ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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10話:クチバジムの似た者同士

 

「へへへ、その娘を仲間にしようだなんてあんた大物だね」

 

 背後から声が聞こえデュフォー達が振り返ると、声の正体は側まで近づいていた。

 黄色い毛並みのキツネに似た顔立ち、糸に釣られた振り子を左手にぶらさげた特徴的な風貌。

 ――人々にスリーパーと呼ばれているポケモンが、デュフォーを品定めするようにニヤつきを尖らせる。

 

 人の言葉が話せること、イーブイの進化系では無いこと、を差し引いてもスリーパーがこの場において異質な存在であることは明らかであり、場主の表情もそれを強調している。

 それまで己のポケモンに対し、別け隔てなく優しく見守っていた男の表情に初めて険しいものが浮かんでいた。

 

「こやつは野生の頃、人を操作する催眠術をかける事件を起こして補導されておったのです。

 うちで保護観察のために引き取ったのですが、一向に更生する気配がないのですよ」

 

「そういうこった。爆弾持ちと前科者、はぐれ物同士その娘とはここで唯一心を許しあった仲よ」

 

 ポケモンが人間の世界に仇なした場合、重犯罪を除いて基本的には未成年の子どもと同じ扱いを受ける。

 警察組織により確保され、取り調べ後に鑑別所で勾留され、更生施設に送られるか制約付きの保護観察となる。

 このスリーパーのケースでは、被害を受けた人間が軽い記憶障害になった程度で肉体的な損傷は皆無であったことから、後者の扱いとなっていた。

 

 一方でデュフォーは淡々と眼前のスリーパーを解析する。強さ、資質、背景、それらを導き出すことで浮かびあがった答えが口から出る。

 

「お前、ここから出たいんだろう。オレ達の仲間になるか?」

 

 その提案を聞き呆ける者、他人事の様に笑う者、驚愕する者――それぞれが異なる反応を示す。

 

『ムチャクチャだなうちの大将は』

 

「デュフォー君、いくらなんでもそれはダメです! 彼の更生はまだ終わっていないんですよ」

 

 慌てて静止する場主。デュフォーはその心中を覗き込む様に凝視する。

 

「あんたがこいつに課した"縛り"は

 『1:管理者の許可なくこの牧場から出られない』

 『2:この牧場内で人間に対して危害を加えてはいけない』

 この2つだな?」

 

「そ、その通りですが……何故あなたがそれを?」

 

「オレもヤマブキジムのナツメの様な力を持っている。

 ある程度の知能と催眠術の力を使えば、縛りの穴を突いて脱出することくらいできたはず。こいつは今、自らの意思でここにいることになる」

 

 デュフォーの指摘を受け、ハッと振り向く場主にスリーパーが鼻を鳴らす。

 

「へっ、そうさな。こんなとこ逃げ出すくらい()()はねえ。

 大人しくしてたのはその娘のことを気にかけてたからだよ」

 

 それを言い換えるなら、デュフォーのおかげでブースターへの憂いが無くなった今、もう留まる意味はないということだ。

 

「ついでに言うならおいらは更生する気はねえし、そもそも自分が悪いことをしたと思っちゃいねえ。にも関わらず、人間共のルールに従ってやってたのはおいらにも事情があるからさ」

 

「し、しかし脱走などしたらお前はお尋ね者になり、追われる身になるんだぞ?」

 

「無い無い。あんたらただでさえロケット団とかいう悪党の対応に手一杯なのに、おいらに割く余裕あるわけないだろ。

 つーかやろうと思えば脱走って形じゃなくても出られるぜ」

 

 一笑するスリーパーは正しい。いかに警察組織が巨大で立派といえど、リソースは凶悪犯罪者に対して多く注がれる。

 被害でいえばごく小さなスリーパー一匹が逃げたと通報を受けたところで、真面目に追う可能性はゼロだろう。

 場主の男もそれに言い返せず、悔しそうに言葉を飲み込む。

 

「あんたにとっては不本意かもしれないが、実質的には更生完了という名目でオレに渡すか、こいつに逃げられるかの二択だ」

 

 デュフォーから有無を言わさぬ様な圧力と共に選択を委ねられ、男は加齢によりシワが刻まれた喉をゴクリと鳴らした。

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

「というわけで、新しくレンカゲロウとスリーパーが加入した」

 

 ヤマブキの中央に位置するマンスリーマンション。

 ハナダシティで泊まったプレハブの簡易宿泊所とは設備、広さ、快適さ全てにおいて共に凌駕しているその一室で、デュフォー組、ゼオン、そしてナツメが丸1日ぶりに会していた。

 昨日、ゼオンは意気投合したサイトウと技の取得のため格闘道場に寝泊まりし、デュフォーはその間やるべき処理をこなし続けていた。

 この拠点の確保もその一つである。

 

 もうこの手の状況には既に慣れたはず。それでもゼオンは堪らずため息を吐きながら額を掌で覆う。

 

「待て待て……それはいいがその前にツッコミ所が多すぎる」

 

「ならば一つずつツッコんでその都度『答え』を聞け」

 

 デュフォーの指摘に「いいだろう」と啖呵を切り、ゼオンは眼前の状況に対する疑問を片っ端から口にする。

 

 Q:レンカゲロウは現状、戦力としてカウントできるか?

 A:現状は戦力外。しかし"特殊個体"だけあり、素質は申し分なし(デュフォー)

 

 Q:スリーパーまで加入させた理由は? パッと見、こいつあまり戦闘力は高くなさそうだが……

 A:補助能力要員として便利。あとレンカゲロウと仲が良いから、いるだけで精神負荷が減る。(デュフォー)

   おいらも面白そうだから着いてきやした。よろしく頼むぜデュフォーのダンナ、ゼオンの兄貴(スリーパー)

 

 Q:ナツメがここにいるのは?

 A:暇だから(ナツメ)

 

 Q:のんきにパチンコを打ってた理由は?

 A:金策のため(デュフォー)

 

 半ば感想に近いやっつけ回答もあったが、徐々にゼオンの疑問は解消されていく。だが最大の謎はま残されたままだ。

 

「『アンサー・トーカー』の力を使えば、別の方法でもっと短時間で大金を稼げたはずだろう」

 

「確かにそこは不思議ね。どうしてパチンコなの?」

 

 何気なしにナツメも追従の質問を口にするが、それは同時にゼオンへ情報と疑惑を与える。

 

(『エスパー』の力でその疑問に『答え』を出せないのか? ……いずれせよナツメの力も完璧ではないといことだな)

 

 デュフォーもそれを承知の上であえて触れず、2人の疑問に答えを出すことに専念する。

 

「この世界は経済に対し調()()()()の様な安定させる不可視の力が働いている。

 その力により、オレが元いた世界でいう金融不安や経済破綻が発生しにくくなっている」

 

「んん? パチンコの話との関連が見えてこないが、そういった力があるなら良い事なんじゃないか?」

 

「安定するということは急変動も起きにくくなる。株や通貨取引などで短期的に稼ぐことが難しいんだ」

 

 未だピンと来ていないゼオンに対し、ナツメが理解を示し小さくうなずく。

 

「わたしも経済にはあまり詳しくないけど、そういった手段を取るのが難しいというのはわかる。

 大事件を意図的に起こせば別だけど、それは論外でしょうし。

 あなたの世界では横行している転売行為もこちらでは厳しく制限されているわ」

 

「正直まだよくわからんが、短期間で合法的に大金を得る選択肢は、必然とギャンブルに絞られるというわけか」

 

「ああ、そしてオレが行ったパチンコ屋は全てにおいて都合が良かった。まずあのパチンコ屋を経営している企業は母体が『ロケット団』だ」

 

 ああ……とゼオンが渋い相槌を打つ。

 本来は巨大な悪の組織ということらしいが、ハナダシティで会ったムサシ、コジロウ、ニャースのせいで、その名を聞いても間抜けなイメージしか思い浮かばない。

 

「ロケット団の存在はオレ達にとって害はあっても利用価値が無く、大勝ちして大金を奪っても何ら問題はない。

 そしてパチンコは他のギャンブルとは大きく異なる点がある。何だかわかるか?」

 

 わかるわけない(だろ)(でしょ)(わな)、とゼオン、ナツメ、オカシラから同時にツッコミが入る、が同時に意外な者からも解答が飛んできた。

 

「あー、そういうことね。パチンコって手を動かしたり考えたりする必要がほぼ無いんですよ」

 

 それまで蚊帳の外にいたスリーパーが嬉しそうに割って入る。

 知らなくても問題が無いムダ知識だというのに、スリーパーに先んじられた事実にゼオン達はどこか悔しさを感じさせられていた。

 

「何故お前が知っているのかあえて深堀りしないがそういうことだ。

 オレの力で勝てる台を見つけ(エスパーポケモンは同じ事ができるのでボールから出してはいけない)、パチンコ台のハンドルを硬貨などで固定していれば、後はこいつで作業をしながらでも玉が放出される」

 

 デュフォーの手から出てきたのは、ナツメから借りた金(利子付きで返済済)で購入したモバイルデータ通信可能なスマホロトム。

 そう、こちらの世界にやってきて3日目にしてデュフォーはとうとう最強のアイテムを正規の手段で入手する。

 

 人間が生み出した叡智の結晶、インターネット付きの高機能携帯電話(スマートフォン)を『アンサー・トーカー』使いが手にする。

 その莫大なアドバンテージと今後の躍進を察し、ゼオンは高まる期待にゴクリと息を飲む。

 

 ナツメのコネと協力を得ながら戸籍と住民票を用意してネットバンクを開設。

 活動拠点となるこのマンスリーマンションの手配。

 全員分の生活必需品と日用品、トレーナーアイテムの購入。

 ポケモンバトルの学習、情報収集用SNSの登録、電子マネーアカウント作成、タケシやカスミとの連絡先交換。

 ついでに、一昨日デュフォー達を面倒見てくれたトキワシティのジョーイへのお礼の手紙と品を送付――

 

「パチンコを打って換金を繰り返す間に済ませておいたのはこの辺だな。キャッシュも十分残っている」

 

 ここまでの成果を当たり前の様に言ってのけられれば、ゼオンもこれ以上何も言えず屈服する他無い。

 

「もういい、追求したオレが悪かった。よくやってくれたデュフォー。

 オレの方も格闘道場で新しいわざはちゃんと取得しておいたし、少し鈍っていた身体も動かしておいたぞ」

 

「お前が成長して戻ってきたことはわかる。ナツメの協力で仲間と活動環境も潤沢になった。

 改めてこれから本格的にジム攻略を開始できる」

 

 無表情でVサインを交わし合うナツメとデュフォーにシュールさと不気味さを感じながらも、ゼオンはその言葉に高揚する。

 この逸る気持ちをぶつける場所、次に挑戦するジムは1つしかない。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「頑張れライチュウ! こんなに熱いバトルはめったに味わえないぜ!」

 

 金の髪を逆立て軍服に身を纏う、異国漂う容姿の男が野太い声を張り上げると、夕焼けに染まる軍港都市クチバシティのジム内全域に反響し地鳴りの様に鳴り響く。

 第3のジム、クチバシティのチャレンジはジムリーダーであるマチスの提案によりゼオンとライチュウの一騎打ちとなった。

 

 特性の『ひらいしん』により、でんきわざそのものが通用しないライチュウ、

 回避、マントによる防御、素の耐久力、タイプ相性によるダメージ半減諸々により遠距離からの電撃を全く寄せ付けないゼオン、

 両者の性能により、戦いは自然と電気技を封印した肉弾戦に移行――十手、二十手と拳が重なり鋭い炸裂音、鈍い衝突音が入り混じって奏でられる。

 そんな攻防を経て両者は言葉を交わさずに通じ合う。

 

『そうか。お前、サトシのピカチュウに負けたのか』

 

 ゼオンの独り言が聞こえ、それまで淡々と攻め続けていたライチュウの表情がピクリと動く。

 ノーマルタイプの物理技を繰り出しながら、時折素早くフィールドを駆け巡り相手の翻弄を試みる戦闘術。

 そのライチュウの体さばきに、ゼオンはサトシのピカチュウの影を見る。サトシがオレンジバッジを所持しているということは、この両者が戦ったのだろうというゼオンの読みだった。

 

『それがどうしたってんだ』

 

 ライチュウが共通言語でぶっきらぼうに応える。

 己の進化前に相当するピカチュウにやられたとあっては屈辱だろうというのに、その瞳から誇りは失われず、むしろより強く輝きを増す。

 

『ただ力で押すだけでは勝てないとアイツから教えられた。今のオレは昔とは違う!』

 

 繰り出されるメガトンパンチを肩とマントでガードし、密着状態を生み出すとゼオンが小さくつぶやく。

 

『挑発するつもりで聞いたわけじゃない。ここだけの話、オレは実の弟に負けた』

 

『……へっ、お前()かよ』

 

 ライチュウが不敵に笑うと、ゼオンも釣られて笑った。これ以上の言葉は不要、とばかりにそこでおしゃべりを止め2体は戦いに徹する。

 一見拮抗している攻防。それをジム内の皆が手に汗握り見守るが、デュフォーただ一人は違う。

 

(既にこの戦いはゼオンが勝っている。何度か勝機があったがワザと見逃していた。

 王になるため、義務付けられた勝利を収めるため、屈服させるため、いたぶってあざ笑うため――戦闘をそんな手段として扱っていたゼオンが、初めて相手を知るため、バトルを楽しむために戦っている。

 ……しかし、この2体は声から雰囲気までそっくりだな)

 

 ライチュウはサトシのピカチュウとの敗戦を経てトレーニングを積んだ。

 電撃とパワーによるゴリ押し一辺倒から、スピードと体術も組み合わせたオールラウンドアタッカーへと変貌しつつある。

 が、それでもゼオンが肉体鍛錬へ捧げた時間の積み重ねには及ばない。この現状はゼオンが決着を先送りにしているからに他ならない。

 

 楽しかった――誰にも聞こえない小さな声でそう呟き、ゼオンはこの戦いに幕を下ろす。

 

「マッハパンチ」

 

 ゼオンが左拳から放った格闘タイプの先制攻撃技が、この場の何人も反応できない速度でライチュウの下顎を抉る。

 数瞬遅れて打たれた事に気付いたライチュウは負けじと前に躍り出る。が、誰もいない空を殴りつけそのままうつ伏せに倒れ込んだ。

 

 ピクリとも動かない自身のエースポケモンを見てマチスが慌てて駆け寄る。

 先制技一発でやられるほどヤワな鍛え方はしてないはず――眼前の結果を否定せんとライチュウを抱え起こし、何が起きたかを理解した。

 意識外からの攻撃が狙ったのは、肉体ではなく意識。顎を鋭く掠めたことで脳震盪を起こし、時間差でライチュウは問答無用の気絶へと追い込まれていた。

 

「参った参った……ハッハッハ!」

 

 清々しささえ感じる完敗を喫し、ライチュウをボールに戻しながら軽快に笑うマチス。

 その一方でデュフォーは勝利の余韻に浸ることなく、この先の行動計画を練り始めている。

 

 (今のところはスケジュール通りに勝ち進めている。次に挑戦するのは、くさタイプのタマムシジムだな)

 

 残るジムの中では難易度、相性的に脅威の低い平凡なジムだ。

 実質的な消化試合を前にデュフォーは『アンサー・トーカー』に問いかける。といってもゼオンの勝利を不安視してのことではなく、ただの気休め程度のものだった。

 

 Q:次に挑戦するタマムシジムの危険度は?

 

 だが、すぐさま返却された『答え』にデュフォーはこの世界へやって来てから、初めての動揺を抱くことになる。

 

 A:ゼオンにとって、カントー地方のジムチャレンジで最大の難所となる。

  今までに無い"試練"が彼を襲う。

 

 ポケモンリーグのエントリー期限まで 残り97時間 

 

 

 





声優が一緒のゼオンとライチュウはいつか絡ませてみたかったです。
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