ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

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5話:ニビジムとタイプ相性

 

 

 ゼオンと呼ばれたポケモン――タケシにとって完全に未知との相対となる。

 タケシは通常一番手にイシツブテを選出する。だが、ポケモンバトルとは何かを全力で教えるべきだと判断した時は……

 

「始めるぞ。行け、イワーク!」

 

 重低音の唸り声をあげ、モンスターボールの中からエースである巨大ないわへびポケモンが繰り出される。

 ゼオンとの体格差は数倍を超えるが、見下ろす表情から侮りや驕りはみられない。

 両者が相手を視認する、と同時に風切り音を立てながら、ゼオンは10M以上あるイワークとの距離を一瞬で詰める。タケシとイワークがそれに気付いて反応する間もなく――

 

「でんきショック!」

 

 ゼオンの掌から放たれた電撃が、至近距離からイワークの上半身を貫く。

 

「これがでんきショックなのか!?」

 

 でんきショックはでんきタイプの特殊攻撃技で一番弱いはず。なのにその威力、範囲は並のポケモンの中級技クラスだ。

 思わず面食らうタケシであったが、すぐにでんき技の選択という不自然さに気付く。

 強い閃光と衝撃で思わず目をつぶり屈んだイワークだが、何事も無く平然と身を起こし体制を整える。

 

「効いて……ないのか。威力不足ではないよな」

 

 想定外の出来事を前にゼオンは眉をひそめるると、一旦下がって距離を取る。技の威力が足りないという線をゼオンはすぐに捨てた。

 サトシのピカチュウのでんきショックと比較すれば、ゼオンの威力は高い水準を持っていることがわかる。

 サトシがバッジを全て持っていること、ニビジムが初心者用のジムだということを考慮すればそれはありえない。

 計算違いはデュフォーにとっても同じことであり、すぐにその理由の考察に移る。

 

「考えられる一番の可能性は、イワークがでんきタイプの技を無効化する「じめん」タイプを持っていることだ」

 

「じめん? ここはいわタイプのジムじゃないのか?」

 

 正面のイワークとタケシへの警戒を保ったまま、ゼオンはデュフォーの言葉に耳を傾ける。

 戦闘中にもかかわらず平然と会話を続けられるのは、いつ襲われても余裕を持って対応できる自信があるからなのだろう。

 

「ポケモンの中には、2つの複合タイプを持つものが存在する。言ってなかったが、オレが所持しているもう1体のポケモン(モンメン)もそうだ」

 

「それは初耳だな。しかしよりによって最初のジムが、無効タイプを複合タイプに持ったポケモンを出してくるのか」

 

「最初のジムだからこそだ。そしてじめんタイプが複合しているというのも方針としては理にかなっている」

 

 そのデュフォーの言葉に真っ先に反応したのは、やりとりを交わしているゼオンではなく対戦しているタケシだった。

 

「待ってくれデュフォー。イワークがじめんタイプも持っているというのは正解だ。

 だがその後の考察を聞かせてくれないか。その間こちらからは手出しはしない」

 

 タケシはイワークに待機の指示を送り、長時間の会話をする猶予を確保する。それを確認したデュフォーが淡々と己の見解を語り始める。

 

「オレは最初、複合タイプのポケモンはレアケースだと思っていたが、そうではないのだろう。

 だとしたら、選出ポケモンに複合タイプと無効タイプを組み込んでポケモン初心者に体感させた方が良いと考えた」

 

「うん、だが無効タイプを持つのはじめんだけではなく他にもたくさんあるはずだ」

 

「無効タイプを持つのは7タイプだがこの中でゴースト、はがね、フェアリー、ひこうはいわとの複合として不適格だろう」

 

 タケシの指摘に対してデュフォーは即答する。

 

「それらはいわタイプに弱点をつける、みず、くさ、かくとう、じめん、はがねタイプのいずれかに抵抗力を持っており、弱点を打ち消してしまうからだ。

 運営側はこのジムを初心者向けに位置づけている。チャレンジャーに求める能力は、いわタイプのジムという情報を元にいわの弱点となる技を用意して突くという程度に留まるはず。

 ならば複合タイプが相性補完してしまっては、意味がない。よっていわの相方にはじめん、あく、ノーマルのどれかが妥当だと思う」

 

「……君はポケモンバトルの経験が無いだけで、勉強自体は前からしていたのか?」

 

「勉強は昨日から始めて、タイプ相性もその時に知った」

 

 ジワリ、とタケシの頬に汗がにじむ。まず、無効タイプを意図的に組み込むという部分以外はデュフォーの考察は当たっている。

 ビギナー向けのニビジムとハナダジムは、ポケモンを用意する際にメインタイプの弱点をカバーする複合タイプは使わないよう通達を受けていた。

 昨日初めてポケモンバトルを学び始めた人間が、タイプ相性を完璧に把握しているというだけで異常事態なのだが、あまつさえ、運営側の視点に立って物事を考えようとしている。

 

 ――バトルの経験が無いというのはやはり嘘なのか?

 

 しかしそんな嘘をつくメリットがデュフォーには無いし、イワークにでんき技を打ち込んだゼオンの反応は演技には見えない。

 

「ジロウにいちゃん、あの人って……」

 

「しっ……静かに見てるんだ」

 

 フィールドの横から立会を務めていたジロウ、サブロウも眼前の状況に対して困惑と驚愕が入り混じっている。

 サトシとのやり取りを見ても、デュフォーの一挙手一投足が衝撃を与えるのは想像に難くなかった。

 

「そうか。君の考察は参考になった。バトルを腰を折ってすまなかったな、再開しよう」

 

 タケシが指を鳴らすと、イワークは再び唸り声をあげフィールドを前進する。一方のゼオンはギリギリまで距離を取って様子見を続けている。

 

「どうするつもりだデュフォー。今のオレ達ではじめんタイプを相手にしたくないと言ったのはお前だぞ」

 

 対応に困っているのはゼオンだけではなくタケシも同様である。

 反応からしてゼオンが使える攻撃技はでんきだけで、控えのポケモンはレベル不足の数合わせか、イワークに無力なタイプなのだろう。

 デュフォーの考察力とゼオンの基礎力はバッジを手にするのに十分な資格を持っているのに、実戦不足と不運が噛み合って攻略できずにいる。

 心情的には勝たせたいが、この試合が公式戦であるためタケシがわざと負けるにもいかない。

 

 相棒の、対戦相手の、観戦者の注目、不安、期待が一点に集約した時、少年の眼に全てを見通すようなオーラが宿る。

 

「ゼオン、お前の電撃に『王族の雷』を付与するんだ」

 

 本人しか意味の通じない言葉であったが、ゼオンの険しくなる表情が当人以外にも難題であることを物語る。

 

「それはさっきの練習で試したが出来なかった。この世界の「わざ」に「呪文」の力を付与する手段など、修行もしていない今この場であるのか!?」

 

 既にイワークはゼオンの傍まで迫っている。タケシもギリギリまで引っ張ったがこれ以上は怠慢行為になるため引き延ばせない。

 

「イワーク、いわおとしだ!」

 

 イワークのエネルギーから生成された岩石が空中からゼオンに降り注ぐ。5発、6発とそれらをギリギリでかわし、捌きながらデュフォーの言葉を待つ。

 

「サトシのピカチュウと同じだ。魔物が新たな術に目覚める時のきっかけの様に、それは技術でも経験でもない。「心の底からの望み」だ」

 

 サトシ、という単語にタケシが思わず反応し次の指示が止まる。

 僅かな猶予の中、ゼオンは一番の望みを自身に問いながら、今一度電撃を掌に宿らせる。

 

 デュフォーをはやく元の世界に戻したい。

 そしてガッシュを助けたい。

 

 ――"オレ"じゃなかったんだな。

 と己の返答に笑みを零しながら放った紫の電撃は、一度無傷だったという経験を経たが故に無防備だったイワークに刺さり、一瞬で気絶へと持っていく。

 

「見事だ、ゼオン」

 

「紫色の……でんきショック」

 

 先程までより更に威力が増し、そしてじめんタイプにすら通用した紫電にデュフォーは素直に賛辞を送り、タケシは息を呑みそして決着を受け入れる。

 ダウンしたイワークを見下ろすゼオンの表情は緊張と虚脱が入り混じっている。

 この一撃は出し惜しみしていたのではなく、何かを頑張って成し遂げたから出せたのだろう。ならばこれ以上の戦いは蛇足といえる。

 

「こちらの控えのポケモンはイワークより弱い。結果が見えた以上いたずらに傷つけるわけにはいかない。君たちの勝利だ」

 

 タケシの宣言を聞き、ようやくゼオンは一息つき臨戦態勢を解除する。

 

「電撃が通用しない時はどうなるかと思ったが、ゴリ押しすることになるとはな。

 お前なら一度引いて、いわタイプに強いポケモンを用意してすぐ再戦すると思ったんだが」

 

「『一度ジムチャレンジに負けた場合、一週間はそのジムには挑戦できない』という規約が新しくできた。だからデュフォーはこの場での対応を選んだんじゃないか」

 

 なるほどな、とゼオンが相槌をうつ。

 実力不足の冷やかしが何度も押しかけてまともな挑戦者の邪魔をしないため、と考えればいいルールに思えるが、ジム制覇に1週間しか猶予のないデュフォーにとっては諸刃の剣といえる。

 

「ぜひ受け取ってくれ。この先一発で全てのジムをクリアしなければいけないが、それでも君たちなら本当に今回のポケモンリーグに滑り込めるかもしれない」

 

 鈍い輝きを放つグレーバッジをデュフォーに手渡しながら、タケシが送る言葉は紛うことなき本心であったが、同時に不安と期待も己の腹に押し留める。

 相性最悪のじめんタイプというイレギュラーと試練がきっかけで、後に最強となる怪物達を自分が目覚めさせてしまったのかもしれない、と。

 

 チャレンジが終わり兄弟達がジム内の後始末を行う中、タケシはジムの入り口でデュフォー、ゼオンを見送ろうとしていた。

 

「それにしても、君はサトシの知り合いだったんだな」

 

「タケシの話もサトシから聞いている。女の趣味も含めて色々とな――」

 

 悪気なく放たれるデュフォーの言葉にタケシは泡を食いながら、兄弟たちに話を聞かれてないか確認する。

 

「おいおい、だったら最初からそう言ってくれればよかったのに」

 

「共通の知り合いがいるという話でバトル時の空気を弛緩させたくなかっただけだ。他意はない」

 

 その後しばらく、今回のポケモンリーグに間に合わせるというサトシとの約束を含め、出会ったいきさつで3人は話に花を咲かせる。

 

「しかしオレが話せることにサトシもタケシも然程驚かないんだな」

 

「本当ならポケモンが喋れるのは相当珍しいと思うが、俺達の場合は言葉が話せるポケモンに腐れ縁でいつも関わってるからな。

 ――さて、君たちとはもっと話したいところだが、そろそろ次のジムに行った方がいい」

 

 時刻を確認したタケシが会話の切り上げに移る。

 

「ジムに挑戦できるのは日中だけだ。夜中はジムリーダーも寝ているからな。

 さらに、挑戦者が先にいた場合は順番待ちをしなければならない。君達は額面通り残りの150時間をフルに使えるわけではないんだ」

 

「先約者ばかりは運が絡むよな……。もう昼過ぎだし、そろそろ次のジムに行くべきだな」

 

 ゼオンの提案を受け、デュフォーは3人の真ん中でタウンマップを広げる。

 

「次はニビシティから東へ100kmほど先にあるハナダシティのみずタイプジムに挑戦するつもりだ」

 

「100kmか。途中にでかい山があるみたいだが、オレの足なら一時間以下で辿り着けそうだ」

 

 2人が今日中にダブルヘッダーで次のジムに挑もうとしている事を察すると、タケシはスマートフォンらしきガジェットを取り出し誰かに連絡をかける。

 

「……やあカスミ、今ハナダジムにいるのか? ……ああ。 ……うん。

 実は俺とサトシの知人が今日これからハナダジムのチャレンジをしたいそうなんだが、時間空いてそうか?

 ……そうか、ありがとう。それじゃあまたな」

 

 タケシは通話を終え、自身のジムリーダー用ネームカードに走り書きをしてデュフォーに手渡す。

 

「16時半以降でよければハナダジムに挑戦できるぞ。俺の知り合いだと言ってこいつを見せてくれればいい」

 

「そいつは助かるな。タケシの厚意に甘えるとしようじゃないか」

 

 ゼオンの言葉にデュフォーは鋭い眼光を返しながらうなずく。

 

「ああ、次のジムでも思わぬアクシデントがあるかもしれない。気を引き締めて挑むぞ――」

 

 

 

 

 

 ◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「勝負有り、今回のジムチャレンジはチャレンジャーのデュフォーくん勝利でーす!」

 

 プールと水族館を模したハナダジムのフィールド上でなんとも言えない表情を浮かべるゼオンの傍らで、審判を務めていた次女アヤメが呑気な声色で試合終了を宣言する。

 

「あなたのポケモン、みずタイプに有利なでんきタイプだしとても強く育ってるね。言う事は何も無いわ」

 

 相手を務めた長女サクラからデュフォーへとブルーバッジが手渡される。

 ジムチャレンジは結論から言うと、レベルが低いみずタイプのポケモンをゼオンが効果バツグンのでんきショックで秒殺するという順当なものだった。

 本来ニビジムでもこうなるべきだったのだが、イワークがじめんタイプと複合していたため難易度が前後してしまっていた。

 

「ニビジムでも思っていたことだが、タイプ相性の影響は大きいな。相性で有利な相手ならしばらくオレ一人でカタがつきそうだな」

 

 それは軽口というほどでもないゼオンの何気ない感想であったが、素通しできない人物がいた。

 

「ちょっとキミ、それはポケモンバトルをナメすぎじゃないの?」

 

「お前は……」

 

 フィールドの横端で一連の様子を見守っていた、末妹のカスミがゼオンに食って掛かる。

 

 ――ハナダジムの美人三姉妹とそのおまけという紹介を最初に受けたが、"女"を全面に出して異性から強い興味を惹きつけようとしている三姉妹と違い、確かにこのカスミとかいう女だけ色々浮いてるな。

 女というよりは、はねかえり娘と言った方がふさわしいか。

 

 内心で若干小馬鹿にしながらゼオンはカスミに向き直る。

 カスミの言葉が本心にしろただの言いがかりにしろ、戦闘に妥協できないゼオンには無視する選択肢は無い。

 

「仮にオレがバトルをナメているとして、それをどうやって証明してくれるんだ?」

 

「今からわたしがバトルで教えてあげる」

 

 弛んでいた場の雰囲気がピリついていく。だが実際に息巻いているのはカスミだけで、他の姉妹達は全く乗り気ではない。

 

「カスミ、せっかく勝ったチャレンジャーにミソつけるような真似しないの。

 相手したのは姉さんなんだからあんたは引っ込んでなさい」

 

 長女サクラの後ろで控えていた、三女のボタンが釘を刺す。

 はやくジムチャレンジを切り上げて終わりにしたい、というのが本心だったがそうは言えない手前での言葉だ。

 そして帰りたいという気持ちはゼオンも同じである。

 

「今はお前の相手はしてられん」

 

「はぁ? 逃げるつもり?」

 

「オレ達はこれからあと6日で残り6つのジムを回るんだ。それが終わって気が向いたら相手してやるよ。

 それともお前はたった一週間も待てないのか?」

 

 売られたバトルは買う、とはいえ現状の優先順位はゼオンもわきまえている。

 ニヤつきながら反論するゼオンに「うぐぐ」と悔しそうにカスミは言葉をつまらせるが、様子を静観していた意外な人物が助け舟を出す。

 

「ゼオン、今やってみたらどうだ」

 

「デュフォー!?」

 

「今日はこれから他の街のジムに行ってももう閉まっているだろう。つまり今からバトルしても時間のロスにはならない。

 それにタケシから頼まれて、オレ達の挑戦スケジュールの手配をカスミは手伝っている。顔を立ててやれ」

 

 顔を立てろ、というのが本心かはさておきデュフォーが提案するということはバトルをする「利」があるということなのだろう。

 それを察したゼオンはしばし無言で視線を交わし続け、今一度カスミを視界に捉える。

 

「いいだろう、かかって来い」

 

 ポケモンリーグのエントリー期限まで 残り145時間

 

 

 

 




書き貯めしてた分はこれで投下したので
あとは都度執筆完了したら投稿していきます
目標は週1or隔週投稿です
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