ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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2話:マサラタウンのサトシ

 

 ポケモンはポケモン同士で戦う筋合いも、法律も、メリットも無い。なのに何故人間のいう事を聞いて戦うのかというのがゼオンの疑問だ。

 

「言われてみれば、ポケモン同士を戦わせるのは人間がポケモンを調教したり従わせてる事になるよなぁ」

 

 サトシにチラリと振り向かれたピカチュウは、四足歩行状態から身を起こし身振り手振りで身体を動かす。

 

「ピカピカー!」

 

 その様子を見ていたゼオンが「ほう」と相槌を打ち、デュフォーがそれを言語化する。

 

「ピカチュウは『ボクが言う事を聞くのはサトシが好きだからだ。他のトレーナーの事はわからないが、少なくともボク達はサトシに無理矢理戦わされてるわけではない』と言っている」

 

「ええっ、デュフォーはピカチュウの言ってることがわかるの?」

 

「デュフォーだけでなくオレにもわかったぞ」

 

 デュフォーはアンサートーカーの力で、ゼオンは何故かわからないが魔物が使っている共通言語の力でピカチュウの言葉を読み取った。

 

「それが本当ならサトシとピカチュウは真の意味でパートナーと言えるな。

 ならば――仮にポケモン側に高い知性を持つ個体が現れ、『人間同士を従わせ戦わせたい』とお前達がやっている事と、全く同じ事を望んだら人間はそれに従うのか?」

 

 ゼオンから二の矢でなかなかに意地の悪い質問が飛び、さすのにサトシも困ったように「うーん」とうなるだけで回答に窮する。

 

「ゼオン、その問いは不毛ではないのか。このやりとりの先にお前が納得する「答え」は出ないと思うが」

 

 見かねたデュフォーが口をはさむが、ゼオンはそれを手で制す。

 

「デュフォー、別にオレ好みの答えが欲しいわけではない。ましてや人間のやってる事を追及するつもりもない。ポケモンがそういう関係を望んでいるのならとやかく言う事ではないしな。

 ただ、目の前のサトシがどんな顔でどんな考えを持ちながらポケモンマスターという『王』を目指しているのかが知りたいだけだ。答えられないなら別にそれでも構わない」

 

 まだ子どもともいえるサトシから、論理的な回答が返ってくるとは思えない。

 そもそも今まで自分が元の世界でやってきたこと鑑みれば、サトシを詰める資格は自分にはないとゼオンは自覚している。ただの興味本位の質問だった。

 サトシはしばらく熟考した末に口を開く。

 

「他の人はわからないけど、俺は戦うのは苦手だからそれはできないかなあ。もし俺がポケモンの言うことを聞くとしたら、生活のお手伝いしたり遊び相手になったりするのかな」

 

「人間と遊ぶ、か」

 

 その場しのぎの受け答えではなく、仮に自分のポケモンと立場が逆転した場合本当にサトシはそうするのだろう。

 当然ながらゼオンはデュフォーと遊んだことなどない。利害が一致していて必要ならお互いを助け合うパートナーではあるが、慣れ合いの類はほぼ皆無だ。

 もし人間界に戻れたとして、ファウードとバオウの驚異が解決したらそういう関係性を築く事もあるのか。

 ゼオンはそれを頭の隅に思い浮かべながらもデュフォーへ訪ねることはしない。

 デュフォーから望まぬ返答が返るのを懸念しているのかそれとも――

 

「よくわかった。妙な事を聞いてしまった礼をせねばな」

 

 バオウのダメージを押して立ち上がりサトシ、そしてピカチュウを見据える。

 

「オレとポケモンバトルとやらをしないか? これでも戦いの指導には多少自信がある」

 

 まだ幼少であるゼオンは魔界で王族の嫡子として、様々な英才教育を受けていた。

 その最たるモノが拷問の様な戦闘教育だ。睡眠と食事以外の最も多くの時間は戦闘訓練に費やされていたといってもいい。

 拳を交わす事でしか語れない。戦う事でしか前に進めない。そんなゼオンからの計らいだった。

 

「バトルをするの? 俺達はいいけど、君達誰かと戦って負けたばかりなんでしょ? 大丈夫?」

 

 サトシに心配され思わずゼオンは苦笑する。上から目線の提案をしたものの、客観的に見て今の自分は明らかに気を使われる側の立場であるからだ。

 

「気にせず本気でかかってこい。デュフォー、今回お前の出番は無いぞ。あとお前――モンメンといったな? 危ないから離れていろ」

 

 自分にすり寄っていたモンメンをデュフォーに手渡すと、ゼオンは森の中を進み少し開けた場所に移動する。

 小規模の戦闘をする広さとしては十分であり、天然の森のバトルフィールドというべき場所だ。

 ゼオン、デュフォーとピカチュウ、サトシのが対面したところでゼオンが自信に溢れる表情で小さく手招きする。いつでも来いという合図を受け取ったサトシがまずはバトルの口火を切る。

 

「行くぞ! ピカチュウ、『でんきショック』だ!」

 

 ピカチュウは四足歩行の前傾状態で全身を小さく震わせる。周囲の空気がピンと張った直後、両の赤い頬袋から電撃がゼオンに向かって放たれる。

 

「これは……」

 

「『ザケル』そのものじゃないか……しかし」

 

 ザケル。魔物が使う雷の基礎呪文に酷似した技を前に、デュフォーとゼオンは共に驚きの反応を示すがそれも長くは続かなかった。肝心の火力が並の初級術に毛が生えた程度だったからだ。

 ゼオンは棒立ちのままその電撃を受け止める。身じろぎせず受け切ったその体には焦げ目すら残っていない。

 

「全然効いてない!?」

「ピカ!?」

 

 今度はサトシとピカチュウが驚かされる。だがこれはゼオンの実力の序の口に過ぎない。

 

「どんどん来い。他の技も見せてみろ」

 

 フィールドの中央で仁王立ちするゼオンの催促に対しサトシは我に返り、次の指示をピカチュウに与える。

 

「『こうそくいどう』!からの『たいあたり』!」

 

 指示を受けるとピカチュウは全身に力を溜め、両足をバネの様に伸ばし勢いよく跳躍する。バトルフィールドを縦横無尽に高速で駆け回るその姿は、対峙しているトレーナーが並の人間なら視認する事が難しい程だ。

 

「速度強化が使えるのか。呪文で言う『ウルク』(速度強化呪文)の中級版といったところだな」

 

 背後からのピカチュウの体当たりを振り変える事無くあっさり躱すと、ゼオンはそのまま静かに前進移動し、ピカチュウの進行方向先にあっさりと回り込む。

 バオウのダメージでスピードは大分落ちているが、それでもサトシとピカチュウをまたも驚愕させるには十分だった、

 動揺しながらも、サトシのたいあたりの指示を遂行するべく突進したピカチュウを、ゼオンは片手で受け止めそのまま横に軽く突き飛ばす。

 

「ピカァ!」

 

 10Mほど勢いよく吹っ飛ばされ自分の足元に転げまわるピカチュウを見て、サトシはゼオンがなんらかの物理攻撃『わざ』を使ったのではないかと見立てるが、ただ手で押しのけただけで、技でもなんでもなかった事を悟り戦慄する。

 幸運が重なったとはいえバッジを8つ集めたサトシは、カントー地方というローカル限定とはいえそこそこの実力は持っている事になる。

 負傷している状態で、トレーナーの指示も技も使わずにそのサトシのポケモンを赤子扱いできるとなると、その強さは今まで戦った強敵達の力を遥かにしのぐレベルだ。

 

 ――さて、どうしたものか。

 

 一方ゼオンはゼオンで平静を装いながらも対応に苦慮している。

 指導すると見得を切ったものの思った以上にサトシ達と実力に開きがあり過ぎて、現状はただ圧倒的な力から舐めプレイをかまして絶望を与えているに過ぎない。

 切り札の一つくらいは持っているかもしれないが、サトシの反応からして威力は精々ゼオンが生身で受け止められるギガノ級前後だろう。

 

 ピカチュウに関しては、全体的な基礎力と体術の向上、サトシに関してはポケモンの育成に力を入れる、という誰でもできるようなアドバイスしか思い浮かばない。

 やろうと思えば短期間で効果的な指導はできるのだが、魔界で自分が受けたようなスパルタ的な方法となってしまうのでできれば避けたいところだ。

 

「デュフォー……」

 

「手を出すなと言ったのはお前だぞ」

 

「そう言うな。オレだけではどうにも渋い状況だ」

 

 ゼオンにチラリと一瞥されたデュフォーは、何を求めているのか察しそっけなく答えるが、ゼオンは恥を承知でバツの悪そうな顔で助け舟を求める。

 

 ――このまま受け流して内心オロオロしているゼオンを観察するのも面白いが、オレはオレでサトシには借りがあるしな。

 

 上っ面だけではない意味のある指導で、なおかつサトシ達を追い込むような体罰的な手段を避け、現状のデュフォー達がすべきこと、ロードマップに適した方法とは何か、デュフォーはアンサートーカーにその問いを投げかける。

 

「デュフォー?」

 

 微動だにせず何の反応も見せないデュフォーにゼオンが訝しむ。算出された意外な『答え』にしばし逡巡(しゅんじゅん)したデュフォーは、ゼオンの横を通り抜け、身構えるサトシ達の前まで歩んだ。

 

「サトシ、この戦いはここまでだ」

 

「ええっ」

 

 消化不良の状態で一方的に勝負を打ち切るデュフォーに対し、サトシとゼオンが共に唖然とする。

 両者の反応に構う事無く、デュフォーはピカチュウの前までやってくると目線が同じくらいになるように膝を落とす。

 

「ピー?」

 

「ピカチュウ、お前は他の同種と比べて高い潜在能力を秘めているな。

 力が解放された際には電撃の威力が通常時と比べて数倍にも増し、更に力が増した時は本来電撃が通用しない相手にも通用する副次的な効果も付与される。

 だが現時点では意図的にその力は出せず、限定的な状況でしか発揮されていない」

 

「あ、当たってるよ……」

 

 本来知るはずもないピカチュウの情報をズバズバと言い当てられ、サトシはデュフォーの洞察力に感心するよりも薄気味悪さすら感じさせられる。

 あまり聡い方ではないサトシであったが、デュフォーが通常の人間の域を超える力を持っている事に勘付き始めていた。

 

「今は常にその力を出す必要は無いが、どうしても出したいと願った時は狙って出せるようにしておくべきだ。

 その指導は後の『本番』で教える。ついでにサトシへのアドバイスもその時に行うつもりだ」

 

「「本番」ってなに?」

 

「お前が言っていた、来月開かれるポケモンリーグでの大会でオレ達と戦う時にだ」

 

「ああ、カントー地方の今度の大会のことだね!」

 

「なんだ、そのことか……」

 

 友達と遊ぶ約束をするテンションで言ってのけるデュフォーに、サトシとゼオンが納得しかける。

 

「ええっ? デュフォーがポケモンリーグに出るの!? どうして?」

 

「お前何を言っている!?」

 

 が、すぐに我が耳を疑い問いただす2人に対して、デュフォーは腕の中で呑気にくつろいでいるモンメンの体をなでながら答えた。

 

「お前達、察しが悪いな。なぜならオレも今からポケモンマスターをめざすからだ」

 

「!?」

 

 ゼオン・ベルという魔物の子にとって、デュフォーは紛れもなく良きパートナーである。

 それは間違いないのだが、それと同時に彼の言動に振り回される事は何度かあった。

 人間界でデュフォーが勝負のついた相手に最大呪文の『ジガディラス』を至近距離から放とうとした時などは、さすがのゼオンも慌てて止めたものだ。

 そして、デュフォーの突拍子もない発言を聞かされたゼオンの気分はあの時と同じであった。

 

「急に何を言い出すデュフォー! オレ達は元の世界に戻る方法を最優先で探すべきだろう?」

 

「元の世界にはもちろん戻るつもりだ。だが急いではいない。逆にゼオンは何を焦っている?」

 

 聞き返され、ゼオンは思わず「はぁ!?」と漏らしてしまう。

 

「何をって……それはさっきも言っただろう!? それに王になった時の『特権』を悪用する奴がいた時への備えだって必要だ。ガッシュはまだまだ発展途上でマントすら使えないんだぞ!?

 というかガッシュはともかく清磨は今まで一体何をしていたんだ! マントの効用に気付かないとは全く……」

 

 勢いに任せてゼオンは言いたい事を遠慮なく吐き出す。

 途中で被害者のはずの清磨に当たり散らしてたが、本人に直接言ったわけではないので勝手にセーフ扱いにさせられた。

 事情を知らないサトシは何が何だかわからないといった様子で、その隣でデュフォーは無表情のままゼオンの話に耳を傾ける。

 

「お前の言いたい事はわかる。オレ達がやってしまった事への謝罪、後始末、そして後への備えをしたいのだろう。

 オレも同じ気持ちではあるが、そもそもオレ達はあの世界で負けたんだ」

 

 感情的になって興奮していたゼオンに、デュフォーの一言が突き刺さる。

 デュフォーの声色は駄々をこねる子供を説得する様だったが、まさに今その通りなのだろう。

 

 ファウードでのガッシュとの勝負は、実力では完全にゼオンが勝っていた。幾度となく仕留めるチャンスもあった。だがバオウに固執して敗れたのは紛れもない事実だ。

 元の世界に戻る事を願ったとしても、敗者が王を決める戦いに干渉する事を期待するべきではないとデュフォーは言いたいのだろう。

 

 しかしゼオンもそう言われて簡単にはいそうですか、と割り切れない。何も言い返せず上目遣いで見返すしかなかった。

 

「ファウードの件に関しては清磨達が何とかしてくれる事を願うしかない。今はまだ俺達より力で劣るとはいえあいつらはやる奴だ」

 

 よくよく落ち着いて考えればゼオンも、ファウードに関して深刻な心配はしていなかった。

 バオウを食らう直前に、咄嗟にファウードの鍵が破壊されないように、デュフォーを包んだマントに忍ばせていたはずだ。

 デュフォーが無事という事は、鍵が損傷している可能性はかなり低い。鍵さえ無事なら清磨なら如才なくやるだろう。

 ゼオンが少し冷静さを取り戻してきたところで、それを待っていたかのようにデュフォーが言葉を続ける。

 

「残念だが戻る方法は簡単には見つからない。まずはこの世界で知識と力をひたすら手にするところからだ。

 ポケモンマスターになることが戻るための必須条件ではないが、この件はオレに一任された以上、お前にも付き合ってもらう」

 

 デュフォーの選択はただサトシの面倒を見るだけではなく、もっと大局的な理由があるのだろう。

 正直まだ不透明な部分はあるが、デュフォーの頭脳と判断力を一番認めているのは他でもないゼオンだ。

 

 パートナーである己が信じられなくてどうしろというのだ――と自分にいい聞かせ決意する。

 

「いいだろう、オレもそれを見届けてやる――ん? 来月の大会ってエントリーはいつまでと言ってたか?」

 

「来週だったはずだけど……」

 

 ゼオンとサトシは今一度お互いを見合わせた後、信じられないようなものを見る表情で同時にデュフォーに振り向く。

 

「正確には172時間後。つまり今から7日でオレはカントー地方のジムチャレンジを制覇する」

 

 




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