ある日、家の近くの路上で泥酔した酔っ払いをまた拾った。
街灯に持たれ周りには飲み散らかした鬼ころと書かれて紙パック酒がいくつも転がり、壁にはギターケースも立て掛けてある。
キャミワンピースにスカジャンに下駄という変わった服装の酔っ払い。
勿論、此処で見なかったことにする事も出来るが…その人物が知り合いであるとなるの見捨てるのもしなびなく、片手に持っていた食べかけの肉まんを口に放り込み声を掛ける。
「…しかたない。おーい、きくりさーん!起きてますか!」
肩を揺らして声を掛けるとも酔いで赤くなった顔で目を開くとにやり、といつものにやけ顔を作った。
「うえぇ?あれぇ
「アンタの家はこの路上なんすか。んなわけないでしょ、いつもの通りきくりさんが酔っぱらって寝てたから起こしたんですよ」
「あっれ~おっかしいな~、さっきまでメンバーと居酒屋で飲んでたはずなのにな~~!」
深夜に喧しくあっははと笑うきくりさん。
この人に会うのは一人暮らしを初めてから既に数えるのもアホらしくなるほど顔を合わせた。
ある日は今回の様に路上で泥酔し、ある日は公園のベンチで泥酔し、ある日は俺の家に来ようとしたのか最寄り駅で泥酔していた時だ。
……この人、酒飲んでない時の方が珍しいからな。
ポケットにゴミ袋として貰ったビニール袋に周りに慣れた手つきで素早く転がった紙パック酒の空を潰しながら敷き詰める。
時刻も既に深夜の1時。
終電も無く、警察に保護をお願いするのは一番なのだろうが、現役高校生の身で明日が週末と言えども深夜徘徊として補導されるのは正直まずい。
それにこのやり取りも何度を五回を超えた辺りから当たり前として受け入れていた。
「飲んでたのって何時ですか?」
「ライブ終わった後だから20時くらいかな~」
つまり居酒屋で悪酔いが始まったきくりさんを他のバンドメンバーをいつものように置いて帰ったわけだ。
酔っ払いの対応は総じて面倒なのはサラリーマンだろうが、OLだろうが、バンドマンだろうが面倒なのは一緒という事だ。誰だって相手にしなくて良いならしたくない。
「そうすか、もう日付も変わってるんで家に帰りますよ」
「それは無理!だって電車賃ないも~ん!」
当たり前のように話す事ではない。
「成人が金銭管理が杜撰だな。まあだろうと思ってました。なら俺の家に行きましょう、流石に路上に放置ってわけにも行きませんし」
「わかった、はい!」
頷くと両手を差し出してくるきくりさん。
「なんすかその手は?」
「え?おんぶ!酔っ払いを歩かせる気なの~!」
なぜ、この酔っ払いは上から目線なのだろう。
若干、イラっと感じながらも照れすら既に感じ無くなった自分に虚しさを覚えながらきくりさんを背負う。
いくらスカジャンを着ていても前はチャックはしめておらず、ブラも付けてないキャミワンピース越しの2つの果実が背中に当たるが、その感触にやましい気持ちが無いわけじゃない。いや、男なら誰でもそうだろう。
だが、この酔っ払いはそんな気持ちすら気に掛ける様子もない。
「ん~~、晶くんあったかいな~~」
「あーはいはい、そうですか」
投げやりに答えると彼女は上機嫌で俺の背中をリズムよくたたく。
「晶くんって面倒見いいよね~」
「……そんなこと無いです」
「そんなことあるよ~、晶くんいなかったらきくりお姉さん今頃路上で凍死してたかもしれないんだから~!」
「はいはいそうですね」
適当な相槌を打ちつつきくりさんのベース『スーパーウルトラ酒呑童子EX』を持ちながら持ち帰り道を歩く。
背負っているときくりさんは俺の首に回していた腕が少し強くしまる。
「晶くん~~きくりお姉さんは寂しいぞ~~」
「はいはい、わかりましたよ」
酔っ払いの戯言だと聞き流しておく事にしよう。
「いつもそうじゃん、晶くんって年上なのに全然敬おうともしないし~~!」
「そりゃどうもすみませんでしたね」
尊敬される為にやっている事には見えないな、という言葉は口に出さないでおこう。
「……いつもありがとね晶くん。きくりお姉さんはいつも感謝してるよ~」
「そりゃどうも」
多分、きくりさんは俺の事を勘違いしてる。
確かに彼女の事を友人だと思っているし助けているが、別に俺が優しいからじゃない。
俺が彼女に手を貸すのは彼女の相手をしていて気を使わなくていいからだ。数少ない友人であり、その縁が出来れば続いて欲しいという一種の依存に近い。
自分で言うのもなんだがら俺が周りからよく“天才”なのなんだと言われる。
けれど、“天才”である事が必ずしも生きる人生を豊かにしてくれるとは限らない。メリットを生む事もあれば、デメリットも無数に生み出しくれるものだ。
その点で言えば、彼女との間に“才能”なのなんだのは関係ないから付き合っていられるのだろう。
何とも打算的な関係だ。全くもって嫌になる…それを理解して上で関りを断つ事も出来い俺自身にも嫌気がさす。
「ないですよ、そんな事。俺は優しくなんてない……きくりさん?」
さっきまで背中越しに騒いでいたので静かになって事を疑問に思い声を掛けると、背中越しからすぅ、すぅと小さな寝息を聞こえた。
揺られる振動か、それとも背中越しの体温が心地よかったのか騒いでいたのが嘘のようにきくりさんは眠っていた。
聞こえていないのも分かった上で小さく「おやすみなさい」と声を掛けてまた歩き始めた。