2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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6.青天の霹靂(上)

 11歳のアルバス・ダンブルドア少年がコガワ先生と共に癒務室から戻り、何らかの呪文によってぬいぐるみのようにグッタリと柔らかくなっている箒を新しく渡され練習を再開しても、周囲のグリフィンドール生はおろか、スリザリンの1年生たちすらも誰一人としてその「柔らかい箒」で練習しているダンブルドア少年を嗤う者は居なかった。それは彼ら彼女らが先程このダンブルドア少年が地面から跳ね上がった箒に腕の骨を砕かれるところを目撃していたのも理由の一端ではあったが、もうひとつ。

 

「上がれ」

 

 ダンブルドア少年がそう言う度に、まるでその言葉を100年待ち続けていたかのような速度で「柔らかい箒」がダンブルドア少年の手へと射出される様を数分見続けているからでもあった。

「相変わらずスゲえ音………手、大丈夫かダンブルドア」

「うん。ありがとうエルファイアス」

 バスン!ズドン!と物凄い音を立てながら練習し続けるダンブルドア少年を、その場の皆が見つめている。グリフィンドールもスリザリンも関係なく、全員がダンブルドア少年を応援していた。

 

「ほんの少しだが、跳ね上がる箒の勢いが落ちてきてるな。その調子だ」

 スリザリンのブルストロードがそう言って、ダンブルドア少年の表情が僅かに明るくなった頃。

 7年生たちはホグワーツ城に隣接したホグワーツのクィディッチ競技場に連れ出されて、ヘキャット先生による「闇の魔術に対する防衛術」の授業を受けていた。

 

「一般的な盾の呪文に対して『複合的な保護呪文』が持つ優位性を誰か答えられるかい?単にプロテゴで呪いを防ぐのとどう違う?」

 クィディッチ競技場を覆うように囲む観客席の一角で、老婆のようにも見える魔女のへキャット先生が7年生の生徒たちに問う。

 

 こういう時優秀な生徒たちの中には、自分は答えられるけどまずは誰か他の奴に譲るかな、普段あんまり発言しない子とかにも機会をあげたいんだけどな、などと考える者もおり、首席の2人などはその筆頭だった。そしてその事に気づいているのかいないのか、へキャット先生は最も控えめに手を挙げていた生徒に声をかける。

 

「遠慮しないで言ってみな、ミス・ロバーツ」

 

 指名されるとは思っていなかったらしいスリザリンのネリダ・ロバーツは不安そうにへキャット先生の隣、通路に座り込んで2匹の大きな紫色のヒキガエルに餌を与えながら傍らの校癒ノーリーン・ブレイニーと何らか話している方の首席を見つめ、その女生徒の髪に絡みついた大量の落ち葉や枝、そして服の泥汚れなどを除去している燃えるような赤毛のギャレス・ウィーズリーと目が合ってニッコリと微笑まれ、その光景からほんの少しだけ勇気を得て口を開いた。

 

「えっと、えっと、飛んできた呪いを『プロテゴ』で防ぐのはその時限りだけど、場所や物に対して予め保護呪文を施しておけば、その保護呪文が齎す保護の範囲内において、永続的な保護が与えられます。つまり個々の攻撃に足止めされる事なく他の事に杖を使える。後は……後は、幾つもの保護呪文を複合的に施せば『プロテゴ』や『プロテゴ・マキシマ』などを単体で唱えるよりも防御の強度も高まります」

 

「概ねその通りだ。ネリダ・ロバーツに5点!さて、今日はさっそくここで、この観客席全体を保護呪文で覆ってもらう。そしてここはクィディッチの観客席だからね。どんな保護が必要でどんな保護が不要か考えながらやるんだ。………こういう場合に施される『保護呪文』の例を1つでも挙げられるかい?ほら、どんどん言ってみな」

 

 へキャット先生に肯定されたネリダ・ロバーツが嬉しそうにしている中、7年生たちは口々に知っている呪文を述べ始める。

 

「プロテゴ・マキシマ!」

「それ今ネリダが言った奴じゃないかルーカン………」

「じゃあリアンダーも何か言ってみろよ」

「今日は使わないだろうけど………レペロ・マグルタム。『マグル避け』」

 

 グリフィンドールの男子生徒2人の回答をへキャット先生は笑顔で肯定した。

 

「『プロテゴ・何々』の類、と『フィアント・デューリ』と『レペロ・イニミカム』の3つセット。これよく使われてる気がする」

「というかむしろ『フィアント・デューリ』と『レペロ・イニミカム』は単体で唱えるとどうなるのかイマイチ知らないなそういや」

「僕どうなるのか知ってるよ!前に森で試したから!」

「わかったからきみはカエルくんたちをカバンに仕舞おうね。………俺も今日は使わない奴を思いついちゃった。カーベ・イニミカム。『目隠し呪文』」

「プロテゴ・トタラム。とプロテゴ・ホリビリス。どう違うのかはよく知らんが」

 

「素晴らしいねタッカー。それにオミニスとマルフォイも。アンタは………今度はその子のごはんの時間なのかい?」

 具体的な呪文を挙げた生徒を褒めたへキャット先生は、自分の隣で通路に座り込んでいる女生徒を、その巨大紫ヒキガエル2匹をカバンにしまい込んだと思ったら鳥の雛を手のひらに乗せていた最も優秀で最も手のかかる生徒を見つめる。

 

「はい。今朝生まれたディリコールの赤ちゃんです!………今朝生まれた子たちの中でこの子だけ死にかけだったから僕とギャレスとアイツで交代で看てるんです」

 

 そう言って手のひらの中の雛に小瓶の中の液体を杖で操って1滴ずつ与えている女生徒は、交代で看ているという「アイツ」が誰なのかを説明しなかったが、へキャット先生は疑問にも思っていないらしく、それ以上何も訊かない。

 

「かわいい……けど、かなり弱ってるように見えるわ、その子」

 

 ノリーン・ブレイニーが心配そうに覗き込む横から、ギャレス・ウィーズリーもその小さな雛を見つめながら女生徒に声をかける。

 

「孵化してすぐは呼吸もしてなかったけど、けっこう元気になったね」

「うん。アイツのお陰でね………よし、お食事できたね。偉いよセバスチャン」

 

 それが聞こえた他の7年生たちが思わず笑い、へキャット先生もさすがに気になって訊ねる。

 

「昨日廊下で抱えて歩いてたニーズルも『セバスチャン』じゃなかったかい?」

 

「こいつ重複を一切気にしないんですよへキャット先生。知ってる誰かに似てるって思ったらその名前をつけちゃうんで、僕が知ってるやつだけでも確かセバスチャンは3頭と6匹と3羽居ますし、『ギャレス』も3匹います………『ダイナ』も1匹居ます」

 

 ギャレスのその説明の最後の部分に反応した、闇の魔術に対する防衛術教授を務める魔女ダイナ・へキャット先生にじっと見つめられた小柄な女生徒は、気まずそうに目を逸らしたまま手の中の雛を棲みかに戻すために旅行カバンの中へと姿を消した。

 

「まったく。あの子のすることだから別に気にはしないけどもね」

 笑いながらそう言ったへキャット先生に、7年生たちが僕も私もと申告を始める。

「私の名前を巨大紫ヒキガエルにつけてたって知った時は殴ってやろうかと思ったけど、なんでなのか訊いたらめちゃくちゃ私の事褒めるのよね、アイツ。あんな顔で褒められたら怒るに怒れないじゃない………それに良く考えたらあのカエルたちから摂られた素材を譲ってもらって使ってるわけだし。自分の名前をつけられるなんて、光栄と思うべきなのよね本当なら」

「僕もアイツがグラップホーンの事『リアンダー』って呼んでた時はビックリしたけど、そのグラップホーンがメスだって聞かされた時はもっとビックリしたよ」

 

 ハッフルパフの女子生徒サチャリッサ・タグウッドとグリフィンドールの男子生徒リアンダー・プルウェットがそう言って苦笑する。

 

「去年カバンから顔だけ出してたんで、蛇3匹に同じ名前付けたのかと一瞬思った」

「あのルーンスプールは、パートナーになる相手がこないだの夏休み中に見つかったよマルフォイ。おめでとう」

 

 そう言ったオミニスに「そうなのか。ありがとう」と反射的に返答してしまったマルフォイがすぐ奇妙な表情になって「ありがとう………?」と呟いたのを見て、隣に立つスリザリンの女子たちがクスクス笑っている。

 

「ねえ、去年アイツが暗い廊下の隅で、何も居ない方を向いて私の名前呼んで嬉しそうに話しかけてたのを私、アイツの後ろから見ちゃって、怖すぎて声かけられなかったんだけど。もしかして私の名前も何かについてるのかしら?」

「それってもしかして去年の11月頃?だったらそうよ。その頃保護したズーウーの赤ちゃんにアイツ『アデレード』って名前つけてたもの。笑った顔が可愛くてそっくりだって言うんだけれど、………ちょっと、苦情ならアイツに言ってよね。私の名前だってエルンペントとかにもついてるんだから!」

 

 ハッフルパフのアデレード・オークスにじっとりと睨まれたポピー・スウィーティングが困った様子で弁明していると、開けっぱなしの旅行カバンの中からその名付けをした当の本人である7年生の小柄な女生徒が戻ってきた。

 

「あれ、へキャット先生もみんなも待っててくれたんだ。………え何、どしたのアデレード痛い痛い痛い」

 

 左右の頬を強く抓られながらどこか嬉しそうに笑うその女生徒に、アデレード・オークスは絆されたように笑みを零すと「まったく、もう」とだけ言ってから離れた。

 

「さあ、このクィディッチ競技場の観客席全体に保護呪文をかけるよ! だからまずはホラ、散らばりなお前さんたち」

 へキャット先生の号令で7年生たちはクィディッチ競技場を取り囲んでいる観客席全体にまんべんなく散らばり、杖を構える。そして「始め!」の声がかかる。

 

「始め、って言われてもね……………」

 

 ネリダ・ロバーツが呟く。普通に呪文を唱えるのと比べてどうやり方を変えればその場に保護を施せるのかわからず尻込みする生徒たちの視線は一部の生徒たちへ、特に8人の監督生と2人の首席へと集中した。

 

「見本みせろってさ」

 アミット・タッカーがそう言いながら空に杖を向けている。

「俺、みんながどんな表情してるのか見える気がするよ……きみたちもできるよね、マルフォイ、ノット」

「去年お前たちの、というかアイツの『実験』を手伝わされたからな」

 スリザリンの男子たちも杖を空へ向けた。

 

「サッちゃんやってみてー」

「アンタとかセバスチャンとかがやってるのを見てた事しかないんだけど………」

「僕も見本見せて欲しいなタグウッド」

「えー…………ヘクターまでそんな事言うの………」

 

 首席2人に促されて逃げ場を無くしたハッフルパフのサチャリッサ・タグウッドもまた杖を空へ向け、意を決するのに数秒要した後、呪文を唱え始めた。

 

「プロテゴ・トタラム、レペロ・イニミカム、フィアント・デューリ………」

 

 サチャリッサの杖の先からは一筋の淡い光が糸のように放出され、上昇したそれは天幕のように広がり、クィディッチフィールドと観客席を隔てる透明な壁となって広がっていく。

 

「プロテゴ・ホリビリス、サルビオ・ヘクシア………」

「プロテゴ・マキシマ、レペロ・イニミカム、フィアント・デューリ」

「サルビオ・ヘクシア、プロテゴ・マキシマ、レペロ・イニミカム…………」

 

 他の生徒たちも同じように呪文を唱え始め、幾筋もの光が混ざり合って透明な壁が強化され、観客席全体へと、隙間を埋めるように広がっていく。

 

「どうしたんだいブレちゃん」

「今年の7年生は優秀ね?………アナタ、緊張してるんでしょう」

 

 1人だけ未だ座ったままぼんやりしている小柄な女生徒を、校癒のノーリーン・ブレイニーが見つめる。

 

「まあね。…………今朝急に知らされたんだもの、ブラック校長め………」

「校長にしても青天の霹靂だったみたいだけどね。いやー、珍しいもの見た」

 

 プルプルと身震いしている女生徒に、ギャレス・ウィーズリーが言う。

 それはこの日の朝早く、まだアルバス・ダンブルドア少年すらもぐっすりと寝ていた時間の事だった。

 

「あれ、きみたちも呼び出されたのかいギャレス」

「おはようオミニス。セバスチャンにイメルダとマルフォイも」

 校長室への入り口を守るガーゴイル像の前に、7年生たちが集まっている。

「おや、みんなおはよう。………どういう組み合わせだい、コレは」

「おはようヘクター。それにアミットとコンスタンスも、おはよう」

「「おはようギャレス」」

 眠い目をこすりつつ集合したお互いの顔を見ながら、7年生たちは考えを巡らせる。

 

「みんなもこんな時間に呼び出されたの?……7年生の監督生全員と首席と……‥」

「私とセバスチャンとマルフォイとリアンダーって事は、『防衛術』の成績上位?」

 

 ハッフルパフの7年生たちも数人合流すると、リアンダーはとうとうその場の全員共通の疑問を口に出した。

 

「で、アイツは?」

 

 その瞬間7年生たちの背後から、パチン!と大きな音が響く。

「ペニーはお起こししようと努力いたしました。しかしお起きいただけませんでした。ですのでペニーはせめてお送りしようと考えました」

 一斉に振り向いた7年生たちの眼前では、現れた屋敷しもべ妖精が傍らの床で眠りこけているパジャマ姿の女生徒の頬をベチンベチンと繰り返し叩き続けていた。

「おはようペニー。お疲れ様。連れてきてくれてありがとね。…………ソイツの事は僕らに任せて………‥ウィンガーディアム・レビオーサ!」

 セバスチャンが杖を振って熟睡中の女生徒を「浮遊」させると、屋敷しもべ妖精のペニーは一礼して「姿くらまし」した。

 

「さて、全員揃ったな。では………『Toujours Pur(純血よ永遠なれ)』…呆れたな。本当に未だこの合言葉で開くとは。校長はホグワーツのセキュリティについてどうお考えなのやら」

 2年前の合言葉を試しに、2年前そうだったようにフランス語で言ってみたマルフォイは、ガーゴイルが道を空けたのを見て大袈裟に肩を竦めてみせた。その横ではギャレス・ウィーズリーが吐き気を催したかのようにウェッと舌を出している。

 

「行こうか、みんな。………ブラック校長はこんな朝早くになんの用なんだろ」

 

 そう言いながら手に持った白い杖の先を赤く明滅させてスタスタと歩くオミニスを先頭に、10人以上の7年生たちはぞろぞろと校長室へと入っていく。

 

「こんな朝早くに呼び出して悪かったね、みんな」

 

 笑顔で7年生たちを出迎えたのは変身術教授にして副校長のマチルダ・ウィーズリー先生だった。その横ではこの部屋の主であるフィニアス・ナイジェラス・ブラック校長がまっすぐに、セバスチャンに杖で浮かされ運ばれて来た未だ熟睡中の女生徒を見つめている。

「すいませんウィーズリー先生。今起こします」

 セバスチャンがそう言って杖を仕舞い、ドサリと床に落ちても尚寝息を立てている女生徒にギャレス・ウィーズリーが近付く。

 

「その小瓶はなんだい?ミスター・ウィーズリー」

「僕の最新作です。ウィーズリー先生」

 

 叔母と甥は一瞬ニッコリと笑顔を交わし、ギャレスは小瓶を女生徒の口に押し込むとその中の、見る角度によって色が変わるトロリとした液体を全て飲ませた。

 

 途端に。

 

「アア゜ーーーーーーーーーー!!!!」

 

 全身を痙攣させてその場の誰も聞いた事が無い高音で悲鳴を上げ始めた女生徒の身体を、幾つもの雷光が走る。それが狙い通りの作用だったらしいギャレスはガッツポーズなどしているが、ブラック校長の眉間には少しシワが寄った。

 そして、ピシャアアン!!という轟音と共に女生徒が一瞬、眩い紫色に光り輝く。

 

「んむゃ……………おはようペニー………」

 

 ゴロゴロと雷鳴が轟く中で頭から煙を立ち昇らせながらムクリと上体を起こしてそう言った女生徒に、ギャレスがニッコリと笑いかける。

 

「おはよう。」

「あれ?ギャえス………?来てくれたの?それにセバッチャンも?みんなも?ぅえ゙、なんでブあック校長まで居るの………???」

「ここが校長室だからだよ」

 

 そして再び横になろうとした女生徒は、ニッコリ笑ったセバスチャンとギャレスに左右から思い切り引っ叩かれて、ようやく目をぐしぐしとこすりながら立ち上がった。

 

「おはよごますウィジュリーせんせ」

「おはよう。朝早くに呼び出して悪かったね。さて校長先生。校長先生はこの子たちに言うことがあるね?」

 

 史上最も人気のないホグワーツ校長フィニアス・ナイジェラス・ブラックは、そこに集まった7年生たちを見つめ、ウィーズリー先生を見つめ、また7年生たちに向き直ると、大きく息を吐き出した後、口を開いた。

 

「本当に申し訳ない!!!」

 

 ブラック校長の口にそんな言葉を言う機能が備わっていた事に仰天している7年生たちに、ブラック校長は苦々しげに事情を説明する。

 

「お互い酒も入った、会食の席での軽い冗談。だと思っていたんだが。どうも向こうは本気で提案していたらしい……………今日、ファリス・スパーヴィン魔法大臣が魔法生物規制管理部と魔法法執行部の部長も連れてホグワーツにいらっしゃる。向こうはこちらが準備万端整っているものと信じているが、実際にはこの通りだ。そして魔法省にツテのある何人かの、生徒の親族も来るそうだ………つい今しがたのフクロウで手紙が届いた。『いよいよ今日ですな』と」

「それをなんで僕らに謝るんです校長?」

「その会食の席での事だ。大臣閣下が私に言ったのだ。『ホグワーツの生徒たちはお前さんが実際にはどのくらいの魔法使いなのかを知っておるのか?』と。実力を示して見せた事があるのかと。7年生の代表数名と一度決闘してみてはどうかと」

 

「酒の席での冗談ですな」と校長室の壁に並ぶ歴代校長の肖像画たちの1つが言う。

 

「ところが向こうは会話の流れはお忘れになられたがその『私と生徒との決闘』という単語だけは覚えており、それをこちらが是非にと提案したものだと思いこんで…」

「『魔法省一同とても楽しみにしている』そうだよ」

 

 ウィーズリー先生が言葉を引き継ぐ。壁に並ぶ額縁の中からは戸惑いや魔法大臣への非難に混じって、御婦人方の笑い声も聞こえてきている。

 

「災難でしたねぇフィニアス………」

「笑い事ではありませんぞマダム・フィッツジェラルド」

 

 ちょっと大きな声を出したブラック校長に、マルフォイが訊く。

 

「つまるところ、僕らに何をさせたいのです?」

「各寮少なくとも2名ずつ代表を選んでほしいんだよ。『教職員代表 対 生徒代表』こちらは校長と私とへキャット先生とシャープ先生が出る。全ての生徒と多くの見学希望者の前で決闘をする。先に全員降参したほうの負け」

 

 ウィーズリー先生の説明を聞いた7年生たちは、まだ半分寝ている方の首席と、その身体を支えているスリザリンの男子生徒を見る。

 

「コイツらは決まりとして、残りどうするか」

「ああ。セバスチャンとコイツ抜きで勝てる訳が無いからね」

「ポピーちゃんとサッちゃんにもでてほしいな」

「最高戦力様がこう仰せだ。スウィーティング」

「わかったわよ……アナタも出なさいよねマルフォイ」

 

 みんなの後ろに隠れていた小柄なハッフルパフ生がそう言って前に出た。

 

 ホグワーツ城に隣接するクィディッチ競技場の観客席で7年生たちによる保護呪文の実習という名の会場設営準備が進む中、1人だけ未だ座り込んでまったりしている小柄な女生徒に、その話を聞き終えた若き校癒ノリーン・ブレイニーが言う。

 

「医務室にも、朝一番でウィーズリー先生がいらっしゃったわ。……それにしても」

「なんだいブレちゃん」

「仲良しねえアナタたち」

 

 そう言われた女生徒は一層ニッコリすると、クィディッチ競技場をぐるりと取り囲む観客席のあちこちに居る他の7年生たちの姿を見渡してからやっと立ち上がった。

 

「さ、僕もやろ。プロテゴ・ディアボリカ!フィアント・デューリ!レペロ・イニミカム!サルビオ・ヘクシア!インパービアス!アレスト・モメンタム!」

 

 そして7年生たちによる保護呪文の透明な膜が観客席全体を覆い尽くした頃。

 

「ホラ、クィディッチ場が見えてきたよ!あそこに着地したら今日の訓練はおしまいだよ。みんなスピードを落として、ゆっくり降りるんだ!」

 

 コガワ先生に率いられたグリフィンドールとスリザリンの1年生たちが箒に跨って飛来した。

 

「あれ、まだ箒の訓練してたんだアルバス」

「今日の1年生の箒飛行訓練は2コマ続けてなのよ」

 

 そんな会話をしながら女生徒と校癒ブレイニーが見下ろす先、クィディッチ場の中央に次々と1年生たちが着陸する。何人かは転びそうになっていたし何人かは着地しそこねて箒から投げ出されていたが、それでも最初の訓練で全員が飛べるというのはすこぶる優秀な結果と言えた。

 

「アルバスー!おーいアルバスー!」

 

 高い観客席の上からこちらを向いてぶんぶんと手を振っている7年生の女生徒に意識を向けないよう努めていた11歳のアルバス・ダンブルドア少年は、その7年生が突如白く光って高速で飛来するのを目撃した。

 

「やあアルバス」

「なんですか先輩………」

「上手に飛んでたねえ」

「7年生のみなさんは、ここで何をなさっていたんです?」

「会場の設営準備だよ」

 

 一体何の会場なのか、ここで何をするのかと訊きたかったダンブルドア少年だったが、そこでコガワ先生の声がかかった。

「さあみんな、すぐ観客席に行って、言われた場所に座るんだ。ついておいで!」

 コガワ先生がパンと手を叩くと、学校の備品である箒が、会話をしながら移動を始めたグリフィンドールとスリザリンの1年生たちの手を離れて全て回収されていった。

 そして、ホグワーツ城内からも次々と先生方に率いられた生徒がやってきて、観客席を埋めていく。クィディッチ競技場の観客席がほぼ埋まった頃には、数人の7年生たちの姿がそこから消えていた。

 

「さあ、生徒はみんな集まったね?急に知らせて悪かった。クィディッチの試合じゃないけれど、面白いものを見られるよ」

 副校長マチルダ・ウィーズリーの声が響く。

「さてその前に、来賓を紹介しなきゃね………ファリス・スパーヴィン魔法大臣閣下と魔法省御一行を拍手で迎えよう!」

 

 生徒たちが指示された通りに手を叩いて万雷の拍手を演出する中、そのお役人方がとても急ごしらえとは思えない貴賓席へと姿を現した。

 

「あれがスパーヴィン爺さんか……ケンタウルスに殺されかけたって噂の」

 グリフィンドールの7年生、ルーカン・ブラトルビーがそう呟く横では、1年生のエルファイアスとダンブルドア少年が指示された席に座ってそわそわとしていた。

「なあブラトルビー、これ何するんだ?」

「ん?あれ。お前ら聞いてないのかドージ」

 

 ダンブルドア少年が周囲を見渡してみれば、ハッフルパフもスリザリンもレイブンクローも同じように、下級生の隣に必ず上級生が来るように席順が整えられているようだった。

 

「マルフォイのお父上がいらっしゃってるってことは、その周りの年寄り共はホグワーツの理事たちだな………全く、お目にかかれて光栄だね………」

 スリザリンの7年生、純血家系のノットがそう言ってフンと鼻で嗤った。

 

「さて、私も行かなきゃね。あとは任せるよミラベル」

ウィーズリー先生は杖先を自分の喉から離す。

 

「はぃ!でっ、では!………ゴホン。では本日はホグワーツの教職員代表と生徒代表による特別試合を、複数人対複数人のチーム戦をご覧いただきます。ホグワーツの生徒の、その『代表』の彼ら彼女らが教職員相手にどこまでやれるのか!そしてホグワーツの教職員とはどの程度の魔法使いなのか!その実力の程をぜひご覧ください!」

 

 これからここで何が行われるのか把握していなかった生徒たちが一気に沸き、そして両チームの面々が入場する。

 

「では教員チームから、闇の魔術に対する防衛術教授ダイナ・へキャット、魔法薬学教授イソップ・シャープ。変身術教授にして副校長マチルダ・ウィーズリー」

 貴賓席の一角から「ブチのめしてやりなマチルダ!!!」という老婆の大声が響き、それに一部の生徒たちと、当のウィーズリー先生が反応した。

 

「誰だろうあれ………」

「あれは我らがギャレスの親戚のおばあさんで、ウィーズリー家の最年長者だよダンブルドアくん。おばあさんの隣の人は魔法省の、魔法ゲーム・スポーツ部の部長」

リアンダー・プルウェットが解説する。

 

「そ、そしてホグワーツ校長、フィニアス・ナイジェラス・ブラック!」

 気圧されたらしいミラベル先生がそう言うと生徒たちは義務的に、貴賓席の面々はそれなりに拍手をする。

 

「続いては生徒チーム。尚、生徒チームのメンバー構成は彼ら自身が話し合って決めたものです。まずはレイブンクローの2人。首席ヘクター・フォーリーと監督生のアミット・タッカー!」

 レイブンクローの生徒たちが割れんばかりの拍手を贈っている。

 

「グリフィンドールの監督生2人。ナツァイ・オナイとギャレス・ウィーズリー!」

 占い学教授のムディワ・オナイ先生が「しっかりやりなナティ!」と呼びかけ、またしても貴賓席から「ブチ殺してやりなギャレス!!!!」という大声が響いた。

 

「あ、相変わらず、ホントに元気なおばあちゃんだね………」

「ブチ殺しちゃダメなんだけどねー」

 

 観客席に手を振りながら小声で会話する2人に、続いてミラベル先生に紹介されたマルフォイが貴賓席に一礼した後横から声をかける。

 

「へキャットとブラック校長に細かいルールをさっき訊いたら『特には無い』が『魔法省のお偉方とホグワーツの理事たちが見ている事を忘れないように』だそうだ」

「聞いてるかい2人とも。わかってるね?」

 イメルダと共に紹介に応えて礼をしながら、人一倍緊張感の無い女生徒とセバスチャンにオミニスが釘を刺す。

 

 しかしそのセバスチャンの意識は貴賓席の一角に釘付けだった。スリザリンの4人に続いて紹介されたハッフルパフの女子2人、サチャリッサとポピーがヒラヒラとギャラリーに手を振る中、セバスチャンは呟く。

 

「アン…………それにソロモン叔父さんも…………」

「カッコ悪い真似できなくなったな、サロウ?」

 

 マルフォイがニヤリとして言った。そして最後に名前を呼ばれたもうひとりの首席である小柄な女生徒は、己の名前が呼ばれた途端に大きな声を出して貴賓席を指差す。

 

「あー!時々『三本の箒』に居る、いつもバタービール奢ってくれるおじーちゃん!良く似てる人じゃなくてあのおじーちゃん本人じゃん!魔法大臣だったの??!!」

 

 両隣に立つセバスチャンとサチャリッサがその女生徒を強く叩くと、貴賓席からドッと笑いが起こった。当のスパーヴィン大臣もクスクス笑っているが、生徒たちの正面に立つブラック校長はギュッと眉間にシワを寄せている。

 

「で、では!両チーム、杖を構えて」

 

 ミラベル先生の声で、ブラック校長と3人の先生方もそれに相対する生徒代表の7年生総勢11名も杖を構える。そしてその生徒代表チームの真ん中でまっすぐに杖をブラック校長へと向けている女生徒が、対戦相手の先生方へ呼びかける。

 

「僕、ホントに本気でやりますからね。闇の魔法使いや密猟者たちとかでなく、先生たちが相手だからこそ採れる戦法ってのもありますから」

「そりゃあ楽しみだ。けど手加減してもらえるなんて、期待しないことだね」

 

 へキャット先生がそう言ってニッコリ笑い返し、それを受けて女生徒は尚もまっすぐブラック校長を見据えたまま、左右の友人たちにだけ聞こえる声量で呟いた。

 

「行くよ、みんな」

 

 その途端女生徒がまっすぐ杖をブラック校長に向けているその手に火が点き、眩いオレンジ色の炎の中から一羽の美しい鳥が現れる。

 その光景に観客席が沸くのと、ダンブルドア少年が「不死鳥………!」と呟くのと、ミラベル先生が「始め!」と号令をかけるのは同時だった。

 

 




 
【魔法大臣ファリス・スパーヴィン】(在任期間1865~1903)
 2020年現在の魔法大臣ハーマイオニー・グレンジャー氏まで含めても 
 歴代最長の在任期間を誇る魔法大臣。(公式設定)
 酒の席で「ゴーストとケンタウルスとドワーフに関する下品なジョーク」を飛ばし
 結果ケンタウルスに暗殺されかけた(公式設定)というおじいちゃん。

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