俺はニビジムのジムリーダー、タケシ。
意外に思われるかもしれないが、デュフォー,ゼオンとは相当仲が良い。
個人的に遊んだりするし、向こうからもここでの生活の相談を何度か受けている。
そんな俺がデュフォーに言われた言葉を、おそらく誰も信じてくれないと思う。
俺自身も何度も耳を疑って聞き返したのだから。
「タケシ、明日ヒマなら付き合えるか?」
「ああ、明日はオフだから構わないが――ジム運営業務の話か何かか?」
「いや、2人でナンパしにいくぞ。カスミやナツメには内緒だ」
「!?」
デュフォー……誰かに洗脳されているなら、俺が解除してやるからな!
◆◆◆◆◆
結論から言うと、デュフォーの頭は正常(といっていいのか……)だった。
デュフォーの提案で個別にバラけ、ヤマブキシティのシル横(シルフカンパニー横)で2時間ほど街頭ナンパを繰り返したところで、一旦合流をした。
「戦果はどうだった」
「30人に声をかけて、20人にシカトされたよ。
9人の内、その場で少し雑談まで付き合ってくれたのは2人だけさ」
「残りの1人は?」
「手持ちのポニータから"ひのこ"を食らった……」
「オレも似たようなものだ。ままならないものだな」
何これ……何で俺、デュフォーとナンパしてるんだ? もしかしてドッキリ?
いやでも、遠目に見た限りデュフォーは真剣に女性に声掛けしていたようだし、ネタバラシがいつまで経っても来ないな。
「フッフッフ……お二人さん、遊びに行くならこのオイラを誘ってもらわなきゃ困るぜい」
何かの企画かをデュフォーに問いただそうか迷っていると、俺達の背後でスリーパーが低い笑い声をあげていた。
人の言葉を話せるスリーパー……デュフォーの手持ちか?
「お前はゼオン達と共に預けていたはずだが……」
「オイラのステルス性能は超一流。この前の決勝戦でも、最終ラウンドまで誰にも狙われなかったことで実証済みでさあ。
それにオイラがいなくなっても、ゼオンの兄貴達は一々気にしねえからな……。
そんなことより、旦那さん達のナンパを遠巻きに見てやしたが……今のところ順調っすね」
「ええ……俺もデュフォーもからきしなのに、これのどこが順調なんだ?」
「オレ達がうまくいっていない"原因"――その"答え"をお前は知っているのか?」
俺もデュフォーもてっきり嫌味で順調と言っているのかと思った。
だが、スリーパーは得意気な笑顔で指をふる。
「わかってませんねえ。街頭ナンパの大原則として、声掛けは9割失敗して当然ですぜ。
タケシの兄さんだって、全ての女性からランダムに声をかけられたら、優しいから話は聞いてあげるかもしれませんが、デートとなるとほとんど対象外になるでしょう?」
「た、確かに……ご年配の方や子供、あまりにも恵体の方は守備範囲外だ……」
「お前が言いたいのは、オレ達に魅力が無いわけではなく"相手がオレ達を求める理由がない"から、ということか」
「そういうことッス。つーかデュフォーの旦那って、ナツメの姉さんみたいな全てを見透かすような力があるのに、やけに今日は鈍くないすか?」
「……それにデュフォーには四天王筆頭という肩書があるだろう?
何故それを使わず、身分を明かしてナンパしないんだ?」
「今のオレは決勝戦の後遺症でしばらく《アンサー・トーカー》を使えない」
俺とスリーパーが同時に顔色を変える。そんな大事なこと、俺に話して大丈夫なのか?
「もし能力が使えていたとしても、ナンパには使わない予定だった。
タケシと対等な条件でなければ、今日誘った意味がないからな」
なんだ……? デュフォーは俺とナンパ対決がしたかったのか?
疑問を抱きながらも、スリーパーのアドバイス(?)を受け、俺とデュフォーはその後も熱心に声掛けを続けた。
しばらくして、2人共意気投合する女性と出会い、ポケLINEを交換するまでに至った。
――もしかして、俺がナンパ成功するの人生で初めて?
いつもはカスミ達(夢の中で、見知らぬメガネをかけた男の子にも)に邪魔されたりして、一度も成功してなかった気がする……。
スリーパーに"まずは一歩、男の階段を登りましたねぇ"と褒められた時には、すっかり日も暮れていた。
「デュフォー、スリーパー、今日は楽しかったよ!
……でも、何で俺をナンパに誘ったんだ? デュフォーは俺に付き合って楽しめたのか?」
「おそらく、これからオレは四天王として今以上に奔走することになる」
俺はデュフォーとゼオンの出自を知っている。
元の世界に戻るため、デュフォーはただでさえ今までも激務に晒されていたのに、ここから更に忙しくなるというのか……。
「その前に纏めて取ったささやかな休暇で、"友人"達とバカ騒ぎをしたかった。
タケシが女好きなのにいつもナンパを失敗していると聞いて、一度くらいは成功してもらいたい、というのもあった。
それにオレもいつまでも異性と関わらない、いうわけにもいかないしな……それが今のオレの"答え"だ」
それ以上の問答は要らなかった。
そこには、微かにぎこちない笑顔を浮かべる年相応の少年がいた。
「ちなみに明日はサトシ、ピカチュウ、コジロウが接客する体験メイドカフェ(ゼオン強制参加)に客として行く。暇なら一緒に行くか?」
メチャクチャ休暇を楽しんでるな、デュフォー……。それにしれっとコジロウが仲間ポジになってるし。
「そういえばサトシで思い出したんだが、選抜大会の時のサトシは時々様子がおかしかったよな……あれは大丈夫だったのか?」
ミュウツーとゼオンの戦いによるアクシデントから、サトシが変調を起こしたことはデュフォーから、なんとなくは聞いていた。
その後バトルで覚醒したり、挙動がおかしくなってシンジとの戦いで気絶したり、と紆余曲折を経て今のサトシがいる。
「現段階ではオレの仮説だが……サトシに起きている事象は2つ。
1つは、石化から復活した事によるバトルの才能の開花。
そしてもう1つは――元々この世界の存在ではない、オレ達がやってきたことで、本来の歴史が捻じ曲がってしまった可能性だ。
そうではなかったifの世界で、サトシが本来成長するはずだった姿が時々発現しているとしたら――」
「複雑な話はよくわからないが、サトシの心身に悪影響が出なければ俺としては安心だ。
それにデュフォーの急成長に対してコンプレックスも持っていたようだし、少し強さで追いつけたのはサトシのメンタルにとってはプラスなんじゃないかな」
「ああ……確かにサトシは強くなった、それは喜ぶべきことだが――」
続く言葉を放つデュフォーの顔に、一瞬の影と迷いが射した。そんな気がした。
「だが……力を持つと、変わってしまうものもある。それに気をつけてくれ。……?」
「ど、どうしたんだデュフォー?」
「いや、気のせいだと思うのだが……オレはこの言葉を前にも言ったことがある気がしたんだ」
デュフォーは既視感の様なものを抱きながら、俺の遥か後方遠くを眺める。
視線の先、歓楽街で安酒に酔い騒ぐ大人達を眺めながら、俺達はしばしの間たそがれていた。
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『世界選抜大会の裏側を語る配信』
竜坊 \1,000 : キバナさん、大会お疲れ様でした! |
―あ、竜坊さんスパチャあざっす! いつも欲しいものリストとギフト券も送ってくれて感謝っすわー。
んでは早速本題移りますか。
メン限はわかってくれてる人達だろうし、俺様の立場で言える範囲で正直に言うな。
Poketterでもちょろっと言ったけど今回の決勝戦、俺様の指示でガラルがカントーをツケ狙ってたのはマジ。
他3チームと裏でグルだったわけじゃねえのも、カントーに嫌がらせしたかったわけじゃねえのもマジな。
紀州のゴマゾウ : キバナさんやカキツバタ君のpoketter炎上してましたよね…… カントーの人達どうでした? |
―結果論でカントー代表をリンチしちまったわけだし、批判は甘んじて受け入れるさ。
アマネって子はあまり絡んでねえけど、あの子が全体の戦術構築してたらしいぜ。
サトシは言わずもがな、別人みてえに強くなりやがった。
まだまだ隙やムラはあるが、2人共伸び代は測り知れねえ。
ただ、サトシの方は強さが激変しすぎて、ワンチャン自分の力に飲まれそうなのが心配だったけどな。
ナツメはちょっとよくわからなかったが……調子でも崩してたかもな。
シロナ大好きch : デュフォー選手 最後まで全然動いてなかったですけどトラブってたんですか? |
―俺様じゃなくてシロナさんのファンなんかい!
あー……多分言っても信じてくれねえと思うけどさ、
あの決勝戦を裏側で工作してた奴らがいたらしいんだよ。
俺様がカントーを狙ってたのもそれが関係無いわけじゃねえんだ。
デュフォーは終盤まで、ずっとそいつらと戦ってくれてたんだよ。
青山キテルクマ : ええっ……じゃあキバナさん達は片手間に相手されてたってことですか!? |
竜坊 : 決勝戦って外部と連絡不可だったはずですけど…… そこも何か上手いこと抜け道用意してたってことなんですかね? |
―みたいだぜ。それで、その後は俺様も残ってたネモとやり合った。
カントーを集中攻撃しちまった分の埋め合わせには、全然足りてなかったけどな。
666族 \240 : お疲れ様でした! たらればの話になりますが 最後捨て身でピカチュウを倒して サトシ君を脱落させてればキバナさんかネモさんが勝ててました? デュフォー選手がどれだけ凄くても 2体以上のポケモンに対して同時に高度な指示は出せませんよね |
―666族さんスパチャありがとう! 鋭い視点だねえ。
実は俺様もおんなじ事考えてたんだけどよ、デュフォーはその際の仕掛けも用意してたんだ。
もしも俺様が特攻してピカチュウを無理矢理崩したら、その瞬間にゼオン・ベルとドンカラスか残りの3体目に袋叩きにされてたみたいだ。
デュフォーとサトシは
明日にはバトルアーカイブとキルログが一般公開されるから、意味がわかると思うぜ。
666族 ; !? サトシ選手の手持ちはピジョット リザードン ゼオン・ベル の3体だったってことですか? |
ドラ坊 : 試合が始まる前に、互いのポケモンを交換してからエントリーすれば確かに……。 ルール上は問題無いみたいですけど……。 |
万年シルバーランク : つまり、サトシ選手を脱落させる目的でピカチュウを倒した場合 デュフォー選手→ドンカラスorもう1体 サトシ選手→ゼオン・ベル に指揮系統を変更して続闘してたってコト!? 開始直後はあえて本来のパートナーと戦い続けて後半でトレーナーを入れ替えたのも 最初から入れ替わってたことを隠蔽するための伏線だったってコト!? |
―そーそー、理解がはええな! お前絶対シルバーランクより上だろ!
んでそれだけじゃなくて、どうやら俺様とネモが最後までデュフォー達を狙い続けた場合、共倒れする
対応不可の初見殺しの仕掛けも保険で用意してやがったらしいんだよ。
あいつの頭の中、どうなってんだよってな。
その後デュフォーについて騒然とするチャット欄をなだめ、キバナは配信を終わらせる。
1時間後、アオキが予約したライモンシティのパブで、カキツバタと共に『中間管理職慰労会』を楽しむ姿がそこにあった。
いつもご視聴ありがとうございます
今回は1話から過労死ペースで稼働していたデュフォーの初めての余暇回でした。
また、決勝戦でもしもキバナとネモが最後まで結託していた場合、スリーパーの完全催眠により相打ちになっていたというオチでした。
特殊個体でもないスリーパーが何故この様な鬼性能を持っているか、後々語っていきます。
以降3話で一気に話が進む予定です。