やはり詠子、詠子しか勝たん。
悔恨深海―①
翌日。
たった数時間で鳴海に関して調べ尽くした詠子は、リビングルームにプロジェクターを設けた後、
とは言えだ、詠子の情報収集能力の高さはやはり常軌を逸しており。
それはきっと、深淵を覗くためなら何だってやる女だからであり、
なんせ自分が深淵を深く知り尽くし、更にその先にある新たな知識を手にし、夜宵や螢多朗が見るであろう同じ景色を共有し、闇を深く愛したいからに他ならない。
深く愛せば愛す程、より螢多朗との結びつきが強まっていくと詠子は考えているのだ。
……まぁ、とりわけ螢多朗に関して言えば、全身の黒子の数及び、どの場所に黒子があるかまでは既に調査済みであるし、螢多朗が快眠のためにしたであろうくしゃくしゃのティッシュを回収し、当然ながらジップロックで密封状態にする徹底ぶりであり。
その回収したティッシュの臭いを嗅ぎながら、夜宵と螢多朗のために
「……クンクン♡ ん~!
無花果の花言葉――その花言葉とは、『子宝に恵まれる』、『実りある恋』、『裕福』、『多産』である。
無論、この場合は全て該当するのだが、
もしも今、夜宵が詠子の今の表情を見た場合、詠子にこう問うだろう――「今すぐ病院に行こう、詠子」、と。
が、流石は詠子というべきか。
夜宵が自室から出た際に、密かに設置しておいたセンサーが反応し、スマホにすぐに通知が届く設定は完了済み。
即ち、夜宵の自室の扉が開いた瞬間、詠子のスマホに通知が届くようになっているため、今はアヘ顔OK状態なヘブン状態をこれでもかと堪能していたのだが。
どうやらそのヘブン状態は終わりを迎えようとしている――そう、螢多朗が間もなく到着する頃合い。
「おぉ! 間もなく螢君が到着するみたい! 夜宵ちゃーん! もうすぐ螢君が来るよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
夜宵が聞こえるような大声で詠子はその場で夜宵の名を呼ぶと同時に。
『再利用』と書かれたプラスチック容器を冷蔵室から取り出し、その臭いの元になるティッシュをジップロックに密閉させ、容器の中に入れ。
「またね、螢君……♡」と詠子は名残惜しい声で容器を冷蔵室へ戻し、いつも通り陽気な感じで螢多朗の到着を心待ちにしていた。
※
リビングルームに集まった二人に対し、詠子は普段通りの感じで無花果のタルトを振る舞いつつ。
そのタルトを頬張る二人に強い愛おしさを感じながらも、、特に螢多朗に対しては悶々とした気分でじっと見ていた。
が、そんな気分で螢多朗の顔を見てしまったせいか、詠子は急激に体温が熱くなってしまい、勝手に顔が真っ赤になってしまった。
それを夜宵や螢多朗が寝静まったタイミングで即座に
(あぁ! 螢君の馬鹿! 大きいのが大好きなら目の前にいるじゃない! 初来のお嫁さんなんだよ! いつでも襲っていいのに! しかも私に似ている子を探して選んでたし! 意気地なしなんだから!
「……詠子、まだ体が悪いの? 無理させた? ごめん」
「だ、駄目じゃないか! 体調が悪いなら横になった方がいい! 夜宵ちゃんも詠子を無理させたくないよね?」
「うん。大切な家族。また日を改めよう。ごめん、詠子……」
勝手に茹蛸状態になってしまった詠子に対して、勘違いしている夜宵は体調不良と即座に判断し。
そんな夜宵の発言に対して、常識人である螢多朗も詠子を気に掛けるのだが。
二人のその要らぬ気遣いに慌てふためいた詠子は、とあるワードを口に出し、この場を乗り切ろうと画策した。
「ふ、二人とも! だ、大丈夫! そ、それにさ? 私が調べたことをこの場で共有した後に、ベッドで横になるから大丈夫! だってさ?
「「おぉ……」」
そう、この女は。
あろうことか、螢多朗で勝手に妄想して茹蛸状態になっていたにも関わらず。
自分の体のことよりも、救うべき相手を最優先にすべきだと偽善の言葉を並べやがったのだ。
流石は詠子であるのだが、正直ドン引きレベルの偽善の言葉でしかない。
「詠子、やはり意識高い系女子。私も意識高い系女子になりたい」
「あ、あははは……。いや、夜宵ちゃんは十分意識高い系女子だよ? もうちょっと子供っぽくていいと僕は思うよ?」
「――そう。ママを取り戻せたらそうする。その時はたっぷり甘えるから、覚悟してね? ……離れちゃ嫌だよ?」
「あ、あは、あははは……」
(あぁ! 夜宵ちゃん!? その行為は、略奪愛って言うだよ!? もう! 螢君も螢君だよ!?
勝手に少し不機嫌になってしまった詠子であるが。
お陰で詠子の頭の中はちょっぴりだけ冷静になり、とっとと情報を二人に共有させてベッドに入りたい気分になった。
あわよくば螢多朗にだけ自分の看病をさせたいのだが、夜宵がこの場にいる時点でそれは無理。
だったら一人でぐっすりと快眠に向けた下準備をした方が最適解――この思考に至るまで0.01秒の処理速度である。
「ご、ごほん! じゃあ説明していくね! 螢君、ごめん! 壁のスイッチ押してくれる? 暗くした方が見やすいから!」
「あ、あぁ! ご、ごめん! ……これでどうかな?」
「オッケー! じゃあまずはアレを引き起こした人物の説明からね! えっと左半分と右半分にそれぞれ画像があると思うんだけどさ、二人とも質問するね?
左に映し出された鳴海の画像は、かつての
その画像の鳴海はというと、30代前半の顔というよりも、40代半ばに差し掛かったであろう少しくたびれた一般的な男性の顔をしており、人生に疲れ切ってしまった印象を受ける。
では右の画像の鳴海はというと、頼光の肉体へと変貌する前の鳴海の画像になるのだが。
パっと見した感じ20代後半の見た目をしているが、人生を謳歌しているかのような感じを受け、左の画像とは真逆に人生をこれ以上なく楽しんでいる印象であり。
一般人がもしこの問いを質問されたならば、情報がなければ確実に左が現在の鳴海だと答えるであろう。
「……ふむ。
「――
「惜しい。入れ替わってはいない。
「……色の濃さ、かな?」
「そう。霊力の濃さが明らかに違う。ではそれはどうして? 答えは簡単。この守護霊が強くなった。意図的に強くしたのかどうかは分からない。けど、これだけは言える。
螢多朗と詠子は夜宵が何を言っているのか理解できず、詠子は螢多朗が語る前にどういう意味なのかを夜宵に質問してみた。
「例えば詠子。詠子が耐えることができる重量を、耐荷重200kgだと仮定しよう。そこに300kgの物体が詠子に圧し掛かったら、どうなる?」
「え? 耐荷重オーバーだから、普通に耐えれないはずだけど?」
「つまりそういうこと。特殊な例としては、神の花嫁である愛。但し、愛の場合は20歳まで。つまり20歳になった瞬間、確定で潰される。
夜宵は以下のような仮説を二人に説明しだした。
1、その守護霊との親和性が極めて高い人物。
2、その相手に何かしら特別な体質があった場合。この体質の意味合いであるが、高次元の存在から強い加護を有していたとすれば、神霊に近い霊格の守護霊すらも御せるはずだと説明した。が、それこそかなり稀らしく、自分も初めてのケースだと夜宵は語ったのが仮説その2である。
「結論。1と2の両方の可能性が高いと私は考える。そしてこの新海鳴海というナイスアラフォーは、私が知る限り最強の霊能力者だと思う。で、詠子。このナイスアラフォーについてもっと教えて? 可能ならば、私達と共同戦線を結びたい。そうすれば、愛もそうだけど私のママだって取り返せる、きっと」
「う、うん! じゃ、じゃあ、次に進むね?」
そうして詠子は新海鳴海に関して調べたことを説明していく。
そう、10年前に宗海から新海鳴海へと還俗した理由が明るみになっていったのであった。
【専門用語等説明】
◎用語◎
くしゃくしゃのティッシュ……イカ臭いと評される謎のティッシュ。思春期の頃は猿のようにイカ臭い行為に走り、ゴミ箱がティッシュ塗れになる。
叡智なるコスチュームをしたくノ一……アクション〇魔忍のアレ。つまり感度3000倍。
『再利用』と書かれた容器……深淵を知る必要はない、いいね? 温度管理が大切なのです、はい。
【夜宵からの鳴海の守護霊である義経の評価】
→神霊に近い霊格を有している
→知る限りでは最強クラス、仲間にしなきゃ……!
但し、義経を守護霊にしてるのは常軌を逸する行為に他ならない
→ただの人間ならば、義経の霊格に押し潰され、耐えることは不可能と評している
【鳴海が義経を御せている理由に関して】
仮説1 → 鳴海と義経に深い縁が結ばれているのではないだろうか?
→ つまり守護霊側が押し潰されないように配慮している?
仮説2 → 鳴海に特別な体質がある?
→ 高次元の存在が義経を御しているのでは?
結論:両方の可能性を有している可能性が高い、らしい。