14話:ポケモンリーグ開催
「デュフォー! ポケモンリーグ進出おめでとう!」
「1週間ぶりだなサトシ」
ミュウツーとゼオンの決闘から1日が経過し、デュフォーは無事ポケモンリーグのエントリーを終え、マサラタウンを訪れた。
タケシ経由で連絡先を交換したサトシに誘われ、彼の実家で再会を果たす。
「たった6日で本当にポケモンリーグに参加しちゃうなんて、信じられないけど本当にすごいよ」
「オレとゼオンだけの力では間に合わなかったかもしれない。色々な人やポケモンに助けられてここまでたどり着けた」
「全くだ。従者や兵士以外でこんなに他者の援護を受けたのは生まれて初めてだぞ」
その言葉がうわべだけではないことはサトシもひしひしと感じている。
最初に出会った頃、デュフォーとゼオンが纏っていた他者を拒絶するような抜身のオーラや態度が今は少し和らいでいる。
この世界の人やポケモンと触れ合ったことで彼らに何らかの変化が訪れているようだ。
「そちらもポケモンリーグに向けた修行は進んでいるな」
一方のデュフォー達もサトシの成長進捗を改めて確認する。
ゼオンに手も足も出ずにやられてから、サトシはポケモン達のトレーニングとは別に苦手な座学を短時間ではあるが毎日行うようになった。
テキストを使って机に齧り付く学習ではなく、動画投稿サイトで好きな配信者が流している初心者用のバトル講座を視聴するスタイル。
それは彼に合っていた様で、飽き性なのにも関わらず今のところ毎日こつこつと続けられるようになった。
しかし成長量だけで言ったらはっきりいって前と大差ない。1週間で劇的に人が変われるほど現実は生易しくはないからだ。
(今はこれでもいい。サトシに変わろうとする意思があるだけで十分だ)
「オレと戦えるよう、出来る範囲での指導を行う。さっそくだが、今の手持ちポケモンを全て確認させてくれ」
デュフォーとサトシの目標は2週間後のポケモンリーグで直接戦うこと。いかに『アンサー・トーカー』といえど、組み合わせの運まではどうしようもできない。
デュフォーが勝ち進むのは当然として、サトシにもデュフォーと当たるまでは勝ってもらわなければならない。
実家の外にある庭で、サトシは手持ちのポケモン8体全て(ケンタロスは30匹の中から一番素質が高い個体のみを選抜)を披露する。
(8体ともなかなか面白いポケモンだが、今は将来性度外視でポケモンリーグでの即戦力度合いだけを純粋に判定するか)
デュフォーは1体ずつ注意深く観察し、詳細な評価を算定していく。
フシギダネ――突出しているものは無いが、あらゆる戦闘能力がバランス良くまとまっている。B評価
ゼニガメ――フシギダネとほぼ互角の力量。やや安定性で落ちるか。B-評価
ピジョン――生来戦いが好きではない性格。補佐や防衛作戦、主の危機に本領を発揮するタイプ。C評価
ケンタロス――30匹の中から選ばれた精鋭だけあって無難に強い。B+評価
クラブ――特殊個体ではないが戦闘センスはパーティの中でピカイチ。しかし実戦経験無し。どうしたサトシ。A-評価
ベトベトン――性能が極端。近距離物理アタッカー相手にはとことん強い。B評価
ピカチュウ――特殊個体。覚醒状態を意図的に発現できればエース級になれる。B+評価
リザードン――特殊個体。性能は現時点でエース級だがサトシの指示に従う気は全く無し。安定して勝ち上がるにはこいつの協力が必要。A評価
デュフォーは評価内容を伏せ、導き出した改善点、テコ入れポイントのみをまとめて伝える。
「見どころのあるパーティだ。今までやっていたトレーニングは後でオレが監修するとして、他にやるべきことが2つある。
1:クラブにひたすら実戦経験を積ませること。2:リザードンをやる気にさせること。これだけで勝率は三割程上がるはずだ」
せっかくのデュフォーからのアドバイス。だというのに、サトシは収まりが悪そうな表情で頭を掻く。
「うーん。クラブはなんとかなりそうだけど、リザードンは俺の言う事聞かないんだよね……」
「だろうな。ゼオン、手を貸してくれ」
自分にお鉢が回ってくることを見越していたゼオンは、小さく頷くと庭の上でふてぶてしく眠っているリザードンの前に立つ。
ピカチュウに匹敵する潜在能力を持っているにも関わらず、サトシへの忠誠心が皆無な素振りのリザードンの存在はゼオンも気がかりだった。
『リザードン』
『……なんだお前は?』
半身で寝ながら、片目だけ開けて受け答えるぞんざいな行動。そんな屈辱的な態度に、ゼオンは眉一つ動かさず語りかける。
『サトシの仲間であるデュフォーというトレーナーのパートナー、ゼオンだ。
今度の大会でサトシとデュフォーが戦う約束をしている。勝ち上がるためにお前の力を貸してくれ』
『お前の指図なんか受けねえし
考えるふりすら見せず、けんもほろろに突き返しリザードンは再び目をつぶる。完全にサトシを小間使いか何かの格下と見做しているようだ。
だが強者と戦いたいという気骨を持っている辺り、ただのチンピラというわけではない。それならやりようはある。
『ならば何故野生にかえらない? 自由気ままに生きられるし、好きな時に強い奴と戦えるだろう』
『ゴチャゴチャうるせえな。お前には関係ないだろう。話しかけるな雑魚が』
対話を求める姿勢を一蹴され、あまつさえ罵倒されてもゼオンは気分を害さない。
この世界に来てから、我ながら穏やかになったなと感じさせられていた。
精神が熟していない一部の魔物の子も勘違いをする時期がある。己の強さへの自負から人間のパートナーを、心の力を放つ電池か何かと扱う状態。そう思えば可愛いものだ。
しかし交渉が
『"らいけっしょう"』
リザードンが反応する間もなく、ゼオンは左掌に発現させた雷の結晶をその寝そべっている腹部へと押し当てる。
本人と周囲の者達が気付いた時には、雷の結晶は楔としてリザードンの体内へと音も立てずスルリと入り込んでいた。
『お前なにしやが――グオオオオオ!?』
全身に走る苦痛。実際に攻撃を受けたわけでもないのに、身体の内部から生成される衝撃はリザードンから無理矢理過去の出来事を掘り起こさせる。
――痛え。でもこれは
まともに育ててもらえず弱っちかった当時の俺が、バトルで手も足も出ない敵に食らわされたダメージみてえだ。
「リザードン!?」
「サトシ、ゼオンに任せてくれ」
リザードンの様子を察して慌てて駆け寄ろうとしたサトシを、デュフォーが優しく制する。
残念ながら、今のサトシに出来ることは何も無いからだ。
ゼオンは己の声を聞かせる余裕を持たせるため、リザードンに与えていた雷の衝撃を半減させる。
『オレもお前の流儀に則ってやりたいようにやらせてもらう。文句は言わせん』
ゼオンは体内奥深くに伏していた力を全開まで開放させ、敵対者へ向ける様な鋭い眼光でリザードンを射抜く。
サトシの手持ちの中で最強である、という地位など何の価値も感じさせないほどの圧倒的な力の差。
現時点での格付けが完了し、リザードンは痛みよりも耐え難い記憶を蘇らせる。
バトルで敗北した時に、前のニンゲンから受けた叱責と失望、そして捨てられた屈辱――忘れかけていた最悪なトラウマだ。
『お前が野生として生きるなら好きにすればいい。だがサトシの下で庇護を受けながら生きるのなら、仲間であるデュフォーに対して最低限の協力はしてもらう。
雷の呪縛を取り除いて欲しければ、今度の大会で真剣に戦え。そして万が一オレに勝てれば、雷帝の名に誓ってお前に眩い恩賞をくれてやろう』
言いたいことだけを言い終えてゼオンは瞬間移動でその場から消失する。
と同時にリザードンを襲っていた苦痛は、まるで最初から存在していなかったかのようにあっさりと消え去った。
残ったのは心に深く刻まれた苦い記憶、ズタズタにへし折られたプライド、そしてゼオンへの恐れと怒り。
「リ、リザードン……大丈夫?」
心配し声をかける己の主に目もくれず、デュフォーの目論見通りリザードンはゼオンへの対抗心に息を巻く。
――痛みなどどうでもいい。あんなナメた真似をしやがった
「これでサトシの方は大丈夫だ。まだ大会参加者全体の力量が不明だが、優勝候補と当たらない限りは、予選で手も足も出ず負けるということは無いはずだ」
「あ、ありがとうデュフォー。でもそっちは大丈夫なの? まだポケモン6匹以上捕まえてないんでしょ?」
サトシの懸念にデュフォーから確かにな、と相槌が打たれる。ポケモンリーグはベスト8から6対6のフルバトルとなる。
よっていかにゼオンが強かったとしても大会開始時に手持ちが6匹未満の場合、デュフォーは不戦敗となってしまう。
「まだ幼児のモンメンを含めてもオレの手持ちは5体。オレのパーティに噛み合うポケモンを揃える必要がある」
えっ、今サラッとおいらを頭数に入れた?
と後ろでつぶやくスリーパーに構うこと無く、デュフォーは『アンサー・トーカー』の力を発動し、この後のスケジュールとプランを導き出した。
◆◆◆◆◆
――そのバッジはお情けでもらえたようなもの
――がんばったのはサトシじゃなくてピカチュウたちじゃないの?
――せめて
バトルで勝利しても手放しで褒めてもらえず、せっかくの勝利にケチをつけられ続けてきた。でもそんなこと、
大ケガしてわざも使えず、辛いことがあってくたびれていたゼオンに手も足も出なかったんだ。いくら俺が能天気だからってその現実くらい直視できるさ。
俺は強くない。ポケモンリーグに出場できたのもマグレかもしれない。
それでもポケモン達に、皆に支えられて機会をもらったのなら全力でそれにしがみつくだけだ。
マサラタウンから交通機関に揺られ続けて6時間、カントー地方最北西のセキエイ高原へたどり着いた俺を、巨大な競技アリーナと
スタジアムの観客席ではなくアリーナ内へと向かう選手であろう強者達は、街で見かける一般のポケモントレーナーとは面構えも雰囲気もまるで違う。
はやくも強烈なプレッシャーに圧されながら、集団の中へ混じって進む俺の視界に映る見知った顔。それを見て少しだけ恐れと不安が和らいだ気がした。
「来たなサトシ、ピカチュウ」
「世話になった、と
雑踏の中から現れた少年と、彼が引き連れている白銀のマントを羽織ったパートナーは俺と右肩の
「いよいよだねデュフォー、ゼオン」
「ピーカァ!」
2週間ぶりの再会を経て、それ以上は何も言わずお互いに横並びで進んでいく。
IDカード機能をインストールしたスマホロトムをそれぞれ取り出し、受付所で係員に渡しチェックインを済ませ、更に奥へと進んだ。
『ワァァァァァ!』
競技場内へと足を踏み入れた俺達を快晴の空の下、観客席から大量の声援と熱気が出迎える。
手熱い歓迎を受け、俺はとうとう目標の地にやってきたのだと実感し、全身を武者震いさせた。このだだっ広い客席のどこかにタケシやカスミがいるのだろうか。
しばらくして、場内の各所に取り付けられた拡声器からアナウンスが競技場全域に響き渡る。
「ただいま出場予定の全選手がアリーナ内に入場しました。これより開会セレモニーが開催されます。まずは実行委員会の最高責任者、タマランゼ会長よりご挨拶をいただきます」
競技場中央のお立ち台へと登る
本来なら軽々しく口を聞ける立場の相手ではないが、中央席最上段で美しく燃え盛る聖火をひょんなことから運ぶ手伝いをした際に知り合った仲だ。
「お集まりの皆様。ポケモンリーグはポケモンを真に愛する人達の戦いの場所です...」
この時ばかりは俺も興奮を押さえつけ、はしゃぐことなく粛々と会長の挨拶に耳を傾ける。
会長も場内の熱を察し、独りよがりの長々しい話はせず早々に締めへと移った。
「...では最後になりますが、今回エントリー期限間近の大事な時期にトキワジムが使用できなくなるアクシデントがありました」
話が急転換したことで、清聴していた会場内がざわつく。事情を知る俺を含め、ごく一部の者のみが黙して次の言葉を待っている。
「のっぴきならない事態に熟慮を重ねた結果、特例としてグリーンバッジ以外を所有しているトレーナーの中から、厳正な審査と選考を行いました。
結果、1名の選手が特別推薦枠として本大会へ出場することとなりました。
――フォン・デュフォー選手、前に出てきてもらえるかな?」
ああ――いつか訪れるとは思っていたけど、ついにその時が来てしまったんだね。
ごく一部にしか知られていない君の存在が、世界全土に轟こうとしている。
「責任はワシが負うから言いたいことを自由に言いなさい」
そう言い残し、お立ち台の中央を譲る会長に会釈しデュフォーがマイクスタンドの正面へ静かに立つ。
一体何を言うんだろう。ただの挨拶では済まない予感がして俺は生唾を飲み込んだ。
「トキワシティ出身のデュフォーだ。今季ポケモンリーグへ招待していただき感謝する。
しかし不慮の事態があったとはいえ、オレは正規のエントリー手段を満たしていない。
ましてやオレの公式ランクはここにいる中でも下から数えた方が早く、トレーナー歴も3週間足らずだ。出場することに、内心で納得いってない選手もいるだろう。
結果を出せなければ、オレを見込んで推薦してくれた人たちの顔を潰すことになる」
事情を知らない人達からしたら、新人トレーナーが運営側のゴリ押しで場違いなステージに立たされているように見えているはずだ。
不服、憐れみ、好奇、無関心――数万を超える視線と感情に晒されながら、デュフォーは何を感じているのだろう。
いつも通りの落ち着き払った様子で言葉を一度区切り、改めて会場全体を見渡す。
礼を欠き不遜に振る舞うことなく、かといって過剰に謙遜するわけでもない。
彼は俺の眼前で開催宣言代わりの挨拶をもって、己の意思とインパクトをはっきりと皆に知らしめた。
「今大会では必ず優勝する。目標はその先のポケモンマスターだ。以上」
本作ではカスミのキャラは軟化してる気がします