ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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20話:決勝戦-① 交代

 

 

『20日間に渡り白熱した今大会も、残りはあと1試合のみとなりました!

 間もなく始まる決勝戦まで、本日のハイライトを紹介します!』

 

 満席のアリーナにニシの快活な実況が鳴り響くと、バックスクリーンにダイジェストの映像が次々と表示されていく。

 

『まずは本戦1回戦敗退者の8名で一昨日から行われていた9位,10位決定戦。

 マサラタウンのシゲル選手が、ヒロシ選手を下し9位入賞となりました』

 

『シゲル選手は1回戦でアマネ選手に完敗していましたが、その悔しさを引きずることのない見事な戦いぶりでしたね。

 シゲル、ヒロシ両選手共に将来有望な若武者と言えるでしょう』

 

 ニシの実況に合いの手を入れるのは今日の解説を務める四天王、シバだ。

 

『続いて5位決定戦は、2回戦を敗退したトレーナー達で行われました。

 消耗したパーティでの総力戦で5位を勝ち取ったのは、ニビシティのサユリ選手でした』

 

『フルバトルに敗れ去り、皆の戦力が不十分な中での奮闘が見られましたね。

 サトシ選手はエントリーが8体だけで、控え層が薄かったのが悔やまれます』

 

『つい先程行われた3位決定戦は、アマネ選手がセセリ選手を退け勝利しました』

 

『セセリ選手は調子が悪かったのか、気持ちが切れていたのか今ひとつでしたね』

 

 ニシとシバが一通りの解説を終えたところでバックスクリーンが消灯する。

 BGMも鳴り止み、観客達も()()()の訪れを察し自然と静まり返った。

 

『お待たせしました。これより決勝戦が始まります。

 友の屍を超え、ライバルを穿ち、1022名の敗者の思いを背負いここに両雄が並ぶ!

 赤コーナー、デュフォー選手! 緑コーナー、ユウジ選手!』

 

 拍手の雨に迎えられ、精悍な顔立ちの成人男性とデュフォーがフィールドに入場し相対する。

 

「デュフォー選手、君との勝負を楽しみにしていた」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 最低限の挨拶だけを済ませ、2人は臨戦態勢に入る。

 一目で互いが互いを今大会一の強者と認識するが、己の勝利への自負は揺るがない。

 

『デュフォー選手はトレーナー歴1ヶ月強の新人ながら、ここまで一匹もポケモンを失わないパーフェクトプレイを貫いています!

 一方のユウジ選手も、オレンジ諸島最強の招待選手枠に恥じぬ強さで勝ち上がりました。

 シバ殿から見て決勝戦はどのような展開になりそうでしょうか?』

 

『そうですね……。お互い、強力なエースをどう運用するかが勝負の決め手になるでしょう。

 デュフォー選手はゼオン・ベル、ユウジ選手はカイリューというエースを有しています』

 

 皆、デュフォーの先発ポケモンに注目する。この試合の要点はただ一つしかない。

 今まで通りゼオンを最初に出すか、最後に温存するか。その答えは――

 

「行け、ゼオン」

「頼んだぞ、エレキブル!」

 

 前者であった。観客達はモンスターボールより出づるゼオンの姿に大いに盛り上がる。

 だが当のゼオンは、対峙する虎模様のらいでんポケモンを訝しんでいた。

 

「エレキブル……? ユウジの一軍はエレブーだったはずだが」

 

『なんと、ユウジ選手この決勝戦に備えてエレブーを進化させていたようだ!

 今まで使用していたエレブーと同一個体である事は運営側で確認済です!』

 

 デュフォーは答えを出す者(アンサ・トーカー)の力でこの先発の意図を見抜く。

 しかしそれをゼオンに共有はしない。

 可能な限りゼオン単独の力で戦うという、当初からの縛りを互いに遵守しようとしていた。

 

『試合開始!』

 

「エレキブル、"きあいパンチ"!」

 

 先手でユウジの指示を受けたエレキブルの全身に、生命エネルギーが充足していく。

 

(なかなか強大なエネルギーだが、力の維持には集中が必要なようだな)

 

「黙って見てるほどお人好しではないぞ。"でんげきは"!」

 

 ゼオンはいち早くわざの特性に気付き、即座に電撃をエレキブルに打ち込む。

 通常であれば、それは"きあいパンチ"の発動を阻止できる文句なしの正着手である。

 

 しかし経験と知識不足が祟り、ゼオンの高い瞬発性が裏目に出てしまう。

 電撃エネルギーがエレキブルを削るどころか、逆に吸収されてしまったのだ。

 

「なんだ……?」

 

『おおっと、エレキブルの特性は電気攻撃をスピードエネルギーに変える"でんきエンジン"だ!

 ゼオン・ベルとデュフォー選手、ここにきて何故初歩的なミスを犯してしまったのか!?』

 

『彼らが優秀だからこそ、ユウジ選手の誘いに釣られてしまったのかもしれません。

 ユウジ選手は自分の主力ポケモンが徹底的に対策されていることをわかっていた。

 当然エレブーの特性が"せいでんき"であることも知られている、と』

 

『つまり……対策範囲外のエレキブルは、無警戒になると見込んだということでしょうか』

 

『ええ。進化すると特性が変わるポケモンはあまりいません。

 ポケモンの基礎パワーも増すので有効な手に思われます』

 

 シバの考察は当たっていたが、気付いたときにはもう手遅れだ。

 エネルギーを充填し終えたエレキブルが、でんきエンジンによる加速を経て突撃する。

 

(なかなか速い。受け流したりこうそくいどうで避けてもいいが、リスクが大きいか)

 

 ゼオンはすぐに回避を諦め、顔面へ飛んできた右拳をマントで防御する。

 マント越しに伝わる衝突音と衝撃波が、それまでの対戦相手と一線を画す強さを物語る。

 

(進化したばかりだからか、身体の動かし方にぎこちなさを感じる。

 攻撃の動きは読みやすいから防ぐことは可能だが……)

 

「エレキブル、"クロスチョップ"!」

 

「"マッハパンチ"」

 

 頭上からの手刀打ちをマントで防ぎ、カウンターのパンチを鳩尾へとのめり込ませる。

 

「エレキブル、耐えろ! "がんせきふうじ"だ!」

 

「グルルル……!」

 

 表情に苦悶を浮かべ後退りながらも、エレキブルはユウジの指示に即応し岩石を発射する。

 

(オレの攻撃をまともに受けて、痛みを堪えつつ更にカウンターを打てるのか。

 ユウジってやつ、ポケモンにとんでもない仕込み方をしているな)

 

 周囲全方法から襲いかかる岩石も、全身をマントで覆い隠すことで対応する。

 めまぐるしい接近戦の応酬。それはユウジが描いていた局面の終着地でもあった。

 

「今だ、"じしん"!」

 

「こいつ、じめんわざも使えるのか!? チッ……」

 

 フィールドから振動と地面エネルギーがうねりをあげゼオンへ襲いかかる。

 がんせきふうじのダメージこそ防いだものの、移動力は削がれてしまった。

 今の機動力では回避不能と判断し、ゼオンは反射的に"でんきショック"を地へと放つ。

 炸裂音の直後、煙と電撃の閃光でユウジの視界が霞むがそれでも手応えは確かに感じていた。

 

「身動きが取れていないようだな。エレキブル、もう一度"きあいパンチだ"!」

 

 煙硝の中、ゼオンが居た位置に留まる物体を薄っすらと視認し、ユウジはダメ押しを試みる。

 エレキブルが再び精神を集中させるが、今度はゼオンが絵図面を引く番だった。

 

「同じ手は食わん! "かわらわり"!」

 

「グルオ!」

 

 突如空より舞い降りたゼオンの手刀がエレキブルの脳天に直撃する。

 きあいパンチの集中で防御力が落ちている状態で不意打ちを受けたことで、一撃で気絶へと追い込まれた。

 

「エレキブル! ……失神してるな。見事な不意打ちだ。しかし一体どうやって?」

 

『なんとゼオン・ベルが上から降ってきた! ではあそこにいるのは……』

 

 煙が完全に消失し、視界がクリアになったところで皆はそのカラクリを理解する。

 ゼオンが居た位置にいた物体は、切り離され抜け殻となったマントだった。

 度重なる衝撃を受け、ゼオンからのエネルギー供給が途切れたマントはその維持力の限界を迎え、その場で跡形もなく消滅する。

 マントの完全回復には半日以上を要する。既にこの戦いでは封じられたと言って良い。

 

「マントを囮にしたか。確かにエレキブルは失ったが、報酬は受け取ったよ」

 

 エレキブルを労いボールに戻すユウジの言葉は決して強がりではない。

 ゼオンもそれをわかっているから、決して緊張を緩めない。

 

『ゼオン・ベル、これで31連勝! しかしこの先、簡単にはいかないでしょう!

 アマネ選手ですら3体を要したゼオン・ベルの鉄壁マント攻略!

 ユウジ選手はたった1体でやってのけたのです。今までの相手とは次元が違う!

 残り5体の精鋭達が今襲いかかる!』

 

 観客席では、昨日デュフォーにユウジを語ったアマネが険しい表情を浮かべている。

 

(私よりもユウジ選手の方が相性的に戦いやすいと思っていたけど、全然読みが甘かった。

 想定していたより一回り強い! おそらく準決勝まで8割程度の力で流していたのでしょう。

 一対一の殴り合いだけではなく、ユウジ選手本人の戦術理解度も深い。

 ランクも291位となっているけど、実際はもう少し上でしょうね……) 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ニシの予想とアマネの懸念は現実となり、ゼオンは今大会で初の苦戦を強いられることになる。

 たった今手を下し倒れたフシギバナを見下ろすその表情も精彩を欠いている。

 

『なんということでしょう! ゼオン・ベル、とうとう前人未到の35匹抜きをやってのけた!

 今一度その勝利の梗概(こうがい)をお伝えしましょう!

 

 1戦目はエレキブルとのインファイトによりマントを失いながらも、奇襲を成功させました!

 

 2戦目ゼオン・ベルの能力をコピーしたメタモンからスタミナ度外視の猛攻を受けました。

 しかし戦闘技術まではコピーできないことを見抜き、持ち得た技術で見事撃破!

 

 3戦目はハガネールの"じしん"直撃を驚異的なスタミナで耐えきり、紫電で粉砕!

 

 4戦目はゲンガーを早めに撃破できたものの、"きあいのタスキ"によって一撃を耐えられ意趣返しの奇襲を受けてしまう!

 

 5戦目はフシギバナの広範囲"ハードプラント"を"ほうでん"でしのぎ切りかろうじて勝利!

 

 クリティカルヒットこそ避けたものの、各勝負で各々の攻撃を喰らい続けてしまう!

 準決勝まで全ての敵を無慈悲にねじ伏せてきたゼオン・ベルが苦悶の表情を晒している!

 しかし、倒れません! マント無しでも十分すぎる防御と体力、精神力だ!

 私、中立の立場でありながら思わず肩入れしてしまいそうです!』

 

『これはリップサービスではなく、我々四天王も真剣に考えなくてはいけませんね。

 近い将来、戦うことになるかもしれないゼオン・ベル対策を……』

 

 ニシとシバの明らかなゼオン寄りの称賛を観客達も理解している。

 圧倒的強者のゼオンが、無様に崩れ落ちる姿を見たいと願っている者もいるだろう。

 しかしここまで懸命に戦われては、軽々しく負けろとヤジを飛ばすわけにもいかない。

 敵対しているユウジですら、その奮闘ぶりには胸に来るものがあった。

 

「こちらも嬲り殺したいわけではないのだがな……。

 カイリュー、ゼオン()を早く楽にしてやれ」

 

 ユウジは首元にぶら下げているボールに手をかけ、中のポケモンを繰り出す。

 それがさも特別な儀式であるかのように、会場の皆が注目していた。

 山吹色の胴体をした巨大な竜がゼオンと相対し、人々の興奮と歓声は極限に達する。

 天地が震える程の盛り上がりの中、ゼオンは憔悴しながらも冷静に分析をしていた。

 

(ミュウツーの様な規格外の化け物ではないが……それでも今までの相手とはレベルが違う。

 強敵たちとの戦いを繰り広げ練磨された強さ。魔界のドラゴン族に似た圧力を感じる)

 

「戻れゼオン」

 

「……ああ、従おう」

 

 ぜひ戦ってみたい。

 そのゼオンの思いと真逆の指示が背後から飛び、ゼオンは二つ返事で応じる。

 一瞬の静寂。デュフォーの発言が理解できずに皆が硬直していた。

 静寂はすぐに困惑と喧騒へと変わり、デュフォーと横で待機するゼオンへ向けられる。

 

「なんでここまで来て逃げるんだよ! カイリューとの戦いを見せてくれー!」

 

「36連勝を見せてくれよ!」

 

「2回戦であれだけイキりちらかしてたのにそりゃ無いぜ!」

 

 カイリューとの戦いを切望して好き放題言うギャラリーの言い分もわかる。

 しかし、ユウジを含む一部の強者達はこの選択に合理性を理解していた。

 ゼオンがどれほどの強者といえど、ここまで満身創痍の状態ではカイリューには勝てない。

 ならば控えに戻して少しでも身体を休めるべきだ。

 そして温存した残り5体でカイリューを削り弱らせ、ゼオンと一騎打ちするのがベストである。

 

「行け、ドンカラス(オカシラ)

 

 モンスターボールから現れたオカシラを見て、デュフォーの交代指示が本気であることを察し会場の()がにわかに冷めていく。

 デュフォーの戦術を理解している者達にしても同様だ。

 やはりゼオンとカイリューの勝負を見たいという原始的な欲求には逆らえない。

 

『な、なんと……ここまで連戦を続けていたゼオンが初めて戻った!

 選手は3回まで手持ちの入れ替えが可能なので、ルール上は問題ありません!』

 

『確かドンカラスは予選で一度戦っていますね。

 ということは、ブースター、モンメンとこのまま継投していくつもりでしょうか』

 

「カイリュー、このまま行けば最後に必ずゼオン・ベルと戦うことになる。

 それまで体力のペース配分に気をつけて戦うんだ」

 

 シバ,ユウジ,観戦していたサトシですらもオカシラがただの()()()であることを疑わない。

 事実、1回戦で一度だけ披露したドンカラスの戦いは、今一つどうにもピリッとしなかったのだから、無理もない。

 そうは思っていない当事者達が、腹に一物抱えた様子で不敵に笑い合う。

 

『お膳立てご苦労だゼオン(ガキ)。最後に美味しいとこもらうぜ』

 

『オレの代わりを務めるんだ。負けたら承知せんぞ』

 

 

 

 

 




決勝戦長くなったので一旦話分けました。
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