ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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16話:予選3日目~最終日- 新人記者アキの突撃取材ファイル

 

 

 闘技場から降り注ぐ人工の雨が衣服とお気に入りのスニーカーを侵食し、身体をシトシトと濡らしていく。

 が今のサトシはそんなことなどお構いなしに、眼の前の戦いに集中し高揚している。

 

『激しい風雨が吹き荒れる雨のフィールド、1回戦第48試合。サトシ選手とコーム選手の戦いはサトシ選手が2勝して大きくリード! コーム選手は後が無い!』

 

 デュフォーのアドバイスにより、野良トレーナーとの実践経験を積みキングラーへと進化したクラブが、対戦相手のポケモンを立て続けに打ち破った。

 コームは派手なパフォーマンスがウリのキザなトレーナーだが、決して中身が伴っていないわけではない。それでもなおキングラーの開花した高い戦闘センスが、サトシを優勢に導いていた。

 今はコームの主力であるコウモリポケモンのゴルバットと、温存したキングラーと交代したサトシのピカチュウが遠距離戦を繰り広げている。

 

「ゴルバット、進化前とはいえでんきタイプ相手にまともにやり合うな! 制空圏を利用して離れて戦うんだ」

 

 コームの指示を受けたゴルバットは風雨の中を飛び回り、"あやしいひかり"や"エアスラッシュ"を遠くから打ち続ける。簡単には倒せないが、危険を排除した巧妙な戦法だ。

 対するピカチュウは濡れて滑りやすい足場を慎重に駆け回り、防戦一方で攻撃を防いでいく。サトシから未だに攻撃の指示がないからだ。

 

(雨のフィールド効果はデュフォーと予習済だ。

 水タイプのわざ威力が上がって、炎タイプの威力が下がる。そして、かみなりやぼうふうなど一部のわざが回避不可能となる)

 

 回避不能といってもそれはあくまで相手視点の話であり、闇雲に狙いを付けずに指示を出して打っても当たるわけではない。自責による外しの可能性はつきまとう。

 サトシは一撃で勝負を決めるため、防御に徹してタイミングを絞っていた。

 ゴルバットは小刻みに飛行の軌道を変えてくるが、鳥ポケモンに比べれば速度は大分遅い。サトシの動体視力で十分捉えられるほどだ。

 ゴルバットが軌道を変えた直後、技を打ち込んだ時にいるであろう座標を事前に予測し、遥か上空を指差しサトシが叫ぶ。

 

「今だピカチュウ! "かみなり"!」

 

 サトシの意図を事前に読み取っていたピカチュウは、両の頬袋に溜めていた電撃を即座に開放し、天へと射出する。

 

「ピカー!」

 

 頭上から突如降り注いだ雷に無防備な状態で撃ち抜かれ、ゴルバットは一撃で戦闘不能へと追い込まれると、固唾を飲むサトシと力なく崩れるコームの視界の先で地へと叩きつけられる。

 その衝突音が試合終了を告げるゴング代わりとなった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「1回戦ゲットだぜ! やっほー!」

 

 ホテルの自室に戻りベッドの上ではしゃぐサトシを、カスミが呆れた様子で見守りながらため息を吐く。

 

「勝ってからその調子で、テレビ局の人たちのカメラの前でもずーっとはしゃいでるんだから……。でも確かにいい勝ち方だったけどね」

「本当にいい試合だったぞサトシ。でも、デュフォーの方はモンメン以外の戦いが力押しだったというか、やや単調だったな」

「ちょーっとお粗末な試合だったわね。ブースターとドンカラスをただ正面から突っ込ませてただけだし」

 

 遠回しな言い方をするタケシに反し、カスミがストレートにデュフォーの緒戦を見て思ったことを素直にぶつける。

 当のデュフォーは特に何も言い返さずパソコンを操作し続けている。そう言われる事も想定済なのだろう。

 初めてバトルメンバーに入らず観戦に回っていたゼオンも、他人事の様な感想を無遠慮に漏らす。

 

「それにしてもオレをスタメンから外すとはな。いきなり先発でエルフ(モンメン)を出した時は、自分の戦いよりハラハラしたぞ」

エルフ(モンメン)には無理矢理にでも一度、公式戦での勝利経験を積ませておきたかった。

 加えて"エルフ以外は初心者レベルの指示で勝つ","ゼオン無し","全勝"の条件を全て満たせた1回戦は上出来だった」

 

 しれっと言ってのけられた制約にタケシ達がたじろぐ中、デュフォーはモニタに各組み合わせを表示させる。

 

「2回戦は霰のフィールドで相手はゴールドランク1310位のヤス。1回戦で当たったアキノリより大分強い。ゼオン、次からはお前に暴れてもらう」

「前回はバトルをお預けされて鬱憤が溜まっているからな。ちと加減ができんぞ。サトシの方はどうなんだ?」

 

 1回戦は見守ることしかできず気持ちを疼かせているゼオンに話をふられ、サトシもモニタに表示された2回戦の組み合わせを確認する。

 

「俺の相手? えーっと……俺は霧のフィールドでゴールドランク1853位の人と対戦かあ」

「フィールドの特性理解と選出さえ誤らなければ、サトシなら勝てるだろう」

 

 デュフォーがかけた言葉は気休めではなく紛れもない本心だ。事実、それだけを心がけたサトシは1回戦を快勝している。

 

「でも、それを教えてくれたのもデュフォーのおかげだし、それが無かったらどれだけ勝ち上がれるかもわからないなあ」

「そんなことを気にする必要は無い。オレの補助を得られたのも紛れもないサトシの力だ。

 それに1回戦の相手(コーム)は、オレの指導無しでもサトシが優勢だった*1と見立てている」

 

 個の力に対し悲観的な発言をするサトシに、デュフォーがフォローを入れる。

 初期のサトシがお情けでバッジをどうにかもらえるレベルだったことはタケシから聞いている。だが今はバッジ8つ相当の力はあるというのがデュフォーの見解だ。

 事実、サトシはこの後も順調に勝利を積み上げていくことになるのだが、その活躍はさほど人々に注目されることはなかった。

 此度の予選、その主役の座は彼の眼前にいるトレーナーとその相棒に全て持っていかれることになるからだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『これより2回戦、霰のフィールド第7試合を開始します!

 赤コーナーのヤス選手は今脂が乗っているゴールドランクの若手トレーナー! 2年前の今大会で決勝トーナメントへ進出した経験もあります!

 一方緑コーナーは今注目のデュフォー選手! 1回戦の相手を共に完封した強者同士の戦い、激しいバトルが予想されます!』

 

 元気の良い実況のアナウンスが響き渡る霰のフィールドには、闘技場の天井から排出された人工雪が絶え間なく降り注ぐ。

 青年男性(ヤス)は頭と上着に付着した粉雪を手で払いながら、対峙する相手の少年(デュフォー)をクリクリした眼で品定めする。

 

(招待枠で滑り込んだ謎の新人ッスね……どうせポケモンリーグ重役の家族か何かをコネでねじ込んだんでしょ)

 

 ヤスは完全にデュフォーを見下している。だがそれは決して根拠なしにやっているわけではない。デュフォーの1回戦をしっかりとバトルビデオで確認した上での判断だ。

 

(モンメンの戦い以外は、ただポケモンを突っ込ませるだけでお粗末なバトルだったッスね。

 肝心のモンメンも油断せずに変速戦術と"がむしゃら"を警戒するだけで対応できるッス。初見殺しを食らったアキノリ選手には気の毒だけど、正直普通に勝てるレベルッスね)

 

『2回戦。霰のフィールド第7試合、開始ッ!』

 

「行け、ゼオン」

「行け、ギャロップ!」

 

 審判の合図と共に、両者先発ポケモンをボールから送り出す。1回戦のモンメンと同様、デュフォーが繰り出したモンスターを見た観客と対戦相手の顔色が変わる。

 フィールド上の電光掲示板には、ゼオンの学術名称である「ゼオン・ベル」の名が表示される。

 

(ゼオン・ベル……聞いたこと無いなあ。イッシュかカロス辺りの新種ポケモンかな? 見た目は未進化っぽいが……妙に雰囲気あるッスね)

 

 白銀の髪から覗かせるツノ以外は人間の子供に似たその容姿――ポケモンとしてはかなり小柄な部類に入る。

 基本的にポケモンは進化するほど大きくなるため、小さいポケモンのスペックは低い傾向にある。

 だがヤスはゼオンが纏う風格を見抜き、直感で彼こそが相手パーティの主力相当だと推測する。その眼力は確かに鋭い、が彼の読みにも()()はあった。

 

「ギャロップ、"ニトロチャージ"!」

「ブルルル……!」

 

 ひのうまポケモンのギャロップが主の指示を受け荒々しい咆哮を上げると、競走馬のような強靭な四肢を跳躍させ、霰のフィールドを素早く駆け回る。

 ギャロップから時たま迸る小さな炎塊を手で払い除けながら、ゼオンははっきりと紫電の両眼に相手の動きを捉え、上機嫌に頬を緩ませる。

 

「ジムリーダーがジムバトル仕様に育成した、優等生然としたポケモンとはまた違う野性味のある面構えだな。こういう相手も嫌いじゃないぞ」

 

 ゼオンも地を蹴り前方に飛び出し、数回方向転換をさせた後にギャロップの真正面に立ちはだかる。

 自身の進行方向上に先回りされ、思わず足踏みするギャロップへゼオンの右掌から、力強い電撃の塊が容赦なく打ち込まれる。

 ヤスが二の矢の指示を出す間もなく、電撃を浴びたギャロップはその場に崩れ落ち戦闘不能へと追い込まれた。

 

『なんと、勝負はあっという間でした! ニトロチャージにより素早さを増したギャロップに対し、速度強化のわざを使わず素のスピードで勝負を仕掛け追い詰めたゼオン・ベル!

 スピード重視のポケモンなのかと思いきや、打ち込んだのはおそらく基本わざの"でんきショック"! これも凄まじい威力だ!』

 

(あの実況、技に対しては良い眼力を持っているがゼオンはトップスピードまで出していないし、そもそも速度自体はギャロップの方が上だった。

 ギャロップの動きを先読みし、必要最小限の距離だけを移動して相手を誘導しつつ速度だけに頼らず追いついたんだ)

 

 デュフォーが呑気に脳内で実況のレビューをしている事も露知らず、ヤスは一撃で気絶したギャロップを青ざめた表情で見下ろす。

 ゼオンの力が圧倒的だったこともさることながら、それが裏付ける()()()()に呑まれていた。

 

(このトレーナー……これだけの切り札を持ってたのに1回戦で温存して、モンメンを出したッスか?

 初めての大会で1度でも負ければお終いなのに、なんて事考えてる!? まさか、本気で優勝を狙った上での情報封鎖?

 1回戦だけでなくこの試合も、ただ優勝するための伏線だとしたら……)

 

 本心がまるで垣間見えない、その瞳を覗き込んだヤスから見る見る戦意が失われていく。

 なまじ経験と洞察力があるからこそ、今の彼は数手先の己の()()を予期してしまった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 情報制作局ファイルサーバー\バトル部\公式戦課\XX期カントーポケモンリーグ\選手取材\デュフォー選手用\選手からまだ公開許可もらってない分\取材記録.txt

 

 デュフォー選手の対戦相手からのインタビュー記録。

 ※1 記事用に実際の発言と文章変えてるから、必ず各選手にこれでアップしていいか許可を取ること!

 ※2 バトル部外秘ファイルにつき、担当者と管理者以外は当ファイルの暗号化解除およびファイル共有を禁止します。

 

 

 2回戦の対戦相手――ヤス選手のインタビュー

 

 デュフォー選手と戦った感想スか? 純粋に実力差通りの結果だったと思いますよ。

 あの戦いだけを見れば、2,3回やれば対応できると思いますけど、多分彼もあのポケモンも全然本気じゃないッス。

 次に戦う人も、俺っちとの戦いだけを鵜呑みにして対策してたら彼の思う壺ッスよ……。

 

 

 3回戦の対戦相手――シホリ選手のインタビュー

 

 ゼオン・ベルの強力なでんきショックを回避しようとスピードのある子たちを用意したのに、まるで歯が立ちませんでしたの。

 あんな速度聞いてませんわ! きっと2回戦はわざとフットワークを使わずにいたんです! 最初から電撃そのものを無効化すればよかったのかしら……。

 

 

 4回戦の対戦相手――ドクターアサマツ選手のインタビュー

 

 ポケモンリーグでは3匹抜き程度は珍しくありませんが、6匹抜きはマグレでは成立しません。あのポケモン(ゼオン)は本物だ。

 だからでんきを完全に無効化するじめんタイプを用意して万全の対策をしたのに、いきなり見せつけられた紫色の電撃に、私のじめんポケモンはいともたやすく粉砕された。

 あの"紫電"がタイプ相性を無視するのだとしたら、特性や技でも対策しないと到底勝てないでしょう。

 

 

 5回戦の対戦相手――ユリエ選手のインタビュー

 

 ムリムリムリ、あの子ムリゲー過ぎ。まともにやってもきついから、一撃必殺技出し続けてどうにかしようと思ったんだけどね。

 あのポケモンの子(ゼオン)が装備してるマントが、あたしのポケモンの一撃必殺技をことごとく弾いちゃったわ。

 普通の攻撃も全然通らないし、正攻法じゃムリよ。

 

 

 最終予選の対戦相手――ズイ選手のインタビュー

 

 あのゼオン・ベルは電撃の威力だけじゃなくて体術とかくとう技も一級品で、物理と特殊の使い分けも完璧だ。おかげで俺の反射戦術が完封されちまったよ。

 あぁ? 次当たったらどうするかって? ……ガラルジムリーダーのカブさんが同郷(ホウエン)で、あのひとに憧れて俺もこの世界に長年しがみついてはいたが、まあ正直俺もここらで潮時かね。

 ベスト4に入ったこともあるベテランの俺が、トレーナー歴3週間の若造にボロ負けしたんだ。心も折れるわな。

 

 俺はこの世界で何年も勝った負けたを繰り返して、競技人生を賭けた友人をこの手で倒して引退させた事もある。誰であれポケモンリーグをナメる奴ぁ許さねえ。

 だがあいつ(デュフォー)は多分本物だ。あいつなら優勝の大口叩くのもわかるよ。

 決勝トーナメントは簡単にゃいかねえだろうが、ここまで来たなら言った通り優勝してみろってもんだ。

 

 取材担当:カントー中央TV_情報制作局_公式戦課 アキ

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『予選最終試合、闇のフィールド第3試合終了! 

 紫電の雷光轟くデュフォー選手のエースポケモン、ゼオン・ベル。2回戦から堂々の15匹抜きを達成し、圧倒的な力で自分のトレーナー(デュフォー)を決勝リーグまで無傷で送りだした!

 取材に来ている報道カメラと記者の数も予選試合の中では圧倒的1位! まさに今大会で最も注目を集めているペアです!』

 

 完敗を喫し観念したように頭を抱える対戦相手の壮年男性(ズイ)を一瞥し、デュフォーとゼオンは実況と観客の喝采と注目を集め、フィールドを後にする。

 控室に戻る時に通路ですれ違った少年(サトシ)と一瞬目が合い、3者は小さく笑う。

 彼らに言葉は要らない。この直後、サトシが見事勝利を収め決勝リーグに進出し約束の地へ辿り着くことを疑っていないからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
無印77話





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