ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

46 / 79
46話:テラリウムドームの五つ巴-⑥ 戦場の華

 

 決勝戦 第2ラウンド リングのカウントダウン中

 

 サバンナエリア サトシVSナンジャモVSマリィ 戦闘継続中

 サイトウVSネモ 戦闘開始

 

 ポーラエリア キバナ,オニオン移動中

 

 コーストエリア アオキ,グルーシャ移動中

 

 キャニオンエリア アマネVSアカマツ 戦闘開始

 

 

 各選手に配布された試合用スマホロトムが、キルログを受信したことで一斉に鳴動する。

 しかし誰も、その重要な着信を確認しようとしない。いや、しないのではなく出来ないのだ。

 今この場で少しでも注意を逸らせば、即負けてもおかしくない戦況に叩き込まれているから。

 

「"送電の陣"を3秒間展開! タイカイデン、そのまま右から旋回。相手の陣形が崩れたら即後続も続いて!」

 

「オーロンゲ、"ひかりのかべ"と"リフレクター"の両壁を維持! バルジーナは中陣で受けに徹してモルペコは、はらぺこもように切り替わったら攻撃に参加!」

 

「ピカチュウ、オレの示す方向に"10まんボルト"で攻撃を相殺! ピジョット、すぐにカバーを! ……ッ、リザードン、その動きはフェイントだから釣られちゃだめだ!

 ……ピカチュウ、技を出し終わったらすぐに後ろへ回避!」

 

 ナンジャモ、マリィ、サトシの指示が飛び交い、9体のポケモンによる攻防が入り乱れて乱戦模様となる。

 サトシの指示でサポートに徹するピジョットが、僅かな息継ぎの合間に仲間達を横目に一瞥する。

 

主人(サトシ)の指示精度と判断力が大幅に向上した! ピカチュウ殿とリザードン殿も強くなったが、それでも優位には立てずなんとか喰らいつくのがやっとか……)

 

 サトシは現在一時的な覚醒状態にあるが、それはあくまでバトルIQと技術の向上であり、経験値が強化されたわけではない。

 3体のポケモンを同時に動かさなければならない、集団戦の経験はほぼ皆無。

 それに加え、実戦経験で遥かに勝るナンジャモとマリィがサトシのレベルに即応し、戦況はすぐに五分以上に盛り返された。

 

「はっはっは、色々伸び悩んでたようだけど、とうとう化け始めたねサトシ選手。

 しかーし、私やマリィ選手だって色々揉まれてここまでやってきたんだよ。知らんけど」

 

 要領を得ないナンジャモの発言も、サトシはすんなりと受け入れられた。

 きっと彼女達も強敵との実戦の中で限界を超えて来たのであろう。

 時には引退を考える様な戦いを潜り抜けたのかもしれない。

 だとするなら、まだまだ経験の浅いサトシが、たった一度成長を遂げた程度で一筋縄では行かないのも止むなきことだ。

 事実、このレベルのバトルを幾度か体験しているナンジャモのポケモン達は、二方向からの攻撃を捌きながらも、器用に己の主の様子を伺う。

 

『ご主人、口数多いのはいつもだけど今日は楽しそうダネ』

 

『多分だけど相手の子達の()()になりかけてるな。珍しいこった』

 

 おしゃべりをする余裕があるのも、彼らの実力が高いということもあるのだが、バトルに僅かな遅延が入っているという理由も大きい。

 その原因は、防戦重視で戦うマリィにあった。マリィにとって、チームの勝利とは別に個人の生存,キルポイントも確保しなければならない使命がある。

 

(この決勝で個人点を多く取れれば、世界ランクが大幅に上がるはず。

 そうなれば故郷の再興が現実的なレベルになる。

 景色もキレイじゃないし、自然もろくに無い殺風景なスパイクタウンだけど、あたしの大事な故郷には変わりない。

 たとえ後でバッシングを浴びようとも、ここはなるべく2人に攻めさせて、あたしだけは深刻なダメージを貰わないように立ち回る……!)

 

 マリィが一歩引いて戦っていること、その戦術にポケモン達が忠実に従っていることはナンジャモ側もバトル開始直後から把握している。

 まだ幼い2人の少年少女の奮闘に自然と頬を緩ませながらも、この戦いの終着地を頭に思い描き始めていた。

 

(サトシ選手、マリィ選手……良いポケモンと出会えたね。

 自分達が置かれた現状を理解して、トレーナーのために尽くしている賢い子達だよ。

 そして2人とも、自分以外の何かのために勝とうとしている。こちらにヒシヒシと伝わってくるその気持ちを無下にはできない!)

 

 心情的には2人に肩入れしたいが、戦闘放棄やチームに対する利敵行為は行えない。

 だからナンジャモは――戦場に華を咲かせることにした。

 腕を完全に覆っている服の袖をブラブラ揺らしステップを踏むと、手持ちのポケモン達が一斉に動きを止め、主を注視する。

 

「序盤から最終形態みせちゃるぞ! "エレクトリカル☆トランジスタ"!」

 

 3体は物珍しさに少しだけ意外そうにしてみせたが、すぐさま陣形を立て直し、でんきエネルギーを螺旋状に形作り仲間達と連結させる。

 エネルギーは相互作用で互いを補強し合い、見る見る内に強力な閃光と炸裂音を撒き散らす電撃へと変貌した。

 

(1体1体の電撃の力強さが、ゼオンに見劣りしないレベルに強くなった!

 こんな切り札があったのか……でも、その反面体への負荷がそれ以上に増している。おそらくは短期決戦の捨て身で来るはずだ)

 

 警戒しつつも力の特性を見抜き、対抗策を講じるサトシ。

 その一方で更に守りを固めようとしたマリィは、ナンジャモから心を見透かす様な瞳で覗き込まれ、反射的に息を飲み込む。

 

「マリィ選手、()()ていこうぞ。そうすれば、どこの戦場よりもこの戦いが目立つよ!」

 

 自分の戦法が見抜かれていること、そしてその上で何故まだ余裕のあるナンジャモが勝負を急いだのか。

 それらを察したマリィは全身から汗が吹き出たような感覚に襲われ、そして自然と武者震いする。

 

(そうか……ナンジャモ選手は、この戦いの勝者を立てようとしている。

 おそらく全ての戦場の中で、初めて発生したこの戦いが目立てば目立つ程、より世間から注目と評価を得る。

 だけど手は抜かずに本気で勝ちに来るはず……その上で果敢に戦って乗り越えて見せろ、と言っているんだ!)

 

 今のマリィに、敗北への恐怖や故郷の復興は頭に無い。ここまで御膳立てをされたのなら、一トレーナーとして誇りをもって応えるだけだ。

 

「あたしだってお祭りバトルは嫌いじゃなか! 皆、あたし達も勝負に出るよ!」

 

 マリィがいつも通りのテンション、戦型に戻ったことでポケモン達もそれを待ち望んでいたかのように、血気盛んに攻勢へと打って出る。

 

『うちのお嬢(マリィ)もようやく火が付いてきたな』

 

『いいね、ちんたらビビって戦うのはあたしの旦那だけで十分だ!』

 

 ナンジャモ、マリィ共に人が変わったかのように勝負を決めに出たことを、サトシのポケモン達も察知しつつ覚悟を決める。

 

『一気に勝負が決まるよ……!』

 

『ああ、ここが勝負どころだ。……どうされたリザードン殿?』

 

 リザードンの様子に気付いたピジョットが訝しむ。

 こういう状況で真っ先に勝負へと身を投じる好戦的な性格のはずだが、まるで戦場外の何かを警戒しているようにその場に留まって、空を見上げている。

 そして次に放たれた言葉は、更に似つかわしく無いものだった。

 

『……ピジョット、アンタは下がって極力被弾を防げ。先陣は俺の単騎駆けで十分だ』

 

『なっ……しかしここが勝負どころではないか! 出し惜しみをして負けたら意味がない!』

 

 ピジョットは自覚している。この場の9体の中で、総合力で最も劣るのは己であると。

 だからこそその言葉が戦力外通告の様に聞こえてしまったのだが、思惑が別にあるリザードンはまどろっこしそうに首を横にふる。

 

『そうじゃねえよ先輩! アンタが動けなくなったら俺達は勝ったとしても全滅しちまう!

 詳しい事情は終わったら話すから、とにかく余力は残せ! あとピカチュウは……』

 

 リザードンから耳打ちを受けたピカチュウとアイコンタクトを交わし、ピジョットはその指示を黙認する。

 リザードンは覚醒したことで、彼らに無い知覚能力に目覚めているようだ。

 ならばその判断を取り入れるかどうかは、サトシに一任すべきだろう。

 

「リザードン……それがお前のやりたいことなんだな。わかった、先に行くんだ! ピカチュウはその後ろからサポートを頼む!」

 

 その表情から、何かを察知したサトシからGOサインが放たれる。

 既に接近戦の間合いに近づく6体に、リザードンとピカチュウが飛び入り参加したことで、8体のポケモンが交錯する死地と化した。

 入り乱れる攻撃がポケモン達にダメージを刻んでいくが、一番損傷度合いが高いのは、やはり2体というハンデを抱えながら前衛を務めるリザードンだ。

 自身に向かう、オーロンゲの"ソウルクラッシュ"とバルジーナの"エアスラッシュ"のコンボを間一髪で空中に回避するが、ナンジャモにその隙を突かれてしまう。

 

「ここだよ! ハラバリー、"10まんボルト"!」

 

 3体が形成した、相互増幅回路によって強大となったハラバリーの電撃を浴び、リザードンは力なく打ち落される。

 だが、岩盤に激突する手前でブレーキをかけ、そのまま傍を旋回していたバルジーナを腕で鷲掴み、全身に残った全てのほのおエネルギーをかき集め、顕現させる。

 

『なんだい!?』

 

「はあっ? あれを耐えるんかい!」

 

 ナンジャモは経験から、リザードンが耐久型のポケモンではないと予想し、この電撃だけで倒せると見立てていた。

 事実リザードンはほぼ瀕死状態。彼女の眼力と考察は見事であったのだが、一つだけ抜け落ちている情報があった。

 サトシのリザードンは、電撃に限っては他の攻撃より耐性がある、ということを。

 

『電撃はゼオン(あいつ)から毎日浴びてるからな! 来るとわかってりゃ、これくらい一発なら耐えられるんだよ!

 それにお前らは、身の丈に合わねえ電撃を打つ度に負荷で硬直が入る。隙を待ってたのは俺の方だ!』

 

「リザードン、今だ! "ブラストバーン"!」

 

 繰り出せてあと一発。それをわかっているから、彼の意図を汲み取ったサトシが最後の技を命じる。

 リザードンの全身から生まれた煉獄のレーザーが、掴まれて身動きの取れぬバルジーナと、その直線上で反動により動けぬハラバリーを高速で撃ち抜いた。

 "もうか"により強化された一撃は、高耐久を誇る2体ですら防ぎきれなかった。

 パーティの守備役をつとめる2体を捨て身で同時に仕留める、という当初のリザードンの思惑が成功する横で――

 

「ここですぞ、デデンネ!」

 

「際どいけど、今だよモルペコ!」

 

 2体のでんきネズミの攻撃が交差し、ダブルノックダウンの末相打ちとなる。

 一気に4体のポケモンが退場し、残りは5体。この局面でナンジャモとマリィは選択権を迫られる。

 瀕死かつ"ブラストバーン"の反動で動けず、もはやトドメを刺されるのを待つだけのリザードン。

 どちらが倒して撃墜ポイントを得るか。よりハイスコアを求めるマリィが真っ先に動く。

 

「オーロンゲ、"ソウルクラッシュ"!」

 

 リザードンの腹部にエネルギーが集中し、衝撃波となって爆散する。

 威力はそれほど高くなかったが、今のリザードンを戦闘不能にするのは十分だろう。

 今度こそ地に崩れ落ちれゆく、その背後から――

 

「今だ、"10まんボルト"!」

 

 サトシの掛け声に合わせて、ナンジャモのポケモンに劣らぬ力強い電撃が、リザードンもろともオーロンゲを飲み込んでいった。

 

「み、味方ごと攻撃した!?」

 

『グオオッ……てめえ、マジかよ!』

 

 マリィ、オーロンゲ共にリザードンの身体で死角となった位置から、ピカチュウによって放たれた電撃に反応できず、"ひかりのかべ"を貼る間もなく直撃してしまう。

 もはや使えないリザードンを目隠しにして、電撃の巻き添えにして捨て駒にする。

 考えようによっては冷酷な手段であるが、全ては事前にリザードン考案した戦術を実行したに過ぎない。

 

(サトシ、ピカチュウ、ピジョット……今更皆に迷惑をかけ続けたことを謝罪するなんて、俺のガラじゃねえ。優勝できたら代わりにこれでチャラにしてくれや)

 

 今度こそ気を失い、オーロンゲに重なるようにダウンしたその表情は満足げであった。

 なんとか起き上がろうとしたオーロンゲは、リザードンにのしかかられる形で押しつぶされ、気絶する。

 3体全てを失い、マリィの脱落が決定して一息つくサトシとピカチュウへ――

 

「まだ気を抜いちゃだめだよー!」

 

 あえてキルポイントをマリィに譲り、後方で生存していたナンジャモの合図で、タイカイデンが攻撃の照準を合わせようとしていた。

 ピカチュウも慌てて反撃を試みるが、"10まんボルト"を打った直後でエネルギーが溜まりきっていない。

 どう足掻いても先手を許してしまう、とサトシが危機を覚悟したその時、

 

『警告。2度目の立入禁止エリアの閉鎖が開始します』

 

 2人のスマホロトムが鳴動しアナウンスを通知する。

 両者共にこの戦場が2度目の立入禁止エリアになることは、マップで確認済である。

 もしもここでピカチュウを仕留めても、サトシはまだピジョットを温存している。速やかに仕留めねば、エリア収縮に巻き込まれ面倒なことになる。

 戦闘継続と安全地帯移動、どちらを優先すべきか思考を巡らせるナンジャモ。

 その高すぎる思考瞬発力が、抜群の俯瞰視野を備えた神経の塊といえる彼女に、初めて隙を作ってしまう。

 

「ッッ……今だ!」

 

『"ギガインパクト"』

 

 ナンジャモの完全な意識の外から、流れ星が降下した。

 乱戦の間に高度数十Mまで上昇し、たった一度のチャンスを伺っていたピジョットが無音で降下し、タイカイデンへ渾身の一撃を浴びせた軌道であった。

 

「素晴らしい……」

 

 全ての手持ちが戦闘不能となり敗退が確定し、肩の力が抜けながらも、漏れた言葉は本心からのものであった。

 スマホロトムがまたも忙しなく鳴り響くと、この戦いの決着と勝者を戦場全域へ高らかにしらしめる。

 

『サトシ選手、撃墜ポイント4。サトシ選手がキルリーダーとなりました』

 

『あなたが新たなキルリーダーです。この戦場において狙われる立場でもありながら、皆から畏怖を集める『捕食者』となりました』

 

 その文面を、激戦で荒れに荒れたバトルフィールドを、クタクタになりならが寄りかかるピカチュウ(相棒)を、打ち破ったライバル達の表情を見たサトシに、少しだけ力がみなぎった様な気がした。

 

(もしかして……これがデュフォーとゼオンが観ている景色か)

 

 しかし今は浸っている暇はない。すぐに現状を思い返し、顔面の汗を拭いながら後始末を始める。

 

「リザードン、よくやってくれた! 勝てたのはお前のおかげだ!

 ピカチュウ、ボールに戻って少しでも体力を回復するんだ。ピジョット、すぐに安全地帯に移動しよう!」

 

「ピー……」

 

 モンスターボールの中を嫌うピカチュウも、サトシの焦燥を感じ取ると素直に従い、気を失ったリザードンと共にボールへと戻る。

 ピジョットの背に乗り、上昇しながらもサトシは帽子を取り無言で2人に会釈する。

 

(マリィ、ナンジャモさん、またバトルしよう……)

 

 既に敗北を受け入れたナンジャモと違い、マリィは「ああしていれば」、「もっとこうすれば」、とあらゆる後悔の感情に支配されていた。

 だが、勝利も早々にせわしなく退散するサトシと、フィールドの外周から重低音を唸らせ侵食していく半透明の禁止エリアを見て、その気持は薄れていく。

 

(そうか……ピジョットを温存させたのは、この死の壁から皆を逃がすためだったんだ)

 

 サトシとスタミナが削れたピカチュウの足では、時速20km以上で迫りくる禁止エリアに確実に飲み込まれる。

 トレーナーを運搬して、安全地帯まで高速飛行できる飛行タイプのポケモンが健在であることが必須だったのだ。

 バルジーナを温存するという考えが頭に無かった時点で、仮に勝てたところで、禁止エリアから逃げられずに敗退していた。

 それに気付けたからこそ、マリィは今になってようやく心からサトシの強さを認め、完敗を受け入れられたのだった。

 

カントー代表:生存11体 撃墜数4 

パルデア代表:生存9体 撃墜数1

ガラル代表:生存9体 撃墜数2

ブルーベリー代表:生存12体




いつもご視聴ありがとうございます。
決勝戦全部のプロットが完成しました。
都合上省略するバトルも出てきますが、それでもなかなかの長さになるので書き切ろうと思います
あとamazonprimeで古いアニポケがほとんど見れなくなってしまったのが、地味に痛手です。
仕事の方は落ち着いて有給使えるようになったので、週1くらいのペースは維持できそうです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。