台上から去り選手達の中へと戻っていくデュフォーへ会場から拍手が送られる。
それは大口を叩く威勢の良いルーキーを暖かく見守るかのようだった。
一部の選手は不敵に微笑むものの、その目だけは笑っていない。デュフォーが
「なんか遠くに行っちゃったな……」
サトシが大会を勝ち抜いてなんとかデュフォーと戦えることを考えている間に、当のライバルは既に優勝を前提に動き、自分の面倒を見た上でその先も見据えている。
勢いと意地だけではどうにもならない、明確な差。
――今はまだ敵わないかもしれない。けど、必ず追いついて見せる!
「……ピー」
内心で静かに決意を胸に抱いた時、闘争心の伝播を受けた
◆◆◆◆◆
「サートシくん。君の知人はずいぶんエキセントリックだね」
デュフォー,カスミ,タケシと合流し、予約した宿泊施設へと向かうサトシの前に少年が立ちはだかる。
両脇に複数人の女性を引き連れ、キザったらしく微笑む少年を視認しサトシは顔色を変える。
「シゲル……!」
己の名を呼ぶ
「フォン・デュフォー。トレーナーID:4521396。公式ランクはノーマル帯28050位。
トレーナー歴6日で、カントージムバッジを7つ入手する離れ業をやってのけた謎の新人。
既に一部SNSやローカルのネットニュースを賑わせている、お騒がせトレーナーだね」
一同がその場でスマホを開くと、既にネット上はシゲルが言う通りの有り様となっていた。
最大手SNS、Poketterではデュフォーに対する噂話や、ジム挑戦の不正疑惑などが既にちまちまと流れている。
「なんだよシゲル、デュフォーのこと疑ってんのか?」
不機嫌な様子でサトシに詰められシゲルは一瞬呆けた顔を見せるが、すぐに小馬鹿にしたような笑い声をあげる。
「ハッハッハ、サートシくんは面白いことを言うんだね。ボクがこんなゴシップを真に受けるとでも?
ポケモンリーグ運営の不正対策は万全! 運営側はわざわざ推薦までしてるんだから、公式試合で彼は不正行為をしていないはずだよ」
早合点を指摘され顔を紅潮させるサトシを、シゲルはからかい甲斐があるとばかりに笑い飛ばす。
幼なじみでもあり、馴れ合わず常に張り合う2人ならではのやりとりだった。
「おっとおしゃべりが過ぎた。君達も作戦会議をするようだし邪魔しちゃ悪いね」
反応を待つこと無く、取り巻きの女達を引き連れシゲルが嵐のように去って行く。
それを見届けた後、サトシ達はようやく手配していた宿へと到着した。
「やっと一息つけるぜ。……それにしても、シゲルのやつなんだよ作戦会議って。まるで俺達がグルみたいじゃないか」
部屋で荷造りを終えるやいなや、シゲルとのやりとりを思い出し不満気になるサトシ。デュフォーとゼオンがやはりとばかりに顔を見合わせる。
「シゲルはオレ達の立ち回りをわかっているようだ」
「気付いていないのは当のサトシだけだな」
「ええっ、どういうことだよ?」
怪訝な顔をするのはサトシだけ。タケシも無論デュフォーの言わんとしていることは理解している。
「サトシ、大会のルールは全部確認したのか?」
「ええっと、ちょっとまって……」
部屋に備え付けてあるパソコンでサトシが運営公式サイトにアクセスし、モニタにルールを表示させる。
第X回カントー地方ポケモンリーグ 公式ルール
1:エントリー
本日午後21時までに、本大会で使用するポケモンを6匹~10匹の範囲でエントリーしてください。
※同一種族ポケモンを同じ試合には出せません。
2:全般
※2匹以上のポケモンに同じ「どうぐ」を持たせることはできません。
各試合開始120秒前までに、使用する3匹(本戦2回戦から6匹)のポケモンをエントリーしてください。
予選では雨、晴、霰、砂嵐、霧、暗闇のフィールドでランダム順に対戦し、6戦全勝したトレーナーが本戦に進めます。
試合時間20分(本戦2回戦から60分)を経過して勝負がつかない場合、戦闘可能なポケモンの数と負傷度合いによるAI判定となります。
大会期間中は全選手1024名のデータベース、全試合のバトルビデオを照会できます。
※大会中一度も使用していないポケモンのデータは開示されません。
選手以外の人間1名をコーチャーとして同伴させられます。
3:対戦
入れ替え技(例:ボルトチェンジ)を使用した場合、対戦中に交換可能です。ただし相手ポケモンがわざを使用してから3秒後以降の使用が条件となります。
相手ポケモンを倒した時は1回(本戦2回戦から3回)まで入れ替え可能です。それ以降交換した場合、ポケモンはその試合中使用できません。
※ポケモンがトレーナーの指示を無視して行動し、それが大会進行や安全に影響が出ると判断された場合は失格となります。
「な、なるほどね。全部は憶えきれてないけど、ほとんどわかってるよ! それでこれとさっきの話は何の関係があるの?」
サトシがまだ理解できずに首をかしげていると、デュフォーが隣までやってきてルールが表示されているモニタを指差す。
「選手のデータベースとバトルビデオを照会、またコーチャーを同伴できると書いてあるだろう。
他の文面は指示や禁則事項なのに、ここだけ選手側の行動選択肢をわざわざ提示している。これは運営側による情報戦の推奨と集団行動の許容だ」
「えーっと……データは積極的に利用した方がいいってことかな。でも集団行動ありってどういうこと?
トーナメントって周りは皆ライバルで最後に勝つのは1人じゃないの?」
「サトシ、お前今"最後"って自分で答えを言っただろう。確かに組んだ相手といつかは最終的に戦うことになるが、言い換えるならそれまでは互いの利益になるということだ
今のオレ達だって、サトシが勝ち抜いてデュフォーが戦うまでの共同戦線だしな」
ゼオンの指摘にああーっ、とサトシがのんきな相槌を打つが、横で聞いていたカスミが別の新しい疑問に頭を捻らせる。
「でもポケモンリーグって個人の強さを競うのが目的でしょう? 競技の趣旨とイマイチ噛み合わないんじゃない?」
「確かに実際のバトルは個人技だ。そこは共闘の余地が無いが、バトルに至るまでの育成準備、対戦相手の調査、ルールへの立ち回りなどまで単独作業に固執することはない。
情報社会と化した現在に重要な、集合知を活用する能力とコミュニケーション能力を伸ばせる上、トレーナー全体のレベルも引き上げることができる」
そういうもんなのねー、とカスミが呟きサトシはわかったようなわかっていないような微妙な表情を浮かべる。
いずれにせよデュフォーがサポートを行うことに変わりはなく、そのままサトシ達は自室で予選の対策とパーティ構築の打ち合わせを始めるのであった。
◆◆◆◆◆
カントー地方ポケモンリーグに5回出場し、5回とも予選最終試合で惜しくも敗退。
個人ランクはシルバー帯の6704位。パッとしない実績のどこにでもいる平凡な選手。
僕のトレーナー人生はたった二行で片付けられる。誰からも期待されることのない脇役止まりの存在。
これがゲームなら負けても何度でも諦めずに挑戦できるけど、あいにく現実ではタイムリミットからは逃げられない。
親の仕事も継がずにセキチクシティの実家を飛び出したはいいものの、僕ももうそんなに若くない。まともに結果も出せないのにこれ以上自分のワガママで家族を蔑ろにはできない。
今回も予選で落ちるようなら諦め時――ラストチャンスの覚悟で挑んだ今季のポケモンリーグ。日雇いバイトの傍らパーティ構築も育成もやれるだけはやったつもりだ。
『アキノリ選手のパーティエントリーが完了しました。第8フィールドまでお越しください』
だからこそ怖い。控室にいる時から緊張で身体は震えっぱなしだ。一度でも負ければこれまでやってきた頑張りが全て無駄になる気がして。
心を奮い立たせフィールドに足を踏み入れた僕を、強い日差しと熱気が出迎える。
最新式の競技場から生成された、大会用の擬似的な眩い光と熱の先で僕と初戦の相手が相対する。
『予選第1回戦、晴れのフィールド第4試合を始めます! アキノリ選手、デュフォー選手、前へ』
タマランゼ会長から名指しで推薦され彗星のごとく現れた謎のルーキー。トキワシティ出身となっているが、顔立ちだけなら西洋圏の生まれに見える。
正直気味の悪い相手だが、いきなり優勝候補と当たるよりは遥かにマシだ。
『試合開始!』
ゴングが観客の声援に負けない音量で鳴り響く。
「頼むぞブーバーン!」
「行け、
『アキノリ選手のポケモンはばくえんポケモンのブーバーンだ! 対するはモンメン……!?
一体これはどういうつもりだデュフォー選手!』
実況の言うとおりだ。天候が晴れだと知っているなら、純粋に火力が大幅強化されるほのおポケモンか、晴れの状態で強化される特性を持つポケモンを用意するのが普通だろう。
それに進化後のエルフーンならともかく、モンメンを用意する意味はまるでないはず。
いや――油断はするな。モンメンにもできる役割はある。バトルに使われるモンメンのとくせいは"いたずらごころ"。
僕のブーバーンが動くより先に補助系の技を出すことができる。後続につなげるため確実に
「ブーバーン、『かえんほうしゃ』!」
いつも相手の様子を伺う時は、安定感抜群でお気に入りのこの技だ。
どんな変化技を出してくるのかと身構えるが――ブーバーンが放った広範囲の炎熱はモンメンの小さな身体をあっさりと飲み込んでいく。
「変化技を出さないのか!? というか指示は……」
「今だエルフ。"がむしゃら"」
技の打ち終わり際に、無言を貫いていたデュフォーが唐突に口を開く。炎の中から焦げ跡だらけのモンメンが懸命に飛び出し、ブーバーンへと特攻した。
『なんとモンメン、倒れるどころかブーバーンに立ち向かっています! あの強力な炎を浴びて何故戦える!?』
ありえない。ブーバーンのかえんほうしゃは本来であれば、弱点のモンメンが到底防げる攻撃ではない。
ボロボロのモンメンをよく見ると、頭の綿毛から焼け落ちた帯のような布が覗いている。そうか、一つだけ攻撃に耐える方法があった!
『きあいのタスキ』を持たせたポケモンは、体力が満タンの時に、一度だけギリギリで持ちこたえられる。
『もふー!』
カラクリに気付いて指示を出そうとするが、その前にモンメンから決死の突進を受けブーバーンがふっとばされる。
がむしゃらは残りHPが低ければ低いほど相手に高ダメージを与えられる一発逆転技だ。
このままモンメンを倒したとしても、引き換えに主力のブーバーンは大ダメージを負った。悔しいが既に十分な仕事をされてしまった。
「あと一息だ! もう一度かえんほうしゃだ!」
「エルフ、"しぜんのちから"」
僕のブーバーンは攻撃を放つ前に、モンメンの身体から発生した微弱な3種のエネルギーに撃ち抜かれてダウンを喫してしまう。
何故!? 指示のタイミングは互角で速さはブーバーンの方が圧倒的に上だったはず。なのに先制技を一方的に打ち込まれたように、初動の差で完敗した。
混乱して視界の先がぐにゃりと歪みかけたその時、おもむろにデュフォーが口を開く。
「"しぜんのちから"はフィールドの状況に応じて効果を変える変化技だ。ここまで言えばあんたならわかるだろう」
表情にこそ出さないものの、僕は跳び上がりそうなくらいドキリとした。
ありえない結果を前に、彼の脱法育成や不正行為が頭を過った直後のタネ明かし。僕の思考を完全に先読みしているとしか思えない。
「……そ、そうか。攻撃する効果に変えて先制したのか!」
不気味ではあるが、同時にブーバーンが負けた理由にも得心がいった。変化技ならいたずらごころの特性で、モンメンが先に技を放つことができる。
そして"トライアタック"の効果を得た"しぜんのちから"によって攻撃を擬似的に先制で打ったということなのだろう。
技威力の貧弱さはがむしゃらのダメージで補える。全てが計算し尽くされた作戦だ。しかしまだわからないことがある。
「何故そんなことをバラすんだい? もう同じ手は使えなくなったよ」
「元々この戦術は1度きりの予定だから問題はない。教えたのはあんたが納得いってなさそうだったから、それだけだ」
――問答を交わす僕の頭にある一つの考察が浮かんでいた。
最初から全て読まれていたとしたら? この局面の"答え"があらかじめ出されていたとしたら?
僕がモンメンを一撃で倒そうとしたことも、
動きが単純なため、来るとわかっていれば簡単に対処できる"がむしゃら"を、いたずらごころのミスリードで僕の意識から外し成功させたことも、
"がむしゃら"さえも伏線で"しぜんのちから"の存在を僕が見落とすことも、
それ以前にそもそも勝つためにモンメンを起用したのではなく、最初からモンメンをバトルで活躍させる、という前提ありきの戦いで僕を完全にコントロールしていたのだとしたら――
◆◆◆◆◆
その後の試合内容は正直あまり憶えてない。
考察を事実とする場合は、トレーナーとして絶望的な彼我の能力差を受け入れるということ。
認めたくない一心で迎えた2戦目は、晴れ状態でスピードアップできる特性"ようりょくそ"を持つ
が、全身に炎を纏わせながら凄まじい速度で突進を繰り出すブースターに半ば初見殺しで押し切られてしまった。
相棒がやられ、3戦目は放心状態ギリギリで踏みとどまったところを相手のドンカラスにまたもや開幕特攻を受け、まともに考える間もなく粉砕された。
かくして最後のポケモンリーグへの挑戦は驚くほどあっさりと終った。
僕のメンタルはあの日、完全に圧し折られた。
僕が数年かけて辿り着こうとした領域を、未知の怪物が3週間であっさりと通り過ぎたんだ。折れない方がどうかしてるよ。
茫然自失のままセキエイ高原を飛び出し、気付いた時には故郷であるセキチクシティへと里帰りしていた。
急に実家へと戻った僕を、家族は責める事無くあっさりと受け入れてくれた。
次の日からはひたすら家業を手伝う毎日。もちろん公式ランク戦には一度も参加していないし、そのうち登録も抹消されるだろう。
才能と実力が物を言う世界に僕の様な凡人が居続けていいわけがなかったんだ。
身の程を思い知らされ夢破れ、僕は今日も満たされぬまま平凡な人生を生きている。
それでも別れ際に
「あんたが真剣に勝ちにきてくれたからこそ、こちらも想定通りのバトルができた。あんたと戦った経験は、オレのポケモン達にとって必ず役に立つだろう」
彼になら託してもいい、そう思えた。だから僕も自分にできる人生を今日も精一杯生きていく。
来週から新しい職場になりますがなるべく毎週投稿ペースでいきたいと思います
ガッシュ2でゼオンが出てきたらちょっと落ち着くかもしれません