ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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34話:マンダは初手竜舞

 

 

 激しい風雨が吹き荒れる雨のフィールドで、4体のポケモン達によるバトルが続く。

 

「物理攻撃が来る……エーフィ、"リフレクター"を貼り直して」

 

「カメックス、"りゅうのはどう"です」

 

「ネイティオ、スピードのアドバンテージを取り戻すぞ。"おいかぜ"!」

 

「キングドラ、ここで勝負を決めるわ! "げきりん"!」

 

 ナツメ、アマネ、イブキ、イツキによる第2試合のダブルバトル。

 水タイプのメインアタッカーと、変化技を反射できるとくせい"マジックミラー"を持つサポーター、奇しくも同種対決となっていた。

 カメックスを繰るアマネは、目まぐるしく主導権が入れ替わる攻防の中で、チラリと他トレーナー達に意識を移す。

 

 際どいセクシーな衣装が注目を惹くジョウト最強のジムリーダー、ドラゴン使いのイブキ。

 仮面で素顔を覆っている、今季ジョウト大会優勝者のエスパー使い、イツキ。

 若くして四天王に最も近いと言われている麒麟児の二人――今のアマネからすれば相当の格上ではあるが、攻防はややアマネ達が押している。

 その理由はやはり、理不尽に近いレベルのナツメによる超能力のサポートだろう。

 

 キングドラはとくせいにより相手に()を迫る。

 天候が雨状態で速度と火力を大幅に強化する"すいすい"と、急所を突いて大ダメージを与える"スナイパー"型。

 どちらも強力で読み違えば大変なことになるのだが、ナツメの第六感により"すいすい"型であることを事前に察知。

 リフレクターとひかりのかべによる耐久サポートで、戦いを優勢に進めていた。

 

「「グオオ!」」

 

 "からをやぶる"と雨天候により強化されたカメックスとキングドラの攻撃が同時にクリーンヒットし、両方ともダブルノックダウンする。

 その後ろに控えていた、エーフィとネイティオが一瞬硬直する中――

 

「"シャドーボール"。2秒後に後ろに跳躍して」

 

「っ……ネイティオ、"シャドーボール"!」

 

 状況を予知したナツメの指示が勝り、"シャドーボール"が先にネイティオへ着弾する。

 僅かな猶予を得たエーフィは後方へと退避することで"シャドーボール"の衝撃を和らげ、どうにか最後まで倒れずに耐え抜いた一匹となった。

 

「カメックス、キングドラ、ネイティオ戦闘不能! この勝負、カントーチームの勝利!」

 

 審判の宣言と同時に、アマネは安堵したかの様に一息ついて脱力する。

 

「あっぶなー……ナツメさんが味方で本当に助かりましたよ。

 エスパーの力使ってたのに、結構際どい勝負でしたね」

 

「本番の公式試合でエスパーの力を処理演算に使うのは初めてだったから、試しに出力を5割に抑えてたけどそのせいでかなり危なかったかも」

 

 さらっと物騒な言葉が聞こえた気がするが、兎にも角にもこれで1勝1敗。

 決着が委ねられた両チームの大将へ、各チームのメンバーが集う。

 

「コージーさん、僕は正直あなたが苦手だ。

 普段のランクマッチで戦闘向けじゃないポケモンを使って、あっさり負けるところ。

 poketubeのライブ配信でスポンサーや現行の運営に対する不満を垂れ流すとこ、不満を挙げればキリがない」

 

「わたしも右に同じく」

 

 敗れたポケモンを労いながらもボールに戻し、悔しさをまだ引きずったままのイブキとイツキ。

 

「僕は別に好きでも嫌いでも無いが」

 

 勝ち星を上げた余裕から飄々と構えるミナキ。

 

「これが普段のランクマッチなら、コージー君はデュフォー君に余裕で負け越すと思うわ」

 

 他人事のように力量比較を口にするカリン。

 好き勝手言いたい放題のメンツ相手に、コージーは苦笑しながら冷や汗を流す。

 

「君ら試合の前にどうしてそういうこと言うん?」

 

「それでも、あなたの類まれな勝負強さだけは信頼しているからだ。頼む、勝ってくれ」

 

「なんだかんだ言って美味しいとこ持ってくんでしょ。結局、あんたが大将ってこと」

 

「僕のスイクンに一度は勝っといて、他のトレーナーに負けないでくれよ」

 

「大事な一発の真剣勝負ならあなたのほうが優勢だと思う……だからデュフォー君ではなくあなたを選んでジョウトのコーチャーを買って出たの」

 

 四者四様の激励に対しコージーは何も応えない。

 ただ右腕を突き上げながら、デュフォー達が待つフィールドへと足を踏み入れる。

 トレーナーとしては一匹狼だったコージーが、今回ガラにもなくチームのリーダーのを引き受けたのは、自身が展開しているフランチャイズと配信の宣伝目的だった。

 それ以上を持ち込まないビジネスライクの役回りのつもりだったのに、両肩にのしかかる仲間の想いと重責は、案外心地悪くないものだった。

 

「あのナツメの嬢ちゃん、まさに影のエースやな。あんな切り札隠しとくなんて人が悪いで」

 

「それは、秘密兵器だから隠しておくものだろう」

 

「ハハ、マジレスするなんて生真面目なやっちゃな。あんたも仲間からしっかりプレッシャーかけられて来たんか?」

 

「……そんなところだな。行くぞ、ゼオン」

 

 無愛想な態度のデュフォーに対し、コージーは上機嫌そうにニヤつきを尖らせながら、モンスターボールを鼻先に突き出す。

 

「多くは語らん(おとこ)か。……行くで、ボーマンダ!」

 

『ギャオオオ!』

 

 ボールから飛び出すやいなや、三日月の様な両翼を広げ咆哮をあげる巨大な翼竜。

 ボーマンダと視線をかわしたゼオンが静かに魔力を生命エネルギーに変換し、開放する。

 まだ戦いは始まっていない。2体が戦闘態勢を取っただけで会場の空気は一変した。

 気づけば観客の数は先程までの10倍以上に膨らみ、フィールドを埋め尽くすように取り囲っている。

 

「ボーマンダ。この世界で10種と確認されていない、大器晩成ポケモンの1体だね」

 

 カイリュー、ボーマンダ、ガブリアス――

 一般ポケモンでありながら、伝説級のポケモンとスペックで渡り合える者達がごく僅かだが存在する。

 うまく使いこなせれば公式試合においてこれほど頼りになる存在はいないが、育成難易度、トレーナーに従わせるハードルは伝説ポケモンに匹敵する。

 

 

「サトシの坊やにアマネのお嬢ちゃん。

 あんた達もいずれマスターランクになりたいなら、あのクラスのポケモンを使えないとね」

 

「え……でも、コージーさんってプラチナランクじゃなかった?」

 

「カントー大会でカイリューを使ってたユウジ選手もプラチナランクだっただろ。

 彼はオレンジ諸島のヘッドリーダーという役務があるから、ランクマッチをなかなかできず現行の形式とは噛み合わせが悪いだけで、トレーナーとしての基礎力はもっと上だよ。

 コージーの兄ちゃんも、ありゃちょっと特殊な例外だね」

 

 キクコが示す先、コージーはサングラスを掛け直すと、一変して周囲に語りかけるような芝居がかったセリフと態度を見せる。

 

「行くで! コージーの強ポケ狩り講座! 本日のお相手はデュフォーさんとそのパートナー、ゼオン・ベル! そしてこちらのマンダは……初手竜舞や!」

 

 唐突なコージーの宣言に一部のギャラリーはざわつき、ゼオンはその意図を理解できず訝しむ。

 

「なんだ……初手をわざわざバラしたわけはないよな? 心理戦か?」

 

「それでは第3試合、シングルス1始め!」

 

 審判の合図、次いでボーマンダはすぐさま体表にドラゴンエネルギーを纏わせ、身体をゆらゆらと揺れ動かす。

 身体能力を強化する"りゅうのまい"を発動しようとしていること、最初に使う技を相手に教えるという"舐めプ"を自分が受けたこと、それらにゼオンは眉をひそめる。

 

「強化技を使うとわかって、オレがそれを見過ごすお人好しだと思うか。"ほうでん"!」

 

 "りゅうのまい"を含め強化技は発動し切れば強力だが、完成までには時間がかかる。

 隙を作った後ならまだしも、試合開始直後にわざわざ発動宣言をして、ゼオン相手にそれをやりきるのは無謀に近い行動だ。

 

「マンダ、右に回避! 次は上、ほんで下に避けや!」

 

 次々とゼオンから打ち込まれる高速の電撃に対し、先程までの舞おうとした動きから一変、ボーマンダは距離を置き、コージーの指示でせわしなく縦横無尽に回避する。

 

「そちらからも攻めてきたらどうだ。それともこのまま、訪れない肉体強化のチャンスを待つつもりか?」

 

 ゼオンの主張は正しい。

 無策の積み技など決して通さない、ずば抜けた実力がゼオンにある。

 側にいてそれを一番わかっているはずのデュフォーが、防戦一方で避け続けるボーマンダの動きを追う内に、コージーの狙いに気付き目を見開く。

 

「……ゼオン、"りゅうのまい"を積まれるぞ」

 

「なにっ!?」

 

 デュフォーがデタラメを言うはずがない。

 しかし、この状況でどうやって成功させるのか、皆目検討もつかない。だが――

 

「ゴオオオ!」

 

 己の力を誇示、鼓舞するかの様に吠えるボーマンダの全身は、ゼオンが顔色を変える程の凄まじい生命エネルギーで漲っている。

 誰がどう見ても"りゅうのまい"が成功した状態だ。だとしたら、方法は一つしかない。

 

「まさか……オレの電撃を避ける動作そのものが"りゅうのまい"だったのか!?」

 

「もう気付いたんか。舞い系の技は一見動きが固定されているようで、特定の様式、フォーマットさえ守ればある程度自由が効くんや。

 もっとも、その様式も個々のポケモンによって異なるけどな」

 

 愉快な笑い声を漏らしながらコージーが漏らす種明かしは、決して上っ面の言葉ほど生易しいものではなかった。

 ゼオンやミュウツーは、一部のわざを突き詰めることで新しい次元、"第二階層"へと至らせていた。

 おそらくこのコージーはボーマンダの"りゅうのまい"に対し、あらゆるパターンのフォーマットを検証し、研究したことでそれと同じことをやってのけたのだ。

 そして変則系の"りゅうのまい"を、ゼオンの攻撃の合間に完璧な指示で成立させた。

 その事実にゼオンは思わず息を呑む――が、コージーの真骨頂を思い知らされるのは、まだここからである。

 

「言うたやろ、マンダは初手竜舞やと。

 ゼオンベル狩り講座、その1。"天才と怪物を相手にする時は初手で意表を突け"!」

 

 高らかにコージーの腕が天に突き上げられると、観客達の誰ともなくそれに呼応し、歓声と咆哮があがる。

 会場の空気が熱すると同時に、ボーマンダとコージーの雰囲気も同じく一変していく。

 

(なんだ、ボーマンダの生命エネルギーと集中力が増した……!? わざも使っていないのに!?)

 

 今までの戦闘経験を照合しても見当たらない現象を前に戸惑うゼオン。

 ジョウト側の控え席でそれを見届けるイツキの表情には、歯がゆさと敬意が混ざっている。

 

「コージーさんはあえて難題を己に課し、バトル中にあえてそれを実行することで観客達を惹き付け、"流れ"を引き寄せる。

 論理を基に戦う僕には"流れ"など理解できないし、するわけにもいかないが……実際にそれをやってのけ、要所で僕以上の結果を叩き出している。

 デュフォー、ゼオンベル、僕と同じロジックタイプだろう。君達なら一体どう戦う?」

 

 その声が聞こえたのか否かゼオンは今一度自戒を表情に浮かべ、文字通り気を引き締める。

 

「認識を改める……四天王筆頭クラスのトレーナーと対峙しているつもりで迎え撃つ!」

 

「そこはもう一声、チャンピオンクラスに変更してもええで。

 マンダ、もうちょい高度を上げて距離を取れ!」

 

 コージーの指示通り、上空を舞い存分に制空権を発揮するボーマンダを見上げ、ゼオンは全身に電撃エネルギーをたぎらせる。

 

(ボーマンダは自身のタイプであるドラゴン、ひこう技を両方防ぐはがねタイプへの打点を用意していることが多い。

 物理アタッカーのこのボーマンダは"じしん"を搭載しているはずだ。

 向こうがいかに地にいるオレの隙をついて"じしん"を当てようとしてくるなら、相手の土俵に立って戦うまでだ!)

 

 "でんじふゆう"の力で地を蹴り、ボーマンダを追うように宙を高速で旋回するゼオン。

 その姿を予期していたかのようにコージーも高揚していく。

 

「本職のひこうタイプばりに飛べるやないか。マンダ、挑まれた空中戦は謹んで受けたれ! "つばめがえし"や!」

 

「"でんげきは"!」

 

 空でただならぬ威力の中級の飛び道具同士が炸裂し、互いの横を掠める。

 仮に上級技を直撃されれば無事では済まないことを察しながらも、両雄は一切怯まない。

 

「"つばめがえし"二連、からの"エアスラッシュ"!」

 

 翼から生まれる斬撃を左、右に避けざま不可視の衝撃波が迫っていることを肌で感じ、マントを前面に張り巡らせ防ぎ切る。

 すぐさまカウンターの"ほうでん"を打ち込むが、翼の先を掠めるだけに終わってしまう。

 

「初見のコンビネーションをあっさり躱すか。さすが極上の獲物や。

 せやけど隙が全く無いわけやない。ゼオンベル狩り講座、その2"僅かなタイムラグを逃すな"や」

 

「気付いていたか……」

 

 かつてはミュウツーしか看破していなかった、ゼオンが持つ固有のハンデ。

 魔力をわざエネルギーに変換するためのコンマ1,2秒のラグを的確に見抜き、皮一枚で電撃を捌いていく。

 それをやってのける次元の相手がとうとう現れたことで、ゼオンは今戦いを観ているライバル達に手の内を見せてでもこの勝負を勝ちにいくべきだ、と培った戦闘経験から導き出す。

 

「腕前はよくわかった。それを踏まえた上で――この大会に備えて用意した新技をもってお前達に勝つ」

 

 

 

 

 

 




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