ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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32話:4体目 フラーシア

 

 

 『ブルーベリー学園』はトレーナーズスクールの中で最高峰に位置付けされた教育施設だ。

 語ることは多々あるが、特筆すべきは巨大なドーム状の学園内に用意された、人工庭園の「テラリウムドーム」だろう。

 4つに分けられた広大なエリアには、世界各地のポケモンが生息して捕獲することができる。

 一概に比較できるものでもないが、資金,人材,施設の規模だけで言えばカントー地方のポケモンリーグ以上かもしれない。

 

「な、なんかすごいところに来ちゃったよ俺達……!」

 

「ビビり過ぎですよサトシ君……でも確かにこれは圧倒されてしまいますね」

 

 ドーム中央の広場へと招集された、デュフォー率いるカントー選抜メンバーがその光景に圧倒され、萎縮するのも仕方のない話だった。

 初見にも関わらずどこ吹く風で飄々としているのは、ナツメとキクコくらいのものだ。

 

「他のスクールとはポケモンバトルの教育比重もレベルも段違い。

 生徒同士の闘争心や対抗意識を強めるため、色々なシステムがあるみたい」

 

「学園限定のランクやチャンピオン、四天王といったあたし好みの制度もあるみたいだね。

 あと30年若かったら、ここに喜び勇んで飛び込んだろうさ」

 

「キクコさん、『40年』の間違いでは?」

 

「細かいこと言ってると男にモテないよ」

 

 手慣れた様子でキクコがアマネのツッコミをあしらう。

 この3週間でキクコも度々コーチングを手伝う過程で、メンバーと交流を深めていった。

 デュフォーが多忙な時に代役を務めた彼女の存在は、影の功労者と言っても過言ではない。

 

「ところで、誰か()()に突っ込んでくださいよ」

 

「ええっ!? アマネが言ってよ。俺、昔色々あってナツメがちょっと怖いんだよな……」

 

「「右に同じく……」」

 

 サトシ、タケシ、カスミ、アマネがひそひそと耳打ちする視線の先。

 今まで飾り気が少ないパツパツの服ばかり着ていたナツメが、今日は露出が多いへそ出しのキャミソール姿で唐突に現れた。

 手入れのされていなかった黒髪のロングヘアは前髪がセットされ、先端は少し短くなりカールがかかっている。顔も心なしかうっすらメイクしているようだ。

 容姿が激変した*1ナツメが気になりながらも触れられない者、気にも留めずスルーする者ばかりでツッコミ不在でボケ続けている奇妙な光景となっていた。

 

「化粧はまだ初めたばかりか……」

 

「ゼオン君、今何か言いました?」

 

 呟きをアマネに拾われ、ゼオンは珍しく慌てた様子で我に返る。

 

「ん!? いや何でもない。今のは忘れてくれ!

 ……ところでデュフォー、気づいているよな」

 

「ああ、()られているな。特にオレ達が」

 

 ゼオン、デュフォー共に広場の全方位から向けられる視線に否が応でも気付かされる。

 ネット上でバズった自分達が注目、または警戒されているのだろう。

 魔界の王を決める戦いでは決して起こり得なかった新鮮な状況に、ゼオンは若干のむず痒さを感じながらも表面上は平静を装う。

 

 その間も一定時間置きに、たくさんのトレーナーの塊が広場へと続々と集まってくる。

 そのグループ数が10にも及ぼうかという頃合いで、純白のスーツを纏った中年男性が、両脇にトレーナーをぞろぞろとひっさげ広場の中央へとやってきた。

 タマランゼ会長やオーキド博士と年代は近いが、彫りの深い顔立ちに褐色の肌、引き締まった体といい、容姿の系統は真逆と言える。

 

「各地方から選ばれた精鋭トレーナーの皆さんが今集まったようです!

 この僕、シアノのブルーベリー学園へようこそ!」

 

 声を張り上げるシアノと名乗る校長の下へ、各グループが集う。

 互いの顔がはっきりと見える位置まで各々が接近し――

 緊張を走らせるサトシとピカチュウ。

 無表情でチラチラとデュフォーを盗み見するナツメ。

 微笑みながら各チームと視線を交わすアマネ。

 そして、この会場で最も注目を集めながらも不動で前方を見据えるデュフォーとゼオン。

 其々の前で、シアノの隣で待機していたチーフスタントらしき女生徒が前に出る。

 

「明日より、選抜チームによる大会が当校で行われます。

 まずは列島グループのカントー、ジョウト、ホウエン、シンオウチーム。

 諸国グループのイッシュ、カロス、アローラ、パルデアチームで予選リーグを行い、各グループで最も勝ちスコアの高いチームを決めます。

 そしてシード枠のガラルチーム、当校のブルーベリー学園チームを加え、4チームによる決勝戦を行うこととなります」

 

 説明にあった試合ルールは、デュフォーにとってはやや都合の良いものだった。

 9チームに全勝するのは骨が折れるが、優勝するまでに最低でも3チームとは戦わずに済むのはありがたい。

 

「更に今大会ではメガシンカ、ダイマックス、テラスタル、Z技は使えませんが、ポケモンの制限はありません。

 伝説のポケモンや新種のポケモン、何でも使ってOKです!

 ただし、バトル中のAI判定でトレーナーが完全に制御できてないとみなされた場合は、そのポケモンは負けとなり以後使用不可能となります。

 この場での説明は以上になります。それでは、本日は当校でご自由にお過ごしください」

 

 最低限のルールだけを伝え、女生徒達とシアノは去っていく。

 各チームの選手達も、内々で話し合いながら順次解散していった。

 残されたデュフォー達も、この場に留まる選択肢を早々に放棄する。

 

「まずは全員で校内散策をしたいですね。自由に過ごして良い、ということはこのドーム内に生息しているポケモンの捕獲も自由、ということでしょう」

 

「それなら何人かでチームを組んで手分けすべきだろうね。

 最低でもペア以上で動いた方がいいよ」

 

 キクコの指摘はデュフォーも重々承知している。

 まずテラリウムドーム自体が広大で迷いやすく、散策に多少の危険も伴う施設だ。

 落下や怪我防止のアンチグラビティシステムなどのセキュリティは動作しているが、それでも100%安全が保証されているわけではない。

 さらに、他チームや生徒から変な絡み方をされるリスクも考慮すれば、単独行動は可能な限り避けるべきだろう。

 そうなると、次はどうチームをわけるかという話になってくるのだが――

 

「ならばオレにペアを決めさせてくれ」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 草原をゆるりと進むゼオンの頬を、乾いた風が優しく打ち付ける。

 草が腰の上まで生えていて鬱陶しくはあるが、掻き分ければ歩けないことはない。

 サバンナエリアの散策を担当することになったデュフォー組は、既に草原ゾーンの中程まで進んでいた。

 カントー地方では見たことのない野生のポケモン達をマイペースで調査,捕獲していると、

 

「デュフォー、どうして俺を選んだの?」

 

 背後からサトシの声が聞こえ、デュフォー達は歩みを止める。

 このペアを申し出たのは他でもないデュフォーだ。

 その理由も話さぬままやってきたところで、デュフォーは受けた質問に対して質問を返す。

 

「ここ3週間、自分の力が停滞していることに悩んでいるのだろう?

 そのことについてオレに言いたいことがあるんじゃないか?」

 

 神妙な顔でだまりこくるサトシの様子が、無言の回答となっていた。

 デュフォーとゼオンの指導もあり、サトシのポケモン達は一回り成長を遂げたのだが肝心のサトシの指示がどうも締まらない。

 原因は明らかで1つしかなかった。

 

「サトシの不調は、ミュウツーとゼオンの攻撃を受けて石化した時の後遺症から来ている。

 具体的には指示の遅れ――1秒の25%、つまり0.25秒程反応時間が遅くなっている」

 

「そんな短い時間なら、大した影響出ないと思うんだけどなぁ」

 

「サトシもたまにスマホロトムで知り合いと、息抜きのオンラインゲームをしているよな。

 通信に0.25秒の遅延が発生したとしたら、どれだけ致命的かわかるだろう」

 

 わかりやすい例を突きつけられサトシもようやく深刻さを理解する。

 0.25秒はping250相当。

 それ程の遅延があったら、そんな対戦オンラインゲームはまともに成立するわけがない。

 

「とはいったものの、デュフォーが今までに解決策を提示してないってことは現状打つ手無しってことだろ。

 ……うん? 前方にトレーナーがいるみたいだが……何をしているんだあれは」

 

 先頭を進むゼオンの視界の先。草原の少ない開けた場所で、一人のトレーナーが10体程のポケモンを引き連れ整列させている。

 サトシと同い年くらい、目つきに険のある紫髪の少年がスマホロトムを次々かざしていく。

 よくよく見ると1体を除き全て、りくザメポケモンのフカマルだった。

 

「個体値はAが一番優秀。次点がDか。性格は後で()()すればいい。

 ……残りの個体は使えないな。ナックラー、お前は論外だ」

 

 少年は全てのフカマルを戻し、2つを除いたボールをオンラインでボックス転送する。

 ナックラーと呼ばれた、ありじごくポケモンに至ってはその場に取り残されたままだった。

 

「なあ、今フカマル達に何してたんだ? もうほとんどのフカマルをボックスに送っちゃったみたいだけど」

 

 今までに見たことのない光景に純粋な興味を持ったサトシが少年に声を掛ける。

 デュフォーは見ただけでその少年が行っていた()()()()を理解していたが、あえて口を挟まずサトシ達のやりとりを静観する。

 

「卵から孵化したばかりのフカマル達から、強い個体を一斉に選別していただけだ。

 不要な個体は後に生息適正地で全て逃がす。……余計なのも含まれてたがな」

 

「あれで強いヤツがわかるのか!?

 でもさぁ、せっかく生まれたのに育てもしないで逃がすなんて可哀想じゃないか?」

 

「図鑑に搭載されているポケモンの強さを判定する機能を使ってるだけだ。

 バトルで使いものにならないポケモンはデータを見るだけでわかる。

 わざわざ試すまでもない」

 

 あまり育成リテラシーの無いサトシの言葉に、少年はため息を吐きながらも律儀に答える。

 サトシはこの少年が学園の生徒かどうかわからずにいたが、デュフォーは先程の開会式で見た憶えがあった。

 

「お前は選抜大会の選手だな」

 

「ああ。俺はシンオウ地方代表のシンジ。プラチナランクの475位だ。

 あんたはカントー代表のデュフォーだろ」

 

 シンジと名乗る少年も大会の選手だけあり、やはりデュフォーはマークしていたのだろう。

 それに対抗するかのようにサトシも前に出る。

 

「俺はマサラタウンのサトシ。ゴールドランクの2320位だ!

 ゲットしたポケモンが使えないかどうかなんて、実際に育ててバトルしてみなきゃわからないだろ!? それに、フカマルよりナックラーが弱いってどうして決めつけるんだ!」

 

 サトシのランクを聞いたシンジの眉がピクり、と釣り上がる。

 自分より下位のトレーナーに食ってかかられたことで、明らかに表情に不快感が浮かび上がっていた。

 

「なんだ? 俺はシンオウ地方の代表として、招聘(しょうへい)されてここに来ているんだぞ。

 余所者がその俺の活動批判をするのか? しかもゴールドランク止まりのお前が!」

 

「ご、ごめん。でも俺も代表選手だし……」

 

 己の立場がいままでとは違うことに気付き慌ててサトシが謝るが、シンジの態度が軟化することはなかった。

 

「お前が代表だと? カントー地方は選抜にゴールド程度のトレーナーを引っ張り出さなきゃならないほど人材不足なのか?」

 

「くっ……でも、俺だけじゃなくてデュフォーだってそんな育て方してないぞ!

 それに俺をメンバーに選んだのは、デュフォーだ!」

 

 急に話が飛び火するが、それでもデュフォーは冷ややかな表情で首を横に振る。

 

「確かにオレは同一種を複数体入手して、選別する方法を取ったことは一度もないな。

 しかしそれは、オレの能力にもっと見合った手段が他にあるからであって、シンジの方法自体を否定するつもりはない。

 むしろ、()()が打てる手の中では上策じゃないのか」

 

「……あんたがそう言うなら、一応は褒め言葉として受け取っておこう」

 

 凡人呼ばわりされながらも、シンジは特に機嫌を損ねることなく鼻を鳴らす。

 明らかにサトシとは接する態度と扱いが段違いだ。

 

デュフォー(オレ)のランクもお前より低いが、下に見たりはしないのか?」

 

「あんたの場合は例外だ。実際に戦ったわけでは無いが、実力とランクが釣り合ってないように見える。

 ネット上ではさまざまな疑惑が出ているが、実績と雰囲気から判断する限り、あんたの強さは本物だろう。

 おそらく今の俺より強いのかもしれない」

 

 毅然と言ってのけるシンジに、ゼオンとサトシは少しだけ認識を改める。

 ただ冷淡で抜き身の態度を取っているだけではなく、周囲に流されない客観的な判断力と眼力も併せ持っているようだ。

 

「あんたに敬意を表し、選出メンバーの批判はここまでにしておこう。

 続きの話はあんたからそいつにしておいてくれ」

 

 教えることはできるが、わざわざ手の内を明かす筋合いは無い、ということなのだろう。

 デュフォーもそれを汲み取り、シンジに代わってサトシに厳選方法の有用性を説明する。

 

「ポケモンには生まれつき、個の強さと種の強さがあるのは知っているよな」

 

 サトシが否応なしに頷く。

 ポッポという種族は総合的な強さにおいてリザードンという種族には決して敵わない。

 サトシのピカチュウとヒロシのレオンは同じ種族ではあるが、素早さや打たれ強さといった能力が微妙に異なる。

 そういった概念くらいはさすがに理解している。

 

「バトルにおいては同じ種族の場合に、どうしても覆らない優劣がつく場合がある。

 シンジは図鑑の能力をジャッジする機能を使って、強個体のフカマルを厳選したのだろう。

 更に、ナックラーとフカマルの最終進化系、フライゴンとガブリアスは同じタイプでありながら、基礎能力的にはガブリアスが全てにおいてフライゴン以上。

 技や特性の違いはあるが、それでもバトルの性能的にガブリアスが上というのは紛れもない事実だ」

 

 使うつもりの無いナックラーまで厳選作業に紛れていたのはシンジのケアレスミスだった。

 しかしそれが理由で同情して起用するわけにはいかない。

 シンジが今求めているのは最強のガブリアスなのだから。

 

「それじゃあデュフォーは……あっ」

 

 サトシは何かを言いかけようとして言葉を飲みこむ。

 シンジのやり方が合理的であるなら、何故デュフォーは取り入れないのか。

 デュフォーはエスパーの様な力を持っている。

 もし、図鑑の機能を使わずとも強いポケモンを見抜ける力があるとすれば、選別作業すらする必要はない。

 デュフォーに特殊な力があることをわざわざ敵チームのシンジに教えるメリットが無いことに気付き、寸前で黙りこくったのであった。

 

「俺は育成作業があるからそろそろ一人にならせてもらうぞ。

 精々お前は今日一日、デュフォーに基礎を叩き込んでもらうんだな。明日からの大会でつまらない相手と戦うのはゴメンだ」

 

 言いたいことを言うだけ吐き捨て、シンジは颯爽と去っていく。

 その後姿を黙って見届けるしかなかったサトシの横で、シンジの姿が消えたことを確認したデュフォーが、突如見捨てられ途方に暮れているナックラーに視線を落とす。

 

「さて……お前はシンジに捨てられたわけだが」

 

「ナクアア……」

 

「オレと一緒に来るか?」

 

 デュフォーの言葉に「ええっ!?」とサトシが飛び上がり、ゼオンはほう、とだけ呟きナックラーを一瞥する。

 

「オレはフライゴンの基礎能力が、ガブリアスより下だとは言ったが、このナックラーがバトルで使えないと言った憶えはない。

 こいつはサトシのピカチュウやゼオンと同じ、"特殊個体"だ」

 

『行くあてが無いならオレ達と来い。オレがバトルでお前を活躍させてみせる』

 

 共通言語で口説かれ、先程まで少しだけシンジに未練を見せていたナックラーはデュフォーにすり寄る。

 シンジの言葉は理解できなかったが、さすがに自分が捨てられたことはわかったのだろう。

 ならば、自身を求めてくれるこの新しい主に着いていくべき、と判断するのはごく当たり前だったのかもしれない。

 

「お前の最終進化系の学術名はフライゴンだったな。

 せいれいポケモンちなんで今日からお前は――"フラーシア"だ」

 

 

*1
HGSSバージョン




いつもご視聴ありがとうございます。

各地方の選抜大会だけあって
シンジの様な、他地方のライバル達がちょくちょく登場する予定です。



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