デュフォーが持つ四天王の特権と潤沢な予算を駆使し、優秀な技術者と設備を集め万全を期した。
"生体,記憶情報の取得"、"肉体設計システムのブラックボックステスト"、そして"クローン体生成機能"。
結合テストはこれら3つの単体テストを合わせたもので、カバー、成功率は99%。
その上、全力の《アンサー・トーカー》を駆使したのなら、必然本番は成功する。
カントー地方から遠く離れた、ニューアイランド島の地下施設。
培養液に満たされたフラスコの中から生誕する、一体のポケモンと一人の少女をその場にいた人間達が喝采で出迎える。
ポケモンの方――ミュウツーは瞳を開け、徐々に視力を取り戻していく中、生体感知機能をフル稼働し、周囲の挙動を感知していた。
歓喜、祝福、満足――
全員というわけではないが、その場の多くの者が自分達の誕生を心から喜んでいる。
そうでない一部の者達からも、生体兵器として己を利用してやろうという負と打算の感情が伝わってこない。
おそらくはクローン生成作業という任務を遂行しただけの、職人肌の者達なのだろう。
完全体として生まれ変わったミュウツーは、ニンゲンに対する認識を徐々に改めながら、片割れのニンゲンの少女に視線を落とす。
未だ目を覚まさぬ、もはや自身の双子と言って良いアイツーの身体を優しく抱きしめる。
『アイツー……よくぞ、私の前に再び戻ってきてくれた』
「クローン生成は成功した。アイツーは意識レベルの回復が遅いため、経過観察が必要だ」
惜しみなく《アンサー・トーカー》の力をフルに使い、焦燥しきったデュフォーが汗を拭いながら白衣を脱ぐ。
ミュウツーは唯一、感情を覆い隠し感知させないデュフォーに対し、淡々と己の意思をテレパシーで伝達する。
『今回の一件は、純粋な取引が交わされたに過ぎない以上、お前に礼は言うまい。
代わりに私も約束は守ろう。この前の選抜大会とやらの時のように私の力が及ぶ範囲で手を貸してやる』
己に対する最大の誠意を示すミュウツー、そして隣で腕を組むゼオンを引き連れ、デュフォーは研究室を後にする。
「ミュウツー、生成直後で身体に負荷がかかるやかもしれないが、ゼオンと共に今後について話し合いたい。だがその前に
無から一つの生命を生み出すという、禁忌の所業。
よもや何の犠牲も払わず、人道に背くこと無く成功――などという綺麗事で話が終わるはずがないことは、口にしないだけで皆わかりきっている。
地下第二層。亡くなった者達の霊園として創られたエリアの一角に安置された簡素な墓標に、1人と2体は無言で手を合わせる。
非科学、非合理的な行為だと百も承知の上で、デュフォーは小さく呟いた。
「名もなき被検体達に、感謝と供養を」
実験の過程で不完全に生成され、安楽死させることとなった"生命体に近しいもの"へのせめてもの手向け、そして業を背負う決意表明であった。
黙祷が終わり、ミュウツーの居城に場所を移したところで、デュフォーは此度開いた会合の本題を切り開く。
その表情から重い内容であることはゼオン達も察していた。
「これからロケット団との本格的な抗争に入るが、オレ達は2つの道から選ばなければならない。機が熟した奴らの"全面戦争"に応じるか否か」
「奴らの戦力が整う前に奇襲を仕掛けた方がてっとり早い気がするが。
戦争に応じるメリットはなんだ?」
「勝てば奴らの戦力全てが手に入る。奴らが目論んでいる"レインボーロケット団計画"には、大量の伝説ポケモンの運用が必須だ。
それらをオレ達が手中に収めれば、ポケモンマスターにならずとも、オレ達が元の世界に戻る可能性が生まれてくる」
ゼオンもここにきてようやく、デュフォーが言いたいことを察し顔色を変える。
帰還できるというゼオン達にとって莫大なメリットがありながら、別ルートを模索するということは――
「しかし戦争になれば、当然多くの被害が出るということか」
「ああ、オレの計算では現状の奴らはそうそう多量の死者を生むような計画は仕掛けてこない。
だが、戦力だけそのままにクーデターや革命で奴らのTOP……サカキが討ち取られ、別の邪悪な思想を持った奴が計画を引き継いだ場合、被害の程は想像できない」
『サカキか……ヤツは統率力は凄まじいが、個の武力が図抜けて高いわけではない。
精々下位四天王クラス。今のお前達クラスの奴がスパイとして内部に潜んでいた場合、討たれる可能性は十分にあるだろう』
「つまりオレ達が元の世界に戻る確率を高めるか、被害を抑えるかの二択だろう。
デュフォーはどうしたいんだ?」
「この選択をするのはお前だ、ゼオン。計画の中枢であるお前が、どちらの道を選ぶか決めるんだ」
ゼオンは思わず顔を見上げ、己のパートナーと視線を交わすとその意図を察知する。
――ああそうか。
被害抑制を優先すれば、
オレ達の帰還を優先すればその都合により
どちらのルートを選んだ場合にも迎えるかもしれない、最悪の結末の覚悟がもうこいつは出来ているんだ。そしてその覚悟をオレにも決めろということか。
「お前の判断をオレは尊重する。ただし――
"
"ガッシュならこうするだろう"
"どうしても元の世界に戻りたいが、それでも被害は減らすべきだ"
などといった理由は持ち込むな。それは言わなくてもわかるな?」
ゼオンが上ずった息遣いで小さく息を飲んだ音を、その場の
◆◆◆◆◆
カントー某所に設立されたロケット団本部の中枢。
最高位の幹部しか立ち入ることを許されないサカキの執務室にエリシア、J、ドミノが足を踏み入れる。
中で既に待機していた幹部の一部、青髪の男と赤髪の女が3人を視認し、冷笑しながら出迎えた。
「これはこれは、先のミュウツー奪還計画で信じがたい大失態を犯したエリシア様とJ様ではないですか。
これからサカキ様から懲戒処分を受けないか、このアポロ心配でなりませんよ」
「ドミノもエリシア様達なんかよりあたしに付き従ってればよかったのに。あんたもヤキが回ったわね」
ロケット団Aクラスナンバーズ
No7 アテナ
No5 アポロ
長期に渡りサカキの側近中の側近を務めていた2人は、突如現れその地位を攫っていたNo1~No3の3人――マキシマムナンバーズがとにかく面白くない。
その内の2人、エリシアとJが任務失敗で勝手にコケてくれたのだから、他者の眼にもあからさまなくらいアポロ達は上機嫌であった。
エリシアはそんな2人に目もくれず、心中の見えない微笑みを浮かべながら部屋の中央へと進む。
「お待たせしましたサカキ様。No2 エリシア、No3 J、No9 ドミノが、到着いたしました」
「うむ、報告を聞こうエリシア」
最奥の執務席で膝にペルシアンを抱える、闇の雰囲気をまとった男――ロケット団首領のサカキが言葉を発すると、その場の空気と幹部の意識が突如と締まる。
「先のミュウツー回収の一件、失敗どころか協会中枢にロケット団が潜り込んでいたことを突き止められてしまう始末。弁解の余地もありません。
Jさんとドミノさんは私の指示に従っただけですので、処分はどうか私一人に課していただけますか」
「我が側近のエリシアを真正面から返り討ちにするとは……デュフォーという小僧、敵として潰すには少し惜しいな。
そうか、よくわかった。今回特にお前達に課す処分はない」
跪くエリシアの報告へとサカキが単刀直入に応えると、周囲の幹部達に動揺が走る。
それは当のドミノも同様であった。
「な、何故ですサカキ様!? お言葉ですが、前代未聞の処遇では?」
「私はお前達幹部に対し、基本的に減点法で評価をしているが、エリシアに関してはそれまでのプラスの功績があまりに多い。
それに何より今回エリシア達はキクコを討ち取ったからな。
お前達は知らないだろうが、ヤツには私も――先代も手を焼いた。とにかく慎重で隙を見せず、ワタル以上に厄介なバアさんだった。
長年の仇敵を討った臣下を処罰するほど、私は鬼ではない」
未だざわつきが収まらぬ中、ただ一人寡黙に事態を見守っていた男が口を開く。
「フジ博士は失いましたが、こちらにはミュウツー計画の一部を手伝ったナンバ博士がいらっしゃいます。
それに、ミュウツー奪還は叶いませんでしたが、エリシアが作戦を行ったあの日に私の別働隊が手薄となったニューアイランドの研究施設にハッキングし、研究資材の一部を回収しています。
これらを用いれば、スケジュールこそ後ろ倒しになりますが、計画遂行可能の芽は出るかと」
容姿も年齢もわからぬ、仮面とマントに素性を覆われた男の言葉へ、サカキは上機嫌な笑い声をあげる。
「ククク……さすが我が側近、No1 "エデン"。頼りにしているぞ。
しかしお前は不思議だな。ずば抜けた実力、遂行力を持っておきながら野心だけは皆無。
私もお前に謀反を起こされたら、絶対に勝てるとは断言できない。エデン、お前はその仮面の下にどんな一物を抱えている?」
「私は"復讐劇"と、今の世界を変えたいだけです。
人は決して無自覚にポケモンと生き、死んではならない。そのためにロケット団に参画している。地位に興味はありませんよ」
抑揚のない声で優等生然とした回答をするエデンに対し、サカキは小さく鼻を鳴らす。
「今はそういうことにしておいてやろう、忠実な配下エデンよ。――話が逸れたな。
各地方で並行展開中の伝説ポケモン捕獲計画についてだが、今誰がカントー地区の責任者を引き継いでいる?」
「はっ……現在務めているのは、Aランクナンバーズ、No4の――」
◆◆◆◆◆
カントー地方南部の諸島エリア――近頃、伝説の三鳥、ファイヤー、サンダー、フリーザーの出没が噂されている森林地帯にその男はいた。
武力、行動力――そして何より冷酷さはJに匹敵する、三拍子揃ったロケット団No4。
サカキからの評価も上々である覆面の大男、ビシャスには秘めた野望があった。
いずれサカキを追い落とし、ロケット団をこの手で牛耳ってやろうと。
しかしそのためには秘密裏の戦力強化が必要だ。サカキは――そしてその側近のNo1~3の連中は計り知れない力を持っている。
せめて、伝説のポケモンでフルパーティを組める程度の戦力が無ければ話にならない。
だからこそ、部下を近寄らせず単独で伝説の三鳥を我が物にせんと捕獲を目論んでいたビシャスの計画は、裏目に出る。
「バカな……なんだこのガキは……」
パニック、屈辱、恐怖、あらゆる感情に巻き込まれながら、電撃の痺れに屈し情けない姿勢で密林の地に伏していた。
上層部より"要警戒"と通達を受けた、デュフォーという少年の脅威性はビシャスも重々承知していた。
だが、そのデュフォーより若くまだ子どもといってもいい、実績も低い無名の少年から戦いを挑まれ、その挙げ句激闘の末敗れ去ってしまった。
「ピー……ピー……」
戦闘不能一歩手前で息を切らせるピカチュウの横で、たった今ビシャスを破った少年、サトシは全身に生傷を負いながらも信じられない表情で、大男を見下ろす。
デュフォー達に何も告げず、独断専行で諸島に乗り込んだサトシが、ロケット団の跋扈を止めるべく挑んだ無謀な一騎打ち。
戦闘内容は終始ビシャスが圧倒していた。
トレーナーを巻き添えにする容赦ない攻撃で、サトシに危険が迫ったこともある。
だが、途中から爆発的な成長と豹変をサトシが繰り返したことで、紙一重でその差は埋まり、力量が逆転したのだった。
「俺はこんなに強くなれたのか……。この強さがあれば、キクコさんをあんな風にしたロケット団を俺が滅ぼせるんじゃないか……。
それに今ならが手が届くかも……デュフォーとゼオンに!」
実力、残虐性共に本物の悪漢であるビシャスの恐ろしさ、そしてそのビシャスをも超えてしまう己の才覚を完全に自覚した少年は小さく笑う。
その傍らで、勝利を収めたにも関わらず彼の相棒が、一抹の不安を浮かべていた。
いつもご視聴ありがとうございます。
ビシャスはセレビィの映画に出てきたロケット団の最高幹部です
次回はちょっと賛否両論回になるかもしれません。
1/26~28日辺りで投稿予定です