この一球が決まらなかったら退部しよう。そう決めて主人公はバスケ部に入って一度は言ってみたかった台詞を言い、ボールを構えた。
「このシュートが決まったら、俺と付き合ってください……ッ!」そう主人公が言うと、体育館の天井から女の子が現れた。そうして現れた女の子は主人公へと衝撃の一言を言う━━━!
また、猫又おかゆ氏が考えたシナリオを元としているため、二次創作として作成しております。
バスケ部はモテる。
そんな与太話を信じて高校デビューと称して入部したのは良いが、この学校のバスケ部は俺含めてギリギリ片手で数えられる人数を越える程度であり、実力は全員素人に毛が生えた程度、悪く言えば初心者同然であった。
モチベーションは低く、部員の集まりすら悪い。そんな俺らが大会なんてまた夢の夢であり、仮に出ても初戦敗退が目に見えている。
こんな弱小バスケ部がモテる筈もなく、今日も今日とて集まりの悪い中、体育館で部活の練習を終わらせ、自主練として一人でシュートをしている。
「はぁ…………」
最も、バスケ部に入部した程度でモテるなら、男子生徒の9割近くがバスケ部に居るだろう。ちょっとでも簡単に考えれば分かっただろうに、俺は何に浮かれていたのだろう。
「ハッ!」
ゴールポストの目の前からへとボールをシュートする。ボールはボール穴の縁へと当たり、ガコンと音と共にあらぬ方向へと飛んでしまった。
まただ。何度練習しても決まらないシュートを見て、自分自身に嫌気がさす。何が足りないのだろう。筋力か、知識か、経験か、それとも気持ちだろうか。
バスケ部に入って2ヶ月。これまで頑張ってきたが、そろそろ潮時なのかもしれない。シュート1本も決まらずに弱小バスケ部で居るよりも、退部して新しく部活に入るか、帰宅部して過ごすのが良いのかもしれない。
「これが入らなかったらバスケ部辞めるか」
俺は先ほど飛んでいってしまったボールを回収して、一息つく。どうせここには俺以外誰も居ないんだ、せめてこの最後の一球は、バスケ部に入って一度は言ってみたかった台詞で終わりにするとしよう。
「このシュートが決まったら、俺と付き合ってください……ッ!」
そうして構えた最後の一球をゴールへ向けてシュートしようとした時、あるものが視界へと入り、ボールを構えたまま身体が固まる。
「羽?」
ゴールポストへと視線を向けていた俺の目に映ってきたのは、ピンク色の鳥の羽であった。『鳥の羽』と言う部分ならまだ理解は出来る。体育館の窓が開いていて、鳥が入ってきたのだと説明が出来るのだから。
だが『ピンク』とはなんだ。自然界でピンクの鳥と言えばフラミンゴを思い浮かべるが、ここは日本だ。日本でフラミンゴが自然に居るとは聴いたことがない。
動物園からの脱走か、それとも自分が知らないだけで日本にはピンクの鳥が生息しているのか。はたまた誰かのペットが逃げ出したのか。
「いやいや、流石にそれは無いか」
目の前で起こった現実を自分なりに解釈して受け止めようとするが、全ては推測の域を出ない。考えてみれば、そんなことはないだろう。
大方、体育館を文化祭で使った時に羽の飾り物が宙を舞って、天井へと張り付いたのだろう。それがたまたま落ちてきたのだろう。あまりにも無理矢理な考えではあるが、自分が思い付く限りで、現実的に一番近いのがそれだから困りモノだ。
「てか上見れば分かるか」
目の前の光景に少しばかり混乱していたが、よくよく考えればそうすれば疑問が解けるのであった。
何かが居れば先生に報告をする。何も無かったり、ただの気のせいなら笑い話に出来る。たったそれだけの事である。
「…………え?」
しかし天井にあったのは疑問に対する答えと、さらなる疑問の追加であった。
『それ』を見て思わず構えていたボールを床へと落とす。ボールが床を跳ねる音が体育館に響くが、自分の耳にはこれっぽっちもその音が入ることは無かった。
「天使?」
天井から天使らしき女の子が降りてきた。何を言っているのか分からないと思うが、言葉通りの意味である。
ピンク色の頭には鳥らしき羽が生えており、上半身は胸に使用方法が分からない謎チャックの付いた服、下半身が身体のラインが激しい服を着ている。
女の子はそのまま天井からゆっくりと降りてきて、自分の目の前で床へと着地した。そう、自分の目の前である。つまり何が言いたいのかと言うと、
「へっ!?」
「あ」
シュートの為に構えていた自分の手が、丁度女の子の胸へと触れる場所なのである。この光景を見た人は10人中10人がセクハラだと自分を訴えるかもしれないが、弁護させてほしい。これは仕方ないだろう。
目の前で非現実的な事が起こったのだ。しかも着地地点が自分の目の前。これは神様か何かの気紛れによるイタズラだろう、きっと気紛れに行動してるのだから猫の神様だろう。現実を受け入れきれず現実逃避をしていたが、それより先に自分にはやることがある。
「すみませんでしたぁ!」
土下座である。
それはそれは自分の生涯の仲で最も美しい土下座であった。もしもしこの世に土下座グランプリなるモノが存在するのであれば、優勝は確実だろう。
過程がどうであれ、女の子の胸を触ったのは紛れもない事実である。許されるかは別として、せめてもの誠意としての土下座だ。これで足りないのなら後は腹を切るしか無い。
「えぇ……」
しかし罵倒が飛んでくると思われた女の子の口から放たれた声は、羞恥心や怒り以上に困惑が多く混ざっているモノであった。
☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
「えっと、取り敢えず自己紹介から入るね。私は鷹の一族の鷹嶺ルイ。君の名前は?」
「俺のようなセクハラ野郎に名前を名乗る資格はありません」
「名前が分からないと色々と不便なんだけど……」
女の子……いや、鷹嶺ルイ様は一先ずセクハラの件は置いてくれた。正確には今の状況を整理したいから、セクハラの件を追求するのを止めてくださった。
土下座も大丈夫だと言われて、自分は今正座の状態だ。一時的にとは言えど許されたが、俺のようなセクハラ野郎に名乗る名は無い。もし名前が分からなくて不便ならば、この名前を名乗るとしよう。
「前科神セクハラ三太郎です」
「嘘だよね!?」
「はい嘘です」
簡単に嘘がバレてしまった。
本当の名前を教えてほしそうに俺の方を見ているが、これ以上の名は持ち合わせていない。すると、鷹嶺ルイ様はため息をついて名前の追求を止めてくださった。
「取り敢えずは太郎君って呼ぶね」
「名前を呼んでくださって誠にありがとうございます」
「ど、どう致しまして? あと私は天使じゃなくて鷹の一族ね」
天使様だと思い畏まっていたが、どうやら違うようだ。だが故意ではないがセクハラしてしまったのだ。せめて誠意として敬語と様付けは続けさせてもらうとしよう。
それにしても鷹の一族とは何か、どうして体育館の天井から現れたのか、疑問が尽きないがこれから捕まる自分には関係の無いことだ。
「初対面の太郎君にこういうのも変な話なんだけどね、私たち『鷹の一族』にはある決まりがあってね」
決まりとはなんだろうか。セクハラした野郎をなんかこう、地下施設で木をグルグルと回すアレを永遠にやる刑にするのだろうか。
「鷹の一族のち、
乳房、より簡単に言葉に表すと胸である。
乳房を触った人と結婚。俺はさっき鷹嶺ルイ様の
ここまで考え、俺の頭は思考を放棄した。
「太郎君? 太郎君ッ!?」
非現実的な出来事、セクハラした事による罪悪感、突然言い渡される初対面の人との結婚発言。立て続けに起こった内容に俺の頭は付いてこれずショートした。
これを将来の結婚相手が見つかったと幸運と捕らえるべきか、こんなことで俺と結婚することになった相手を不幸だと捕らえるべきか、俺には分からなかった。
だが一つ言えることと言えば、バスケが鷹嶺ルイ様と会わせてくれた事だろう。
シュートが決まらなかったらバスケ部を辞めると誓ったが、ボールを構えただけでシュートはしてないからノーカンである。
そう自分自身に言い訳をして、俺は薄れゆく意識の中でバスケに対して感謝をし、もう少しだけ部活を続けることを決意した。
【元のプロット】
・シュートを決めようとしたらルイ姉が天井から来る
・ボールが下に落ちて胸に触れる
・天使のルイ姉が落ちてくる
・天使だったら鷹だった
・鷹の一族は乳房を触った相手と結婚する