ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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35話:マンダの流星群は強い

 

 5分以上続く、激しい空中戦を両チーム,観客共に無言で見入っている。

 ゼオン、ボーマンダ共に互いの回避スピードが僅かに相手の攻撃を上回っているため、戦いが高次元で噛み合い膠着状態となっていた。

 差し合いも数百を超えた頃、ゼオンは突如動きを緩め、頬に刻まれたかすり傷から滴る血を手で拭う。

 

「驚異的な機動力だったが、パターンや呼吸はだいたい把握した。

 そろそろ勝負を決めに行かせてもらおう」

 

 両足に"でんじふゆう"の力を、そして左手に魔力、右手に電撃エネルギーを纏わせ機を伺う。

 魔物が持つ力の根源である魔力を知らぬコージーは、ゼオンの状態へ本能的に危機感を覚える。

 

「空を飛びながら両腕に別々の力を蓄えるとは器用なやっちゃな。

 マンダ、"ハイパーボイス"!」

 

「ぐっ……!」

 

 ボーマンダの咆哮と同時にマントを前面に展開するが、音波による衝撃はあっさりとマントをすり抜けゼオンを蝕んでいく。

 

「ゼオンベル狩り講座、その3。"物理、特殊両方弾けるマントは"音"で崩せ"や。

 追撃の"ドラゴンクロー"!」

 

 次いで剛腕から振るわれる龍の鉤爪を今度はきっちりとマントで防ぐ、が

 

「"ドラゴンダイブ"!」

 

 すぐさまコージーの指示で、ボーマンダは"ドラゴンクロー"により腕を振るった推進力をそのままに旋回し、全身にドラゴンエネルギーを纏った強力な突撃を浴びせかける。

 頑強なゼオンのマントといえど、威力を防ぎきれず着実に身体へとダメージが刻まれる。

 

『くっ、わざ同士が連携してコンボになっているのか……。

 コージーとかいう奴、どれだけこいつを気に入ってわざを仕込んでるんだ?』

 

 それはゼオンが特別意識せずに口から漏らした()()()であったが、対峙しているボーマンダはそれを共通言語で律儀に拾う。

 

『そーでもねーぜ。コージー(あいつ)のオレに対する好感度は精々レギュラーパーティの中で真ん中くらいじゃねえか』

 

『だとしたら、何故お前が選ばれたんだ?』

 

『そりゃオレが一番強いからだろ。そのオレをわざわざ使う辺り、お前とそっちのトレーナーをよっぽど認めてるんだろう……よっ!』

 

 言葉の終わりざまに殴りかかるボーマンダの爪をマントで弾き、ゼオンは再び距離を取ると守りを固め、再度一方的に攻撃を受け続ける。

 

(なんや……いかにゼオンベル自身とマントの耐久力が優れているといえど、こうも好き放題殴らせるもんか? それに、左腕に纏っている力が徐々に増していくのも薄気味悪いわ)

 

 ゼオンの消極策に早くも違和感を抱いたコージーの判断は鋭い。だが、既にゼオンは自身が構築した戦術の下準備を終えたところであった。

 

「"フラッシュ"!」

 

「ッ!?」

 

 ゼオンの右手から放たれた閃光が、一瞬でボーマンダの視界を奪う。

 光はバトルフィールド全域、つまりトレーナーにも及ぶが――

 

「……かっこつけでしてたサングラスが役に立つとは思わんかったで。右後ろや!」

 

 サングラスによって"フラッシュ"を防いでいたコージーは、ゼオンから放たれた"でんきショック"を察知し、ボーマンダに指示を送る。

 眼が見えずとも指示を信じ的確に右後方へと回避したボーマンダの姿を見届け、コージーは安堵する――

 

「"10まんボルト"」

 

 ことが間違いであった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分がゼオンによって誘導されていたことに戦慄する。

 

 ボーマンダが回避した先の空間にかざされていたゼオンの左手から、重厚な魔力がうねり電撃へと変換される。

 ゼオンの周囲を取り巻くように電撃のリングが生まれると、そこから更に10本の電撃がそれぞれ意思を持った生物の様に弧を描く様に唸り、ボーマンダへと襲いかかる。

 かつてゼオンが使っていた魔物の術の中でTOP3に食い込む大技、《ジャウロ・ザケルガ》をベースとして、1ヶ月以上の開発とトレーニングを経た末に生み出された上級技。

 その力は敵味方問わず、戦いを観ている者全てに"威"を植え付ける。

 

「こ、これがゼオンの"10まんボルト"。普通のものとは全然違う……!」

 

「ピ……カ……」

 

 サトシの腕の中でピカチュウが、ゼオンの"10まんボルト"から目を離さず見守っている。

 戦いの傷も癒えぬままだというのに、ゼオンの技術から何かを学ぼうとしているのだろう。

 そしてデュフォーはこの戦いの終着までを見据え、ゼオンとコージーの戦術に思考を巡らせる。

 

(ゼオンの"10まんボルト"は威力、射程範囲共に最上位級で追尾性能まで持つ、破格の攻撃性能を持っている。

 だが発動までに時間がかかる上に発動後も技の形状上、相手に到達するまで僅かな時間の猶予が生まれてしまう)

 

 できるトレーナーならその間に何らかの対抗をしてくるはず。コージーの場合は――

 

「盛り上げてくれるやないか! 切り札には切り札、真っ向から勝負や!

 マンダ、"りゅうせいぐん"!」

 

「ゴオオオ!」

 

 視力を回復させたボーマンダの上空からいくつもの隕石が降り注ぐ。

 ドラゴンタイプの特殊最大技である"りゅうせいぐん"とゼオンの強大な電撃が打ち上げ花火の様な轟音を奏でながら衝突する、天変地異の様な光景に周囲はただ圧倒される。

 だが対戦している当のトレーナー達は、それでも思考を止めることが許されない。

 

(10の雷と隕石のうち、7つ同士がぶつかり消失し、残りの3つが双方に被弾した。

 1発1発が並のポケモンを難なく戦闘不能に持ち込む攻撃を3発も喰らえば、強者の2体といえど痛手は免れない。実際にボーマンダは――)

 

(マンダのりゅうせいぐんは強い。ゼオンベルの10万とは違って遅延無しで即発動できるが、一度打ったらドラゴンエネルギーが枯渇して、特殊攻撃がままならなくなってしまう)

 

 デュフォーとコージーが見上げる先、電撃による負傷と麻痺により空で硬直するボーマンダ、ゼオン側は隕石が衝突した時の煙幕に覆われ姿が確認できない。

 ただ一瞬、ボーマンダへ向けて走った一本のか細い電線を見逃さなかったサトシとアマネが「あっ」と声を漏らす。

 

「"雷刹華(らいせっか)"」

 

「グオオオッ!」

 

 人間たちの眼には、後方へと吹き飛ばされるボーマンダの腹部に、突如ゼオンが湧いて出た不可解な光景にしか見えない。

 実際は何のことはなく、マッハ10を超える速度でゼオンがただ真正面からの体当たりを仕掛けていただけであった。

 "りゅうせいぐん"によりマントは完全に破壊され、手傷を負った身体へ更に衝突の負荷が刻まれていく。

 かつてその技を見た者も、初見の者達も、ゼオンにとって秘中の秘であったとわかっていたから――

 

『やるじゃねえか……』

 

 口から唾液を垂れ流しながらも、歯を食いしばり立ち尽くすボーマンダの底力がより引き立つのだった。

 

「そんな……ゼオンの奥の手まで……!」

 

「来ることが読まれてたみたいですね……」

 

 かつてあのミュウツーをも追い詰めた攻撃だと知っているからこそ、サトシとアマネが受ける衝撃は計り知れない。

 

「ここまで丁寧に攻撃を組み立てられる奴が、あの大技ブッパだけで終わるとは思えんかった。

 マンダが少しでも違和感を感じた時は、ドラゴンエネルギーの障壁で防御を固めるように仕込んどいて良かったわ」

 

 ヒヤリとしながらも己の股肱の臣(マンダ)を信じ続けたコージー。

 一方デュフォーは戦いを観ている者達の中でただ一人だけ、ある一点を注視している。

 

(この攻防のカギはゼオンが"10まんボルト"を打つ前に放った"でんきショック"だ。

 ゼオンの狙いは少しでも右手の電撃エネルギーを温存しておくことだった。

 皆の意識が"10まんボルト"を放つ左腕に集中するからこそ、ゼオンの右手から警戒が薄れ、電撃エネルギーを蓄え続け大技につなげることができる)

 

 ゼオンの右手で雷が弾けると、術者の意思を具現化するように絡みつき変形する。

 ボーマンダとコージーが気付いた時には、ゼオンの全身よりも巨大な雷剣が、敵を刈り取らんと炸裂する様な雷音を奏でていた。

 

「まさか、あの特攻すら捨て駒やったのか!?」

 

『てめえ……』

 

 手玉に取られ呆然とするコージー、痺れと衝撃であと数秒は回避が取れないボーマンダ。

 彼らの姿を前に、ゼオンは脳裏に在りし日の父王(ダウワン)との会話を去来させる。

 

 ――ゼオン、お前は厳しい鍛錬により見事に王族の資質を開花させた。

 魔界の王を決める戦いにおいて、仮に凡庸なパートナーと組んだとてお前が本気を出せば、9割の相手は敵ではない。

 

 ――王によるご指導のおかげです。

 

 ――しかし龍族は別だ。神童と言われる「エルザドル」と「アシュロン」の2体は、修行せずとも生まれ持った力だけでお前に善戦する力を持っている。

 彼奴らがお前を強敵と認識し必死に鍛錬を積んだのなら、たちまち脅威となるであろう。

 

 ――では人間のパートナーを集中して狙う、などの搦手を使うのが良策ですね。

 

 ――それも有効であるが、お前自身も対龍族特化の術を開発しておくのだ。

 当然そのための労力と時間は割かれるであろうが、それだけの価値が龍族にはある。

 

 ――ハッ……。

 

 父、ダウワンがわざわざ名指しで警告するほどの強敵。

 その対抗手段として開発したのが、己の特性を色濃く反映した《ソルド・ザケルガ》。

 それをベースとして、近しい存在のドラゴンポケモンにも通用すべく生み出した技――

 

「光栄に思え。お前達ドラゴンを屠るためだけに生み出した技の初披露目だ。

 "かみなりパンチ"《剣の型》――雷霆剣(らいていけん)!」

 

 振り下ろされた雷剣は、本来電撃を跳ね除けるはずの硬い龍鱗を容易く突破する。

 

「グッ……ギャアアアッ!」

 

 ボーマンダは悲鳴に近い咆哮を上げ、剣に貫かれた身体を苦痛によじらせながら力なく地へと落ちて行く。

 氷や同族の顎にしてやられたことは幾度かあったが、電撃がここまで蝕むなど初めての経験であった。

 3度に渡る伏線と大技の連携。

 それは犠牲者のボーマンダとコージーですら称賛する程に見事だった。

 だからこそほんの一秒、ゼオンが無意識に一息付いてしまったことなど責めようが無い。

 

『ラアッ!』

 

「なっ……!?」

 

 無防備なゼオンの後頭部に深々と打ち込まれた"ドラゴンクロー"。

 ボーマンダが態勢を立て直したことに皆が――そして、主のはずのコージーが最も驚いた。

 が、殴りつけられ地へと叩き落されたゼオンを見て長年トレーナーとして培った経験から、フリーズした思考を取り戻し反射的に叫んでいた。

 

「っ!? と……捉えたっ! 今や! "じしん"を打ち込め!」

 

「オオオッ(わかってらぁ)!」

 

 この戦いで、唯一にして最大の勝機を逃すわけにはいかない。

 ボーマンダが上空から急降下し床に四肢を打ち付けると、フィールドが轟音と共に振動し地面エネルギーの力場を生み、ゼオンの小さな身体を貫いた。

 

「ぐおおおっ!」

 

 ただでさえ力の高いボーマンダがりゅうのまいによって強化した状態で、弱点タイプの上級攻撃である地震を放ったのだから被害は甚大だ。

 ディオガ級の攻撃をも生身で受けられるゼオンをもってしても、防ぐことはできなかった。

 気絶こそ免れたものの、今までで最大級のダメージを負ってしまったゼオン。

 3度に渡るゼオンの大技をまともに受けたボーマンダが、目と鼻の先で立ちはだかる互いを見つめ、苦痛に顔を歪ませながら苦笑う。

 

『ッッ……新開発したオレの切り札ラッシュを受けて倒れぬか』

 

『……一瞬失神(トン)じまったぜ。てめえこそ、俺の地震をまともに食らって立ってんじゃねえよ』

 

 ゼオンが雷霆剣(らいていけん)を顕現させてからほんの数秒の攻防に、ほとんどの観戦者はついて行けなかった。

 そして突如訪れた最終局面を前に、会場はシンと静まり返っている。

 

「う……嘘でしょ?」

 

「ゼオンはともかく、ボーマンダも打たれ強いにも程が無いか!?」

 

 どうにか事態を飲み込めた者の中で、ゼオンと実際に戦いその力を思い知っているカスミとタケシは、ボーマンダが見せた異次元の耐久力に我が眼を疑う。

 更にごく一部のキクコやデュフォーといった最上位クラスのトレーナーだけが、カラクリを見抜いていた。

 

(ボーマンダの特性は"いかく"。常にその身に"圧"を纏い敵の物理攻撃から身を守る。

 ゼオンの坊やの突撃と雷剣は、わざとしては物理に分類されるため威力を散らされてしまったようだね)

 

(それでもボーマンダは実質戦闘不能のダメージを受けている。

 なお倒れぬのは、あいつもまたゼオンやドンカラス(オカシラ)と同じ()()()だからだ。

 主に敗北を刻むまいと、瀕死の身体を王の誇りと主への想いが突き動かしている)

 

 デュフォーの見立て通り、ボーマンダの体力はゼロに近い。

 サトシのピカチュウとて"でんきショック"を1発浴びせれば戦闘不能にできるだろう。

 繰り出せる戦術がごく限られている状態で、ボーマンダが導き出した一手は――

 

『はよ来いや。眠っちまうわ』

 

『っ……』

 

 無謀とも言える攻撃の催促。これが逆にゼオンの行動を停止させることとなる。

 実はゼオンはこの時、ボーマンダが瀕死だろうという前提を打ち立てたのだが、この一言によりブラフという線も同時に考えなければならなくなった。

 ゼオン側はまだ体力に幾ばくか余裕があるが、もう一度"じしん"が直撃すれば今度こそ戦闘不能になる。だからこそ、カウンターだけは避けなければならない。

 

ボーマンダ()からのタイミングではなくオレの機から攻撃すべきでは……いや、臆病風に吹かれるな。己の力を信じろ!)

 

 それはほんの2,3秒の逡巡であったが、試合を決定付ける十分な足止めとなった。

 

「それまでっ! 試合制限時間の15分が経過したため、この勝負はAIによる判定へ移行します!」

 

「なっ!?」

 

 審判が静止する声にゼオンは我に返り、土壇場で判断ミスを犯したことに気付く。

 今回の選抜戦は1日に何試合も行うため、1戦ごとの対戦時間はシビアに設定されている。

 ほとんどの試合で1分とかからぬ自分にはあまり関係の無いことだ、と時間管理の意識が薄れていたことが招いた結果であった。

 

 フィールドに備え付けられたセンサーが両ポケモンをスキャニングし、即座にデータを運営側に通達する。

 

「判定が出ました! 両者の負傷度合いが75%を超えているため、引き分けとします!」

 

 この瞬間、カントーVSジョウトのチーム戦も1勝1敗1分けのドローが確定する。

 どうにも煮えきらない結果を突きつけられた会場内を――

 

『ワアアアアッ!』

 

 敵、味方、周囲問わず惜しみない歓声と拍手が包み込む。

 伝説級ポケモンに匹敵する両雄が知恵、技術、精神力に尽くした激闘が見れたのだ。

 引き分けに不満を募らせるのは野暮というものだろう。

 

「っぶねー。あと10秒遅かったら負けてたかもしれんかった……。

 ゼオンベル狩り講座、番外編。"なんとかトレーナーを悲しませまいともちこたえてもらう"。までやってやっとこさ引き分けかい」

 

 生きた心地のしない様子でサングラスを掛け直すコージー、試合終了の合図を確認して力なくフィールドに膝をつくボーマンダ。

 その様子からゼオンは答え合わせを済ませ、自嘲気味に笑うと釣られるように地へとへたり込んだ。

 

『やはり限界だったのか。まんまと逃げ切られたな……』

 

『クク……お前とは二度とヤりたくねえな』

 

 紙一重で勝利を逃がしたゼオンは、満足そうなままデュフォーによってボールに戻される。

 魔界の王を決める戦いと違い、"次"がある試合ならばこういう結末も悪いものではない。

 そう言って聞かせながら、初めての引き分けを受け入れていった。

 

 

 




今回もご視聴ありがとうございます


次回からは少し展開が早まります
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