ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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11話:タマムシジムの試練

 

 唐突な愚痴になるが、オレは世の女が欲しがるものがどうにも苦手だ。

 母上は魔界の女王であったためさすがに王族らしく最低限の着飾りはしていたが、それでも身の回りの物を無駄に欲しがるようなことはしなかった。

 だからゴテゴテした豪奢(ごうしゃ)なアクセサリーも、むせ返るような香水の匂いも、機能性ゼロのカバンも、無駄に高い化粧品も全てが理解できない。

 このタマムシジムはそれらを凝縮したごった煮の闇鍋みたいな場所だ。だからこそオレは辟易して、思わず口をすべらせてしまったのかもしれない。

 

「そんな無意味なものに気を取られて浮ついているから、ジムの管理態勢も杜撰(ずさん)になるんだ」

 

 オレの一言で長閑だったジム内の雰囲気と女共の顔色が一変する。だがこの時点でオレは失言をした自覚は無く、間違ったことを言ったつもりもなかった。

 

「ゼオン……」

 

 隣でデュフォーが何かを察したような顔で見下ろしていたが、オレは意に介さず腕を組み不遜に構える。

 すると室内庭園を模したジムの奥から、キモノ(ニホンの伝統衣装らしい)姿のリーダーらしき女が芝を踏みしめながらツカツカと歩み寄る。

 

「無意味なものとは聞き捨てなりませんわね。それにわたくし、このエリカのジムが杜撰とは甚だ心外です!」

 

 明らかに憮然とした様子――気の強そうな女だ。ハナダジムの……えーとカスミだったか?

 あいつといい、ガッシュの仲間だったティオといい、オレはこの手の女とはとことんソリが合わないのかもしれない。

 

「オレは理由もなしにクレームを入れたわけではない!」

 

 負けじとオレも語気を強め言い返す。そもそもの発端はこうだ。

 昨日クチバジムをクリアした後、デュフォーがこのジムへの挑戦をインターネット予約していた。

 だがジム側の手違いで、ここで運営している香水やら生け花やらの講習会の時間とオレ達の挑戦時間が被ってしまったらしい。

 簡単な事務説明だけでジムを追い返されそうになったところで、苛立ちの余りオレが爆弾となる先程の言葉を投下してしまったというわけだ。

 

 受付の女とオレから事情を聞いて、ようやくエリカも少し落ち着きを取り戻したようだ。

 

「そういうことでしたか。確かに落ち度はわたくし達にあったようです。しかしそれならば、明日また挑戦していただければ良いでしょう」

 

「人の時間を奪っておいて予定を変えれば良い、で済ますな。それにポケモンリーグの締め切りまであと3日しか無いんだぞ。

 1日の遅れがどれだけ迷惑をかけると思っている」

 

 他人事の様に言ってのけられオレは鼻で笑いながら言い返す。が、この女も大概気が強いようだ。負けじと含み笑いを返してきた。

 

「あら、ジムの挑戦期間はトレーナーへ猶予を持たせるため半年以上もあるのですよ。

 スケジュール管理がいい加減なのは、こんなギリギリに駆けつけるそちらの方ではないのですか?」

 

 こ、こいつ……事情を知らないとはいえデュフォーにまで飛び火させやがった。

 肝心のデュフォーが(ぬか)に釘といった様子で、エリカの挑発を受け流しているのが幸いか。

 

 デュフォーにひとまず判断を仰ごうとしたその時、受付の女が慌てた様子でエリカに何かを耳打ちする。

 エリカは女に指示を返すと、オレ達の前でわざとらしい咳払いをした。

 

「トラブルで講習会の予定がキャンセルになりました。話が二転三転しましたが、今日はジム挑戦が可能となります」

 

 何はともあれ無駄足にならずに済むようだ。

 お騒がせなジムだな、とわざと聞こえる声でぼやくとエリカが刺々しい態度のままオレの額を指差す。

 

「ですがあなたは認められません」

 

 何を言い出すんだこの女。呆れて固まるオレに対しエリカが淡々と言葉を続ける。

 

「ジムチャレンジの規定には、著しく礼を欠く行為、迷惑行為は慎むようにとあります。

 指摘をされてもやめなかった場合は、ジムリーダーの裁量でトレーナーの挑戦権を剥奪できます」

「オレは何も言っていないが」

 

 デュフォーの指摘にエリカも、もっともだとうなずき返す。

 

「おっしゃるとおり。ですので今回はこの子(ゼオン)の参加のみを禁止します。他のポケモンを使うのは構いません」

「運営規約とルール上は問題ないな」

 

 議論の余地はない、と言わんばかりにエリカはピシャリと言ってのけ、デュフォーもそれにあっさりと追従する。

 エリカが目の前にいる手前、演技かはわからないがデュフォーは助け舟を出すどころかあっさりと切り捨てる。

 バトルの準備をするという名目で一旦デュフォーがジムを立ち去り、建物から十分離れたところで、オレは堰を切った様に想いのまま口から怒りを吐き出した。

 

「あいつは話にならん! いい加減な仕事をしているくせに口だけは一人前で、合理性の欠片もなく感情だけで生きてやがる!

 それに何故お前は怒らないんだ――」

 

 言葉はそこで途切れる。デュフォーと目が合いオレは自然と息を呑んでいた。

 間違った判断をした者に向ける呆れの態度、あれが僅かではあるがデュフォーの表情から滲み出てオレに向けられていた。

 

「ゼオン、ハナダジムのカスミの時もそうだったが、心象を下げない方がいい場面では言葉を飲み込んでおけ。

 それにオレとお前こそ魔界の王を決める戦いで、感情優先で動きまくっていただろう」

「くっ……わかっていた……わかっていたが……」

 

 ああ――デュフォーに言われて忘れかけていた記憶がフラッシュバックする。

 ガッシュ達への仕打ち、ファウードでの暴走、やらかしてしまった筆頭のオレがエリカにどうこう言えた義理はなかったはずなのに――

 

 自己嫌悪に覆われ、ジェットコースターの様に気分を乱高下させうつむくオレの肩を、デュフォーがやさしく両手で包む。

 

「過去にオレ達がやったことは取り消せない。いつか埋め合わせる時が来るだろう。だがそれとここでの生活は何の関係も無い。

 気持ちを切り替えて、クチバジムでの戦いの様にこの世界を楽しめ」

 

 負の感情から、オレの腹の底に生まれ沈んでいた岩のようなものがスッと軽くなった気がする。

 こいつがパートナーで良かった。照れくさくて口には出さなかったが、オレは陰気を振り払うように頬を両手でピシャリと叩く。

 

「お前の言うとおりだな。で……本当にオレをジムチャレンジから外すのか? お前とオカシラなら間違いなく勝てるとは思うが」

 

 ジムチャレンジの進捗、スケジュール管理はデュフォーに丸投げしているため、判断を改めて問う。

 

「せっかくだ、お前もパーティのリーダーなら自分が蒔いた火種をなんとかしてみせろ」

 

 返ってきたデュフォーの言葉は一見突き放すようで、オレの打開と成長を期待するかの様に表情が少し和らいでいた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 「任せろ」と啖呵切ったものの、だ。

 デュフォーと別れ気分転換で一人タマムシシティの街を散策する。温い風に吹かれ、街並みをボーっと眺めるが解決策は思い浮かばない。

 力ずくでいいならいくらでもやりようがあるが、穏便に済ませるとなると途端に手詰まりだ。

 かといって、あのエリカ相手に土下座交渉などプライドが絶対に許さない。さてどうするか――

 

「ようちびっこ、久しぶりだな」

 

 軽薄で馴れ馴れしい声が背後から聞こえ、思考を邪魔されたオレは少し不機嫌になりながら振り返る。

 一度会ったら忘れない強烈なインパクトの2人と1匹。

 胸に「R」の文字が刻まれた制服姿の男女と猫型ポケモン――ムサシ、コジロウ、ニャースが背後から現れ、オレは思わず後ずさる。

 

「貴様ら……ロケット団!」

 

 いくら思案に耽っていたとはいえ、この程度の連中にここまで接近をされて気付けなかったとは失態だ。

 こいつらがまた得意げにニヤついているのも苛立ちを増長させる。

 

「オレはちびっこではない。"ゼオン"だ。それに今はお前達とじゃれあってる暇はない。見逃してやるからとっとと失せろ」

 

 ハエを追い払うようにしっしっと手で追い払おうとする、が奴らが離れる気配がまるでない。

 というか、この前電撃を浴びせて吹っ飛ばした(奴らが勝手に飛んでっただけだが)はずだがこいつらなんでオレを恐れないんだ?

 

「あーらそんな事いっていいの?」

「ゼオン、おみゃーがタマムシジムからつまみ出されて困ってることは把握済みニャ」

「ジムに挑戦する方法が知りたいんじゃないのか?」

 

 ムサシ達が得意気に絡んでくる。自信たっぷりにしてた根拠はこれだったのか。

 それにしても不覚……。こいつらに監視されていることに全く気付いてなかった。

 

「それがどうした。お前達にどうこうできる話なら世話はない」

 

 冷たく突き放そうとするが、オレの言葉すら予想していたのか、ニャースは態度を変えずにオレの隣まで無遠慮に近寄る。

 

ジャリボーイ(サトシ)も実はこのジムでおみゃーと似たような事をやらかしたのニャ。それをニャー達が解決して、バッジゲットさせてやったのニャ」

「何っ?」

 

 無視しようとしたのに、その言葉に思わず聞き返してしまった。

 というか、オレとサトシの行動って同レベルだったのか? そっちの方が少しショックだぞ……

 

「嘘だと思うんならあいつに聞いてみなさいよ」

 

 ムサシ達は強気な態度を貫いている。ハッタリには見えない――おそらくこいつらは本当に解決策を持っているのだろう。

 ならば聞かなければいけないのは、こいつらの()()だ。

 

「教える見返りはなんだ? まさか仲間になれとか言わないだろうな?」

「そこまでがっつかないわ。あのジム内のどこかに秘伝の香水あるの。一度盗るのを失敗しちゃって警備が強化されて、場所がわからなくなっちゃってね」

 

 なるほど。香水の場所、奪取の可否はデュフォーに聞けばわかる。

 それを伝え、後はこいつらの()()をデュフォー共々見て見ぬふりすればいいわけだ。

 

 ――正直、条件としては悪くない。

 こそ泥程度で正義漢を偉そうにふりかざすつもりはないし、いけ好かないあのジムの物が盗られようが、正直どうでもいい。

 だが、必要以上の悪事は働かないように保険は打っておくべきだろう。

 オレは体内に主戦力として胎動している雷エネルギーと、僅かに保有しているエスパーのエネルギーを練り上げ混成する。

 昨日、余った時間でナツメとの協力の元に開発したオレの新しい技――

 

「"らいけっしょう"」

 

 オレの左掌に現れた雷の結晶――かつて人間界でチェリッシュという魔物を拷問するために使った、バルギルド・ザケルガの残滓に酷似している。

 だが今は他者を守るために生み出されたもの。それをロケット団が不思議そうに覗き込む。

 

「何よそれ?」

「お前の身体に、条件付きで動作するこの雷の楔を打ち込む。

 お前達が自己防衛以外で人やポケモンを傷つけたり、奪ったり、殺傷性のある技をポケモンに指示した場合、実際に電撃を打ち込まれたのと同等の衝撃が身体に走る。

 苦痛のレベルはオレが調整できるが――最大値はサトシのピカチュウの電撃、あれの10倍相当だと思え」

 

 ふむふむ、とロケット団はオレの話を食い付くように聴き入る。

 だが、オレの視線がムサシ一人だけに向けられていることに気付き、奴の顔色が変わる。

 

「ちょ、あたし? なんであたしだけなの!? コジロウ達にもやりなさいよ!」

「一人だけで十分だろう。コジロウとニャースはお前に比べてまだ自制が効きそうだからな。

 盗むだけならオレのこの条件を飲めるはずだが?」

 

 オレの指摘を認めないムサシがその後も道端で恥も外聞も無くギャーギャー騒ぎ立てたが、コジロウとニャースがなだめ続け最終的にどうにか折れた。

 オレの"らいけっしょう"は人間相手の場合、合意無しに使用することができない。煩わしいが奴の納得は必須だ。

 

「あとは無事ジムで挑戦できたら取引成立だ。で、どういう手段を考えてるんだ?」

 

 期待半分で問うオレを、ロケット団はまるで面白いおもちゃを見つけたかのように、ニヤニヤしながら取り囲う。

 それを見た途端、本能がオレに恐怖を知らせた。

 タケシのイワークやカスミのアズマオウに電撃が通用しなかったあの時にも抱かなった、悪寒がオレを襲う。

 

「方法なんて決まってるじゃなーい。あんたが別のポケモンだって思われればいいだけよ」

「"変装"が手っ取り早く確実。そして俺達は変装の達人だ」

「ニャー達がジャリボーイにやったのと同じ、完璧な変装をおみゃーに施してやるニャ。まずはタマムシデパートへ行くニャ!」

 

 

 




初代アニポケ視聴済の方は次回ゼオンくんがどうなるか既におわかりかと思います。
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