2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「7年生の薬草学ってどんな事習うんですか?」
昼食を終えて、午後の最初の授業まではまだかなり時間に余裕が有るのにもかかわらず早くも次の薬草学の授業が行われる温室へと移動を開始した一部の7年生たちの集団の先頭で、必死の抵抗も虚しく無念にも肩車されてしまったダンブルドア少年が、自分を肩車している先輩に訊く。
「『取り扱いに注意が必要な植物』だ」
ダンブルドア少年のすぐ後ろから、純血家系出身のスリザリン生マルフォイが端的に説明する。
「1年生よりは2年生、2年生よりは3年生と、だんだんに危険もしくは貴重な種になっていく。そして7年生で習うのは――」
「今日これからは『暴れ柳』よ。植え替えと剪定をするそうだってウィーズリー先生がさっき仰ってたわ。ガーリック先生から今朝訊いたそうよ」
そう言いながら廊下を背後から早足で追いかけて合流してきたのは、グレース・ピンチ=スメドリー他数名の、スリザリンの7年生女子たち。
「あれ、グレース。ピューシンは一緒じゃないんだ?」
「レストレンジならさっきフクロウで届いたお兄さんとお姉さんからのお手紙を、まだ大広間でノットと一緒に読んでるわよ。邪魔しちゃ悪いから声だけかけて私たち先に来たの」
ダンブルドアくんを肩車している友人の問いに答えたグレース・ピンチ=スメドリーの言葉に、周囲の女子たちがかしましく反応した。
「あの2人、いいかげん手くらい繋いだって先生方も叱りゃしないでしょうに。ねえ?」
「レストレンジまさか、手を繋いだだけで子どもができちゃうなんて、まだ信じてないわよね?」
「去年まで信じてたのよ。『愛する2人が申請を出すと神秘部から特別なフクロウ便で届く』ってお決まりのごまかしを。それでこのピンチ=スメドリーがね――」
「その話はしないで…………」
末娘だからなのか、ご両親から純血魔法族の平均と比してもなお過剰だと思える程に蝶よ花よスニジェットよと大切に大切に育てられてきたらしいルームメイトのピューシン・レストレンジに、ヒトのオスとメスがどのようにして子を成すのかを「植物には雄蕊と雌蕊があるわよね?」から始めて懇切丁寧に説明させられたというその思い出は、いくら親友のためを思って自分からした事とはいえ、グレースにとっては未だ忘れがたい「辱め」として心に深々と焼き付けられていた。
「あの、先輩方。『暴れ柳』って。…………授業で植え替えと剪定って……そんな何株も、授業を受ける生徒の数と同じだけ鉢植えを用意できるんですか? とっても貴重な種ですよね?」
このダンブルドアくんはそれが気になっていたから今までずーっと難しい顔をしていたのだと、スリザリンの7年生の女子たちはそこでやっと気づいた。
「…………あなたカワイイわねダンブルドアくん」
およそ1年生の前でするべきではない下卑た話題で盛り上がっていた自分たちを心中で戒めつつも、ネリダ・ロバーツはそう思わずにはいられなかった。
「…………ありがとう、ございます……?」
不本意な褒められ方をしたが褒められたのには違いないのでお礼を言うべきだと判断したらしいダンブルドア少年は、いま自分の中に生まれた新しい驚きをスリザリンの先輩たちにぶつける。
「そういえば、お兄さんとお姉さんがいらっしゃったんですねレストレンジ先輩って」
「そうだ。フルクラン・レストレンジとバルビン・レストレンジ。2人ともボーバトンでは特に優秀な成績を修めたと聞き及んでいる」
背後から解説をしてくれたマルフォイ先輩に、ダンブルドア少年は追加の質問を投げかける。
「ボーバトンなんですか? ホグワーツじゃなく?」
「そうだ。一家全員フランス生まれフランス育ちなのだから、当然そうだ。我らがスリザリンの仲間であるピューシン・レストレンジも本来はボーバトンに通い続けるはずだった。しかしアイツは10歳になったばかりの頃、両親にひとつワガママを言った。『来年からはホグワーツに通いたい』と。両親も兄も姉もそれを快く受け入れ、すぐにイギリス在住の親戚一家とフィニアス・ナイジェラス・ブラック宛に2通の手紙を書いた――こうしてレストレンジの奴は今、向こうから大慌てで廊下を走ってきてノット共々血みどろ男爵に叱られる事ができているというわけだ」
走ってないよと無理筋な主張をすることで血みどろ男爵のお説教を見事に長引かせてみせているレストレンジの面倒くさいと思っているのが全面に出ている渋そうな表情と、そんなレストレンジの隣で自分とてレストレンジにお説教をしたいのだろうノットの苦々しげな顔を、皆は暫し立ち止まって説教に巻き込まれないだけの距離を保ちつつ愉快に歓談などしながら見物したのだった。
「――助けてくれたっていいだろ!」
数分してようやく血みどろ男爵に赦されたものすごい美人のスリザリン生レストレンジは、ダンブルドア少年を肩車した青年とスリザリンの友人たちに合流するなりそう不満を表明した。
「早足までに抑えろといつも言っているだろう。なのにレストレンジお前――」
「だって気付いたらみんな居ないんだもん、そんなの慌てるだろ誰だって!」
「『私たち先に行ってるわよ』って言ったじゃないの…………」
そう言ったネリダ・ロバーツの横で、同じスリザリンの女子生徒も目を細めて呆れている。
「あ、そうだアンタ。これ。姉さんからアンタへの手紙」
「おー! バルちゃんのお返事! 楽しみにしてたんだ!」
ピューシン・レストレンジに手渡された1枚の丁寧に折りたたまれた羊皮紙を両手で受け取った先輩の上から、肩車されたままのダンブルドア少年がまたしても質問を投げかける。
「それって、あの以前仰ってた『ボーバトンのペンフレンド』ですか?」
「そだよ。バルちゃんがフランス語でお手紙書いてくれて、僕はそれを頑張って訳して読んで、英語でお返事書くの。それをこんどはまたバルちゃんがフランス語に訳すってわけさ」
受け取った手紙を早速開封して読み始めた先輩が、浮遊魔法とか使えばいいのにわざわざ両手で手紙を広げているのを見て、ダンブルドア少年は先輩の頭をしっかりと両手で掴んだまま、少し不安そうな表情で言う。
「あの、先輩? 前見て歩くか、さもなければ僕を降ろしてほしいんですけど?」
「アルバスのあしがぼくのかおのよこにある。ちっちゃくてかわいい」
「前見て歩いてくださいませんか先輩?」
視界を全て手紙に遮蔽され、その上両手も塞がりダンブルドア少年を肩車までしていながら、その7年生は器用にもヒョイヒョイと曲がり角を曲がり、階段を降り、転びそうで転ばない。
それは同級生の友人たちにとっては見慣れた光景で、別に注意しなくてもいいとレストレンジもマルフォイもネリダ・ロバーツもグレース・ピンチ=スメドリーも他のスリザリンの女子たちも知っていたが、ダンブルドア少年はそうではなかった。
「先輩? 先輩! とても揺れるんですけど先輩?」
「んも~、アルバスは仕方ない子だねえ」
「僕が『仕方ない子』なんですか??」
「ねえ、ヘイゼルに出てきてもらってくれるかい?」
どこへともなくそう声をかけた7年生が誰にそんな依頼をしたのかを今すれ違った2年生の男子生徒3人が理解するよりも早く、ダンブルドア少年の目の前の空中が火を吹いた。
「ありがとね。ねえヘイゼル、アルバスを乗っけてあげてほしいんだけど、いいかい?」
その美しい純白のユニコーンの視線を、この先輩は「了承」だと理解したらしかった。
ダンブルドア少年にもその判断は正しい推察なのだろうと思えたが、ダンブルドア少年がそう思ったのは、この7年生の先輩とのこれまでの交流で体感した魔法生物学という分野への類稀なる習熟具合への信頼のみによるもの、つまり「先輩がそう言うのならそうなのだろう」という極めて受動的な判断であり、実際にユニコーンのどこを如何に観察すればその心情が見極められるのかは、ダンブルドア少年にはまるで検討もつかなかった。
ヘイゼルという名前らしいそのユニコーンの穏やかな歩みがもたらす心地よい揺れに身を任せながら「後でスウィーティング先輩に訊いてみよう」と思ったダンブルドア少年は、先輩が魔法生物の心情を推察する時には、およそ「理論」とか「理屈」とかいったものはその判断に一切介在していないということを、既に察していた。
「直感」というものは、11歳のアルバス・ダンブルドア少年にとって、この時は未だ、理解しかねる非論理的で不確かな発想だった。
なのにその「直感」に大いに依存した思考回路を持っているように見えるこの先輩が、「直感」だけで判断した物事が、日常の些細な選択にしろ、先輩方や先生たちが話してくれた去年や一昨年の「極めて重大な転換点における後戻りできない判断」にしろ、論理というものが介在していないのにも拘らず今まで一度も酷い判断ミスと表現できる失敗をしていないらしいという事が、ダンブルドア少年にとっては何度思考を巡らせても理解しかねる不可解な事実だった。
肩車していたダンブルドア少年を両手であっさりと持ち上げてユニコーンの背に跨がらせたその先輩の頭の上に空中をくるりと周回した不死鳥が着地し、7年生の先輩はその白鳥くらいある鮮やかなグリフィンドール色の立派な鳥を撫でる。
「そういえば先輩、不死鳥ってそんなに大きいのに、頭の上に乗っけてて重くないんですか?」
「それがね、アルバス。全然重くないんだよ。たぶんコイツが気を利かせてくれてるんだと思う」
自分の重さを調節するなどという真似が可能なのかも解らないダンブルドア少年はしかし、不死鳥ともなればそのくらいできても不思議じゃあないかなと、己の内から湧き上がってきた直感に身を任せてそう結論づけた。
先輩の真似をしているという自覚は、この時のダンブルドア少年には、まだなかった。
「あら、随分早いのねアナタたち。私とっても嬉しいわ!」
「こんにちはガーリック先生」
授業開始まではまだかなり時間があるのにもうやってきた少人数の7年生たちを笑顔で歓迎した年若く才能あふれる薬草学教授の魔女ミラベル・ガーリックは、その両手に嵌めたドラゴン皮の手袋が土まみれになっているのを見る限り、既にかなりの時間この温室で植物の作業をし続けていたのだろうと、ダンブルドア少年は思った。
「あら、ミスター・ダンブルドア。それにあなたはヘイゼルね? ようこそ」
「昼食はどうなさったんですかガーリック先生?」
作業用のテーブルに持っていた植木鉢を置いて、ミラベル・ガーリックはほんの一瞬、あらゆる動作を完全に停止した。
「忘れてたのねガーリック先生」
グレース・ピンチ=スメドリーがそう言って、呆れているのを顔全体で表現した。
「先生が、授業に食事抜きで臨むなんて良くないと、私は思います」
「ごめんなさい…………暴れ柳たちのお世話が楽しくって……」
この場に三本の箒の店主シローナ・ライアンが、もしくは闇の魔術に対する防衛術の教授ダイナ・ヘキャットか変身術のマチルダ・ウィーズリー教授が居たならば、「お前は生徒だった頃もそんな風に、植物の世話に夢中になって食事を忘れたり他の科目の宿題をすっぽかしたりしてたね」と言って大いに笑っただろう。
いつの間にやら一番大きな毒触手草の上に移動している不死鳥を、ダンブルドア少年は見た。
そしてダンブルドア少年はまた直感に身を任せて、視線をガーリック先生に移す。
「ガーリック先生。今ワタリガラスが先生のスカートの中に入っていきましたよ」
「えっ嘘、なに、わあ!!」
ガーリック先生が身につけている日向ぼっこみたいな色の服の襟首から顔を出したそのワタリガラスは、僕ここお気に入りなんだよねとでも言いたげに、満足そうに一声啼いた。
「あなた、自分のことマンドレイクの赤ちゃんくらいの大きさだと思ってないかしら?」
「ガーリック先生、授業まで時間ありますし、よければなにか食べませんか?」
そう言ったマルフォイに、ミラベル・ガーリックは慌て気味に返す。
「えっいや、生徒にご馳走になるのは教師として――」
「食事抜きで授業に挑むのは教師としてどうなんですかね、ガーリック先生?」
どう言えば穏便に遠慮できるかと考えていたミラベル・ガーリックの腹が、大きな音で鳴った。
「…………何かリクエストはありますか、ガーリック先生? 早く決めないと僕はウィーズリーの奴にこの仕事を任せたくなってしまいますよ」
魔法薬作りの道具一式と様々な食材をローブのポケットから「呼び寄せ」ている女生徒を背景にそう言ったマルフォイの、制服の裾を引っ張ったのはレストレンジだった。
「なんだ。どうした」
「アタシ、ビリヤニたべたい。茄子いっぱいのやつ」
「作ってくれマルフォイ」
レストレンジに続いてそう言ってきたノットの事も、マルフォイは眉間にシワを寄せて睨んだ。
「お前ら…………」
しかしマルフォイはそれ以上は文句の一言も漏らさず、すぐガーリック先生に視線を投げかけて手短に意思確認をし「ちょっと待ってろ」とだけ言うと、女生徒がセッティングを終えていた即席の調理スペースに向かった。
「あんなに優しい子だったのね、ミスター・マルフォイ。去年とか一昨年もああだったかしら?」
「あいつは昔からああいう奴ですよ。ただ、ああいう素の態度で接する対象が、去年から少しずつ拡大されてはいますね。僕らと同じで、あの馬鹿に絆されたんですよ。振り回されてる内に」
そう言ったカンタンケラス・ノットの隣で、ピューシン・レストレンジは何か言いたげにノットの横顔をジッと見つめていた。
「なんだレストレンジ」
「アタシたち2人でさ。マルフォイに料理を教えてもらうってのはどうかなって」
「いいなそれ。マルフォイもマルフォイのお父上とお母上も、世界中の色々な料理をご存知だし」
その会話が聞こえている当のマルフォイは、「勝手な奴らだ……」とかなんとかブツブツ呟きながら、手際よく野菜類の下ごしらえを進めている。
「マルフォイマルフォイ、僕もお腹すいた」
「お前は今さっき昼食を終えたところだろう?? それにスウィーティングの話じゃお前、今日は朝食を3回食べたんだろう? なのにか?」
「だってお腹すいちゃったんだもん」
「……わかったからちょっと待ってろ!」
そんな光景を見ながら、ミラベル・ガーリックは「スリザリンに5点ね」と宣言したのだった。
そしてダンブルドア少年は、調理を進めるマルフォイ先輩と、その横で絶えずちょっかいをかけ続けているストンとした体型の女生徒をぼんやりと眺めて、気付いた。
「…………そっちのカラスは先輩じゃなくてアミットさんなんですね!」
「ぇぇぇ今更かいアルバス……」
アルバスって時々ものすごくニブいよなあと思いながら、その女生徒はマルフォイが魔法薬の醸造に使う大鍋を変身させた底面が広い鍋の中へと手を伸ばして、つまみ食いを試みた。
「あ痛」
「こら。我慢してろ。火傷したいのか」
マルフォイに手を叩かれた女生徒が「ちぇー」と言って退散したのを見て、ミラベル・ガーリックの服の中に収まって首元から顔だけ覗かせているワタリガラスが楽しげに啼き声を上げる。
「ガーリック先生、ガーリック先生。暴れ柳をやると聞いたんですけど。人数分確保できるようなものなんですか? とてもとても貴重な種類の植物ですよね?」
ダンブルドア少年は、さっき先輩たちに訊いたけれど結局答えは得られなかった質問を、今度はガーリック先生に投げかけた。
「いいえ。でも、だからこそ7年生でやるのよ。O.W.L.試験に合格して、6年生での学びを終えて。それでもまだ薬草学を学びたいって思ってくれる生徒になら、暴れ柳も任せられる。それに、そんな生徒は5年生までの薬草学の授業を受ける生徒の数よりずっと少ないから」
私がO.W.L.の結果を見て篩い落とすから少ないんだけどねと言いながら、ガーリック先生はダンブルドア少年の目を見てニッコリした。
「暴れ柳って、暴れるんですよね?」
何を当たり前の事を言いたげな表情をしたノットが、向こうで呆れ顔を浮かべている。
しかしガーリック先生は、ダンブルドア少年の間の抜けた質問にも真摯に対応してくれた。
「そうよ。鉢が気に入らないと自分で叩き割ったりするのよ。大きさとか、デザインとかね」
「自分がどんなデザインの鉢に植えられているのかを認識してるんですか?」
「そうよ。隣の温室で世話してる子たちは、赤い鉢じゃないと暴れたり、何か模様の入った鉢じゃないと暴れたり、逆に塗装されてる鉢を嫌がったり、みんな個性的で楽しいわよ」
「その、それぞれの好みを。どう識別するんですか? 色々ひとつひとつ試すんですか?」
魔法生物学に通じるものがあるのかもしれないと、先輩がどうやって魔法生物たちの意思を窺い知っているのかを学び取れるかもしれないと思いながら、ダンブルドア少年は訊いた。
「えーーっとね。暴れ柳に限った話じゃあないんだけれど、それぞれの子たちで全然違う個性と、その種に共通する特徴とがあるのよ。例えば暴れ柳なら――あらいらっしゃい。アナタはもちろん知ってるわよねミス・タグウッド?」
ギャレス・ウィーズリーとポピー・スウィーティングを連れて、そして何やら大きな鉢植えを浮遊させて運びながら温室へと入ってきたサチャリッサ・タグウッドに、ミラベル・ガーリックは何の説明もせずに話を丸投げした。
しかし薬草学の成績1位を入学依頼ずっとキープし続けているサチャリッサ・タグウッドは、何を訊ねられているのかを即座に理解して回答した。
「暴れ柳の特徴ですかガーリック先生? そうね、押すと大人しくなるツボがあるわ。どこにあるのかは個体によるけれど。だいたいは根元近くにある瘤がそうね」
「その通り。ハッフルパフに1点あげるわ。……で、ミス・タグウッド。その鉢植えはなあに?」
「私が品種改良して作った新種です。ガーリック先生に見てほしくて持ってきました」
その鉢植えは、柳なのだろう風体をしていたが、葉は赤紫色だった。
さらにダンブルドア少年がよく見てみれば、枝の先までトゲだらけだった。
「これは何と何を掛け合わせたのかしら、ミス・スウィーティング?」
既にそれを推察できているミラベル・ガーリックはしかし、あえて制作者当人にそう訊ねた。
「はい! 暴れ柳と毒触手草を掛け合わせた、『大暴れ毒柳』です!」
「そんな事しちゃダメなんじゃないですかタグウッド先輩?」
この人もそうなのかと思いながらそう言ってしまったダンブルドア少年は、脳内で今までずっとアミット・タッカーやマルフォイ、リアンダー・プルウェットやヘクター・フォーリーなどと同じ「なんの心配も要らない頼れる7年生」に分類していたサチャリッサ・タグウッドを、ギャレス・ウィーズリーやポピー・スウィーティング、そして筆頭たる今ガーリック先生のスカートを捲ろうとして咎められている困った先輩と同じ、「ちょっと目を離した隙に何をしでかすやらわからないのに何でも成せてしまう困った先輩たち」に再分類したのだった。
「毒もすっごく強くなったし枝の力も元の暴れ柳と比べてすごく強いのよガーリック先生!」
「まあすごいじゃないミス・タグウッド! よくやったわねえ!」
お説教が始まるものだと信じていたダンブルドア少年は、何かが気に入らなかったらしく激烈に猛り狂っているトゲだらけで赤紫色の柳の鉢植えを横目に、褒めているガーリック先生と褒めてもらえて嬉しそうなタグウッド先輩を、唖然としたままただ眺め続けた。
「ねえねえサッちゃん。その鉢植え売ってほしいんだけど」
「こちらこそ、アナタのカバンの中の庭に植えさせてほしいのよね」
お互いの目を束の間見つめたその7年生2人は、数秒置いてから同時に口を開く。
「勿論!」
じゃあ授業終わりに詳しい話をしましょうと言ったサチャリッサ・タグウッドは、ずっと気になっていたらしいマルフォイの調理に加わっていく。
「ねえそれもしかしてビリヤニ? 何か手伝わせてくれないかしら」
「じゃあそっちの鍋を世話してくれるか。米の準備をしてるんだ。ある程度炊けたらこっちの、ビリヤニ鍋で具材と合流させて、さらに炊き込む。……ノット、レストレンジ! 味見しろ」
真っ赤に染まった大きな茄子が乗った皿を浮遊させてよこしたマルフォイは友人たちの方を振り返りもせずに調理を進めている。ウィーズリーの奴が到着するより早く調理と配膳を終えなければ如何な薬を混入されるやら解ったものではないと、マルフォイは仄かな焦りに駆られていた。
「美味い!」
背後から投げかけられた嬉々とした感想を受けて、その声色から「もうちょっと辛くてもいい」という本音を読み取ったマルフォイは縦に割った青唐辛子を底の広い鍋の中で既に真っ赤に染まっている茄子や肉や豆類の上からドッサリと追加投入した。
「お米いいわよマルフォイ」
「よし、じゃ全部こっちに」
そしてマルフォイが調理を終える頃には、薬草学の授業を受ける7年生たちがほとんど全員温室にやってきていた。
「おいおい、今日はまた随分うまそうな匂いがしてるな。何やってんだお前ら?」
「ガーリック先生、植物の世話に夢中で昼食を抜いちゃったらしいのよクラッブ、ゴイル」
「コイツを含めてもちゃんと全員分あるぞ、ナスとチキンのダムビリヤニ。食べる奴、挙手」
その場の7年生全員が手を上げ、ポピー・スウィーティングが「ヘイゼルもほしいって」とマルフォイに言ったのを見ながら、辛いのがとても苦手で茄子も苦手なダンブルドア少年は、まんまるの顔をギュウギュウと歪めて悩んだ後、覚悟を決めて控えめに手を上げた。
本来もっと時間がかかる調理工程のどこを魔法で「スッ飛ばす」のか、どこを「飛ばさない」のかを、マルフォイは父上と母上と一緒に去年旅したインドで、現地の魔法族から学んでいた。
「このレシピを僕と父上と母上に教えてくれた、母上のインド魔法省のご友人は…………というかあちらの魔法族はこれを直に右手で掬って食べるのが『当然のマナー』なんだが、お前らは別にスプーンとかフォークとか使っても誰も咎めない。――ガーリック先生はどうなさいますか?」
私はフォークを使うわと言ったガーリック先生も含めて、誰にもスプーンもフォークも配らないマルフォイ先輩を疑問を抱きながら見ていたダンブルドア少年は、すぐにそんな必要は無いのだと悟った。ここに居るのは自分以外みんな、7年生なのだから。
「…………僕はスプーン、いやフォークだな。このサイズの具材にスプーンじゃ溢すな僕は」
そう言ったルーカン・ブラトルビーが気軽に振った杖の先から立ち昇った煙は、すぐに形を変え材質も変化させて銀のフォークに変身した。
他の7年生の先輩たちも各々に変身術を行使して、フォークなりスプーンなりを出現させて既に次々と食事を開始している。
今しがた昼食を終えたばかりの彼ら彼女らは、満腹だと思っていたのにもかかわらず、マルフォイが作った茄子とチキンのダムビリヤニの香りに鼻をくすぐられて、見事に食欲が復活していた。
「から! 美味!! マルフォイ、美味い! ありがとう!!」
真っ先にそう言ったレストレンジに自分もフォークで食べ進めながら「どういたしまして」と控えめに返したマルフォイは、口の端だけでほんの少し笑っていた。
「美味い。茄子美味い。米も美味い。この変な匂いの葉っぱも美味い」
「コリアンダーって言うのよゴイル」
「にゃー辛い! にゃーぁ辛い!! からい!! おいしい!!」
「お前辛いの苦手なのに、いつも辛い味を食べたがるよな」
「苦手だけど好きなの! だって美味しいから! 辛さの向こうに美味しさがあるから!」
そう言いながら騒がしく食べ進めている女生徒を筆頭に、その場の半数ほどの人間が果敢にも「現地式」の、素手で直接という食事方法に挑戦していた。
「アナタも食べたいのねアミット?」
ミラベル・ガーリックはそう言いながら、自分の服の首元から顔だけ出しているワタリガラスに一口ぶんのビリヤニをスプーンで給餌している。
元はインドの「マグルの」習慣であるその食べ方、というよりは「手の使い分け」を完璧には理解していない一同と、理解しているが別にそんないちいち咎めなくてもいいだろうここはインドじゃあないんだからと思っているマルフォイの視界の中には、左手で「現地式のマナー」を試してみている左利きの7年生も、何人かは居た。
「食べやすいけどなんか、こう、背徳感があるな」
「同感」
セバスチャン・サロウに続いてそう一言述べた女生徒は、両手でガツガツと食べ進めていた。
「お前、それは流石に向こうでもマナー違反なんじゃあないのか?」
女生徒の向こうで右手だけを使ってビリヤニを食べ進めるオミニス・ゴーントの所作の美しさが、カンタンケラス・ノットにそう思わせた。
「もいひい!! おはぁり!!」
「よそってやるから口の周りを拭けお前は。どう食べたらそこまでになるんだ」
幾つものスパイスと食材、そして質の良い油が調和した食欲を唆る香りと、ビリヤニを食べ続ける先輩たちが立てる美味しそうな音に囲まれて、ダンブルドア少年は未だ決心ができなかった。
それは辛い料理を食べる決心でもなく、野菜を食べる決心でもない。
(ウィーズリー先生はなんて仰ってたかな…………呪文は本で読んだよな……)
もちもちと悩み続けているダンブルドア少年に、ビリヤニで口の周りがベチャベチャの女生徒がいつも通りの気軽な口調で声をかけた。
「きみならできるよアルバス。だってきみはアルバス・ダンブルドアなんだから」
そこでやっと「ダンブルドアは1年生だから無を物質に変身させる呪文はまだ習っていない」と気づいてスプーンとフォークを渡そうとしたマルフォイを、女生徒は制止する。
ダンブルドア少年は杖を取り出して目を閉じて、フォークという物品の形状と、材質、そして重さと本で読んだ呪文と、それを成功させるコツに全神経を集中させた。
ダンブルドアくんが何をしようとしているのかを察した7年生たちが1人また1人と食事を中断していき、ミラベル・ガーリックもおかわりした2皿目のビリヤニに手を付けるのを一旦止めた。
その場の全員の視線が自分に注がれている事すら、ダンブルドア少年の意識には入っていない。
そしてアルバス・ダンブルドアは目を開き、大きな声でハッキリと呪文を唱え杖を振った。
杖の先の空中に出現した銀のフォークを、7年生たちは驚愕に満ちた顔で見つめている。
「…………すごいわミスター・ダンブルドア!! 本当にすごい! グリフィンドールに30点!」
激賞しだしたガーリック先生に「たった30点? 今のが?」と抗議したのはマルフォイだった。
それを受けて「ホントね! もう20点あげるわミスター・ダンブルドア!」と言ったガーリック先生に、その場のスリザリン生もハッフルパフ生もレイブンクロー生も、誰一人反論しなかった。
7年生たちはただ、1年生が今のをやるのかという驚きでいっぱいだった。
「ほら。できただろうアルバス?」
ただ1人、口の周りがビリヤニでベチャベチャの女生徒だけが、全くびっくりしていなかった。
【ピューシン・レストレンジ】Pucine Lestrange
生没年不詳。フルクラン(2世)とジョデル・レストレンジの子。フルクラン(3世)とバルビン・レストレンジの妹。「ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生」に出てくる、レストレンジの家の家系図にのみ登場する。
リタ・レストレンジに繋がる家系の祖であるコーヴァス・レストレンジ(1世)の、弟の曾孫。
(ここまでが公式設定)
(ここからが私の妄想)
私の妄想の中ではレガ主と同じ1874年生まれで、10歳まで生まれ故郷のフランスで育ちボーバトンに通い、突如「ホグワーツに行きたい」とワガママを言って両親と兄と姉を困らせた。
そしてワガママが受理されてホグワーツに転校して、カンタンケラス・ノットと仲良くなる。
だって……純血だと断言できるスリザリンの同級生がさ……ゲーム内だけだと足りないから……