仄暗くもどこか明るさを持っている大洞穴、そこの体育館ほどの大きさはあろう大広間で、多種多様な姿のものたちによるどんちゃん騒ぎが行われていた。
「お前はんら!飲めや歌え、踊れや喰らえ!今日は無礼講や!この男はんらが持ってきたお酒と飯が山のようにあんで!腐る前に食っちゃおうや!」
「「「「ウォォォォォォォォォォ!!!」」」」
京の都から少し離れた大江山、そこの中腹に存在する洞窟の中で大宴会が開かれていた。
そこで音頭を取っていたのは大妖怪『酒呑童子』。この山の支配者であり、数百の呪霊たちを率いる棟梁でもある。
そんな彼女は手に盃を持ちながら、盃の中にこの六人組が持ってきた酒を入れ、乾杯した。
「っ、ぷはぁ。ほんまに美味いお酒やな。盃をあおる手が止まらへん」
「それは嬉しい限りでございます。酒呑童子様。ささ、どうぞ。お注ぎいたします」
「あんがとなぁ。…んー!うんまいなぁ!」
酒呑童子の隣に座っているのはここ大江山にやってきた六人組のうち、リーダーであった山伏のような格好をした呪霊である。
そのものが持ってきた瓢箪を手に、酒呑童子の持つ盃になみなみと酒を注ぐ。
「そういやぁ、こんお酒なんちゅう名前なん?」
「あぁ、このお酒は『神変奇特酒』と呼ばれるお酒でございます。都の呪具師に“お願い”して作らせました。特級呪具でもありまして、刻まれた術式は『無限に酒が湧き出る』でございます。
こちらの呪具も酒呑童子様に献上させていただくため持って来させていただきました」
この山伏が持っている瓢箪から出てくる酒は、今まで飲んだことがないほどの美味。
酒呑童子に酌を行う山伏が言うところには『個々人の味覚に適応したお酒』が出てくるため、万人に受け入れられる、とのこと。
先程山伏は大量の食料などを馬に引いて、樽には酒をたっぷりと入れて持ってきていた。しかも三台ほど。
呪霊にとって食事というものは、嗜好品にすぎない。しかしながら都から奪ってきたという食糧の数々は垂涎ものであり、欲望の化身たる呪霊たちが断るはずもなかった。
もし人間が同じようなことをしたとしても、呪霊たちにとっては鴨がネギを背負ってきた、ということになってしまうが今回の山伏六人組たちはどっからどう見ても呪霊である。
呪霊は人間には悪烈な感情を向けるが、仲間である呪霊にはそこそこ良い感情を向ける。さらにはいつのまにか門番が山伏たちと仲良くなっていたため、流れるように宴会をすることが決まっていった。
まぁ酒呑童子としても受け入れるつもりだったため、聞かずに勝手に受け入れたモノには叱る程度で済ませたのだが。
「舊らっhjkやu Wiiユy盖薷らッ徽kあ!」
「ksgeijdusmanhdnw!!」
「おおおお前さん、ここここれ飲みなさんや」
「おぉ!ありがとうございます」
至る所で騒ぎ声が聞こえてくる。
奥の方では鱗全てに眼球がくっついている大蛇が酒が入った樽ごと丸呑みにしていた。
近くでは二足歩行の猪が、赤子の踊り食いを行っていた。
そして洞窟の敷かれた畳の上で六人の山伏達はもてはやされていた。
山伏に酒を注いだり、注がれたりしているのは大江山の幹部である四天王たち。姿形は所々違うが、大まかに見ればいわゆる「鬼」である。酒呑童子のような見た目で強さがわからないモノでなく、筋骨隆々、質実剛健。見ただけで「強い」と思わせるようなそんな肉体。
それら四天王たちの名を星熊、金熊、熊童子、虎熊、という。全員に熊という名がついているが、古来から人類に恐れられてきたのは日本においては熊である。
熊は鬼と同様に見ただけで強さがわかる。そして人知れず熊に食われた者を「鬼に食われたのだ」と評されることもある。彼らが熊、の字が入る名を名乗ったのも必然だったのかも知れない。
そんな彼らは鬼の特性をしっかりと受け継いでおり、毒物にめっぽう強い。
肉体だけでなく、内臓機能もめっぽう強いのだ。そこらの毒草をたらふく食っても死なず、触れただけで死ぬほどの茸を食べても何ともないほどほど。
そのため好きな酒で酔えない、という悲しい事象が発生するのだが。
そんな彼らであるが、今まさに酔っていた。
「ヌッハッハッハッハ!!棟梁!!酔えるのは久方ぶりですな!!もう一杯だ!!」
「星熊。も少し静かにしぃ」
「む、申し訳ない棟梁」
呪霊として生まれたばかりの頃は肉体が完成しておらず酔うことはできたが、今となっては酔うことができない星熊はとても嬉しそうに笑っていた。
酒呑童子は最初から酔うことができなかったため、初めての酔いでありこの状況をとても楽しんでいた。
少しうるさい星熊を諌めはしたが、彼女はそれほど気にはしていなかった。
それほど美味い酒なのである。
違うところでは茨木童子とその一派たちが、一人の山伏と一緒に酒を酌み交わしているところだ。茨木童子に関してはすでにベロンベロンである。
「いんやぁ、ほんまに美味いどすなぁ。そういやあんたはんの名前なんて言いはるん?一応聞いとこかと思ってなぁ」
すこぶる上機嫌な酒呑童子は、山伏たちの長たる男と酒を酌み交わしながら、雑談をしていた。
酒呑童子は口から酒気を放ちながら、山伏の長はほんのり顔を赤くしながら、だが。
口から酒気を放ちながら話す酒呑童子に、山伏の長は顔色も変えずに答えた。
「あぁ、私の名ですか。『らいこう』と仲間内では呼ばれております」
どちらもにこにこしながら、たわいもない雑談を繰り返す。
例えば東の山にいた呪霊はかなり強かっただの、安倍晴明がすこぶるうざったらしいだの、何処どこの家の血肉は美味いだとか、猪鍋を食べたいだとか。
大勢の呪霊たちが酔いつぶれていく中、酒呑童子はほろ酔う姿を見せながらも、まだ酒を飲んでいた。
途中から『らいこう』の顔が少しずつ青ざめていっているほどである。
そうは言っても四天王たちも酒呑童子も微睡始めているのだが、眠ってしまうのは当分後だろう。
大江山四天王、茨木童子、および彼ら直属の部下数名以外が豪快なイビキをかきはじめた頃、酒呑童子はふと思い当たり、千鳥足で立ち上がってどこかへ向かったと思うとすぐに戻ってきた。
「あんたはん、山伏の呪いやろ?人肉は好きか?」
「はい、特に女子の肉が好みでございますが…」
酒呑童子は赤い壺を持ってやってきた。その壺の中からは、濃厚なむせかえるほどの血の匂いが漂ってきている。
それに顔色を変えることなく、山伏『らいこう』は壺を持ってきた酒呑童子に答えた。
「そらちょうどよかった。最近女子の肉を手に入れたトコなんやよ。うちは血を飲むのが好きやけども、あんたはんは肉と血、どっちがええ?」
「…ならば、私はこちらの肉の方をいただきましょう」
そのまま宴会は続く。
都から借りてきた赤い台盤の上に、これまた都から借りてきた美しい器の上に、人肉を乗せ。
そして酒呑童子が持つ盃には、並々と新鮮な血を注いで。
人肉の代わりに猪を酒の肴にして食べながら、『神変奇特酒』と共に血を飲み続ける。
そしてこの『神変奇特酒』、まろやかであり、強すぎず、かつあっさりとしているが主張は十分に強く、他の酒など相対できぬほどである。
つまりは酒呑童子、彼女はこの酒にどハマりしていた。
…いつもなら気がつくことにも気がつかないほどに、ハマっていた。
◆◇◆
それに気がついたのは人肉を『らいこう』の元に持ってきた数分後。
少し眠気が出てきたところで、ぼんやりとした目をしながら『らいこう』を視界に収めながら話していたところだった。
「んー?ちびっと小骨が刺さっとるよ?直しなはれや」
「…、あぁ。話に夢中で刺さっていたことにすら気がつきませんでした。こんな宴の時に申し開けない。…よっ」
『らいこう』は人肉を食べる際に引っかかった小骨を、人差し指から抜き取り
「ほんまにごめんな。もうちょい仕込みをしっかりさせとけばーーー」
違和感
微睡んだ、思考がうまく進まない頭の中で何かが引っかかった。
例えるならば、いつもは見ない蝶が家の周りを飛んでいる程度の違和感。その程度、と言ってしまえるほどの小さなもの。しかし、長年両面宿儺と戦いを幾度と行えているのだ。幾度となく繰り広げられた呪術の経験。彼女は見てきたのだ。違和感を捨てたものから死んでいったのを。
彼女はそれを許さない。
違和感
『らいこう』が指で小骨を取り出し、少し笑いながら大丈夫と言っている中。
酒呑童子は微睡んだ頭を全力で回転させ、推測した。
(なんで、今違和感に思った?さっきまで一切合切違和感なんて覚えなかった。ならばなんで、今なんや?)
違和感
(そもそもなんでうちは彼らを何の疑いもなく、洞穴の中に入れた?どこの馬の骨とも知れへんのに?さらに言うてしまえば、殺して奪えばええ話やった。でも何で、うちは中に入れた?)
一度違和感に思ったことで、次々と疑念が湧いてくる。なぜ毒草や毒キノコで死なぬ我らが酒で酔えたのか。なぜこんな強い酒なのに彼ら山伏は酔っていないのか。なぜ。何故、なぜ?。それはまるで、
違和感
(思い出せ!何が引っかかったんや?!何だ!何が…
ーー
…あ)
加速された思考の中、結論まで至るのに、約0、02秒。驚異的な思考の結果、違和感は確信に至る。
(そもそもうちら呪霊の血液は紫色!しかもすぐ条件反射的に修復されるから、平時の際に傷跡に気づかれるなんてあらへん!さらに言えば、呪霊の回復は肉が盛り上がるように再生する!対してアレは、あの白い煙は巻き戻すかのように回復しとった!
アレの名はーーー)
ソレは、呪術戦において、呪術戦における高等技術とされるもの。もちろんここ、平安の時においても使えるものは少ない技術である。
使い方は負の呪力と負の呪力の衝突。それによる呪力の掛け算。
肉体がある人間にとって唯一と言ってもいい回復手段であり、外部出力が可能であれば呪霊への特攻技にもなる高等技術。
その名は負の呪力をひっくり返し、正の呪力にすることからこうよばれる。
(反転術式!)
ーーーもちろん呪霊は使えない代物でもある。つまりそれが示すのは
(敵!!)
すぐさま酒呑童子は立ち上がり、たたらを踏む。
持っていた徳利、盃、アレほどまでに気に入っていた「神変奇特酒」をほっぽり出して。
「祟ら踏み」
いつもの行動を行うことによる精神統一。それにより現時点の呪力総量、出力、操作性が下がっていることを一瞬にして看破。
呪詞を紡ぐことで底上げを図る。
「空華 伽藍 阿鼻叫喚」
目の前で座っていた『らいこう』は、驚きながらもすぐさまどこからともなく取り出した刀を抜刀し、自身と酒呑童子の間に刀を滑り込ませる。
「空割」
酒呑童子が繰り出したその技は、ただただ単純な直線の拳による攻撃。酒呑童子の腕の長さでは届かない場所にいたにもかかわらず、強烈な死を感じ取った『らいこう』が守ることを選択したのは正解であった。
酒呑童子が拳を振るった瞬間、直線上にあったものが吹き荒れる。置いてあった盃、荷車、樽、岩石が粉々になっていく。
洞窟内に暴風が吹き荒れた後、風が治り出てきたのは無傷の「ライコウ」。しかしながら先ほどまで持っていた刀は粉々となっていた。
その突然始まった戦闘に、幹部級の者たちは迷うことなく山伏たちから距離を離した。
山伏たちも驚いているが、わかっていたと言わんばかりに弓、大刀、戦斧を空中から取り出した。
「酒呑童子殿…いかがなされたのですか?少し落ち着かれ」
「落ち着いとるわ亞保。おまえはん呪術師やろ。どうやってうちの目を誤魔化したのかは知れへんけど…。どう落とし前つけるんや?」
かなり苛ついている酒呑童子の前、大量の殺気が向けられている中。山伏の呪霊、いや、京の都からやってきた六人の武士たちは恐れることなく宣言した。
「大丈夫です。…何せ勝つのは我々ですから!落とし前など返却させていただきましょう!」
そんな無礼にも程がある一言。酒呑童子が思うことはただ一つ。笑っていた。
まともそうに見えるが酒呑童子もまた呪霊。生粋の戦闘狂でもある。長年挑戦者など両面宿儺以外にいなかった。その両面宿儺も眠ってしまった。
そんな中久しぶりの挑戦者。
まんまと騙されたことも含めて、さらにあのまま違和感に気づかず眠っていたら何が起きていたかもわからない死の瀬戸際。
そんな状況でも笑っている。
「ええなぁええなぁ。それじゃあ、あんたたちが死ぬ前に落とし前つけてもらおうか。『鬼に横道なし』ちゅうことで…、殴り合いといきましょか!」
周りで構えていた大江山四天王やその部下。それぞれが構え、拳を握る。
一方山伏たちはそれぞれの獲物をどこからともなく取り出し、さらに山伏の格好であったのだが、一瞬にして鎧の姿となった。
そして新たに刀を取り出し、完全装備となった『らいこう』が大声で張り上げながら開戦の狼煙を挙げた。
「やぁやぁ我こそは藤原満仲の息子、藤原北家の直属武家団が団長!我が名は藤原頼光なり!後一条天皇の名のもと鬼神『酒呑童子』の討伐に参った!いざ尋常にお覚悟せよ!」
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『祟ら踏み』
酒呑童子が戦闘前に行っているルーティンみたいなもの。これをすることで呪力操作とか呪力出力とか集中力が上がる。
術式ではなく、ただの呪力操作。
構えとしては左手を開いて前に出し、右手は軽く握って引いておく。右足は引いて、正眼に構えることが条件。
無意識だが一種の縛りとなっている。
『空割(からわり)』
ただただ呪力をたっぷりと込めて放つ正拳突き。
普通の正拳突きと違う点は攻撃対象が大気なだけ。凄まじいほどの感覚から、気流を捉え、大気の面に拳をぶちかます。
そうすることで大気が圧縮され、大爆発が起きたりもする。今回は少し弱体化した攻撃となった。本来だったら刀だけでなく、腕まで粉砕されていた。
一応術式を使っている。
サブタイトルは「小太り爺さん」の原文から。元々は「鬼に瘤取らるること」。
鬼たちの宴会に人間が入っていった、ということで。
年末年始ガチで忙しい。
そんでテストがあんので、次の投稿は一月終わりになりそう。
なぜこんな結果になったのか?、みたいのは次回。
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