クリスマスイブ。二人の帰り道は大事な思い出になった。

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プレゼント交換

 

 

 

 ひゅう、と風が吹き抜ける。暖冬だなんだと言われてきた冬が、急に本気を出してきた今日この頃。俺は暖かかった屋内に別れを告げ、屋外を歩いていた。晴れているのに、ここは建物の陰。鋭い冷たさを持った風がぬくもっていた身体の熱を容赦なく奪っていく。

 

 

 ー今からCiRCLE行くよ~☆

 

 

 ポケットの中でスマホが震えた。寒さに震える手でコートのポケットからスマホを取り出す。通知欄を見ると、メッセージが一件。手が早くも悴んできて辛いけれど、そんなことは言ってられない。すぐに返信。

 

 

 ー今日は練習無いんじゃ? 

 

 

 ー自主練! 

 

 

 ショッピングセンターで買い物を終えて、駐輪場に向かっているところだった。リサからのメッセージ。流石あのRoseliaのベーシスト。バンド練習が休みの日でも個人練習を行う意識の高さに感服する。ただ……。

 

 

 ーなんでわざわざ俺に報告したの? 

 

 

 ー今日シフト入ってるでしょ? 

 

 

 ーまぁそうだけど。何で知ってんの? 

 

 

 ーまりなさんに教えてもらったんだ~☆

 

 

 まりなさんとリサ、仲良いもんなぁ……。そう思いながらも、勝手に従業員のシフトの日を教えていいんですかと、まりなさんに問うてみたくなる。……まぁ、別にいいけど。リサに会えるし。

 

 

 ここからCiRCLEまでは、自転車で十五分。リサよりは早く着くだろう。先に行ってお出迎えすることになりそうだ。

 

 

 駐輪代金を払い終えてロックを解除。俺は、愛用の自転車にまたがってペダルをぐっと踏み込んだ。

 

 

 


 

 

 

「今日はもう上がっていいよ~」

 

 

 まりなさんからそう切り出されたのは、リサの自主練が終わる五分前のことだった。

 

 

「え。でもまだ時間じゃ……」

 

 

「リサちゃんもうすぐ出てくるでしょ。駅まで送ってあげなよ」

 

 

 まりなさんはニヤニヤしながら、戸惑う俺をグイグイと裏の更衣室に押しやる。抵抗を許されぬ間に押し込まれた俺は、とりあえずまりなさんの言葉に甘えることにした。……リサと一緒に帰れるし。

 

 

 服を着替えてカウンターの方に出ていくと、まりなさんが近づいてきた。すると今度は、バンバンと俺の背中を叩く。

 

 

「うまくやりなよ! 若人(わこうど)よ!」

 

 

「……! 余計なお世話です!」

 

 

 ……少し顔が火照ってしまった。まりなさんのお節介(配慮)は嬉しいけどこそばゆい。でも、「若いっていいなぁ~……」と言いながらニヤニヤしながら言ってくるまりなさんは、やはりウザいかも。まりなさんから離れるようにカウンターから出るとすぐ、カウンター横のドアが開いた。

 

 

「あ! もしかして今上がり?」

 

 

 ベースケースを持ったリサがこちらに手を振っている。

 

 

「うん。帰ろう」

 

 

 俺はそう言ってリサの横に並ぶ。まりなさんの方をチラリと見ると、ウインクが飛んできた。……年明けのライブイベント、人手必要そうだし後で立候補しておくか。

 

 

 

 

 

 俺はCiRCLEから出ると、駐輪場に。自転車を回収したら、待っているリサの元に自転車を押して向かう。

 

 

「おまたせ」

 

 

「うん。いこっか」

 

 

 二人でCiRCLEから帰る時は、駅まで歩きのリサに合わせて、俺も駅まで自転車を押して歩く。帰りが少し遠回りになってしまうけれど、リサとのおしゃべりが楽しみなので気にならない。いつもは、歩き始めた直後からリサが話題を持ちかけてくることが多い。しかし、今日。今現在。俺とリサの間に会話は無かった。リサの方を向くと、リサは何だかそわそわしていて。しかも目を合わせたら逸らされるし。……何かしたかな。心配になってきた。いつも、会話のペースみたいなものはリサが握っていたから、こういうとき会話下手の俺は困ってしまう。でも、何とかしなければ。

 

 

「「あの! ……あ」」

 

 

 まさかの声被り。リサはまた再び黙ってしまう。相変わらず、こちらの出方を窺っているような、そんな感じ。なら、こちらから仕掛けていくしかない。こう、何か、話題を出そう。

 

 

「え……っと、リサって明日、Roseliaで練習あるじゃん。なのに今日、CiRCLEに来てくれたのって、俺に会いに来てくれたのかなーって……」

 

 

 頭にパッと浮かんだことを出力。言い終わった瞬間、俺は後悔する。これじゃあ、自意識過剰のイタイ奴じゃないか。俺は頭を抱えた。リサは相変わらず何も言わない。怖くなって、リサの方を見た。

 

 

「なんで、顔、赤いの……?」

 

 

 俯いているリサの顔は、熟れた林檎のように真っ赤だ。俺は、目の前の光景が信じられなくて、戸惑ってしまった。

 

 

「まさか……図星だったり?」

 

 

 俺がそう茶化すように言ってみると、リサは足を止めた。ヤバい。失言に失言を重ねてしまったかもしれない。俺は慌ててフォローの言葉を探す。けれど、また同じ轍を踏んでしまいそうで、いい言葉は一つも出てきそうもなかった。

 

 

「……て」

 

 

 脳みそをフル回転させながら内心であたふたしていると、リサが小さな声で何か言った。小さすぎて聞き取れない。何と言ったのか聞き返そうとしたその瞬間だった。

 

 

「だって、キミに会いたかったんだもん……」

 

 

 そう少し拗ねたような声で絞り出すように言ったリサ。口はキュッと結ばれていて、不服そうに上目遣いでこちらを見ていた。

 

 

「あっ、えっ……うん……」

 

 

 俺の口からは、よく分からない感嘆のようなものが漏れるだけ。「会いたかった」の一言と、いつもと違うそのリサの表情に心臓がドキリと跳ねた。顔も火照っている気がする。

 

 

「キミはさ、会いたくなかった……?」

 

 

 そんな表情で聞いてくるなんて、ずるいじゃないか。道の端に自転車を置いた俺は、リサを抱き締める。

 

 

「そんなわけないだろ。俺だって、会いたかったし……」

 

 

 リサは俺の胸の辺りに顔を埋めて、腕をしっかり背中に回してくる。とても、温かい。

 

 

 しばらくリサと抱き合っていると、視界の端に何か見えた。顔を上げると、道行くおばあちゃんが生暖かい目でこちらを見ている。

 

 

「あ゛っ゛」

 

 

 思わず、変な声が出てしまう。おばあちゃんは、ニコニコしながらウインクして立ち去っていく。お願いですおばあちゃん。忘れてください。

 

 

「……どうしたの?」

 

 

「道行くおばあちゃんに生暖かい目で見られてた……」

 

 

「うそ! 恥ずかしい……」

 

 

 リサがそう言って顔を覆う。微妙な空気を変えようとしたら、とてもいい雰囲気になって、また微妙な空気に戻る。神様の仕業ですか? いくら何でも忙しなさ過ぎやしませんか? 

 

 

「……あの、リサ」

 

 

 顔を覆っているリサに声を掛ける。うじうじしていても、始まらないから。

 

 

「本当は、明日渡そうと思ったんだけど……これ。クリスマスプレゼント……」

 

 

 背負っていたカバンから取り出したのは、今日、ショッピングセンターで買っていたもの。

 

 

「わあ……! 開けてもいい?」

 

 

「うん」

 

 

 リサがラッピングを解いて出てきたのは、バラの刺繍が施された小さなポーチだった。

 

 

「気に入ってくれると嬉しいんだけど……」

 

 

「ほんとにありがとう……。大事にするね……」

 

 

 そう言ったリサは、ポーチを大事そうに胸の前に抱えこんだ。その表情はにこやかで、美しかった。

 

 

「アタシも、キミに渡すものがあるんだ。……ちょっとこれ持って目を瞑って」

 

 

 ポーチと解いたラッピングをリサに渡される。リサに言われるがまま、俺は目を閉じた。ゴソゴソと擦れる音がする。リサもカバンを持っていたから、その中に何かあるみたいだ。「あった……」とリサが呟く。そして、リサの足音が右横を通って後ろに回った。何をするのだろうか。そう思った刹那、首元に柔らかい感覚。ふわふわしていて、温かい。すると、今度は足音が左横を通って前に。手からポーチの重みが消える。

 

 

「目、開けていいよ」

 

 

 リサにそう言われて、俺はゆっくりと目を開けた。首元を見ると、水色のマフラーが巻かれていた。

 

 

「一か月前くらいから編んでたんだ。昨日、やっと編み終わって……。それで、本当は明日渡そうと思ったんだけど、待ちきれなくて」

 

 

 だから今日、会いたかったのか。目の前にいる大事なひと(恋人)が愛おしい。真心が籠った手編みのマフラーは、首元だけでなく、心まで温かくしてくれる。

 

 

「本当に、ありがとう……」

 

 

 フライング気味のプレゼント交換。示し合わせたわけでも無い、純粋な二人の想い合いがお互いを幸せにする。クリスマスイブの夜。二人の影が寄り合うように重なっていた。

 

 

 


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