ぎふてっど・ざ・ろっく   作:ノムリ

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お世話をされて

 無事、自宅であるマンションにまで到着しきくりさんを背負ったまま靴を脱ぎ、玄関で彼女を下ろして下駄を脱がす。

 

「きくりさん、家についたのでお風呂入って来てください。流石にそのまま寝ると二日酔いになります」

「んー、分かったよー」

 

 ふらふらと千鳥足で慣れた様子で廊下を抜け、お風呂場のある方向へと歩いていく。

 来るのが十回を超えると家の何処に何があるかは把握しており、酔っていても壁にぶつかることもないようだ。

 その間にベースをリビングに移動させ隅っこに立て掛けておく。酒専用のゴミ袋となっていてビニールをゴミ箱へと捨て、酒を飲んだ時に食べたり飲んだ方が良い物をまとめて置いてあるカラーボックス。きくりという名前が印字されているテプラが貼られた別名きくりボックスから必要な物を取り出していく。

 血糖値の糖分補給用にお菓子のラムネ。アルコールを飲むと大量に消費されるビタミンCを補給と疲労回復効果もあるハーブティーの一種のローズヒップを淹れる為のお湯も準備していく。

 

「ふぅー、お風呂あがったよー!」

「多少はアルコール抜けたみたいですね」

「あはは、ちょっとわね、あと着替え忘れてお風呂入っちゃたからシャツ借りたよ」

 

 頭をタオルで拭きながらリビングに出てきた、きくりさんは恐らく乾燥機に入っていた洗濯後の服を引っ張り出してきたようだ。

 

「別に構いませんよ、というか着替え忘れてのなら呼んでくれれば持って行ったのに」

「え、やだ、エッチ。私のシャワーを覗くつもりなんだね!」

 いまだ酔っているのか、アホな事を言いながらくねくねしている。

 

「いや、貴方のゲロ塗れの服を洗った事もあれば、お風呂に入れた事もありますからね。着替えなんて毎回洗濯して干してるのに何を言ってるんですか?」

「くっ!真顔で入れるときくりお姉さんも流石に傷つくよ!」

 ならもうちょっと年上らしい姿を見せて欲しいものだ。

 というか、シャツしか借りてないならその下は下着無しなのに、何故この人は未だに下着を取りにいかない。

 

「きくりさん、馬鹿な話はいいから下着を取りに行ってください。その間にローズヒップのハーブティーも淹れるので」

「はぁーい」

 

 きくりさんは若干不機嫌そうに返事をして、いつの間にか占領した自分の部屋へと向かっていく。

 

「ん、美味しい」

「そりゃ良かったです」

 

  着替えてきた彼女は、ショーツの上から俺のシャツだけを着ている状態だ。寝る時にブラは付けないと前に豪語していた。

 そんな事を思いつつもきくりボックスから、ドライヤーと化粧水や乳液、ヘアオイルや櫛を持ってきた彼女の正面に座る。

 

「化粧水までなんて至れり尽くせりだね」

「いいから、動かないでください」

 

 化粧水と乳液を念入りにきくりさんの肌に塗り込んでいく。

 頬におでこ、鼻や顎下など抜かりはない。

 

「髪、乾かすので動かないでくださいね」

「りょうかーい」

 

 洗面所からドライヤーを持って来て彼女の髪の毛を乾かす。

 ロングだからか手入れもそれなりにしているようだが、それでもかなり傷んでいるのが分かる。そして普段綺麗にしてるだけあってもの凄く良い匂いなのが何故か気にくわない。

 

「ラムネも食べて糖分補給してください」

「んんー、甘い!」

 

 口にラムネを放り込みコリコリと食べつつ、ローズヒップのハーブティーを淹れておいたきくりさん専用のマグカップで飲んでいる。

 いつの間にか、この家にはきくりさん専用の品が増えていた。

 

「髪、傷んでますよ。あ、枝毛あった」

「美容院も行けてないしねー。結局金がないのよ!」

「酒を辞めればライブで機材を壊すことも無くなってまるっと解決な気がしますよ」

「それは無理だね!」

 

 どうしてそう力強く宣言する。

 まぁ、今まで努力しても無理な事はとことん無理だった気がする。

 というか、こればっかりは簡単に出来るならとっくに辞めてるだろうからな。

 そんな事を考えつつ、きくりさんの髪の毛にヘアオイルを塗っていき、最後に櫛を通していく。

 

「ほいっ!完了です」 

「わーい!」

「料金は後ほど口座へお振込みください」

「いや、金とるのかよ!」

 

 当たり前だ。何もせずに無料ってわけにはいかないでしょうに。

 むしろ美容師でもない素人にタダで髪を乾かしてもらってる事に感謝しろと言ってやりたいところだ。

 

「しかたない、体で支払おう!」

 

 ブラのつけていないシャツの襟元を軽く伸ばし大きくはないが確かにある胸をちらつかせる。

 

「はっ!」

「は、鼻で笑われた!普通ここはのる所じゃないの?そもそも晶くん、私で興奮したりしないの!?」

 

 この人はまだ酔ってるのか?いや、酔いも覚めてるだろうに、どうしてそう下ネタを連発するんだろうか。

 

「しないわけではありませんが、酔っぱらってるきくりさんがマイナス極振りなのでアルコール抜けていても人間的評価はマイナス値なので…」

「おぅ!今のは流石にお姉さんも心にダメージが!」

 

 どうやらお酒が多少抜けて程度ではいつもの精神年齢が引くきくりさんと変わらないようだ。

 

「まぁ、いいですよ。明日は休みですけど流石に眠いので寝ますけど、きくりさんはどうします?」

 

 時計を見ると既に針は二時を指している。

 

「えー、晶くんって性欲ないの?」

 

 ほれほれ、と襟をぱたぱたして煽ってくる。

 

「友人を押し倒すほど性欲も強くないつもりですし、人間やめてないので」

「ま、それもそっか。私だって何回も泊めてもらってるけどお風呂すら覗きに来ないもんね」

「ふぁー、今は性欲よりも睡眠欲が勝ってるので寝ます。飲み終わったらコップは水につけておいてくださいね」

「私だってコップ位洗えるよ!」

 

 そうですか。

 そう言って、朝起きると机の上にそのままコップが何度かあった。

 

「おやすみなさい、きくりさん」

「おやすみ、晶くーん」

 

 手を振ってくるきくりさんに手を振り返して自室へと入っていった。

 

 

 

@ @ @

 

 

 私こと廣井きくりが晶くんに出会ったのは先輩の所を追い出されて時に出会ったのが始まりだった。

 もう三年前にもなる。

 電車賃を渡されて追い出されたはずが、駅で切符を買おうとしていたはずなのに片手にはお酒が握られ季節は冬だったので冗談抜きでつんでいた。

 寒空の下、凍死を覚悟しつつ歩いて帰ろうとしていた時に声を掛けられた。

 

 家に案内され、ホットココアを出されソファだったけど寝る場所も即席で作ってくれて、次の日には家に帰るための電車賃も渡された。

 

「…少しくらい大人の女性として見てくれてもいいと思うだけな」

 

 襟を引っ張り先輩よりも小さいが確かにある膨らみ。

 彼も興奮したり、意識していないわけではな事は知っている。

 それでも手は出してこない。

 

「まあ、大切に思ってくれてるって言うのも悪くないよね」

 

 冷めてしまったローズヒップのハーブティーを飲み干し。言われて通りコップをシンクに置いて水につけ置きしておく。

 

 というか二十五歳の大人が未成年の現役高校生に面倒見てもらってるってヤバイよね。

 泥酔状態で路上に拾われ、髪も拭いてもらい、あまつさえ寝床も用意されている。

 そして朝になれば出来たホカホカな朝ごはんが準備される事になるのだろう。

 

「わたしって駄目人間だなー!」

 

 ソファにあったクッションに突っ伏していると香ってくる彼の匂い。

 それもそのはずだ、今着ているのは彼のシャツなのだから。

 カップルで言うところの彼シャツをやってみた。というか、着替えを持って忘れてので手頃にあったものを着ただけなんだけど。

 男性用でぶかっとしており、お尻まで隠せる丈。

 襟を引っ張り鼻に当てて呼吸すると洗剤の匂いに混じって彼の匂いがほのかに香る。

 

「って、私は変態か!」

 

 誰も居ないリビングで年下の男子に借りたシャツの匂いを嗅ぐ。

 うん!変態の姿だな!

 

「でも、いい匂いだな」

 きっと今日はいい夢を見ながら眠れるだろう。

 そう思いながら私がいつ来てもいいようにベッドまで用意してくれた布団に潜って夢の世界へと旅立つのだった。

 




 書いている間に年を越して年始ですよ。
 まあ、仕事で元旦しか休みないんで特にいつもの休みの日と変わらない生活しか送りませんが。
 皆さんもまともな長期休暇が欲しいなら介護やら携帯ショップ店員やら家電量販店のスタッフの仕事はしちゃダメですよ。
 夏休み、冬休み、ゴールデンウィークにシルバーに祝日全てが仕事で基本、振替休日など存在しないので。
 
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