ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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26話:四局の攻防-③

 

 少女は生まれてすぐに端金で実験施設に売り飛ばされた。

 

 非人道的な実験施設で成果を出し続けたところで、好成績を叩き出す有能な実験動物程度にしか扱われなかった。

 

 施設を破壊した後、自らの意思で収監した鑑別所を卒業後にポケモンバトルの大会で勝ち続けることで、応援する人は現れた。

 だがそれは彼女が強者だからというだけで、彼女自身を好いてくれる人は現れず。

 

 ――つまり、セセリは祝福されたことなど人生で一度も無かった。

 だから、ミュウツーの瞳を覗き込んだ時にわかってしまった。

 怒りの炎と悲しみの青、そしてその奥に僅かな希望が隠れている。

 その輝きは己の心そのもの。

 

 セセリ()ミュウツー()は同類だと。

 そして、自分とは違い彼はかつて愛してくれる人がいたとも。

 

 そんなミュウツーに今の自分がしてやれる一番の誠意、それは持てる力を全て解放してぶつかることとセセリは心得る。

 バトルに巻き込まれ頭部を負傷したことで、制御していた超能力が暴走し既にその条件は達成されていた。

 

 "どのタイミングで、どの角度でわざを打ち込めば相手に避けられずに攻撃を当て、急所にダメージを与えられるか"

 デュフォーにも対抗しうる洞察力から導き出した"答え"を指示へと変換し、鑑別所で出会って以来唯一心を許したパートナー(フシギバナ)へ送る。

 その指示により放たれた"エナジーボール"は見事に相手のフシギバナツーに着弾。

 結果ニンゲン達が最強のポケモンへ一矢報いる、最初の反逆の一手となった。

 

『……』

 

 現状をミュウツーは未だ測りかねている。

 セセリの脳波、心拍、表情、指示練度、全てが別人のように変貌したこと。

 話していないはず自分の出自を言い当てられたこと。

 所詮は全て自分の計画に支障のない些事である。

 そのはずなのに、心のなかにモヤが溜まり晴れない。

 

「カメックス、"からにこもって"耐えて! セセリさん! 大丈夫ですか!?」

 

 切羽詰まる様なアマネの声が、フィールドを切り裂く。

 さきほどゼオンから気を逸らさぬよう釘を刺されたばかりだというのに、激変したセセリを注視して離さない。

 数秒ほど、実戦の中では致命的も甚だしい時間をアマネと見つめ合い、セセリは再度ノータイムで指示を送る。

 

「フシギバナ、"ソーラービーム"」

 

 それはすぐには意図を測りかねる一手だった。

 "ソーラービーム"は日光をエネルギー源とする技。

 射程範囲、威力、命中精度全てがくさタイプの中でトップクラスだが、チャージに時間を要するという欠点がある。

 いかにセセリが鋭い指示技術を見せ始めたとはいえ、このレベルの戦いでは急所へと完璧に当てるのは不可能に近い。

 そうでなければ、ダメージはタイプ相性で4分の1まで激減してしまう。

 

『ナメやがって……そんな攻撃当たるかよ。ミュウツー、もう俺がやっちまうぞ!?』

『あちゃーフシギバナツーを怒らせちゃったよ。あちらさんも降参した方が良いんじゃない?』

 

 フシギバナツーとカメックスツーも、その無謀な命令に憤り、または呆れ攻め立てていく。

 主の指示を忠実に守りエネルギーをチャージしているフシギバナ、甲羅の中に籠っているカメックスは反撃できず一方的に削られる。

 セセリ、アマネ共にその様子を堪えながら眺め続けていた。

 

(不可解だな。あの少女は確かに先程までと違うが、私が警戒している今その攻撃はまず当たらないだろう。それくらいわかるはずだが) 

(アマネも何故降参しない? カメックスはもう手詰まりだ。無意味に自分のポケモンを痛めつける程、あいつは愚図ではない)

 

 ミュウツーとゼオン、両者の理解が及ばぬ事態の中、ついにフシギバナの背に生えた植物が膨張し、荷電粒子砲の如く周囲に光の粒を収束させる。

 その場にいる者達全員に発射直前である事を知られつつも、セセリはフシギバナツーを指差しソーラービームの強行する。

 

「フシギバナ、放って」

「カメックス。辛いと思うけど堪えて、"ミラーコート"!」

 

 セセリの合図にまるで示し合わせたかのように、アマネの指示が交差する。

 だが、先程までの結果を知っている者からすればそれも等しく無意味な行動でしかない。

 

『無駄だって。そいつはもう通用しないってわかってるでしょ。

 というかそもそも僕まだ攻撃してないよ』

 

 カメックスツーが再度、背の砲台に水のレーザーを装填する。

 発射すれば"ミラーコート"のバリアを貫く威力が確約されているが、そもそも"ミラーコート"の発動タイミングに合わせて打つ筋合いはない。

 バリアにより多少なりとも威力減衰する事を考えれば、"ミラーコート"が解除される直後に放つ方が、より確実に仕留められるだろう。

 更に言うのなら特殊攻撃技にこだわる意味もなく、物理技で攻めても良い贅沢な状況だ。

 一方のフシギバナツーも、一直線に放たれた高速の太陽レーザーをはっきりと捉え、申し分のないタイミングで横っ飛びに回避する。

 

『速えな……だが来るのがわかってれば避けられるぜ!』

 

「あっ」

『……まさか』

 

 ()()へと最初にたどり着いたのはゼオン。僅かに遅れミュウツーもそこに並び立つ。

 セセリは確かに()()へとソーラービームを放つことに成功していた。

 

(にわかに信じられん……セセリは最初からフシギバナツーを標的としていなかったというのか。真の狙いは、その遥か後方に――!)

 

 フシギバナツーの真横をかすめ、ビームは直進する。

 そう、フシギバナツーが元いた位置の軌道の更に先。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()へと伸びていく。

 そして――肝心なのはここからであった。

 ミラーコートは本来、ソーラービームを放ったフシギバナへと攻撃を反射するはずだ。

 しかしビームはそのまま斜めにスライドし、今まさにハイドロポンプを放とうとしているカメックスツーへと突き進む。

 

『うわあっ!』

 

 反応する間も、気付く猶予すら与えずビームは着弾し、カメックスツーは仰向けに倒れ込む。

 効いた、というより何が起きたのかわからない様子だが当然決定的なダメージも入っている。

 タイプ相性で倍増された高速のビームが防御する猶予の無かった急所を抉ったことで、勝負を決定づける一撃となっていた。

 

『カメックスツー!?』

 

 背後の異常事態に遅れて気付き、振り返るフシギバナツー。

 眼の前の敵から意識を逸らす、アマネが先程犯してしまった失態。

 仲間を想う気持ちが裏目に出て、決定打を打ち込む致命的な隙をセセリに晒してしまう。

 

『フシギバナツー、後ろだ!』

「捉えた。"ヘドロばくだん"」

 

 ミュウツーがテレパシーで知らせるより紙一重で速く、セセリの指示に即応したフシギバナがヘドロばくだんを放つ。

 

『ぐおおおお!』

 

 指さされた背中の無防備な弱所へと毒爆弾を的確に打ち込まれ、ほぼ戦闘不能となる傷を負い倒れるフシギバナツー。

 そして申し合わせたかのように、もう一つの勝負も決着を迎える。

 

『はぁ……はぁ……根性だけは一人前だったじゃないか』

 

 フィールドに倒れ気絶しているブースター(レンカゲロウ)と、それを見下ろすリザードンツー。

 お互いほのおタイプでありながら、全身に刻まれた創傷と火傷の跡が激闘を物語っている。

 互いの持ち主による指示の介入しない、力押しの勝負を制したリザードンツーであったが、生きた心地のしないその様相から辛勝であったことは明らかだ。

 

「よくやったブースター(レンカゲロウ)。責任は全てオレにある」

 

 トレーナーとして初の敗北を素直に受け入れ、ゼオンはレンカゲロウをボールに戻す。

 一方のミュウツーはリザードンツーの底力で勝利こそを収めたものの、合計は1勝2敗で負け越している。

 その結果を突きつけられたミュウツーの表情に、僅かだが感情の炎が浮かぶ。

 

『"ミラーコート"に新たな性能を付与したようには見えなかったが……どんなカラクリだ?』

 

「ミュウツー。あなたは先程、わざを極め強化することを"Tierを上げる"と表現していましたよね。私はその逆で、T()i()e()r()()()()()んですよ。

 私はデュフォー君の様な戦略眼も、セセリさんの様に的確に弱点を突く技術もありません。

 でも、どの角度で技を打ち込まれたらどう反射するかの演算くらいはできます」

 

 ミュウツーとゼオンの知能と洞察力をもってすれば、アマネのその言葉だけで造作もなく結論へと至る。

 そして、それが正気とは程遠い戦術であることも。

 

「反射して敵を自動追尾するという機能をあえて削除することで、ソーラービームが入射角に応じてカメックスツーの方へと弾かれたということか」

 

『理論上は理解できるが……ソーラービームが打ち込まれることがあらかじめわかっている必要があるはずだ。

 お前達が取ったコミュニケーションは、先程のアイコンタクト数秒のみ。あれだけで意思疎通を交わしたと言うのか』

 

「正直、賭けでした。絶好調のセセリさんはこちらの考えを見透かす力を発揮していました。

 私の意図も汲み取ってくれると思ってましたが、うまく行き過ぎましたね」

 

「アマネには興味無いし、馴れ合ったこともない。でも大会で何度も戦ううちに、ライバルとしての絆は確かに芽生えた。

 アマネなら諦めない。どんなに薄い勝ち筋も捨てることはしない。彼女となら、高みに登れる」

 

 少女達の回答は合理性の欠片もないものだった。

 別の戦いをしている最中の仲間を利用する、無言での連携、わざの性能をあえて下げること、全てが理外にある。

 だがミュウツーはおいそれと、"狂っている"という言葉で片付けられなかった。

 一見バカげた彼女たちの行動だが、その真に迫る表情を見ればふざけていないことはわかる。

 だからこそ、世界最高の強さと頭脳を求め生み出されたミュウツーは理解できない。

 

『お前達は……ヒトとは一体何なのだ』

 

「私はヒトの代表ではありませんが、個人の意見を述べることはできます。

 ミュウツー、ゼオン。ニンゲンはあなた達に比べて弱く、愚かで非合理的です。そこらのポケモンにも劣るかもしれません。

 その代わりに色んな個体がいて、他の生物よりちょっとだけ面白いのです」

 

 アマネが見解を述べる一方でセセリの方は負傷の影響か、力を使い果たした反動が来たのか、いつのまにかその場で眠りこけている。

 明らかに言葉を詰まらせ、その状況を睨めつけるだけのミュウツーに代わるように、ゼオンが口を開く。

 

「……無茶な作戦とはいえオレ達が一本取られたのは事実だな。だが、アマネの力量がこの水準に達しているとは思わなかったぞ」

 

「ゼオン、あなたとデュフォーに出会えたから私はここまで変われたんですよ。

 そしてほら、あそこにもあなたに影響を受けたトレーナー達が――」

 

 アマネの示す先、カンナのポケモン達の苛烈な攻めを受け続け追い込まれながらも、サトシとヒロシのピカチュウが連携しギリギリで食らいついている。

 先のポケモンリーグ時点での2人では、到底できない粘り強さを見せる少年達。

 その姿を見たミュウツーの眼がスッと細まる。

 

『ケイ、攻撃を中止しろ』

 

 テレパシーによる命令を受け、カンナはラプラスとグレイシアを静止させる。

 あと十秒もあればサトシとヒロシのどちらかは仕留められたかもしれないというのに、躊躇のない即応であった。

 サトシ達は急に猛攻が中断され、何が起きたかわからない様子である。

 

「承知しましたミュウツー様。……私に落ち度でもありましたか?」

 

『いや、そういうことではない。私のニンゲンに対する見立てと現実に乖離があった。

 トレーナーとしてニンゲンを屈服させるのは一筋縄ではいかない。私の力を見せるには、やはり私が直接戦うべきだ』

 

 ミュウツーの周囲を纏う生命エネルギーと闘争心の強まり、それは明らかに特定の相手に向けられている。

 その張本人であるゼオンは、己が倒すべき標的と認識された事実に年相応の笑みをこぼす。

 

「トレーナーとしてのバトルで敗北を教えられ、お互いままならんものだなミュウツー」

 

 親しみを籠めるような口調ではあったが、ゼオンも敵意を纏う魔力をミュウツーへと充てる。

 お互いの力の余波に圧倒されている周囲の者達へ、この会合のメインイベントの始まりを告げた。

 

「サトシ、ヒロシ、シゲル、アマネ。これから始まるオレとミュウツーの戦いから目を離すな。

 それだけでお前達は更なる成長のきっかけをつかめるかもしれない」

 

 最強の人工ポケモンVS雷帝 その再戦が幕を開ける。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 かつて収容されていた施設から、ミュウツーは研究資材を全て移転させ内部データを複製した。

 システム管理権限の奪取は成功していたのだが、最上位の権限までは手に入れられなかった。

 暗号化された最上位権限のパスワードを、暗号アルゴリズムから復号させなければならない。

 演算には長時間を要するため、今もコンピューターを稼働させ解読している最中だ。

 

 ミュウツーですら手を焼くロケット団のセキュリティ。

 しかしデュフォーが相手では分が悪すぎた。

 デュフォーは《アンサー・トーカー》により一瞬で演算を完了させ、ミュウツーに先回りする形で最上位権限のパスワードを平文で手に入していた。

 ロケット団の面々が後ろで息を呑む中、ディスプレイに3つの機密資材ディレクトリが映し出される。

 

 ・M2(ミュウツー)計画

 

 ・レインボーロケット団計画

 

 ・アウトソーシング情報

 

「うそっ……これほんとにセキュリティ突破したの!?」

「もうお前何でもありだな……」

 

 ドン引きするムサシとコジロウの前で、デュフォーは淡々と一番上のディレクトリを展開する。

 中に入っていたクローン設計書を読みふけるデュフォーの手が、ある一部分の表記で止まった。

 

「そういうことか。これがロケット団が用意していた、ミュウツーに対する切り札。

 ()()というやつだな」

 

「デュフォー、そんな小難しいもの読んでもあたし達わからないって!

 いいから次のレインボーロケット団計画っての見せてよ! これが気にな……」

 

 自分達を無視して独りごちるデュフォーに痺れ切らし、食ってかかろうとしたムサシは押し黙る。

 数秒に満たない僅かの時間ではあったが、デュフォーの顔に憎悪の相が浮かんでいた。

 直接デュフォーの表情が見れないコジロウとニャースも、全身から漂う尋常ではない気配を察知し、反射的に怯えてしまう。

 その圧は、かつてゼオンが自分達に向けた敵意など生易しく感じる程であった。

 

「ど、どうしたんだよデュフォー」

 

「……お前達は気にするな。次の資料が見たいんだったな」

 

 何事も無かったかのように平静を取り戻し、デュフォーは2つ目の資料を開く。

 まるで見てはいけないものを見てしまったかのように、コジロウは話題転換するかのごとくその文面に食いついた。

 

「なになに……ロケット団に対抗しうる各地方の組織を、全て支配下に収める計画……!?

 最強組織、"レインボーロケット団"結成計画なんてあったのかよ! こんなのアガるだろ!」

 

「全世界の制圧まで目指しているとはさすがボスニャ!

 で……最後の資料の"アウトソーシング"って何ニャ?」

 

「外注だよ、つまりロケット団が他の企業とかから依頼されてやってる仕事のことだな。

 ま、これは俺達にはあんまり関係無さそうだ」

 

 2つ目の計画を見てテンションを跳ね上がらせたロケット団であったが、3つ目の資料概要が大雑把過ぎて、大して関心を示していない。

 サラりと眼を通して終わるだけ――だと思っていた彼らの前でデュフォーはふと手を止める。

 《アンサー・トーカー》により出た答えが、閲覧しようとしたデュフォーに躊躇を与えた。

 

「最後の資料はお前達は見ない方が良い気がする。目をそらしておけ」

 

 ムサシ達はお互い顔を見合わせ、その忠告を小馬鹿にするように鼻で笑う。

 

「あんた天然? そんなこと言われたら、興味無かったのに逆に見たくなっちゃうじゃない」

「難しい取引の数字やら何やら出されてもどうせ俺達わからないしな」

 

 一笑するムサシに肩をはたかれながらも、デュフォーは最後のディレクトリを展開する。

 中の資料は細かい文章、そしていくつかの画像だった。

 ムサシ、コジロウ共に最初に目についた画像を何気なしに見つめていたが――

 

『えっ』

 

 その()()を理解した時に血の気を凍らせる。

 

「なんニャ!? 画面の位置が高すぎて見えないニャ。ニャーにも……」

 

 肩に登って機械のディスプレイを覗き込もうとしたニャースを、ムサシは矢のような速さで掴み引きずり下ろす。

 

「ニャース……ソーナンス……あんた達はコレを見ちゃダメ……」

 

「ムサシ、ニャースは代わりに抑えるからソーナンスはボールに戻しとけ! 何だよこれ……一体何なんだよこれは!?」

 

 無理やり抱きかかえるコジロウから、力ずくでニャースは逃れようとしてすぐに力みを止める。

 決して短くない間の付き合いだったムサシとコジロウが、今までにない怯えた表情で画面から背を向けている。

 明らかな異常事態に、2人に逆らうべきではないという警告をニャースの本能が告げていた。

 わけもわからず同様に恐怖するニャースへ、デュフォーから簡潔にその内容が伝えられる。

 

「これはポケモンの生体実験記録だ。それも、ポケモンの命などどうなっても構わないという違法レベルのな。これがお前達ロケット団の裏の顔だ」

 

 

 




いつも視聴ありがとうございます

色々話が散らかってしまいましたが
ようやくゼオンとミュウツーの戦いが書けそうです

ロケット団のトリオには転機となる話になりそうです

しかしどいつもこいつも生体実験しすぎですね
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