地下での死闘の決着から時は少し遡る。
ポーラエリアの
1対3という盤面でダメージを負い続けながらもまだ落とされていないのは、2体とも決勝戦のトリにふさわしい、圧倒的耐久と戦闘技術を有しているからに他ならない。
既に十分互いの力量を把握している中、サザンドラが攻撃の手を止めヘラヘラと小馬鹿にした様に笑う。
『えーと、なんだっけ名前が出てこねえや。あー……確か"お月見山"だ。
確かそんな名前のショボい山が、カントーのド田舎にあるだろ? お前の出身か?』
『それをてめえに話して何の意味があるんだよ』
『前にチンピラのスカタンクをボコったら、半ベソで捨て台詞を吐きやがったんだ。
「お月見山のドンカラスはあんたと同じくらい強えかも」ってな』
『……そりゃ教えてやらねえとな。確かに俺はお月見山の集落で頭張ってるぜ』
『そーかい……、やっぱり雑魚の噂はアテになんねえなあ。
イッシュの王である俺に勝てるやつなんざいねえ!』
一方的に会話を打ち切り、襲いかかるサザンドラの"りゅうのはどう"を舌打ちしながら
互いのダメージレースで遥か劣勢である以上、強気に挑発するサザンドラへ何も言い返すことができない。
確かに3対1という極めて不平等な状況ではある。
しかしこれは互いに合意して参戦した上での闘争。
その中で数的不利を引き合いに出すことは、アウトローの頭を務める者として、敗北宣言に等しい。
続いてサザンドラの口撃対象は、雪原の上で不動のまま瞑想するデュフォーへと移る。
『ケケッ、しかしお前らのトレーナーも薄情だな。勝ち目がねえからって全然指示を出さねえじゃねえか』
『他にやることでもあるんじゃねえの』
『はぁ? 役立たずの主をフォローしなきゃなんねえとは、お前も大変だなぁ』
見え透いた挑発、
デュフォーはあくまで利害が一致したビジネスパートナーであり、服従や崇拝をしているわけではない。貶されようが、揺さぶられることはない。
デュフォー本人も共通言語を取得しているため、その会話は全て筒抜けではあるが同様に反応は示さない。しかし、彼の家族や大切な仲間がそれを聞いていたとしたら――
「でんげきは"収縮の型"――」
『グオオオッ……!?』
遠くから微かに聞こえた宣言、次いで背中に焼ける様な痺れと衝撃。
サザンドラが振り返ると、隣の戦場で宙を飛ぶゼオンが見下すような様相で、掌から雷の残滓を垂れ流していた。
『ここは闘争の場だ、気を抜くなマヌケ』
サザンドラはすぐさま、視界の情報からその原因を特定。
背中の痺れから生まれる怒りの対象はゼオンではなく、包囲しているキバナ側のドラゴンたちに向けられる。
『おい、そのチビが俺に攻撃を打ち込む隙をなんでてめえらは与えてやがる!
3匹も群がってヌルい戦いしてんじゃねえよ!』
『こちらに打ち込まれた電撃を避けたら、その軌道上にお主がいただけのこと。
数で有利を取っておきながら、すぐ傍の戦いも把握できていないとは……ヌルいのはそなたであろう』
『へっ……気取った言い方してんじゃねえよ。お前も後でシメてやる』
サザンドラも反論して煽り返したブリジュラスに突っかかること無く、そこで言葉を切り上げ、すぐに
キバナ側の陣営に喧嘩を売ってヘイトを買い、今の状況で2チームから挟まれることが、この場においてどれだけ愚かであるか理解しているからだ。
『許せえなあ、どいつもこいつも許せねえゴミばかり……。許されざる者を裁くには、慌てず注意深くこいつらを観察しねえとなあ。
こいつら……俺達に手も足も出ないっていうよりかは、時間稼ぎしてやがるな?
その気になりゃあ俺と
先ほどとは打って変わった様子で、ブツブツと何かを呟くサザンドラ。
怒りに満ちた表情ではあったが、その言葉は一々鋭く的を射ている。
(チッ……キレるほど冷静になり集中力が増すタイプか。
さすがに自称とはいえ一国の代表張ってる
『やっとスイッチ入ってきましたよ、うちの大将も。相手に暴言吐かなくなったら集中してる証拠ですね』
『バトルしてねえ時と酒入ってない時は気の良い兄ちゃんなんだけどね』
仲間達もようやくサザンドラが本気になった、と心労が垣間見える様に溜息を吐く。
その心境は、別段指示を送らず見守っているカキツバタも似たようなものであった。
この決勝戦に抜擢したのも、一度同格以上の相手に真っ向から叩きのめされれば、考えが変わるかもしれないと見込んでのことだった。
一方、サザンドラに
『悪いな、わざわざ見え見えのお膳立てまでしてくれて』
『気にするな。
『そうか……ではこちらも出し惜しみ無く、全力で迎え撃とう。
かみなりパンチ《剣の型》――
雷光と炸裂音の中から生まれた一振りの巨大な雷剣。
それを見たブリジュラスが警戒するような甲高い金属音を鳴らし、キバナも即座に脅威性を察知する。
「その剣は避けるか、技で間接的に防げ! お前らドラゴン族の堅牢な鱗に対抗した技だ」
「……一度しか見せていなかったのだが、もう対策されていたか」
「1回でも見せりゃあ、俺達の領域じゃ十分に研究範囲だろ。こいつは世界戦だぞ」
時間をかけて開発した新技が、たった1日で旧兵器に成り下がった。
改めてキバナ達の――今対峙している敵の手ごわさを痛感させられ、雷剣の発動を取りやめる。
(面倒だが、堅実に遠距離からヒットアンドアウェイで削っていくしか無いか。
あいつらの頑強さは今まで戦った相手の中でも屈指だが――素早さだけなら上には上がいた。
それに空を飛べるのはフライゴンのみ。高度を上げて戦えば、大抵の攻撃は対処できる)
鳥ポケモンばりに空を自在に駆け、ドラゴン達を翻弄するゼオン。その姿にキバナがヒュウと口笛を鳴らす。
(スタミナ度外視でトバして来たか。あの速さで制空権を持たれると、簡単には攻撃を当てられないな。
更に耐久力も一級品で、まだ公式戦で一度も戦闘不能になったという記録がない。
あちらのドンカラスが崩れるまで慎重に攻めてもいいが――そんなみみっちい戦いはゴメンだな!)
キバナが攻勢に出た理由は2つ。
ゼオンは態度に顕していないだけで、オニオン戦で受けた"のろい"の蓄積ダメージは決して軽くないこと。
そして自分が鍛えに鍛え上げたドラゴン達ならば、攻めに出たところでゼオンに隙を見せて返り討ちにされることはないと信じているからであった。
「ブリジュラス、"エレクトロビーム"を装填!」
ブリジュラスが前傾態勢を取りながら、全身へ波動砲の様に電撃を纏わせる。
ゼオンは完全に初見でありながらその予備動作を見て、攻撃までにある程度時間がかかるものの、直撃すれば無事では済まない威力と即断。
打たせてからの回避と打たせる前の先制攻撃、二択を迫られ後者を選択。
「
再び雷剣を発現させると地へと降り、全速でブリジュラスの背後を取る。
空中よりも更に疾く駆けられるゼオンの、地上戦での本気の全速を捉えられる者は、もはやこの場に誰もいない。
ブリジュラスの無防備な背を雷剣が貫き、甚大な被害を与える――はずだった。
『ぬぅ……なかなかの技だが、捉えたぞ』
「剣が……動かない!?」
表皮を少し突き抜けたものの、急所があるはずの中心にまで刺さらず、引き抜こうにもまるで固定されたかのように、ビクとも動かない。
キバナのブリジュラスは最高峰の物理耐久指数を持っている上に、持ち物はたべのこしで、特性は"じきゅうりょく"。
いかに特効性能を携えた
「今だ、"アシッドボム"!」
再度雷剣を仕舞うべきか、僅かに迷ったゼオンの隙を突くべく、背後からヌメルゴンが硫酸の塊を投げつける。
回避が遅れたゼオンの右足に着弾し、僅かな痺れと違和感を刻み込む。
(麻痺毒か……!? 身動きが……)
「放て!」
「くっ……!」
キバナの声と同時に、とっさにガードを試みたゼオンの右腕を高速の電磁砲が一直線に貫く。
衝撃の強さの割にはさほど痛みは感じない。
だが腕の痺れと失われゆく感覚から、機能停止したことは明白だ。
(強固なマントでは無く生身でガードしたのは、この後の連戦を考え腕一本よりもマントの温存価値が高いと判断したからだな。
窮地においての合理的な選択……極上の獲物だが、今打ち込まれた楔は大きいぜ)
(半減で障壁ごとオレの腕を貫いて、一発でオシャカにした……あのブリジュラスの大技を次に食らったらヤバいが、それよりも右足の重さが深刻だな)
ヌメルゴンの特性"ぬめぬめ"により粘液を纏った"アシッドボム"を受けたことで、右腕の障壁と共に機動力も削がれてしまった。必然、キバナはそれを見逃さない。
「仕留めるぞ、"りゅうのはどう"! "ばくおんぱ"!」
「ッッ……!」
逃げ場のない音技である"ばくおんぱ"に削られながら、二発の波動が更に直撃――。
キバナは歴戦の戦闘勘から、ゼオンの限界が近いことを確信する。
「この期に及んでデュフォーは何もしねえのか? 本当に終わっちまうぜ! もう一度、りゅうのはどう……」
「
突如ゼオンの消滅――オニオンとの戦いで使った瞬間移動だとキバナが気付いた時には、ヌメルゴンの背後に出現したゼオンの右手から、三度生まれた雷剣が打ち込まれる。
「ヌミャアア!」
「逃がすなフライゴン! ゼオン・ベルは素の速度が落ちている!」
「フリャー!」
フライゴンが即座に負傷したヌメルゴンのカバーに走る。
だが、既にゼオンは既に高速で空中への退避を完了していた。
そして不可解なことに、さきほどまで負っていた深手は完全に消え失せ、まるで戦闘開始直後の様に無傷の状態まで戻っている。
「これだけ耐えて、ようやく初のクリーンヒットか……先は長いな」
「傷が……回復した? 自己回復技でも使ったのか?」
(違うな……右足に当てたヌメルゴンの"ぬめぬめ"まで消えている。
それに技を発動する時の、生命エネルギーの高まりや発動動作も無かった。
想定外の事態に対応を迫られるキバナ、その一方でゼオンが窮地に立たされながらもここまで、動く素振り一つ見せないデュフォー。
今その意識と思考は別の場所にあった。
『コジロウ、よく"ねむりごな"を成功させた。ファインプレーだ。
これであと20秒の間だが、オレの《アンサー・トーカー》が復活する。
ムサシ、あと10秒でコジロウが張ったスモークが解除される。
更にジャスト4秒後、ソーナンスへ傾度無しの"ミラーコート"を最短時間で展開するよう、指示しろ。だがそこからどう転ぶかは、正直賭けだ』
ゼオンの雷結晶を媒介とし、地下へ送り込んだムサシとコジロウをコントロールしながらも、デュフォーは僅かの間に復活した《アンサー・トーカー》へ疑問を投げかける。
眼前の戦いを切り抜ける方法、後の展開への対抗策、視覚外の他の戦局情報――喉から手が欲しい情報はいくらでもあるが、時間の猶予的に、能力はあと1回しか使えない。
デュフォーはたった一度の使用権を、本能が求める?(クエスチョン)へと使う。
Q:もしもサトシ達と出会っていなかったら、ガッシュと清麿との戦いから性格と生き方を変えなかったら、今頃どうなっていた?
A:いかにゼオンと《アンサー・トーカー》の力が強力無比であろうと、ほぼ確実に負けていた。そして元の世界に戻れる可能性も激減していただろう。
かつての自分なら、その問いを愚行と一蹴していたはずだと自嘲する。
それは知ったところで現状が全く好転することのない、実益皆無のただの確認事項。
――そうだ。サトシ、アマネ、ナツメ、ムサシ、コジロウ、キクコ、ミュウツー、
会えたのがお前達で良かった。この世界に飛ばされた時、最初に流れ着いたのがカントー地方で良かった。
この選択に後悔は無い。後の結果、どうなろうとオレのこの『答え』は変わらない。
否――全ての盤面のフィナーレを前に、デュフォーの闘争心は極限まで高まった。
『ラウンド4。リングのカウントダウンが始動』
カントー代表:残り???体(ゼオン、オカシラ、???)
パルデア代表:残り2体(ラウドボーン、ウェーニバル)
ガラル代表:残り3体(フライゴン、ヌメルゴン、ブリジュラス)
ブルーベリー代表:残り3体(サザンドラ、オノノクス、チルタリス)
ご視聴ありがとうございます。
とうとう連載1周年を迎えました。
年末年始で決勝戦を終わらせる予定です。