強欲娼婦と哭倉の旅   作:るりつばき荘

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【11】鶴の一声改め、鬼の一声

「ちょっと坊や!」

「ゲゲッ!?ごめんなさい、俺は決して怠けてる訳じゃ……って、なァんだ。東京の客のかみさんじゃないか」

 

 

 ――龍賀丙江と邂逅後。

 みどりは座敷牢の戸から顔を覗かせ、すぐ外で居眠りをしている作務衣の少年を見つけると、荒々しく彼を呼びつけた。

 大方、仕事を怠けて時間を潰していたのだろう。

 本邸から離れた場所まで来れば同僚に見つかる筈も無い。そう高を括っていた少年のいびきは、丙江が去った尚も興奮が続くみどりですら気付く程に、辺りに響き渡っていた。

 壁に凭れ、こくりこくりと揺れる少年の首が、凄んだ声に反応して勢いよく上がる。

 はっと振り返ったものの、目の前に立っているのが同僚ではなく東京から来たよそ者であると分かると、彼の顔には安堵の表情がありありと浮かんだ。

 

 対するみどりの顔はずっと険しいままだ。優雅に朝寝に耽る余裕もとっくに消え失せている。

 作務衣の少年と目が合うと、みどりは地団太を踏むように彼に詰め寄った。

 

「坊や!水木サ……うちの人と、あの目玉がぎょろぎょろした男がどこで何をしてるか知ってるかい!?」

「ひいっ!なんだ、かみさん。そんな般若みたいな顔して……おっかねえったらありゃしねえ」

「あ、あらやだ、オホホ。こんなに笑顔なのに、般若だなんてひどい坊やだこと」

「青筋が阿弥陀籤(あみだくじ)みたいに走ってるぜ……」

 

 少年の台詞に慌てて笑顔を浮かべてみるが、依然として苛立ちが隠せていないのか、返ってきた反応は芳しくない。

 何はともあれ、今は水木とゲゲ郎の所在を知るほうが重要である。

 体裁を取り繕うのも程々にみどりが改めて尋ねると、少年は腕を組みながらぽつりぽつりと呟いた。

 

「ああっとー……確か社長が、捕らえた奴の処遇はあんたの旦那に一任させるよう命令したって、他の連中が噂してた気が……」

「それじゃ、あたし達はあの牢屋から出ても良いことになったのかい?だから、うちの人は目玉男と一緒に外をほっつき歩いているって?」

「そこまでは知らねえよ。っていうか、あんた奥さんだってのに自分の旦那の居場所も知らないのかい。さては寝坊して置いてけぼりにされた口だな?」

 

 

(寝坊どころか、殆ど眠れやしなかったさ!)

 

 みどりの顔に描かれた阿弥陀籤に、また一本の線が加えられた。

 昨日からの騒動と、突如として現れた亡者のせいでろくに睡眠もとれていない。それにも関わらず、寝こけて油を売っていたと言わんばかりの台詞を投げられるとは。

 しかし、相手もすぐさま自分の失言に気付いたのであろう。少年はみどりの様子をみて冷や汗を流すと、「それじゃ、もうこのへんで……」とそそくさと退散の姿勢をとる。

 

 しかし、そうは問屋が卸しても、強かな娼婦は見逃さなかった。

 

「ちょいと待ちな」

「な……まだぼくに用事がおありで……?」

「坊やはずっとこの屋敷で働いてるんだろ。なら、この家の丙江とかいう女について教えとくれよ。ついでに他の連中のことも」

 

 みどりの声に、少年は怪訝な顔つきを添え首を傾げた。

 まるで、問いかけられた内容そのものを不審に思っているようだった。

 

「なんでいきなり、龍賀の家の坊ちゃん嬢ちゃんについて知りたがるんだ?そもそも自分の旦那に聞きゃいいだろ」

「昨日からとんでもない事件に巻き込まれてるんだ。こっちは何が何だか分からないってのに、うちの人の話だけ聞いて納得できる筈がない」

「そうは言ってもよ、客に奉公先の人間のあれやこれやを話せるかってんだ」

 

 つれない返答に、みどりも食い下がる。

 確かに水木はある程度、龍賀家の内情を把握している。しかし彼とは裏腹に、みどりはこれっぽっちも情報を持っていなかった。その上、どうにか屋敷に潜り込めた後も騒動が続き、偽物の夫からもろくに一族に関する説明を受けていない。

 はじめから知っていたことと言えば、精々水木の同僚に買われた際に聞き出したものだけだ。

 

 新しい当主が殺害され、外部との繋がりも遮断されるという思わぬ展開になってしまった。おまけに檻の中ではおぞましい亡者にも出くわしている。

 このまま事件が無事に終息に向かえばいいが、それだけではない。

 何よりみどりが東京から遥々やって来たのは、自身と龍賀との関わりと突き止め、一族の仲間入りを果たすためである。

 そのためにも、龍賀にまつわる話であれば一つでも多く耳にしておきたかった。

 

 ――それに、あんなに性悪な女が一族の中にいるなんて思わなかった。一体どんな経歴なんだか。

 

 丙江との出会いの記憶が蘇り、再び沸々と怒りがこみ上げる。

 みどりをよそに、下働きの少年は相変わらず渋っていた。その態度が女の怒りにさらなる薪を焚べる。

 平行線を辿るやりとりに、やがて気の短いみどりは次第に痺れを切らし、ついには強硬手段をとり始めた。

 

「ねえ坊や。此処で油を売っていたこと、屋敷の姐さん方に知られたくないだろ」

「ゲゲッ!」

 

 途端に少年の焦ると、みどりはしたり顔をつくった。

 彼女の発言は、あからさまに相手を脅す意図を含んでいる。

 つい数日前は猫を被っていたが、如何せん気の短さ故に、わずか数日で化けの皮が剝がれ本来の強欲さが露わとなった。

 その豹変ぶりに、少年は頬から伸びる毛をピンと震わせ、化け物をみるかのような眼差しを向ける。

 

「かみさん……あんた本当に、一昨日猫撫で声で旦那に抱きついていた人間と一緒?誰かと入れ替わったりしてない?」

「それで、連中について教える気になったのかい?」

「わかったよ!話すから、さっきの居眠りについてはどうぞご内密に……へへっ」

 

 

 みどりの強情さにあてられると、少年は取り繕うように笑う。

 そして辺りに人がいないことを確認すると、こそこそと打ち明け始めた。

 

「丙江のお嬢様については、正直俺もそんなには知らねえよ。龍賀の家の次女で、昔は一時だけ哭倉を離れていたらしいが詳しい事は何も」

「……それだけ?もっと他にあるだろ」

「だから本当に知らないんだって!あとはずっと独り身ってことしか分からねえ」

「ぐぬぬ……」

 

 もう少し、あの女について聞き出せると思ったのに。

 龍賀丙江に関する情報の乏しさに、みどりは口をへの字に折り曲げた。

 後ろめたい秘密や弱みを握れないかと目論んでいただけに、あてが外れた落胆も大きい。

 それでも尚、骨までしゃぶるように少年にさらに追及をかけた。

 

「だったら、他の親族については?あの……ほら、沙代お嬢様とか、その母親とか。村長だっているだろ」

「沙代お嬢様?確か生まれてからずっと村を出た事のない箱入り娘さ。性格も奥ゆかしい」

 

 ――どこかの誰かさんと違って。

 少年はみどりの顔をちらりと見ながら龍賀沙代について語る。心なしか、彼の目は声にならない台詞を付け足しているように思えたが、生憎みどりには届かなかった。

 

 

 

 この後も、みどりは少年に詰め寄りあれこれと尋ねた。

 しかし、結局彼から聞き出せた情報は、どれも当たり障りのないものばかりであった。

 

 さらに粘ったところで、最早これといった収穫は見込めないだろう。

 みどりが肩を落として溜息をつくと、少年はぽりぽりと頭を掻きながら切り出した。

 

「なあ、もう行ってもいいだろ?これ以上時間を潰してたら、本当に周りから油を売ってたって怪しまれちまう。俺の知ってることは全部教えたし、勘弁してくれって」

「……最後にもう一つだけ聞かせとくれ」

「まだあるのか?」

 

 みどりの終わらぬ用事を前に、少年はうんざりしたように出っ歯を一層突き出す。

 それをよそに、みどりはごそごそと懐に手を入れあるものを取り出した。

 

 

「これに見覚えはあるかい?」

 

 みどりが彼に見せたもの――それは、生まれてこのかた肌身離さず持っていた形見――木彫りのブローチであった。

 

「はあ?なんだこれ……木彫りの胸飾り?まさか、くれるのか!?それなら何だって貰ってやるぜ!」

「誰がそんな話をしたんだ!ああ、ったく……それで、心当たりはないんだね?なら、もう行ってくれて結構」

 

 みどりの手の上にあるブローチを目にすると、早合点した少年がさっと手を伸ばす。咄嗟の行動に驚きながらもみどりは彼の腕をかわし、目を吊り上げた。

 本当に、目の前の下働きは何も知らないらしい。

 とうとう諦めたみどりは、ここで漸く少年を手元から放した。

 

 「なんだよ、くれるんじゃないのかい」と不満を漏らしながらも、少年はみどりから解放されると知るや否や、途端に笑顔になり、くるりと踵を返す。

 

「かみさん!俺があんたに色々喋ったことは、絶対に誰にも言わないでくれよ!よそから来た客に家について話したなんて知られたら、こっちも大目玉を喰らっちまう」

「分かってるよ」

「それじゃ、もう俺に絡んでくるなよ!…………あーあ、とんだ邪魔が入っちまった。舟のほうでもう一回眠ってくるか」

 

 去り際に念を押すと、少年は振り返ることなくその場を後にした。

 

 

「結局、またぐうたら怠ける腹積もりじゃないか」

 

 最後に聞こえた彼の独り言に、みどりもぼそりと独りごちる。

 図太さに関して言えば、彼女とも良い勝負が出来そうな逸材だった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

『ああっと、確か社長が捕らえた奴の処遇はあんたの旦那に一任させるよう命令したって、他の連中が噂してた気が……』

『それじゃ、あたし達はあの牢屋から出ても良いことになったのかい?』

 

 少年と別れた後、みどりは彼の発言を信じて屋敷の外を出歩いてみることにした。

 道中、村人や使用人ともすれ違う。だが、じろじろと顔を見られたものの、気になる反応はそれだけだった。

 なるほど、確かに水木はうまくやり込め、ちょっとの自由を手に入れてくれたらしい。

 

 このまま部屋に閉じこもっても、また丙江のような不快な人間が訪れてくるかもしれない。それに、ただでさえ昨日は殺人事件すら起きたのだから、人目のつかぬ場所で一人ぼっちでいれば己にも魔の手が迫る危険性もある。

 外は外でまたしても幽霊の姿が目につくかもしれないが、今は生きている人間のほうがずっと厄介だった。

 こうして珍しく心細さが勝ったみどりは、そのまま村の中を散策することに決めたのである。

 

 

 やがて村の真ん中、小島の浮かぶ湖まで足を伸ばしたところで、見覚えのある人物の姿が目に映った。

 

「畜生!馬鹿にしやがって……!」

 

 相手は水木であった。

 土手の傍に立ち、手には棒状のものを握っている。みどりの目が彼を捉えたその時、水木はそれを湖のほうへ放り投げようと振りかぶった。

 

「水木サンじゃないか!こんな処で何してるのさ」

「なっ……!あんたもどこをほっつき歩いていたんだ!勝手な真似はしないって約束したってのに……!」

 

 みどりが声をかけると、腕を大きく構えた姿勢のまま、水木が驚いて声をあげる。何やら彼女の存在に気付く前から苛立っている様子であったが、再会を果たしても機嫌が悪そうだ。

 亡者との予期せぬ遭遇があったとは言え、一人で牢屋を抜け出した後ろめたさが無い訳ではない。

 適当に言い訳を並べて事を済ませてしまおう。

 みどりは口を開いたが、それよりも先に水木の声が被さった。

 

「沙代さんが今朝方、屋敷の外であんたと出くわしたと言っていた。部屋に虫が入り込んだからだとか話したそうだが……虫のほうが逃げ出しそうなモンだよ、全く」

「世辞なら結構だよ」

「世辞な訳あるか。それで、本当の理由は?」

「その言い方、あたしが嘘をついてると考えてるみたいだね。心外だよ。それよりも、あんたこそどこで何をしてたのさ」

 

 水木は端から彼女の弁を信用していないらしい。

 みどりとしても、水木のような真っ当な人間に亡者の話をしたところで信じてもらえるとはこれっぽっちも思っていない。  

 

 みどりはすまし顔で、水木の追及をのらりくらりと躱し続けた。

 はじめこそ彼女の嘘を暴いてやろうとした水木であったが、彼女の頑なに煙に巻こうとする姿勢を崩せず、とうとう根負けしたらしい。

 やがて水木は大きく溜息を零して話を終えると、今度はゲゲ郎との間に起きた出来事をみどりに説明した。

 

「あいつ……ゲゲ郎は、何て言うか、その……朝起きたら部屋がもぬけの殻になってたから、探しに行ってたんだよ。その帰りで克典社長と交渉して、ゲゲ郎の処遇については俺が一任することになった」

「ふーん……沙代さんとは交渉しなかったのかい」

「彼女はまだ子どもだぞ。物事を決める権限なんて無いさ」

 

 

 

『うちの未通女い姪っ子……まあ、それも見た目だけだけど、フフッ。そう、あんたの旦那はうちの姪っ子に話をつけに行ったわけ』

 

 今朝の丙江の話を思い出しながら、それとなく水木に尋ねてみるが、特に動揺する素振りもなく淡々と説明を続けている。

 

(まっ、名家の娘に手を出すほどの色狂いにも見えないし)

 

 丙江の嫌味を真に受けるほどの純粋さはないが、改めて事実を確認したみどりは表情を変えずに水木の話に頷いた。

 

 

「ところで、その肝心の目玉野郎はどこに?……あんたがさっき馬鹿にされただの何だのと文句を言っていたのは、あいつと関係のあることなのかい」

「いや、それは……」

 

 みどりは視線を下げると、水木の手に握られた葉巻が目に映る。少し前に、彼が湖に捨てようとしていたものの正体はこれだったらしい。

 みどりの問いに、彼が言い淀む。

 

 

 そのとき。

 二人の目の前を何かが横切った。

 

 

「……って、なァんだ。あの目玉ったら、呑気に舟なんか漕いで登場なんて」

「あ……あの野郎、禁域に!」

「え?」

 

 丁度少し先にある湖に、一艘の舟がぷかぷかと浮かんでいる。その上には、昨夜以降姿をくらましていたゲゲ郎が立っていた。

 おかしな様子にみどりが呆れる一方、水木は顔を強張らせて土手の傾斜を駆け下りていく。

 

「ゲゲ郎、引き返せ!ゲゲ郎……くそっ!こら、戻れ!」

「ちょっと、なんだい急に」

「あいつ、あの島に向かうつもりだ!あそこは誰も入っちゃいけない禁域として扱われているんだよ、止めなきゃまずい!」

「はあ?」

 

 いきなり慌てた様子を見せる水木にみどりが首を傾げると、彼は早口で捲し立てた。

 彼の視線は、湖を隔てた先――鬱蒼と木々の生い茂る小島に注がれている。

 

 ――ただでさえ人殺しと疑われている男を、立ち入りの禁じられた土地へ行かせたらどうなるか。

 

 流石のみどりも水木の話に危機感を募らせたのだろう。

 説明を受けるとはっと表情を変え、いくつかの舟が泊められた桟橋へと走る。

 

「どうするんだい!」

「追いかけるしかないだろう、」

 

 言うや否や、水木は桟橋に泊められた一艘の舟に乗り込むと、止め縄を外して櫂を水の中へ沈めた。

 しかし不慣れ故に操作がおぼつかず、ましてや何故かみどりも乗り込んできた。そのせいで重みも加わり、舟は一向に先へと進まない。

 便乗してきた自分を棚に上げ、みどりは水木を急かした。

 

「ちんたらしてる場合じゃないだろ!もっと早く櫂をさばいてみせな」

「それならあんたは降りてくれ、俺一人で行ったほうが早い」

「嫌なこった!水木サンがいない間、もしもあたし一人だけであんた達の不在を村人に詰め寄られてみろ。あたしの頭でうまい理由が言えると思っているのか!」

「……チッ!」

 

 しゃあしゃあと啖呵を切るみどりの姿は、まさに厚かましさが服を着ているかのようだった。

 情けない台詞をまるで鬼の首を取ったかのように言い放つ女に、水木は最早言い返す気にもならなかった。代わりに大きな舌打ちをし、櫂を手に取りどうにか舟を進めようと苦闘を続ける。

 

 その光景を横目に、みどりも何か上手い方法がないか模索した。

 恥ずかしい話を、恥ずかしげもなく語って見せたものの、己がゲゲ郎捕獲の足手まといになっている事実は頂けない。

 

「ちょいと待ってな!」

「あ?」

 

 水木に一言告げると、みどりは桟橋を挟んだ向かいにある岸辺のほうへ駆けた。

 そして土手川に泊められている舟の前で足を止め、屈みこんだ。

 

「坊や、坊や。ちょっといいかい、起きてくれ……」

「うーん……むにゃむにゃ……」

「坊主!さっさと目を開けな!」

「ひぃぃっ!あ……あれ?あんたさっきのかみさんじゃないか!」

 

 どうやら、何者かと話し込んでいる。

 桟橋側で右往左往する水木からは何があるのかは分かりづらい。しかしよくよく見ると、舟の中には人が横たわり、居眠りをしているようだった。

 それが飛び起きた拍子に、芥子色の作務衣が目に映る。

 その正体は、一昨日水木を離れに案内した下働きの少年だった。

 少年は熟睡するあまりみどりの呼びかけにも応じなかったものの、すぐさまどすの効いた声が聞こえると慌てて飛び上がった。

 

「ゲゲッ……、今度は何の用だよ。どうして俺の行く先々に現れるんだか」

「そんな事より、あんた舟は漕げるかい。こっちに来て手伝っておくれ。あの島まであたし達を運んでほしいんだよ」

「はあ?まーた急に妙な注文しちゃって。お断りだね、何で俺がそんな事しなくちゃいけないんだい」

 

 今朝も仕事を抜け出して怠けていたが、懲りずに場所を変えて油を売っているらしい。

 相変わらず惰眠を貪っていた少年は、突然現れたみどりに驚いたが、すぐさま要望を撥ね付けて再び眠ろうと瞼を閉じた。

 

 だが、彼が対峙している女は、つれない態度ひとつで諦めるほど潔い性分では無かった。

 みどりはこの世の者とは思えないおぞましい形相となり、もう一度少年に食い下がる。

 

「坊主……」

「な、なんだよ。また般若みたいな顔しちゃって……」

「あたしはね、退屈しているあんたに仕事を与えてやってるんだよ。分かったらさっさと起きて死ぬ気で働きな!!」

「ひいぃっ!は、はい、喜んでやらせて頂きます!後生ですから命だけは見逃してください」

 

 雷が落ちてきたと錯覚しかねない一喝だった。

 あまりの気迫と怒号に、少年の身体はすっかり縮みこんでいる。

 罪悪感など欠片も持ち合わせていない女は、こうして哀れな獲物を引き連れて水木のもとへと戻ってきたのであった。

 

「ほら、一丁あがり。気を取り直して出発だ!」

「あ、ああ……」

 

 気は短く喧嘩っ早い上に、勝手な行動も多い。

 哭倉村に来てからと言うもの目の上のたんこぶのような存在であったが、人をこき使う時だけは役に立つ。

 

 まるで現場で舵をとる親方の如きみどりの振る舞いに、水木は何とも言えない表情で返事を残した。

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