ポケットモンスター -紫電のゼオン・ベル-   作:やぶゆー

54 / 79
54話:テラリウムドームの五つ巴-⑭ 感謝、謝罪、終戦

「ゼオン、左手であの位置に"ほうでん"! 右手の雷霆剣(らいていけん)でガード!」

 

「オオ! サトシ、もっと要求のハードルを上げていいぞ!」

 

 覚醒により技の"弱所"が一時的に見えるようになったサトシの指示により、1対5という理不尽な戦況で猛攻から致命傷を避け続けるゼオン。

 それを見守るキバナは感心しながらも、より違和感と警戒を強めていく。

 

(こいつらの戦闘は称賛に値するが……現状は防戦一方の時間稼ぎにしかなっていねえ。

 だが目は諦めていない。何か縋るものがあるのか……?)

 

 隣の戦場のドンカラス、未だ潜んでいるナツメとデュフォーの3体目の手持ち、前傾姿勢で機を伺う様なピカチュウ。

 視界内外の全情報を加味し、相手の勝ち筋を一つずつ検証していく。

 

「ヌメルゴン、後方へ"りゅうのはどう"!」

 

「しまった、ピカチュウ!」

 

 これまで徹底していたゼオン狙いが、おもむろに奥で控えていたピカチュウに移り変わる。

 サトシ、ゼオン共にとっさに反応できず虚を突かれる。

 

「ピー……!」

 

「案ずるなピカチュウ、オレ達にはまだ仲間がいる」

 

 当たればリタイアは免れぬ波動が迫り身構えるピカチュウ、その隣で座るデュフォーは微動だにしない。

 

「フーディン、"ひかりのかべ"!」

 

 その鼻先まで迫った攻撃は、突如発生した半透明の障壁によって防がれる。

 デュフォーの隣に、フーディンと共に音もなく出現したナツメの指示により、波動は完全にシャットアウトされた。

 

「さっきは遅くなってごめんなさい、デュフォー。サトシ救出を優先していて手が回らなかった」

 

「そんなことはない、よくやってくれた。アマネが繋ぎ、ナツメとサトシが生き残ってくれたおかげでオレ達にも勝ちの芽が見えてきた」

 

 第4ラウンドの間、ナツメはもう一つの戦場に透明状態で潜み、手を出すこと無く様子を伺っていた。

 決着する際、リングに飲み込まれる寸前だったサトシとピカチュウをフーディンの"テレポート"で救出していた。

 本来"テレポート"は自身と己のトレーナーしか対象に選べない。

 しかしナツメのフーディンならば、あらかじめ同意を得てマーキングしておいた味方を、先に指定しておいた特定座標へ一方通行で飛ばす、制限された移動ならばできる。

 避難先で十分ピカチュウに電撃エネルギーを蓄えさせておきながら、再度カキツバタのいる戦場に飛ばし、チルタリスへの奇襲を成功させたのだ。

 その後は再びデュフォーの傍で潜伏、ピカチュウの護衛を優先していた。

 

(やっぱり……潜んでやがったか。これでナツメの位置も特定できた。

 後は、デュフォーが頑なに見せない3体目の手持ちだけだな。

 だが断言しても良い。3体目は俺様達の戦いに介入できないレベル――ゼオン・ベルとドンカラスより遥かに強さで劣る!)

 

 デュフォーが公式戦で使用したことがあるのは、エルフーンとブースターの2体。

 普通に考えれば3体目であるそのどちらかを、試合開始直後から今までずっと潜伏させていることになる。

 もしも3体目が高い戦闘力を有しているのなら、とっくに使っているはずだ。

 窮地に追い込まれているのに、無意味な温存をするほどデュフォーは愚かではないとキバナも認めている。

 ゆえに今、注意すべきはたった一度の奇襲のみ。幸いにも潜んでる場所は限られて大体想像は付く。

 

「フライゴン、フーディンとピカチュウを狙え! ヌメルゴンはゼオン・ベルを通さないようにカバーだ」

 

 討ち取れるところから狙うのは、戦いの鉄則だ。弱っているピカチュウが的になるのは自然と言えるだろう。

 ピカチュウを護っているフーディンを対処すべく、フライゴンが飛びかかったその時――

 

『……ッ!』

 

 デュフォー、ナツメが一糸乱れぬタイミングで同時に身体をビクンと跳ね上がらせる。

 フライゴンの急襲に対しての反応ではない。

 ついに2人が待ちわびた、()()()が訪れたのだ。1秒に満たぬ間、顔を見合わせ二人は意思疎通を完了させる。

 

「ナツメ、頼む」

 

「ええ……」

(フーディン、お願い)

 

 テレパシーにより、ナツメの思考を瞬時に読みとったフーディンはかばうようにピカチュウの前へ飛び出す。

 自己の持つ生命エネルギーを変換し、ピカチュウに全て流し込むとそのままフライゴンの"ドラゴンクロー"を無防備に受けとめる。

 

「フー!」

 

 高い素早さと特殊能力を持つものの、物理耐久が心許ないフーディンが、物理アタッカーであるフライゴンの攻撃を防ぎきれる道理がなく、一撃で戦闘不能に追い込まれる。

 

「ピカチュウに後を託したのか? それにしたって、まだフーディンは無傷で十分戦えたはずだが……」

 

 確かにピカチュウは復活するが、その引き換えにフーディンとナツメがリタイアしては割に合わない。

 予定通りフーディンのキルを取ったキバナにとっても、それは想定外のムーブだ。

 しかし、崩れ落ちるフーディンの影から腕を伸ばし、フライゴンを指差すデュフォーの姿を見て即座に意識をそちらに移す。

 これまで全てを仲間とポケモン達に任せ、一度も動きを見せなかったデュフォーが、初めて何かを仕掛けようとしている。何も目論んでいないわけがない。

 

(オレの人生で、これほど待ちわびたことは無かったかもしれない。

 アマネがオレの代わりに指揮と戦術を構築しながら地下の情報も入手した。

 サトシとピカチュウ達が単身で敵を引き付け格上を相手に見事に戦い抜き、ナツメが常に影で支え続けていた。

 ゼオンとドンカラス(オカシラ)も世界レベルの相手に耐え抜き、オレとナツメの復活を信じ見事に時間を稼ぎ続けた。

 地下の戦いはキクコとムサシ、コジロウ達が危険を顧みずにオレの想定を超える働きをしてくれた。

 それに唯一の嬉しい誤算は"マンダ仮面"の飛び入り参戦だった。

 あいつがいなければ、地下の戦いは十中八九負けていただろう。

 ――感謝しながら皆に託されるというのは、これほどまでに力を与えてくれるものだったのか)

 

 決勝戦の試合中、トレーナーはドームの外へ一歩も出ることが出来ず、外部との連絡も取れない。

 しかしそれは言い換えるなら、試合中にデュフォーが何を仕掛けようとも、外から決して干渉できないということである。

 その状況を利用し、デュフォーは中から盤外の戦場を動かす。

 エリシアが影からドーム内の戦いを操ったのとは、逆のアプローチを仕掛けていた。

 ゼオンの雷結晶による直接通信で、連絡不可のルールをすり抜けながらキクコ,ロケット団と連絡を交わし、アマネが見つけたセキュリティエリアへ刺客として送り込む。

 外部の人間を使った"二つ目の火種"により、攻略不可能であるはずの外の戦場を制圧してみせた。

 キクコのトレーナー人生を捧げた捨て身の一撃により、見事完全に《アンサー・トーカー》を取り戻したデュフォーは、一番最初に出た『答え』をそのまま指示へと変換する。

 

 『ピカチュウ、"でんきショック"!』

 

 「ピーカー!」

 

 全身にはかつてないほど、力が溢れている。フーディンからエネルギーを受取り復活したピカチュウも、シンクロ,呼応するかの様に、デュフォーが指差す先に己が最初に取得した電撃を打ち込んだ。

 

「フリャアアア!」

 

「ヌミャ!?」

 

 至近距離からカウンター気味に電撃を受けたフライゴンはそのまま後方へ吹き飛ばされ、まさにゼオンへ放たれようとしていたヌメルゴンの"りゅうのはどう"の軌道上へ吸い込まれ、背中へとまともに浴びてしまう。

 それだけではない。"りゅうのはどう"がフライゴンにぶつかりかき消されたことで、相殺するはずだったゼオンの雷霆剣(らいていけん)を急所に受け、ヌメルゴンも連鎖的に気絶する。

 

「バカな……ありゃ規模的に"でんきショック"か"でんげきは"だろ? それでオレのフライゴンをふっとばしたのか!?」

(それにポケモンの言葉が話せるのか……? 指示の内容がわからねぇ……!)

 

「一撃でダブルキルに持っていった……! こ、これがデュフォーさんの力……!」

 

「ふっとばした先で同士討ちを喰らって、それが仲間(ゼオン)のアシストになるところまで、全部計算してたっつーのかぃ……」

 

『フライゴン、ヌメルゴン……! なんなのだ、あのトレーナーは……』

 

 この場にいるのは間違いなく、世界レベルの戦いに相応しいトレーナーとポケモン達。

 そんな彼らでも何が起きたかわからず息を飲み、戦場は膠着する。

 キバナも、ネモも、隣の戦場のカキツバタすらもたったワンアクションで圧倒したデュフォーが放った言葉は、更に予想を裏切るものだった。

 

「悪い、遅くなった。あんた達の()()に裏で指示を出していた連中を片付けるのに手間取ってしまった」

 

 キバナとカキツバタの心拍がドクンと跳ね上がる。

 デュフォーが見抜ける範囲は、カントー代表が集中攻撃されているところまでのはず。

 顔すら知らないキバナ達の上司が彼らに勅命を下したことを、どうやって見抜いたというのか。

 

 この決勝戦におけるデュフォーの標的はパルデア代表、ガラル代表、ブルーベリー代表のどれでもない。

 そもそもこの戦場は協会を隠れ蓑にしたロケット団が用意した狩り場である。

 最初から、その盤面を叩き割ることしか考えていなかった。

 キバナ達にその詳細を知る術は無いのだが、偽りはないと本能で理解させられた。

 まだトレーナー歴としては新人であるはずなのに、デュフォーの言葉と佇まいには既に威厳と風格が宿っている。

 彼らもチームを預かる指揮官であり取った行動に後悔は無かったが、カントーチームに対して思うところが無いわけでもない。

 

「何故謝る。こっちはお前達をリンチしようとしたんだぜ」

 

「あんた達も被害者の様なものだ。全員救わなきゃ意味がない。

 それに――ポケモンバトルは楽しんでこそだろう」

 

 付き合いの長いゼオンがかろうじてわかるくらいの、ほんの少しの変化。

 その時確かにデュフォーは、僅かに微笑んでいた。

 

「オイラ達が言いなりになってた間も、皆のために戦ってたってのかぃ……」

 

「見てるステージが……次元が違かったか」

 

「? よくわからないけど、バトルを楽しむっていうのは賛成だね!」

 

 裏の事情を知らぬネモの純粋な言葉に、キバナ達が観念するように苦笑うと、もう一つの戦いも決着が訪れる。

 気絶するサザンドラを、ドンカラス(オカシラ)が上から組み伏せている。

 両者が負った生傷の重さから、ハイレベルな激闘であったことは容易に想像がつく。

 未だネモのポケモンとキバナのブリジュラスは健在だが、もはやこの場の大勢は決していた。

 ゼオンもそれを察し、試合開始直後から常に研ぎ澄ませ続けていた神経を、僅かに緩ませる。

 

「でんきショック一発で全てを決めるとは……お前らしいな」

 

 その後、5回目のリング収縮により狭まった戦場の中で、キバナとネモは申し合わせるかのように短期決戦で互いを攻め合う。

 戦いはキバナのブリジュラスに軍配が上がったが、さすがにネモの手持ち2体を相手に負った傷は深く、覚醒したサトシ、デュフォー組の連戦を捌ける力は残っていなかった。

 スタートから57分後、ピカチュウの2度目の"100まんボルト"が決め手となり、決勝戦はその幕を閉じた。

 




いつもご視聴ありがとうございます
今回で決勝戦と第4章が終了しました。
以後ネタバレになりますが、幕間編を挟んだ後に
WCS(世界大会)と対レインボーロケット団との全面戦争を予定しています。
尺の都合上どちらかをメインで書いて、片方は簡潔なサブストーリーにしようと思っています
参考までにアンケートを取りますのでよろしければ回答よろしくお願いします。

次回投稿は1/11を予定しております。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。