ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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27話:ゼオンVSミュウツー -②

 

 点々としていた全てのポケモン、トレーナーが撤収し闘技場に残ったのは2体だけに。

 自分達のみになったことを確認し、ゼオンは地を駆けミュウツーへと飛びかかる。

 

「"でんきショック"」

 

 おもむろに打ち込まれた電撃の先にミュウツーの姿は既にいない。

 音もなく上空に浮遊し、体表にエネルギーと障壁を纏わせている。

 その禍々しさは、観戦している者達に瘴気と誤認させるほどであった。

 

『"みらいよち"』

 

 周囲の空間に力場が発生し、歪みと言い表せない不安感を生み出していく。

 数秒後に時間差で空間範囲指定のダメージを与える変速攻撃。

 かつて戦った時は、デュフォーの力無くしてクリーンヒットを避けられなかったが、今のゼオンは怯まずミュウツーへと飛びかかる。

 

「"でんじふゆう"」

 

 ミュウツーとの再戦に備えゼオンが用意していたいくつかの武器。その1つが"制空権"。

 マントを駆使することで浮遊はできるが、本来の目的ではないので高速では飛び回れない。

 そのため、空中移動専用の技を開発するに至る。

 元々《フェイ・ウルク》といった飛行用の肉体強化呪文は魔界にもあるため、それを応用することで然程時間をかけずに修得できていた。

 

 電撃エネルギーを運用したゼオンの飛行術へ大して驚きを示す事なく、ミュウツーは空中で接近戦を捌いていく。

 激しく宙を飛び交いながら、密着しての打撃戦を繰り広げるミュウツーとゼオン。

 数秒の後ほぼ同時に動きを止め、身体を強張らせ身構える。

 と同時に大気が震え、"みらいよち"による不可視の念動力が襲う。

 障壁とマントによりガードを成功させた両者は距離を取り、先に態勢を整えたミュウツーが追撃を叩き込む。

 

『"サイコウェーブ"』

 

 ミュウツーの腕から放たれた強力な念波へ、ゼオンはマントを前面に張り巡らせ飛び込む。

 前回完全に破壊された白銀のマントを無傷のままはためかせ、念波の終端からゼオンが出ずる。

 

「でんきショック "収縮の型"!」

 

 一直線上に走る高速の電撃を障壁で受けず横っ飛びで躱すと、ミュウツーは徐々に高度を落とし地へと降り立つ。

 

『この前は対応できなかった攻撃を今度は上手く凌いだな』

 

 テレパシーを受け、小刻みに空を飛び回っていたゼオンもそれに合わせてその場に着地する。

 

「一度見た技だ。技の名前の通り、攻撃の部位に応じて威力に波があることはわかっていた。

 ならば出力の低い右真ん中から左奥を選び突っ切れば、実ダメージは2割程度に抑えられる。

 お前こそ、近距離からの不意を突いたでんきショックをよく躱したな」

 

『至近距離以外でお前が私の障壁を破るには、貫通式の新型を使うしかない。

 警戒を新型にのみ絞っておけば対応など容易い』

 

 鼻を鳴らし溜め息を吐くゼオンの表情は、ミュウツーの強さを認めながらも己への揺るがない自負が伺える。

 ミュウツーも無表情ではあるが、同様の気持ちなのだろう。

 むしろ観戦している者達の方がその攻防に圧倒されていた。

 

「シゲル、お前ミュウツーと戦ったんだろ? その時も、こういう感じだったのか?」

 

「いや、僕の時は"ねんりき"だけしか使われなかった。

 あんなスピードも攻撃も見たことがない! それにゼオンも大会の時より全然速くないか!?」

 

「2体共速すぎて僕は眼で追えなかったし、何が起きてるのかもほぼわからなかった……」

「「それはそうだな」」

 

 仲良く隣り合い戦いを見守るサトシ、ヒロシ、シゲル。

 その奥でどうにか戦いを把握していたアマネとカンナが解説役を買って出る。

 

「ミュウツーが最初に繰り出した"みらいよち"の射程範囲はおそらく闘技場全域でした。

 私達が今いる場外まで退避するという選択肢は、ゼオンのプライド的に薄いはず。

 接近戦を挑んだのは、ミュウツーが障壁を固めるタイミングを見極め自分もガードをするためですね」

 

「"サイコウェーブ"にあえて身を投じたのは、不意を突きたかったのでしょう。

 ミュウツー(マスター)の障壁は強固ですが、回避力も凄まじいのでそもそも攻撃を当てること事態が困難です」

 

「カンナさん、あんた一応今は敵だろ? 僕達と喋ってていいんですか?

 それにあいつの情報まで教えてるし」

 

ミュウツー(マスター)から戦闘指示は出ていませんので。

 それにあなた達では教えられたところで、どうこう出来ないでしょう。

 マスターに対抗しうる者なら、私が教えずとも自力で気付けるはずです」

 

「うぅ……」

 

 今のシゲルでは弱すぎてミュウツーから敵として認識されていない。そのことは本人が一番身にしみている。

 カンナを訝しむシゲルは、返ってきたその言葉を黙って飲むしかなかった。

 

『どうやら旧兵器だけではカタを着けられない程には成長しているようだな。

 だが、あのトレーナー(デュフォー)抜きで私に勝つつもりなら見立てが甘すぎる』

 

 ミュウツーから放たれる圧力が更に強まり、同時にその両掌からゼオンの全身をすっぽりと覆い隠せる程の巨大な波動球が生成される。

 虹色に発光しながらゼオンへと放たれる魔球のオーラは、ゼオンでなくとも喰らえばタダでは済まないことを察することができる程だ。

 

(デカさの割に速いな。だが直線攻撃なら避けられない程ではない)

 

 難なく回避するゼオンを追尾するかの様に弾が直角にカーブするが、その事態を想定していたゼオンは的確に反応し、マントを展開する。

 完璧なタイミングで攻撃を防ぎきったはずなのだが――

 

「ぐおおッ!?」

 

 マント越しにガードした腕に焼け痺れる衝撃が走り、ゼオンの身体が仰け反らされる。

 刻まれるダメージと痛み。ゼオンはそれを受け入れ即座に考察に努める。

 

(右腕の負傷度20%……。あの弾丸のエネルギーから想定した威力より強い。

 防いだ時の衝撃に違和感があったような気がするが、オレの読みが甘かったのか……)

 

『初めて披露する技だが、悪くない使い勝手だ』

 

 既にミュウツーは次弾を生成しゼオンへ照準を向けている。

 技の解析が済む前に放たれた二の矢へ、ゼオンは咆哮と共に掌をかざす。

 

「オレを新技の実験台に使うとはいい度胸だな。"でんげきは"!」

 

 強大な電撃を突き破り直進する球を蹴り飛ばすゼオンの足に走る鋭い痛み。

 電撃の衝突により威力が減少したため、痛み程のダメージは受けていない。

 その痛みの()からゼオンは正体不明の技の究明に至る。

 

「技を受けた瞬間、念動力が実体化したように感じた。……信じがたいが、特殊攻撃にも関わらず物理攻撃扱いにできる技か?」

 

『正確には少々違うが、概ねその通りだ。私はこの技を"サイコブレイク"と名付けた』

 

 それは当人同士には通じ合えるやり取りだったのだろうが、外野のサトシは噛み砕けずに首を傾げる。

 

「特殊攻撃だけど物理攻撃? どういうこと?」

 

「相手の特防ではなく、防御力でダメージ計算する"サイコショック"という技がありますよね。

 話を聞く限り、おそらくはそれに似た性能なんでしょうかね」

 

「ゼオンは特防に厚いタイプのポケモンだからミュウツーは物理防御を突いたのか?

 僕は直接戦ったことが無いけど、見る限り物理攻撃にも強いイメージがあったけどな」

 

「うん、シゲル君の見立てはあってます。ゼオンは両方ともカッチカチですね。ボコされた私が断言します」

 

「……? それだとわざわざゼオンの防御を突く意味が無い気がするよ。

 特防は高いけど防御が高くない相手に使うべき技じゃないかな」

 

「そこまでは私もわかりませんね。おそらくあの2体の様な、最強レベルの戦いだと影響するのかもしれません」

 

 ヒロシの疑問に対するアマネの推測はおおよそ当たっていた。

 高い戦闘技術を持つポケモンは、攻撃ガード時に生命エネルギーを防御や特殊防御に一瞬だけ割り当てる技を駆使している。

 ゆえに高次元での攻防で、特殊と物理を誤認させる術は地味だが確実に作用する。

 

「最強のミュウツー様がわざわざオレとの再戦に備えて新技を開発していたのか?

 光栄な話だな」

 

『その通りだ』

 

「……素直過ぎだろ」

 

『私にとってバトルは制圧行為と復讐の手段でしかない。だがお前と戦っていると、冷めた私の心が少しだけ揺れるようだ。

 ただの道具に過ぎない技をどう改良しようか、上手く使いこなそうか、そのための論理や構築が次々と思い浮かんでいく。こんな様に――』

 

 ミュウツーの両手に"サイコブレイク"が一つずつ生み出され、それぞれが独立してゼオンへと放たれる。

 なんとか正体不明の新技を突き止めたばかりだというのに、すぐさまゼオンは発展型と思わしき攻撃への対応を講じることとなる。

 

(同時に2つ撃てるようになったのか? しかもスピードも上がっているようだが……さっきまでよりサイズは小さいな)

 

 より命中精度を重視した形態の攻撃だと見立て、ゼオンは"でんげきは"を打ち込み先に向かってきた一発目を撃ち落とす。

 二発目は避けられないが、既に物理攻撃扱いの技だというタネは割れている。

 瞬間的にエネルギーを練り上げ防御力へと変換し、弾を弾くイメージでマントによるガードを巡らせるが――

 

「ぐっ……」

 

 防御部位の右腕に走る、三度目の衝撃と痺れに灼かれながらも得た解答。

 一発目は防いだので不明だが、この二発目は明らかに攻撃が実体化していなかった。

 

(こいつ……同じ技から物理攻撃と特殊攻撃のニ種類を使い分けられるのか? 

 いや、新しい技をチューニングしたことで、たった今使えるようになったということか!?)

 

『"サイコブレイク" 第二階層。モード・サン&ムーンとでも命名しよう』

 

 戦闘という一点において、自分を超えるやもしれぬ天賦の才。

 それを前にゼオンは初めて小さく息を呑む。

 ゼオンは魔力を生命エネルギーに一度変換しなければ技を使えない、といった固有のハンデをいくつか抱えている。

 それを差し引いてもミュウツーの成長速度は脅威であった。

 しかしそれを理解できるのもゼオンが極めて高い領域に登りつめたからであり、周囲のサトシ達はバトルの内容に一喜一憂するのが精々だ。

 

「ゼオン、どうして一方的に攻められるだけでやり返さないんだ!?」

 

ミュウツー(マスター)の障壁を攻略するためには、ゼオン・ベルから接近しなければなりません。

 しかしミュウツー(マスター)は危険を排除した安全策で戦っているので、その様な隙が無い。

 ゆえにミュウツー(マスター)の攻撃に対してカウンターを成功させる形でしか、機会を作れないのでしょう」

 

「それでも、牽制や目眩ましで"でんきショック"を打ち込むなりできるんじゃない?

 カントーリーグの時、ゼオンはそういう戦い方をしていたよ」

 

「あのゼオンが攻め気を失う程、精神的に追い込まれるとは思えません。

 傍から見ている私達にはわからないだけで、牽制に使う攻撃の余裕が無いほどリソース管理のシビアな戦いなのかもしれません」

 

 アマネの推測にかなり近いものが実情にあった。

 今のゼオンは技の無駄打ちを避けながら、ミュウツーの障壁を攻略しなければならない。

 そのために甘んじて後手に回り続けている。

 

『"サイコウェーブ"』

 

(今度は一度攻略した技を直打ちか。オレが技を避ける時の隙を狙っているのか? ならば……)

 

 ゼオンは回避の選択を放棄し、危険を承知で再度念動波の中にあえて飛び込み、波の弱い所を精密に移動していく。

 この一手は回避の隙を無くすだけでなく、技を抜けるタイミングをゼオン自身が決めることができる。

 突破した瞬間に技を打ち込めば、ミュウツーの虚を突くことができるはず。

 その想いであえてワンテンポの間を置き、"サイコウェーブ"をくぐったゼオンの鼻先へ――

 

『捉えた』

 

 待ち受けていたのように迫る"サイコブレイク"。

 戦闘勘と経験から、ゼオンは辛くも反射的にマントを挟み込み致命打だけは避ける。

 マント越しに顔面へ食い込む衝撃と共に、ゼオンは己の失策と迂闊さを噛みしめさせられる。

 

(差し込まれた! そうか……"サイコウェーブ"の弱所から奴はオレが通り抜けるルートを逆算できる。

 その終端に別の技をあらかじめ用意しておけば、オレを簡単にハメられる。どうしてこんなことに気づかなかった……)

 

 ゼオンはミュウツーを侮ったわけでも、油断したわけでもない。ただ力を見誤っただけ。

 そしてそれはミュウツーも――

 

「舐……めるなァ!」

 

『……!』

 

 頂を目指す者の意地と王族のプライドが、意識が飛びかけた身体を突き動かす。

 被弾しながらも無傷の左腕から一直線上に"でんきショック"よりも強大な電撃を走らせる。

 ミュウツーもすぐさま技の危険性を理解し、障壁に頼ることなく空へと避難する。

 足先よりも長く伸びている尻尾まではさすがに避けきれず、一部が電撃に飲まれてしまったが回避自体はほぼ成功したと言っていいだろう。

 

「チッ……あれに反応できるのかよ」

 

『ここまで危険を孕んだ攻撃は今までの記憶には無かったな』

 

 ゼオンは滴る鼻血を拭い、ミュウツーは焦げ付いた尻尾の先端を左右に振り痺れを誤魔化す。

 動きを見せ始めた戦いを見るアマネの表情に僅かな険が帯びる。

 

「ゼオンは中級技(でんげきは)にも貫通性能を持たせていたことを、伏せて戦っていたようです。

 貫通型の"でんきショック"のみにミュウツーの警戒を向け、奇襲するつもりが通用しなかった。

 今のを避けられたのは、少々まずいですね……」

 

「ゼオンは隠し玉の不意打ちを最初から狙ってたってこと? それって……」

 

「ええ、格下が格上に使う戦法です。つまり、そういうことなんでしょう」

 

 アマネの言葉から重い戦況であること思い知らされるサトシであったが――

 

『私の攻撃を嬉しそうに喰らう者は初めて見るな』

 

 ミュウツーの指摘を受けるゼオンの表情は対照的であった。

 

「ん? オレは今笑ってるのか。そうか……」

 

 ――これがライバルとの、超えるべき者との戦いか。

 

 だが、いつまでも苦戦を楽しむわけにはいかない。

 元の世界に戻るための地盤を固めるため、ミュウツーの侵攻を止めなければならないのだから。

 

 戦いは更に加速する。

 そして、最大のアクシデントが起きる運命の分岐点まで あと3分

 

 




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