ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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33話:開幕

 

 

「皆様、おはようございます。これより第6回地方リーグ選抜大会の予選を開始いたします」

 

 スタッフの生徒が拡声器を通して流したアナウンスが、試合会場に鳴り響く。

 デュフォー率いるカントーメンバーと、ジョウト地方の選手がバトルフィールドを挟んで相対し、その周囲をホウエンとシンオウの選手が観戦すべく取り巻いている。

 選手の中でただ一人、緊張を隠さず唇を固く噛みしめる者がいた。

 シンジとのいざこざから1日経ち、結局後遺症の問題を解決できずにいるサトシ。

 それに気付いたゼオンが優しく拳で背を小突く。

 

「切り替えろ。出来ないことを無理にどうにかしようと思わなくていい。

 いつも通りバトルをするのが、今のサトシに出来る一番のことだ」

「ピカー!」

 

 背後から励ますゼオンと相棒(ピカチュウ)に、サトシは精一杯の微笑みで応える。

 いっそのことヒロシやシゲルが選ばれれば――そう頭に過ぎったこともあった。

 しかし自分が選ばれた以上、ゼオンの言う通りに現状のベストを尽くすしか無い。

 

「これよりカントー対ジョウトの試合を開始します。各リーダーは前へ出てください」

 

 フィールドの中央に歩むデュフォー。

 そしてその正面に立ちはだかる、大きなサングラスが特徴的な低身長の青年。

 両者、どちらともなく右手を差し出し握手を交わす。

 

「あんたがデュフォーか、噂はかねがね。ジョウトリーダーのモ・コージーや」

 

「……いい試合をしよう」

 

 無表情で応えるデュフォー。今回もいつも通り、相対したコージーの力量を冷静に分析し、戦略を頭の中に次々と構築しているのだろうか。

 いや、その実内心で初めての事態への対応を迫られていた。

 

(この男……()えないな)

 

 元の世界で魔界の王を決める戦いのパートナーとなる人間、魔物、そしてこの世界のポケモンとそのトレーナー。

 それらの強者には"オーラ"を纏っているという共通点がある。

 オーラといっても、漫画やアニメの様に超人的な身体能力を得る代物でもなければ、胡散臭い自称霊能者の言う、前世や守護霊の力といったものではない。

 積み上げた力,秀でた能力,己への揺るぎない自信の顕れ、立ち振舞への表現だ。

 その力強さでおおよその器量,実力を察知できるのだが、このコージーという男は違う。

 一般トレーナー以下の平坦なオーラかと思えば、消える直前の炎の様に一瞬だけ大きくゆらめくような輝きを放つ。

 

(一見脅威性は無さそうだが、同時に底知れない雰囲気を感じる。

 決して侮らず、四天王クラスを相手にする覚悟でいた方がいいな)

 

「勝負の方法はどないする?」

 

「スタンダードルールでどうだ。

 1対1のシングルバトル2戦と、その間に挟まる2対2のダブルバトル1戦、の3本勝負形式だったな」

 

 なまりの強いジョウト弁で問いかけるコージーに、デュフォーは運営側から用意されたベーシックな対決方法を提示する。

 あまり時間をかけすぎず、なおかつ出場メンバー全員に平等にバトルの機会が与えられる、予選用の叩き台ルールだ。

 

「ええで。おそらく世間とギャラリーは俺とあんたの戦いを望むはずや。

 俺もできることならオーダーを教えてあんたと当たってみたいが、それはちと野暮やな。

 自力であんたを引き当ててみせるで」

 

 両者はそこで会話を切り上げ、仲間達の元へ戻っていく。

 戻ってきたデュフォーを出迎えるゼオンも、コージーの強さを見いだせずにいた。

 

「あの男は有名なのか? 強いんだか弱いんだかよくわからんな」

 

 だが、元々この世界にいた者達の反応はまるで違う。

 

「デュフォー、あのコージーさんに知られてたなんてすごいぜ!」

 

「確か、"コージーフライドキッチン"のオーナーでしょう。世間に疎い私も知ってるわ」

 

「モ・コージー選手。知名度だけで言ったらデュフォー君より上です。

 有名フランチャイズレストランの経営、poketubeの最大手配信者、色々な顔を持っているマルチトレーナーです。

 強さがわからない、というゼオン君の感覚はある意味で正しいですね。

 格下にあっさりと取りこぼすこともあれば、チャンピオンクラスの恐ろしい勝負強さを見せる強い二面性を持っています」

 

 アマネの発言を要約するなら、強いことは強いがセセリ以上に実力の波が激しい選手ということなのだろう。

 デュフォーはすぐさま、サトシをコージーにぶつける戦術を考慮する。

 コージー側の下振れを引いた場合、サトシでも勝てるチャンスがある。

 一方で上振れを引かれて負けた場合も、ナツメやデュフォーといった勝ち星要員が危険な戦いを避けることができる。

 安全勝ちを狙うなら、ぜひとも狙うべきオーダーではあるが――

 

「順当に考えればコージーは最終戦に出てくるだろう。オレが相手になる」

 

 あえてそのプランを取り下げたデュフォーの意図を、キクコは察知するが口には出さない。

 

(たとえチーム全体で勝っても、サトシの坊やが負けた場合は、デュフォーの坊やが捨て石として使ったという結果が残ってしまう。

 目先の勝利よりもチームの結束力を優先したってとこかね)

 

 その選択が吉と出るか凶と出るか。

 アンサー・トーカーの力を封じられ、先の展開が読めないのにも関わらず、オーダー表をスマホに入力するデュフォーの表情に迷いは無かった。

 

カントー代表

 シングルス2

 サトシ(ゴールドランク 2320位)

 ダブルス

 ナツメ(クリスタルランク 640位)

 アマネ(プラチナランク 334位)

 シングルス1

 デュフォー(クリスタルランク 605位)

 

ジョウト代表

 シングルス2

 ミナキ(ダイヤモンドランク 136位)

 ダブルス

 イブキ(プラチナランク 311位)

 イツキ(プラチナランク 225位)

 シングルス1

 モ・コージー(プラチナランク 290位)

 

 バトルフィールドの上層に設置されたディスプレイにオーダーが表示されると、会場内がにわかにざわつく。

 カントーとジョウトのカリスマ同士が大将戦でぶつかることになる。

 エンターテインメントとしては文句のない展開だ。

 

「それでは、カントーチーム対ジョウトチーム、シングルス2の試合を開始します。

 サトシ選手、ミナキ選手、使用ポケモン1体を選出して前へ!」

 

 緊張を隠すこと無く、ゴクリと息を呑みながらサトシがギャラリーの視線と注目を一手に集めながらフィールドに入場する。

 既に対戦相手である純白のマントを羽織った青年は、自信と誇りを携えた笑みを浮かべ待ち構えていた。

 

「マサラタウンのサトシだ。よろしく! 行くぞ、ピカチュウ!」

 

 全幅の信頼を寄せている傍らの相棒が大きく頷き、全身に静電気を纏わせ――

 

「僕はミナキ。よろしく頼むよ。……任せたぞ、スイクン!」

 

 ミナキがボールからモンスターを繰り出すと、その場の名を知る者全員が驚きに染まる。

 

「スイクン……!?」

 

 透き通った水色の全身にオーロラと水晶の様な装飾を纏う、四足獣のポケモンが美しい雄叫びをあげる。

 世間には口伝と名前のみ伝わるジョウト地方の伝説ポケモンが、現実として顕現した。

 

「大丈夫かサトシ……。あいつ並のポケモンとは次元が違うぞ」

 

 ゼオンはスイクンが放つ迫力と神聖な気を一目見ただけで、力量を悟り冷や汗を流す。

 自分が戦うのならまだ問題はないレベルだが、今のピカチュウが戦うとなるとその力は不安と脅威でしかない。

 サトシとピカチュウも必然、気圧される後ろでコーチャーを買って出たタケシ、カスミ、キクコがスタンバイを済ませる。

 

「キクコさん、伝説のポケモンが公式大会で使われるのって、相当珍しいですか?」

 

「色々ハードルがあって、普通はバトルで使われないね。

 まず見つけるのが大変だし、見つけても簡単には捕まえられない。

 捕まえられたとしても並のトレーナーじゃ言うことを聞いてくれない。

 よしんば従ってくれたとしても、生息地域も繁殖方法も不明だから、育成に関して失敗が許されない。

 色々踏まえて使うってことは、よっぽどトレーナー側がそのポケモンを愛しているか、運用に自信があるんだろうね」

 

「サトシったら完全に萎縮してる……何かアドバイスできないかなぁ」

 

 一般のみずタイプポケモン相手ならともかく、伝説級が相手では一介のジムリーダーでしかないカスミでは助言などできっこない。

 状況と立場を察したキクコは顎に手を当て思案した後、背後から声を掛ける。

 

「サトシの坊や。強者には固有の特徴やパターンってものがあるよ。

 伝説のポケモンと言ってもそれは大きく変わらない。まずはそこを突き止めるんだよ」

 

 あえて答えは出さず、ヒントの範疇に押し留められるコーチング。

 みなまで言ってしまったら、それはキクコがサトシをラジコンで丸々コントロールしているのと変わりない。

 本人に考えさせ、気付きを与えるための指導を受け、サトシは己の戦歴と経験を振り返る。

 ゼオン、ミュウツー、ドンカラス(オカシラ)、カンナのラプラス。

 あの次元のポケモン達に共通する点は――

 

「それでは第1試合、始め!」

 

 審判の合図と同時に、サトシは頭に過ぎった仮説を検証すべく最初の指示を口にする。

 

「ピカチュウ、でんきショック!」

 

「ピカー!」

 

 指示に忠実に従い、迷うこと無くピカチュウがでんきショックを放ったことで、会場内はまたもやざわつきを見せる。

 

「でんきショック? でんきタイプの初級技をここで使うのか?」

 

「このレベルの戦いで、どうやって活用するつもりなのかな……」

 

 観戦者達が意図を理解できぬプレイングの理由は、直に明らかになる。

 ピカチュウが放った電撃が、何もしていないスイクンの目鼻先で跡形もなく霧散した。

 想定通りの結果になったことに、ゼオンは満足そうな笑みを浮かべる。

 

「そうだ。強者は手段や性質は違えど、常に特有の防御手段を常時展開している。

 おそらくスイクンの場合はオーロラと結晶をベースにした透明な障壁型のバリアだ。

 ミュウツーよりは出力で劣るが、一般ポケモンの攻撃を防ぐには十分だろう」

 

 実力の不明な相手へ闇雲に直接大技を放っても防がれ、消耗と隙を生むだけ。

 ならば最小限の力で相手の守備力を測り、それから攻め方を考えても遅くはない。

 サトシの戦術、そしてスイクンの性能を一つ理解した観戦者達が誰ともなく感嘆する。

 そしてその反応から、ミナキの方も観戦者達のおおよその力量を察していた。

 

(さすがに各地方から選抜された精鋭達だけはあるな。

 一見ミスチョイスに見えるサトシ君の指示をバカにしたり一笑することなく、思考を巡らせ結果から情報を得た。

 このまま戦い続ければ更に、これから戦う相手に僕とスイクンの力を知られていくだろう。

 そして何より、まずはこちらの力を測ろうとしたサトシ君は侮れない。

 年齢とランクの割にかなりの経験値を積んでいそうだ)

 

「まずは様子見をしにきたのならば、その隙を活用させてもらおう。

 スイクン、"めいそう"だ!」

 

 深く集中するスイクンの生命エネルギーが見る見る強まっていく。

 特殊攻撃と防御を一手に強化するバフ技を見せられたことで、サトシは早々に悠長な戦術を縛られてしまう。

 

「あまり時間はかけられない。だったらピカチュウ、"ほうでん"だ!」

 

 二の矢として放たれた電撃は、でんきショックよりも威力、範囲共に桁違いの中級上位技ではあるが、めいそうにより障壁を強化したスイクンには全くもって通用しない。

 返しの技を指示しようとした直前、ミナキがスイクンの異変に気づく。

 

「ウウウ……」

 

「どうしたスイクン……痺れているのか? あの"ほうでん"はダメージを与えるのではなく、一時的な麻痺が目的か!」

 

 スイクンの障壁はダメージこそ防ぐが、状態異常までは対応していない。

 攻撃技の中でも相手を安定して麻痺させることに特化した"ほうでん"を使うことで、サトシは障壁の性質把握と機動力低下の両方を狙っていた。

 スイクンが硬直して歯を食いしばっている今、読みが当たったということだろう。

 

「至近距離ならバリアの効果は大きく弱まるかもしれない!

 行けピカチュウ、"10まんボルト"!」

 

「ピーカー!」

 

 機動力を失ったスイクンへ、ピカチュウが見る見る距離を詰め真正面へと食らいつく。

 早くも訪れた攻撃のチャンスではあるが、全身を震わせ強力な電撃を放とうとするピカチュウを捉える、ミナキの両眼がギラリと光る。

 

「悪くない選択だが、一手違いだ。"ミラーコート"!」

 

「しまった!」

 

「ピカ!」

 

 電撃が発生し、着弾する瞬間。ジャストのタイミングでスイクンが半透明の障壁を発生させ、"10まんボルト"のエネルギーを反射させる。

 まともに反撃を受けたピカチュウは後方へ吹き飛ばされ、うつ伏せに倒れ込む。

 その好機を逃す程、ミナキは生易しくない。

 

「相手は倒れて動けないぞ! 狙いをしっかりさだめて"ハイドロポンプ"!」

 

 命中させるのに技術を要するハイドロポンプも、倒れている相手なら当てるのは容易。

 一撃で勝負を決めるべく放たれた水の砲撃はピカチュウの身体に吸い込まれ――

 

「逃げろピカチュウ!」

 

 る目前で、辛くも横っ飛びで避けられる。今度はミナキが驚く番だった。

 

「あのカウンターを食らって何故立ち上がれる!?」

 

「……」

 

 サトシは特別な指示を出していない。つまりピカチュウの技量で対応したことになる。

 かつて、カンナのラプラスと戦った時も、弱点を突いた攻撃に対してミラーコートでの反撃を受けた経験から、ピカチュウはこの事態を予測して保険を打っていたのだ。

 10まんボルトの出力の内、あえて半分だけをスイクンへ放ち、残りの半分を電撃エネルギーとして身体に纏わせていた。

 結果、半減された反射電撃と防御用の電撃が相殺したことで、衝撃こそ防ぎきれなかったもののダメージ自体は激減。

 カウンターの攻撃に対する更なるカウンターを地に伏せながらも狙っていたのだ。

 一連の攻防とそれが成立した理由に気付き、ゼオンは小さく拳を握っていた。

 

「ピカピカー!」

 

「行けピカチュウ! 今度こそ"10まんボルト"」

 

「スイクン、"れいとうビーム"!」

 

 至近距離で、電撃と冷気の塊が交錯する。右脇腹へとまともに弱点タイプの技を被弾し、さすがにダメージを負いながらもまだまだ続投可能なスイクン。

 そして――無防備なみぞおちへとカウンター気味にれいとうビームを食らい、目を回し仰向けに倒れ込むピカチュウ。

 誰の眼にも決着は明らかだ。

 

「ピカチュウ、戦闘不能! 第1試合はミナキ選手の勝利!」

 

「くっ……。俺の負けだ……」

 

 ピカチュウの容態を気にかけながらも、負けた悔しさに膝を着きかけるサトシへ、ミナキは

 

「ありがとう。いずれまた戦おう」

 

 とだけ言い残し、スイクンを戻すと早々にバトルフィールドを後にする。

 

 根本的な敗因は、進化前であるピカチュウと伝説ポケモンであるスイクンの圧倒的な実力差にあるだろう。

 だがそれとは別に、ピカチュウがスイクンの右側に回り込んだ時、サトシ君がその動きに反応して、指示をするのがほんの少しだけ遅れていた。

 そのせいで技を打つタイミングが遅れて、技同士の衝突に押し負けてしまったのだ。

 それをわざわざ口にするのは、敵へのおせっかいと同じ。

 下手にサトシのプライドを傷つけまいと言葉を飲み込んでいた。

 

 そして、味方達もこの勝負に対する総括は全面的にミナキと同じものを抱いていた。

 サトシの不調関係なく、他地方の強敵からの強烈な洗礼を受けたことで――

 

「アマネ、ビビったか?」

 

「まさか。他人のために勝とうだなんて、初めての経験で心躍りますよ」

 

 ゼオン、アマネ、といった戦いを控えるカントーチームのメンバーに火がつくのであった。

 

 

 

 




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