ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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1章:カントー巡り
1話:トキワのもりのゼオン


 

 魔導巨兵ファウード内部でのガッシュ・ベルとゼオン・ベルの兄弟決戦は、最終局面を迎えていた。

 

「行け、バオウ!」

 

「負けるな、ジガディラス!」

 

 激突する二つの最大術の輝きは、術者がこれまで積み上げた鍛錬と信念が込められどちらも決して譲ってはいない。

 それでも決着は訪れ、バオウ・ザケルガがジガディラス・ウル・ザケルガを打ち破り、ゼオン、そしてパートナーであるフォン・デュフォーを飲み込む。

 対峙するガッシュのパートナー、高峰清磨は『答えを出す者(アンサートーカー)』の力により『ゼオン、マントにより全身を守られているデュフォー共に手加減したバオウの衝撃で致死には至らない』という答えを出しひとまず安堵するが――

 心の力を出し切り、バオウが消滅した後にガッシュ共々驚愕することとなる。

 

 ゼオン、デュフォー共に跡形も無く消えていた。いや、白銀の魔本とファウードのコントロールキーだけは奇跡的に損傷せずにそこに残っている。

 ファウードの驚異と引き換えに『2人は死んだのではなく、何故か消滅した』というアンサートーカーが出した事実を清磨とガッシュはどう受け止めるのか――

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 10秒足らずとも、数日とも感じる時の流れの中でガッシュから奪った魔界での記憶がダイジェストの様に流れていく。

 一度は目を背けたこの光景を、オレは改めて全て受け止めきる。ガッシュへの憎しみは、間違った思い込みによる見当違いから起こしたのだと十分に痛感させられたところで、オレの意識は徐々に覚醒する。

 起きたら真っ先に我が弟に心から詫びよう、清麿達に頭を下げよう、デュフォーと言葉を交わそう、その思いで眼を開く。

 少しずつ鮮明になる視界の先に待ち受けていたのは、思わぬ光景だった。

 

「ここは……」

 

 ファウードの中にいたはずが、オレの体は見知らぬ森の中に放り出されていた。

 周囲は木々に囲まれていて少し薄暗いが、それでもその奥に垣間見える青空から、今が昼間だと読み取れる。ファウード内部での戦いはまだ夜中だったはずだ。

 バオウによる負傷と、ガッシュの記憶により頭の整理がついていない最悪のコンディションで、場所も時も全てがあり得ない異常事態が畳みかけてくる。

 今までオレがやってきた事への懲罰ということか。

 だが人の気配も感じられぬ森の奥だというのに薄気味悪さは無く、むしろどこか郷愁を誘う心地よさを感じる。不思議な場所だな。

 

「気付いたか、ゼオン」

 

 その声を聴いて、全身に走る痛みに構う事無く身を起こす。

 オレが今もっとも会い焦がれる者の一人、デュフォーがいつも通りの無表情で隣に座していた。服は至る所が焼け焦げ、一見満身創痍の状態ではあるがマントに守られた事で大きな怪我は無いようだ。

 

「ここはどこだ? ガッシュは、ファウードは? デュフォーお前は大丈夫なのか?」

 

 オレから質問が矢継ぎ早に飛んでくるのを予想していたデュフォーは、あらかじめ『アンサー・トーカー』の力で先回りして導き出した『答え』をオレに共有してくれた。

 

Q:ここはどこか?

A:わからない

 

Q:ファウード、ガッシュ達の現状は?

A:わからない

 

Q:ここはデュフォー達が元いた世界か?

A:違う

 

Q:ここは地球か、魔界か?

A:地球。しかしデュフォー達がいた地球ではない。

 

Q:夢または幻か?

A:違う。ファウードでのガッシュとの戦いから、ずっと現実である。

 

Q:時間経過は?

A:バオウに飲み込まれてから、約600秒が経過。120秒の時点でデュフォーが覚醒。540秒の時点でゼオン覚醒。

 

Q:元いた場所に戻る方法は?

A:現状はわからない

 

Q:身体の具合は?

A:デュフォーは無傷。バオウの衝撃で視覚と聴覚に軽い異常が出たがほぼ回復しつつある。

ゼオンは全身にかなりのダメージを受けている。魔力による自然治癒で歩行は可能な程度。

 

Q:魔本は?

A:本は元の世界にある。

 

「つまり、何もわかっていないに等しい」

 

 落ち着いた様子でデュフォーが淡々と『答え』を告げる。

 だが、全ての疑問に対し答えを出せるはずのデュフォーにしては、あまりにもお粗末な内容だ。その理由は後でデュフォーに聞くとして、重要なのは現状をどうするかだ。

 といってもデュフォーは「今我々がすべきことは?」という重要な問いと答えを既に出しているだろう。

 おそらくやるべきことは、周囲の探索などオレへの負担が大きい作業のはずだ。

 現状のオレを気遣って言葉を飲み込んでくれたのだろうか。だが――

 

「オレは元の場所に戻りたい。ガッシュに、清磨達に会って、今までの愚かな行為を詫びなければ。そしてファウードを止め、ガッシュの記憶を元に戻さなければならない!」

 

「少し落ち着けゼオン。今のお前は混乱状態にある。動くのは冷静になってからだ」

 

 デュフォーが普段通りの冷静な声でオレをなだめる。

 言っている事は間違いなく正論なのだが、それでは今のオレは到底止められない。

 

「そうだ、瞬間移動で戻る事が出来れば……」

 

 どうしてすぐに気付けなかったのか。

 オレの『瞬間移動』を使えばどれだけ離れた場所にいようと、一度行った場所に戻る事ができる。

 疲弊している精神を限界まで集中させてファウードの座標位置を探るが――

 

「ダメだ、戻れない。ファウードはおろか日本の位置すらも見つけられん! 瞬間移動まで使えなくなったのか……」

 

「やはりまだ冷静になれていないな。瞬間移動が使えないのか、元の場所に戻れないだけなのか、原因を切り分けるところから始めるべきだ。

まずこの位置を憶え、そして前方に50メートル程進みこの場所への瞬間移動を試みろ」

 

 頼みの綱も絶たれ焦燥に駆られているところで、デュフォーからそれすらも想定していたかのような助言が飛んでくる。オレとしたことがなんとも初歩的な見落としをしていたものだ。

 言われたとおり、ふらつく足取りで森の奥に進み元居た場所が見えなくなった辺りで再び瞬間移動を試みる。

 数秒の集中の後、今度は座標位置を特定する事に成功しデュフォーと共に先ほどオレが倒れていた場所に一瞬で戻った。

 

「瞬間移動自体は使えるようだな。ファウードに戻れない理由は後で調べるとして、呪文の方はどうだ?」

 

 魔本が使えない以上、デュフォーが呪文を唱えられる事はないだろう。

 つまり、魔界と同じようにオレが直接呪文を使えるかどうかにかかっている。

 

「ザケル!」

 

 掌を空にかざし、第一の雷の呪文を唱える。

 だが王族特有の強力な雷はともかく、本来の初級術程度の威力の雷すらも放出されない。傍から見たら恥ずかしい光景だ。

 

「呪文は出ないか。この世界は人間界のルールとはどこか違うと思ったんだがな」

 

「オレの推測もデュフォーと同じだ。

 全身に胎動する力の感触は、魔界にいた頃と同じで人間界には無かった。自力で呪文を唱えられる気がしていたがな――」

 

「もふもふ」

 

「ん? 何か言ったか?」

 

 デュフォーから何とも間の抜けた相槌が聞こえた気がして振り返る。

 

「もふ」

 

「なっ?」

 

 振り返った先でオレの足元に見知らぬ生物がすり寄っていたのに気づき、思わず驚き後ずさる。

 ダメージを負っているとはいえ、このオレが全く接近する気配に気づかなかったとは。

 デュフォーは気づかなかったのか、気付いてあえてスルーしたのかわからない相変わらずの無表情で、オレ達を眺めている。

 

「もふー」

 

 さらにオレに接近してくるその生き物は、全身が綿の様なもので覆われその合間から橙色の瞳を輝かせている。体長は人間の赤子サイズに近い。

 

「こいつは魔物の子か!?」

 

「違う。『魔物』でも無ければ人間界でいう『動物』でもない。全く別の生物だ」

 

 デュフォーはそう『答え』を出しているが、こいつからは微弱だが魔力の様なものを感じる。

 魔物でなければ一体なんだというのだ。

 

「攻撃するか?」

 

「待て、この生物の戦闘能力は皆無だ。生物としては幼児に近い。幼いゆえ他者への警戒心が無いのだろう」

 

 確かにこいつから敵意は感じられない。だがこのまま放っておくわけにはいかない。

 こいつの処遇をどうするか思案をしようとしたところで、不意に後方から気配を感じる。

 

「あれ? そこにいるのってもしかして『モンメン』?」

「ピカァ?」

 

 木々の奥から一人の人間が現れ、こちらにやってくる。

 大きな赤い帽子が特徴的な、デュフォーよりずっと年下の人間のオスと、その横にまたオレ知らない未知の生き物が付き添っている。

 オレはすぐに人間と魔物のペアを連想するが、隣でデュフォーが首を横に振る。こいつもまた魔物とは別の生き物ということか。

 

「お前はこいつを知っているのか?」

 

 オレの問いに少年が元気よく頷く。

 

「うん、モンメンっていう『ポケモン』だよ。

でも本当の生息地はこの「トキワのもり」じゃなくて、もっと遠い場所のはずなんだけどなあ」

 

「『ポケモン』というものをオレ達は知らない。未知の生物の通称なのか?」

 

 人間はデュフォーの言葉に対してひどく驚いた反応を見せる。

 

「ええっ、ポケモンを知らないの? 君達、どこか遠い地方から観光に来た人なの?」

 

 さて、なんと答えたものやら。こういったやりとりはオレよりデュフォーの方が適任だろう、と目くばせする。

 

「オレ達は違う世界からやってきた」

 

「オイ!」

 

 いきなり本当の事を言うのか!? 真面目なトーンで言われて目の前の人間もさらに驚いて目を丸くしてるぞ。

 続けてデュフォーは魔界の王を決める戦いの事、オレ達の関係と紹介、ここにやってくるまでのいきさつを、重い話の部分を伏せつつも簡潔に説明する。

 正直に話すべきだという『答え』を出したのだろうが、それにしても思い切っているな。

 

「なんかすごい話を聞いちゃったな……でもちょっと信じられないよ」

 

「お前の言いたい事はわかる。だがお前は現にオレの話を聞くまでゼオンを人間だと思っていた。ゼオンの様な種族はこの世界にいないんじゃないか?」

 

「確かに――オレの知らないポケモンもまだまだいっぱいいると思うけど、人の言葉を話せる上にここまで人間に似てるポケモンなんて聞いた事ないよなあ」

 

 デュフォーの話を半信半疑、いやほぼ疑っていたであろう人間はオレを見て少し考えを変えたようだな。

 どうやら『ポケモン』とやらは人間とは離れた容姿や能力を持っているようだ。

 

「オレの話が本当にしろ嘘にしろ、オレ達がこの世界の事を全く把握していないというのは事実だ。お前さえ良ければオレ達に色々情報を教えて欲しいものだが」

 

「そっかあ、俺はちょうど実家に里帰りしてて暇だから、俺の知ってる範囲でよかったら教えられるよ」

 

 人間はデュフォーの頼みに対し、笑顔で元気よく快諾する。

 どうやら悪い奴ではないようだ。あまり聡明ではなさそうな顔ではあるが――

 

「それじゃあ俺も自己紹介するよ。俺はサトシ。マサラタウンのサトシだよ。こっちは相棒の『ピカチュウ』だ!」

 

「ピカァ!」

 

 サトシと名乗る人間の横で、黄色い体のネズミ型の魔物が特有の言語で挨拶する。いや、魔物ではなかったか。

 しかしこいつ――何故かわからないが、どこかシンパシーの様なものを感じる。

 ついでに鳴き声も我が弟に似てる気がするな。

 

「改めて、フォン・デュフォーだ」

 

「オレはゼオン・ベルだ。ここがオレ達のこの世界の出発地なら、トキワの森のゼオンとでも名乗るか」

 

 自己紹介を交わした後、サトシは10歳という幼さからまだ言語伝達能力が発展途上でありながらも、おのれの言葉でオレとデュフォーに精一杯語る。

 

 『ポケットモンスター』、縮めて『ポケモン』という不思議な生き物達の話を。

 

 多くの人間とポケモンは共存していること。

 

 この世界の最大の文化の一つに、ポケモン同士を戦わせるポケモンバトルがあること。

 

 サトシはポケモンバトルのチャンピオン、ポケモンマスターを目指していること。

 

 パートナーであるピカチュウとの出会い。

 

 これまでの心に残ったバトル。

 

 バトルの大会、ポケモンリーグに出場する前に実家である「マサラタウン」に帰省していること。

 

 ここが東の小さな列島内部の「カントー地方」という場所であること。

 

 ポケモンを捕まえて仲間にする方法。

 

 通貨(この地域では円)の存在と用途。

 

 一時間程かけて、思いつく限りの情報を喋りつくしサトシが一息ついたところで、あぐらをかいたまま静聴していたデュフォーが小さく頭を下げる。

 

「色々有意義な情報が聞けて助かった。感謝する」

 

 デュフォーが人前で、というよりオレの前ですら謝辞を述べ頭を下げるのは初めてだ。

 オレたちの状況はそれほど逼迫(ひっぱく)しており、サトシの情報は貴重であったということなのだろうが、それを踏まえても今までのデュフォーからしたら考えられない行動だ。

 ガッシュ達との戦いでデュフォーに生じた変化を察しながらもオレはそれに続く。

 

「サトシ、オレも礼を言う。助かったぞ。ついでにオレからも少し聞かせてくれ」

 

「うん、どんなこと?」

 

 ポケモンの事ならいくらでも語れる、そんな様子で楽しそうにしているサトシに比べ、オレは真剣な表情を崩さない。

 その様子を感じ取ったサトシの表情も自然と張り詰めていく。

 サトシから聞いた話の中で、「人とポケモンが共生している」という部分で気になるところがあった。

 

「サトシはピカチュウをパートナーだといったな。だが、話を聞く限りお前達人間とポケモンには一部で『上下関係』が存在している様に感じた」

 

「それって……もしかしてポケモンバトルのこと?」

 

「そうだな。オレ達魔物の子同士も人間の指示で戦うが、それはオレ達がそういうルールを課せられているからだ。お前達の場合は何故戦う?」

 

 まだ子どもに過ぎないサトシには少し重い話になるかもしれないが、それでも今言葉を交わしてみたいと思った。

 マサラタウンのサトシとピカチュウ。

 こいつらとの出会いは、未知の世界に放り出されたオレ達の道を切り開く出会いになるかもしれない――

 

 






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