2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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7.青天の霹靂(中)

ブラック校長と魔法大臣が交わした酒の席での会話に伴う勘違いの連鎖によってホグワーツ城に隣接する寮対抗リーグ用のクィディッチ競技場で急遽開催する事になったブラック校長とシャープ先生とへキャット先生とウィーズリー先生 対 ギャレスとナツァイとセバスチャンとオミニスとイメルダとマルフォイとサチャリッサとポピーとアミットとヘクターともう1人の首席、という4対11の決闘は魔法省からの面々や生徒たちが見守る中、薬草学教授ミラベル・ガーリックの号令によって遂に開始された。

 

「「「「「「「「「「「エクスペリアームス!!」」」」」」」」」」

 

7年生10人による武装解除呪文の一斉射を、ブラック校長は失神呪文で軽々と迎撃してみせる。

 

「アクシオ!くっそやっぱダメか」

杖を持っていない方の手をいきなりシャープ先生に向けて相手の杖を「呼び寄せ」ようとした女生徒の不意打ちもアッサリと防がれる。不死鳥が歌いながら飛び回る中でホグワーツの校長と教師3人対生徒代表の7年生11名による、特別試合と銘打った決闘が、ついに開始された。

 

「腐ってもホグワーツの校長だね………!!」

 

杖を握る手に力がこもったアミットが呟く。空中でぶつかった武装解除呪文と失神呪文の光線がバチバチと激しく音を立てて押し合うが、10人がかりでもなお校長1人に押されている7年生たちは数秒の抵抗の後に押し切られ、左右に散開して身を躱す。

 

「ステューピファイ!」「インペディメンタ!」

 

ポピーとマルフォイが放った呪詛はへキャット先生に防がれ、シャープ先生の鋭い失神呪文をギャレスとイメルダが2人がかりで防ぐ。目まぐるしく呪詛が飛び交い、お互いに躱し防ぎ反撃し激しい攻防が繰り広げられるが、大方が予想した通りに、教職員陣営が優勢と言えた。

 

「そりゃま、普通に決闘してもつまんないよねー。見てるみんなももっと色々見たいだろうし」

女生徒がウィーズリー先生と呪詛を撃ち合いながらそう言った途端、飛んでいた不死鳥が空中で『姿くらまし』した。

 

「やるよ、『セバスチャン』」

 

女生徒の背後の空中が燃え上がり、炎の中から立派なヒッポグリフが姿を現した。そしてヒッポグリフの背に乗っていた不死鳥は翼を広げて再び飛び立つ。

ポピー・スウィーティングがヒッポグリフのセバスチャンに一礼すると、ヒッポグリフはすぐにお辞儀を返してポピーにすり寄る。

 

貴賓席の面々がどよめく中、ブラック校長と3人の先生方は間違ってもヒッポグリフに呪詛を当てないよう注意を払いながら各々数人の生徒を相手しており、時折的を外れた呪文が観客席に飛び込んではその手前に張られた保護呪文の透明な壁に遮られて大きな音を立てている。

 

「イメルダ、これ!」

女生徒がどこからともなく取り出した競技用箒を受け取ったイメルダと、ヒッポグリフのセバスチャンに乗ったポピーが同時に飛び立つ。さらに。

「デパルソ!」

不死鳥の力を借りて炎とともに「姿くらまし」した女生徒が先生方の背後に現れて呪詛を放つが、すんでのところでウィーズリー先生に防がれる。

 

「楽しくなってきたね?」

 

ずっと眉間にシワを寄せたままオミニスとマルフォイの猛攻を凌いでいるブラック校長がイメルダ・レイエスによる頭上からの攻撃を躱す様を見ながらそう言って笑ったへキャット先生は、アミットとヘクターが同時に撃った呪詛を片手で払うとその時ちょうどクィディッチのゴールポスト付近を飛んでいたポピーに正確な狙いで失神呪文を放った。

 

「ゎぁプロテゴ!…………反撃しましょうセバスチャン!」

ポピーを背に乗せて飛ぶヒッポグリフはその声に答える。

 

「うわ、怖!」

 

高速で飛来したヒッポグリフに蹴り飛ばされそうになったへキャット先生がギリギリで避けたのを見て、観客席のエルファイアス・ドージが声をあげる。

 

「よし、そこだギャレス!ブッ殺しな!!あチクショウ、よし、いいよギャレス!」

貴賓席では大きな声の老婆が大興奮している横で、魔法ゲーム・スポーツ部の部長がずっと笑い続けている。

 

「坊ちゃんは素晴らしい杖捌きですな。ご友人方との息も合っている」

周囲に座るホグワーツ理事の1人にそう囁かれたマルフォイ氏は、「当然ですな」とそっけない態度で返答したが、その口角は上がっていた。

 

「エクスペリアームス!インセンディオ!」

「エクスパルソ!」

 

オミニスの失神呪文を避けたブラック校長に楽しそうな女生徒とナツァイ・オナイが左右から迫っている。

 

「さて今度は何が出るんでしょうな」

飛んでいた不死鳥が再び姿を消したのを見てスパーヴィン魔法大臣の隣に座る魔法法執行部部長が呟いた。

 

「おいで。ミラベル!」

 

観客席の一角、貴賓席のすぐ隣に座っている薬草学教授ミラベル・ガーリック先生がビクリと反応した直後、その女生徒の傍に噴き上がった炎の中から現れたその生き物を見て、観客席どころか戦っている7年生たちと先生方すらもどよめいた。

 

「わあー、おっきいヘビさん!」

ハッフルパフの1年生の女の子が目を輝かせている横で、7年生のアデレード・オークスが目をひん剥いて驚いている。

 

「ちょっと、その子カバンから出しちゃダメって取り決めだったんじゃないの?!」

ウィーズリー先生の呪詛を辛くも躱したサチャリッサが小声で問い詰めるが、その視界の端の貴賓席では去年その決定を下した当人である魔法生物規制管理部の部長が、「ホグワーツ内だし別に構わんよセーフセーフ!」という表情で笑っていた。

 

「おおー、無事に育っているようだ。何より何より」

そう呟いた魔法生物規制管理部部長を、スパーヴィン魔法大臣と魔法法執行部部長がじっとりとした視線で睨みつけている。

「……………お互い様でしょう、大臣閣下?」

ニヤリと笑ってそう嘯いた同僚に、魔法省の高官2人は大きな溜め息をついた。

 

「なんだあのデカいヘビは………!あんな美しいヘビが居るのか………!!」

スリザリンの1年生が、その姿をよく観察しようと前のめりになっている。

 

「ホーンド・サーペント。危険極まる魔法生物で、北米に大昔から住んでいるマグルどもは信仰の対象にしている。見ての通り頭に2本の角があり、額には宝石。極東に棲息している近縁種の中には額の宝石が無いヤツも居るらしいが、一方西ヨーロッパに於いてはその額の宝石などを狙った魔法族によって既に絶滅した。そして魔法省の勧告ではドラゴンやマンティコアなどと同列の扱い『見かけたら全力で逃げろ』だ」

 

隣に座る同じスリザリン寮で純血家系の7年生ノットが、その目を輝かせる1年生の男子生徒に解説している。

 

「ステューピファイ!インペディメンタ!………まあ、効かないだろうね」

ウィーズリー先生は、そのホーンド・サーペントの太くしなやかな胴体と美しい鱗が呪詛をまるで少々の水でもかけられたかのようにアッサリと弾くのを見て気を引き締めた。

 

そして呪詛や呪文が目まぐるしく飛び交い鋭い音が響く中、ブラック校長と交戦し続けているオミニス・ゴーントが口からシューシューと空気の漏れるような音を立て始める。しかし観客席でその事に気づいた者は少数であり、その音の正体に思い至った者は更に極一部だった。

 

〈やあミラベル。半年ぶりくらいかな〉

〈おお、以前この愚かな子に私の言葉を通訳してくれた……オミニスと言ったか〉

 

「それゆけミラベル!校長を食べちゃえ!!」

 

〈俺の名前を覚えててくれて嬉しいよ。………カッコ悪いとこ見せられない勝負をしてるんだけど、力を貸してくれるかい?〉

 

「あ、ダメ!やっぱりダメ!食べちゃダメだミラベル!ブラック校長なんて食べたらミラベルお腹壊しちゃうよ!噛むだけにしよう!校長を噛んじゃえミラベル!!」

 

〈この愚かな子の助けになるなら、喜んでそうするとも〉

 

貴賓席ではファリス・スパーヴィン魔法大臣が楽しそうに笑っている。

オミニスの傍に佇んでいた見上げるほど大きなホーンド・サーペントと目が合い、途端にその、額に碧色の宝石が煌めいている蟒蛇が己の方に猛進してくるのを目撃したブラック校長の杖を握る手に力がこもる。

 

「「ステューピファイ!」」

 

アミットとヘクターが同時に放った失神呪文をひょいと避けたシャープ先生に、背後からセバスチャンが迫る。

 

(ディフィンド!)

シャープ先生の不自由な方の足を無言で切断しようとしたセバスチャンの呪文はウィーズリー先生の妨害によって的を外れ、シャープ先生の足元の地面を抉る。

 

「ボンバーダ・マキシマ!」

 

その抉れた地面を楽しそうに笑っている女生徒が爆破し、シャープ先生は防ぎこそしたものの大きく体勢を崩した。そこに急降下してきたイメルダと、ウィーズリー先生と交戦しながら狙いを定めたサチャリッサが呪詛を放つ。

 

「コンフリンゴ!」「ステューピファイ!」

 

観客席のミラベル・ガーリックが思わず「シャープ先生!」と叫んだ。

 

「プロテゴ!!」

 

轟音が響き、土煙が舞う。やりすぎたかという思いが一瞬よぎったサチャリッサが心配そうに覗き込むが、そこにへキャット先生が無言で失神呪文を飛ばした。

 

「プロテゴ!………気を抜くなタグウッド!シャープがあの程度でやれるか!」

ブラック校長の呪詛を避けながら盾の呪文を飛ばして庇ったマルフォイが叫ぶ。

土煙の奥へ、そこにいるであろうシャープ先生に女生徒が投擲した植物は案の定土煙の向こうから飛んできた呪詛に撃墜され、地面に転がる。

 

「プロテゴ・マキシマ!」

 

何かを察知してそう叫んだシャープ先生を雲ひとつ無い晴天の空から落雷が襲った。

盾を貼りつつ大きく飛び退いたシャープ先生は真っ先に今しがた噛み噛み白菜を投げてきた女生徒を見るが、その女生徒はセバスチャンを筆頭としたスリザリン生4人と共にブラック校長へ猛攻を仕掛けている最中だった。

 

「詳しい生態や能力については昔読んだ魔法省の資料でしか知らんが…………まあ、このくらいできても不思議は無いな。―気づいているぞヘクター・フォーリー!」

背後からの不意打ちに対応したシャープ先生は巨大なホーンド・サーペントを睨む。

 

〈おお。そうか、防御しつつ回避もする。そういうのもあるのか〉

 

その発言を試合会場であるクィディッチ競技場に集まった大勢の中で唯一聴き取れるオミニスは、マルフォイに横から迫ったへキャット先生の呪詛を割って入って防ぎながらホーンド・サーペントに蛇語で話しかける。

 

〈楽しそうだねミラベル〉

〈楽しいとも。こうして実際に戦うのは生まれて始めてなのだから〉

 

戦塵が舞い呪詛が飛び交うクィディッチ場を囲む観客席は、みな思い思いの相手を応援しながら大いに盛り上がっていた。

 

「ねえ、アデレードおねーちゃんもあんなふうにびゅんびゅーんってできるの?」

目をキラキラと輝かせた1年生の女の子にそう訊かれた7年生アデレード・オークスは「む、無茶言わないでよ!」と慌てている。

 

「スウィーティングがあそこまで戦えるとは知らなかった」

ハッフルパフの7年生アーサー・プラムリーは、ヒッポグリフの背に跨り縦横無尽に飛び回って先生たちの頭上から一撃離脱を繰り返すポピー・スウィーティングを見て大いに感嘆していた。

 

「やっぱり先生方、今の今までちょっと手加減してましたよね。あの大きな蛇が積極的に参加し始めてからシャープ先生とか表情変わりましたし」

ダンブルドア少年が、失神呪文を放とうとしたアミットが唱えきる前に杖を一振りして阻止したウィーズリー先生を見据えて言う。

 

「インペディ―くっそ!」

「ステュー―ああまたか!」

 

へキャット先生に挑んでいるナツァイ・オナイとブラック校長に呪詛を撃とうとしたマルフォイも揃って唱えきる前に阻止され歯噛みする。

 

「うわ!………急に邪魔されるようになったな」

 

へキャット先生を狙おうとしてシャープ先生に杖の一振りで吹っ飛ばされて来たセバスチャンが素早く起き上がりながら、隣でホーンド・サーペントのミラベルの太く長い胴体を盾にしている女生徒に言う。

 

「コンフリ―……プロテゴ!!手加減してくれてたって事なんじゃないの?」

口ではプロテゴと言いつつマルフォイの後ろに隠れたサチャリッサが言い、盾の呪文が割られると判断したマルフォイに続いて大きく飛び退いて避ける。

 

「違う違う。いや、もちろん手加減はしてくれて、た!だろうけど!デパルソ!」

向こうでヘクターとアミットの相手をしているへキャット先生が不意に飛ばしてきた呪詛をギリギリ躱して反撃しながらセバスチャンが言う。

 

「むむむむむむ………!!む!む!……むぅーー!!!むぁー!!」

ブラック校長が次々に放った呪いをどうにかこうにか凌ぎ切った小柄だったはずの女生徒は、いつの間にやらシャープ先生と変わらない背丈になっていた。

 

「先生たちの顔よく見てみなよサチャリッサ」

 

女生徒にそう言われたサチャリッサが改めて見てみれば、いつも通りの冷静な表情だったはずの先生たちの顔には揃って楽しそうな笑顔が浮かんでおり、ブラック校長すらいつも生徒を見る時の厄介事に見舞われたと言いたそうな顔ではなくなっていた。

一方の7年生たち、生徒を代表している11人のほとんどは今や必死の形相で先生たちに挑み続けている。

 

「がんばれアミット!ヘクター!レイブンクローの星!」

ダンカン・ホブハウスが拳を握って叫ぶ。

 

「いまマルフォイの奴がモロに喰らったシャープの呪い、アレ何だ?」

「見ての通り、なんじゃないか?耳からヒマワリが咲いてるぞアイツ……あ治した」

「うわ、あの杖の動きは不味い避けろオミニス!………あぁ良し2人で防いだ」

「そんななのか今の?…………ああ『ヴェラベルト』か。おっそろしい事しやがる」

 

スリザリンの7年生たちは飛び交う呪文のひとつひとつを興味深げに分析している。

 

「あ、とうとうギャレスとあのおバカがお行儀よくしてられなくなってきたわね」

スリザリンのグレース・ピンチ・スメドリーが言い、周囲の同じスリザリンの7年生達も頷いて同意を示している。

 

「はい?あの荒っぽさで?アレで今までお行儀よく戦ってたんですか??どこが?」

クィディッチ場中央の戦場を挟んでスリザリン生たちの反対側の席でも、ダンブルドア少年が隣のリアンダーから同じ事を聞かされていた。

「見てればわかるよ」とリアンダーは笑っている。

 

「大丈夫かいサッちゃん?」

徐々に先生たちの攻撃を防ぎきれなくなってきた生徒代表の7年生11人の中にあって、その女生徒もまた、心底楽しそうに笑っていた。

 

「よーし、やるよ!」

 

女生徒がそう言った途端に、箒に跨って飛ぶイメルダとヒッポグリフに乗ったポピーよりもさらに高い位置を歌いながら飛び回っていた不死鳥がまたしても姿を消す。

 

「む、何だい?」

「交代というわけかね?」

 

ウィーズリー先生とブラック校長は、生徒たちを凌ぎながら2人がかりで相手していたホーンド・サーペントが急に溶けるように消えたのを見て訝しむ。

 

「あんな事もできるんですねあの大きな蛇」

ダンブルドア少年が斜め後ろのグリフィンドールの7年生からポップコーンを少し分けてもらいながら言う。戦場であるクィディッチ場を囲む観客席の皆は今や、食べ物をシェアしたり天文学用の遠眼鏡を取り出したり魔法生物図鑑を見たり呪文学の教科書を参照したりとかなり気ままな様相で楽しく観戦していた。

 

「ホーンド・サーペントの額に嵌った宝石からは透明化や飛行の力を得られると言われている。だからあの蛇がそれらの力を使えても不思議は無いし、それらの逸話の出処自体が過去のホーンド・サーペントとの遭遇事例ということも考えられる」

リアンダーが去年の魔法生物学の記憶を頼りに言う。

「それが、宝石を得た者が居たからこその逸話なのか、逆にその宝石の話がホーンド・サーペントの外見と能力から広まった風説なのかは………」

ダンブルドア少年の質問に、リアンダーは概ねダンブルドア少年の予想通りの返答をした。

 

「『去年習った』って事だけは覚えてる」

 

ダンブルドア少年は溜め息をつき、リアンダーは誤魔化すかのように笑う。

そしてまた、観客席全体が大きくどよめく。

 

「行くよジェフ、スコット、ジョン、バージル、ゴードン、アラン!」

 

女生徒の頭上、イメルダとポピーの間の空中が炎上し、そこから次々と現れた幾つもの翼を持つ金色にも見える白い大きな鳥が、羽撃きの度にバチバチと放電しながら上昇していく。

 

「お願い、ペネロープ!サンダーバード、発☆進!」

 

最後に不死鳥と共に現れた少し細身に見える個体の背に跳び乗った女生徒は歌など歌いながら杖を振るい、ブラック校長とへキャット先生に雷撃を見舞う。

 

「サンダーバード………そんな馬鹿な……!」

雲の中へと消えていった6羽と未だクィディッチのゴールポスト程度の高さで羽撃いて滞空している1羽、何よりその背に乗って大はしゃぎしている女生徒を見ながらダンブルドア少年が呟く。

 

「あの子たちはアイツが去年のイースター休暇中に密猟者から保護した七つ子だよ。アイツの言う事しか聴かない上にアイツから引き離そうとするとめちゃくちゃに暴れるんで、特例で飼育許可貰ったらしい」

 

「七つ子?!!サンダーバードの?!一度にそんな数の卵産む事あるんですか?」

リアンダーの解説を聞いたダンブルドア少年は目をひん剥いている。

 

風圧と電撃を撒き散らしながら上昇していった女生徒とサンダーバードのペネロープを追撃しようとしてやめたブラック校長にセバスチャンとオミニスが呪詛を飛ばす。

7羽のサンダーバードによって雲ひとつ無かった空はみるみる内に暗く閉ざされ、思わず恐怖を感じてしまう程の叩きつけるような大雨が降り注ぎ、会話が困難な頻度と音量の雷鳴が響き始めた。

 

地面にできた水溜まりに杖を向けたギャレスはその水を『呼び寄せ』、そこに反対の手に持った何らかを投入している。

 

「おい何してるギャレス!!!」

 

それを見て取った周囲の友人たちは先生たちが飛ばす呪詛よりもこっちのほうが危険だと経験から察し、各々先生たちと交戦しながらも「すぐに防御」と己の脳と四肢に言い聞かせる。

 

「ジェミニオ、エンゴージオ。アヴェンジグイム!」

変な色になったそのクアッフルほどの水の玉は、ギャレスの呪文によってシャープ先生へと勢いよく迫る。

 

「エクスパルソ!!」

 

シャープ先生が、透明になったままそこらを動き回っているらしいホーンド・サーペントのミラベルを盾にしながら左右から絶え間なく攻撃してくるアミットとヘクターへ意識を割くために、ナツァイ・オナイのその呪詛を最小限の動きで避けようとしたのは、失敗だった。

 

ナツァイの発破呪文はシャープ先生ではなくギャレスが飛ばした水の玉に命中し、激しい水飛沫がシャープ先生の目の前で飛び散る。

 

「ポリジュース薬に動物の毛を入れたなギャレス・ウィーズリー!!」

「今度の演劇でパフスケインの役をなさるんですか?ずいぶん良くできたコスチュームですねシャープ先生!!」

 

観客席から歓声が上がる。特にグリフィンドールの生徒たちは大喜びしていた。

 

「よーし!それでこそギャレスだ!!」

リアンダーが飛び跳ねている。

 

「なにこれアデレードおねーちゃん!!なんでお天気悪くなったの?!!!」

ハッフルパフの女の子が自分たちの頭上の見えない壁に阻まれ散っていく豪雨を見ながら、出せる限りの声量で訊く。

 

「あの大きな鳥は『サンダーバード』!羽ばたくと嵐を呼び起こすの!それが7羽もいるからこんなになってるのよ!!」

アデレード・オークスも雨音と雷鳴に負けないよう声を張り上げている一方、貴賓席の傍の席ではミラベル先生と占い学教授ムディワ・オナイが観客席を覆う保護呪文に杖を向けて何やら調節している。

 

「これで、雨音と雷の音だけ遮れるかしら。完全には遮音しないほうがいいわよね」

気が済んだらしいミラベル先生が杖を仕舞い、周囲の反応を見て充分と判断したオナイ先生も座った。再び快適に観戦できるようになった保護呪文の壁の内側に対してその外、雨も雷鳴も一層激しさを増していくクィディッチ場で戦い続けている面々はもはや自分以外の人間の声など聞き取る事もできなくなっていた。

 

「無言呪文とかしなくてよくなったね……」

そう呟いたオミニスも、他の誰も、この凄まじい雷雨によって自分たちの連携が阻害されるなどとは全く心配していなかった。

 

「アナタ、怖くないの?!セバスチャン?」

ポピー・スウィーティングは自分を乗せて飛ぶヒッポグリフが雷鳴を一切気にしていないらしい様子なのを見て驚いている。

 

頭上から響く雷鳴はますます激しくなり、分厚い雲に覆われたままの空が異様に明るくなり始めたのを見て、箒に跨って飛び回っていたイメルダはへキャット先生との呪詛の撃ち合いを中断し、ブラック校長が放った失神呪文を躱して空へ、雲の中へと上昇していく。

 

ギャレスとナツァイに浴びせられたポリジュース薬が口に入ってしまった事で巨大なパフスケインに似た毛玉人間となったシャープ先生は、尚もその身を豪雨に打ち据えられながら生徒たちと戦闘を続けた事によって、すぐにコモンドール犬もかくやという、二足歩行するモップとでも言うべき珍奇な風体と化した。

 

「ステューピファイ!!!」

 

ほとんど怒鳴るような発声でギャレスめがけて叩きつけられた失神呪文を、アミットとマルフォイとサチャリッサが3人がかりの「盾の呪文」で防ぎ、そして防ぎきれずにギャレス共々まとめて吹っ飛ばされる。

 

「まだやれるだろう、サチャリッサ?」

ギャレスが吹き飛ばされながら咄嗟に身を挺して庇ったサチャリッサを、アミットがそう言いながら助け起こした横では、真っ先に起き上がったマルフォイがシャープ先生に呪詛を撃ち返している。

 

全身から長く長く伸びた大量の毛が雨水を吸って重くなり、それが地面に引き擦る長さゆえに泥にまみれて更に重くなった結果どんどん動きが鈍くなっているシャープ先生は今や、ほぼ「移動」と「回避」を己の行動の選択肢から切り捨てていた。

 

「プロテゴ!」

 

マルフォイの呪詛を防いだシャープ先生は、正面でへキャット先生の妨害呪文を躱したギャレス・ウィーズリーがまたしても何らか液体が入った小瓶を取り出すのを目撃した。

 

「オパグノ!」

サチャリッサがいつの間にか持っていた鉢植えをブラック校長の方に放り投げ、それにセバスチャンが呪文をかけてブラック校長を襲わせる。

「ルーモス・ソレム!」

自分の方に投擲された何かが危険な肉食蔓「悪魔の罠」だと即識別したブラック校長は「悪魔の罠」の弱点である太陽光を照射するが、そこにギャレスが開栓した小瓶を投げつける。

 

「何?!」

 

その中身を浴びた途端光に一切怯まなくなった「悪魔の罠」の次々伸びてくる太く獰猛な蔓をブラック校長は対処療法的に次から次へと「切断」していくが、その隙を縫って撃ち込まれるマルフォイとオミニスの呪詛と、さらに2人の隙をカバーするかのようなタイミングで時折その嘴や足の鉤爪を閃かせ肉を抉りに来る不死鳥にも対処している内に、校長は滅多に見られないほど必死の形相と敏速極まりない身のこなしと杖捌きになっていく。

 

「「「「プロテゴ・マキシマ!」」」」

 

突如ブラック校長と3人の先生たちを同時に落雷が襲い、それを辛くも防いだ先生方の見据えた先、快晴よりもよっぽど明るい異様な色の空からは耳を抑えたくなるほどの雷鳴が響き続けている。

 

「先輩も、あのスリザリンの方も全然降りてきませんけど何してるんですかね?」

首が痛くなりそうな姿勢で空を見上げているダンブルドア少年が言う。

 

その空の上、雷鳴轟き稲妻閃く雲の中では、自分の頭に向けた杖を一振りしてマンドレイクなどを扱う時用の遮音魔法が施された耳あてを装着したイメルダが箒にしがみつきつつ必死で杖を操って、肌を掠めていく稲妻から身を守りながら、己の目の前で大はしゃぎで杖を振り回すアホの友人を説得しようと試みていた。

 

「何考えてるのこのおバカ!!!危ないからやめなさいよ!!死んじゃうわよ!!」

「うひゃははは!!!!あーーはははは!!!いいよみんな、もっと!もっと!」

 

周囲で轟き空気を裂く数多の雷を杖で気ままに操りながら、その女生徒は楽しそうに周囲を飛び回る7羽のサンダーバードたちの背中から背中へと目まぐるしく跳び移り続けている。

凄まじい雷鳴と稲光に包まれているその空間はイメルダに、死の危険に八方取り囲まれているという事実から来るものとはまた違う種類の「畏れ」を抱かせた。

 

目が眩むほどの光量と命の危機を感じさせる空気の震動にもかかわらず、イメルダには何故か周囲の雷鳴の音だけがまるで遥か彼方から響いてきているかのように小さくか細く感じられた。

その刹那。

 

「イメルダ」

「な、何よ………」

 

何の前触れも無く沈静化した女生徒に名前を呼ばれたイメルダは、ちょっと怯えながら返事をする。何対もの翼を羽撃かせてホバリングしているサンダーバードの背にまっすぐ立って見つめてくるその女生徒から、イメルダは目を離せなかった。

 

その女生徒の髪もまた、パリパリと帯電して逆立ち、踊っている。

 

そして女生徒は箒にしがみついているイメルダにニッコリと人懐っこく笑いかけると今やもう一体全体幾筋の稲妻がそこに集っているのか数える事も不可能な、直視できないほどの眩い光を放っている杖を大きく頭上に振り上げる。

 

周囲を走る稲妻もそれに付き従い、再び、全身を引き裂かれそうな程の雷鳴が、魔法のかかった耳あて越しとは思えない破壊的な音量でイメルダを襲う。

 

「ヒッ………!!」

 

そして悲鳴を上げて身を竦めてしまったイメルダが気づいた時には、その女生徒は既にサンダーバードの背から飛び降りた後だった。

 

「え。………………わぁ馬鹿馬鹿馬鹿ばかばかばか!!!!!」

一瞬思考が凍結して状況が飲み込めなかったイメルダは慌てて女生徒を追う。

 

一方。地上では今や観客席のみならず戦っているはずの7年生たちと先生方すらもが、お互いに杖を向け合ったまま呆気にとられて空を見上げていた。

 

「ディセンド!!」

「何してんのおバカ!!!!!!」

 

勢いよく自由落下しながら杖を持っていない方の手の人差し指を自分に向けた女生徒は、遥か下のクィディッチ場を見下ろすと、追ってきたイメルダの目の前であろうことか「降下呪文」を自分にかけることで更に加速する。

 

ダンブルドア少年には、まるで空が剥がれ落ちてきたかのように見えた。

 

分厚い雲に覆われて暗いはずのホグワーツの空を、夏のよく晴れた昼間を遥かに超える明るさにまで照らしていた猛烈な雷は根こそぎ天から引き抜かれて地上へと落ちてくる。そしてその数え切れないほど多くの稲妻をその手の杖で全て束ねている女生徒もまた、ものすごい速度で落下してきていた。

 

「しょおおおおぉぉうぶだブラァック校長ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」

「なにかんがえてるんですか先輩!!!!!!!」

 

声を限りに叫んだダンブルドア少年が見上げる空の真ん中で、その女生徒は引き裂かれそうな笑顔と共に、空にある全ての雷を束ねている杖を思い切り振り下ろした。

 

「プロテゴ・ホリビリス!!!!」「フィアント・ドゥーリ!!!!」

「レペロ・イミニカム!!!!」「サルビオ・ヘクシア!!!!」

 

一斉に杖を空に向けたブラック校長とへキャット先生とシャープ先生とウィーズリー先生が同時に叫んだ保護呪文が折り重なって形成された透明で強固な屋根に、女生徒が投擲した全てをバラバラにしてしまいそうな程の雷の束が襲いかかる。

 

観客席の上級生たちは隣の下級生を咄嗟に庇い、貴賓席の面々もお互いを庇い合う。

地面が割れたかと思うほどの爆発音が全てを揺らし、観客席を覆っていた保護呪文の壁は跡形も無く消し飛んでいた。

 

「へキャット先生………」

 

気づいたら目の前にあった闇の魔術に対する防衛術教授の背中を、アミットが見つめている。へキャット先生だけでなくウィーズリー先生も、二足歩行の巨大なモップと化しているシャープ先生も条件反射で対戦相手のはずの近くの生徒たちをその身を挺して守っていた。

 

次の瞬間、ブラック校長の背後の空中が眩いオレンジ色の炎に包まれる。

 

「エクスペリアームス」

 

そこに現れた女生徒の不意打ちよりもブラック校長の反応の方が速かった。

女生徒の手から杖が吹き飛び、地面に落ちる。

 

「そこまで!!」

 

ミラベル先生の声が響き渡ると、クィディッチ競技場を大歓声が揺らした。

 

 






サンダーバード出したいけど名前何にしよう?

そんなの決まってるでしょ。だって「サンダーバード」だぜ?

じゃあ自動的に雄6と雌1になるよね!

という安直な発想。

ピーブズ「1892年は放送開始より73年も前じゃねえか、なんて指摘は野暮だぜぇ?」
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