ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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12話:ゼオンの受難とロケット団

 

『ジャジャーン!』

 

「バカ、声が大きい……」

 

 試着室から出てきたオレを待ち構えていたロケット団、その自信たっぷりな声がタマムシデパートのレディースフロアに響き渡り、オレは慌てふためく。

 あいつらお尋ね者のくせに、目立つ真似をするとは何考えてやがる!

 フロアに備え付けられた全身鏡に映る姿を見て、オレは改めて恥ずかしさで全身を震わせ顔を朱に染める。

 

「くっ……こんな姿、恥辱の極みだ」

 

 防衛機能を阻害しない形で拡張、装飾した白のワンピース風マント。

 瞳には紫電の眼光を隠す黒縁カラーコンタクト。

 なびくセミロングの金髪(髪色はガッシュをイメージして変えた)は自前だ。

 オレの魔力をコントロールする生体操作術を応用すれば、身体のエスパーエネルギーを使用し、短時間で毛量や色を変えることくらいはできる。

 少女型のポケモンと化した今のオレなら、確かにエリカにはバレなさそうではあるが……

 

「見た目は完璧、あと気をつけるのは会話ニャ。喋れるポケモンは珍しいから、ゼオンがいつもの感じで喋ったらバレるかもしれないニャ」

「顔を動かすなよゼオン。後は仕上げのナチュラルメイクだ! デパコスは俺の自前でサービスしといてやる!」

 

 自前……? コジロウのやつ普段からこんなことしてるのか?

 

「そういやあんたPokeTubeの検索履歴、"女装男子ファッション"とか"地雷男の娘メイク"ってあったわね」

「だーっ! 人のスマホを勝手に見るな!」

「ソーナンス!」

 

 オレの顔面に慣れた手つきで化粧水と乳液を塗り、ブラシやチップを走らせながらコジロウは漫才の様なやりとりをムサシ、ニャース達と繰り広げる。

 ついでによくわからない、全身真っ青のポケモンがムサシのモンスターボールから出て乱入してきたぞ。色々適当過ぎだろ。

 こいつら、こうしているとサトシとピカチュウの様な良い関係の仲間達にしか見えない。どうしてロケット団なんかやっているんだか。

 

「お前達、タマムシジムの香水を盗ってどうするんだ?」

「香水の成分を科学班に調べさせて大量生産させんのよ。売りさばいて大儲けすれば、組織内であたし達の評価は爆上がり」

「活躍を続ければ、ボスに認められて借金や始末書も帳消しニャ。どこかのシティ支部長への昇進も夢では無いニャ!」

 

 楽観的過ぎだろ。サトシの話ではこいつら失敗ばかりだが、よくクビにされないな。

 それともクビにする価値も無いほど忘れ去られているのか……。

 

「それでその先は? 最終的な目標だよ」

「目標? 幹部に昇進して、ボスの側でお仕えするのがあたし達の夢よ」

「あのお方はいつかカントー地方征服を成し遂げるはずだぜ」

 

 目をキラキラと輝かせ語るこいつらは、自分の主こそが至高,絶対だと本気で信じているのだろう。

 これがどこまでいっても使()()()()()の人間の心情か。

 オレには決して理解できないが――こいつらの様に心から忠誠を尽くした部下は、人間界でファウードを支配した時にはいなかった。

 こいつらのボスの武力はともかく、部下を惹きつける力は今のオレより上なのだろう。それは受け止めなければならない。

 

「どした考え込んで。メイクもう終わったぞ。今風の女の子っぽくバッチリ仕上げたぜ!」

「あたし達が仕込んだんだからビビってんじゃないよ」

 

 かつて敵意を以て一蹴したオレに対し、こいつらはまるで何事も無かったかのように親しげに話しかける。

 サトシがロケット団のことを話した時、あいつらは敵だし、たまに度を越した悪事を働くのは許せない。

 だが同時にどこか憎めない、嫌いになれない連中なんだよなと零していた。

 その気持ちがオレにもなんとなくわかった気がした。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 中年夫婦の様な変装を施したロケット団を引き連れ、タマムシジム前で合流したオレを見るデュフォーの目が一瞬大きく見開かれる。

 デュフォーの驚いた顔が拝めるのは新鮮だが、引き換えにこの姿を見せるのはやはり恥ずかしい。

 

「"試練"とはこれのことだったか。しかし、オレの『答え』と似た方法をロケット団が思いついたとは少し驚いた」

 

 まさかこいつも女装を提案するつもりだったのか? どいつもこいつもこのオレ、"雷帝"を何だと思っている……。

 

『ガキ……お前も面白くてかわいいとこあるじゃねえか』

「アニキ――いや、今はアネキっすね」

 

 嬉々として茶化してくるオカシラとスリーパーを睨みつけると、その影からモンメンが現れモジモジしながらオレを見上げ――

 

『ゼ、ゼオン――?』

『モンメン、お前言葉を……』

 

 オレの名前を辿々しくはあるが、ポケモンの共通言語で話した。

 デュフォーが空き時間にモンメンの世話をしていたのは知っていたが、言葉の学習まで進めていたとはな。

 

「盛り上がってるとこ悪いんだけどさ、香水のことそろそろ教えてくんない?」

 

 オレが"らいけっしょう"を埋め込んだ腹を、居心地悪そうにさすりながらムサシが催促する。

 と、『アンサー・トーカー』で事情を察したデュフォーが、少し呆れた表情で頭を掻きながらロケット団を一瞥する。

 

「お前達、原液自体は入手できたが欲しいのは完成品だろ? 調合方法ならオレがわかるからわざわざ盗みに入る必要は無いぞ」

 

 調合設計書が書き殴られたメモ帳をデュフォーから手渡されると、有益な情報に満足してロケット団は去っていった。

 一体なんだったんだあいつら――と零しながら、デュフォーとオレは再度タマムシジムに入り、受付を済ませる。

 エリカを含め誰も変装したオレを先程のポケモンだと気づかず、拍子抜けする程あっさりとオレ達はバトルへとこぎつけることに成功した。

 

「行け、"ゼシア"」

 

 変装用に名付けられた偽名をデュフォーに呼ばれ、オレは草原と女共の香水が入り交じる独特な匂いが充満する、室内庭園のバトルフィールドに降り立つ。

 対するエリカは、ボールからハエトリグサの様なポケモンを繰り出すと一度咳払いする。

 変装しているオレに対してはあまり興味無さげに一瞥しただけだ。

 

「なかなか可愛らしいポケモンをお持ちのようですね。

 バトルの前に、先ほどわたくしが退場させたあの子(ゼオン)に伝えておいてください」

 

 オレのことだ。だが今は知らんぷりをして聞き耳を立てるしかない。

 

「あの子は確かにわたくしのジムで暴言を吐きました。

 ですがそもそもあの子が憤ってしまったのは、あなたをポケモンリーグに出場させようとしたため。それくらいわたくしにもわかります。

 このジムバトルには参加させられませんが、あなたへの想いには敬意を払いますし、あなた達には是非ジムバトルを勝ち抜いて欲しいと思います」

 

 眼の前にオレがいるとも知らずに真剣に語るエリカを前に、オレはクスリと笑うがそれは決して嘲笑ではない。

 このオレをジムから叩き出し、こんな格好をさせた屈辱の借りはムサシ達に香水を転売させて味わわせてやるが、こういう真っ直ぐな女は嫌いじゃない。

 ならばこちらも敬意をもって今のオレが所有している最大火力で応えるのみ。

 試合開始の合図が審判から告げられると、感情を昂らせながら、オレは掌から電撃が生まれる予兆の送電路(ストリーマー)を迸らせる。

 当然それにエリカも気付き眉を潜めた。

 

「……その子、でんきタイプですか?」

 

 くさタイプ相手にでんき技は今ひとつ。だが、今のオレはタイプ相性などお構いなしに全てを撃ち抜ける自信と全能感に身体を支配されている。

 昨日クチバジムのバトルの後で、ウマが合い仲良くなったマチスとライチュウ。あいつらと共に開発した友情の証――

 変装のために伸ばした金髪をなびかせながらオレは前方に突進する。

 その動きに反応できずに目を白黒させた相対しているポケモン(ウツボット)に掌をかざし、声を出せぬオレは心中でその名を高らかに叫ぶ。

 

(でんげきは!)

 

 でんきショックとは比にならない強大な電撃がウツボットの全身を飲み込み、あまりにも速すぎるその衝撃が苦痛よりも早く失神へと追い込む。

 言葉を失うエリカにただの一撃で次元の違い、そして事実上の決着を突きつけた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 カントー地方の最北西にそびえ立つセキエイ高原。その地には今季ポケモンリーグの舞台となる、運営会場が建設されている。

 会場内の一角にあるミーティングルームでは、3人の男女が柔和な様子でリーグ開催直前の最終会議を行っている。

 

「本日トキワジムが、未登録の新種ポケモンによる暴走とジムリーダーであるサカキ氏との音信不通により、運営不可能となった件じゃが……。

 正午より公募入札を行い、なるべく早く臨時ジムリーダーを決定するということで」

 

 部屋の中央席にどっしりと構え、会議を進行している総白髪に白髭の中年男性。

 ポケモンリーグ実行委員会会長、"タマランゼ"その人であるが、権威に合った威を張ることなく親しげな雰囲気を放っている。

 

「それでは最後の議題に移ろうかの。カントー地方のとあるトレーナー、『デュフォー』くんの件について」

「ん? 会議直前で急遽追加された臨時議題でしたかな? 最近とんと多忙で仔細を確認しておらなんだ」

 

 ゼオンが世話になった格闘道場の主、"空手大王"よりも大柄な体躯の壮年男性が、左翼側の席からテーブルに置かれた資料を読み漁る。

 

「なになに、『フォン・デュフォー』トレーナー歴は6日目。所持バッジは……7つ!? キクコ殿、これは一体……」

 

 タマランゼより一回り老いた右翼側席の女性が、老眼鏡越しにデュフォーのプロフィールを眺め目を細める。

 

「たまげるのは早いよシバ。サブアカウントでも不正でもなく真っ向からジムチャレンジを電光石火の如く踏破する、履歴一切不明の新人トレーナーらしいのさ」

「一体どんな戦いをしたのだ。ジム戦は確か全て録画されて運営側のデータベースに記録されておるだろう」

 

 シバの一存で部屋に備え付けられたプロジェクターに、各ジムでデュフォーの試合が映し出される。

 次々と再生される動画を視聴し、彼らはデュフォーが築いた圧倒的実績の原動力となっているゼオンの力を実感する。

 

 タマムシジム――

「何故かこの時だけ女の子みたいな格好してるけど、全部同じ子で勝ち抜いてるみたいだね。

 長年生きているあたしでも知らない電気ポケモン――オーキドのジジイなら知っとるかね」

 

 ヤマブキジム――

「バリヤードのひかりの壁を見事な「かわらわり」で粉砕して、電撃の特殊攻撃に繋げているな。

 格闘技の技術といい、生身の身体能力といい、かくとうタイプではないのが惜しいくらいだ」

 

 セキチクジム――

「勝つ直前にわざと毒を食らってるようだな。おそらく状態異常が何かを身をもって体感するためであろうか?」

「この勝負が行われたのは夜……。この後に他のジムチャレンジは間に合わない。

 あとは最寄りのポケモンセンターで、そのまま治療させるだけで良いことまで見越しているのだとしたら、したたかな子達だね」

 

 グレンジム――

「"にほんばれ"により強化された炎攻撃を強大な「でんげきは」で真っ向から破っておる。たまらんのう……」

 

 全ての動画を心ゆくまで視聴し終えたシバは首を傾げる。

 

「デュフォー少年の指示がほぼ無いのは気になるが、不正が行われていないのはわかった。

 家族か親戚が他所の地方のチャンピオンかなにかで、強いポケモンを譲り受けたとかではないのか? 議題に上げる必要は無いと思われるが」

「シバ……おぬし、さっきしたトキワジムの話をもう忘れたのかい?」

 

 キクコに自立思考を促され、トキワジムの現状とデュフォーのバッジ取得状況を照らし合わせたシバは、ああそういうことかと相槌を打つ。

 

「うむ。現在カントー地方の公認ジム数は統廃合が進み8つのみ。

 デュフォー君が所持していないのはグリーンバッジのみじゃが、トキワジムは事故で閉鎖されておる。

 ポケモンリーグの締切は明日。つまり彼がエントリーに間に合うのはほぼ不可能ということじゃ」

 

 例外中の例外とも言える事態。つまり今ここで話し合うべきは、デュフォーを()()()()するか否か。

 

「過半数以上のジムリーダーからも、彼に正当な評価を行う様にとの推薦を受けておる。

 それを踏まえた上で今季の運営委員会、最高幹部である四天王シバ殿、キクコ殿に問う。

 デュフォーくん、及び同様の状況にあるトレーナー達がいたとしたら、彼らを今季のポケモンリーグに参加させるべきか――」

 

 ポケモンリーグのエントリー期限まで 残り32時間 

 

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