デュフォーとゼオンがポケモンの世界に行ったら、という話と同じく昔から頭の中に構想としてあったものです。
22話:ニューアイランドへ
『よくやった。あのカイリューに1対1で勝ったという実績は大きい』
『さすが、デュフォーに脳みそを不意打ちで弄られて悲鳴一つあげなかっただけはある。
我慢強さはオレ以上だな』
カイリューとの激闘を手放しで称賛する
それを聞いた
『ケーッ。いいところだったのに、"僕ちゃん殺し合いしたくないです"って言われちまったよ。甘ちゃんにまんまと逃げられちまったぜ』
『不満か?』
デュフォーが問うと、
だろうな。あのカイリューを一番認めているのは他ならぬこいつだろう。
何より、
甘いのはお互い様だったというわけだ。
――優勝を決めた後の控室での雑談も
観客達の拍手に迎えられ、他の選手と共に日が暮れてすっかり暗くなった会場内へと入場する。
本来ならこの場で参加記念のメモリアルプレートが1人ずつに渡されるはずなのだが、今回は電子データのエムブレムとして各選手のアカウントに付与されることとなった。
正直な話、千人を超えるトレーナーに手渡しするのを待たされるのは苦痛だ。
この判断はありがたい。
すぐに上位入賞者の表彰式が始まり、TOP3のアマネ、ユウジ、デュフォーが表彰台の上で皆からの喝采を受ける。
デュフォーはいつも通りの無表情ではあったが、手はしっかりと皆ヘ向けて振っている。
推薦で招待された手前、さすがに直立不動はマズいと思ったのだろう。
お前が気を使っているところを見るのは、シュールでなかなか面白いな。
「そして、今大会のMVPポケモンは――デュフォー選手のゼオン・ベルに決定しました!」
などと呑気にくつろいでいたオレの名が唐突に呼ばれ、我に返る。
皆の視線,意識が一手にオレへと集まっていた。直後、拍手と喝采の雨が降り注ぐ。
強きことは義務であった。勝ち続けることは畏怖の対象であった。
大会の最中、勝った時に称賛を送られた時は何も感じなかった。
しかし今は違う。この場にいる何万という人間の祝福と礼賛の感情が全てオレへと集中している。
「ッッ……」
なんだ、この気持ちは? 生まれて初めての感覚だ。
まるでファウードの回復液を10倍に濃縮したモノに浸かっているような――
極上のフルコースを全て一口で味わったような――
満身創痍の身体を癒やす、甘美と多幸の雨に痺れ呆けるオレの肩にデュフォーの手が置かれる。
「ゼオン、それは誰かに褒められたかったお前の承認欲求からなるものだ。
その感情を持ち得ていないオレが言うのもなんだが、そいつは決して恥すべきモノではない。むしろ誇りをもって皆の思いを受けてやれ」
そうか――オレは王になれずとも父王、家族、弟にただ認められれば良かったというのか?
元の世界では味わえなかったが、十分に今オレは満たされている。
ああ、なんて眩い……
◆◆◆◆◆
「ゼオン――ゼオン!」
「……むっ」
が、寝姿を見られたことで顔を覗き込むオレからバツが悪そうに目を逸らす。
「もう目的地に到着するぞ。お前が無防備に居眠りをするとは珍しい」
「……この前の大会で表彰された時の夢を見返していた。オレもまだまだ弛んでるな」
この前の大会で10位以内に入賞したオレ達の元に届いた差出人不明のメール。
1週間ぶりに再会したメンツでその文面に記載されていた孤島、『ニューアイランド』へと向かう船の中だ。
ソファの上でうたた寝し、苦笑いを浮かべるゼオンへ隣からやかましい声が飛んでくる。
「何を言ってるんですかゼオン! あなたはこの前の大会であれだけの活躍をしたのですからそれくらい当然ですって!」
「な、なんだアマネ。藪から棒に……」
急にグイグイ迫られ思わずたじろぐゼオンであったが、アマネは自分の事のように嬉しそうに言葉を続ける。
「いやいや、あの表彰式で『デュフォー君が初日以外に治療行為を行わなかった』って驚愕の速報が流れたじゃないですか!
つまりゼオンは文字通り一度も回復をしないで、35匹抜きをやってのけたのでしょう?
浮かれるのも当たり前だし、疲れだって溜まりますよ」
まるで自分がゼオンのトレーナーになったかのように褒めちぎるアマネに、ゼオンは照れながら困惑していていた。面白い光景だからスマホロトムで撮影しておくか。
オレ達がいる隣のソファではサトシがヒロシと隣り合って座り、スマホロトムに表示された件のメールを今一度改めている。
「最強のポケモントレーナーの『マスター』って、どれくらい強いんだろう……」
自称"最強"ほど眉唾な話はない。
そもそも今のこの世界で己の最強を証明したければ、ランクシステムに参加して勝ち続ければいいだけの話だ。
ネットワークが普及したことで、口先だけの人間は言い訳する要素を失ってしまったといえる。
それでもオレ達がこの胡散臭い招待にあえて乗ったのは――
「リーグ運営側が依頼するくらいですから、ただのイタズラや口だけの"名人様"*1というオチはないでしょう」
アマネの言う通り、タマランゼ会長から頭を下げられ調査を頼まれたからに他ならない。
会長曰く、ニューアイランドは3週間ほど前から生命検知システムなどの反応が一切見られなくなったとのことらしい。
『マスター』と名乗るものがネット上に声明を出し始めたのも、ちょうど同時期。
数名の動画配信者や腕自慢が物見遊山で島に乗り込んだが、皆音信不通になったとのこと。
本来はこういった案件はリーグ運営サイドが動くべきなのだが、
カンナ:2週間前から音信不通
シバ:カンナの仕事を引き継ぎ対応中
キクコ:ポケモンリーグの事後処理対応中
カリン:ロケット団の調査中
という有り様で四天王も手一杯。
調度いいタイミングで『マスター』から招待を受けたオレ達に、白羽の矢が立ったというわけだ。
「しかし戦力的な不安は然程ありませんね!
私とセセリさんは全国区でも通用するレベルで、他の皆さんもなかなかの力量をお持ちです。
それにユウジさんにデュフォー君という切り札もありますし!」
サラリ、と現時点での力量関係をアマネがぶちまける。
まあ大雑把には間違っていないが、相変わらず周囲に配慮をしない女だ。
サトシとヒロシは特に反応を示さなかったが、向かいの席に座っていたシゲルが愛想笑いを浮かべながら咳払いをする。明らかにアマネの格付けが面白く無さそうだ。
「アマネさん、ボクがあなたより
しかしサトシ君と
「えっ? シゲル君はサトシ君とどっこいですよ。
確かに安定性で言えばシゲル君の方が上ですが、それでも私クラスから見ればミスが多すぎます。
私との試合でも、先発のニドキングに起点作成技を仕込んでおかなかった事、
2分経過時点でウィンディに反動技の"とっしん"を指示して体力管理に支障を及ぼした事、
3分40秒経過時点でカメールへの"みずのはどう"の指示が1秒遅かった事――
改善点が多すぎて挙げきれません」
怒涛の反撃が不意に飛んできたことで、シゲルは言い返すこともできず呆然としてしまう。
そしてその指摘も一々真っ当なもので、時間を与えたところで反論も無理だろう。
プライドを一方的にズタボロにされ、哀れシゲル。
諦めてアマネから視線を逸らし、話題に上っていた向かい側の幼馴染へ声をかける。
「サトシ、前は僕と同列に扱われてたらムキになってたのに今は何も言わないんだな」
「なんていうか……どっちが強かったとしても、結局デュフォーには手も足も出ないわけだよな。
そう思ったら、なんかそこで張り合うのが虚しくなっちゃってさ」
「ハハハ、ボクはサトシにもシゲルにも勝てなかったら何も言えないよ」
「あの勝ち負けはあまり関係無いって。ヒロシとのバトルはどっちが勝ってもおかしく無かったし」
更にサトシ達からも予想外の張り合いのない返答をされ、シゲルは面白く無さそうに押し黙る。
こいつはどうやらサトシに強い対抗心を燃やしているようだ。
確かにトレーナーとしてそれなりの才気はありそうだが、伸びしろはサトシの方が上だぞ。こればかりは才能だからどうしようもない。
その代わり、学術や研究方面はサトシが到底及ばないほどの適正がありそうだ。サトシと張り合うよりも、自分の方向性と向き合った方がこいつのためだろう。
まあそれを言うのは余計なおせっかいだろうが――
「どうやら着いたようですよ」
船の動きが止まった事を察知したセセリがアクビをしながら席から立つと、皆がそれに続く。
快活で大きなツリ目が特徴的なアマネとは対象的に、気だるそうなタレ目に気の抜けた様子の少女だ。
この前の大会ではアマネとユウジに遅れを取ったが、その実力は皆に認められているようだ。
島の内部に入ったことで、オレは即座に会長が話してた事象の原因を理解する。
島全体を覆うように高密度の瘴気が渦巻いている。この力が物理以外の干渉を拒絶しているのだろう。
不可視ゆえに"アンサートーカー"の力を持っているオレ以外は認識できないはずだが、肌を突き刺すような薄気味悪さを本能的に感じたのか皆上空を見上げ、表情をこわばらせる。
ここまでオレ達を乗せてくれた船もすぐに引き換えしてしまったが、賢明な判断だな。
「おいデュフォー、この力は……」
「ああ、
島の中央に位置する巨大な孤城から、その瘴気の源となる波動が伝わってくる。
ゼオンもやはり気付いているな。この力には見覚えがある。
これ程広範囲で力を展延できる実力を持つ者は1体しか記憶に無い。
もしも奴が入念な準備をした上でこの居城にて待ち受けているとすれば、無策で進むわけにはいかん。
「ゼオン、オレ達の他に生体反応は感じられるか?」
「……いくつかの人間らしき反応が城の中からあるが、意識レベルが常人のそれではないな。
ポケモンの反応はあいつ1体だけだ」
今回、この島へ招待されたのは全部で10人。この場にいるオレ達を除く4人は第一便で先に前乗りしているはずだ。
彼ら全員が昼間から眠っているか、意識が無い状態なのか――
事態はあまり芳しく無い方向に向かっているな。
それにゼオンの感知はモンスターボールの中までは及ばない。ポケモンへの感知は気休めみたいなものだ。
「お待ちしておりました。私はこの城の主、『マスター』にお仕えしている『ケイ』と申します。招待状はお持ちでしょうか」
城の入口までたどり着いたところで、黒いローブを纏う妙齢の女がオレ達を出迎える。
敵意は感じられないが、生気も感じられない沈んだ瞳と表情だ。
容姿は中々端正で、タケシの奴がこの場にいたら色めき立って喜んでいただろうに。
「これでいいかな?」
サトシが見せたメールの画面を確認し、女は己のスマホロトムで何らかの認証を行った後、城の扉を開放しオレ達を迎え入れる。
「どうぞお入りください。先発の4名様は数時間前に到着しております」
薄暗い城の中を進みながら、オレはこの後に起こるであろう事態に備えて逡巡をめぐらせる。
オレの独断で動くよりも、他者と連携を取った方が良い。
だが戦略理解度の低い人間をいたずらに巻き込んでも、混乱して互いの迷惑になる。
この場にいるトレーナーの中で一番判断力と統率力に優れる者は――あいつだな。
案内人の女に聞こえぬよう、オレは小さな声でそいつへ耳打ちした。
◆◆◆◆◆◆
ではないです。
ランクも名前も明かさない者の誘いに乗るほど、私も暇じゃないです。
目的はリーグ運営側に貸しとコネを作ること、そしてデュフォー君とゼオンですね。
彼らの強さには興味がありますし、戦略眼は学ぶべきところが多々あります。
先程デュフォー君から持ちかけられた内緒話は、正直意味がよくわからなかったですけど……
ああ、強者に興味や憧れが全く無いわけではないですよ?
デュフォー君のケースがある以上、今まで世に出なかった傑物がいる可能性は否定できません。
それにこの世界には伝説と呼ばれる、一般のポケモンとは次元の違う強さを持ったポケモンがいます。
このメールの招待主が、何らかの伝説ポケモンをたまたま手に入れてその強さを誇示したがっているのかもしれません。
「皆様、中央のメインホールへ到着いたしました。どうぞ中へお入りください」
暗くて気味の悪い通路を進むのもようやく終わりですか。
それにしてもこの案内人のケイさん。どこかで見た気がします。
こんなにキレイな人、一度見たら忘れない気がするんですけどねー。
「うわーすごく広いんだね!」
「こんな大きな城を所有できるなんて、一体どんな人なんだろう!」
「それより……前乗りした4人がここにはいないみたいだが?」
ホールの中へ入るやいなや、サトシ君とヒロシ君は年相応に無邪気にはしゃいでます。
その横でシゲル君が私と同じ疑問に辿り着いてました。可愛気ないけど利口ですね。
各自荷物を置き、果物と紅茶が用意された黄金色のテーブルに着いたところで、ホール内の照明が落ちました。
せっかく明るくなったのにまた暗くなるんですか? 面倒ですね……
などと呑気に考えていると、ホール奥にそびえ立っている吹き抜けの長い長い螺旋階段の中がぼんやりと輝き出しました。
「既に他の方々は御主人様との
ご来訪いただいたばかりで大した接客もできず申し訳ありませんが、これより主である『マスター』が降臨されます」
ケイさんの呟きと同時に。私の全身に得体の知れないプレッシャーが走る。
これは――恐怖? 本能による警告? まさか本当に伝説のポケモンがいると?
しかし、いざとなればデュフォー君がいる。私とセセリさんがサポートすれば心配はいらない。
そう呑気に構えていた私の考えは――
「この方は最強のポケモンにして、最強のポケモントレーナーである『ミュウツー』様です」
空から音もなく舞い降りるポケモン(?)を見た瞬間、大きな誤りでは無いのかと思い知らされました。
無機質な中に静かな怒りの炎を宿したその双眸と視線が合い、その疑惑は確信に変わりました。
後から知ったのですが、私の隣ではゼオンが微笑みながら武者震いをしていたようです。
勿論今の私は気付く余裕など微塵も無かったのですが……。
昔から書きたかったミュウツー編に突入しましたが、なかなかどうしてシリアスな空気になりそうです
次回更新は最新話ではなく設定集投下予定です