ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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13話:ゼオンVSミュウツー

 

「デュフォー、これはどういうことだ?」

「閉まっていたようだな――トキワジム」

 

 ポケモンリーグの締め切りまであと1日――7つのバッジを揃え、再び始まりの地トキワシティへ舞い戻ったデュフォーとゼオン。

 残るはカントー地方の中で最難関、かつゼオンとはタイプ相性最悪のじめんタイプであるトキワジム。

 だが、この世界にやって来たばかりで挑戦を回避していたあの頃とは、保有戦力も知識量もまるで違う。

 勇んで最後の関門へと挑もうとしたはいいものの、肝心のジムが開いていなかった。

 詳細は明かせない、の一点張りで平謝りするスタッフを詰めても何も始まらず、ジムを出たゼオンは途方に暮れる。

 

「明日も挑戦できなければ、ポケモンリーグのエントリーまでにバッジは揃えられないよな」

「エントリー不可能という線は無いはずだ。

 オレ達のロードマップに進行不可能となるクリティカルな要因が発生する場合は、『アンサー・トーカー』で事前に察知できるようになっている」

 

 この世界に訪れてから知識と理を仕入れ続け、デュフォーは『アンサー・トーカー』の失われた力を一部取り戻していた。

 その能力と言葉を信じるなら、何かしらの抜け道はあるということになる。

 

「この事態をナツメと運営に報告し、代替のリーグ参加方法を共有してもらうとして――今からここより南西、10kmの地へ向かおう。

 トキワジムが閉鎖した理由がそこにある、と『答え』が返ってきた」

 

 ゼオンは目を瞑り、デュフォーが示した場所へ意識を集中させる。

 元の世界で使っていた魔力感知と同等の能力をこの世界でも使えるように、と隙間時間で修行していた。

 その結果、今は周囲数十km程度まで大雑把な力の感知ができるようになっていた。

 

「確かにその方角から異質な気配を感じるな。現状をどうにかできる可能性があるなら行ってみようじゃないか」

 

 この時も、オカシラ(ドンカラス)の背に乗り現地へと向かう時も、ゼオンはこの後に対峙するモノの脅威、強大さなどまるで考慮していなかった。

 数々の仲間と修行し手に入れた力、加入したポケモン達、そして絶対の信頼を置くパートナー(デュフォー)がいれば恐れるものは何も無い――

 そんな心持ちでトキワとマサラの間、森林奥の開けた地にたどり着いたゼオンの両眼に飛び込む光景。

 崩壊した巨大な建造物、生けるものを拒絶する燃え上がる炎と黒煙。

 聡い者でなくとも只ならない状況だと判断できる景色の中央、周囲に瓦礫一つ無い荒れ地の上にその生物はいた。

 

『私はお前達ニンゲンに縛られる存在ではない』

 

 僅かに紫がかった白い全身、引き締まった人間の様な体系、無機質な瞳。

 今まで見たポケモンとは何かが違う、ポケモンなのかもわからない。

 ゼオンは自問する。最大の異質はこの生物の存在意義にあるのではないか。

 生物の目的は繁殖することにある。竜族は強靭な肉体を持つが、それとてあくまで強力な外敵から身を守り種を繁栄させるためだ。

 しかし、眼の前の生物は戦うためだけに生みだされたのだろう。

 面相,歩行,何気ない仕草,佇まいその全てが戦闘を前提に設計された機能美を放っている。

 

(ファウードから生まれた兵士達と同じ……いや、それとも違う)

 

 魔界にも防衛目的の兵や、邪悪な魔物により生み出された戦闘生物はいないわけではないが、彼らは主の命以外で危害を加えることはしない。

 そして非戦闘時には主にかわいがってもらったり、日常会話を交わすなどの感情も持ち合わせている。

 が、この生物からは負以外の心が垣間見えず、己の意思で争いを仕掛ける戦闘意欲とプレッシャーをまるで隠そうとしない。

 

「お前、何故こんなことをする」

 

 関わるメリットなど全く無い、それでもゼオンがオカシラの背から降り話しかけたのは、その生き物が放つ強烈な存在感への興味以外の何物でもない。

 生き物はゼオン、そしてデュフォーと視線を交わす。

 

『ニンゲン……そしてそれに従うポケモンか。私にとって人類は敵対種族であり支配する対象だ。だからこうした』

 

 人でも、ポケモンの言葉でもない独自の言語が、テレパシーとなってデュフォー達の脳内に直接鳴り響く。

 厳しい表情のゼオンに目配せされ、デュフォーはその意図を察して小さく頷く。

 廃墟と化したこの場所には直前まで人の形跡があったが、今はない。この生き物の破壊活動は殺生をも厭わず、そしてこれが初めてではない。

 似ている。まるで昔の自分とパートナーに。

 

「では人であるオレもお前にとっては駆除対象か?」

 

 『アンサー・トーカー』を介さず、デュフォーはコミュニケーションを主の目的として直接問いかける。

 今まで自分に近寄ってきたニンゲンが持ち合わせたのは恐怖,打算,欲望。そんな感情を微塵も押し出さずに接する少年に、その生物は僅かな興味を抱く。

 

『別に率先してお前達を狩っているわけではない。この私、"ミュウツー"の邪魔をしないなら見逃してやろう』

「ミュウツーとやら、悪いがオレ達にも世話になった者達がいる。その者達に危害を加えない保証が無いなら、お前を放っておくわけにはいかん」

 

 好戦的に微笑み手招きするゼオン、それを戦闘開始の合図とみなしたミュウツーは身体の周囲に不可視の力を纏わせる。

 それはかつてナツメと出会った時に感じたあの不思議な力を、桁違いに強力で薄気味悪くしたようだ。

 

『ねんりき』

「でんきショック!」

 

 デュフォーが瞬きする間に2体は数十メートルの距離を同時に潰し、己が最初に取得した攻撃技を放つ。

 基本技でありながら、その威力は十人なみのポケモンが放つ上級技に匹敵する。

 至近距離で瘴気を纏う念動力と紫色の電光が交わり、相殺したその時――

 

 魔界の王から受け継がれた頂点の才能、その血が

 戦うためだけに生み出された究極の戦闘生物、その感知機能が

 同時に告げる。

 

 "こいつは今まで対峙したどの生命体よりも強い"

 

 マントをはためかせ、相手の視界から一瞬隠れた隙に高速で周囲を駆け回り翻弄を試みるゼオン。ミュウツーは感覚器官を研ぎ澄ませそれを静かに待ち受ける。

 正面と右脇から2回ずつ、計4度のフェイントを経て頭上を取り今度は一方的にでんきショックを打ち込むが、かざされた片手に防がれる。

 

(硬い。バリアの様なものを全身に常時展開してるな。おそらく物理攻撃技の方も通らないだろう。

 そしてオレに対して念力での拘束も狙っている。少しでもオレがエネルギーの集中を解いてる時に、座標を絞られたら捕まるな)

 

 ゼオンは作戦を練るため距離を取り、ミュウツーが追撃として放った念動力をマントで弾き飛ばしながら、的を絞らせまいと再度高速移動を開始する。

 戦闘レベルに反して、派手な音が鳴り響かない静かな攻防が続く。だが周囲の空間は2人に怯えるかのように、力の余波で震え続けている。

 

『こりゃやべえな』

「な、なんなんだよあいつ……」

 

 隙あらば介入しようと身構えたオカシラは、両者の戦いを見て自分の読みの甘さを思い知り、デュフォーを引き連れ木陰まで下がる。

 敵はおそらくエスパータイプ。相性的には圧倒的に有利なはずなのに、1対1では全く勝てる気がしない。

 初見殺しの特攻で10回に1回の相打ちがやっと。それほどの力量差を見ただけで感じてしまった。その奥にいるスリーパーに至ってはひたすら恐れ震えているだけだ。

 

「戦闘は避けろオカシラ。オレが合図を出したら、ゼオンを置き去りにしてでも速やかに逃走しろ」

『安心しろ、頼まれても戦わねえよ』

 

ガキ(ゼオン)、ここ数日で中級クラスの技をいくつか覚えたようだが、お前自身のパワーが急に上がったわけじゃねえ。

 今のお前じゃそいつはちと厳しいぜ……)

 

 ぶっきらぼうにデュフォーへ言い放ちながら見立てたオカシラの考察は、ゼオンも数度の攻防を経て重々承知している。

 両者の防御性能とスピードはほぼ互角だが攻撃力と戦闘技術はミュウツーが上回っており、技の数は比べるまでもない。

 

『トライアタック』

 

 炎、雷、氷、3種のエネルギー弾が三角形の形で不規則に回転しながらゼオンを高速自動追尾する。

 本来は攻撃範囲と追加効果を重視した技であるが、ミュウツーの力をもってすれば1発ずつがそれぞれ必殺の威力を持っている。

 

(広範囲破壊……違う、こいつの狙いは状態異常か。食らったらヤバい冷気攻撃だけは躱して、あとはマントでガードする!)

 

 勝機こそ見出だせないが、それでもゼオンが直撃を許さずなんとか食らいついている理由は2つある。

 1つ目は強敵との戦闘経験から、技の特性、実力者の行動パターンを反射的にある程度推測できること。

 今まで格下の相手しか倒してこなかったミュウツーには無いものだ。

 

『みらいよち』

 

 両者の周囲広範囲に力場が発生したかの様な歪みが走り、ゼオンは本能的に危機を察する。このままだと何かまずいことになるのはわかるが、対処方法がわからない。

 

「ゼオン、4秒後に低威力だが不可避の攻撃が来る。食らいながらも防御パターン"N"」

 

 そしてもう1つは無論、要所で正確な防衛指示を出すデュフォーの存在。

 スペックの暴力と言えるミュウツーといえど『アンサー・トーカー』までは搭載していない。

 みらいよちによる時間差攻撃から繋げ、背後から打ち込んだ「スピードスター」の波状攻撃をマントで際どく防がれミュウツーは思考する。

 

 ――これまでの全ての敵は私の基礎攻撃にすら敵わなかった。

 しかしこいつらは、豊富な種類の技やコンビネーションによる攻めを組み合わせているのにも関わらずことごとく対応する。

 押し切るには私も全力を出さねばなるまい。

 

 日常で衝動的な破壊行為を行わないようにするため、あえてセーブしていた全力を開放する。

 質量でゼオンのそれを一回り以上凌駕するエネルギーを全身から放出させながら、念動力で己を上空へと浮かせ、ゼオンに狙いを定めた超広範囲の念動波を両手から解き放つ。

 

『サイコウェーブ』

 

「でんげきは!」

 

 ゼオンも地上から出し惜しみ無しのフルパワーで迎え撃つ。が、その強大な紫電すら念動波は容赦なく打ち破り、そのままゼオンを飲み込んでいく。

 

(手応えはあったが油断はできない。視界が覆われたのに乗じて奴が反撃するとしたら左右、後方、または頭上……いや――)

 

 地を蹴り上げ、マントをバリア代わりに念動波の中を一直線にゼオンは突っ切り躍り出る。

 ミュウツーは全方位を警戒していたがゆえ正面への反応が遅れ、目と鼻の先まで接近を許してしまう。

 

『ここで捨て身か。度胸は認めるがお前の火力程度では――』

 

「捉えた」

 

 ほぼ密着状態でゼオンが右掌からほとばしらせる直線上の電撃が、微少ではあるが障壁を貫きミュウツーの胸へと着弾し、仰け反らせる事に成功する。

 その正体は「でんげきは」と同じくクチバジムで開発した、でんきショックの応用技。

 

「でんきショック、"収縮の型"」

 

 攻撃範囲は通常のでんきショックより狭まるが、密度を一点集中させ、特殊なエネルギーと弾丸状の回転を掛けていることで突破力は"でんげきは"をも上回る。

 生涯初の被弾を許し、胸部に受けた小さな痺れがミュウツーに語りかける。距離が近づく程効果が薄まる障壁の特性を、ゼオンに自力で見破られたのだと。

 負ける気はせずとも更に警戒を強めるミュウツー、追撃を決めんと集中力を研ぎ澄ませるゼオン、昂る両者の戦闘意欲は――

 

「ゼオン、ミュウツー。この勝負はここまでだ」

 

 デュフォーの一方的な通告により、水を差されてしまう。

 

「デュフォー?」

 

『お前達から仕掛けた勝負だろう』

 

 敵味方双方から異議が飛ばされ、デュフォーは木陰からあえて姿を晒し接近する。

 

「オレ達は違う世界から無理矢理連れてこられた。その所為でこのゼオンは元いた世界での力を半分も出せていない」

『今は本調子ではない、ということか』

 

 ゼオンの高い戦闘練度と比較して、繰り出される技の等級と種類が貧弱なのはミュウツーも内心ひっかかっていたが、デュフォーの言葉が本当なら理屈は通る。

 

「ミュウツー、お前はただ力のままに暴れる破壊者ではない。最強の生物としての誇りも持ち合わせている。力を取り戻したオレ達にも勝てる自負があるはずだ。

 そしてゼオンも、これほどの強者と戦うのなら中途半端ではなく完全な状態で挑むのが礼儀だろう」

 

 デュフォーから両者のプライドと筋を立てながらの停戦を説かれ、衝動的に戦いを始めた2体はようやく矛を収める。

 

『……いいだろう、私も万全のお前達には興味がある。憶えておこう、ゼオンとデュフォー』

「オレもここまで苦戦を強いられたのは初めてだ。ミュウツー、借りはいずれ必ず返す」

 

 再戦の契を交わし合い、ミュウツーは空を弾丸の様に高速飛翔し飛び去っていく。

 その姿が完全に失せたところで、デュフォーが羽織るジャケットの中からスマホロトムが着信音を垂れ流した。

 

 :Information カントー地方ポケモンリーグ運営より

 トレーナーID:4521396 フォン・デュフォー様

 トキワジム臨時閉鎖の件につきまして、ジム挑戦中のトレーナー皆様にはご迷惑をおかけしております。

 事態を鑑みた結果、諸条件を満たしているトレーナーの方へ、

 特例としてポケモンリーグへの参加認証となる本メッセージをお送りしております。

 ...

 

 先程までの戦いを感じさせない脳天気なメロディ、そしてディスプレイに表示された通知文。

 緊張の糸が解けたゼオンは負傷した身体を勢いよく地に投げ出し、くたびれた笑顔でミュウツーが飛んでいった空を見上げた。

 

あいつ(ミュウツー)との激闘がグリーンバッジ代わりか……割に合わないな」

 

 ポケモンリーグのエントリー期限まで 残り1日と1時間 

 デュフォー ポケモンリーグ進出決定

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