55話:short-A 論功
セキエイ高原のポケモンリーグ運営本部内に設営されたパーティーホール。
そこには既に、ミュウツーの一件での論功式と、ほぼ同様の顔ぶれが集まっている。
前回との相違点は、現役のジムリーダー全員、そして現チャンピオンまでもが一同に会しているところだ。
逆に、前回論功の腰を折ったスポンサーのエージェントは今回出席していない。
決勝戦終了から一週間後、改めて開かれた論功式会場にデュフォーとゼオンが入室すると、入口付近にいたモ・コージーが出迎える。
「おーっす、みらいのチャンピオン!」
「"マンダ仮面"じゃないか。あんたには助けられた。それに……」
片腕を失い、全身包帯だらけ。点滴と呼吸器に繋がれながらコージーが引く車椅子に腰掛ける、痛ましい姿のキクコがそこにあった。
先日彼女が経た戦いは文字通りの死闘であったことが、容易に想像できる。
呼吸器で口が塞がったまま、キクコは手元のタブレットに片腕でおぼつかないまま、文字をタップしていく。
『まだまだ並のトレーナーよりは使えるけど、四天王としちゃ
もうあたしをコキ使うのは無理だよ』
おどけたようなユーモアを挟みながらも、しっかりと現状を伝えるキクコの前までデュフォーは歩み寄り、そして小さく頭を下げる。
「キクコ
(さん付け……!? あのデュフォーがさん付けして頭を下げた!?)
ゼオンが我が耳を疑い、目を見張る横で、デュフォーは何食わぬ顔で話を進めていく。
「あの後、よく
話を聞いてる分には、戦力的に向こうがまだまだ圧倒していたはずだろう」
『コージーの坊やの手持ちが全員"特殊個体"だったからだね。
特殊個体は初見殺しの特殊能力を持っている場合がある。噛み合った場合に要らない被害が出ることを避けたんだろうよ』
「それにあのムサリーナとかいう姉ちゃんのソーナンス、ありゃ敵からしたら厄介やったやろうな」
コージーの参戦は本当に偶然だった。
決勝戦の観戦中、キクコの動きから違和感を感じ取り、テラリウムドームに潜入したムサシ、コジロウとたまたま出くわし事情を知っただけの間柄に過ぎない。
キクコがサーナイトを撃破した後、すぐにロケット団が撤退したことで、コージー達も速やかに重体のキクコを救急搬送することができたのだ。
「ムサリーナとコジロウとはあの後意気投合して、ポケLINE交換しといたで。
あいつらほんまに元ロケット団やったん?」
『あの戦いであたしのアーボックとゲンガーが息を引き取った時、あの子とポケモン達も悲しそうにしてくれたね。どう考えても反社ってガラじゃないだろうに』
ムサシ、コジロウ、ニャースは、先日の一件からロケット団を一時離脱し、ミュウツーと共にニューアイランドで暮らし続けていた。
此度の戦いに参戦できたのも、デュフォーより救助を求められたミュウツーから、超遠距離のテレポートで転送されたからである。
無論、特殊個体であるソーナンスという隠し玉が上手く機能すると見込んでの起用だ。
「そういえばデュフォーこそ大丈夫やったん? 決勝戦の後、二日ほどぶっ倒れて寝込んでたんやろ?」
「ああ、おかげさまで今は回復した」
しれっと答えたがその申告の半分は嘘。
復活した《アンサー・トーカー》の力をフルに使ったことで、一時的に脳のキャパがオーバーフローし、決着直後に気を失い救急搬送されていた。
体力は回復したが脳の自己防衛本能が働き、未だ《アンサー・トーカー》が使用不能となっている。
「お待たせしました。それではこれより論功式を始めますのでお集まりください」
タマランゼ会長のアナウンスが、会場内の歓談を一瞬で鎮める。
皆がステージ前まで詰めたところで、青年が壇上に上がりタマランゼの横で一礼した。
「カントー地方のチャンピオン、ワタル・クニサキです。
指定反社組織の調査と対応に追われ、なかなか皆さんの前に顔を出せず申し訳ない。
今回は私が世界選抜大会の論功発表を行います」
漆黒のマントを羽織り、デュフォーの様に髪を逆立てているワタルの姿を見るのはデュフォー、ゼオン共に初めてであったが、雰囲気だけで実力の高さを察知する。
「まずは2級功から。タケシ殿、カスミ殿、空手大王殿」
ワタルに名を呼ばれたタケシ達が、まばらな拍手と共に壇上へ上がっていく。
「タケシ殿,カスミ殿は、キクコ殿の監督の下でカントー代表のコーチングとサポートを行い、チームに貢献しました。
また、空手大王殿はナツメ殿の推薦により、見事臨時ジムリーダーとしての役割を務めました。
挑戦したトレーナー達からのアンケート評も、なかなかのものでした。
よって、カスミ殿と空手大王殿を正式なジムリーダーとして任命いたします。
そして、タケシ殿をキョウ殿、カツラ殿に続く3人目の上級ジムリーダーに昇格いたします。他のジムリーダーの手本となるように」
「あたし達、そこまで活躍してなかったけどいいのかなー?」
「サトシ達が優勝したからな。勝っただけで周囲への恩恵もでかいってことなんだろう」
サトシ達から拍手を受けながら、気恥ずかしそうに任命を受けるカスミとタケシの横で、空手大王が壇上から降りてナツメに深く頭を下げる。
「ナツメ殿とは水と油の関係だと思っていた。だが今回の推薦は心から感謝いたす」
「どういたしまして。それより今度のジムはトキワシティだから、引越しの費用がかなりかかると思うけど。今からクラファンとかしてみたら?」
「むぅ。門下生の月謝は上げない方針で……」
渋い唸り声をあげる空手大王に周囲の皆がクスクスと微笑む中、ワタルは続く授与者の名前を口にする。
「続いて1級功。サトシ殿、アマネ殿」
「行くぜピカチュウ! アマネ!」
「ピカー!」
「この場合、"順当な順位ですね"と"神に感謝"、どっちのフレーズが適してますかね」
それぞれのペースで3者が壇上に上がると、ワタルも頬を緩ませながら口上を再開する。
「サトシ殿は予選こそ奮わなかったものの、決勝戦では人が変わったかのように覚醒。
ダイヤモンドランク以上の選手を立て続けに撃破し、7キルを奪う活躍をしました!
アマネ殿は予選で見事ナツメ殿のサポートを完遂。
更に決勝戦では前半の指揮官を務め、各地方代表の包囲攻撃を見事に捌き続けました。
サトシ殿、アマネ殿をそれぞれ1ランク上のクリスタルランク、プラチナランクに昇格し、次シーズンまでの降格保護を付与!
ガラル保険組合の会員権と、ブルーベリー学園への1年分の交換留学ビザを発行いたします!」
「うおおおお! 色々ありすぎてこんがらがっちゃうよ! 降格保護がつくってことは……?」
「次回のWCS(ワールドチャンピオンシップス)まで、どれだけ戦績を崩してもそれぞれ今のランク帯から下がらないということです。
つまり、クリスタルランク以上が参加条件である次回のWCSに、私達は確定で参加資格を手にしました」
アマネの応えを咀嚼したサトシは、反射的にデュフォー,ゼオンと視線を交わしていた。
デュフォーの目的は、元の世界に戻るためポケモンマスター(世界王者)となること。
そのためには、3年に1度開催されるWCSでの優勝が必須条件だ。
(ワタルさんを含め各地方のチャンピオン達は、今のデュフォー以上には強いよな……。
だとしても、俺は確信している。
デュフォーはいつか必ず、世界チャンピオンに上り詰めるはずだ。
仮に数年くらいでなれるとしたら、俺が公式戦の舞台で本気のデュフォーと戦えるチャンスは多くてあと3回……。その内の1回が今度のWCSか……!)
未だ告知すらされていない、世界大会の皮算用をサトシがする間にも、次の論功が発表されようとしていた。
「そして次に特級功。ナツメ殿、キクコ殿、ゼオン殿、モ・コージー殿!」
「そういえば、オレも呼ばれたんだったな」
キクコが座る車椅子と医療器具を軽々と持ち上げ壇上へ運びながら、ゼオンが人間のトレーナー達の間に割って入るように並び立つ。
ポケモンが論功の対象となる異常な事態でありながら、その場の誰もその光景に眉をひそめることなく、心から授与を祝福しているのは、皆がゼオンの偉業を認めているからだろう。
「ナツメ殿は予選のダブルバトルでメインアタッカーとなり、見事に全勝。
決勝では一転してサポートに徹し、デュフォー殿とサトシ殿を援護。まさにカントー優勝の陰のMVPといっていいでしょう」
「疲れたけど、他人のために尽くすっていうのも悪くなかったですよ」
「キクコ殿とコージー殿は、協会内にスパイとして潜り込んでいた、指定反社組織のロケット団幹部と戦闘し、見事勝利し撃退。
また、命をなげうってでも主であるキクコ殿を守り抜いた、長年の相棒でもあったアーボックとゲンガーに感謝と追悼の意を。
キクコ殿も戦闘の後遺症により、今日をもって四天王を離任することとなりましたが本日までの多大な尽力、大いに感謝いたします。
私がチャンピオンを気兼ねなく務められたのも、キクコ殿あってこそでした」
『しんみりした空気は要らないさワタル殿。
それにそんな辛気臭い顔をされると場が白けるよ、オーキド博士さん』
「はは、参ったのう」
キクコが入力した文字をタブレットが自動音声で読み上げると、痛ましそうな表情で遠巻きに見守っていたオーキドが苦笑う。
「どーもどーも、あのゼオン・ベルとデュフォーに唯一引き分けたコージーです。
あのデュフォーが公式戦で唯一勝てなかったコージーです! poketubeのチャンネル、メンバー登録よろしくお願いしますわぁ」
それに合わせるかのように、コージーが大げさに声を張り上げたことで、場は完全に和んだ。
そして、隣で少し悔しそうにコージーを見上げるゼオンの名が呼ばれる。
「最後にゼオン殿。デュフォー殿の懐刀として、決勝戦で一番の活躍を収めました。
更に、他のトレーナーへの指揮や鼓舞、指導も行い、ポケモンの枠を超えた成果を挙げたと言っても過言ではありません。
以上、3人と1体を四天王に次ぐ特権を持つ新たな役職、四天王補佐に任命します!」
『こりゃあ死ぬまで休ませてくれそうにないね』
キクコの読み上げで再度会場に上がった笑い声は、次のワタルの一言でピタリと止む。
「そして最後に――今回の第一功を授与します。デュフォー殿、前へ」
ゼオン、サトシ、ピカチュウ、アマネ、ナツメ、四天王、ジムリーダー、コージー……。
皆が壇上に登るデュフォーへ悟ったように微笑みながらも、若干の緊張を携え続く言葉を待つ。
「改めてニューアイランド遠征の指揮官として、捕らえられた人々の救出とミュウツーとの交渉、和解、保護を務めてくれた。この時点で特級功1つ分に相当します。
続いて、大会予選では実質マスターランクと評されるコージー選手、タクト選手相手に無敗の成績を収めました。
更に、決勝戦では屈指の実力者であるオニオン、カキツバタ、ネモ選手、そして今大会で最強と言えるキバナ選手を相手に、破格の実力を示し優勝を見事に決めてくれました。
果ては、ロケット団の拠点となった地下をキクコ殿達の助けを得て襲撃し、彼らの悪巧みを見事阻止しました。
そしてそれを決勝戦の戦いの最中にやってのけたという――」
にわかには信じがたい偉業が次々と出てくるが、全て本当に成し遂げたこと。
運営側が設けた高いハードルを3段飛ばしで飛び越したデュフォーに報いる形で、論功もきっと破格のものになるだろう。
「以上の功績を称え、デュフォー殿をマスターランクの世界10位に昇格します。
そして、これから出す内示は旧現役四天王、タマランゼ会長、そしてチャンピオンである私の全会一致により決定いたしました。
これは期待の現れであり、是非とも受け取ってほしいです。デュフォー殿を――」
「男を上げましたねえ、デュフォーさん」
「デュフォーにやっと少し追いついたと思ったら……また引き離されそうだな」
「ふっ……ようやく少しだけ、今までとは違った景色を見れそうだ」
まだワタルの言葉は終わっていないというのに、デュフォーと近しい者達はある種の予期をしていた。
もはやデュフォーとは、四天王の席になんとしてでも割って入る立場ではなく、むしろ頭を下げてでもスカウトしたい存在であることに。
「カントー四天王の筆頭、第一席に任命いたします!」
有り難く、と簡潔に即答した新たな四天王を、割れんばかりの歓声と拍手が会場を包みこんだ。
いつもご視聴ありがとうございます。
アンケート回答ありがとうございました。
対ロケット団、WCS両方ともがっつり書きたかったのですが
・自身のスケジュールの都合
・早くデュフォーとゼオンを帰してあげたいという気持ちが強くなってきた
ので片方のみフォーカスします
どんなに遅くとも6月までには2人を帰せられればと思っています