2年後もしくは106年前   作:requesting anonymity

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94.混ぜるな危険

「ではでは! ぼくはイグノラムスと一緒に校長室へ行ってフィニアスの顔を見てくるよ!」

 そう宣言したエデュエイダスに連行されていったオミニスの父イグノラムスが廊下の向こうの角を曲がって姿が見えなくなってから、やっとポピー・スウィーティングの緊張の糸は解けた。

 

「頑張ってくれてありがとうポピー」

 イグノラムス・ゴーント氏が居なくなった途端に飛びついてきたポピーを受け止めながらそう声をかけた青年の隣では、オミニスがギャレスから受け取った小瓶の中身を一息に飲み干した。

 

「……ああ、だいぶ楽になった。ありがとうギャレス」

「髪の毛だったものが全部真っ白い羽根に変わってますよオミニス先輩」

 

 案の定単なる治療薬ではなかったギャレス・ウィーズリーの魔法薬によって鳥人間になってしまったオミニスを、アルバス・ダンブルドア少年が心配そうに眺めている。

 一方、そんなダンブルドア少年のすぐ横にいるブルストロードくんは未だにローブの裾を離してくれないへスパー・スターキーを嫌な顔ひとつせずに慰め続けているが、しかしようやく泣き止んだばかりのへスパーは優しい言葉をかけてほしいというよりも、むしろ何かブルストロードくんに伝えたい言葉がある様子だった。

 

「……ん、何だスターキー。どうした?」

「あの。えっとね。……わたしのこと、護ってくれたの、ありがと」

 同級生の中でも特にかわいい女子の1人であるへスパーに至近距離で見つめられても、ブルストロードくんの表情は変わらない。しかしそれは決して無関心さを示す兆候ではなく、ブルストロードくんがへスパーを本気で心配していたからこそだった。

「きみに何事も無くて良かった。……しかしブラック校長め、よりにもよって――」

 そこでブルストロードくんの手を、へスパーは両手でぎゅっと握った。

 

「ねえブルストロードくん。わたしブルストロードくんにね。おともだちになってほしいの」

「…………そりゃもちろん」

 

 へスパー・スターキーに抱きしめられながら、ブルストロードくんが「まあ父上と母上が仰る『友人は選べ』ってお言葉はどちらかと言えば血統じゃなく能力の話だしな」などと、純血魔法族ではないへスパー・スターキーと自分が仲良くしていると知ったら自分の父と母がどのような印象を抱くかについて可能な限り楽観的に考えようと努力しているのは、他でもない、ブルストロードくん自身がへスパーと仲良くなりたいと望んでいることを示す確かな証拠だった。

 

「ほんとう? じゃあじゃあ今度いっしょにお茶したりしましょ!」

 

 やっと元気を取り戻したへスパーがブルストロードくんに抱きついて離れないのを視界の端に捉えながら、4年生のクレア・クランウェルは妹のシャーロットとまだ手を繋いでいる。

「もう大丈夫よシャーロット。もう怖いこと起きないからね」

「あたし大丈夫よお姉ちゃん。だってポピーちゃんが護ってくれてたもの。でもねあたしオミニスおにーちゃんが心配なの。だってオミニスおにーちゃんすごく痛そうにしてたんだもの。あれってきっと、あの怒ってる顔のおじさまに何か悪い魔法をかけられたのよね?」

 シャーロットがどうにかしてオミニスおにーちゃんの姿を見ようと姉の身体の向こうを覗いてみたその瞬間に、当のオミニス・ゴーントがシャーロットに声をかけた。

 

「そこに居るね? シャーロット」

 

 髪が全て真っ白い鳥の羽根に変わっているオミニスは右手に持った杖の先を赤く明滅させながらシャーロットとクレアのすぐそばまで歩いてきて、杖の先をシャーロットの顔に翳している。

「きみには俺の顔が見えるだろうシャーロット。俺は大丈夫。だってギャレスの薬を飲んだから」

 オミニス・ゴーントの身体にはまだイグノラムスから浴びせられた磔の呪文の影響が、ギャレスの魔法薬によってかなり軽減されたとはいえ残っているが、オミニス・ゴーントはそんなそぶりは僅かすらも見せず、どうにかこうにか強がって、元気いっぱいかのように振る舞う。

「だいじょうぶ? 痛くない?」

 そう訊ねたシャーロットと手を繋いだまま、姉のクレア・クランウェルも心配そうな顔をしてオミニスを見ている。クレアは妹共々、オミニス・ゴーントが磔の呪文を浴びたとまでは気付いていないし、そも磔の呪いというもの自体、過去に耳にしてはいるが単に他人の会話が聞こえただけで、記憶に残ってはおらず、つまりそれがどういう呪詛なのかは知る由もなかった。

「まだちょっと痛いけど、ちょっとしか痛くないから大丈夫さ」

 なのでシャーロットもクレアもオミニスの言葉を、文字通りの意味に受け取る。

 それは知識不足が根底にある紛れもない誤解だったが、今回だけは、それでよかった。

 

〈ちょっと?〉

〈後でマダム・ブレイニーのところに行くさ。ちゃんと〉

 

 ポピーに抱きつかれている青年とオミニスが蛇語で交わした会話を、ギャレス・ウィーズリーだけが聞き取っていた。

 しかしギャレスは聞き取った蛇語には言及せず、その代わりにシャーロットとクレアとブルストロードくんとへスパーに、つまりその場にいる後輩たちに向けて話しかける。

「ほら皆。大広間に行くんだろう? 朝食の時間もう始まってるよ? へスパー、きみ今日の最初の授業が何か覚えてるかい?」

 ギャレスに問いかけられたのをきっかけにようやくブルストロードくんの胴にくっつけていた顔を上げて周囲を見てみたへスパーは、その途端にまんまるの目をさらにまんまるにして固まった。

 

「ギャレスとおんなじ髪の毛の色したおにいちゃんがいっぱい…………! ふしぎ……」

 

 いつも通りの嬉しそうな笑顔で、へスパーはブルストロードくんの手をぐいぐい引っ張ってシャーロットとクレアの目の前へと、オミニスのすぐ隣まで駆け寄っていく。

「ねえねえロットちゃん。ギャレスとおんなじ髪の毛したおにいちゃんがいっぱい! いつの間に増えちゃったのかしらね? ギャレスのおくすり飲んだのかしら? ねえ見て見てロットちゃん」

 へスパーはブルストロードくんの腕を掴んだまま大喜びしているので当然ブルストロードくんは腕をへスパーにちぎれそうなくらい繰り返し繰り返し激しく振られているが、しかしへスパーがイグノラムス・ゴーント氏と遭遇したことによって心に傷を負っていたりしないかがまだ心配なブルストロードくんは、自分だって怖かっただろうに己の心情などは脇に置いて、嫌な顔ひとつせず、へスパーを制止しようともせず、ただ腕をブンブンと振られ続けている。

 

「お前はグラフィアス・ブルストロードだね。ブルータスの息子で、デズモンドの孫だ」

 

 ウィーズリー家最年長にしてウィゼンガモット首席魔法戦士を務めるお婆さんにいきなり話しかけられたブルストロードくんは、初めて会った時もそうだったように今日もまた、その小さな老婆の眼光の鋭さに気圧されてしまった。

「そっ、そうです。お久しぶりです。マダム・オリュンピアス・ウィーズリー……」

「お前さん褒めてやる。あの饐えた脳みそのイグノラムス相手にお前さんはよくやったよ。自分に向かって飛んでくるのが磔の呪いだったらまだ幸運だって時に他人を庇える奴はなかなか居ない」

 ギャレスの大伯母であるオリュンピアス・ウィーズリーさんに称賛されてもまだブルストロードくんは恐縮と緊張の渦に飲まれたまま目を逸らすことすらできずに辛うじて立っているが、そんなブルストロードくんのすぐ隣からギャレスの大伯母のオリュンピアスを見つめているシャーロットとクレアの表情は、ブルストロードくんのそれとは、まるで違っていた。

 

「やっぱりあたしのおうちのお隣に住んでるおっきいお声のお婆ちゃまだわ……!」

「いつもシャーロットに優しくしてくれる元気なお婆ちゃまだ…………」

 

 同じ様に目を見開いて、全く同じ表情をして、クランウェル姉妹はその小さな老婆を見ている。

 

「もしかしてお婆ちゃまったら魔法使いだったのかしら!!!」

「おやま。言ったこと無かったかい?」

 

 矍鑠としたオリュンピアス・ウィーズリーは実に豪快に笑っている一方で、まだへスパーに腕を掴まれたままのブルストロードくんの視界には、すぐ隣で何かに気付いたシャーロット・クランウェルの小さなお顔が驚きと嬉しさでより一層輝きを増す瞬間がしっかりと映っていた。

「あら! あたし気付いちゃった! お婆ちゃまもギャレスと髪の毛がおんなじだわ! だから、えっとね……えっと…………お婆ちゃまもギャレスのおくすり飲んだのね!!!!」

 シャーロットの言葉を受けてギャレスの大伯母のオリュンピアスがまたしても豪快に笑い、ギャレスと兄たちもシャーロットを見て笑っているが、ポピーだけは未だに派手なゴーグルをかけた青年に強く抱きついたまま離れようとしない。

「――僕だったらエリエザーとか出しちゃうけど、ポピーちゃんはエリエザーも守ってあげたいんだもんね。そういうとこが好きだよ僕」

 シルバーブロンドから真っ黒に変わった髪が今まさに背中まで伸びて強いウェーブがかかった青年はどうにか言葉を尽くしてポピーを元気付けようとしているが、ポピーは変わらず青年に抱きついたまま、青年の胴に回した腕にますます力を込めるばかりで、青年から離れようとしない。

 

「違うよ」と、そんな青年にギャレスが声をかける。「ポピーは怖い思いをしたからきみに抱きついてるんじゃないよ。来てくれるって信じてたきみが来てくれたのが嬉しいから抱きついたんだ。それで今は、きみの匂いを嗅いでる。だからきみはポピーを慰めなくたっていいのさ」

 ギャレスのそんな解説を受けて、青年はちょっとびっくりした様子でポピーを見る。

「そうなのかい?」

「……あなたってやっぱり、真昼の砂漠のオーグリーだ」

 

 やっと顔を上げたポピーの目元には、泣き止んだ形跡だけが赤みを帯びて残されていた。

 

「ねえねえお婆ちゃま。もしかしてお婆ちゃまはギャレスのお婆ちゃまなの?」

 クレア・クランウェルが本人にそう訊ね、オリュンピアス・ウィーズリーは否定する。

「いいや。私はギャレスの父親の父親の姉だよ。つまり大伯母だ」

「ねえねえお婆ちゃま。ギャレスの家族ってみんなギャレスとおんなじ髪なの?」

 今度はシャーロット・クランウェルがそう訊ね、オリュンピアス・ウィーズリーは肯定する。

「そうだよ。私が覚えてる限りウィーズリー家の直系筋はみんな赤毛だ。マチルダだってそうだろう? お前さんたちマチルダは知ってるかい? 私の姪っ子で、ホグワーツで変身術を教えてる」

「知ってるわ! あたしウィーズリー先生だいすき!」

 

 オリュンピアス・ウィーズリーに話を聞かせてもらっているクランウェル姉妹の隣で、まだブルストロードくんの腕を掴んだまま離さないへスパーが周囲に何人もいる燃えるような赤毛のお兄さんたちのうち、一番近くにいたスラリとした長身のお兄さんに訊く。

 

「あなたたちはもしかして、ギャレスの家族なのかしら?」

 

「おや、これは失礼したね」と、へスパーに質問された長身のお兄さんが言う。「僕ら自己紹介をしてなかった。これはいけない。ご推察の通り、僕らは皆ギャレスの兄弟だよ。僕は次男のロバート・ウィーズリー。『変身現代』って雑誌の記者をしてるんだ」

 スラリとした長身のお兄さんがそう言ったのに続いて、周囲にいる他の燃えるような赤毛のお兄さんたちも次々に、まるでこの日のために練習を重ねてきたかのような段取りの良さと流暢さで、今日初めてお目にかかるハッフルパフのローブを着ているそっくりな姉妹とレイブンクローのローブを着ているお嬢ちゃんに、ギャレスそっくりの柔和な微笑みで自己紹介を始めた。

 

「俺は三男のエドワード。3年間の訓練期間が去年終わって、現場に慣れてきたような気がしてる今が一番殉職しやすい時期の新人闇祓いだ。とびっきりの悪い奴らから皆を守るのが仕事さ」

「縁起でもないこと言わないでよ兄さん……僕は四男のコンスタンス。魔法省の魔法事故・惨事部にあるマグル対策口実委員会で働いてる。それで、五男のギャレスの隣に立ってるのが――」

 そこまで言って黙ったウィーズリー家の四男コンスタンス・ウィーズリーは、まるで憧れの有名人でも紹介するかのように熱の入った視線で、自分たち兄弟の長男を指し示した。

 

「こんにちは。僕はユーウェイン・ウィーズリー。長男。チャドリー・キャノンズのキャプテン。あともう1人、一番下の妹がいるんだけど、今は母さんと一緒に城をあちこち見て周ってるんだ。だから今日もし見かけたら優しくしてあげてほしい」

 

 ギャレスより頭ひとつ以上背が高いユーウェイン・ウィーズリーは緩いウェーブのかかった燃えるような赤毛を肩まで伸ばしていて、腕も脚も胴もあまり太くないのに、よくよく見てみればとても筋肉質で、常日頃からどれだけ鍛えているのか、またどれだけ激しく身体を動かしているのかを本人の輝くような立ち姿が物語っていた。

 そんな長男のユーウェインは「チャドリー・キャノンズってなあに?」というシャーロットからの質問に優しく答えてあげていて、三男のエドワード・ウィーズリーは橙と緑の派手なゴーグルをかけた青年に話しかけている。

 

「お前、今年のクリスマスも来るんだろ?」

「そだよエドワードくん。今年はねえ、去年よりねえ、誘いたい友達が増えたんだけどねえ――」

「好きなだけ誘っていいぜ。クリスマスパーティってのは大勢で思いっきりやるもんだろ」

 

 派手なゴーグルの青年がギャレスの兄たちと話し始めているその隣で、それまでずっと静かにしていたアルバス・ダンブルドア少年が唐突に口を開いた。

 

「あの、先輩方。大広間で皆と一緒に朝食を食べるおつもりでしたら、今もう時間がですね……」

「おやあアルバス。大広間にたどり着けるつもりでいるのかい」

「はい? 急に何を言い出すんですか先輩。先輩は朝食を摂らないおつもりなんですか?」

「なあーに言ってんだい。今日はもう僕ら生徒が頑張ってるところを家族が見に来ていい期間に突入してるんだよ? それできみは僕の家族のこと、もう知ってるだろうアルバス?」

 

 青年がそう発言し終えるよりも先に、ダンブルドア少年は気付いた。

 さっきまで壁にあったはずの扉が、今は天井にある。

 さっきまで天井に施されていたはずの装飾が、今は右手側の壁に施されている。

 いつの間にやら廊下がまるごと90度回転して壁が床に、床と天井が壁になっている。

 いつの間にやらオミニス先輩に年季と誰かの愛着を感じさせる上品な揺り椅子と毛布が与えられていて、傍には白い花の飾りがついた可愛らしい帽子を被った屋敷しもべ妖精が立っている。

 

「あー!! あなたはペニーちゃんだわ! ペニーちゃん久しぶりね! 見てみてへスパー! あの子ペニーちゃんよ! ペニーちゃんどうしてここに居るの? もしかして来てくれたの?」

 

 シャーロット・クランウェルが大喜びし始めたのが合図だったかのように、その場の全員が異変に気づいた。ダンブルドア少年とクレア・クランウェルは焦りながらも杖を取り出し、シャーロットとへスパーは目を輝かせ、ブルストロードくんとウィーズリー家の四男コンスタンスは明らかに動揺していて、オミニスは揺り椅子と毛布の恩恵にあずかったまま、宙に浮かんだティーセットを杖で小突いて紅茶をおかわりしている。

「まあ、ステキなお帽子ね! でもどうして屋敷しもべ妖精さんがお帽子を被ってるのかしら! ねえねえ屋敷しもべ妖精さん。屋敷しもべ妖精さんはどうしてお帽子を――」

 へスパーの問いかけの最後の方は、どこからともなく大音量で轟いてきた歓喜の声にかき消されてしまって、へスパー本人にすらほとんど聞こえなかった。

 

「今日のこのクソカス喜ばしい日に全英アーニー・ラーク選手権準優勝者ことアーニー・ラークの奴が居ねえとはどおーいう事だあ兄弟!! この俺様と心の友の1年ぶるりんの再会を祝すにゃあミュぅージック★パゥワぁーが必要だなんてのぁ解り切った話じゃーねーのかぁーよーう!!!」

 

「1年ぶりのホグワーツだ! 1年ぶりのホグワーツ! 1年ぶりの我が心の友!! なああんた、あんたやっぱり最高だ我が最初の家族よ!! 去年私と家族になってくれただけに留まらず今こうして私にまたこの心の友と思う存分遊ぶ機会をくれた! 私をホグワーツに呼んでくれた!!!」

 

 どこから響いてきているのかもよく判らないその大きな声の主たちである淡く光る2つの影は、壁をすり抜けて現れたかと思えば天井をすり抜けて姿を消し、すぐまた壁から顔を出し、壁も床も天井も全て無視して縦横無尽に飛び回り大騒ぎしながら接近してくる。

 単体でも誰ひとり制御しきれていないポルターガイストが2体仲良く現れたことで、さっきまで壁だったはずの床と天井に並んだ肖像画たちが皆、慌てふためきながら額縁の外のどこか遠くへ、ホグワーツ城内にある他の安全な位置の絵画へと避難していく。

 

「ぃ゙よう兄弟お前やっぱ最高だぜぇ! まーたこの俺様の心の友をホグワーツに連れてきてくれた上に今さっきありったけ爆竹を詰め込んだこの俺様のケツに手ずから着火してくれるときた!!」

「いーよおピーブズ。お尻こっちに向けて――ラカーナム・インフラマリ!」

「刺ィ゙ィ゙ィ激的ぃ゙ぃーーーyeahァァァァァーーーー!!!」

 

 派手なゴーグルの青年が気軽に杖を取り出してサラリとそう唱えたのと同時に城を破壊しそうなほどの爆音を響かせ尻から火花と煙を大量に吹き出して廊下の向こうへ見えなくなるまで吹っ飛んでいったピーブズを見送って、ピーブズではないもう1体のポルターガイストと派手なゴーグルの青年、そしてギャレス・ウィーズリーが笑っている。

 

 へスパーもシャーロットもクレアも、呆気に取られたまま目を丸くして立ち尽くしている。

 

「今から僕らとアルバスと一緒に遊ぶひと!!!!」

「はいはいはい!! あたしも混ぜてほしい!!!」

「私も私も!! 私も一緒に遊ぶ!!」

 

 青年の呼びかけにシャーロットとへスパーがすぐさま大喜びで両手を高く挙げて参加を表明したので、シャーロットと手を繋いでいる姉のクレアも、へスパーに未だ腕を掴まれたままのブルストロードくんも、まるで自分まで参加を希望しているかのような体勢になってしまった。

「シャーロットあなた朝食は大広間で皆と食べないの?」

「あたし皆と食べたい。お姉ちゃんも一緒がいいーぃ」

 じゃあ今から遊んじゃだめなんじゃないのと指摘したいクレアを他所に、シャーロットは飛び回る2体のポルターガイストを視線で追いかけ続けた結果、着実に目を回しつつあった。

「スターキーお前――いや、いい。なんでもない」

 イグノラムス・ゴーント氏との遭遇によってへスパー・スターキーの心に傷が残っていないかをまだ心配しているブルストロードくんは、抗議しようとしてやめた。

 

「地球ゥゥゥ1周ゥゥ……!」

「おかえりピーブズ」

 

 先程吹き飛んでいったのとは正反対の方向から得意げな表情を浮かべつつ空中を滑るようにして再登場したピーブズに、ギャレス・ウィーズリーが気さくな笑顔で挨拶している。

 

 

「先輩は朝食を摂らないおつもりなんですか? 大広間にいらっしゃる皆さんと一緒に食べたほうが先輩ご自身にとっても嬉しい時間になると僕は思うんですけれど?」

 ファスティディオとピーブズが床も天井も壁もすり抜けて目まぐるしく飛び回っている中で、アルバス・ダンブルドア少年は自分を抱き上げようとしている派手なゴーグルの青年に訊ねた。

 

「んんーーむ。そうだねえ……じゃあこうしよう!! ピーブズはへスパーとブルストロードくんを運ぶ! ファスティディオはシャーロットとクレアを運ぶ!! そんで僕がアルバスを運ぶから皆で大広間まで競争しよう!! よぉぉぉーーーいどどーーん!!!!」

 青年の提案にダンブルドア少年が何を言う間も無いまま、ファスティディオとピーブズによって4人の生徒の身体が空中へと浮かび上がり、シャーロットとへスパーがさらにその目を輝かせる。

 

「僕は参加すると言った覚えはないぞ。僕は参加すると言った覚えはない」

 ブルストロードくんは見るからに蒼い顔をしているが、それでもへスパーを気にかけている。

「あのおにーちゃんとドアくんもポルターガイストさんも行っちゃったわよピブちゃん。ねえねえピブちゃん、私たちも出発しなきゃ負けちゃうかも知れないわ」

 

 ダンブルドア少年を抱え上げたまま白く光る靄のような何かに姿を変えて射出されていった派手なゴーグルの青年と並んでファスティディオがシャーロットとクレアを浮かべて操ったまま廊下の向こうまであっという間に飛んでいって姿が見えなくなった後で、それまで自分が何の道具も使わず宙に浮かんでいるという事実に目を輝かせていたへスパーがピーブズに言う。

「ピブちゃんもしかして近道とか知ってるのかしら?」

「もォちろんだとも! なんてったって俺様はこのホグワーツ城を作っちゃバラして設計図書き換えまた作ってあーでもねぇこーでもねぇってメシ休憩しながら話してた仲良したちをすぐ傍で見てたんだからな!! 大広間への近道だって当然この俺様の6枚の翼が覚えてるぜぇーーー!!!」

「ピブちゃん羽はえてないよ?」

 

 そう問いかけられた途端、左右の腕にそれぞれへスパーとブルストロードくんをガッシリと抱えて宙を漂っていたピーブズは寝そべるような体勢から直立姿勢に戻って得意げにニンマリした。

 そしてピーブズもまた吹っ飛んでいき、ウィーズリー家の面々とポピーとオミニス、そして屋敷しもべ妖精のペニーがその場に残された。

 

「さ、きみは一応マダム・ブレイニーに診てもらおうオミニス。ロコモーター」

「よければペニーが大広間までお送りしましょうか」

「お願いしようかな。ありがとペニー」

 

 バチンと音を立てて屋敷しもべ妖精のペニーがポピー・スウィーティングを伴って姿をくらまし、ギャレス・ウィーズリーはオミニスが座っている揺り椅子を杖で小突いて魔法をかける。

 叔母が何十年も愛用していたと説明されれば信じてしまいそうな年月を感じさせる上品な作りの揺り椅子はオミニスを乗せたまま僅かに浮かび上がり、滑るように移動を開始した。

 ギャレスはきちんと調節して魔法をかけたので、オミニスを乗せた揺り椅子の速度はギャレスが歩く速度とピッタリ同じだった。

 

「じゃ、私は北門に向かうとするかね。来た道を戻ることになるけど出迎えには居なきゃならんだろう……ロバート、コンスタンス、エドワード、お前さんたちも着いてきたらどうだい」

 大伯母の意向に反対する理由がないので、既にギャレスとオミニスに着いて行ってしまった長男のユーウェインを除くギャレスの兄たち3人は、言われるがまま大伯母と共に歩き出した。

 

 一方その頃、マチルダ・ウィーズリーの弟でありギャレスと兄たちと末娘の父親でもあるグリフレット・ウィーズリーは、半ば追い出されるような形で姉との会話を切り上げて変身術の教室から中庭へと出た拍子に、そこで2人並んで周囲を眺めていたお若い夫婦と鉢合わせていた。

 グリフレット・ウィーズリーとその夫婦はお互いに名乗って挨拶を交わし、妻と一緒に途方に暮れていた男は、十中八九魔法使いであろうと考えられるこの燃えるような赤毛のおじさまに、勇気を出して助けを乞うてみることに決めた。

「あの、実は僕と妻は、2人の娘がこのホグワーツで学んでいるのですが、僕らは2人とも魔法使いではなくてですね…………つまり、僕らにとってはこの城は、その――」

 どう表現するのが穏当だろうか、どういう表現が失礼にあたるんだろうかと考え始めてしまって言葉が最後まで出てこなかった若い男が焦っていると気付いたのか、燃えるような赤毛のグリフレット・ウィーズリーはハッキリ頼まれるまでもなく、彼ら夫婦の願いを聞き入れた。

 

「僕はこの城の卒業生ですけど、最終学年になってもまだ時々道に迷ってました。ここはそういう城なんです。ですからもちろんお2人さえ良ければ喜んで道案内させていただきますよ」

「……道に迷っていたのに道案内をしてくださるんですの……??」

 自分と比べればどれだけ少なく見積もっても10歳は年下であろうお若い奥様から当然の疑義が飛んできて、グリフレット・ウィーズリーはたまらず笑った。

「新しい近道を見つけようとかしなければ大丈夫ですよ。さあ、新しい近道を見つけましょう!」

 こちらの緊張を解きほぐそうとしてくれているのだと理解した若い夫婦は、誘われるままに戸惑ったり驚いたりして見せながら、娘たちが居るのであろう大広間とやらへの到達を目指して、グリフレット・ウィーズリーの案内で中庭から城の中へと、入ろうとした。

 

「うおおおおーーー!! 僕の方が速いぞよよーーーー!!!!」

「先輩これ前は見えてるんですよね? 先輩いま眼球があるとは思えない姿してますけど!! だいたいその光る靄みたいになるの前から思ってましたけど一体どうやってるんですか!!」

「あーー! パパとママだわ! わああ来てくれたのね! ねえねえファスティディオさん見てみて! あたしのパパとママが居るの! そっちじゃないわ下よ! 地面! あそこのお庭!」

 

 白く光る何かに包まれた小さな男の子が地面スレスレを高速で飛んでいったことにも驚いたその夫婦だったが、愛する娘たちが空から降ってきたことにはさらに驚かされた。

「パパ! ママ! 見てみてここよ。ここがホグワーツ! あたしとお姉ちゃんの学校なの!!! 見てみてファスティディオさん。あたしとお姉ちゃんのパパとママよ!」

「ねえファスティディオ、あなたって私たちのパパとママには見えるんだったかしら?」

 

 肝を冷やす間すら無く目の前まで落下してきてピタリと止まったまま宙に浮いている娘たちが、何も居ない方向に話しかけているように、そのマグルの若い夫婦には見えている。

 

「おやおやこれはこれは。そちらにいらっしゃるのはミスター・ウィーズリー。去年のクリスマスにお招きいただいて以来だ! そしてミスター&ミセス・クランウェル! 直接お会いするのは初めてだね。私はポルターガイストのファスティディオ。ゴーストは魔法使いでない皆様には声も聞こえず姿も見えないが、私たちはその限りではないんだ……ピーブズがそうであるように、私の姿がマグルでらっしゃる貴方がたに見えるのか見えないのかは、私が自分で決めることだから」

 

 ずっと何も居ないように見えていた空中に染み広がるようにしてじんわりと姿を現したその男に、シャーロットとクレアの両親であるマグルのクランウェル夫妻は見覚えがあった。

 

「ファスティディオさんは以前届いた手紙に同封されていた記憶とやらに映っていた方ですよね。えー、その。見た限りでは、娘たちがお世話になっているようで。心よりお礼申し上げます」

「こォいつが俺様とっておきのシャイニング近道だァーーーーー!!!!」

「おい今のあの窓は開くような構造じゃあなかったはずだろう! どうなってる!!」

「あ! ロットちゃんたちがいたわ。今なら追い抜けるわピブちゃん。頑張って!」

「へスパーとブルストロードくんが来ちゃったわ! パパママまたね! あたしたち今きょうそうしてるの! だから急がなくちゃいけないの! ファスティディオさんほら早く速く!!」

 

 ファスティディオという名らしい幽霊らしき何かと一緒に飛んでいった娘たちを見送ってしまった後でもまだ、マグルのミスター・クランウェルはいま見たものを理解しきれていなかった。

 

「夢でも見てるのかな」

「もちろんそうよ。夢のような毎日だもの。あなたと出会ってからずっと」

 

 夫にそう返した年若いミセス・クランウェルの笑顔は、娘たちにそっくりだった。

 

 そうしてどうにか間に合ったへスパーとブルストロードくんとクランウェル姉妹と派手なゴーグルの青年とダンブルドア少年が大広間で皆と食事を摂り終え、オミニスがマダム・ブレイニーから「頭髪がヒッポグリフみたいな白い羽根になってる以外は何も心配いらない」とお墨付きを貰った頃、マダム・オリュンピアス・ウィーズリーとウィーズリー家の次男と三男と四男は、ホグワーツ城の北門がすぐ目の前にある、植え込みと噴水で彩られた広い庭に来ていた。

「相変わらずだねフィニアス・ナイジェラスの奴は」

 まだこの場に来ていないブラック校長を、マダム・オリュンピアス・ウィーズリーが咎めた。

 

「でもオリュンピアス大伯母さん、ブラック校長が来るってことはイグノラムス・ゴーントも来るってことでしょ? じゃあ出迎えになんて来ない方がお互いのためになるんじゃないかな?」

「言えてるぜコンスタンス。あんな奴が出迎えに来ちまったらそりゃ即、国際問題だ」

 

 ウィーズリーの兄弟たちがそんな話をしていると、ダイナ・ヘキャットを始めとする先生方が何人も、次々に城から出てきて待機し始めた。

「誰が来るんだ? お前何か聞いてないかシリウス・ブラック」

「あいにく。聞いてたら僕はお前に得意満面で説明してる」

 お客様をお出迎えするから着いて来るようにとしか説明されていないので、先生方の後ろに続いてやってきた多くの生徒たちは状況を理解できておらず、まだザワザワと私語を続けている。

 ホグワーツの生徒と教職員及びたまたま今日ホグワーツに来ていたのでせっかくだからとやってきたウィーズリー家の面々が数分ほどそのホグワーツ北門そばに広がる庭で待機していたところ、その来客とやらは4頭のセストラルが牽く馬車に乗って、空からやってきた。

 

「……魔法省のお役人か?」

 

 生徒の誰かが推測を述べたが、それは正解を言い当ててはいなかった。誰がセストラルに牽かれてやってきたのかを生徒たちの中で真っ先に察したのは、11歳のアルバス・ダンブルドア少年。

「そっか、そっか。今回のこの催しには国際魔法協力部も参画してるって、だからだったのか……そりゃ確かに、ホグワーツだけの一存じゃあ話を先に進められないわけだ……」

 視界の中央奥、ホグワーツ北門の手前に着陸した馬車からどなたが降りていらっしゃるのかを理解したからこそ、ダンブルドア少年は一気に不安に襲われた。

 

「そういえば先輩はどこに行ったんですか? 僕の隣で朝食を貪ってましたよね?」

「ピーブズとファスティディオが大広間から出てった時に一緒に出てったよ」

 ポピー・スウィーティングの返答は、ダンブルドア少年の不安をさらに煽った。

「そうですか……地下牢にでも監禁されててくれればいいんですけど…………地下階の隅っこにあるんでしたよね地下牢……誰かが気を利かせて今だけ先輩を縛っといてくれるだけでも――」

 

 しかしダンブルドア少年の不安が解消されるよりも先に、その来賓は馬車を降りて姿を現した。

 そのアジア人男性の姿を一目見た途端に、グリフィンドールの3年生が大きな声を出した。

 

「おやっさあ! おやっ、父上!! ないごてこっくっとか!!」

「子が勉学に励んでいる姿を親が見に来て構わぬと。そういう催しでしたな」

 向こうで大きな声を出した我が子よりも外交上のやりとりを優先したそのアジア人男性は、ホグワーツにおいては通常とても物珍しく映るだろう服装をしていた。

 

「おふたりともホグワーツへよくお越し下さいました。私は副校長のマチルダ・ウィーズリーです。校長のフィニアス・ナイジェラス・ブラックは今こちらに向かっておりまして……」

「お招きいただき光栄ですウィーズリー副校長。私は――」

 

「島津家29代当主島津忠義と申す。此度は貴重な機会をいただき誠に恐悦至極に存ずる」

 

 ウィーズリー副校長に自分が挨拶しようとした矢先に自己紹介した同行者の声があまりにも大きくて、ニホンからはるばるやってきた魔法使いのミスター・リュウサキは顔を顰めそうになった。

 一方その2人に相対しているマチルダ・ウィーズリーは、その大きな声の男性の英語にあるニホン訛りが懐かしかったので、努力をせずとも歓迎の微笑みを浮かべることができた。

 

 しかしそれも、この瞬間までだった。

 

「おや、おやおや! これはこれはどうやら僕ら出遅れてしまったようだよイグノラムス! それにフィニアスもニホンからお越しのお客様に挨拶をしなければ!! 僕はエデュエイダス・ウィーズリー。またの名をエデュエイダス・リメット・ブラック:シーズンⅡですこんにちは!!!」

 禿げ上がった頭頂部を虹色に光り輝く薄い頭髪が照らしているその老人は、フィニアス・ナイジェラス・ブラックとイグノラムス・ゴーントを引き連れて、満面の笑みでこちらに歩いてくる。

 

〈死ね…………〉

 

 イグノラムス・ゴーントは蛇語で怨嗟を呟いているが、エデュエイダスは気にしていない。

 

「ゔぉーーー!! なんかわかんないけど皆いるよピーブズ!! 見てあれ魔法省の馬車だ!! 誰かわかんないけど僕も挨拶したい!!! ねえウィーズリー先生ぼくも挨拶する!!!」

「おーぅイエーー!! こーれはこれは今日はなんて最高の日なんだようこそおいでませ俺様のホグワーツに!!! トイレで泳ぐ権利くらい盛大に歓迎しちゃうぜ俺様がァーーー!!!!」

「おやおやおやおやこれは素晴らしい!! そこの人!! 私はポルターガイストのファスティディオ。まさかそれほど遠くから私と遊びに来てくれる人が居るとは!! だってその服装は、察するに相当遠くの国の民族衣装だろう? 今日はやっぱり最高の日だ! さーあ遊ぼう!!」

 

 いかにホグワーツの教職員が優れた魔法使いばかりとは言え、今どうすればいいのかという問題に、適切だと思えるだけの答えを持ち合わせている者はひとりも居なかった。

 大騒ぎしながら城から飛び出してきた白く光る靄のような何かには2体のポルターガイストがピッタリ付き従って、グルングルン回転しながら飛び回っている。

 先生たちでさえどうすればいいのか判らないのに、生徒たちにそれが判るはずもなかった。

 

おはんはだいか(あなたは誰?)

「僕は見ての通り光るエデュエイダス・ウィーズリーだとも。そういう貴方はもしかして――」

「俺様と俺様の友達と一緒に遊ぼうぜぇオマエ誰だかしらねえけど!! でオマエさては――」

「すごいすごい!! 僕はじめてみた!!! ねえねえおっちゃんもしかして――」

 

 とうとうその来賓、島津忠義の目の前までやってきてしまったエデュエイダス・ウィーズリーと派手なゴーグルの青年と2体のポルターガイストは、背後でホグワーツの皆が頭を抱えていることになど気づきもせずに、全く同時に、目を輝かせながら島津忠義に一言一句同じ確認をした。

 

「――忍者ってやつだ!! そうだろう?!!」

 

 思わず両手で顔を覆ってしまったのは、ウィーズリー先生だけではなかった。

 

「イエーーー!! シノビノモノ!! なんて最高の日だろう!!!」

「僕ねえ忍者って初めて見たんだ!! ねえねえおっちゃんアルバスをまんまるにできる??」

「さあ私たちと遊ぼうホグワーツで!!!!」

「俺様はオマエらをだーーーい歓迎するぜェェェェェェーーーぃ!! S█X!!!!」

 

 この時イグノラムス・ゴーントとフィニアス・ナイジェラス・ブラックの表情を確認する勇気があったのは、ただ1人満足そうに笑っているオリュンピアス・ウィーズリーだけだった。

 

 




 
 ギャレスの家族に関する描写は「1890年度時点でホグワーツ入学前の妹が存在する」「父のファーストネームのイニシャルがG」「兄が複数人いる」以外の全てが私の妄想です。

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