2年後もしくは106年前 作:requesting anonymity
「さてお若い諸君、昼食は済ませたかね?食事を抜くのは感心しないぞ。あれほどの決闘を見た後では―そしてこの中の何人かにとっては戦い抜いた後では―数時間程度の空き時間だけで気持ちを入れ替えて授業に集中するのは難しいだろう。しかし、『目の前の物事に集中するのが困難だが、それでも集中しなければならない』という状況は人生において避けては通れない…………どうかね?……では、始めよう」
昼下りのホグワーツ城、その快晴の中庭では7年生たちが1人の先生の周囲に集まって、呪文学の授業が始まっていた。
「ホグワーツでは使い方を決して教えない魔法はいくつもある。そしてその中には、『どのような呪文なのか』だけは授業で扱う魔法もいくつかある。それらに遭遇した時、適切に対処できるようにな。さて諸君。行く手を炎が塞いでいる場合に、諸君ならどのような呪文を使うかね?では誰か…………ミスター・ラーソン。どうかね?」
呪文学教授エイブラハム・ローネンに指名されたレイブンクローのアンドリュー・ラーソンは真っ先に思いついた呪文を口に出す。
「アグアメンティ。『水よ』………消火します。火の勢いや規模にも依るけど」
「よろしい。一般的で適切な回答だ。即答したのも素晴らしい。悩む時間が与えられない試練も人生には多い……特に火に関してはな。レイブンクローに5点!では他には誰か……別の呪文は思いつくかね?」
アンドリューの隣、同じレイブンクローのエバレット・クロプトンが挙手し、ローネン先生に指名されて発言する。
「『炎凍結呪文』です。これなら火の勢いも規模も関係なく己の身を守れる」
「素晴らしい。炎凍結呪文は最も多くの魔女や魔法使いを火の脅威から守った呪文と言って良いだろう………これでレイブンクローはもう5点獲得したな。他には?誰か他の呪文を思いつく者は、…………きみならどうするかね?ミスター・サロウ」
スリザリンの7年生、セバスチャン・サロウは眉間にシワを寄せて、ローネン先生が期待しているのであろう「他の呪文」を脳から捻り出す。
「上が空いてるなら『アセンディオ』で上昇してそこから火の向こうまで跳ぶとか、あとは………『エバネスコ』で燃えてる物の方を消すとか、あとは…………頑張って『デイフォディオ』を連発して地面に穴掘ってそこ通る、とか…………??」
ローネン先生はセバスチャンのその回答を称賛してスリザリンにも5点を与えた後、思いっきり低い声で次なる問いを投げかけた。
「では、『悪霊の火』と『悪魔の守り』そして『グブレイシアンの火』に共通する点を説明できる者はいるかね?…………きみはどうかねミスター・ブラトルビー?」
指名されるとは思っていなかったらしいグリフィンドールの髪がくるくるの青年は数秒困り果てた後、隣の女生徒を指さしながら破れかぶれの回答をした。
「めちゃくちゃ難しい魔法だけど、コイツには使える!………ぐらいしか」
不正解だと判っていると言わんばかりの表情をしているルーカン・ブラトルビーに、その指をさされた隣の女生徒が横槍を入れる。
「ブブー!ブーちゃんざーんねん!グブレイシアンの火は僕、前に練習したけどホントにさっぱり全くできませんでした!!無理です!アレは無理!難しすぎる!もうね、煙も出ないんだから!」
「『答えが解らないなりに精一杯考え、せめて何か答える』というのは、授業に挑む姿勢として素晴らしいものだぞブラトルビー。グリフィンドールに1点やろう。それに仰る通り、3つとも『めちゃくちゃ難しい魔法』だ。追加でもう4点やろう」
そう言ってニッコリ笑ったローネン先生は周囲の7年生たちをぐるりと見回すと、その授業の様子をちょっと離れた位置から姪と一緒に見学していた元闇祓いの男性を指名する。
「そちらのきみはどうかね、ミスター・サロウ?」
まさか話を振られるとは露ほども思っていなかったソロモン・サロウとその隣のアン・サロウ、そしてセバスチャン・サロウの3人が大いにびっくりしている。
「では。『悪霊の火』『悪魔の守り』『グブレイシアンの火』はどれも、消えない。少なくとも通常試みられる手段では。グブレイシアンの火に関しては正直あまり詳しくはないが…………………恐らく『その呪文を唱えた当人が正規の手順で自ら鎮火させる事』だけがこれらの呪文によって熾された火を消す唯一確実な方法だ」
ソロモン・サロウは少し離れた位置から自分を見ている7年生たち1人ひとりの目を見つめ返しながら答える。
「その火を点けたのが自分でないなら『消火』は諦めるべきだ―もし仮に、かのニコラス・フラメル翁の手でも借りられればまた別なのかもしれんが―グブレイシアンの火は違うが、『悪霊の火』と『悪魔の守り』は闇の魔術の中でも最も危険な部類の魔法だ。もしこれらが行く手を塞いでいるのなら『アグアメンティ』も『炎凍結呪文』もやるだけ無駄だという事は肝に命じておくべきだろう。そういう場合にやるべき事は1つ。『逃げろ』。生き残る事だけ考えろ。消せない炎が迫っている場合に有効な手段は少ない。盾の呪文は、私の経験から言わせて貰えば………どうにか一時凌ぎにはなるが、状況を打開することはできない」
そこでソロモン・サロウ氏と視線を交わしたローネン先生が発言を引き継ぐ。
「素晴らしい。お見事な回答だったミスター・サロウ。得点の代わりに………………ソロモン・サロウ氏に拍手!」
7年生たちは半分は面白がって、半分はその解説を称賛して拍手を贈り、当のソロモン・サロウが少し嬉しそうに戸惑う横で、アン・サロウも楽しそうに拍手していた。
「さて。『逃げる』という意味では『姿くらまし』も有効な手段だが、本日は別の手段を覚えてもらう。消えない火にも有効な呪文。きみたちの命を守る呪文だ」
そう言ったローネン先生は杖を一振りして、ソロモン・サロウ氏及びその姪アン・サロウと受講中の7年生たちとの間に青い炎の壁を作り出した。
「このリンドウ色の炎はあまり燃え広がらず安全に持ち運びが可能な、どちらかといえば『照明』若しくは『熱源』の魔法だ。危険は少ない。さて……見ていたまえ」
そしてローネン先生は、大きく高い青い炎の壁に杖を向ける。
「パーティス・テンポラス!」
ローネン先生の杖の先、青い炎の壁が大きく左右に避けて道を開けるのを見て7年生たちが歓声を上げる中で、その炎に空いた隙間越しに見つめている叔父とその隣で笑顔で手を振る妹の2人と目が合ったセバスチャンだけは恥ずかしそうに苦笑した。
「これがその呪文だ。『パーティス・テンポラス』。道を開けよ、とでも訳すか。さあ諸君!今見せたこの魔法で炎の壁を越えたまえ!壁は充分長いから、ほら。横一列に並びなさい!………もう少し隣の人と距離を空けて………………では、始め!」
ソロモンとアンが見つめる青い炎の壁の向こうから「パーティス・テンポラス!」と口々に唱えるたくさんの声が聞こえ始め、2人は無意識にセバスチャンの声に耳を澄ませる。
「パーティス・テンポラス!まあ、最初から上手くできると期待するほど愚かではない。……自分が天才ではない事はよく知っているとも。パーティス・テンポラス!」
スリザリンの7年生、純血家系のマルフォイは周囲の誰よりも多い試行回数で、黙々と練習し続けている。
「パーティス・テンポラス!………人が通れる広さの隙間じゃないな」
同じスリザリンの7年生で生まれつき盲目のオミニスが冷静に言うと、その隣で杖を持ったまま両隣の友人たちを見ていた女生徒がオミニスに質問を投げた。
「ねえオミニス、今なにで判断したの?その杖の『知覚』だけじゃないんだろう?」
「顔にかかる熱気だよ。………最近こいつ、この俺の杖ね。あんまり助けてくれないんだよ。調子悪いみたいでね……1回オリバンダーさんのところに見てもらいに行こうと思ってるんだ………パーティス・テンポラス!!」
さっきよりちょっと広く空いたよ、とオミニスに教えた女生徒はやっと杖を構える。
「パーティス・テンポラス!」
アンとソロモンの視界をほぼ占有している青い炎の壁に最初に大きな通り道を空けてひょいと大股で通過してみせたのは、その場の全員の予想通りの人物だった。
「よぉし!1回ででーきた!!褒めてアン!」
白く光って高速移動し有無を言わさず抱きついてきた女生徒をアン・サロウが苦笑しながら撫でていると、なおも続く「パーティス・テンポラス」の合唱の中から、2人目の優等生が青い炎の壁に必要最低限の幅の隙間を空けてスルリと通り抜けてきた。
「やれる事はシンプルなのにやたら難しいようだなこの呪も、何してるサロウ」
「あ。やあマルフォイ!きみはスゴいねえ!」
アンに抱きついたままの状態で首だけぐりんと動かしてニッコリ笑った女生徒を見て、マルフォイは呆れている。
「褒めてほしいって言うから、褒めてたのよ」
「僕は時々コイツが、我ら皆を繋ぐ共通の友人なのか、それともホグワーツの7年生全員協同で飼っている頭の悪い大型犬なのか、悩む事がある」
マルフォイが相談するような口調で言ったその皮肉を、アンは笑って受け止める。
「手のかかるペットって可愛いわよね」
その言葉に「まあ、否定はしない」と返したマルフォイの背後で、青い炎の壁にまた人ひとり分の穴が空いた。
「あっつぃ!!!………よーしうまくできたぞ」
「ローブの裾が炎に触れていたぞウィーズリー。これが『悪霊の火』であればお前の命は無かったところだ……相変わらず勇敢と無謀の境界線上を生きているご様子で」
「まあまあ、『初挑戦』ってのはいつだってある程度は無謀なものだよマルフォイ」
鷹揚にニッコリ笑ったギャレス・ウィーズリーと気を引き締め直したマルフォイは、再び青い炎の壁に相対する。
「………どしたの2人とも?」
「僕はお前や、魔法薬学におけるこのバカとは違う。僕は天才じゃない。最初に成功した時の感覚を覚えてる内に反復練習するのが大事なんだ」
そう言ってまた「パーティス・テンポラス」を黙々と練習し始めたマルフォイが、目の前の青い炎の壁に充分な広さの通り道を空けてもそこを通ろうとはせずひたすらに練習し続けるのを、未だアンに抱きついたままの女生徒が嬉しそうに眺めている。
「僕、きみのそういうとこ尊敬するよマルフォイ………」
そう言って同じように練習を再開したギャレスに、女生徒は「同感」と言って笑う。
「僕も、この壁が『悪霊の火』だとするなら―パーティス・テンポラス!…………とてもじゃないけど、まだ完璧とは言えないからね」
自分の呪文で青い炎の壁にとても人が通れる幅ではない極細の隙間ができたのを見たギャレスがそう言って苦笑しながら杖を構え直した時、再び青い炎の壁の両端にそれぞれ大きな穴が2つ空き、4人目と5人目が同時に通り抜けてきた。
「よし、できた………けどもうちょっと広く空けられなきゃ不安だなぁ」
「できた?できたわよね?!やった!」
通り抜けてきて即再びギャレスやマルフォイと同様に練習を再開したレイブンクローのヘクター・フォーリーとは対象的に、ハッフルパフのポピー・スウィーティングはぴょんぴょん飛び跳ねて大喜びしている。そしてこの2人がきっかけだったかのように、他の7年生たちも続々成功し始めた。
「クッソ、やっとだ!」とスリザリンのノットが己を戒めている横で、オミニスは「通れる幅……みたいだね」と判断するのに数秒使ってからゆっくりと通り抜ける。
「よおし、よし!」
成功を噛み締めるグリフィンドールのリアンダー・プルウェットとほぼ同時に成功したレイブンクローのアミット・タッカーとコンスタンス・ダグワースもまた、青い炎の壁を通り抜けてきて暫し喜んだ後に練習を再開した。
ハッフルパフのサチャリッサ・タグウッドが、アーサー・プラムリーが、レイブンクローのアンドリューが、スリザリンのイメルダ・レイエスが、グリフィンドールのナツァイ・オナイが次々に青い炎の壁に隙間を作って通り抜けてくるのを見ながらアン・サロウは最初に成功した女生徒に話しかける。
「アナタはもういいの?」
そう言われてやっとアンから剥がれた女生徒は周囲のみんなの様子を数秒観察した後「僕もやる!」と宣言すると、ずんずん歩いてギャレスとマルフォイの間に収まり、手に持っていた杖を服のポケットに仕舞った。
「パーティス・テンポラス!!」
片手を振るってそう唱えた女生徒は、充分人が通れる大きさに青い炎の壁を途切れさせても尚そこを通ろうとはせず、その「通り道」を維持する事に努める。
「どぅあーーー!!2秒ちょい!2秒ちょいじゃ何人も通すのは無理だあ!!!」
そして限界が来たらしい女生徒が手を下ろすと青い炎の壁は再び閉じる。
「そうか、『維持』ね。これが『通り道を作る呪文』である以上必要不可欠な要素だね。確かにそうだ。……………けど。パーティス・テンポラス!」
ギャレスは自分が確保した通り道が5秒保たずに閉じるのを見て嘆息した。
そのまま7年生たちは各々練習し続け、ほとんどの者が1度は呪文を成功させてアンとソロモンが居る側に来ていた頃。
「まだこの壁の向こうに残ってるのは…………」
「パーティス・テンポラス!―もうセバスチャンだけだね」
「サロウの奴が最後とは珍し、いやまあ今日ばっかりは無理もないか………」
練習を続けながら小声で私語しているスリザリンの面々や、各々練習したり小休止したりしている7年生たちの、その反対側。未だに1人だけ青い炎の壁を越えられていないセバスチャン・サロウは、焦燥に駆られつつあった。
「パーティス・テンポラス!!くそ、上手くいかないな………いや落ち着け。感情にまかせて成功するのは『アバダ・ケダブラ』とかあのへんだけだ………僕はもうあの頃のようにはならないぞ………パーティス・テンポラス!くっそ……」
焦りを制御しようと努力してはいるものの呪文の方は未だ上手くいかないセバスチャンがふつふつと心の底から湧き上がってきた孤独感とも戦い始めた、その時。
「パーティス・テ…………なんのつもりだい」
視界の隅が一瞬オレンジ色に光り背後に束の間熱を感じたセバスチャンは、呪文を中断して振り返る。
「あーセバスチャン焦ってるだろうなぁって思ったからね。そのツラ見物してやるぜブヘヘヘヘヘぐひょひょピーヒョロロロウィーンガシャーンって思ってこっち来たんだよ」
現れた女生徒がそう言いながら片腕で抱えているブルーベリーが大盛りの箱の縁には不死鳥が止まっており、女生徒はブルーベリーを次々啄む不死鳥を撫でながらセバスチャンを見つめている。その隣ではオミニスもまた、セバスチャンに微笑んでいた。
「冷静になればきっとできるさ、セバスチャン。いつもそうだっただろう?」
優しい口調でそう言ったオミニスと、セバスチャンは視線を交わす。
「いったぃ!!何すんのさ!いっこぐらいくれたっていいじゃんか!!コンニャロ!あっ痛い!!痛い痛い!痛いごめんなさい!もうとらない!とらないからゆるして!」
そしていつものように不死鳥のごはんに伸ばした手をいつものように啄かれ、いつものように不死鳥相手に本気のケンカを始めた女生徒が今日もまたあっという間に降参する様を見て、セバスチャンは笑った。
「お陰で、肩の力が抜けたよ。ありがとう」
オミニスと不死鳥に礼を言ったセバスチャンは深呼吸して、再び杖を構える。
「パーティス・テンポラス!!!」
そして青い炎の壁は左右に避けて今日1番大きな隙間を作り、その3人分の通り道を歩いて通り抜けたセバスチャンにアンとソロモン・サロウが微笑みかける様を、みんなが見ていた。
アンは双子の兄を、何も言わずに見つめ続けている。
そしてセバスチャンが呪文で空けた隙間を通ってオミニスと女生徒も炎の壁を再び通り抜け、最後に不死鳥が全然違うところから平然と青い炎の壁を突っ切って来ると同時にセバスチャンの呪文の効果は切れ、青い炎の壁は再び閉じた。
「流石は不死鳥」
そう言ったソロモン・サロウが姪のアンと共に見学する中、7年生たちはそのまま時間いっぱいまで呪文の練習を、時々ローネン先生や早々に習熟してしまった女生徒に指導を仰ぎつつ黙々と続けたのだった。
そうしてその日の授業が全て終わった後。すっかり暗くなったホグワーツの正門前で、友人たちを引き連れた7年生の女生徒がソロモン・サロウに話しかけている。
「あ、そうだソロモンおじさん、僕のマンティコアに挨拶していきません?」
「今なんと言った?????」
「お顔がソロモンおじさんに良く似てたから、僕その子の」
女生徒の口を、セバスチャンとアンが左右から抑える。セバスチャンとその友人である7年生たちは、呪文学から引き続いてセバスチャンが本日受ける午後の授業を全て見学していったソロモン・サロウとアン・サロウの2人を見送りに集まっていた。
「コイツが飼ってるマンティコアの『ソロモン』はソロモン叔父さんから名前が採られていて、去年旅行先で母親のマンティコアに育児放棄されて衰弱死しかけてたところを保護したそうです………で、魔法省の魔法生物規制管理部に問題視されまして」
絶句しているソロモン・サロウにアミットが解説する。
「ウィゼンガモットに召喚されまして、そこで『コイツには確かに忠実』『友人である僕らにも忠実』『コイツから引き離そうとすると察して猛烈に抵抗する』『栄養状態が回復しつつある』等々の点が確認されまして、尾の先端にマンティコアが自力で外せない覆いを被せる事と、決してカバンから出さない事、そして、これらを遵守しているかどうか半年に1回査察を受ける事を条件に特例で飼育が許可されました」
アミットは「尾の先端の保護拘束具はその女生徒自身が古代魔法を用いて取り付けたのでマンティコアにも魔法省の誰にも確かに取り外せなかったが女生徒本人はそれをいつでも指先をちょっと振るだけでアッサリ外せる」というウィゼンガモットも知らない秘密だけは、腹の奥に仕舞っておく事にした。
「きみは、つくづく驚きを提供し続けてくれるな」
言いたい事を全て飲みこんで女生徒にそれだけ言ったソロモン・サロウに、女生徒はいつも通りのお気楽な笑顔を向けたまま言う。
「ホントに送ってかなくて良いんですか?コイツかペニーかアデレードに頼んでもいいし、ハイウィングやセプルクリアも、カリゴだって手伝ってくれますよ!」
そこに1つだけあった初耳の名前を、ソロモン・サロウは恐る恐る確かめる。
「アデレードというのは…………、ご友人か?」
「はい!僕の友達のズーウーです!けっこうおっきくなったんですよ!!」
女生徒の言う「僕の友達の」が「友達が飼育している」というような意味合いではない事を察して気が遠くなったソロモン・サロウを姪のアンが横から急かす。
「さ、さあもう出発しましょう!明日も早いんだから!」
「またね~アン~」
呑気に手を振る女生徒の頬を抓りながら反対の手を振って笑うセバスチャン、そしてその周囲の何人もの7年生たちに見送られて、ソロモンとアンは帰って行った。
そして消灯時間まではまだまだ時間があると確認した7年生たちは宿題をやっつけるべく一旦解散の後、レイブンクローの談話室に集合し直していつも通りの団欒を繰り広げていた。
「ねえ、イルヴァモーニーの創立者ってスリザリン志望で合ってるっけ?」
「レイブンクローだ。スリザリンとの関連はサラザール・スリザリンが血縁上の祖先だという点だが、イゾルト・セイアはむしろその『血縁』から迷惑を被っている」
ギャレスが羊皮紙を睨みながら誰にとも無く投げた質問にマルフォイが答え、オミニスも古代ルーン文字の宿題と格闘しながら補足する。
「イルヴァモーニー創立者イゾルト・セイアの、母親が俺と同じ家系なのさ。この母親の姉、つまり叔母が『ウチの家系における普通の人間性』でね。でイゾルト・セイアの両親はマグルに友好的だった。つまり、この点がその『叔母』としては…………まあ、わかるだろう?」
オミニスのその説明でやっと得心したらしいギャレスがテキストの記述問題をひとつ片付ける傍で、マルフォイはマルフォイで魔法生物学の穴埋め問題に苦戦していた。
「すまん、『スウーピング・イーヴルは◯◯◯を捕食する◯◯生物であり、その分泌する毒は◯◯◯◯◯◯◯薬として利用できる』……危険だとは覚えてるんだが」
「僕の『ウィーズリーズ』を呼ぼうか?」
女生徒が言った「ウィーズリーズ」がスウーピング・イーヴルの大群の事だと知っているマルフォイは「僕が悪かった」とだけ言って熟考を再開する。
「………スウーピング・イーヴルはヒトの脳を食べるのよマルフォイ」
向こうのソファでまったりしているポピーが助け舟を出し、マルフォイは礼を言って続きを解き始める。
「脳を喰う、毒……。薬『記憶を消す薬』……文字数が、『悪い記憶を消す薬』か!」
書くなり顔を上げてポピーと女生徒の表情を確認して己の回答の成否を確かめたマルフォイに、隣のテーブルでイメルダと共に読書していたやたら美人のスリザリン生がクスクス笑いながら声をかけた。
「あんた今めっちゃカワイイ顔してたよ、マルフォイ」
「黙れレストレンジ………!!」
そんな中、ひとりデミガイズのブラッシングをしていた女生徒が、自動で動く羽ペンに口述筆記させているオミニスに、呪文学の授業中の話題を蒸し返す。
「ねーえーオミニスー。杖の調子が悪いって言ってたけどさー。今はどうなんだい?多少マシになったのかい?その、いわゆる『知覚』は」
羽ペンを持ち上げて止めたオミニスは、反対側の手でその杖を掲げて見せる。
「相変わらずさ」
するとその時。それを聞いていた談話室のレイブンクロー生たちが一斉にがやがやと行動開始し、その物音がオミニスの耳に届く。
「あいつ今どこに居たっけ?あ、きみ寝室一緒だったよね」
「居るかどうか見てくるよホブハウス」
下級生の男の子が寝室へと姿を消したのを見て、アミット・タッカーは気づいた。
「あ、そっか。今年の我らがレイブンクローの1年生には、あの子が居たね」
「何の話だい?」とピンと来ていないらしいオミニスが首を傾げる。
そして数分後「その子」が寝室から連れてこられた。
「杖の調子が悪いって本当か!!見せてくれ!!!!」
談話室に姿を見せるや否や大急ぎで駆け寄ってきていきなりオミニスの手から杖をもぎ取ろうとしたその子をヘクターが制止し、落ち着くように言い聞かせている。
「急に何…………だ、誰、誰だきみは」
怯え気味の口調で問いただすオミニスのその言葉で、初めて己の行動を客観視したらしいその子は興奮を抑えるのに1分近く要した後、オミニスの目を見て名乗る。
「ごめん。僕はギャリック。ギャリック・『オリバンダー』。杖を、見せて欲しい」
それまで警戒を露わにしていたオミニスは、そのファミリーネームを聞いただけで即、今しがた杖をもぎ取ろうとしてきたその寝巻き姿の男の子を完全に信用した。
そうさせるだけの説得力が、その家名にはあった。
セプルクリアとカリゴ……ホグレガの追加コンテンツ及び予約購入特典。
【ギャリック・オリバンダー】
ハリポタ本編の「オリバンダーさん」。年齢が「1919年より前の生まれ」としか
判明していないのと、祖父のゲボルド・オリバンダー氏がホグレガに、孫が居ても
おかしくない感じの見た目で登場している事と、紀元前からあるダイアゴン横丁の
方の店舗にも誰か「オリバンダー」が1890年時点で居るはずで、そうすっと
ジェルベーズ・オリバンダー(ギャリックの父)がそっちに居るんじゃなかろうか
(公式設定に基づく妄想)
なので、この話では1881年生まれとして扱います。なにせダンブルドアの同級生の
人数が足りねーんだ。