ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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28話:石化

 

 

「なにこれ……シャワーズ?ブースター? どっちなの? てかドードーって頭2つのはずでしょ……」

 

 ディスプレイに映し出されたメディアファイルを怯えた様子で覗き込むムサシ。

 隣でデュフォーは顔色一つ変えずに、それらの情報を精査する。

 

「ポケモンの合成実験や生体操作実験の記録だな。依頼はイッシュ地方の研究法人。

 この法人もバックには、ロケット団の様な反社会的組織が着いているのだろう」

 

「こっちは、ポケモンにどんな症状が出て何日目に死んだかの記録か!? どうしてこんなヒデーことができるんだ!」

 

「コジロウが見ているのは、ポケモンの身体を使った医薬品の実験ログか。

 規模からして、実験に使うポケモンを繁殖,ストックさせる施設もロケット団にはあるようだ。

 シルフカンパニーを含め、色々な企業が依頼を出しているな」

 

「デュフォー、こんなもの見せられてあんたどうして冷静でいられるのよ!」

 

 感情の振り下ろし先がわからず、八つ当たりの様に憤るムサシに対し、デュフォーは普段の通りの無表情を貫きながらも諭すように語りかける。

 

「こんなことはロケット団に限らず、人間が常日頃当たり前にやっていることだ。

 たとえば風邪薬やウイルスのワクチンなどを開発する時に、本当に安全かテストをするためにいきなり人体実験をするか?

 必ず小動物による実験行程を挟むはずだ。

 薬の実験に限らず、人々の便利な暮らしは数々の犠牲の上に成り立っている。

 それに、これらに加担した当事者であるお前達にあれこれ言われる筋合いは無い」

 

「もしかして……ニャー達ロケット団が他所から攫ってきたポケモンとかも、実験に使われてたのニャ?」

 

 ディスプレイに表示されたポケモン達の惨状を見ずとも、ニャースはデュフォー達の会話から状況をなんとなく理解していた。

 恐る恐る口から出された推察は、ムサシ達に取り返しのつかない事をしたのかもしれない、ということを思い知らせるのに十分なものだった。

 

「現実を知った上で今後どうするかは、自分達で決めろ。これはお前達にとっての試練でもある。

 オレはその間に上に行ってミュウツーと話してくる」

 

 デュフォーは既にプリントアウトした資料を片手に、研究施設を立ち去ろうとしていた。

 その表情は冷え切りながらも、青ざめた様子のロケット団の様子を伺うように一度振り返る。

 その内心では彼らを気にかけていたのか、それとも――

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「ミュウツー、お前の強さに敬意を評し一度だけ警告する」

 

 "サイコブレイク"により負傷した右腕を突き出すゼオンの表情から、笑みが消える。

 両者が繰り広げる高次元の技の応酬により熱を帯びたフィールドの空気が凍てつく。

 今までの戦いとは様相がガラリと変わることを、その場の誰もが察していた。

 

「復讐をするのは勝手だが、地球の征服はやめろ。どうしてもやるというのなら、オレとデュフォーがいなくなってからやれ」

 

『……警告というのは、相手以上の力を有する者の特権だ。お前にその資格があるのか?』

 

 現状、劣勢のゼオンが言っても強がりにしか聞こえない。

 ゼオンがこのままでは終わらないとミュウツーもどこかで期待しているからこその問いだ。

 

「出来ればこいつは使いたくなかった……。だがお前は強い。後はどちらかが滅びるだけだ。

 ……"こうそくいどう"。加えて"でんげきは"」

 

(なんだ? 散々勿体ぶった割にはただの速度強化技か? しかし自らの身体に電撃の力を宿らせているようだが……)

 

 目を瞑るゼオンの全身に宿る力。生命エネルギーと電気エネルギーが高次元で混成され、今までにない圧力を放っている。

 己の知らぬ技体系に目を細めるミュウツーの頬を、

 

「"雷刹華(らいせっか)"」

 

『!?』

 

 重い衝撃が走り、身体ごと吹き飛ばされる。

 経験は無いが、巨大なドラゴンポケモンの尾に高速で殴打されたらきっとこうなるのだろう。

 高速で動くミュウツーの視界の先、交錯する光線の先にゼオンの姿が消えていた。

 

「えっ?」

 

「今、ゼオンの動き見えてた?」

 

「いえ全く……」

 

 それは観戦している者達にとっても同様であった。

 ミュウツーの斜め後ろへと突如出現したゼオンの動きを目視できた者は誰もいない。

 既にゼオンの強さを知っている者は、その最大値を大幅に更新する速度に驚愕し、敵対している者達はただただ絶句する。

 

「お前の障壁のカラクリは見抜いている。こちらに応じて複数の障壁を使い分けていたのだろう」

 

 ゼオンに対する沈黙がそのまま肯定を示していた。ミュウツーが使う障壁は3種。

 障壁Aは技エネルギーと物理両方に有効であり、何よりミュウツーの意思に関わらず常にオートで発動する破格の性能を持つが、出力はさほど高くない。

 障壁BとCはミュウツーが己のタイミングでどちらか片方を発動し、技エネルギーまたは物理に対しそれぞれを強くシャットアウトする性能を持つ。

 ポケモンバトルでは障壁AとBを併用することで相手の技を封じ込められる。

 一方、人間との抗争で軍事兵器などに対抗する場合は障壁AとCで攻撃を弾く。

 一見隙のない布陣に見えるが、条件を満たすことで攻略の糸口が見える。それは――

 

(不覚……この私が一瞬見失った! 速度を強化する"こうそくいどう"に雷の力を融合させ、次元の違う負荷を己に課したのか。

 私が対応できない速さと、強力な物理攻撃手段を得たことで障壁によるジャストガードが極めて難しくなった!)

 

 障壁Bを張れば物理攻撃が、障壁Cを張れば電撃を打ち込まれてしまう。

 脅威の速度を手に入れられたことで、障壁の切り替えも間に合わない。

 もはやゼオンは常に今の肉体強化技を使わずとも、いつでも発動できると匂わせるだけでミュウツーの動きを縛ることができるのだが――

 

「出し惜しみはせん。行くぞ、"雷刹華(らいせっか)"」

 

 技を解除すること無く、そのままの状態で再び真正面から殴りかかる。

 それはゼオンからミュウツーへ突きつけられた真っ向勝負への招待状。

 ミュウツーはそれを無碍にすることなく、ノータイムで誘いを受け待ち構える。

 

(たとえ私が"こうそくいどう"を使ったとしても、あのゼオンの動きにはついていけない。

 やはり動かずにカウンターを狙うべきだ。私に残された一つだけの方法で……)

 

 観戦者達の眼に攻防の瞬間は映らない。ただ、雷が落ちたような炸裂音だけが響き渡る。

 

「ぐッ……」

 

 攻撃を仕掛けた側であるはずのゼオンが明後日の方向に吹き飛ばされ、首がねじれる。

 真正面に突き出されているミュウツーの拳に顔を撃ち抜かれたのだろう。

 ミュウツーを良く知るカンナは真っ先に、ミュウツーがやってのけたカウンターの正体にたどり着く。

 

「動きが見えずとも、殴られた瞬間は確実に眼の前にいる。

 ミュウツー(マスター)のスピードと戦闘勘なられば、相打ちでのカウンターが成功するというわけですね」

 

ゼオン(あのチビ)は全力で突っ込んでるから、相打ちになるとわかってても避けられない。

 あのスピードを見た時はキモを冷やしたけど、さすがミュウツーだね……』

 

 一度技を見ただけでミュウツーが対抗策を講じたことで一安心するリザードンツー。

 が、それはゼオンが苦心の末に編み出した新兵器をあまりにも侮り過ぎていた。

 

『むぅ……』

 

 みぞおちを抱え片膝をつくミュウツー。明らかにゼオンの攻撃が効いている姿は敵味方問わず衝撃を与える。

 障壁が無くともミュウツーの守備力は決して低く無い。耐久力に至っては一級品だ。

 ダウンどころかまともに攻撃が通用するだけでも、皆の記憶にない光景だった。

 

『こちらの意識を刈り取ろうとする閃光のような鋭さと、いつまでも身体に響く稲妻の様な重厚な衝撃が合わさった拳……。

 速度も拳銃の初速の10倍近くまで上がっている。まさに脅威だ』

 

「……2発もまともに浴びて倒れないどころか、反撃をかましといてよく言うな」

 

 両者ともに相手に送る言葉は本心から出るものだ。

 己の強さに対して揺るがぬ自負があるからこそ、ここまで渡り合えるだけで賞賛の念を抱く。

 

「……この戦い、そんなに長く続かないかもです」

 

 眼前の頂上決戦を食い入るように見つめながら唐突にぼやくアマネ。

 その言葉をすぐには信じられないサトシ達であったが、その推測は当たっている。

 ミュウツー側は"じこさいせい"という高速回復技を所有しているが、発動するには一瞬の隙が生まれるため、今のゼオン相手には使えない。

 一方のゼオンも限界を超えた肉体強化による負荷と、音速を遥かに超える速度でミュウツーを殴った部位が受ける反動により、みるみるうちに肉体を損傷していく。

 

 戦闘が高速化したことにより、決着まで残り1分。

 と同時にゼオンとミュウツーに新たな課題が発生する。

 

(このまま戦えばどちらかは再起不能になる。下手したらそれでは済まないかもしれない。

 間違いなくオレの拳は今、命に手を掛けようとしている……)

 

 ゼオンは魔界、人間界問わず数々の敵対者を蹂躙し、時には容赦の無い拷問も辞さなかった。

 だが命までは奪わない主義も持ち合わせている。もちろんそういった経験もまだ無い。

 

 一方のミュウツーこそこれまで何人もの人間を殺害したが、それは力を制御しなかった結果の事故であり、そこに殺意は無かった。

 それはヒトが何も考えずに地を這う虫を踏み潰しながら歩くようなもの。

 彼もまた、自らの手を本当の意味で汚したことはない。

 

この者(ゼオン)はここで排除せねば、必ずあのニンゲン(デュフォー)と共に私の障害となる。

 だが、それだけのために罪のない生物を殺めるべきなのか……)

 

 両者とも一線を超える覚悟の無いまま、10,20と拳を重ねる。

 相手を痛めつけ、自身が追い詰められる度にその感情と決断の時は近づくばかり。

 

「これ……ヤバくない? ゼオンもミュウツーもこのままだと……」

 

 戦いに魅入っていたヒロシが我に返る程に、ゼオンとミュウツーは痛々しいダメージが刻まれていた。

 その隣で見守っていたサトシも、満身創痍の両者を前に()()()()()を想定し、肩に乗せていたピカチュウを下ろす。

 

「ここで止めなきゃ……!」

 

「やめろサトシ!」

 

 フィールドの中へと駆け寄ろうとしたサトシを、シゲルが慌てて掴み羽交い締めにする。

 ヒロシとピカチュウはどうしていいかわからず2人を見比べることしかできない。

 

「離してくれシゲル! このバトルはもう止めないと!」

 

「あいつらが無視して戦い続けるだけならいい。もし

 サトシが技に巻き込まれたらどうするんだ!?

 ミュウツーは図鑑に記録されていないだけで、公式大会で使用禁止されている伝説級のポケモンと同格なんだ。ゼオンも大差ないレベルだ。

 意識せずともヒトの命を簡単に奪える力を持っているんだぞ!」

 

「シゲル……俺のことをそんなに心配してくれてたのか」

 

「当たり前だ! お前に何かあったらどうするんだ!?

 それにサトシをポケモンバトルで倒すのはこの僕だ! こんなところで死なせはしない!」

 

「くっ……でも……」

 

 サトシが無理矢理にでもシゲルを引き剥がそうとしなかったのは、本心から身を案じてくれているとわかっていたから。

 そんな膠着した状態の2人の肩に、後ろからやってきたアマネの手が置かれる。

 

「デュフォー君から不在の間、指揮を預かっている私の見解を述べます。

 サトシ君とシゲル君、両方の言い分が私にはわかる。なので折衷案として、あまり近寄らずに声を掛けるまでならギリギリ認めます。

 決して戦いに割って入らないように」

 

 腕の力に未練を残しながらも、シゲルは渋々サトシの拘束を解除する。

 サトシは深くアマネにうなずき、バトルフィールドへと足を踏み入れゼオン達の方へと駆ける。

 

『なっ……お前達、勝手な真似をするな!』

 

「ピカー!」

 

 サトシ達の挙動に気付き、力付くで止めに入ろうとしたリザードンツーへ、ピカチュウが真正面から飛びかかりそれを阻止する。

 

 サトシは内心でピカチュウに感謝しながらも、足を停めずに全力で走り抜け、アマネの言う通り少し離れた位置からの説得を試みる。

 ――そのはずだったサトシの眼前で、ゼオンのマントとミュウツーの障壁が同時に爆ぜた。

 

(障壁が完全に解除された! もう奴はオートで障壁を構築する余力も残っていない!)

 

(マントが破壊されたか。ダメージが蓄積してる今なら、次の一撃を直接当てれば倒せる!)

 

 今が最大の好機。

 発動までの素早さと火力を天秤にかけ、最も優秀で頼れる技を限界の身体に鞭打ち互いに放つ。

 

「"ほうでん"!」

 

「"サイコキネシス"!」

 

 今までの肉弾戦から一転、切り札の力を飛ばし合う遠距離戦に切り替わった。

 だがそれこそがサトシ達の、そしてゼオン達にとっても最大の誤算となる。

 

 強力な2つの電撃と念動力がぶつかり、相殺されなかったエネルギーの塊が弾き飛ばされる。

 立ち止まろうとしていたサトシは、反応するる間もなくそれにあっけなく飲み込まれていった。

 

「えっ」

 

 その瞬間を見ていた者は突然の光景にフリーズし、

 

「サトシ!?」

 

『いつの間に……! まさか、ニンゲンが我々の戦いを止めようとしたのか!?』

 

 当事者のゼオンとミュウツーも遅れて気付きサトシの方を注視する。

 対峙している敵から視線を切らす愚行であるにも関わらず、2体がそれを気に留めることはなかった。

 

「ピカピー!」

 

「サトシ! 大丈夫か!」

 

 驚いて戦いの手を止めたリザードンツーから離れ真っ先ピカチュウが、遅れてシゲル、ヒロシ達が駆け寄る。

 サトシを――いや()()()()()()()()、鈍い輝きを放つ鉱石を皆が見下ろす。

 

「石化? いや硬質化!? 一体何が……」

 

『私の技にそんな効果は無いはずだが……』

 

 技の持ち主であるミュウツー達ですらサトシの有り様に戸惑う。

 動けないだけなのか、生きているのかすらわからない。

 

「ピーカーチュウ!」

 

 目を醒ませ、とばかりにピカチュウが気付けの"でんきショック"を石に浴びせる。

 1発、2発……10発と浴びせたところで、何の変化も起きないことを理解したピカチュウの表情が悲しみに染まる。

 

「ピー……」

 

 ミュウツーとゼオンでも何が起きているかわからないのに、他の者にできることはなにもない。

 ただ立ち尽くすしかない者達の耳に、ずっと待ちわびていた少年の声が届く。

 

「サトシは動かないのではない。自らの意思で動けないんだ」

 

 各々背後を振り返り、声の正体へ「デュフォー!」と次々に声をかける。

 ドンカラス(オカシラ)の背にまたがり、メインホールからフィールドへと皆の視線を集めながらデュフォーが中央に降り立つ。

 

「デュフォー、遅いぞ! それより動けないとはどういうことだ? 

 オレ達の技を受けて瀕死になったのか?」

 

「いいや、ゼオン達の技のエネルギーはきっかけに過ぎない。サトシはポケモントレーナーだ。ポケモンを使役してバトルをするのが目的であるにも関わらず、バトルを否定してしまった。

 サトシの行動は完全に矛盾してしまった」

 

「……しかし、そんなことで動けなくなってたら皆そうなってしまいませんか?」

 

 自己矛盾くらいほとんどの者は多少抱えて生きている、そう考えるアマネであったが、本人にその自覚があるかどうかはまた別の話だ。

 

「元からある程度利口な者や、年を重ね経験を得た者はそれを理解できるかもしれない。

 だが今の幼いサトシに自己矛盾(それ)はまだ理解できない。

 だから動けない。しゃべれない。石になるしかない」

 

 特に解決策を出すこと無く現状を説明するだけのデュフォーに、ミュウツーが少し苛立つようにテレパシーをぶつける。

 

『バトルの興が削がれたのは別に良い。それよりお前は今更何をしにきた。この少年が助からないことをわざわざ教えに来たのか?』

 

 ゆっくりと首を横にふりながら、デュフォーは手に持っている数枚の紙切れをミュウツーへ突き出した。

 

「違う。ミュウツー、オレはお前に『取引』を持ち掛けにここまできた。

 これはお前を生み出した科学者が遺した、お前の設計書だ。これを見た方が話が早い」

 

『これは……!』

 

 胡散臭い様子を感じながらも、ミュウツーはデュフォーからひったくった紙の資料に目を通す。

 5行、10行と資料を読み漁るミュウツーの顔が見る見る内に朱に染まり、初めて表情に怒りと恐怖が僅かに垣間見える。

 

「結論から言おう、ミュウツー。お前はそう遠くない先に死ぬ」

 

 

 

 




次回でミュウツーの逆襲編は完結予定です
なんとか3章も完成できそうです
いつもご視聴ありがとうございます。
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