ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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映画「ミュウツーの逆襲」を視聴してなくてもなるべく楽しめるようには執筆したつもりです。
よろしくお願いします。


23話:ミュウツーとアイツー

 

 

 遺伝子操作――それは人が神の領域に踏み入れた禁忌の領域。

 4年という限られた寿命。生命維持装置が備え付けられた試験管の中でのみ許された生存。

 限定条件の下ではあるが、人類はポケモンのクローン(コピー)を生み出す事に成功していた。

 

「アイ……待っていろ。もう少しでアイを蘇らせられる」

 

 人の夢と欲望に果てはない。

 ある研究者の対象はポケモンから人へ、幼くして事故死した愛娘へと向けられた。

 娘をこの世に再構築する。その一心は男を研究者としての頂きへと登らせる。

 

「ポケモンと同じところまでクローニングはできているんだ。

 あとは寿命……強い生命力さえ手に入れられれば!」

 

 人道に、倫理に背く研究はいくらでも続けた。愛想を尽かした妻が去ろうとも。

 永遠の生命力があるとされるミュウの遺伝子を研究するため、ロケット団と名乗る反社会的組織と手を組むことも(いと)わなかった。

 娘さえ取り戻せるなら、男は何でもするだろう。

 

「ミュウツー、お前の最強の遺伝情報をヒトへ移すことさえできれば!」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「わたしは"アイ"からコピーされた"アイツー"。あなたは"ミュウ"から作られた"ミュウツー"」

 

 「私」がまだ僕と名乗っていた幼少期の頃、世界は確かにパラダイスだった。

 アイの記憶の範囲でのみ構成された電子空間、そこで私は"家族"と暮らしていた。

 

「ダネ!」

「カゲー」

「ゼニ!」

 

 ヒトカゲツー、ゼニガメツー、フシギダネツー、そしてアイツー。

 4匹のポケモンと1人の少女をコピーした思念体。

 たった5体しか存在しない、アイが生前住んでいた街を模した半径1km程度の狭い仮想現実の世界。

 それでもこの世界は私にとって完成されていた。

 ただ、皆といつまでも楽しく過ごせればそれでよかった。

 

 ――ヒトカゲツーの生命反応低下、消滅していきます。

 

 皆と生まれ生活し、1年程が経った頃か。突如見知らぬ声が脳内に響いた気がした。

 と同時に美しい月夜の景色を背景に、家族の一匹の姿が揺らぎ始めた。

 

「カゲ……」

 

 悲しげな表情を浮かべ、消えるヒトカゲツー。

 

 ――ゼニガメツー、フシギダネツーも消滅してきます。

 

 ――やはり今回も失敗か。

 

 死神が予告する声と共に、次々と消えゆく仲間たち。そして――

 

「何だかお別れが近づいたみたい」

 

 アイツーの姿が光の粒子となり消えゆく時、私の眼から何かが頬を伝い流れていた。

 

()()を流すのは人間だけなんだって。ありがとう、あなたの涙……」

 

 ――アイツー、消滅しました。……ミュウツーの脳波が乱れています!

 

 ――安定剤を投入しろ! もう他のコピーとは仮想空間で会わせない方がいいな。

 

 この日私は死別,孤独,涙を学習し、そして家族達の記憶と思い出を残したまま長い年月の眠りについた。

 ミュウより引き継いだ最高峰の遺伝子、そしてニンゲンから施された最新鋭の自動学習機能により開花した知能で私は自問し続けた。

 

 私は誰だ? 何のために生まれてきた? 

 私はヒトか、ポケモンか?

 時折見る夢に出てくる、私に似た生物は何者だ?

 

 ある日()()した私は試験管の中から目覚め、その場に居た科学者のニンゲン達から私が生まれた経緯を教えられた。

 ほぼ全ての疑問は解消された。ただ一つを除いて――

 

『奪うなら、何故私に家族を与えた!?』

 

 私が収納されていた試験管の周囲には、同サイズの試験管が4つ。それらの中は、何かがいた形跡があるだけで空っぽだった。

 ニンゲン達の口から聞かされ知ったのは、私が眠っている間に何世代もこの中で家族達が生み出され、まるで使い捨ての様に朽ちていったこと。

 いや、アイツー達の命はまさに使い捨ての実験台そのものだった。

 悪びれる様子も無く饒舌に実験結果を語るニンゲン達を前に、私の怒りは頂点に達した。

 

『お前たちは私達を……生物を何だと思っている!』

 

 気付けば私は衝動のままに己の力を解放していた。

 

「うわああっ! なんだこの力は!? ミュウのエネルギーを完全に凌駕している!」

「ひいっ、助けて!」

「アイ、お前を生き返らせるまでは私はまだ……!」

 

 そこに明確な殺意は無かったが、放たれたエネルギーの波動でその場にいたニンゲン達は息絶えてしまったようだ。

 申し訳ないとは思わなかった。むしろその一瞬だけは少し気が晴れた気がした。

 その代わり、"このようなか弱い生き物が、何故この星を支配しているのか?"という新たな疑問だけが残った。

 

 フジ博士という責任者が所有していたパソコンに損傷が無かったため、私はそこから全てのデータを抜き出し、彼らの研究情報とフジ博士の目的を知った。

 その後、しばらくはサカキと名乗るニンゲンの口車に乗せられ共闘していた(我が人生の汚点であった)。

 が、結局はニンゲンの醜さ、傲慢さ、浅ましさを再認識させられるだけだった。

 身勝手な目的で私達の命を弄んだニンゲン達に対してはキッチリと復讐をする。

 その気持ちは変わらないが、アイを取り戻したいというフジ博士の願い、その一点だけは同じだ。

 フジ博士――あえてお前を我が育ての親とは呼ぶまいが、その夢は叶えてやりたい。

 お前の遺志と研究を引き継ぎ、私がアイをアイツーとしてこの世に蘇らせる……。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 時は再び現代へ。

 巨大な孤城の上層階から、吹き抜けを通して舞い降りる1体の生物。

 その姿を知らぬ者は、得体の知れないプレッシャーを受け本能から警鐘を鳴らされ、反射的に警戒心を高める。

 ポケモンに至ってはもっと顕著だ。

 サトシのピカチュウは身をかがめ臨戦態勢に、レオンはヒロシの背中にしがみつき震えている。

 

「ああ……あいつは!」

「シゲル? あのミュウツーっていうポケモンを知ってるのか?」

「トキワジムにチャレンジした時に、あいつが出てきたんだ!

 僕のポケモンが3体同時に襲いかかったのに、手も足も出なかった。あいつには……誰も勝てるわけがない!」

 

 幼少期より好敵手として常に張り合い続け、弱みを見せなかったシゲルが、自分の前で恥じること無くミュウツーに怯え弱音を吐く。

 その事実はサトシにミュウツーの強大さ、恐ろしさを思い知らせるのに十分であった。

 

「ミュウツー様はニンゲンの言葉が理解できます。どうぞお話ください」

 

 ケイはそう勧めてくるが、急にそんなことを言われてもサトシ達は萎縮して言葉にならない。

 セセリは何を考えているのかわからない無表情でミュウツーを眺めているだけだ。

 デュフォーならどう出るのか? サトシがそう考え辺りを見渡すが、ホール内のどこにも見当たらない。

 

「あれ、デュフォーは?」

「デュフォー君は理由あって外しています。何故私が知っているかはノータッチで」

 

 アマネはおそらく次々に湧くであろうサトシ達の疑問が自分に飛んでこないよう遮断する。

 デュフォーがいない今、ミュウツーと話を進めるのは己の役割だと理解していた。

 へりくだれば主導権を渡される。上から目線で接すれば怒りを買うだろう。

 表面上は極力対等に振る舞わなければならない。

 

「ミュウツー、あなたが私達を招待した目的はポケモンバトルですよね。

 私達と戦ってあなたの強さを証明したい、ということで合っていますか?」

 

 『そうだ』という声が、音ではなくテレパシーとして全員の脳内に直接鳴り響く。

 

『お前達との戦いは記録され、後にオンラインで配信される。ケイとの戦いも記録した方がよかったのだが、当時そういった考えは私になかった。

 バトルを記録して世界中に公開するという案も、ケイが出してくれたものだ』

 

「んん……? ケイさんは相当お強いのですか?」

 

『彼女の元の名はカンナ。カントーの四天王だ』

 

「はっ?」

 

 皆の視線がミュウツーからケイへと一斉に映る。

 黒いローブで髪と全員が覆われ、普段かけているメガネをしておらず裸眼ではあるが、確かに顔立ちはよく見ると四天王のカンナに酷似している。

 

「カンナさん!? みんなあなたのことを探してましたよ! 四天王の職務も放棄していったいどうして……」

「皆さんに連絡を怠っていたことはお詫びします。ですが今の私はミュウツー様にお仕えするただのケイ。四天王の地位も直に返上する予定です」

 

 抑揚の無い声で淡々と語るカンナの精神状態は読み取れない。

 だが脅されて本心にない事を言わされているようには見えなかった。

 

『ケイは四天王だけありなかなか強かった。ポケモンに対する愛も本物だ。

 私はニンゲンに対しては嫌悪感しか持っていなかったが、彼女のような存在もいるのだと考えを改めさせられた。

 私に服従させてはいるが、彼女には敬意を表し肉体には傷一つつけてはいない。

 ポケモンも奪わず、過去の記憶も残している』

 

「まさか……カンナさんを洗脳したのか!?」

  

『私の力を使えばニンゲンを操ることくらい造作はない。

 物見遊山で私に挑んだ何人かのトレーナーは、手持ちのポケモンと記憶を奪い、雑務を働くコマとして使っている』

 

 シゲルの言葉に悪びれも無く言ってのけるミュウツー。ポケモンが人を従える、彼らの常識ではあってはならない話だ。

 皆が息を呑む中、サトシだけは目先の床を見つめ、ゼオンと初めて会った時のやりとりを脳裏に蘇えらせていた。

 

 "ポケモン側に高い知性を持つ個体が現れ、人を従わせようとした時、どうする?"

 

 ――ああ、あの時の問いが今現実のものになっている。

 

「そんな……ポケモンが人を操るなんて、そんなことがあってたまるか!」

「シゲル君、今は話し合いに徹底して相手を刺激しないで!

 ミュウツー、己の強さを誇示し人を従え、その先にあなたは何を求めているのですか?」

 

お前(アマネ)は多少冷静で理知的だな。私から情報をなるべく引き出そうとしているのか。

 私がトレーナーとして頂点にたった暁には、この星の支配権をヒトから奪う。

 この星には私に匹敵する力を持つ生命体が何体か存在するようだ。その者達が同調するなら、我々がこの星を管理する。

 私と敵対するようならば……』

 

「な、何を言ってるんだ……地球を管理するって」

 

 話のスケールについていけず、うわ言のようにミュウツーの言葉を復唱するヒロシ。

 思考を放棄したいのはアマネも同じ思いであった。バトルに招待されただけの、たかだか15歳の少女がこんな話に付き合う義理はない。

 しかしデュフォーを除き、今この場にいる中で筆頭の力を持つトレーナーの責務として、仲間達の安全と退路だけは確保しようと努めていた。

 

「ではこの場であなたにバトルで負けたら、我々も支配されポケモンもあなたにさしあげることになるのですか?

 先程ここに来た4人はどうなりました?」

 

『そういうことになるな。負けた後で私に逆らわないというのならポケモンはもらうが、まだ幼いお前達は解放してやろう。

 他の4人は全員私に負けた。手持ちポケモンを奪おうとしたら抵抗したため、眠らせてある。

 ユウジと名乗っていた黒髪の男とのバトルはそこそこ楽しめたな。あいつだけはケイと同様、私の側近として迎えても良さそうだ』

 

 その言葉はシゲルやヒロシに完璧な恐怖を植え付けるのに十分であった。

 遥か格上であるユウジを涼しい顔で下す存在など、もはや自分達ではどうにもならない。

 そしてそれはサトシも同様である。デュフォーと出会い、己の力と限界を思い知る事を学んだ。

 成長してしまったがゆえ、今の自分がミュウツーの足元にも及ばないと戦う前から理解させられている。

 

「こいつらには手を出すな。お前の相手はオレがしてやる」

 

 その時、初めて敵対意思を孕んだ声がミュウツーに向けられる。

 これまで様子を静観していたゼオンが放った言葉に、敵味方問わず意識が集中する。

 

『ゼオンか……お前のパートナーは私が姿をあらわすやいなや、どこかへ行ってしまったようだがいいのか?』

 

「オレだけでもかたを付けてやる。デュフォー(あいつ)がいなければ何もできないオレではない」

「ゼオン達もミュウツーを知ってるの?」

「ああ。あいつとは前に戦ったことがある。

 オレがまだ技を満足に揃えてなかったとはいえ、デュフォーに助けられながらも防戦一方で喰らいつくのがやっとだった」

 

 その言葉はサトシ達にさらなる衝撃と絶望を、そして僅かにアマネの表情に険しいものが走る。

 ミュウツーがゼオンと戦った時のままの力であると見立てるのは、あまりに都合の良すぎる考えだ。

 ゼオンが強くなった様に、戦闘マシーンと言ってもいいミュウツーが己の強さにかまけて何もしていないわけがない。

 更に力の差が開いている可能性だって十分にある。

 ゼオンとミュウツーがほぼ互角であることが、この場を切り抜ける光明であったのにその前提が崩れてしまった。

 

『お前との再戦は楽しみにしていた。招待しておいて悪いが、他の者達の力量は既にユウジとの戦いで把握している。

 確かに私が直接手を下す意味はもう無いな』

 

 悔しいがミュウツーの言うとおりだ。この中でNo2であるユウジでも歯が立たないなら、それ以下の者達が戦っても結果は見えているといえるだろう。

 

『ではそうだな、トレーナーとして勝負してやろう。出でよ、リザードンツー、フシギバナツー、カメックスツー』

 

 ミュウツーの念動力により濃紺のモンスターボールが3つ宙を舞いながら突如現れ、その中からポケモンが現れる。

 カントー地方のトレーナーが最初に手にすることを推奨されているヒトカゲ、ゼニガメ、フシギダネの最終進化系。

 若干身体の節々に模様が走っているが、まさにそれらがミュウツーの指示を受け、サトシ達と相対する。

 

『彼らと1対1の勝負をして勝てたトレーナーは、ポケモンも奪わずに見逃してやる』

 

 ミュウツー本体には太刀打ちできそうもないが、トレーナーとして勝負するとなれば話は別だ。

 まさに破格の条件が提示され、皆の顔色が変わる。ただ一人を除いて――

 

「くっ……」

「どうしたシゲル?」

「大丈夫か!?」

 

 やり得の勝負を提示されているというのに、尻込みして震えるシゲル。

 様子をうかがうサトシとヒロシに対し、精一杯虚勢の笑みを浮かべて見せる。

 

「君達にこんなことを言いたくなかったが、どうやら僕の心は一度完全に折られたらしい。

 怖いんだ、ミュウツーが。トレーナーとして対峙しているだけでも恐ろしい」

 

『戦う気が無いのなら、ポケモンだけもらいうけるまでだ。やれ、ケイ』

 

「はい、ミュウツー様」

 

 カンナも己の手持ちで切り札となる首長竜のポケモン、ラプラスを繰り出しシゲルへと向かわせる。

 おそらくはシゲルの手持ちからポケモンを奪うためだろう。

 アマネ達も助け舟を出したいところだが、ミュウツーから意識をそらすわけにはいかない。

 特にゼオンはミュウツーに対する警戒をずっと怠らなかった。

 だから――

 

「シゲルと俺はいつかバトルで決着をつけるんだ! シゲルのポケモンは渡さない! いけ、ピカチュウ!」

「ボクもシゲルに負けたまま勝ち逃げされるのはゴメンだね。レオン、頼む!」

「「ピカー!」」

 

 シゲルのすぐ隣りにいたサトシとヒロシが同時に己のピカチュウを繰り出し、遥か格上であろうカンナに立ち向かう姿を見てゼオンは「そうこなくてはな」、と小さく笑う。

 

「私達もこのまま引き下がれないよね。やろうよアマネ。フシギバナは私が面倒見るから」

 

 それまでひたすら無言で座していたセセリが突如口を開く。

 相変わらずの野暮ったい表情だが、そこには確かにヒトとして、トレーナーとしての誇りが宿っていた。

 

「そうですね。カメックスは私が相手するとして、サトシ君達がカンナさんと戦うとなるとリザードンの相手がいませんね……」

「オレがいるだろう。オレもデュフォーのポケモンを指揮して戦う。あいつに出来てオレに出来ないことなどない」

 

 ゼオンの唐突な発言に皆目を丸くする。だが、それは決してミュウツーへの対抗意識から軽率に放った失言ではない。

 元々予定していたものだというのがゼオンの力強い声色から伝わってくる。

 つられてミュウツーも好戦的に微笑み、指をパチンと鳴らす。

 メインホール奥の巨大な扉が開き、屋外上空に備え付けられたバトルフィールドが、強風と共に姿を表した。

 

『前座の余興としては面白い。あの頃よりレベルアップしているのは減らず口だけではないことを期待しているぞ』

 

 フシギバナツー VS セセリ

 

 カメックスツー VS アマネ

 

 リザードンツー VS ゼオン

 

 ラプラス VS サトシ&ヒロシ

 

 

 

 




設定集が未完成のため投稿はまた別の機会とさせてください

映画発表時よりも今は科学技術が進歩しているので
フジ博士は原作と違い、ヒトのクローン製造までは成功しています

また、カンナという人格者(他作品はともかくアニポケはそう)と関わりミュウツーは原作より少しだけ人間に対する考えを変えています。


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