詠子はそれを黙って頷きながらその仮説をノートに書きだすのだが、その内容がまるで議事録そのもの。
というより手慣れた感じであり、恐らくであるが、何度も夜宵とこういったやり取りをしているからだ。
博士と助手の立ち位置というべきか――
「……なるほど。あ! でもでも! その説明だと私と螢君の呪いも祓えるんじゃない? どうかな、夜宵ちゃん?」
夜宵は暫し考えた後、
「
その言葉の重みを夜宵は思考を巡らし、ゆっくりとした口調で詠子からの問いに対して答え始めた。
「駄目。理由として、リスクが大きすぎる。螢多朗と詠子の繋がりは深い。即ち――」
「キャー! 夜宵ちゃん! もう!
「え? その手のことだけど? 螢多朗から何かもらう予定だったの? じー……」
詠子はすぐに自分がナニを小学生に発現したのか恥ずかしくなり、茹蛸のように顔が真っ赤になってしまった。
そんな詠子の顔を見た夜宵は、詠子を労わるような感じの声で「風邪、引いたの?」と尋ね、詠子を本気で心配していた。
何故ならば夜宵にとってみれば、今の自分の肉親は詠子だけの環境であり、最近は専ら心霊スポット巡りを毎日のように行っている。
となればだ、生活リズムが乱れてしまった可能性だって十二分に考えられると夜宵は瞬時に答えを導き出した。
が、当然ながらそんな話ではなく、螢多朗に襲われているシチュエーションを勝手に詠子が妄想したからに他ならない。
とは言えだ、流石に相手が夜宵だと、仮に心配ないと答えた場合、「じゃあ、なんで顔を真っ赤にしているの?」と尋ねてくるのは必定。
最悪な場合、少し早い保健体育の授業を夜宵に教えなければいけない状態になってしまう可能性だって十二分にあるし、きっと夜宵のことだ――保健体育の深淵の奥深くまで勝手に覗き込んで学習してしまうであろう。
そうして得た素晴らしき叡智なる知識で、螢多朗を失神させる程イジり倒し、螢多朗のライフをゼロにした後に、「……螢多朗ならいいよ?」と発言する可能性も考えられ、正妻ポジションで仲のいい夜宵と詠子が醜く争う未来もあるかもしれない!
(絶対に駄目! 螢君は渡せない! 相手が夜宵ちゃんでも渡せない! でも私だと夜宵ちゃんに口喧嘩負けちゃうし! もう! 螢君のせいだよ!)
そんな頭の中がお花畑な詠子であるのだが。
先程の夜宵の気遣いこそが、まさに渡りに船であると1秒以内で確信に至り。
ここは一つ、体調が悪い設定でこの場を乗り切ろうと考え、夜宵には決して叡智なる知恵を授けてなるものかとも同時に考えた。
「あ、あははは……。ちょ、ちょっと風邪っぽいかも? だ、だからね、夜宵ちゃん! さ、さっき言いかけたことを端的に簡潔に伝えてくれると嬉しいかな? ほら、早く寝て直さないとね! 心霊スポットを沢山巡るためにもね!」
(お、おぉ……。これぞ意識高い系女子か……。流石は詠子、私が認めただけはある)
夜宵の大好物のワード、それは『心霊スポットを沢山巡る』である。
それを理解した上で詠子はその言葉を自然に発し、最早夜宵の脳内で螢多朗から詠子に対してナニを与えるかなどすっぽり頭の中から消え失せていた。
「ならば手短に。要するに、どちらか片方がアレを見た際、螢多朗と詠子は同じ症状を同じタイミングで発症する可能性が極めて高い。ようは二人とも正気を失い、ただの廃人と化す可能性だって十二分考えられる。だから絶対駄目。アレを二人は見ちゃ駄目、そういうレベルでヤバイ」
「……でもさ? それだと夜宵ちゃんの方が危ないんじゃない? だって夜宵ちゃんは、卒業生を保有しているぐらいヤバい小学生だよ?」
「詠子、答えは簡単。
詠子はすぐに夜宵に駆け寄り、「どうして早く言わなかったの!」と真剣に夜宵を叱りつけ、そして激しく抱き締めた。
そりゃそうだ、夜宵はまだただの小学生であり、そして詠子からすれば可愛い妹のようなものなのだから。
「……大丈夫。さっきも説明した通り、アレは興味のある獲物は見境なく喰らうけど、興味のない獲物には一切手を出さない。いや、興味があったからこそ襲いかかってきた。
空亡――それはかつて夜宵の両親を殺し、母親を奪い去った憎き仇。
夜宵の最終目標は空亡を倒し、母親を取り返すことであるが、その前に
仮に神が夜宵の支配下に置かれた場合、きっと奴隷よりも酷い扱いを夜宵は必ずやするであろう。
それこそが寶月夜宵であり、その確固たる意志は必ずや神を
「……分かった! じゃ、私はちょっと長めのお風呂楽しんじゃおっと! んー! その後にぐっすり眠っちゃうもんね!」
「――え? 風邪の時は、入らない方がいいんじゃないの? 明日お風呂入ったら?」
「ちょ、ちょっと寒気が酷いかなーって! だ、だから体を沢山温めるべきだと思うの! よし! 夜宵ちゃん! 私の部屋を思いっきり暖めておいて! エアコン設定は28℃ぐらいがいいかも! 任せたよー!」
「うん。分かった。風邪薬も置いておくね? 早く元気になってね?」
「あ、あは、あははは……」
夜宵はまだ知らなくてもいい。
叡智なる知識を熟知した詠子が、ぐっすり眠るためにする対処療法をまだ知らなくてもいい年頃なのだから。
【専門用語等説明】
◎専門用語◎
叡智なる知識……偉大なる知識であり、更なる知識のため日々研鑽を積む者達が今日も今日とて頑張っている。それが一人叡智なのか二人叡智なのかは知らん。リア充は爆発四散しろ。
【現在の現象に関して考察(アレの捕捉説明)】
本編中、夜宵が襲われていたことが判明
→夜宵を襲えなかった理由がある?
→もうすぐ終わるらしい