ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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39話:5体目 エルフ

 

 

「ダークライ、もう一度3連"あくのはどう"だ」

 

 "あくのはどう"を三分割し、みがわりもろとも本体のエルフ(エルフーン)を狙うタクトの戦術に対し、デュフォーの対応(アンサー)は――

 

「"まもる"」

 

 エルフ(エルフーン)を象徴するような、薄緑色の強固なバリアだった。

 "まもる"で生成したバリアは、短時間しか持続せず連発もできないが、格上の攻撃をも弾く性能を持つ。

 波動を難なく弾き飛ばされ、タクトの眉が僅かに動く。

 

「"まもみが"ならぬ、"まもまもみがみが"か……」

 

 "まもる"と"みがわり"を交互に繰り出し、定数回復、定数ダメージを確保する。

 耐久戦術で用いられる"まもみが"コンボであるが、わざを2回繰り出せるエルフ(エルフーン)が使えば、"まもる"を連続で撃てる。

 机上論でやどりぎのタネとたべのこしの回復,ダメージ量が3倍になれば、"みがわり"を創る体力も確保できる計算だ。

 一転してデュフォーが主導権を握り、タクトに対応を迫る側となった。

 

「"あくのはどう"!」

 

「フー!」

 

「ダークライ、"見"に回ろう……」

 

 連続で"まもる"を決められたタクトは、静止して次のデュフォー達の挙動を伺う。

 無条件で手番を渡されたデュフォーが選ぶのは当然、"みがわり"一択なのだが……

 

「"みがわり"」

 

「"ちょうはつ"!」

 

 2つの写し身が生成された瞬間、ダークライの鋭い眼が輝き、写し身に紛れ隠れようとしていたエルフ(エルフーン)の位置を的確に射抜く。

 瘴気の様な漆黒のもやが、姿は見えずともエルフ(エルフーン)がいると思わしき座標を絡みとるように蠢いた。

 おそらくはダークライの"ちょうはつ"が成功したのだろう。

 それまでバトルフィールドとダークライを交互に注意深く観察していたデュフォーが、初めてタクトと視線,言葉を交わす。

 

「気付いていたのか」

 

「なんとなく、五分五分だったけどね。その子は心優しそうだ」

 

 2人が交わした意味深なやりとりを理解できたのは、カントー勢の中ではキクコだけ。

 理解できたからこそ、未だキャリアの浅い新星2人が織りなす戦いの次元に、一トレーナーとして純粋に見惚れていた。

 

「あのタクトって子、容赦ないねえ」

 

「キクコさん、タクト選手は一体何に気付いてたんですか?

 それに何故エルフーンは"ちょうはつ"を打たれる前に"いたずらごころ"で先に"ちょうはつ"を打たなかったんでしょう?」

 

「さっき"やどりぎのタネ"が通ったから、あのダークライにも変化技は通るはずよね。

 あの抜け目ないデュフォーなら、エルフーンに"ちょうはつ"を憶えさせると思うんだけど。

 エルフーンにそれだけ技を憶えられるメモリが無かったとか?」

 

「結論から言うと、あのエルフーンは"ちょうはつ"を使えない。メモリというよりは、エルフーンの資質とわざとの親和性が原因だね。

 エルフーンは確かに生物学上は"ちょうはつ"を習得できるし、あの子もわざを憶えるスペース(メモリ)はまだ余っているだろう。

 それでもあの子の性格上、"ちょうはつ"を使いこなすのが難しいんじゃないかい?」

 

 "なまいき"なポケモンなら"つけあがる"技を使いこなせるかもしれないが、"ひかえめ"なポケモンは習得に手こずるだろう。

 それと同様、温厚で大人しくまだ幼児のエルフ(エルフーン)には、相手を挑発するという思考すら無かった。

 "まもる"や"みがわり"といった自身の身を守るわざには強い適正を持つため、デュフォーは短所を捨て置き、長所を特化して鍛えていたのだ。

 キクコの推察により、タケシとカスミの疑問は解消される。

 だが彼らはそこから導出される事実に至り、血相を変えた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください、キクコさん。

 タクト選手は、エルフーンの性格を初見で予測して戦術を組み立てたってことですか?

 バトル中の行動を観察しただけで!?」

 

「あんなに強いポケモンを……伝説のポケモンを使っているのに、遥か格下のエルフーン相手にそこまで徹底するなんて……そんなの勝てるわけないじゃない!」

 

 タケシとカスミがコーチャーの役割を放棄して、ただ圧倒されるのも仕方のない話。

 それほどまでにタクトのプレイングは練磨されていた。

 

「ダークライ、まずはみがわりを消すんだ。相手がしばらく補助技を打てない以上、慌てる必要は無い」

 

 "あくのはどう"が早々に2体の写し身を消し飛ばし、本体のエルフ(エルフーン)がむき出しになる。

 自身が補助技を出せなくなった事に気づき、窮地に表情を強張らせるエルフ(エルフーン)

 一方のタクトは圧倒的優勢に気を緩めること無く、()()へと移る。

 

「接近戦の間合いまで距離を詰めるんだ。まだ攻撃は打たなくて良い」

 

 タクトは先ほど"あくのはどう"を捌かれたカラクリを見抜いている。

 デュフォーが攻撃の弱所を見抜き、そこを的確に"ムーンフォース"で突く事により、僅かに軌道をずらした。

 ならば、デュフォーの指示が間に合わない近距離で戦えばいい、単純で原始的な策だ。

 無策で相手に近寄るなど本来は危険極まりないが、ダークライと補助技を封じられたエルフ(エルフーン)の絶望的な力の差がそれを可能としている。

 

「今だ、放て!」

 

「前方に"ぼうふう"!」

 

「フッ!」

 

 近距離で"あくのはどう"が打たれると同時に、エルフ(エルフーン)が強力な突風の壁を張り巡らせた。

 補助技を打つことは出来ないが、攻撃技の"ぼうふう"を防御に使うことはできる。

 出力時間を1秒以下に抑え、更に範囲を局地的に絞ることで、突風の威力を確保し辛くも波動を逸らすことに成功する。

 

「"あくのはどう"の軌道をずらす程の出力……見事だけど、それは追い詰められている証左に見えるよ」

 

「……」

 

 デュフォーは無言でタクトの指摘を肯定する。

 "ぼうふう"は威力が高い反面、コントロールが難しい。

 少しでもエルフ(エルフーン)が技の調整をしくじれば、そこで勝負はつくだろう。

 操作に難のある技を使わざるを得ない程のピンチはまだ続いている。

 

「次は右からだ!」

 

「もう一度"ぼうふう"」

 

 右側面からの追撃も"ぼうふう"で際どく躱す。

 だがダークライは先程の攻防から、風が収まるタイミングを読み、技の解除と同時に至近距離まで接近する。

 タクトの指示無しで、それがエルフ(エルフーン)を仕留める最短ルートだと自己判断して動いていた。

 

「勝機だ! 今度は"ぼうふう"では間に合わないだろう。"あくのはどう"!」

 

「"とんぼがえり"!」

 

「!」

 

 エルフ(エルフーン)がデュフォーの指示を遂行せんと決死の形相で、小さなその身をダークライへとぶつける。

 退路を防ぐつもりで襲いかかろうとしたダークライは、ダメージこそそこまで受けなかったものの、まさかの特攻に一瞬とまどい、僅かに手元が狂い攻撃を外してしまう。

 またも皮一枚で波動を回避し、デュフォーの眼の前まで舞い戻るエルフ(エルフーン)の姿に、観客が誰ともなくホッとため息を漏らした。

 通常であればありえない奇手に、タクトも思わず渋い唸り声をあげる。

 

(驚いた。あの絶望的な状況で逃げるどころか、逆に突っ込んで活路を見出すとは!

 諦めずに最後まで勝ち筋を狙うその立ち回り、敵ながら称賛するしかない。

 だからこそ――やはり手心はくわえられない。彼らの強さに失礼の無いように全力で叩き潰す!)

 

 ダークライは同じ手を食らわない。もう"とんぼがえり"による奇襲も通用しないだろう。

 依然追い詰められている状況で、エルフ(エルフーン)の身体を纏う生命エネルギーが充足されたのを、デュフォーは見逃さない。

 

エルフ(エルフーン)、もう一度"まもる"だ」

 

 間一髪"ちょうはつ"の効果が切れて、"まもる"の発動が間に合う。

 これで2回はダークライの攻撃を凌ぎ、またも少し猶予が生まれるはずだった――

 

「それを待っていた。ダークライ、"ねむる"」

 

「え?」

 

「は?」

 

「寝た……?」

 

 試合の最中、優勢極まる中でダークライが突如寝息を立ててフィールド上で眠りこける。

 確かに"ねむる"ことで体力を回復できるが、文字通り無防備に寝てしまうため相手に複数回の行動保証を与えてしまう。

 メリットを補って致命的なデメリットを持つため、実力が近い場合は特性や持ち物、技、ポケモンそのものの耐久力などでのサポートを前提としての運用となる。

 対峙していたエルフ(エルフーン)ですら戸惑い、その場で固まってしまう。

 そして慌ただしくなるのは観客達だけでなく、控え席にいるシンオウ代表の選手達も同様であった。

 

「デンジさん、あのダークライって状態異常を治す木の実でも持ってましたっけ?」

 

「いや、ダークホールをより成功しやすくする"こうかくレンズ"持ちだったはずだ」

 

「ええっ……じゃあ、今ダークライは素で眠ってるんですか!?

 そんなことしたら、無防備なところを相手に滅多打ちにされるんじゃ……」

 

「タクトなりの考えがあるとは思うがこれは……」

 

 "とんぼがえり"を超えるタクトの常軌を逸した戦術は、ほんの一瞬ではあるがこの場にいる全ての人間の思考をブチ抜き凌駕した。

 

「すまんエルフ(エルフーン)、少し相手の力を甘く見ていた」

 

 まずはデュフォーが《答え》に至り自省を口にすると――

 

「なんやこのバトル、デュフォーだけじゃなくてあのキタローヘアの兄ちゃんもイカれすぎやろ……」

 

「あはは、ややこしくてうまく説明できないけど、私タクトさんの狙いわかっちゃった!」

 

「カッカッカ! タクトって奴、強いだけじゃなくてSNSでバズる戦いもできる面白えトレーナーだなあ!

 デュフォーといい、両方とも俺様が決勝で戦ってみたかったが、どっちかはここで消えるのか……」

 

「参ったねぃ。この2人がブルベリーグに参入したらあっさりトップを取りそうだ」

 

「あれあれ? もしかしてこのタクトさん、私が予想していたよりも強い?

 デュフォーさん、このままだとこの予選で消えちゃいますよ」

 

 ジョウトのコージー、パルデアのネモ、ガラルのキバナ、ブルーベリーのカキツバタ、そしてエージェントのエリシア。

 少し遅れて、各勢力の猛者達がその意図に気付き始める。

 

「こりゃまずいね、あのタクトって子。あたしでも歯が立たないかもしれないよ」

 

 そしてキクコの鋭い眼が老眼鏡の奥でスッと細まった。

 

「キクコさん……これは一体」

 

「タケシ、戦いをこのまま見ていれば直にあんたにもわかるよ」

 

 その予言通り、すぐに異変は実体となってバトルフィールドに発生する。

 眠り続けるダークライを前に、エルフ(エルフーン)はひたすら"まもる"を発動し続ける、俗に言う無駄行動を取り続け始めた。

 

「やはり、そのエルフーンは特殊能力を持っているようだね。

 おそらく変化技を一度で二回同時に発動する力、だろう」

 

 タクトのその推測は、この場にいるほとんどの者へ答えを知らしめるのに十分な内容だった。

 

「そういうことか。エルフ(エルフーン)はその特殊能力から、"まもる"を二回同時に発動してしまう。

 相手が眠って隙だらけだとわかっていても、防御態勢を取り続けることしかない! ここまでなのか……」

 

「ゼオン、確かにダークライにはノーリスクで眠られて、"やどりぎのタネ"で削ったダメージをほとんど回復されてしまいました。

 でもエルフーンもその間に、体力を全快まで回復できるはずです。まだ勝負が決まったわけでは無いのでは?」

 

 早計な判断ではないかと問うアマネに対し、歯がゆさを表情に浮かべながらゼオンが応える。

 

「オレも気付くのが大分遅れたが、デュフォーの()()()()()がタクトにバレてしまったんだ。デュフォーは最初から……」

 

『判定勝ち。それがデュフォーの狙いだったのかも』

 

 隣でゼオンの言葉をぶった切る、抑揚の無い声。

 フィールドを無表情で注視するサトシから放たれたモノだと気付き、ゼオン,アマネ,ピカチュウが思わずギョッとする。

 

「サトシ君!?」

 

「ピカ……!」

 

「あ、ああ。その通りだ。デュフォーは最初から、"やどりぎのタネ"の吸収量だけではダークライを仕留め切れないと踏んでいた。

 だから、体力判定に持ち込むつもりで、試合時間の15分を丸々凌ぎ切るつもりだったんだ」

 

「……確か、お互いの体力を25%ずつ4段階に区切って、体力エリアが違う場合は判定勝ち。

 ボーマンダとゼオンの時の様に同じエリアなら、引き分けでしたよね?」

 

「そうだ。体力の実数量差ならダークライが段違いに上で勝ち目は無いが、体力の割合差での判定なら勝機はある。

 "まもる"と"やどりぎのタネ"、"たべのこし"による体力管理がこの勝負のキーだったが、それに勘付かれ無償でダークライに回復を許してしまった。

 おそらく半分以上は削れていた体力も元通りで、このまま放っておいても引き分けは濃厚。

 戦況はかなり深刻だ……」

 

 逼迫(ひっぱく)した戦況を気にかけならもゼオンは横目でサトシを一瞥する。

 たった一度だが、考察力で完全にゼオンを上回った。将来はともかく、現時点のサトシはその水準にいなかったはず。

 シンジとの対戦から豹変しているサトシ、その変化を一番望んでいたのは自分だというのに。

 その己がほんの少しの違和感と恐れを抱いたのを、ゼオンは自分自身で気付かないフリをした。

 一方、ダークライが目を覚ましエルフ(エルフーン)の"まもる"が解除されたことで、戦いは仕切り直し、終局を迎えていた。

 タクトは今一度、フィールドに設置されたタイマーに目を移す。

 

(試合終了まで残り1分を切った。デュフォー君の判定勝ちプランを見破った今、僕は自分が勝勢に立ったとは思っていない。

 デュフォー君には一つだけ、僕に勝つ手段がある。

 このまま全ての攻撃を捌かれ、試合終了直前にダークライに対して攻撃を当てられでもすれば――)

 

 ダークライが地力で圧倒してるとはいえ、効果バツグンの"ムーンフォース"を急所に喰らうのはまずい。

 "やどりぎのタネ"の定数ダメージも含めれば、体力はそこそこ削れてしまうはず。

 ここで気を緩め万が一不覚を取れば、台無しになってしまう。

 

「ダークライ、もう相手は"まもる"を使えない。距離を取りながら三連"あくのはどう"で攻め続け、相手からの反撃を封じるんだ!

 ただし、"みがわり"を使われたら、写し身にぶつける出力を落とし本体に力を注げ」

 

 最後まで油断することなく冷静に負け筋を潰していくタクト。

 その初志貫徹ぶりに脱帽しながらも、諦めずにダークライへと立ち向かうエルフ(エルフーン)へ、デュフォーは無表情のままに初めて言葉に謝意を込める。

 

「ゼオンよりも遥かに幼く、戦闘経験もほぼ皆無だというのに、まだオレの指揮を信じて戦ってくれるんだな、エルフ(エルフーン)

 ならばオレもお前の力を信じ、最強の敵を相手に最後まで戦い抜こう。"みがわり"!」

 

 温存していた《アンサー・トーカー》の出力をMAXまで開放しながら、これまでで一番力強くデュフォーが叫ぶ。

 それに応える様にエルフ(エルフーン)が生み出した二対の写し身は、無情にも加減をした"あくのはどう"2発に吹き飛ばされる。

 そして今までよりも強度を得た一発の波動が、本体を襲う。

 

「前方、身体2個分前の地点に"ぼうふう"だ!」

 

「フーン!」

 

 ギリギリで張り巡らせた風の防壁によって波動の軌道はズラされ、「チリッ」と音を立てながらエルフ(エルフーン)の頬を覆う綿毛を掠める。

 

「うわアブなっ! あっ……でも、"ぼうふう"のインターバルは完璧に読まれてますよ!?」

 

 一息つきかけたアマネが指刺す先、風が収まったのを見計らい既にダークライは次弾の波動を装填している。

 このタイミングではもう"ぼうふう"は使えない。

 

「っ……判定云々以前にタクトはここで仕留めるつもりだ!」

 

 判定勝ちどころか、引き分けすら困難な状況に肝を冷やすゼオンなどお構いなしに、最後の攻防が幕を開ける。

 決着まで、残り10秒――




ご視聴ありがとうございます。
また、新しく高評価いただきまして、評価着色直前までいきました。そちらもありがとうございます。

これだけタクトを強化して、色々な戦術やパワープレイもゴリゴリ描写したことで
この後に決勝に進めたとしても更に戦いがインフレするんじゃないか、と思われるかもしれませんが
決勝は戦術もそうなのですが、自分に書ける範囲で戦略レベルの描写で盛り上げようと思っています
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