サオリ未所持のため、解釈が浅い可能性があります。
いいえ、異論などありません。
――――――――!
――はい、マダム……。
やはりそうだ。希望なんて持つべきではない。
上手くいくはずなんて無かった。最初から
虚しい。あぁそうだ、この世界の本質だ。
虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、
言葉を反芻し、自分に言い聞かせる。
任務の中止をアズサに告げなければならない。私と聖園ミカが立てたトリニティへの編入の任務だ。
ちょうどいい。そろそろアズサが編入手続きのために赴いたトリニティから帰ってくる頃合だ。
「……何がちょうどいいものか」
あぁ、虚しい……全てはただ虚しいだけだ。
「白洲アズサ、任務を終え帰還した」
「あぁ。…………ッ!?」
聖園ミカの元から帰ってきたアズサ、その姿に目を疑った。
トリニティの制服に身を包んだ白洲アズサがいた。
ただのトリニティの制服ではない。ドレスっぽい黒い服にセーラー服みたいなものを羽織っている。さまざまな箇所に花やフリルなどで豪華に装飾された服。腕章にはトリニティの校章が。そして翼には聖園ミカを彷彿とさせる羽根飾りがついていた。
――なんて格好をしているんだ……!!
その姿で私の前に立たれるのが我慢ならなかった。
今すぐにでも爆発しそうな感情を抑え、淡々と任務が中止になったことを告げる。アリウススクワッドのリーダーとして、個人の感情を発露させるわけにはいかなかった。
「任務について了解した。サオリ、それでこの制服はどうしたらいい?」
「ッ。」触れられたくないとこに触れられる。合理的な判断をせねば。そう、自分の感情は棄てて。虚しいもの、全て虚しいものと自分に言い聞かせる。
「廃棄しろ……。と言いたいところだが、今後の任務で使えるかもしれない。その時に使えるよう保管しておけ。ただしアリウスでは着るな。その……周りの目とかもある。絶対に着るな、これは命令だ」
「…………了解」
返答まで間があった。いつも返事をすぐ返すアズサが、だ。
だが今の私にはアズサの様子を伺う余裕もなかった。
今の姿のアズサをまともに見ることができない。
私はリーダーとして失格だ……。
アズサには詳細は追って伝えるとし、今日はもう自室に帰るよう伝えた。
一刻も早く視界から外したかったのだ。
アズサの姿が見えなくなると踵を返し、その場から逃げるように駆け出した。
早く一人になりたい。
一人にならないとおかしくなりそうだ。
限界が近い。早く、早くこの感情を――
処理しないと――。
自室が見えてきた、勢いを殺さずそのまま駆け込む。
――バタンッ
勢いよく扉を閉める。ようやく一人になれた。
ここなら周囲の目を気にしなくていい。
我慢できなくなった感情が口から言語となって漏れ出る。
「……か、」
「……か?」
「可愛い………!!!」
――BGM : FEEEEVER TIME――
「ああああぁぁぁぁ!!なんだあの可愛い生き物!あんなものがこの世に存在するのか!?存在が許されていいのか??しかも私のこと見上げて呼んだぞ??サオリって!私の名前を!!「サッちゃん?」名前を呼ばれるだけでこんな感情になるものなのかっ!?うっ……ゲホッ……ハァ、ハァ……「サッちゃん??」アズサ……うそだろ、お前はそんなに……!そんなに可愛かったのか!?あぁ……!くそッ!!なんで、なんで今まで私は……なんで今までアズサに!アズサにオシャレさせてあげなかったんだぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
「――――。」
? なにか聞こえる気がする。
「――リー、おーい、サオリー」
?
私の名前が呼ばれた?
幻聴か?アズサの声とは違う、でもどこかで……よく聴いた声……
ぼやけた脳内の焦点が合い始める。
脳裏に焼き付いて離れない可愛いおべべを着た天使から、現実の視覚に徐々にシフトしていく。
自室の天井が見えてくる。……天井?
そして自分の身体に意識を向けると両手で頭を抱えたまま上体を反らしてる。
そりゃもうブリッジ寸前。なんて格好をしてるんだ。
自分自身に混乱しながらゆっくり、そう、ゆっくりと上体を起こす。
順に視界に入ってくるそれを、
ひとつひとつ確認する。
薄く透き通った直線で構成されるヘイロー
紫陽花の花弁のような淡い色の髪
ルビーのように深く紅い優しい瞳
そして口の前には、筒のような形を作った両手が添えられている
……その格好は通信機器が使えない時に、声を遠くに届けるためのものだぞ、アツコ。
「……………………アツコ?」
「よかった、戻ってきた」
「!?!?!? ひ、姫……いいいつからそこに……?」
今になって意識が物凄い速さで自分に定まる。我に返るというべきか。
「いつからも何も、私この部屋にいたよ?そろそろ帰ってくると思って待ってたの。そこにサッちゃんがすごい勢いで駆け込んできたの」
「…………ッ!!!!」
熱い、体が熱い、全身が、耳まで熱い。
汗が噴き出ているのがわかる。激しい動悸。呼吸困難。拷問の訓練の方が何倍もマシに感じる。
「大丈夫、みんなには内緒にしてあげる」
「あ、あぁ……た、たのむ…………」
「ふふっ、りょーかい」
人差し指を上に立て、口元に持っていく。秘密を示す合図をしながら、ふわっとアツコは部屋を出ていった。
――パタン
扉が乾いた音で閉まる。
未だに全身から熱気が湧き出る。むしろ見られたのがアツコでよかったとまで思う。
一人取り残された部屋でサオリは帽子を深く被り直した。
「ふふっ。やっぱりサッちゃんはかわいいね」
軽快な足取りで、アツコはその場から立ち去った。