ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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43話:テラリウムドームの五つ巴-③ どんなもんじゃ!? ナンジャモ☆システム

 約3分前。サトシを()()として置き去りにしていく、という案をアマネが提示した時のやりとりに遡る。

 

「時の制約を確保するため、サトシを捨て駒とする策略自体は否定しない。だが、集中砲火で秒殺されたら、大して時間稼ぎにならないんじゃないか?」

 

「それはほぼ確実に有り得ません。ガラルやパルデア代表くらいになってくると、勝ち方にも気を配るんですよ」

 重要なのは、サトシ君が決勝のメンバーで最もランクと予選の成績が低いということです」

 

 チームより指揮官を託されたアマネの声、表情には試合開始前にはない力強さが宿っている。

 託された役職と期待が、彼女に変貌を促しつつあった。

 集中状態にあるデュフォーに代わり作戦考案の補佐を務めるゼオンは、索敵と隠密に力を割きながらも、その言葉を噛み砕き理解を追いつかせる。

 

「実体はどうあれ、端から見たら人数合わせのサトシを袋叩きにはできない、ということか」

 

「ええ。各地方の精鋭がそんな戦い方をしたら非情や合理的、というよりも臆病というイメージが先行して世間についてしまいます。

 しかしサトシ選手はキルポイント対象としては一番優秀なため、単独でなら率先して倒したい相手です。

 おそらくは1対1対1の三つ巴。もしブルーベリーチームが後から乱入したら四つ巴の形になると思われます」

 

 話の筋としては通っている、とゼオンは納得し次の段階へとコトを進める。

 

「その間に俺達は左回り、つまりガラル代表の外側から包囲を突破。

 アマネとナツメを所定の位置に運んだ後に、オレの"瞬間移動"を使ってポーラとコーストに戦力を分ける、と」

 

「瞬間移動を使った直後に位置情報はバレますので、そこからは各々接敵と戦いが始まります」

 

 それまで黙って耳を傾けていたナツメが、「時間が無いところ悪いけど一ついい?」と前置きした上で口を挟む。

 

「ゼオンの使う瞬間移動は他のポケモンでいう"テレポート"という技でしょう。

 私のポケモンも"テレポート"を使えるけど、他のチームが今私達を相手に"テレポート"を使って来ないのは何故かわかる?」

 

 他チームの全ポケモンが"テレポート"を使えない偶然など有り得るのか?

 という意図の質問だと察し、アマネも時間を消費してでも答えるべきだと判断する。

 

「道中でも詳しく説明しますけど、普通のポケモンが使う"テレポート"って、ゼオン程優れた性能を持ってないですし、エネルギーの消耗も激しいんですよ。

 エスパータイプのスペシャリストであるナツメさんのポケモンと、ゼオンが別格で使いこなせるだけで、他のトレーナーからしたら旨味が少ないんだと思います」

 

「なるほど。今我々が他のチームに明確に勝っている点は、ゼオンとエスパータイプのポケモンによる、索敵・隠密行動と瞬間移動能力の所持。

 それを利用すれば簡単には落とされない、ということね」

 

「ええ。そろそろ移動したいところですが……最後にゼオンの認識には一つ誤りがあります。

 サトシ君をここに置き去りにするとは言いましたし、相手は捨て駒としてサトシ君を扱うでしょうが、実際はキルを取れる戦力として置いていくんです」

 

「っ……!」

 

 アマネと視線が合ったサトシの鼓動が跳ね上がる。

 相手をおびき寄せ分断し、捨て駒と思わせておきながら、対峙したトレーナーを打ち破り仲間と合流すること。

 そこまで含めてのアマネが目論む()()であった。

 

「サトシ君には予選までの私やナツメさんを超える活躍をしてもらいます。私ももちろん同等以上の働きますよ」

 

「ね、ねえ。聞きたいんだけど、アマネは俺が他のトレーナー達に勝てると思ってるの?」

 

 決勝の相手は、サトシが予選で敗れたミナキやシンジより更に格上の相手ばかり。

 この状況で何故サトシを一戦力としてカウントするのか、という当然の疑問が放たれる。

 サトシに気をかけているゼオンはあえて口を挟まずアマネの反応を伺う。彼女がどう回答するかにより、指揮官の資質を推し量ろうとしていた。

 時間の制約が迫っていることは承知した上で、アマネはギリギリまで思案し、そして率直な気持ちを口にする。

 

「それはわかりません。ただ私達がしくじれば、デュフォー君がミュウツーを守るために今の地位を捨てて逃走人生を送るだろう、ということです」

 

 そこで言葉を区切り、サトシを引き寄せると仲間たちには聞こえないように何かを耳打ちする。

 それはアマネが初めて他人に晒した、本心だったのかもしれない。

 サトシの顔に見る見る緊張が走って行くが、そんなサトシの反応と返事を待つこと無くアマネは陽気に手のひらを叩き、皆を呼び寄せる。

 

「はい、サトシ君も納得してくれたみたいなので撤収しまーす。お待たせしました!」

 

「時間、すり切り一杯だ」

「忙しくなりそうね」

「皆、健闘を祈る」

 

 ゼオン、ナツメ、デュフォーは各々の力でアマネの言葉を盗み聞きすることは可能であったが、そんな行為は無粋とばかりに淡々と準備を終える。

 一人残るサトシへと誰も声を掛けることはなかったが、立ち去り際の表情に迷いや恐れ、不安はそこになかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

『警告。立入禁止エリアの閉鎖が開始します』

 

 時は現在時刻に戻り、テラリウムドーム全域に流れる全体アナウンス。

 その最中、サトシを8人がかりで左右から挟み込み、完全な優位にいるはずのガラル,パルデアの精鋭達はうっすらと気付きはじめる。

 "あれ、この状況で窮屈なのは自分達じゃね?"

 

「カントー代表の連中、イカれてやがるな。一杯食わされたぜ」

 

「"弱い奴は死に方も選べない"って言ってたマンガがあったけど……強すぎるのも考えものですね……はぁ」

 

 微笑みながらもやれやれと片手で頭を抱える、ガラルチームの代表格と思わしきオレンジ色のバンダナを巻いた褐色の青年。

 そしてその横で、白の仮面を付けた小柄な少年が気弱そうな声を吐く。

 キバナとオニオンの言葉の意図を、対の方角からサトシを包囲しているパルデアのメンバーも把握している(ネモ除く)。

 皆が現状に対応すべく思考をめぐらせるが、それはすぐさま遮断された。

 猶予を与えまいとするかのように、狙った様なタイミングで後方より突如生命反応が発生したのだ。

 

「……! 大きな力の波動を感知しました! マップに共有します」

 

 サイトウがルカリオを通じて入手した反応の位置情報をスマホロトムに打ち込み、パルデア側でも索敵を続けていたグルーシャもそれに倣う。

 

「どうせパルデア(あちら)さんも気付いているだろうし言っちまってもいいか。

 ポーラエリアの中央地点、約十秒後にコーストエリアの中央地点、2つの位置に反応ありか……」

 

 妥当に考えれば、サバンナエリアを離脱に成功したカントーメンバーによる撹乱行動だろう。

 あえてキバナが情報を口に出したのは、パルデアの――アオキの判断を伺うためにある。

 アオキ自身もそれを読み取り、指示をガラルのメンバーに聞こえる声量まで上げる。

 

「ナンジャモさん、ここでサトシさんのお相手をお願いします。

 我々はコーストエリアへ一度引き返しましょう」

 

「はっはっは、手堅いですなーアオキ氏は」

 

 デュフォーやキバナを倒すための切り札であるネモと、索敵役のグルーシャを温存した安全策のオーダーといったところだ。

 ナンジャモが手持ちのデデンネを前に出すと、キバナもそれに続き、片側に剃り込みを入れたツインテールの少女を選出する。

 

「マリィ、頼めるか? 俺様達も一旦ポーラエリアに向かう」

 

「任されたよ、キバナさん。気張るよモルペコ!」

 

 ナンジャモとマリィを己の前に残し、反応のあった場所へと向かおうとしている両チーム。

 サトシだけが知っている。それはあらかじめアマネにより予言されていた光景だと。

 そしてここから先は、誰の想像も及び付かぬ未来へと分岐していく。

 

「パルデア代表のどなたかお相手願いましょうか」

 

「ええっ、話聞いてたか?」

 

 サイトウがただ一人前に出て、ワイルドエリアを去ろうとするパルデアチームを呼び止め手招きする。

 その場にいたほとんどの選手が、その発言に戸惑い硬直する中、キバナが思わず冷や汗を流しながらも真意を問いただす。

 

「チームの指針は理解しましたし、もしもカントー代表(対象)と接敵したなら本気で倒します。

 しかし、トレーナー同士で眼と眼が合った以上はバトルでしょう」

 

 キバナとアオキは口には出さないが、この状況からゼオン達、カントーチームが集中的に狙われていることは火を見るよりも明らか。

 サイトウはそれに異論を唱える気も、邪魔するつもりも無い。

 ゼオンも戦場で情けをかけられることなど、望んでいないだろう。

 しかし、ガラルとパルデアを接敵させたこの状況は、カントーチームが限られた資源と時間の中で捨て身の戦術を仕掛けたからに他ならない。

 最低限のコマだけ残してまともに戦わず、カントーチームを付け狙う行為は、彼女が抱える武人の道に反する行為だ。

 

「だったら私が相手するよ。昨日控室で会った因縁もあるし」

 

「ネモさん!?(控室……?) さすがにそれは……」

 

 サイトウに応え、引き返そうとするネモをアオキが止めようとするが、ネモは微笑みながらも標的と認識したサイトウを、その視界に捉えて離さない。

 

「どうしてアオキさんとガラルの人達がカントー代表を狙っているのかはわからないけど、ここで3人も離脱するのは()()んじゃないかな」

 

「ネモ氏に一票ですぞ。あまり露骨な戦い方してると、お客さんにチーミング*1を疑われちゃうよー」

 

 ナンジャモが同調したところで、アオキ、キバナ共に観念したかのようにかぶりを振る。

 

「わかったよ。俺様も正直、カントー(あいつら)のケツだけ執拗に追っかけるのは面白くねえ。だが俺達全員が潰し合うのは、ブルーベリーとカントーに漁夫られるチャンスを作るだけの愚行だ。

 残すのはサイトウとマリィだけで、俺とオニオンは予定通り向かうぞ」

 

「ではこちらもネモさんに任せて、グルーシャさんと2人でここを離脱します。……お互い難儀ですね、キバナさん」

 

「試合が終わったら一杯付き合ってくださいよ、アオキさん」

 

 両チームのリーダーは双方の立場と心労を察しながら、相方を引き連れその場を離脱する。

 それを見届けたサイトウも、マリィ達の戦場とゴチャつくのを避けるべくフィールド中央へと駆け出した。

 

(ゼオン、私がライバルとして手助けをできるのはここまでです。ここでネモ殿を倒して、正々堂々あなた達に勝負を挑みます!)

 

「場所を変えましょう、ネモ殿」

 

「うん、やっとバトルができるの楽しみだなー!」

 

 ネモ達も離れ、残された3者は誰ともなく手持ちのボールから控えのポケモンを全て繰り出す。

 

「いよいよ始まる……行け、リザードン!」

 

「任せたよ、オーロンゲ、バルジーナ!」

 

「総力戦ですぞ、タイカイデン、ハラバリー!」

 

 ボールの外に戦闘可能な手持ちが1体でも残っていなければ、即負けとなる。

 そのルールの都合上、戦いの間は極力ボールから全ての手持ちを出しておこうという判断だ。

 

(マリィにナンジャモさん……今の俺より圧倒的格上の2人だ。3人での戦いは初めてだけど、どんな仕掛け方をしてくるんだ?)

 

 初のトライアングルバトル、かつトリプルバトルを前にどう手を付けて良いかわからず様子を伺うサトシ。

 その左翼方向でナンジャモがぴょんぴょんとその場で飛び跳ねながら、芝居がかった様な低い笑い声をあげる。

 

「栄えある開戦の狼煙を上げるは、このエレキトリカル☆ストリーマー、ナンジャモだぞ!

 マリィ選手にサトシ選手、刮目せよ! "10まんボルト"の陣!」

 

 ナンジャモの合図に呼応し、3体のポケモンが咆哮を上げながら、一斉に"10まんボルト"による強力な電撃を解き放つ。

 即座にマリィが、僅かに遅れてサトシがその戦術の恐ろしさを理解し、対応に迫られる。

 

「オーロンゲ、"ひかりのかべ"! モルペコ、"オーラぐるま"でガード!」

 

「ッッ……ピカチュウ、リザードン、"10まんボルト"と"かえんほうしゃ"で迎え撃つんだ!」

 

「モペー!」

 

「ピー!」

 

 マリィ、サトシ共に防御を試みるが、完全には電撃の威力を防ぎきれず前衛を務めたモルペコとピカチュウが負傷する。

 何故2人共押し負けたのか? そのカラクリは、単純に指示効率による攻撃に参加したポケモンの数の差にある。

 ナンジャモの手持ちは共通して"10まんボルト"を覚えているため、1つの指示で3体同時に技を繰り出せる。

 一方、技構成がバラバラのマリィとサトシは個別に指示を出さなければならないが、同時に出せるのは2つがやっと。

 タイプ統一パーティの利点を活かし、自然と3対2の構図を押し付けていたのだ。

 

「どんなもんですかな? これぞ"ナンジャモ☆システム"! オープンソースなのでご自由に真似して構わないよー」

 

「ナ、"ナンジャモ☆システム"……なんて恐ろしいんだ!」

 

「名前の割に侮れんとね!」

 

「サトシ選手、マリィ選手、ナイスなリアクションですぞ! ここ後で切り抜き動画のシーンにしてもらおーっと」

 

 どこか緊迫さに欠ける態度のナンジャモ達に打って変わり、実際に戦うピカチュウ達に気の緩みは見られない。

 

『今まで相対した中でも屈指の強敵達か……。ピカチュウ殿、電撃技以外が飛んできたら中陣に下がられよ』

 

『おい、無理すんじゃねえぞ。俺とピジョン、いや今はピジョットか。俺らに任せておけ』

 

 全身をシバリングさせ、無理矢理身体の痺れを取ろうと試みるピカチュウの背後にかかる、仲間たちの声。

 背中で相槌を打とうとして、予想していなかったぶっきらぼうな声に気付き慌てて振り返る。

 

『リザードン……!? キミと会話するの、久しぶりだよね。昔は皆に敬語だった*2気が……』

 

『ありゃヒトカゲ時代の話だろ。あれだけバトルで揉まれりゃあ性格も変わるわ』

 

『おぬしが我々に話しかけるのは珍しいな。どんな心境の変化があったのだ?』

 

 ピジョットの問いに、リザードンは忌々しそうな表情で空を見上げる。

 だが他者を全て拒絶してきた今までの彼の眼差しとは、何かが僅かに異なる。

 

『……ボールの中からずっと刺してきやがるんだよ。サトシと俺らに対する悪意がな。

 だが、それを飛ばしてきてるのは眼の前のあいつらじゃねえ。これは()からのものだ。

 それを叩き潰すのにはおそらく俺一人だけじゃどうにもならなくて、お前達も、ゼオン(あのガキ)の力も必要だ。だから――』

 

 進化を遂げてから終始サトシに逆らい続け、ゼオンの洗礼をもってしても丸く治まることのなかった、札付きの問題児。

 この特殊な決勝の雰囲気に中てられたのか、そのリザードンがここにきて初めて変化を遂げようとしていた。

 

『俺達で力を合わせ、一緒に戦うべきだ。これが今の正直な気持ちだ』

 

*1
戦術上のやむを得ない一時的な共闘ではなく、露骨に終始結託する行為

*2
無印17話




今回もご視聴ありがとうございます

サトシはまだ初代ポケモンをメインで使用しているので、代わりにサイトウがルカリオを使ってます。
あとサトシはなんとなくナンジャモを大分年上だと予想して、さん付けしています。
自分の中ではナンジャモは25歳以上のイメージ。
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