばっかりのガキを連れてきた時以来だ…………こんな屈辱は……〉

「ねえねえエリエザー、リボンも付けましょ! これとこれどっちがいいかな!」

「スウィーティング先輩。あの、さっきからどういったお考えでそのような事を……?」

 訊ねずにはいられなかったダンブルドア少年に、ポピーは楽しそうな笑顔で言う。

 

「だってエリエザーとゴドリックが初めて他の人に会うんだよ! だったらかわいくしなきゃ!」

「…………そうですね……」

 

 何も反論できなかったダンブルドア少年は、ただ同情の目で「エリエザー」を見つめた。

 そしてその「エリエザー」の顔のすぐ横では、ホグワーツの大広間にギリギリ全身が収まるかどうかというサイズの巨大有翼人面ライオンが、サチャリッサ・タグウッドのなすがまま、たてがみもヒゲも髪もモミアゲもサラッサラにトリートメントされていた。

 

 その姿をぼーっと眺めていたダンブルドア少年は、唐突に浮かんだ疑問を先輩たちにぶつける。

「マンティコアっていつからいるんでしょうか。確か資料での初出は紀元前5世紀ごろの、アケメネス朝の王様に仕えた…………なんとかって侍医の記述でしたよね。そんな昔から居たんなら、今ですらどうしようもないのに、当時の人達はどう対応してたんでしょうか?」

「きみが何を訊きたいのか、ちょっとよく解らないよダンブルドアくん」

 セバスチャン・サロウがそう返して肩を竦める。

 

 ダンブルドア少年が抱いた疑問は、勘のみに基づくものだった。

 

「翼のあるマンティコアなんて僕が読んだことがある本には全く載ってなかったんですけど。ザクセンとかプロイセンとかオーストリアとかに居る、もっと単なる蠍に近いような見た目の、虫みたいなマンティコアの話なら幾つかの本で読みましたけど。――エルクスターク刑務所で飼われてるっていう――それで先輩。その異常に大きなマンティコアは、一体何歳なんですか」

 

「ぷーーー???」

 

 ポピーちゃんが作った鱒のお刺身に夢中で全く話を聞いていなかったその女生徒が妙な鳴き声を発するばかりで何も語ってくれないので、ダンブルドア少年はサッパリと今抱いたばかりのその疑問を捨て去ろうとしたが、しかし。

 

「アルタクセルクセス2世は贈り物のセンスが無かったよ。毎度毎度マズい肉ばっかよこしてな。あんな痩せ果てたガキのどこを味わえってんだか……アイツ本人の方がよっぽど美味そうだった」

 今や見違えるほどのサラサラヘアーになった異常に巨大なマンティコア「ゴドリック」の唐突な発言に、ダンブルドア少年は耳を疑った。

〈お前痩せたガキなんか喰わされたのか? ヒト共に『これこれこういう供物をよこせ』って具体的に要求してやればよかっただろうに〉

 エリエザーの質問に、その異常に巨大なマンティコアの「ゴドリック」はさらりと答える。

「いや。ガキは喰うところが本当に無さそうだったから、アルタクセルクセスの隣でニヤニヤしてた背の高い男を喰った。大臣だとか言ってたかな……周りの人間がみんな『やったぜ』って顔してたから、相当嫌われてたんだろうなあの男。まあ、ヒトにしては食べ応えがあったよ……」

 

〈麻多智の奴のつがいの女の作るメシは旨かったな。本人は喰うとこなさそうな身体してたけどな。………特にあれだ。ただ切って並べただけの瓜が、なーんであんな旨かったんだか〉

 

 エリエザーが何と言ったのかはサッパリ解らないダンブルドア少年はしかし、このマンティコアとホーンド・サーペントがそれぞれ何歳なのかは、考えない方がいいのだろうと理解した。

 何歳なのかを教えてもらったら、自分は恐らく今日の授業中ずっとあれこれ疑問が湧いてしまって授業の内容に集中など、とてもできないだろうと。

 

「どうだい、『それ』。脚の痛みは消えたはずだと思うんだけど」

 

 ギャレス・ウィーズリーに薬を与えられたアクロマンチュラは、何を言うでもなくその場でダカダカと脚を動かしてゆっくりと身体の向きを変えている。

 そしてその場でぐるりと一回りしてから、そのアクロマンチュラはギャレスに言った。

「……まったく。おまえたちくらいの肉は美味いというのに。……また恩人が増えてしまった」

 癪だ面倒だとブツブツ文句を言い始めたアクロマンチュラに、鱒を完食した女生徒がいつの間にやら杖を向けていた。

 

 その女生徒が気軽な杖の一振りでアクロマンチュラの顔に出現させた、蜘蛛の顔のつくりに合わせて8つのレンズを備えたそのメガネはアクロマンチュラの身体が見る者に与える印象と溶け合って、一見したくらいでは違和感を抱かないほど自然に、そのアクロマンチュラに似合っていた。

「どう、よく見える? ハッキリ見えすぎて目が疲れるとかない?」

「……劇的に改善したが、万全ではないな」

「そのくらいがいいんだよ。急にクッキリハッキリ見えるようになったら目が疲れちゃって、きみずっと頭痛に悩むことになっちゃうだろうからさ。それは嫌でしょ?」

 そのアクロマンチュラの目の前まで近寄って、女生徒は再び杖を振る。

 

「はい。これでちょっと軽くなったでしょ。もう自分でごはん調達できるよねロドゴク」

「『ロドゴク』?」

「きみの名前。きみが望むなら、できるだけ早く元いたところに帰してあげる。まあそのあとどうなるかは知ったこっちゃないから、人間を襲ったりしたら今度は他のアクロマンチュラみたいに退治する事になるだろうね。それかこのままここに棲んでもいいよ。どうする?」

 

 それ実質選択肢無いじゃないですかと、ダンブルドア少年はその「提案」を聞きながら思った。

 

「ここに居ても、いいのか」

「そりゃもちろん。さっきだってヘンリーくんたちと遊んでくれてたんでしょ?」

「脅かしてやりたくなっただけだ。ちょうど腹も減ってたしな」

「ああ。そうだねえ。じゃあロドゴクも今からごはんにしよっか。アルバスでいい?」

 

 先輩はなんでアクロマンチュラと、それも口のすぐ傍であんな警戒心無く会話してられるんだろうと思っていたダンブルドア少年は一瞬でそれどころではなくなり、頬をプルプルと震わせて首を振り、大慌てでその要請を拒否するのだった。

 

 そして暫くそのまま査察の準備と飾りつけを進めた後、ギャレスやセバスチャンにサチャリッサなどの皆が大広間に、あるいは談話室や地下聖堂に各々朝食を食べに行ってからも、このカバンの中の庭の持ち主である女生徒とポピー、そしてこの2人を放置するのが不安だったダンブルドア少年の3人だけは、未だこのカバンの中に残っていた。

 しかし、準備は既に済んでいるのだ。

 今ポピーと女生徒がまだここに居るのは、ひとえに疲れちゃったからである。

 

「「おねーさーん! 今いーいー?」」

「はいはい、何の用だいアンタたち」

「「朝ごはん作って!!」」

 

 カバンの中に保護している狼人間のおねえさんの住まう家をダンブルドア少年と共に訪問したポピーと女生徒は、そう言いながらズカズカと玄関から家の中へと入っていく。

「簡単なものしか作れないよ」

 しょうがないねアンタたちはと呟いてからそう言ったおねえさんが杖を振って竈に火を入れたのを横目に、自分たちが手首を掴んで引っ張ってきたのにも拘らずダンブルドア少年を放置した7年生2人は同じソファにお互いの身体をくっつけて座り、何やらきゃいきゃいと遊び始めた。

 

「右と左どーっちだ!」

「んー、どっちでもなくてアナタが巻いてるマフラーの折り目の間!」

「なーんで判っちゃうんだいポピーちゃん飴をあげます!」

 マフラーを巻いた首元から飴玉を取りだしてポピーに渡した女生徒に、今度はポピーが言う。

「右と左どーっちだ!」

「んーーー、ポピーちゃんを貰います!」

「きゃー!」

  

 僕は何を見せられているんだろうと思い始めたダンブルドア少年の前で、その2人はまた同時に、唐突にはしゃぎ合うのをやめた。

「「アデレードのブラッシング!!」」

 お互いの目を見て同時にそう言った2人は、すぐに行動を開始する。

 と言っても座ったままだが。

「おいでアデレード~」

 ポピーの隣に座っている女生徒はどこからともなく取りだした旅行カバンの中へと呼びかけ、ポピーは未だに立ちっぱなしだったダンブルドア少年を手招きして隣に座らせる。

 

「ねえダンブルドアくん、それにおねーさん。『ズーウー』は知ってる?」

 

「『騶虞』はアジアに、確か清国の辺りに棲息している魔法生物で、力が強く脚が速く、そして疲れを知らない活力溢れる生き物です。……僕が読んだ本にはそのぐらいしか書いてませんでした」

 ダンブルドア少年の自信無さげな回答は案の定、ポピーを満足させるには足りなかった。

「合ってるけど、なんか『聞いた知識』って感じの説明だね。もしかしてその本書いた人ってさ。ズーウー、見たこと無いんじゃない?」

「そうですね。『筆者は未遭遇なので伝聞しか記せない事を詫びたい』って注釈がありましたし」

 ダンブルドア少年の返答は、ポピーの興味を惹いた。

「へー、誠実な人なのね、その著者さん。なんて名前?」

 スウィーティング先輩にそう訊ねられて記憶を辿ったダンブルドア少年は、初めて気づいた。

 

「ハブロック、……ハブロック・スウィーティング氏、ですね……」

「……その本もしかして、ユニコーンの記述だけ――」

「はい。やたら詳しかったです。『魔法生物100種』って題名なのに総ページ数の半分がユニコーンに関する記述だったので印象深くって、僕、よく覚えています。……ご親族なんですか」

「たぶんね。『イギリスにあるユニコーンの保護施設はだいたいウチのご先祖が作ったのよ』っておばあちゃんが前に教えてくれたの、たぶんその人の事……だと思ってるんだ」

 何やら発言が尻すぼみになったポピーに、「アデレード」を呼び出した女生徒が隣から言う。

「ポピーちゃんのおばあちゃんに聞きそびれちゃったんだよねー。そのご先祖の名前」

 

「はい。食べなアンタたち。作り置きを温め直しただけだけど、文句は言わせないよ」

 

 会話に割って入るようにして杖の一振りで3人分のスープなどを配膳した狼人間のお姉さんは、自分の雇い主である女生徒の足元、ソファの傍に伏せて寛ぎ始めたその生き物を、まじまじと見つめている。イギリスに住む一般的な魔法族の多くがそうであるようにこの彼女も、「騶虞」など今までの人生で見たことがなかったからだ。

 

「…………でかい、猫?」

 

 狼人間のお姉さんと同じ感想を、ダンブルドア少年も抱いていた。レトリーバー犬くらいある体躯に、その身体より長大な、布のような尾。爛々と光る大きな目。

 自分にとって既知の生き物に当てはめるなら間違いなく猫だと、ダンブルドア少年も思った。

「このままいっぱいご飯食べて、いっぱい遊んで。そんで大人になったら、『夜の騎士バス』くらいの大きさになるんだよ。ねーアデレード~。いつか『夜の騎士バス』と競争するんだもんね?」

 女生徒が「アデレード」の尾を撫でながら言ったその言葉が願望混じりの冗談なのか、それとも正しい知識を語っているのか。ダンブルドア少年にも狼人間のお姉さんにも判断がつかない。

 

「ズーウーは、エルンペントとかグラップホーンくらいには大きくなるんだよ。それで、それこそ『夜の騎士バス』に負けない速度で走れるし、どれだけ走っても息を切らしたりしない。まる1日ぶっ通しで1000マイル走りきった直後にコイツと追いかけっこ始めちゃうんだから」

 

 いくらなんでもそれは大げさなのではとダンブルドア少年は一瞬思ってしまったが、このスウィーティング先輩は、魔法生物の生態の説明に嘘や冗談を混ぜる人ではなかった。

 そしてダンブルドア少年は、すぐに気づく。

 

「…………先輩も先輩ですね、それ」

「へー? だってアデレードはズーウーなんだよ? ズーウーとかけっこしないで何するのさ!」

 

 そう言った女生徒は、隣のポピーがお姉さんにお礼を言って用意された食事を食べ始めたのを見て僕の分まで食べられちゃうとでも思ったのか、大慌てで「おねーさん僕もいただきます!」と宣言して、野菜がたっぷり入った深皿のスープを引っ掴んだ。

 

「すいません僕までいただいてしまって。ありがとうございます。おいしいです」

 

 ダンブルドア少年も食事をし始めながら狼人間のお姉さんに礼を言ったが、当のお姉さんはどうやら、お礼を言われる事自体に慣れていない様子だった。

「ねえ、アンタ。……お前さんよ」

 どういたしまして、という一言が出てこなかったそのお姉さんは、そのかわりに言う。

 

「助けてくれてありがとね」

「いーの。おねーさんだって幸せになっていいの!」

 

 匙を持ったまま「いいの!」をジェスチャーで表現しようと試みた女生徒の急な激しい動きによってテーブルにスープの雫が散ったのを見て、そのお姉さんは困ったように笑う。

「……アンタ今度、もうちょっと綺麗にお食事する練習しようね」

「むぇ?」

 素っ頓狂な返事をした女生徒の口の周りは、スープやソースでべちゃべちゃだった。

「僕きれいに食べてるよ?」

「きれいに食べるってのは『チキンの骨まで全部食べる』とかそういう事じゃないんだよ」

「そうなの!!!??」

 べちゃべちゃの口を大きく開けて大げさに驚いた女生徒に、口の周りが全く汚れていないポピーが隣から声を掛ける。

「ほら、こっち向いて…………ちょっと待ってね、ほら。これが今のアナタ」

 一度女生徒の顔に向けた杖を下ろして手鏡を取り出したポピーは、その手鏡を女生徒に向けた。

 

「どう思う?」

「……こども」

 

 初めて己の食事風景を客観視した7年生の女生徒は、それっきり何も言わずに自分に杖を向けて、無言で口の周りをきれいにした。

「綺麗にお食事する練習、する?」

「する」

「いい子だね~~~~~」

 ポピー・スウィーティングが先輩を猛烈な勢いで撫で回し始めたすぐ隣で、ダンブルドア少年は我慢して野菜を食べ進めるのだった。

 

 そしてダンブルドア少年も食事を終え、また口の周りがべちゃべちゃの女生徒が心ゆくまでおかわりした後でデザートのゼリーまで出してくれたお姉さんにもう一度きちんとお礼を言ってから、その女生徒とダンブルドア少年の2人は漸く立ち上がった。

 

「――それでねおねーさん。おねーさんには大事な任務をお願いします!」

「いいけど、なんだい?」

「今日これからこのカバンの中を、魔法生物規制管理部のおっちゃんと部下の人が査察に来ます!そんでそれにはブラック校長も同行します! なのでその間、おねーさんにはここでポピーちゃんとアデレードを預かっててほしいんです! ブラック校長はワガママおじさんで困ったおじさんだから、ポピーちゃんをブラック校長の傍には居させたくないの!」

「そりゃいいけど、そっちのチビっころはいいのかい?」

 誰がチビっころですか誰がと言いたいダンブルドア少年だったが、話の腰を折ってしまうと思ったので、それは心のなかで思い浮かべるに留めていた。

 

「アルバスは僕と一緒に来るからいいんだよ」

「えっ僕授業があるんですけど……」

「えー。アルバスも一緒に来てほしいのに」

「…………わかりましたよ。しょうがないですね」

 

 すぐ絆されたダンブルドア少年を見て、狼人間のお姉さんが笑った。

「あ、そうだ忘れてたや。……テルジオ!」

「自分で気づけてえらい」

 べっちゃべちゃのままだった口の周りを自分で綺麗に拭った女生徒は、ポピーに褒められても少し恥ずかしそうにしていた。

 

「ひとつ大人に近づきましたね、先輩」

「僕こどもじゃないもん……」

 

 そのまま時間ギリギリまで狼人間のお姉さんと遊んでいたダンブルドア少年と7年生の先輩が、ズーウーの「アデレード」とポピーを狼人間のお姉さんに預けてその場を立ち去った少し後。

 ホグワーツの皆が朝食を終えて最初の授業へと向かう頃に、その客人はホグワーツに到着した。

 

「これはこれはお二方、ご足労いただいて申し訳ないね」

「お久しぶりですウィーズリー先生。今日はよろしくお願いします。……校長は?」

「久しぶりだねベリンダ。さっき起こしてきたから、もうすぐ来ると思うよ」

 

 行き先がホグワーツだと聞いたので志願して上司に同行してきた魔法生物規制管理部の職員ベリンダ・ブラウンは、かつての恩師であるウィーズリー先生に、未だ頭が上がらなかった。

 

「え゙っ、ママ!?? なんで居るの!?」

 

 たまたま通りがかって驚愕を声で表現したミス・ブラウンを、ベリンダ・ブラウンとウィーズリー先生、そして周囲の友人たちが見つめる。

 そして一瞬の沈黙の後、ミス・ブラウンの周囲の友人たちが爆発した。

 

「えー! この人がアナタのお母さんなのブラウン?? すごい若くて綺麗じゃない!!」

「ウチのママなんてこーんなまんまるなのに!! お料理とっても上手だからいいけど!」

「ねえねえあたしたちブラウンのお友達なのよ! ……あ、でもアナタもブラウンなのね!」

 

 自分の娘が同級生たちに揉みくちゃにされているのを見ながら、ベリンダ・ブラウンは鷹揚に笑っていた。

「アタシは仕事で来たの。あんた授業頑張ってる?」

「がっ、頑張ってるわ! 頑張ってるけど……………同級生にすっごい男の子が居るの……」

 それはなんて名前の子なのと、ベリンダ・ブラウンが娘に訊こうとしたその時。

 

「ほーーーひょひょひょひょ!! ぴょーぃブラック校長!! 校長もおリボン着けましょ!!」

「断る!! 貴様フィグにもらった十人並みの知能をどこに捨ててきた!!!」

「お行儀よくするって約束したじゃないですか先輩!!」

 

 白く光る靄のような姿に変わりながら高速移動して迫り来る7年生から走って逃げつつ無言で杖を振って迎撃もしているブラック校長を、かなり後ろからぺったらぺったらと走って追いかけているダンブルドア少年の頭では、その顔より大きなリボンが可愛らしくヒラヒラと揺れていた。

「お前さんは直接会うのはこれが初めてだったね、ベリンダ。あれが我がホグワーツの首席だよ」

「…………本当に、聞いていた通りの子なんですね、ウィーズリー先生……」

 早速呆れさせられている魔法生物規制管理部のベリンダ・ブラウンをよそに、その女生徒はブラック校長を捕まえようとしながら魔法生物規制管理部の部長に話しかける。

「あ、おっちゃん! 今日はよろしくねおっちゃん! おっちゃんもおリボン着けよ!!」

「柄は何があるかね?」

「ピンクの水玉とね! あとはアルバスが着けてるのと同じ緑色でレースがヒラヒラのやつとね、あとあと見えるかなあっちでピーブズが着けてる紫にドクロ柄のやつ!!」

 ブラック校長が鋭く放った「足縛り」をもろに浴びて床に倒れながら、ドラゴン皮のコートから嬉々として幾つも大きなリボンを取りだした女生徒を、ウィーズリー先生と魔法生物規制管理部からお越しの魔法省職員2名が見下ろしている。

 

「あ! そちらにいらっしゃるのはたぶんベリンダ・ブラウンさん! おリボン着けます?」

「スウィーティング先輩に叱られますよ先ぱ…………叱られないかもしれないな……」

 

 先ほどスウィーティング先輩が、あの大きな大きなホーンド・サーペントとマンティコアに何をしていたかを思い出したダンブルドア少年は、この先輩にお行儀よくしててもらおうという努力を一旦諦める事にした。不可能だと理解したのも理由のひとつだったが、ウィーズリー先生と魔法省職員らしきお二方が、困惑こそすれど気分を害していないように見えるのも大きかった。

 

「じゃ、私は6年生に変身術の授業を受けてもらう時間だから失礼するよ」

「……あ! そうだママ、この子がダンブルドアくん! ダンブルドアくんすごいのよ!」

 

 ブラウンさんが立ち去り際にそう言った事で、また1年生の女の子たちが湧く。

「そう、ダンブルドアくんすごいんだよ! いっつも一番なんだから!」

「そうなのよ! 呪文もすぐにできちゃうしなんでも知ってるのよ!」

「ほっぺただって誰よりもっちもちなのよ!」

 ダンブルドアというファミリーネームに聞き覚えがあった魔法省職員2人は、しかしそれはこの場で確かめるべき事ではないとすぐ理解して言葉を引っ込めた。

 

「全くその通り。パーシバル・ダンブルドアも鼻が高いだろう」

 

 しかしブラック校長はそう言い、ウィーズリー先生の眉間にほんの僅かながらシワが寄った。

「さて、きみも同行するという事かね、ミスター・ダンブルドア?」

「あ、はい。そうです校長先生。先輩が『いっしょに来てくれなきゃヤダ』って」

「なるほど。スクロープ! ミスター・ダンブルドアが正当な理由のもとで授業を欠席すると、ディペット先生に伝えてこい。無断欠席では正当な理由があろうが無意味だからな」

「了解しました御主人様」

 バチンと大きな音を立てて現れた片方の耳が無い屋敷しもべ妖精は、そう言って一礼するとまたすぐに「姿くらまし」した。

 

「ねえねえブラック校長おリボン着けません?」

「黙れ」

 

 そしてウィーズリー先生と共に1年生たちもダンブルドア少年を残して授業へと向かっていき、それと入れ替わりにヘキャット先生が現れたタイミングで丁度、あらかじめ予定していた査察を

始める時間になった。 

 

「あれ、ヘキャットせんせも一緒に来てくれるんですか?」

「そうだよ。校長以外にも誰か居たほうがいいだろって話になって、皆で爆発スナップしたんだ。一番勝ったのが私だったから、私が来たのさ」

「仲良しですね先生方……」

 

 先生たちの意外な関係性を垣間見て目を丸くしているダンブルドア少年の横から女生徒も訊く。

「ちなみに一番負けたのは誰なんです?」

「ガーリック先生さ。あの子、一旦慌てたら暫くずっと慌てっぱなしになるんだよ。と言っても10秒くらいで落ち着くんだけど…………」

「爆発スナップで10秒は、致命的ですねぇ」

 そう言って笑った女生徒に、ブラック校長が横から言う。

「本当は、フィグの奴が誰より上手かったんだがな爆発スナップは。あやつが爆発スナップのゲームでミスをするのは一度たりとも見た事が無い」

 

 また皆が「この子の前でこの話題は」と避けている話を配慮無く始めたブラック校長だったが、当の7年生の女生徒の顔には「その話をもっと聴きたい」と書いてあった。

「フィグ先生って爆発スナップ得意だったんですか! あ、じゃあじゃあ呼び寄せ試合は?」

「ん? ああローネンが考え出したくだらんお遊びかね。フィグがやっとる所を見た事はないが、まあ生徒より下手という事はないだろうな。奴の杖捌きは中々だったからな…………しかしな、知っとるかね。エリエザー・フィグという男はな、チェスもゴブストーンも大して上手くはないのに、爆発スナップだけ妙に強かったのだ。…………まあ、愛好していたのだろうが」

 その話に補足を付け加えたのは、ヘキャット先生だった。

 

「ミリアムに振り向いてもらうために、若い頃必死で練習したのさ。ホグワーツでミリアムは爆発スナップの愛好クラブに入ってて、当時からエリエザーはミリアムに片思いしてたからね」

「へぇぇぇぇぇぇぇ…………フィグ先生かわいいなあ……」

 一番大好きな先生の知らない話を聞かせてもらって目を輝かせているその女生徒は、次の瞬間シルバーブロンドの髪に細身の青年へとその姿が変わった。

 

「おや、今度はちょっとミスター・マルフォイに似てるね」

「そお?」

 

 マルフォイ先輩は笑顔も知性的なのになあと、嬉しそうにだらしなく笑った先輩を見ながらダンブルドア少年は思っていた。

「じゃ、いいかげんに行こうか。ほらカバン出しな」

 はいヘキャット先生と二つ返事で了承した青年が取りだした旅行カバンを見るなり、ベリンダ・ブラウンがゴクリと唾を飲んだ。

 

「これが、その?」

 

「ええ。こちらのヘキャット先生を始めとする我がホグワーツの教師たちが、この上ない保護魔法を施しましたので、まあ…………よっぽどの事が無い限り、他の生徒に危険は及びません」

 魔法省の役人相手だからか慇懃な口調のブラック校長がそう言って胸を張ると、魔法生物規制管理部の部長がそれに同意する。

「私もそれに一度立ち会いましたからな。それに、現にこれまで、この生徒が飼育している生物たちが、他の生徒に危害を加えるといった事態が発生したことは無い、と把握している」

 ハッフルパフの女の子がルーンスプールに噛まれたよなとダンブルドア少年はすぐに思い浮かんでしまったが、あれは流石にあの女の子が悪いよなあとも思ったので、何も言わないでおいた。

 

「じゃあじゃあ行きましょ! おっちゃんに紹介したい子たちも居るし!!」

 

 ああーぁそうだったと、ダンブルドア少年は頭を抱えたのだった。

 

 




 
【ハブロック・スウィーティング】 Havelock Sweeting
 1634年生まれ、1710年没。ユニコーンの研究と保護活動で有名になった人物であり、これを理由に蛙チョコレートのカードになっている。だたポピーちゃんとの具体的な血縁関係は不明。
 ユニコーンが魔法使いより魔女を好む事を考えると、彼の功績と才能はかなり珍しい例だろう。

【爆発スナップ】
 マグル界で言う所のトランプみたいなもの。カードゲーム。(いつからあるのか不明)
 カードにはそれぞれ絵柄があり、裏返して並べてめくって絵を揃えて遊ぶ。
 カードが爆発する事が最大の特徴で、ルールが確立されている幾つかの遊び方でもその事がルールに組み込まれている。「ミスったらカードが爆ぜる神経衰弱」という説明がわかりやすいか。
 別にルールで「爆発する」と定められている場合にのみ爆発するわけでもないらしく、これを使っていわゆる「トランプタワー」を作る時は髪と眉に注意する事が推奨されている。
 察するに、爆発したカードはそのうち復活するか、ひとりでに補充される機能があるのだろう。

 フィグ先生とミリアムさん、ホグワーツの同級生だったらいいなって。
 結局フィグ先生がミリアムさんに思いを伝えたのは、お互い卒業した後なんですよ(妄想)
 入学直後の組分けの時に一目惚れしたくせに(妄想)

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