ポニーとは、体高147cm以下の馬の総称である。ポニーの多くは乗馬用、少数が愛玩用に生産される。
では、乗馬用にするには気性が激しく、愛玩用には愛嬌が足らないポニーはどうやれば殺処分を逃れられるだろうか。私は常日頃から、そう考えて、死を待っている。
私は白石。かの有名なポニー、ナリタブラリアンにダート1000メートルで2着まで迫ったサンデーサイザンスの産駒である。ポニー競馬が盛んでない日本では無価値に等しい、ただ「速い」だけのポニーの一頭だ。
今日も、誰を乗せるでもなく、誰に媚びを売るでもなく、ただ放牧地を駆け回っている。
でも今日は違う。同じ放牧地にやたらデカくてやたら黒い馬が放牧されてきた。でかい体。細く、長い脚。おそらくサラだろう。だが妙に痩せている。おそらく、競走馬というやつだろう。休養に来たのだろうか。
サラはいいなあ。気性が激しくても、愛嬌がなくても、ただ「速い」だけで、それだけで手塩にかけてもらえる。それだけで存在価値を認めてもらえる。俺もサラだったらなあ…
『おい、ボウズ』
きっとあの黒いサラも「速い」んだろうなあ。
『おい、聞いてんのか、ボウズ。』
なんだこのサラ…高圧的だなあ…
『あっ…はい。聞いてませんでした。』
『生意気なガキだな。そこどけ。そこのシロツメクサを食いたいんだ。』
『ならどいてやらねー。サラだからって調子乗ってんじゃねえぞ。』
『何だと。お前、歳はいくつだ。』
『2歳だ。』
『俺は9歳だ。』
『けっ。おっさんどころかジジイに片脚突っ込んでんじゃねえか。』
『何だとこのガキ』
調子に乗って強がってみるが、高齢といえどサラはサラ。蹴られるとひとたまりもないので退いてやる。
『あんた、サラだろう。どっかレースでも走ったことあんのか。』
『ある。ついこの前だって走った。2着だったがな。』
『走るのって、楽しいのか。』
『楽しい。全力で走って、競り合って、どれだけ早く板のところまで行けるか。こんなに楽しいことはない。』
『ふーん』
『どうした。聞いた割には興味なさそうだな。』
『俺はポニーだから。いくら走れたって、なんの意味もない。』
『そうか。そう思うか。』
『サラはいいよな。「速い」だけでチヤホヤされて。』
その時、その黒いサラからなにか殺意のような、怒気のようなものを感じた。
『ボウズ。俺達サラだって、ただ「速い」だけじゃ、だめなんだぞ。』
黒いサラは、怒っていた。
『ただ速くても、ヒトに従順でなければだめだ。落ち着きがなければだめだ。体調を崩しやすかったり、怪我をしやすかったりするとだめだ。大きすぎたり、小さすぎてもだめだ。』
『………』
『ただ、すべてが揃ったサラなんかいない。だからそんなやつの中でも、ヒトに愛想の良いやつが生き残る。』
『そう…なのか。』
黒いサラの言葉は、俺の頭に響いた。なにか欠けていた俺の根幹を、なにか補完してくれる気がした。
『でも、愛想の振りまき方なんて…わからない。』
『じゃあボウズ、ちょっと見てろ。』
そう言うと黒いサラは、見学者であろうヒトに向かっていき、盛大にフレーメンしてみせた。
ヒトたちは「ぷぼ君って、間近で見るとかっこいいね。」「変顔もかわいい♡」などと笑っている。すると黒いサラはこっちを向いて、
『ボウズ、お前もやってみろ。』
と言い放つ。俺がもたついていると、
『早くしないとこの放牧地のシロツメクサとタンポポ、食い尽くしちまうぞ』
…なんて恐ろしいサラだ。ジジイのくせに、生意気だ。
『わかった。』
俺は、見学者であろうヒトに近づき、同じようにフレーメンしてやった。
『やればできるじゃないか、ボウズ』
黒いサラのジジイは、そう言って俺をペロペロ舐めた。
2ヶ月半過ぎた頃。ついに黒いサラのジジイが休養を終えてまた走りに行くと言う。
『2ヶ月半だったが、世話になったな、ボウズ』
『こちらこそ。』
『ヒトには愛想よくするんだぞ。』
『わかってる。』
なんだか、名残惜しかった。
『サラのおっさんは、今度はどこを走るんだ?』
俺が聞くと、おっさんはしばらく黙ったあと、答えた。
『フランスだよ。フランスのロンシャンってとこで、凱旋門賞ってレースを走るんだ。世界で一番強い、世界で一番速い馬を決めるレースだ。』
そして、黒いサラのジジイは少し悲しそうに続けた。
『そして、たぶん俺の最後のレースだ。』
俺には、黒いサラのジジイがどこか寂しそうに見えた。
『そうなのか。頑張れよ、サラのおっさん。』
このあと、黒いサラのジジイは、その「凱旋門賞」ってレースを、日本の馬で初めて勝ったそうだ。
そして今、俺は……
その影響で誕生したポニー競馬のネット番組で、黒いサラのジジイの偽モンをやっている。
『おっさん…走るって、楽しいな!』
信じられないかもしれませんが、とある夜に私が見た夢そのまんまです。まあとんでもない夢を見たもんだと思います。夢だとすぐにわかったのですが、四足歩行にも、挨拶としてペロペロされることにも、違和感が全く無かったのが不思議です。夢ってそんなもんなんですかね。
ただ、ポニー君の言葉遣いはかなり変えています。自分が見た夢そのまんまだと、クソデカぷぼ君に萎縮してヒンヒン泣いてる、まるでリアルの私をトレースしたような精神がクソほど貧弱なポニーが出来上がってしまうので、生意気ポニーくんに仕立てています。この手のおじショタのショタは生意気な方がいいと思います。おねショタのショタは貧弱なほうがいいけど。てかそうでないと成り立たん。